複雑・ファジー小説

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ジアース 〜沈んだ大陸外伝〜
日時: 2011/11/11 21:28
名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
参照: http://soysauce2010.blog82.fc2.com/

どうもどうもどうもどうもハネウマです。こんにちは。
ここでは「ジアース 〜沈んだ大陸〜」の外伝を書いていきたいと思います。
「沈んだ大陸」の後日談がほとんどなので、「沈んだ大陸」を読んでからこっちを読んでくださると嬉しいです。
でも用語や設定なら解説するので読んでなくても大丈夫だと思います。・・・多分
参照は毎日更新中の僕のブログです。気が向いたら覗いてやってください。

▼用語解説

ジアース:ネルア地方、ルディア地方、ラフロル地方で構成される世界
レゼラ帝国:ジアース全土を支配する国家
レゼラ帝都:レゼラの都
レゼラ城:帝都の中心部に位置する王城
魔人:魔力と呼ばれる不思議な力を持った人間
第二次魔力爆発:“勇者”と“魔王”と呼ばれる存在が引き起こした、魔力の性質が相反するものが強く衝突した時に起こった現象。希少な存在だった魔人を大量に発生させる原因となった





では物語へ。

Re: ジアース 〜沈んだ大陸外伝〜 ( No.4 )
日時: 2011/11/11 21:27
名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
参照: http://soysauce2010.blog82.fc2.com/

