BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
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- オリジナル短編BLの溜めどころ。リクエスト可。
- 日時: 2015/08/03 22:38
- 名前: 壊れた硝子と人形劇 (ID: XH8153kn)
初めまして、奇妙不可解摩訶不思議、とある少女A名義でも活動していた壊れた硝子と人形劇と申す者です。
こちらには、短編連作のBLの話がぽんぽん置いてあります。
蜜は豊かに下りゆく
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>>16
三井拓也 みついたくや 169cm 60kg 偏差値53
平凡な男子中学生。野球部だが、別に坊主ではない。
下北基熙 しもきたもとひろ 172cm 56kg 偏差値68
帰宅部。色白で切れ長の目をもつ美形少年。頭が良い。
豊川絢斗 とよかわけんと 172cm 62kg 偏差値62
野球部で生徒会長。人望も厚く、人柄も良いと評判。
修介の弟。
夏を翔ぶ
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>>15
>>17
鈎取翔平 かぎとりしょうへい 167cm 60kg 偏差値67
童顔でくりくりした目が特徴。素直で慈悲深い。卓球部。
蛍原夏樹 ほとはらなつき 170cm 56kg 偏差値74
奇人検定五段。嘘。ボブヘアにえりあしが長いという、クラゲのような髪型をしている。
豊川修介 とよかわしゅうすけ 178cm 65kg 偏差値65
キリッとした眉とスッと伸びる鼻筋の、甘いマスク。陸上部で、女子からの人気が高い。
- Re: 蜜は豊かに下がりゆく ( No.3 )
- 日時: 2014/10/13 13:34
- 名前: 壊れた硝子と人形劇 (ID: kix7MxaA)
「拓也ー!絢斗君が来たわよー!」
三井の母が三井を起こしたその一言で、下北と遊ぶつもりだった土曜日は、あっけなく潰れた。
もともと、母には友達と遊ぶとしか言ってなかったから、下北がこようと豊川がこようと、彼女にとっての認識は変わらない。
三井は下北に、急用が入ったと言った。電話の近くで話している母と豊川の声で全て察したようだった。
「そゆこと、なんで…」
そういったら、プープープーと電話が切れた。
「豊川、部屋行ってスマブラしようぜ」
「おう」
母と話すときは、学校で皆に向けるような笑顔を放つ。おそらく三井の以外には、それ以外を向けたことがないだろう。
バタン、ドアの音。
「何でこういうことするの…」
三井はドアを閉めてすぐ、床にへたり込んだ。
「三井が俺以外の誰かと俺抜きで会うとか、ないじゃん」
「学校で席離れてるのに」
「クラス一緒だから、俺はずっと三井のことみてる」
豊川は、三井を見下ろしてくる。後ろめたそうな、不満そうな顔だ。三井は気分が悪くなってきた。
「下北、今日のことで三井のこと嫌うかもね」
聞き捨てならないが、可能性は否めない。三井は俯いてしかいられなかった。
「俺の一番は三井だから、三井の一番も俺」
三井は、反論しなかった。できなかった。相手が下北ってだけで、自分にも当てはまるのだ。
「三井、三井…?」
三井は俯いたままだ。この状況を打破する方法を考えていたのだ。その沈黙が、豊川の心を爆発させるまで。
「三井」
豊川が思いっきり肩を掴む。ひゅって息を吸い込んだ。
怖い、怖いよ、豊川。
昨日までの自分の威勢が嘘みたいに消えて、三井はまっすぐ豊川の顔を見るしかなくなった。
やり場のない愛情が腐って、愛されない憎悪になった。
「俺は」
豊川が、鈍く苦しい重圧に耐え兼ねつつも、ゆっくり口を開いた。
