複雑・ファジー小説
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- 或る日の境界 第2話完結。
- 日時: 2012/04/08 22:19
- 名前: とある犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: GHOy3kw9)
ただいま、スランプ脱出する為に頑張って書こうと気張ってます。
正式なハンネは遮犬と申します。
※所々、微妙なグロが入ったりしますので、ご注意ください。大抵は大丈夫だとは思います。描写下手なので。
【目次】
プロローグ……>>1
第1話:或る日の日常
【#1>>2 #2>>5 #3>>6 #4>>7 #5>>8】
第2話:或る日の現実
【#1>>9 #2>>10 #3>>11 #4>>12 #5>>13】
第3話:或る日の錯覚
【
- Re: 或る日の境界 第1話完結しましたっ。 ( No.9 )
- 日時: 2012/03/20 20:51
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: /HF7gcA2)
(ヤバい、ヤバいヤバいヤバいヤバい……ッ!)
殺される。恐怖が目の前として表れ、そのまま己に跳ね返ってきたかのように、俺は怯えていた。
何をするわけでもなく、逃げないといけないと思っていても、足が動かない。銀髪少女の言うような戦うなんて無謀な行為は、もう頭の中にはこれっぽっちとして入ってなどいなかった。
目の前にいるのは、人の姿をした"何か"だった。
銃こそは手で握っているが、どうも全体的にだらりと体が垂れており、おぼつかない足取りでこちらに一歩ずつ向かってきている。顔も見えない。服装は……見たことがあった。これは、コンセレクト・ヴィコーズのゲーム内での服装だった。
有り得なかった。全てが、今この状況が。朝目覚めたら銀髪少女が、という和やかなそうなものも全て吹き飛んで、今実際には俺は——死ぬかもしれないというのだ。
「ふ、ざけんな……ッ!」
小さく、唸るように声を出した。ドダ、ドダ、とバラバラのリズムで歩み寄って来る得体の知れない者から——足の向きを真逆に変え、少女の手を取った。
「逃げるぞッ!」
少女は俺の手に引かれるがままに、二人で走り出した。
第2話:或る日の世界
後方は見ない、見たくもない。だが、相手は銃を持っている。いつ狙ってくるかも——パスッ。
その時、前方の方に銃弾が飛んでいくのを目にした。後ろを振り返ると、おぞましい表情——歪んだ笑みを浮かべ、頭や体中から血を流している"或る日"の俺が殺した、敵がそこにいた。
「う、わああああ!」
無我夢中でドアを開けようとする。が、開かない。鍵なんて開けてはいない。だが、一向に開く気配がない。ガチッ、と何かで閉ざされたような、こんな感覚は初めてだった。
「おいっ! 開けよ! 畜生!」
たかだかアパートの一室。敵が来るのも早かった。恐怖が一気に俺を襲っていく。目の前には——銃口を俺に向けていた。
パスッ、乾いた音がまた聞こえた。その瞬間、左肩に激痛が走る。見ると、銃弾は俺の左肩へと撃ちこめられていた。
「う、ぐぁぁああっ!」
勿論、こんなことは初めてだった。コンセレクト・ヴィコーズは、痛みを感じない、衝撃のみ。しかし、現実として俺は痛みを感じている。そして、銃弾は確実に俺の左肩にある。夢じゃない、嘘じゃない、この痛みは。
「どうして、戦わないの?」
その時、少女がポツリと呟いた。苦しみでもがく俺の姿を、真上から見下ろしている。いつの間にか、俺は座り込んでしまっていたようだ。目の前の敵は笑みを浮かべて更にこちらに近づいてくる。
「貴方の腰元には、武器があるというのに」
「え……?」
その時、初めて気がついた。ゴツゴツした何かが確かに俺の腰元にある。それを右手で探ってみると、そこにあったのは一丁のハンドガンだった。
どうしてこんなものが、という質問よりも、俺は前方の敵を見つめた。
(殺す、のか?)