▼ヘルガのふるさと 2

 カイズはどうなったのかわからないが、私とアーベルさんは長老の家まで歩く。途中、子供達が「魔獣しょうかーん!」とか無邪気にわめきながら走り抜けていったりして、そんないたいけな子供達と私は同じくらいの体格だと気づいた時でも落ち込まないようになったのはいつからかな。
「先に俺が長老に話してもいいかお伺いを立ててくる。ここで待っていろ」十数秒後。「オッケ〜イ、だそうだ」オッケ〜イ、ときたか。
 長老の家に入る。荘厳だけどどこか怪しげな雰囲気を発する何か人型の像がその頭が天井に触れるか触れないかの高さで立っており、ああ、こんな印象的なものを知らないってことは私は長老の家に入るのは初めてだってことなんだな、と気付いた。
 そしてその像の前の床に、長老が座っていた。肩までかかった白髪に、顎を覆いつくす白い髭。骨ばった腕はどっかとあぐらをかいた脚に添えられている。
 私は正座する。「ヘルガです。よろしくお願いします」「ほお。姿は変わらんのお。しかし風格は著しく変わったように見える……何か、大きな事を成し遂げたのじゃろうのお」
「長老もその洞察力にお変わりはないようで」私には島を出て旅に出ようと思い始めた頃、長老にそれを見通された過去がある。なんとか誤魔化せたけれど。
「して、今日は我らが執行する魔呼びの儀式について相談があるという事じゃが」長老の細い目が見開かれる。「申してみよ」
「はい」この前ジアースは、千年前に現れたという伝説の魔王によって支配される危機に直面した。その魔王は、ガルト族の魔呼びの儀式によって封印を解かれた者。魔呼びの儀式は古来より受け継がれてきた行事だけど、得体の知れないものが出てきてしまうかもしれないというリスクが伴う。こんな儀式は今後一切やめるべきだ。そしてジアースの事をよく知るため、閉鎖的な一族の体質をあらためこの島を開かれた場所にするべきだ。私はおおよそこんな意味の言葉を口にした。
「ふうむ、なるほどなるほど」長老は白く豊かな髭を撫でる。「やはり、そなたが島の外へ行こうとするのを止めなかったのは正解だったのかもしれんのお」
「?」「ほれ、わしがそなたの島脱出計画を見透かした事があったじゃろう? あの時そなたはわしの目を誤魔化せたと思ったかもしれんがそうはいかんのじゃぞフォッフォッフォ」わざとらしい変な笑い方に私はつい笑みをこぼす。そういえばこんなノリの人だったっけ。古風な喋りかたもそのノリの一環なのかもしれない。
「わしもな。魔呼びについては疑問に思い始めていたのじゃ。アルフが魔王と化してからな」アルフが?
 アルフは私の親友の男で、私が唯一島から出たいという事を打ち明けた友人だった。「どういうことですか?」
「魔王を呼び出した魔呼びの儀式では人間に魔王の魂を憑依させる事で精霊を実体化させたのじゃ。それで憑依させられたのがアルフじゃった」嫌な予感が私を蝕む。「魔王が憑依したアルフは日に日におかしくなっていき、体格や顔の形までも変わってしまったのじゃ。自分が魔王であることを告げると、島の漁師たちを脅して船を出し島から出て行った。それから戻ってこなかったが、ジアースが危機的状況にあった事は知らなんだ」
 嘘でしょ……?
「何で!」私は声を荒げる。「何で呼び出されるのが魔王とわかっていて儀式をしたんですか!」「儀式をする時点では闇の精霊を呼び出すという目的だけじゃった。魔王が呼び出されると分かっていたわけではない。魔王が召喚されたのは恐らくミスによる偶然じゃ」
「そのミスでアルフは魔王になったんでしょ!?」そうか、私は親友のアルフを殺そうとしていたんだ。「魔王は死んだ! アルフももう戻ってこないんだよ!? あんたたちは許されない事をした!」
 止めさせてやる。「止めさせてやる。そんな儀式、やっていいはずがないよ!」
 アルフ。誰より私に優しくしてくれたアルフ。いつも私の話を親身になって聞いてくれたアルフ。一緒にいるだけで安心できた友達。揺らぐ私の心を満たす悲哀の感情。「何でよ……何でこんなことに……」
「ヘールーガー!」耳に飛び込んでくる能天気な叫び。私は振り向く。扉が開き、カイズが突進してくる。なんなんだ?
「うっひょおお! すげぇ! 何の像だこりゃ!?」カイズは長老の後ろに立つ像を様々な角度から見回し、「そうだ、助けてくれよヘルガー。きみのお父さんったら俺の話を受け入れてくれないんだぜ? ちょっと島を探検させてくれって言っても『帰れ』の一点張りでさぁ」
「どう考えてもその探検は『ちょっと』では収まらない気配がしたのでな」お父さんの声。「長老、失礼いたしやす。オラそこのガキ! 一緒に来んかい!」「ひえー、出たよヘルガパパ。何とか言ってくれよヘルガー。ほらそこの爺さんも。探検くらいいいよね?」
 やれやれ。私はため息をつく。「長老、どう思います?」そう言ってにやりと笑う。長老ならこう答えるはずだ——。
「オッケ〜イ」

Re: ジアース 〜沈んだ大陸外伝〜 ( No.5 )
日時: 2011/11/12 21:49
名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
参照: http://soysauce2010.blog82.fc2.com/

