社会問題小説・評論板
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- 思ってから実行するまで
- 日時: 2010/11/14 09:41
- 名前: 黒影 ◆BX9zGDO0G. (ID: N1u19UeR)
—はじめに—
此方では、初めまして。
黒影と申します。
さて、社会問題系小説というわけですが、今回書くのは虐めはあくまで発端です。
本題は虐められて、その後のことです。
…実際、自分がロクに虐められたこともないので、おかしな点も多いと思いますが。
心理描写は其処まで得意ではありません。
故に、下手ではありますが、どうぞよろしくおねがいします。
—目次—
- Re: 思ってから実行するまで ( No.1 )
- 日時: 2010/11/14 09:41
- 名前: 黒影 ◆BX9zGDO0G. (ID: N1u19UeR)
00
兎角この世は生きづらい。
昔、どこぞの小説家は言った。否、書いた。
俺はその言葉に賛同できた。
嫌がらせがエスカレートし、最後には“虐め”となった。
訳もなく殴られた。その日は病院に行った。
水を掛けられた。次の日風邪ひいた。
無視された。誰も俺の話を聞かなかった。
やがて、俺は誰にも話しかけなくなっていた。
面倒になったので部活を辞めた。
ただ、毎日をぼーっとして過ごしていた。
あの事件までは。
- Re: 思ってから実行するまで ( No.2 )
- 日時: 2010/11/14 15:42
- 名前: 黒影 ◆BX9zGDO0G. (ID: N1u19UeR)
01
何時も通り、誰とも話さず学校に行き、誰とも話さず教室に入った。
教室の隅で女子が数人、くすくす笑っている。
それを無視し、窓際の一番後ろ、自分の机に向かう。
そして、気付く。
俺の机の上には、一輪の花が生けられていた。ご丁寧に一輪挿しにだ。
その花は、何処から採ってきたのかも分からない、菊の花。
誰かの葬式のようだ。無論、その“誰か”は俺だろう。
机の中を確認する。やはり入っていた。
A4サイズの印刷紙。昨日配られた数学のプリントだ。俺のではない。
裏返すと、これまたご丁寧に名前ペンで書いてあった。
“霜村嘉盛 享年十四歳”と。
誕生日から名前の字まで、よく覚えていたものだ。
軽く感心しながら、ふと辺りを見回す。
此方を見ながらにやにやしている男子を見つけ、プリントに目を戻した。
——其処まで死んで欲しいのならお望み通り死んでやる。ただ、後悔するぞ。
虐めとは、後先一切考えていない、馬鹿のする行為だ。
平気で命に関わる言葉を使う、馬鹿の。
俺は少し、それに制裁を与えてやろうと思った。
鞄からペンケースを、ペンケースからボールペンを取り出し、ボールペンをプリントに走らせる。
“其処まで死んで欲しいならお望み通り死んでやる。感謝し、そして自分のしたことに恥じろ馬鹿共”。
そして、俺は窓枠に足を掛け、全開の窓から外に飛び出した。
後悔はない。やり残したことといえば某STGの六面を未だにクリアしていないことくらいだ。あの化け猫の攻略法を見つけていない。
後ろから悲鳴が聞こえた。ざまぁみろ、と思ったが、言うことはできない。
地面が近づいてくる。
これで自分の愚かさに気付け、馬鹿共。
お望み通り死んでやるんだ、感謝し、喜び、そして後悔しろ。
地面に頭から着地する。
何かが潰れる音、痛いと思 。
- Re: 思ってから実行するまで ( No.3 )
- 日時: 2010/11/26 20:29
- 名前: 黒影 ◆BX9zGDO0G. (ID: bXs4vTqW)
02
霜村が死んでから、二週間が経った。
皆、彼奴を忘れ始めている。
思えば、俺達、虐める側は、彼奴を恐れていたのかもしれない。
今はもう転校してしまったが、昔、中学に上がってすぐの頃、俺は、俺達は、とある男子生徒を虐めていた。
大野 尊。
気が弱く、力も強くなかったため、虐めるには最適だった。