ハンドガンを敵に向ける。銃口はしっかりと敵を捉えていた。そういえば、この敵は先ほどの肩への射撃から銃を放たず、ずっと俺の方を見つめていた。——気持ちの悪い、笑みを浮かべながら。
ハンドガンを握り締めながら、昨日のコンセレクト・ヴィコーズでの一件が頭の中に過ぎった。血塗れになった死体が、二つ転がる姿。ハチの巣のように、全身を穴だらけにして、血の海が広がっている光景。
再び吐き気が襲ってきた。しかし、それを抑え、俺は葛藤の末に——引き金を引いた。
——————————
その頃、一心に素振りを一人で本荘はやっていた。
何度も振るう竹刀が、振るたびに重く感じる。もう何本もこの竹刀を振るっただろう。ただ、無心に竹刀を振るわせるばかりだった。
「はぁっ、はぁっ……」
息切れも酷くなってきた。汗も足元の方には水溜りのように汗が塗れている。こんな汗臭いと、女子とは言えないんじゃないか、とも本荘は心のどこかで思ったりもした。
「……ふぅ」
と、それから何本か素振りをした後、ため息に似たものを吐いて素振りをする手を止めた。
静かな道場内は、その独特な匂いと自分の汗の匂いが混じり、朝からすると本当に暑苦しい環境のようにも思えた。
(何を、しているんだろう……)
突然、自分の中でそんな疑問のようなものが生まれた。前から思っていた、というより感じていたことだったのだが、今ここで初めて自分の中の疑問として表したのだ。
それから、じっと何を見つめるわけでもなく、まるで黙祷するかのように黙って目を閉じた——が、それが解かれるのも、また早かった。
「練習中の中、悪いんだけども……ちょっち、俺とお話しないかい? お嬢さん」
目を開け、本荘は後方にいる者へと目を向けた。
そこにいたのは、一人の男の姿だった。サングラスをかけ、口元が笑みの形になっているその不思議な雰囲気を放つ男は、本荘へと向けてピースサインをしてから道場の中へと入ってきた。
「——誰ですか?」
本荘は言い放つと、竹刀を瞬時に構え、見知らぬ男の方へとそれを向けた。
男は、おどけたように「おぉ、怖い怖い」という風に笑うと、サングラスを外した。その中にあった瞳は、薄茶色のような色で、どこか鋭そうな目つきを本荘へと見せながら、
「峰木って名前のもんだ。まあ、とりあえず宜しくな。怪しいもんじゃねぇから」
「近づかないでください」
竹刀を峰木の眼前で寸止めする。その対応に対して、峰木はピクリとも動きはしなかった。
「はっはっは、だから怪しいもんじゃないってーの。近づかないから、この物騒なもんを下ろして、話を聞きなさいな」
両手をあげて、パタパタと下へと向けて何度も手首を捻った。その様子に、本荘も呆れたのか素直に竹刀を下ろした。
その様子に満足したのか、峰木は笑顔を見せて右手人差し指をピンと立て、
「それじゃ、お話しをしようか——この世界について」
- Re: 或る日の境界 第2話開始。 ( No.10 )
- 日時: 2012/03/27 19:17
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: GHOy3kw9)
呼吸がやけに乱れていた。目の前で一体何が起きたのかさえも分からず、ただ呆然と呼吸を整えることを体が強制するかのように、乱れた呼吸が速く、そして時には強く弱くなったりするのを感じつつ、右手に持っていた銃を落とした。
床へと当たったそれは、ガラガラと音を鳴らして冷たい床の上へと滑る。目の前には、いたはずである異形の人物の姿は既になくなっていた。隣には、少女が変わらない無表情で俺の顔を見つめている。その瞳は、どこまでも薄く透き通っていた。
「何、だ……よ、あれは……!」