▼ヘルガのふるさと 3

 一族の重要人物達による会議が開かれ、私はそれに参加した。反対する者もいたが、魔呼びの儀式の存在意義に疑問を抱いている者は意外と多く、それはアルフの事件があった事が影響していたようだ。私が話した魔王の被害も考慮し、結果今後の儀式は取り止めになった。 私が提案した閉鎖的な一族の解放案にはまだ渋い顔をする人が多かったが、長老がその案に賛成してくれているのでじきに通るだろう。
 会議が終わってほっと一息、小高い丘の上から海を見つめる。アルフとここで二人で見つめた海。変わらない景色。それの中でも、一族は今日を境に変わってゆくだろう。私のもたらした変革は、いい方向へ進んでゆくだろうか。
 ガサリ、と草の擦れ合う音がした。少し驚いて振り返ると、カイズが擦り傷だらけの土だらけになって歩いてくる。「やぁヘルガ、何してるんだい?」
「そっちこそ何してたの?」「勿論、探検さ。珍しいものとか何かないか探してたよ。なんか石の段とかがある場所にも行ってきたんだけど、あれ何なんだろう。石に模様が描いてあって……」
「うわ、それ魔呼びの儀式に使う聖域だよ。入ったことバレなかったの?」「ああ。全然大丈夫だった。何? あそこ入ったら怒られんの?」
「ああ、いや……」私が住んでいた頃は聖域に入ったりしたら思いっきり罰を受けたが、今日をもってそんなしきたりはなくなった。「別にそんなことないよ」聖域は儀式ができないように取り壊される予定だ。
 カイズが私の隣に座る。「俺、きみにお礼を言ってなかったよ。ありがとう。こうして長年の夢だった拝魔の一族の島まで来れて、存分に探検することができたのはきみのお陰だよ」
「いやー、ははは」私はちょっと照れてボサボサの髪をつまむ。「私こそ、きみにお礼を言わなくちゃ。船に乗せてくれてありがとう」
「お礼なんていいさ、俺はしたいことをしただけなんだ」カイズの口元を緩ませた横顔が、一瞬、アルフと重なった。
 したいことをすればいいよ、きみの人生なんだから——。このアルフの言葉にどれだけ支えられたことか。
 傾く太陽が夕方のオレンジ色を描き私の目を染める。
「さて、今日はヘルガん家に泊めてもらおう! 海からしか入れない洞窟を見つけたんだ。明日はそこを探検だ!」カイズは元気に言うと立ち上がり、私に手を差し出した。
「さぁ、一緒に行こうぜ」
 手を握って立ち上がる。「うん」
 私とカイズは丘を降り、私は丘を振り返る。二人の長い影で照らされなかった丘は美しいオレンジに色づいている。ジアースの辺境でも、太陽は平等に照らすんだ。
「ヘルガ? どうした?」
 変わらない風景に安堵し、私はカイズに向き直る。
「ううん、なんでもない」
 私とカイズは、家へと歩を進める。
 久しぶりの両親との日常が、私を待っている。

Re: ジアース 〜沈んだ大陸外伝〜 ( No.6 )
日時: 2011/11/13 22:23
名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
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▼フォレストとレムの邂逅 1