「三井がいないと、ダメだ」
ああ、ようやく自覚した。
「どうしよう、俺後戻りできないよ」
乾いた苦笑だ。自重の笑みだ。
「三井、俺と、いてよ」
豊川が三井に抱きついた。浅ましくも、下北と同じ温もりを感じている三井がいた。
でも三井は、豊川を、抱き返さないまま、その両腕を投げ出していた。
「拓也」
名前で、呼ばれた。
「拓也、返事してよ」
「俺といてよ、って言ったから居てやったのに、今度は返事しろ、か」
「好きなんだから、どんどん欲しくなるもんだろ?」
三井にもその気持ちは痛いほどわかる。誰かを愛するときに、その誰かを渇望してしまうのだ。
「俺だって、いろいろしてあげたじゃん。ねえ、くれよ」
「してあげた?」
ダメだ、僕、やっぱり、ダメだ。
三井は両腕に力を入れ、豊川を突き飛ばした。力じゃ絶対三井の方が弱いのに、豊川は派手に後ろに尻もちをついた。
「僕は豊川にしてもらった覚えもしてくれと頼んだ覚えもないし、それでいい思いをしたこともないよ」
嘘だった。いい思いなんて何度もしてきていた。でも、この場合は仕方ない。仕方ない。そう自分に言い聞かせてる自分が、卑怯でたまらなかった。
豊川は黙り込んだ。さっきまで恐ろしいほどの力で三井を抱きしめていた両腕は、だらんとぶら下がった。
「俺は、どうすれば、三井に愛されるの」
愛されたいよ、とぽつりと言う。泣くことを必死で我慢している、潤んだ、高い、甘い声だ。
だめだ。だめだ。助けては。
「僕は好きな人を選べるほど、感情コントロール上手くないもん。豊川がなにをしたって、僕は豊川を愛せないかもしれないんだ」
三井は、冷たく、できる限り冷たくしたつもりだった。できない。三井の目の奥が熱を孕み、鼻の奥がぎゅん、とする。しかし啜ったらばれてしまう。
だめだ、だめだ、泣いてしまいそうだ。
「下北、死ねばいいのに」
「下北が死んだって、僕は愛し続けるよ」
何故か三井はそう確信している。故人を想っても辛いだけなのは、分かっていた。でも、もし、今下北が死んでしまったら、僕は気持ちも告げられなかったと、未練タラタラの数年を過ごして、気づいたらもう晩年になって、結婚なんて出来ない年になってるんじゃないかと、思う。
「下北が、最初から存在しなければ良かったんだ」
「…そう、かもね」
三井はそれには同意した。最初から存在しなければ、三井は無理して体裁を取り繕ってばかりだろう。豊川といつも比較されるから、見合うように努力しているのだろう。生徒会もイヤイヤながら受け入れただろう。その弱った中、豊川でも誰でもいいから愛情を向けられたなら、三井は喜んで甘受したことだろう。その方が、ずっと穏便にすむ。
そう分かってても、三井は下北に会えて良かったと思うのだ。
「豊川」
「なんだよ、俺、一応振られたんだぞ…」
豊川は泣いていた。いや、泣くギリギリ手前で止まっていた。
「豊川のこと、前よりは愛せるよ。下北ほどじゃないが」
豊川が三井だけに弱みを見せることに、三井は優越感を感じた。ああ、豊川はいつも完璧だから、俺にとって可愛げがなかったのか。
「そりゃ、ありがとさん」
豊川は、意外と振られると固執しない。いや、これは強がっているのか。涙目だし。
「Wiiしようか」
おずおずと尋ねる。言った後すぐ、なんて空気の読めない発言だろうと後悔したが、豊川は涙を拭って笑った。
「俺、スマブラがいい」
もう涙は流れなれちゃいなかった。
- Re: 蜜は豊かに下がりゆく ( No.4 )
- 日時: 2014/10/13 13:35
- 名前: 壊れた硝子と人形劇 (ID: kix7MxaA)
「いや…ごめん、下北…」
重苦しい声で聞こえてきた、新しい、初めての、友達の声。下北は受話器を持つ左手を凍らせていた。