言葉が、ゆっくりと強く口から零れ落ちるようにして出てきた。やっと出した言葉は、そんな掠れ掠れの言葉でしかなかった。少女の顔は見ない。いや、見れなかった。俺には怖かったんだ。少女の顔、無表情に冷たい顔を見ると、まるで自分は——殺人者として見られているような気がした。俺は、現に銃弾を撃ったのだから。それはどういう形でも、自分は何かを殺そうとしてしまった。その事実は変わらない。
少女は少しの間、俺の言葉から間を空けて、小さく口を開いた。
「異形。またはイレギュラーとも呼ばれる。境界を徘徊している、存在のみとした怪物」
「イレギュラー……?」
「そう。貴方が元にいた世界ではない、世界。あの世界のように見えて、この世界はまるで違う——この世界は、他の世界と世界を繋ぐ境界線のようなもの。ゆえに、この世界の名前は"境界"(きょうかい)と言われる」
——————————
「この世界は、元にいた世界とは、違う?」
「あぁ、その通りだよ、お譲ちゃ——」
「本荘 櫻です」
二人して対面に座り、峰木は胡坐をかいているが、本荘はしっかりと背筋を伸ばした綺麗な正座で峰木の顔を射抜くかのように見つめていた。その迫力に少々押されたのか、胡坐をかきつつも背筋を伸ばして一息コホン、とわざとらしく息を吐いた。
「……境界と言われる世界なんだけどね。まあ、この世界は今までいた世界と同じなようで、同じじゃない世界なわけよ」
「……どういう意味ですか?」
眉をピクリと上へと向けて、少々訝しげな表情へと本荘は顔つきが変わった。それを見届けるように数秒後、峰木は話を続ける。
「まあ、ぶっちゃけちゃうと、この世界は今まで暮らしてきたような世界とは全くの別格なわけ。姿形はまるでそのままだけど、中身は全然違う。些細なことぐらいの変化はあるはずだし、それよりも大きいのは……この世界には日常を超えた非日常だらけが"普通"と認識されてしまっているっていうことだ」
「……どういう意味ですか?」
本荘の二度目の同じ問いに、峰木は「あー……」と声を漏らして、頭を少々掻き毟った。
「いきなりすぎるしな。まあ、確かにそういう反応が普通だろう。突然、異世界ですよーとか言われたり、目の前で美女のウッハウハのボディーをした姉ちゃんが際どい格好で踊って——」
「話はそれだけですか?」
「……いや、勿論まだあるさ」
少しの沈黙の後、再び峰木が口を開いた。
「簡単に説明すると、この境界には異形と呼ばれる者と、NPCと呼ばれる者。そして、プレイヤーと呼ばれる者が存在しちゃってるってわけだ」
峰木の言葉を、半ば半信半疑な表情で受け止めた本荘は、そのまま冷静さを保ちながら峰木の顔を見つめた。
「……続けてもいい?」
「どうぞ」
何を恐縮したのか、峰木は本荘に続けてもよいか聞き正した。その返事が返ってくるのを頷いて、安堵のため息と表情を浮かべた後、峰木は言葉を紡いだ。
「まあ、イレギュラーに関してはその後分かるとは思うんだが……NPCってのは、また後々分かるか……あぁ、そうだ! プレイヤーだな」
一人で納得したように峰木は手のひらを握りこぶしで軽く打つと、意気揚々と再び話し始めた。
「プレイヤーは、面倒臭いから単刀直入に言うとだ……お前のような存在がプレイヤーだ」
「……私が、ですか?」
「あぁ、そうだ。お前だ、お前」
峰木は何故か突然嬉しそうに本荘に向けて笑顔で言い出した。その様子は特に何も邪念などは無く、無邪気な様子で本荘に向けて言い放ったのだ。
「突然現れて、何を言ってるんだこいつはって思ったと思うが、悪かったな。とにかくこの世界のことをプレイヤーの一人である本荘、お前に話しておきたかったんだ」
ゆっくりと峰木は立ち上がり、本荘の目を見つめてそう言った。どこか鋭くて、時に少年のような瞳の輝きを見せるその目はどこか懐かしくもあり、本荘の記憶が揺さぶられるようだった。