 樹海の日々は、そこそこ退屈。
 今日も俺は目を覚ました後植物達に挨拶し挨拶され、寂しくなった木の家と小さな菜園で一日を過ごす。
 林檎の木の下に座る。マカロフがここでナントカ引力の法則を発見したのはまだレジスタンスのメンバーがフィロスとメヴァ、リル、マカロフ、マクロアース、そして俺の六人しかいない頃だったか。その後メンバー達は十一人までに増え、そこから激動した。
 今は壊滅した魔王の「組織」によるアジト襲撃。その悲劇でこちらはリーダーだったフィロスを含む三人の死者を出し、その墓はまだ家の横に建ててある。
 レジスタンス解散後、俺はレジスタンス結成前から住んでいたここで再び一人暮らしを始めたのだった。植物の言葉を解する俺にはやる事があってそんなに暇じゃない。
 何だって?
 林檎の木が人間が来たと知らせてきた。こんな辺鄙な場所に来る人間といったら、熱心な生物学者、または自殺志願者だ。いや、今は解散したレジスタンスの元メンバーかもしれない。俺はそれを期待して立ち上がる。
 見たことのない人だった。
 黒髪はセミショートで右目を隠している。背は低く、身に纏う服はワンピースのようだ。色は白だが汚れている。長い袖は手を完全に隠しているがよく見るとそれはボロボロ。左の袖は半分になり前腕が見えていて、色白のその肌は土に汚れている。
 まだ林檎の木の陰にいるこちらには気付いていないようで、木造のマイハウスを彼女は無表情に見つめている。
 どうしよう。行って俺の存在に気付かせてやるべきか。だがその身なりを見る限り、俺が先ほど推測し来た人がどんな人間なのかという可能性を挙げた中に該当するとすればあの人は「自殺志願者」。行ったら面倒な事になりそうだ。しかし、森の聖域の守護者様は何をやっているんだ。聖域に誘導すれば問題はそれで片付くのに。また気まぐれを起こしたのかもしれない。
 仕方ない。
 ガサッと音を立てて俺は林檎の木の陰から姿を現す。こちらに気付いたあの人はその場から動かず無感動に俺を見やる。
「どうしたんだ? 迷子にでもなったか?」
「迷子かと問われれば、それを否定する余地は無い」子供のように背が低いその人は見た目の年齢相応の高い声で応答する。女じゃなかった。男子の声だ。しかし、男子がワンピースってのはちょっと趣味が悪くないか?
 近くに寄ると、瞳が大きく黒いのが分かる。目の下の隈が気になるが顔はまだ幼さを残しており、十三歳かそれ未満ではないかと推測する。
 俺はその足を見て言った。「随分傷だらけじゃないか。うちに寄って休んでいかないか?」
「私の中で思考が矛盾しているが、本能に抗うのはやめて休ませていただくとする」
 俺はマイハウスに久しぶりの来客を招き入れ、「椅子たくさんあるけど、どこに座ってもいいから」と投げやりな口調で言いながら水をマグカップに注いだ。
 俯くその子の目の前にマグカップを置き、自分もマグカップの水を啜る。その子は水を見、「どこの水だ」と問いかける。
「家の裏に井戸があって、そこから汲み出してんだ。美味いぞ。あ、茶の方が良かったか?」「構わない」その子は水を啜り、ほおっとため息をつく。
「お前さん、なんて名だ? 俺はフォレスト・リーグル」「自らを構成する因子を晒すのは好きではないが、会話を円滑に進めるために名乗ろう。レムだ」
「レムな。男だよな? 何でワンピースなんて着てんだ」「これはワンピースではない。研究所の白衣だ、大人用のな」だから袖がダボダボだったのか。「ズボンはぶかぶかで邪魔なので一部を裂いて捨てた」
「研究所って言ったな。もしかして、ここの生態系を調べに来たのか?」「そうではない」俺はレムの瞳の闇が深くなるのを見る。
「私はアイン研究所から逃亡する中で自らの人生に絶望し、それに誰にも迷惑がかからない手段で終止符を打つべく樹海に足を踏み入れた」
 やっぱり、自殺志願者だったかよ。いやいやその前に、「お前、アイン研究所って言ったな?」
「言ったが」「そこ、フィロスが……俺の知り合いが行ったことがある場所なんだよ。そこから逃亡って、一体何されたんだ?」
「想起する事を脳が拒絶する。お前に話す事はない。水をくれた事には感謝する。立ち去らせてもらう」
 小さい体が椅子からぴょんと飛び降り、扉に手をかけようとする。「待てよ!」
「何だ」
「お前、自殺する気なんだろ? 止めとけよ、これから先楽しい事だっていっぱいあるさ、な? まだ子供なんだ、人生に絶望するのは早過ぎ」「私は大人だ」
 あからさまに嘘をついてきやがった。確かに大人びた……というか奇妙な、子供とは思えない口調だが。もしかしてこういう言い回しをするのが大人っぽいと思って実行しているのかもしれない。大人への憧憬の気持ちは分からなくもないが。
「信じていないんだろう」「信じるわけないだろ」「私は大人だ。お前の事情がどうであれ、私の方ではもうお前に用はない」
「わかったよ信じるよ、きっとお前が研究所で怪しい薬を飲まされて子供の姿になっちゃったとか色々事情があるんだよな、だから行くな。死ぬな」
 レムは驚いたように振り向き、俺を見上げる。
「何故、知っているんだ」
「は?」「私が研究所で薬を飲み大人から子供の姿へと変貌した事をお前が知識として得ているのは何故なのだと聞いている」
 どうやらあてずっぽうで言った事がまさかの大当たりだったようだ。