ああどうせあの完璧ボーイだな。やっぱり彼は寂しい人だったに違いないだろう。最初は、誰に見せる顔も同じだったから猫被り君かと思っていたけれど、三井の話を聞いて違うって分かった。
嗚呼、三井。
「仕方ない」
ごめん。本当はこんなにぶっきらぼうな言葉は言いたくない。
下北は指先で黒電話のコードをくるくるといじる。
「いや、本当マジごめんっす…」
下北は黒電話のコードを握りしめた。頭の中をもやもやかき回し、胸の中にふつふつ沸き立つものがやってきた。
「構わないから、早く…」
切れ。
とは、あとちょっとで言うのを踏みとどまった。
三井は、怯えた声で、
「そゆこと、なんで…」
と、言った。下北は、早々に受話器を置いた。三井のそんな声を聞きたくなかった。
仕方ないので、俺は一人寂しく勉強をし始める。親父の買ってきた分厚い国語の参考書を開く。記述ってさ…繰り返しやってるとさ…正解覚えちゃうよね…身につかないよね…
発端は、結構衝撃的だった。
下北がいきなり、
「無理、してるだろ」
なんて三井に爆弾を落としたのだ。その爆弾をには催涙ガスが含まれていた模様で、三井は下北の胸でおいおい泣き出した。
その、泣き顔が、大好きになった。
鼻水と涙でぐちゃぐちゃに光を反射して、顔を火照らせて、最後の意地だか知らないが、笑顔だった。
一見気持ち悪そうにも思えるが、俺はその顔が好きで好きで堪らなくなった。ズリネタが専らそれになるほどに。
彼は俺にすり寄って来た。可愛らしくて、俺はいつも頭をなぜていた。
ある日、三井と俺にいつも重苦しい視線がついてまわるのに気づいた。豊川だってすぐに気づいた。その上っ面くんは三井がいないと輝けないわけでもないのに(十分魅力的だし)。まあ、理由はわからなかったけど、俺は少しだけ優越感に浸っていた。だって、完璧と称される彼に嫉妬されるなんて、なんともよろしいことで。
だから、俺にとっても三井はいなきゃならない存在だと、思う。
彼の与えてくれる優越感だとか幸福感だとかその他諸々が、そこそこ欲しくて堪らない。短絡的に言えば彼が欲しい。豊川との奪い合いになったりするかもしれない。その場合は三井に任せるとかするつもりだ。
今頃の二人はどうなっているんだろう。まさか三井が豊川に陵辱されてたりしなければいいけど。あ、でもある意味それでもいいかも。そうしたら三井はもっともっと俺にすり寄ってくるに違いない。
三井はどんな顔をして喘ぐのかな。あの泣き顔で叫ぶようにかな。笑顔で甘い声出してくれてもいいな。いや、そもそも彼は入れられる立場を受け入れてくれるだろうか…
「基煕、プリン焼けたー!」
下から聞こえて来た姉のキンキン声。甘い匂いが、そこまで昇ってきてた。
「盛大に余ったわね…」
「ココット19個分だったから」
「プリン投げでもする?」
「掃除大変」
姉に彼氏はおろか友達なんぞいないし(俺と真逆のタイプなのだが何故だろう)、俺は言わずもがなだ。…あ。
「俺、友達一人いる」
「何で⁉︎」
「今日遊ぶ予定だったやつ」
「私より先に基煕に友達…」
「ラップと紙袋どこ」
「木の棚の一番下…」
姉は真っ青になりソファに倒れこんだ。その後夕飯まで起きることはなかった。
三井は何色が好きだろうか。彼のイメージカラーの緑でいいだろうか。普通の緑でなく深緑が妥当だろう。明日、彼はどんな顔をするだろう。あ、明日日曜日だった。
- Re: 蜜は豊かに下がりゆく ( No.5 )
- 日時: 2014/10/13 13:42
- 名前: 壊れた硝子と人形劇 (ID: kix7MxaA)
ちょっと短編。
「下北」
「なに」
車輪の下(高名なドイツ人が書いた本らしい)を読んでいる下北に、三井が後ろからのしかかる。
「英語個宿題、見してくんない?」
クラスの喧騒が少し濃くなる。三井と下北が薄くなったのに違いない。
「…教える」
「はっ?」
「教える」
ガタン、下北が自分の席を立ち、無理やり三井を座らせた。好都合にも三井はプリントを持ったままだった。