正座の体制から見上げるようにして本荘も峰木を見る。この峰木という男が言っていることは、普通に考えればただの間抜けだ。いや、間抜けより酷い。厨二病よりさらに酷くしたような感じになってしまっている。
しかし、この峰木という男が本当のことを言っているという保障などどこにもない。話を聞いたのは、本荘的にそれが礼儀だと思ったからだ。
「……プレイヤー、とか言われても全然ピンと来ないんですが」
「あぁ、確かにそうだな。まあ、待てよ。もうすぐだ。もうすぐ——嫌でも現実を見せてやる」
峰木のその言葉は、先ほどまでとは明らかに違う……殺意に似たようなものを本荘は感じた。一瞬、体がビクリと動き、竹刀に手をかける自分がいたが、それを抑止した。その殺意は、自分に向けられているわけでもないのに、殺意を感じた瞬間、本荘は武器に手をかけていたのだ。一体何故そんなことをしたのか、それがどういうわけなのかも本荘自身でも分からなかった。
「……来た」
峰木の呟きが聞こえた——その時だった。
「ギィイイイッ!」
耳を塞ぎたくなるような高音の虫のような音が聞こえたかと思うと、道場の前方付近、峰木が見つめている先が一気に半壊し、バキバキと音を鳴らして突如現れた巨体の襲来を目で確認した。
姿はスコーピオンのような形で、腕双方は大きなハサミとなっている。だが、問題はその大きさで、人間の何倍もでかい。一気に道場が半壊されてしまうほどの大きさだった。本荘は見るものを疑うかのように、言葉が詰まったように、その巨体を見つめていた。冷や汗が頬をつたる。目の前のものは——果たして現実なのであろうか。
「こいつがイレギュラーだ。結構大きいな……これぐらいなら、まあレベル的に言えば中ぐらいか」
峰木が冷静に喋りながら、"何か"を取り出した。その何かは、どこかで見たことがあるもので、腕にはめるもの——それは、鉄の小手だった。それも、右腕のみしかない。左腕はなく、右手のみを装着した峰木だったが、余裕の笑みを浮かべていた。
「そんな、ガントレットで倒すつもりですか?」
「ん? あぁ、まあ——」
「ギィイイイッ!」
「……って、うるせぇな。これはこの世界のことを現実と認めてもらうための講座だ。パッと片付けてやろう」
背中にガントレットをつけた右手を、まるで剣を抜き出すかのようにして掲げた。すると、何も無い空間からバチバチと電撃の如く音が鳴り、青色に光を見せるその雷の空間から姿を現したのは、峰木の背丈をも越すほどの大きな大剣だった。それはまるで、アニメなどの世界で見るような、信じられない光景だった。
『攻撃モードに移行』
無機質な声が響いた。どうやら、あのガントレットから言っているようだ。どういう仕組みなのかも分からないし、そもそも今見ている出来事が非現実的すぎて何も言葉が出ない。本荘はただ、目の前の光景を見守ることしか出来なかった。
「ギィイイイッ!」
再び鳴いたスコーピオン型のバケモノは、大きく体を揺らして峰木と本荘の元へと突入してくる体制に入っていた。
「このガントレットが唯一のちゃんとしたプレイヤーの武器だ。この武器でプレイヤーは——この世界を救うんだ」
「世界を……救う?」
峰木の言葉を繰り返すかのように、本荘は言葉を漏らしていた。
そして次の瞬間、大きな地鳴りと共にスコーピオン型のバケモノが突入してきた。バキバキ、と音を鳴らしながら崩れていく道場と一緒になってこちらに向かってくるその得体の知れないバケモノは恐怖の対象としてはすぐに体が反応した。本荘は竹刀を持って、バケモノと対峙する。
「とりあえず——こいつは即座にぶっ倒そう」
峰木の言葉は、その一瞬だけだった。凄い速さで峰木は目の前の巨体へと突っ込むと、まず両側のハサミを切り落とす。緑色の液体が一気に飛び出していく様を見つつ、次に胴体を一刀両断に切り裂き、そして最後に頭上からその大剣を振り下ろしたのだった。