Re: ジアース 〜沈んだ大陸外伝〜 ( No.7 )
日時: 2011/11/14 22:17
名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
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▼フォレストとレムの邂逅 2

 レム、実年齢二十五歳。俺より年上じゃねぇか。アイン研究所所属、今は逃亡中。逃亡理由は人体実験の被験者として扱われるようになったから。ひでぇな。自殺志願の理由は、追っ手がしつこく安心していられる時間が無くなった事や大好きだった研究をする機会を奪われた事による人生への絶望のため。
「もうこれでいいだろう。お前の好奇心を満たしてやるためにここまで事情を吐いたが、これ以上語る気は無い。私としても何故口走ってしまったのか謎だ……。とにかく、お前と私の付き合いはこれまでだ。行かせてもらう」
 木の扉に手をかけ、俺の制止を振り切り開け放つ。ちぇ、勝手にしろよもう。
 だが、レムはそれから動かない。震えているように見えた。「どうか……したのか?」
「レムー! 迎えにきてやったぞー!」第三者の男の声が耳に飛び込んでくる。
 レムは音を立てて勢いよく扉を閉めると、素早く部屋を見渡す。そして焦った表情で俺の顔を見て、「窓はないのかっ」「無いぜ。二階にはあるけど」
「かっかかか匿ってくれ」相当焦ったご様子で俺にしがみつく。んなこと言われても。
「もしかして、研究所の追っ手がここまで来たってのか?」「そそそそうだ、どうにかしろ! どうにか……」言いながらレムは扉付近に椅子を積み上げバリケードを作る。
「おーい! 危害を加えるつもりはないんだってばー!」追っ手の声が扉の向こうから聞こえてくる。扉が開き、バリケードが脆くも崩れ落ちる。
 全く、何なんだよ。
「ほい」俺は能力で腕からツタを伸ばし、追っ手を拘束した。
「ぐああー! 何だこれ!?」
「お前魔人だったのか、非常に好都合な展開だ。そのままずっと拘束しておくといい、その間に私は逃亡し、首を吊る!」「あ、おい待てって」
「待ってくれ! レム、お前は勘違いをしてるんだ! これが最後だ、聞いてくれ!」追っ手の言葉にレムはぴくりと反応し、やや怪訝そうな顔で追っ手の顔を見る。
「まず! 俺達はお前を人体実験の被験者になどしない!」「何を言い出すかと思えば、聞き飽きた虚言ではないか」
「本当なんだ! 確かに人体実験をしようという過激な連中もいたが、それはアイン所長がいなくなって研究所内が統率されなくなってしまったからなんだ! 最終的には人体実験は止めようという話で結論付けられた!」
 レムは黙っている。今のは「聞き飽きた虚言」ではなかったらしい。
「次に! お前を元の姿に戻す薬は既に開発済みだ! 帰ってきてくれればすぐに元に戻してやる! だから帰ってきてくれ!」
「……それらが本当だという証拠はどこにある」「それは……ない……ないが! お前の頭脳は研究所に必要なんだ! 頼む! 帰ってきてくれ!」
 レムは逡巡の後、こう言った。
「わかった。だが、ボディーガードにこいつも連れて行く」俺の服のすそを引っ張る。え、ちょ、何だって!?
「そうか、来てくれるか……。ありがたい。あんた、なんていうんだい?」「え……フォレストだけど……」
「フォレストさん。俺はブロン。レムのボディーガード、よろしく頼むよ」おいおいおいおい。
「俺、樹海にいたいんだけど」「お前に拒否権はない。ついてくるがいい」いや強引すぎやしませんかね。
 そんなこんなで、俺はレムのボディーガードとして雇われ(?)、アイン研究所へと半ば強制的に連行されたのだった。