「えっ…迷惑かかる、だろ?」
三井はなんとか「勉強」から逃れようと下北を見るが、下北は全く気にしてない。むしろ、さっきまで本を読んで強張っていた表情筋がふんわりとやわらかくなったように思えるほどだ。
「うるさい、これは俺のエゴだ」
「…エゴ?」
問い返した三井を無視して、下北は説明をしていく。
下北が椅子の後ろに立って、座っている三井の背中によりかかる。
下北の体温だ。
「下北、」
「こっちのasは副詞じゃなくて、接続詞なんだ」
「下北」
「だからここはhimじゃなくてheなんだ。分かったか」
「下北、あのさ」
「なんだ、ああ、先生は前置詞で教えたけどなそれは話し言葉で」
「近い」
暖かくて、怖いのだ。安心して、緊張の糸が切れて、今すぐに泣き出しそうで怖いのだ。
下北は背中から離れ、三井と向かい合うように机に回った。机に顎と手を乗せて、解説を始めた。
やっぱり、下北は綺麗だ。
長いまつ毛は、きちんと全部同じ方向を向いている。下まつ毛は長くはないが濃い。女の子ならアイラインいらず。ただ、三白眼だから怖く見える。
肌は牛乳みたいに白い。本当に、白だ。日焼けしてない、一般に色白と言われる女子の、もっと白い部分みたいな色だ。あ、そうだ。脇の下だ。だからどっか引っ掻いたりすると、すぐミミズ腫れみたいに見える。彼がたまに照れると、ほんのり目の周りが赤くなる。
うつくしいなあ。
僕の隣で、本当にいいのかなあ。
ぼんやり、ちくりと心に刺さる。
僕は、自分の視線がずっと下北に釘付けになっていたことに気がついた。
「…俺は豊川じゃない」
「えっ」
顔が楽になった。さっきまで、ずっと顔に力を入れていたみたいだ。
「顔色を伺わなくていい、安心しろ」
泣かない程度にな。
そんなこと言ったら、泣きそうになるじゃないか。
僕は涙目になったくらいで、なんとか耐えた。
- Re: 蜜は豊かに下がりゆく ( No.6 )
- 日時: 2014/10/26 15:27
- 名前: 壊れた硝子と人形劇 (ID: kix7MxaA)
今日は月曜日。そう、月曜日。ここで問題です。僕、三井拓也は一体下北基煕にどんな態度を取ればいいんでしょうか。でっかい小さい、それとも中くらいでいいのか、ぐるぐるぐるぐる頭を回転させながら足を進める登校なう。
最近めっきり寒くなってきて、セーターとマフラーとコートが欲しくなってきてる。見上げた空は鳥一羽雲一つなくて、抜けるような青だ。なんだか、寂しい。
金曜日までは隣にいなかったはずの豊川が今日はいる。傍目からは、僕と豊川が仲直りしたように見えるだろう。でも、豊川は前のようにぺちゃくちゃと喋ってこない。
「弁当、持ってきた?」
「あるぞ」
一言二言交わして、ザクザク進む。学校、もう結構、目の前。
「これ」
暖かくて二酸化炭素の濃度が濃そうな教室に入ると、下北が僕に紙袋をくれた。相変わらずの美しい顔だ。
「あげる。」
「な、何?」
「プリン」
紙袋の中には六つのプリン。多くないか。
「下北が作ったの?」
「うん(違う」
「あ、ありがとう」
「家族の分で3つと、弁当のお供で3つ」
なんで下北僕が一人っ子ってこと知ってんだろ。まあいいや。
「ん、でも僕弁当+プリン三つはちょっと…」
「違う、弁当一緒に食べるから俺の分も」
あ、もう弁当一緒は決定事項なのね。そういえば下北はいつもぼっち弁当だった。一人でいいですってずっと言ってたけど、複数で食べる方がいいよね。
「あと、豊川も」
聞き間違いだろうか。
「三人で食べる」
「と…豊川も?」
「うん」
頷いた。
「皆と食べるかもよ?」
「三井が誘えば断らない」
「いやそれもちょっと分かんない…」
「昨日何かされたのか?陵辱?」
「やめなさい」
下北は思っていたよりは、結構おちゃめなやつだ。おちゃめ…おちゃめ…?