不気味な音を鳴らしながら、そこで捌かれていく異形のバケモノを見て、戦慄のようなものが本荘の中で駆け巡った。あまりの出来事に言葉さえも失う。
緑の液体だらけとなった地面は、ゆっくりと何事も無いように消化されていく。それと同時に、不思議なことに道場の状態も自然と直っていった。
「破壊した張本人のイレギュラーを倒すと、破壊された部分は直る。まあ、人は治らんがな」
峰木はそんなことを淡々と呟くと、いつの間にかガントレットを外し、本荘の元へと近づいていた。咄嗟に竹刀を峰木の方へと仕向けるが、峰木が近づくごとに竹刀を下ろしていった。
言えば、この世界のことは全部当たっているということになる。目の前であれだけの惨劇を見せ付けられれば、混乱はするが納得しか出来ない。納得出来ない材料はどこにあるのか。
「改めて、ようこそ——境界へ」
峰木が差し出した右手を、本荘は触れることなど出来るはずもなかった。
- Re: 或る日の境界 ( No.11 )
- 日時: 2012/03/28 17:40
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: GHOy3kw9)
わけの分からない眠りから覚めて、気付いたら朝で、隣には何故か銀髪少女が寝ていて、そこは境界と呼ばれる現実であって現実でない異世界で、イレギュラーと呼ばれる異形のバケモノが襲いかかってきて、俺はそれを——銃で撃ち殺した。
「つまり、どういうことだ」
そんな疑問の言葉は、出るべきして出た発言だろうと思う。銃を放った所まではまだいい。俺はどうして、そんなことをしているのか。目の前に危険が迫ったから? 確かにそうだった。俺は殺されると思った。だがしかし——納得がいくはずもなかった。
「つまり、貴方のいた世界は完全に孤立、別の言い方をすればログアウトしてしまった。別の世界が貴方の元々いた世界を上書きしてしまったから」
「……アニメの話をしてんのかよ」
「違う。現実の話。今この世界は、貴方の元いた世界ではない。境界という——」
「それはもう聞いた! 違う! そんなことを言ってるんじゃねぇ! 何でこうなったかだ!」
「それは——貴方自身で見つけるしかない」
ただ冷静に少女は俺へと返答をした。その言葉を聞いて、俺はただ言葉を飲み込むことしか出来なかった。
今現実として、この世界のことを断固として認めたくない——この思いとは裏腹に、既に心のどこかでは認めざるを得ないと断念してしまっている自分がいた。
現実として、引き金を引いた俺がいて、怪物がいた。でも、場所は俺の部屋で、ここは俺のいた世界じゃないのか。
「境界は、異世界と異世界を繋ぐ境界線を繋ぎ合わせた世界。違う世界は世界でも、貴方のいた世界をオリジナルとして上書きしている」
「……もっと簡単にいえないのか」
「……ゲームソフトとゲームソフトの世界観が混合しないように、ゲーム機がある。そのゲーム機がこの世界。違うゲーム機はゲーム機でも、このゲーム機の前世代のゲーム機からさらに改良化したものだから、メーカーは同じ」
……何となく分かったような気がしないでもない。けど、どちらにしても難しい。とりあえず、この世界は元にいた世界とは同じのようで、全然スペックが違うってことなんだろう。それをあわせて、他の異世界と異世界を繋いでいる……ということか。
「……なんでこんなことに……。俺はただ、ゲームして、寝ただけだぞ? 何もしちゃいない」
「それは世界にいた人間全員同じこと。けれど、何かがきっかけでプレイヤーになった者や、選ばれてプレイヤーになった者もいる。しかし、全員がそうなったわけではなく、勿論プレイヤーではない人間が大半この世界には存在している」