 久しぶりに人間と会えて、嬉しかった気持ちもあった。とはいえ、研究所という場所にいるのは結構変な人間が多いのだが。実際、そこの所長のアインという男も変人だとフィロスから聞いていた。
 俺はまた林檎の木の下に座ってくつろいでいる。林檎が落ちてきた。「そうかー、林檎は下に落ちる、それはつまりジアースには物体を引き寄せる力があるからだーー」マカロフの声を真似て独りごちる。落ちてきた林檎をしゃくっと一口食べ、何の気なしに林檎の削られたみずみずしい果肉を見つめる。
 結局、あの事件はレムの勘違いだったとの事だ。大人の姿に戻ったレムを見て、俺は改めて研究所という場所の不思議さを思い知った。
 俺はレムに気に入られたのかは知らないが、「お前も所員としてこの知的好奇心を存分に満たせる施設で働かないか」と誘われた。が、即お断りさせてもらった。レムは不機嫌になり、「そうかじゃあな」と短く別れを告げ俺の前から去っていった。
「はぁーぁ」俺はため息をつき寝転がる。俺もヘルガみてぇに旅して未知なる出会いを待ってみようかな。
 樹海の日々は、そこそこ退屈。

Re: ジアース 〜沈んだ大陸外伝〜 ( No.8 )
日時: 2011/11/15 21:29
名前: ハネウマ ◆N.J./4eRbo (ID: sSCO5mTq)
参照: http://soysauce2010.blog82.fc2.com/

▼マクロアースと幽霊

▽マクロアース

 息を殺せ。音を立てるな。その事に全神経を集中しろ。
 目の前を屈強な体格とそれによる威圧感の優れた男どもが通り過ぎてゆく。
 その最後尾の男が後ろ手に閉めようとした扉の向こうへ滑り込む。バタン、と背後で扉の閉じられる音。安堵するにはまだ早い。脳内にインプットされた地図によれば、この先何度も危険な地帯へ足を踏み入れる事になる。
 僕が今盗賊のアジトへ潜入している理由、それは——。

「マクロアース」名を呼ばれ、振り向く。リレイがそこにいた。
「どうしたのリレイ? きみも買い物? この林檎、今すごく安いんだよ」手に取った林檎を見せるが、リレイの深刻な表情に気づく。「……リレイ?」
「話がある。極秘の。一緒に来て」
 リレイには、僕に言わせれば、欲がない。リレイは魔王を倒した功績を称えられ、皇帝はリレイに高い地位や最高の住まい等の破格の待遇を与えようとしたが、リレイはそれをほとんど断った。騎士の中での最高の地位、チーム・シムンのリーダーにはなったが、それだけだ。
 他の家と代り映えしないリレイの自宅。恐らく誰もがここがあの勇者の家だとは思いはしないだろう。
「お邪魔しまーす……」リレイについていく。驚くほど質素なたたずまいだ。無塗装の丸い木のテーブルが一つ、無塗装の木の椅子が一つ。壁は薄茶色で、床は板張り。目立つ色はない。木の色が好きなのだろうか。そこに漂っているのは素朴な雰囲気。
「そういえば、仲間を僕の自宅に招待したのはマクロアース、きみが初めて。どう? この家」「うーん……まぁ、リレイらしさが出てていいんじゃないかな」
「椅子出してくる」そう言って家の奥へ消えたリレイから目を移し、僕は壁に飾られた剣を見る。
 リレイは別の剣を腰に差していたので、これは昔使っていた剣だろう。ギエル、とかいう鍛冶屋に作ってもらったと聞いた。今のリレイの剣より大きめだ。今のリレイは隻腕で、両手で持つ剣は持てないから小さめの剣を誰かに作ってもらったのだろう。
 飾られた剣の刀身の刃毀れは魔王との壮絶な戦いを物語っていて、僕は魔王を倒したリレイへの尊敬の念を新たにすると同時にこんな質素な暮らしで満足しているのかと疑問にも思った。
「座って待っててくれればよかったのに」リレイが椅子を持ってきて微笑んだ。
 僕とリレイは座って向かい合う。しばらくこの部屋の事やリレイに挑戦してきた男の事や僕の身の回りに起きたささやかな事件などについて談笑し、お互いの雰囲気が暖かくなったところで、「笑える話の後にこんな深刻な話なんてしちゃって申し訳ないんだけど」とリレイが切り出した。
「ホークアイ、って知ってるだろう?」「うん」三国時代からあって、昔から今まで盗賊の中では最大の勢力を保ち続けてきた盗賊団、ホークアイ。
「そのホークアイが、シュヴァリエル家の長女を誘拐して高額な身代金を要求している」「シュヴァリエル家だって?」
 圧倒的な財力を持つ一家、シュヴァリエル家。それに大して身代金を要求するという事は、さぞや莫大な金額なのだろう。
「そう、シュヴァリエル家。で、きみにはその長女のキキさんを救出して欲しいんだ。明日までに助けないと、キキさんに危害を加えると盗賊は言ってる」深刻な表情で、そう言われた。
「何故、それを僕に?」「きみは自身と自身の触れているものを不可視にできる魔人だろう? 潜入にはうってつけ。騎士が行くわけにはいかないんだ、人質に使われると戦えない」
「そうか」「きみには能力を使ってホークアイのアジトへ潜入し、キキさんを助けて欲しい」
「それは……命がけだね」「これはマクロアース、きみにしかできない事。どう? 引き受けてくれる?」