「あとで誘って、みてよ」
そんな見目麗しい顔で真っ直ぐ言われたら断れるわけない。黒真珠みたいな目だ、といつも思う。
「…わかったよ」
4時間目が、終わった。
あとは適当に好きな人と机を繋げて食べるのだ。男子はでっかいグループが一つと、位置的でも関係的でもあぶれたグループが一つと、下北がいつもの感じだったんだけど、今回は変わるだろうか。どうせでっかいグループのやつは豊川に引っ付いてるだけだから、僕が豊川を引き抜いたらどうなるんだろうか。ちょっとハラハラ。
「豊川、一緒に食べない?」
豊川を誘うのにこんなに緊張したのは初めてだ。前までは僕の頼み、聞いてくれるって保障があったから。
僕は誘いながらも、断って、と願っていた。あとの気まずさがどうしても嫌だ。視界の端に映る下北を盗み見た。
「いや…いいわ」
豊川は下北を一瞥して、苦しそうに笑いながら断った。僕の顔から力が抜けた。
「うん、分かった」
分かってくれたのは豊川なのに、卑怯な僕は「分かった」なんて言うのだ。
僕は下北に早々に駆け寄り、旨を伝えた。下北は少し残念そうな顔をしたけど、「後で渡しといて」ってプリンを一つ紙袋に入れた。
お弁当をあける。あ、唐揚げが入ってる。卵焼きも入ってる。てか、下北のお弁当、キャラ弁だ。
「下北は、何で豊川を誘おうと?」
下北は、しばらく考えて、ぽつりと言う。
「仲悪く思われてるから」
ほう。どうやら下北は豊川と仲直りしたいらしい。(そもそも喧嘩もしてないが。)下北は結構平和主義なのだ。そのくせクールなのだ。
「誰とも関わらなければイザコザ起きないし、でも三井と関わったらいざこざが出てきたから」
「何その僕の邪魔者感」
「三井とは好きで一緒にいる」
下北はなんでこういうことを、学校で言うの。
「卵焼き、ほしい」
下北がそう言うから、弁当の蓋に卵焼きを置いといた。
お弁当のときって、女子は結構小さく分かれるんだよね。二人のところが多いし、多くても四人だし。
「はい、イカ天」
イカ天を弁当の蓋に置かれた。
「下北が噛みきれないだけでしょ」
「三井がかわりに咀嚼するのか」
「不衛生だから。貰うよ」
帰り道は豊川と一緒だ。行きと同じように、二人でザクザク進む。
「豊川、これ」
「なにこれ?」
「プリン、まあ、僕が作ったとかじゃないけど」
豊川が、立ち止まった。僕は振り返った。
「俺、下北のこと嫌いなんだけど。俺は三井が好きなのに、三井が下北のこと好きだしさ。」
豊川が目を細めて俺を見つめてる。その目の中に、昨日見た腐った愛はなかった。今日は、ごうごう燃えるにかかわらず、今すぐに消えてしまいそうな火柱だった。
「下北のことなんか考えたくねーし…それに三井のこと好きなのに、三井のこと考えると、下北思い浮かべてやんなるし…」
豊川の目に涙が浮かび始める。炎が小さく小さくなってきている。消えたらどうなってしまうんだろう。
「俺、俺、苦しい」
そうだ、僕は一度、豊川の炎を踏みにじって消してしまったんだ。
「ごめん、豊川」
「謝るなよ、どうにもならないことじゃん。俺が悲しいから泣いてるだけだよ。」
豊川は分別がある。僕の感情は僕でもコントロール出来ないことを知ったから。昨日、口を酸っぱくして言ったから。
「俺、できる限りでさ、下北と三井のこと気にしないようにするからさ、なんていうか…下北の話題、あんまり出さないでほしいんだ」
それ食べていいから。
豊川の目の涙が乾いてた。ああ、よかった。でも、申し訳ない。愛って正しい感情のはずなのに、それを抑え込まなきゃいけない彼がとても報われない。
「…ごめん」
僕が小さくそう呟いたら、豊川は笑って昔みたいに僕の肩を叩いた。
「しみったれんなよ、アホ」
「…うん」
- Re: 蜜は豊かに下がりゆく ( No.7 )
- 日時: 2014/11/24 19:00
- 名前: 壊れた硝子と人形劇 (ID: kix7MxaA)
「…から、それ、渡せなくて…」
委員会の監視終わって教室に戻って三井と帰ろうと思ったら、三井が下北と二人っきりで壁に追いやられてた。ここは良識のある豊川くん、入って修羅場なんてしません。盗み聞きです。
「…なんでだめだったんだろう」
(…おいおいおいKYが二人!)