「……じゃあ、元にいた世界と、この世界の住民はほとんど同じ人間が住んでいるっていうことか?」
「そう。だから元にいた世界と同じのようで、全くの別物」
ということは、本荘や西城なんかもいるってことか……。全くの異世界ってわけじゃないわけだな。
「あぁ、でも住民が同じなら、記憶はどうなる?」
「記憶は改変されているが、人間関係はそのまま。しかし、根本的に世界が普通ではなくなっていることは確か」
「どういう意味だ?」
「……あと2分経てば分かる」
あと2分という言葉を聞いて、俺は咄嗟に時計を見た。
時計は6:58を指している。つまり、7:00丁度になれば分かるということか。
日差しがカーテンから見え隠れする。しかし、いつもの朝の具合に清清しい明かりではなかった。どことなく、どんよりとしたような雰囲気を保っている明かり。それがカーテンから射しているのに気付いた。
ゆっくりと、俺は立ち上がると、先ほどのバケモノ、イレギュラーが倒れていたはずの場所へと行く。そこには、いつの間にか何もなくなっていた。
カーテンを掴むと、ゆっくりと横へとスライドさせた。そんな俺の行動を、後方からただ無表情で見ている視線は少女のものだとも分かっていた。
「何だ、これ……」
見た光景は、有り得ないものだった。
太陽と同じ形をした黒色の円形が重なっていっていた。ゆっくりと、しかしそれはまるで何かに合わせているかのように。
皆既現象はとどまらず、次第に太陽を埋め尽くしていく。黒く、黒く、日の光はだんだんと失せていく。
この世界で、同じような光景を目にしている者はいるのだろうか。いて欲しかった。そして、この世界を全力で否定したかった。そんな思いがこみ上げていたその時——
ジリリリリリリ!!
——午前7:00を記した、目覚まし時計が鳴り響いた。
——————————
小さい産声が聞こえる。
その産声は、一つだけ。一つだけの産声だった。
生まれたばかりの赤ん坊は、誰に知られることも無く、誰に誕生を祝られることも無く、無常にも一つだけの産声をあげていた。
おぎゃあ、おぎゃあ。
産声がまた一つ。
赤ん坊の行く末を知らぬまま、そんな世界は堕ちていった。
- Re: 或る日の境界 ( No.12 )
- 日時: 2012/04/06 13:55
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: GHOy3kw9)
「……ここは?」
先ほどまで、凄い勢いで鳴り響いていた目覚まし時計は音を止め、無音になっていた。ゆっくりと体を起こす。
まるで、夢を見ていたようだ。何をしていたんだろう、とふと考えてみながら——気付いた。
「ここは、どこだ……?」
この場所は、俺の部屋ではなかった。全く違う部屋。一人で暮らすには十分な一部屋だが、確かに俺の部屋ではない。シャワーなんかも見たところないし、台所も無い。白を基調とされたこの殺風景な部屋は見覚えがなかった。
そうして、一人で動揺していたその時、突然扉が開いた。
「起きろぉっ! バカ野郎、この野郎っ!」
「……誰?」
ドアの前に立っていたのは、凄い笑顔で、頭に二つ長い赤色のリボンで結ばれている長いツインテールな女の子が俺の学校の制服を着て仁王立ちしていた。その表情、天真爛漫と表したら一番似合うのだろうか。ともかく、その少女の風格はとてもじゃないが朝に行うテンションではないと思う。
その少女はドアを突然開けておいて、そして自信たっぷりに口を開いた。
「ほらほらっ! 朝だぞぅっ! "新入生"ッ!」
「え? あ? 新入生?」
「そうだよ? そうに決まっているじゃないか! バカ野郎、この野郎っ!」
……とか言いながら腕をぐるぐると回しているこの女の子は、何を言っているんだ?