しかし、虐めを続けていると、彼奴は現れた。
無論、俺達は彼奴を屈服させようとした。
武力を以て。
しかし、返り討ちにされた。
喧嘩の強さでは圧倒的だったのである。
俺達は次なる手に出た。
霜村を虐めよう、ということにしたのだ。
ある時は暴力で。
またある時は悪戯で。
それらは、全て、彼奴に通用しているように見えなかった。
別に彼奴が全く怪我をしていないわけではない。
別に彼奴が全く体調を崩さなかったわけではない。
ただ、何故か恐怖心を煽られた。
あれだけの精神攻撃が一切通用しない。
どれだけ罵ろうとも、どれだけ無視しようと、彼奴の様子に変化はなかった。
今になって思うと、彼奴の器は大きすぎたのだ。
俺達の器が小さすぎたのもあるが、少なくとも彼奴の器は大きかった。
別に寛大には見えなかった。
ただ、何処か余裕があり、それが余計に俺達の恐怖を煽った。
攻撃が通用しない恐怖。
不死の兵士は敵兵の戦意を喪失させると言うが、本当だった。
無視をすれば大概の人間は傷つくと思っていた、俺達の考えは甘すぎた。
元々、様々な知識に長け、成績も良い霜村は“話しかけられる”ことはあっても、“話しかける”ことはなかった。
つまり、完全に無意味な行動で、寧ろ、霜村には都合が良かった。
彼奴を見て、くすくすと笑ってみたりもした。
全く意味を為さなかった。
そして、気付いた。
彼奴は、思想なんてものは、とっくに捨てたのだと。
- Re: 思ってから実行するまで ( No.4 )
- 日時: 2010/12/27 15:22
- 名前: 黒影 ◆BX9zGDO0G. (ID: /HyWNmZ0)
03
報復、とは実に愚かな行為で、その行為は自分で自分の首を絞めるようなものだ。
例えば、A国がB国にミサイルを撃ち込み、B国はそれに対して、核兵器で報復をしたとしよう。
そうすると、A国も核兵器を用いた報復をする。
また、B国もその報復に対する報復で核兵器を使用する。
報復の連鎖、こうして戦争は成り立っていく。
それを繰り返すと、やがて地球は核の冬を迎える。
放射能汚染による、食糧不足や伝染病の蔓延で、多くの命が失われることだろう。
仮に、核の冬を生き延びた人間が居ても、高高度核爆発によって引き起こされる電磁パルス、つまりEMPが原因で電子機器も使えない上、地球上の大半の動植物が絶滅した状態では、人類が完全に滅ぶのも時間の問題だろう。
報復に対する報復、報復の連鎖による核戦争で、人類は自らの手で自らを破滅に導く。
この例えは非常にスケールが大きく、実際に起こったわけでもない為、分かりにくいかもしれない。
簡単で、身近な例を挙げると、学校での生徒間の喧嘩だ。
A君がB君を殴ると、B君はA君を殴り返し、そうして喧嘩が成り立つ。
一見、単なる殴り合いの喧嘩だが、これもこれで、立派な報復となる。
少し考えれば分かることだ。
やればやり返される。
やらなければやり返されない。
しかし、やらなければ、人間は何も出来ないままだ。
その微妙な関係でこの世はなりたっているのだ。
一年の頃、大野が転校したのは、自分達の虐めによって、彼が屈服したのだと思いこんでいた。
しかし、実際は違った。
大野が転校した後の、空いた机は、目立って見えた。
それは、大野なりの警告だったのかもしれない。
虐めとは、時に自らの手で自らの首を絞めるようなものだと。
二週間前の朝、悪戯で置いた手紙を読んだ霜村が、飛び降り自殺をしたのは、自分達に対する報復だったのではないだろうか。
虐めとは、時に人の命をも奪うものだ、と、伝えたかったのではないだろうか。
戦争とは、報復の連鎖で成り立っている。
虐めとは、報復が連鎖しないから成り立っている。
しかし、今回は報復する相手はもう居ない。
命を散らし、自分達に報復を仕掛けた霜村は、既に死んだ。
つまり、霜村に“虐め”を実行した者は殺人犯と同じである。
共犯者はクラス全員。
霜村を虐げた者全員。
“感謝し、そして自分のしたことに恥じろ”。
それは、重い、言葉だった。
命とは、重いものだった。