複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- オオカミと嘘吐き姫。
- 日時: 2011/10/19 21:11
- 名前: ぬこ ◆xEZFdUOczc (ID: DVd8EX6H)
嘘を吐いたのはアナタですか?
これはいけませんね。アナタは“悪い子”だ。
確か前にもこんな人が食べられていましたね。
え? 誰にかって? 俺ですよ、俺。
嘘吐きは、俺が食べてしまいますよ。
黒いリンゴはお好きでしょうか?
お口に合えば良いのですが。
さぁ、一口食べてください。
これでアナタはもう俺から逃げることなど出来ませんよ—。
*ご挨拶 >>1
*プロローグ >>2
*第一章『嘘吐き少女』>>3-
- Re: オオカミと嘘吐き姫。 ( No.5 )
- 日時: 2011/10/19 17:10
- 名前: ぬこ ◆xEZFdUOczc (ID: DVd8EX6H)
「……休んでしまおうか」
その淡い桃色の唇から漏れた澄んだ声。
まだ幼さが残るその声は、何処か震えていて。
フューシャピンクの少女はもう一度足を止め、空を仰ぐ。
今の少女とは反対に、澄みきった青空。
この迷いを振り切れたらどんなに楽だろうか。
この少女の年頃だと義務教育の範囲、という所だろう。
丁度登校時間のようだ。制服姿の少女と同年代の子供達が楽しそうに会話しながら歩いている。
そんな子供達を悲しげなラセットの瞳で見つめる少女。
同級生だろうか。リリムの曜日である今日は平日で、授業がある学校が殆どである。
子供たちの背中が見えなくなるまで、穴が開くほど遠くから見つめていた。
少女は私服だ。学校には行かないのだろうか。
自分の身長の何倍もある広葉樹に背中を預け、静かに目を閉じる。
「行きたくないよ」
そんな言葉が少女から零れた。
- Re: オオカミと嘘吐き姫。 ( No.6 )
- 日時: 2011/10/19 17:36
- 名前: ぬこ ◆xEZFdUOczc (ID: DVd8EX6H)
“同情”。
そんな言葉がさっきからあたしの頭の中で渦巻いている。
教室に入った途端に、あたしに注がれる視線を思い浮かべると恐ろしくてたまらない。
先日、母を亡くしたあたし。その事が何故か噂となってクラス中に流れてしまったのだ。
誰がそれを知って、何の為に流したとか、あたしには知る由も無いわけで。
ただそれを境に変わってしまった周りの人達の視線に耐えなければいけない事は確かだ。
「お母さん亡くなったって本当?」「大丈夫? 辛いよね」「何かあったら言ってね」
相手にとっては思いやりの言葉が、あたしにとってはナイフみたいなもの。
哀れみに満ちた瞳。控えめな笑み。裏では他人事だって思ってるくせに偽善者ぶる言葉。
あたし、認めてもいないし、否定しても無いよ?
なんで、なんで、そんな顔するの? 何、人の気持ち理解出来てるような気になってるの?
やめて、やめてよ。何にも、何にも、解って無い癖に……!