俺の学年は二年のはずで、新入生じゃない。誰かと勘違いしているのか?
「なぁ、俺は二年だぞ? 新入生じゃな——」
「なぁにを言ってるんだぁっ! バカ野郎、この野郎っ!」
少女は無礼にも勝手にあがりこんで俺の元まで来ると、しっかりと腕を掴んできた。こいつ、見た目の割になかなかの握力をしている、というか痛い痛いっ!
「何すんだよっ!」
「何するもこうするも……え? どうするの?」
「知るかっ! 一人で混乱されてもこっちも困るわっ!」
「とりあえず、朝なんだってば! もう早く行かないと、集会に遅れるっちゃ!」
「だから、お前は誰で、何でこんな——って、うわっ!」
俺の腕を引っ張り、無理矢理立たせるようにして少女は腕を引き寄せた。その瞬間、先ほどまで対して匂わなかったが、少女のほのかに甘い匂いが俺の鼻腔に届いた。少しドキリとして、一歩下がるが、少女はそのまま俺を立たせたと思いきや、部屋の外へと引っ張っていく。
「だぁ、やめろって! 待て待て! お前のなんだ、その集会とやらはこんな姿で行ってもいいのかっ!?」
「こんな姿って——行ったらダメに決まってるじゃんじゃん! バカ野郎、この野郎!」
現在の俺の格好は、まあ……言ったら寝巻きっちゃ寝巻きなんだが、パンツ一丁、白Tシャツといういかにもおっさんですよ、と言いたいぐらいの格好だった。
「だったら手を離せっ。それと、着替えるから少し待ってろ!」
「あぁ、分かったでございますです! は、早くお着替えプリーズっ!」
ようやくドアを閉められ、外へと少女は出て行った。見た目は童顔で、凄く可愛い感じなのに、あそこまでうるさいとどうにも……。
ため息を一つ吐いて、俺は着替えを探した——っと、探すまでもなかったな。俺の寝ていたベッドの上にハンガーで律儀にかけられてあった。
それをとって、ハンガーを取り外していると、ガチャッとドアの開く音が聞こえ——
「あ、急いでね!」
「だから、ドアを勝手に開けるなっての!」
「わわわっ! ごめんなすって!」
ガチャン。また静まり返る。あいつは一体何者なんだ……。記憶にない奴だ。なのに、向こうはまるで俺のことを知っているような……ガチャ、
「あの、そういえば——」
「開くなああああっ!!」
——————————
「ったく……開けるなって言ってんのに、何で何回も開けるんだよ」
あの後、2,3回も再びドアを開けられた。まだかー! とか言いながら。
着替えを終えた俺は、ようやく現在少女とちゃんと向かい合っているという状態だった。
「えぇっと……とりあえず、名前を——」
「はいっ! 早く集会行きましょうぜ!」
「え——いや、ちょっ、待てぇぇっ!」
腕を再びがっしりと掴まれて、そのまま引きずられて行こうとするのを何とか静止させようとしたが、少女は「急がないとー!」と言うばかりで、名前を教えてくれるとは思えない状況だった。
「ちょっと待てって! 一体何が何だか……!」
「ふぬふぬ、えっとねー! 木下 刹那(きのした せつな)でございますです! バカ野郎、この野郎は、樋里 由一、だよね?」
「その語尾のバカ野郎、この野郎っていうのは俺のことだったのかこの野郎……って、何で俺の名前を知ってんだ?」
この少女、刹那がとてつもなく焦らせるもので、走りながら話すことになった。
廊下の角を曲がり曲がりしている内に気付く。ここは学校だった。俺は学校の寮で寝ていたのだ。何でそんな所で寝ていたのか。俺はぼんやりと昨日のことのように、何かを思い出そうとしていた。
「ふふふん、秘密だね!」
と言って、俺へとウィンクしてきた。普通に可愛い外見なので、少しぐっと来るものがあったが、それを堪えて俺達はそのまま体育館の方へと走っていった。集会とやらは体育館であるらしい。
