社会問題小説・評論板
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- ひとり。
- 日時: 2016/08/22 14:25
- 名前: 藍色 (ID: l8Wvg9Qa)
別に、ひとりでもいい。
それで特別困ることもないし、寧ろ楽だ。
……それなのに、どうして、こんなに苦しいのかな。
- Re: ひとり。 ( No.8 )
- 日時: 2016/08/26 12:06
- 名前: 藍色 (ID: l8Wvg9Qa)
朝起きると、空が曇っていた。
リビングに降りてキッチンに向かい、朝ごはんを適当に作る。
ふとテレビを見ると、今日は雨の予報とのことだった。
制服のリボンを結び、髪をセットし、歯を磨く。
今日は寒くなりそうなのでカーディガンを羽織り、ブレザーを着用した。
「…うん、大丈夫」
鏡の前で身だしなみを整え、ふと時計を見やると出発まであと15分ほどあった。
以前はこの時間にもう登校していたのだが、友達のいない教室に無理に長くいる必要もなくなった今はゆっくりと学校に行っている。
この時間をどうすべきか…と考えたものの特に浮かばなかったので、静かにスマートフォンを取り出す。
スマートフォンは買い換えるたびに最新かつ高級なものに変わる。最先端を欲しがるのが私の親だった。
メールを確認するが、誰からの受信もない。最初こそ母から「学校頑張ってね」とメッセージが来ていたが、今ではもう黙って家を出るのが日常茶飯事。そういえば、ここのところ全然親と話していない。
…まだ5分しか経っていないけれど、もう行こうかな。
私はゆっくりと立ち上がった。
- Re: ひとり。 ( No.9 )
- 日時: 2016/08/26 12:17
- 名前: 藍色 (ID: l8Wvg9Qa)
私がいつもの道を歩いていると、男子高校生がすれ違い際に「あの子めっちゃかわいくね?」と言った。
信号を待っていると、隣にいる女の人に「かわいいね」と言われた。
歩いていれば、みんなの視線が私に集まる。
そう。それくらい私は可愛いのだ。都会を歩けばスカウトなんて度々受けるし、どこかに行けば必ず声をかけられる。それくらい、それくらい私は可愛い。
でも、この中にいる誰が、私は一人ぼっちだと分かるだろう?
それはきっと分からない。外見だけを見れば、私は勝ち組だから。
無理にスカート丈を短くしてる女子や、ちょっとしたメイクをして顔を加工してくる女子なんかとは格が違う。ましてや冬香など。
あの冬香に蹴落とされるなんて、最悪だ。
大丈夫、私は可愛い。クラスの奴らが一丸となって私をいじめようと、根の価値は変えられない。
- Re: ひとり。 ( No.10 )
- 日時: 2016/08/27 09:49
- 名前: 藍色 (ID: l8Wvg9Qa)
教室の雰囲気は、決して良いものではなかった。
私が扉を開けると、黒板に集っていた女子が一斉にこちらを向く。
「あ、ももちゃん」「おはよー」
普通に挨拶をしてくることに不信感を覚え、私は警戒しながら群れに近付く。
「ねえちょっともも、見てよこれ」
声をかけてきたのは、結桜。戸惑いつつも結桜の指差す方を見ると。
「───冬香?」
そこには、ボロボロになった冬香が倒れていた。
「なんかさぁ、こいつ、昨日調子のっててさぁ??」
結桜が勢いよく冬香の腹を蹴る。
「だいたい、なんでこんな奴のために動いてたんだろーって。だって私ももの気持ち分かるもん。冬香みたいな奴はいじめたくなるよね」
「……」
「で、今日から冬香のこといじめようと思うの。どう?もも」
「…え?どうって」
「ももは、冬香を庇う?それとも、一緒に…」
──罠ではないだろうか。いや、例え罠であったとしても。罠であったとしても。
「……うん、やるよ」
- Re: ひとり。 ( No.11 )
- 日時: 2016/08/27 10:02
- 名前: 藍色 (ID: l8Wvg9Qa)
その日から、このクラスのいじめの標的は冬香になった。
最初は罠じゃないか、とビクビクしていたものの、冬香をいじめる者は皆本気だった為、安堵して私も冬香いじめに加担するようになっていた。
その日の昼食。
「冬香−、私野菜食べれないから食べてよ」
「あんたどーせロクに食べるもんも無くて栄養不足でしょー!!」
キャーキャーと騒ぎながら皆で冬香をいじめる。うちの学校は給食制で、いわゆる「お残しはゆるしまへんで」という調理員さんがいて、盛られた分は絶対に食べきらなければいけなかった。
あっという間に、冬香の皿には大量の野菜が盛られていた。
「あはははっ冬香、それ一人で食べてよ〜!!」
「ていうか誰も食べたくないと思うけど!」
結桜の高らかな笑い声が聞こえる。私は冬香の様子を見ながら、パンを頬張っていた。
「──ごちそうさまでしたーっ」
昼食が終わると、休み時間。私は結桜に連れられ、体育館裏のトイレに向かった。
「……おーっやってるやってる!」
結桜に促され、トイレを覗くと、そこには水浸しの冬香がいた。
「あははは、冬香きったな」
「トイレの水でシャワー浴びるとか、趣味悪〜い」
更に女子がバケツの水をかけ、冬香は咳き込んだ。
「なんか足り無くない?ていうかもっと派手なことしたーい」
結桜がぼやくと、それに取り巻きが乗っかる。
「いいね!どうせここなら誰も来ないし!もっとやっちゃおうよ」
みんながそう騒いでいる間に、こっそり逃げだそうとしている冬香を、
…私は蹴飛ばしていた。
- Re: ひとり。 ( No.12 )
- 日時: 2016/10/26 16:44
- 名前: 藍色 (ID: l8Wvg9Qa)
考える暇もなく、反射的に蹴飛ばしてしまっていた。
冬香の眼差しは、射るように鋭かった。
「あーあ冬香、もも怒らせちゃった〜」
「またいじめられちゃうんじゃない?昔みたいに」
「っていうか、今もじゃんー!!」
今まで、色々な冬香いじめに加担してきたものの、直接的にこうして暴力を振るうのは初めてだった。案外、気分がスッとする。
「…もも?どうしたの?」
結桜に声をかけられ、「なんでもないよ」と返事をする。正直なところ、冬香に対する暴力になんとも言えない快感を覚えていた。
「てかあんた何そこに突っ伏してんのよ」
「あれじゃね?腕立てでもするんじゃねー?」
「アハハハっそれいいじゃん!ほら冬香、早くやりなよー」
目の前の光景を見るのが、楽しくなってきた。
そういえば5年生の頃もそうだった気がする。私は毎日冬香をいたぶって、それで、ストレスなんか感じていなかったんだ。
──ちょうどいいや。
「冬香、ほら、腕立てしなよ」
低く、私は命令した。肩を震わせ、何かを言いたげにした様子の冬香をまた全員で蹴飛ばす。
「ほらほらー、命令でてるよ!」
「やっぱももは女王だわー、なんか嬉しい」
「──え?」
私が聞き返すと、結桜が笑顔で答える。
「うちら、ずっとももに冬香いじめさせたかったの!やっぱりもも美人だしさ、なんか冬香ってももの家来ってカンジなんだよねー!」
「そうそう!だからももが参加してくれてうれしいよ」
一体感─そんな言葉が脳裏をよぎった。