 勿論さ。
 僕はレジスタンスのアジトが襲撃された時も、レゼラ城を襲撃して「組織」の魔人と戦っている時も、ヒーローにはなれなかった。そう、僕はリレイのようなヒーローに憧れていた。誰かを命を賭して救出する。そんな物語のようなヒーローに僕はなりたくて、今回の潜入作戦を引き受けた。
 足音を立てないように移動する。扉を開ける。キィ……と音がして、扉の奥の男が不審そうにこちらを見る。
「何で誰もいないのに扉が……? 幽霊でも出たか? ハッハッハ」そう言いながら男はこちらへ向かってくる。
 そろり。僕は男が扉を閉める前に奥へと進む。ここは気づかれずに済んだ。
「どうかしたかー?」別の男の高い声がする。「いやぁ、ポルターガイストだよポルターガイスト。勝手に扉が開いてさぁ……」
 高い声の男がコップの何かを啜り、口を開くのが見える。「ハハハ、もともと開いてたんだろ、扉がよ。幽霊なんていたらこのジアースも少し面白くなるだろうがなぁ」
 その意見には同意しかねるな。そう心の中で呟きながら、二人の男が座ったテーブルの脇をそろそろと進む。



 俺はこの「魔眼」に映った魔力の塊に気づいていた。何だ、あれは? 塊は人間のように見えるが、魔眼である左目を瞑ると、塊のある空間には何も見えない。
 俺の能力、「魔眼」。魔力を視認できるというだけの使えない能力だと思っていたが、ほぉ……。
「どうかしたかー?」俺はデルに声をかける。「いやぁ、ポルターガイストだよポルターガイスト。勝手に扉が開いてさぁ……」デルがにやにやしつつも何か腑に落ちない様子で答える。
 俺はコップのコーヒーを啜り、口を開く。「ハハハ、もともと開いてたんだろ、扉がよ。幽霊なんていたらこのジアースも少し面白くなるだろうがなぁ」
 そんな幽霊さんが俺とデルの横を通り過ぎてゆく。透明になれる魔人か。盗みに便利そうな能力だなぁ、幽霊さんよ。
 部屋の奥へと進む魔人。目的は恐らく、シュヴァリエル家のお嬢様だ。
 まだだ、まだ捕まえない。お嬢様を連れてここまでやってきたら、お仕置きしてやろう。特に、お嬢様の方をな。
 股間が疼く。ヘッヘッヘ、今日は楽しいパーティーだ。


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