豊川はコンクリートの壁の部分に背中をくっつけている。壁がひんやり冷たくて、それだけで凍えそうだった。
「仲悪くはなりたくなかった」
「仲悪いもなにも最初から喋ったことないと思うよ…」
豊川は苛立った。なにを考えているんだ、この男は。
「ふーん、好かれたかったんだけどな」
びくんと体が震え、膝の力が抜けた。床にぺたんと音なく座る。暑くもないのに汗が次々と垂れる。心臓が喉を突いているんじゃないかと思うほどにどくどくする。
なんだ、こいつは。
なんなんだ、こいつは。
「三井、塾。いくら委員会たって、そろそろ」
「うーん、豊川置いてっちゃうな」
三井はスクバを勢い良く背負い、教室から校庭に直接出て行った。
「わっけ、わかんね…」
豊川はむしゃくしゃしたままだった。どす黒い鉛の棒が胸を貫通し腹を切り開きつつあるような胸くその悪さだった。まだ、嫌な汗が引かない。
公園の前の自動販売機でミルクティーのボタンを押して一気に飲み干す。普段なら投げ出してしまいそうなほど熱いと感じるはずなのに、まったくそんなこともなかった。ミルクティーの甘ったるさが頭の苦しさを軽くしてくれるかと思ったが、半端な甘さが苦しさを引き立たせただけだった。
「盗み聞き、趣味悪い」
立っていたのは、下北だ。スクールバッグを固く背負って、左手にサブバッグを握っていた。目が何も写してない。真っ黒を貼り付けたよな、黒。
「っせーな…」
先ほどの汗が一気にひいた。できる限り下北とかかわらないように、声を小さくして、語数を少なくした。
すたすたすた。
下北が近づいてくる音だ。
情けないが、動けない。足に力が入らない。直立不動ということは、このことをいうんだろうな。
「何故、豊川は拒否する?」
降ってきた言葉。見目麗しい下北の顔がある。
「どういう意味だよ。ははっ、訳わかんねえわ…。」
豊川は笑った。
だめだ。それを聞いたらだめだ、下北。やめてくれよ。
それでも下北は、言った。
「お菓子は受け取ってくれない、今だって豊川は声を潜める、笑って誤魔化す、俺に関わらないように…」
「うっせーんだよ!」
喉と腹に力が入って、地を踏みしめるために足にもようやく力が入った。今の声を放ったせいで、胸のわだかまりが全部外に出てしまう。止められない。
豊川は下北の胸ぐらをつかんだ。下北の首が、吊られる。
「お前が俺に関わるメリットは何?なんでお前は俺に好かれたいの?」
下北の目は相変わらず、何も写していない。その人間味のない目は、逆上してる自分を馬鹿にするようた。
「お前は三井の隣を俺からぶんどっといて、これ以上何を望むってんだよ…」
後半は泣きそうで、ぐちゃぐちゃだった。上ずる、ヒステリーを起こした時の女みたいな声。俺はこの声が大嫌いだった。母親がいつも、いつもいつもいつも父や兄や自分に向ける声。金切り声は本当に鋭利な金属で、心に耳に、深く深く食い込むのだ。
そうだ、下北、俺のこの声を覚えろ、覚えろ、忘れないように。三井と会うたびに、俺に疎まれていることを思い出せ。お前のその望みがどんなに小さかろうと、それが叶うはずがないことを思い出せ。
「お前なんか、なぁ」
襟をつかむ左手に思いっきり力を入れ引き寄せる。下北の体が前のめる。ぶらぶらさせているはずの右腕に力がこもってしまった。
「大っ嫌いだよ」
辺りが、真白く染まった。