自分は親がいて、家族が在って、楽しくて、笑えるのに—。
「あれ、ミリアちゃんじゃん。どうしたの? こんな所で……」
声と共に視界に飛び込んできた一人の少女。
濡羽色のロングヘアーの彼女は、覗き込むようにして少女—ミリアの表情を窺っている。
さっきまで頭の中で爆発寸前まで高まった気持ちを噛み殺し、咄嗟に笑顔を作るミリア。
「学校行きたくなくて」。そう感情も込めずに呟くようにして言う。
「行きたくないの? どうして? あ、やっぱりこの間のことで……」
彼女が言葉を詰まらせる。
彼女が言うこの間のこと、とはミリアの母が亡くなったという噂のことを指しているのだろう。
刹那、ミリアが噛み殺した感情がまた喉元まで込み上げて来て。
一瞬、ほんの一瞬顔を歪めるミリア。
そして直ぐに感情の欠片も無い笑みを浮かべた。
- Re: オオカミと嘘吐き姫。 ( No.7 )
- 日時: 2011/10/19 19:48
- 名前: ぬこ ◆xEZFdUOczc (ID: DVd8EX6H)
「お母さんが亡くなったっていうの、あれはただの噂だってば。あたしにお母さんはちゃんといるよ」
その作り笑いを、嘘を吐いてしまった罪悪感を隠しながら愛らしい笑みに近づける。
そして言葉を紡いだ直後、ミリアはそのことを悔やむのだ。
そんな嘘吐いたって、母は帰ってこないのに。そんな嘘吐いたら、言い伝えで—。
そこまで考えて、ミリアは考えるのをやめた。怖くなってしまったのだ。
もしかしたら、明日には自分がいないのかもしれない。そう考えると落ち着いていられないくらい恐ろしかった。
「そうなんだ! なら早く言ってよねー、もう! ほら、学校行こうよ! 遅刻するよ!」
あぁ、やっぱりだ。
そうミリアは思った。
単なる噂だと思った瞬間にいつも通りに接してくる。
いつものテンションで。明るく、楽しく。
ここ数日は大人しく、何処か重苦しい雰囲気を放っていた彼女。
しかし、いつも通りに接しても何の問題も無いと判断した為にいつものように振る舞う。
そこら辺が、ミリアは嫌で嫌でたまらなかったのだ。
「あ、あたし今日は休むよ。何かだるいの。家帰るね」
そのまま行けば腕を引っ張って走りだしそうな勢いの彼女にそう告げる。
口角を上げ、頬の筋肉を緩め、やんわりと笑ってみる。
彼女は少しだけ寂しそうな顔をすると、「また明日ね!」と手を振って去って行った。
明日、か。また明日。
言い伝えが頭を過る。
嘘を吐いたお姫様はオオカミに食べられて—。
ミリアは軽く首を振った。迷いを振り切るように。
所詮、言い伝えは言い伝えなのだ。現実にそんな事が起きるわけ……無いじゃないか。
- Re: オオカミと嘘吐き姫。 ( No.8 )
- 日時: 2011/10/19 21:20
- 名前: ぬこ ◆xEZFdUOczc (ID: DVd8EX6H)
「オオカミ、ね……」
自室のベッドに寝転がりながら、天井を仰ぎあたしは呟いた。
さっきから頭から離れない言い伝え。
否定しながらも言い伝えがずっと渦巻く。
でも実際全く嘘を吐かない人間なんていないんじゃないのか。
そんな小さな嘘を吐く度にオオカミが食べに行ってたら忙しいじゃないか。
それに都市伝説か事件として警察も動かなければいけないじゃないか。
ほら、嘘だよ。言い伝えだなんて。きっと嘘を吐かせない為に作った話。
そう、そうだよ。本当な訳、無いじゃない。
考えてもキリが無いや。少し、寝るとしようかな。
ゆっくりと、目を閉じる。
*
「あれ」
名も無き場所にて。一人の少年は呟いた。
別に誰かに宛てた訳でも無く、ただ漏れた言葉。
頭に生えた大きな茶色の耳を軽くぴくぴくと動かすと、嬉しそうに微笑んだ。
微笑んだ、と言うよりは妖艶な笑みを浮かべた、の表現の方が正しいのかもしれない。
「丁度、お腹が空いていた所なんですよ」
耳と同じく茶色の長い尻尾を揺らめかせ、少年は立ち上がった。
蒼の瞳が映すのはそう、とある国のとある都市。
- Re: オオカミと嘘吐き姫。 ( No.9 )
- 日時: 2011/10/20 18:07
- 名前: アニホとミシン (ID: WPbx8B95)
ぬこ様の小説発見! さっそく見に来ちゃいました^p^ぐへへ←
私も自称“嘘つき”だったりするので、タイトルを見た瞬間に「なるほど、嘘吐き姫ってことは嘘つき村の住人な私にとってもお姫様ということか」なんて思ったのは秘密です((
ミリアちゃんと私は吐く嘘のジャンルが違うようですが(笑)
やっぱりぬこ様の書く文章は独特の魅力があって素敵ですお(*^ω^*)
更新がんばってくださいねー!