何が何だか、今の所分からないことだらけだが、この集会で何か分かるといいんだけど……。
そうしていると、俺達は体育館へと着いた。入り口は二階にあるので、そこまで駆け上がっていく。巨大なスライド式の扉は既に開かれていた。既に大勢の生徒が集まっている。がやがやとした雰囲気の中、列などを揃えたり、クラスごとに並んだりということはせずに、キーンというマイクから聞こえる耳に響き渡っていく音が鳴り響いた。
「あー……マイクテス、マイクテース」
教壇には、既に一人の女教師らしき人物が立っていた。キリッとした表情なようで、どこか抜けていそうな雰囲気を保っているその不思議な女性はマイクを掴むと、突然こう言い放った。
「新入生の諸君……いや、"神"との戦いを始めるプレイヤー諸君。——ようこそ、境界へ」
俺にはまだ、一体何がどうなっているのか、全く理解が出来ていなかった。
- Re: 或る日の境界 ( No.13 )
- 日時: 2012/04/08 22:15
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: GHOy3kw9)
教壇に立っている女教師の声が体育館内に響き渡ると、一斉にがやがやとしていた体育館は静まり返った。
その様子を伺いつつ、女教師はゆっくりと、自信に満ちたような笑みを浮かべながらマイクへと口元を近づけて話した。
「お前らが前にいた世界はどうだかは知らん。この世界は前にいた世界の記憶など、どうでもいいことだ。お前らが知っている現実と、この世界は全く持って違う。今から言うことをよく聞け。お前らはこの世界でこの学校に住み、神と戦うことになった。それだけはハッキリしている」
女教師は、その感じと雰囲気からは想像できないような口調で喋っていく姿に、俺は見惚れていた。見惚れながらも、その口から放たれてくる言葉のそれぞれが俺の耳にはしっかりと入っていた。どこか耳に響くハッキリした口調がそうさせているかのようだった。
「神というのは、この世界そのもののことだ。ここは何度も言うが、お前らの知っている世界じゃない。イレギュラーと呼ばれるバケモノが徘徊している箱の中だと思え」
イレギュラー……その言葉で思い出した。
そうだ、俺は確か……自分の部屋にいて、そして……銀髪の少女がいた。バケモノも——いた。
「そ、そんなの……!」
「いきなりすぎるだろ……」
「元の世界に戻りたいよぉ……」
「何でそんなことしなくちゃいけねーんだよ!」
様々な声が色んな所から出始めていた。教壇に立っている女教師は、静かにそれを数秒見つめ、そして——
「戦わない奴は失せろ! そして、バケモノの餌にでもなっておけ! それが嫌なら戦え。それしか道はない。お前らが嫌でも、世界がお前らをプレイヤーと決めたんだ。このイカれた、クソッタレた世界の中で生きるには戦い抜くしかないんだよ。理解できねぇなら一旦自分の目で外へと見て来い! バケモノに会えるだろうよ。まあ、今のお前らじゃ一瞬で食われて終いだろうがな」
一気に静まり返る体育館の中、女教師の突然の怒号に、もう反抗する声が挙がるような雰囲気は無かった。
「この中には、既にバケモノを目にした者もいるだろう。奴等に立ち向かう術は——ないわけじゃない」
女教師は突然教壇の下側から何かを取り出し、それを手にとって掲げ、見せてきた。
それは、手の形をした鉄の塊——手に装備する防具、ガントレットだった。
「これの名前はサクリファイス。このガントレットはただのガントレットじゃない。武器を生み出すことが出来、個々の特殊能力を持つことが出来る。使い方は、手に装備するのみだ。それだけで扱うことが出来る——が、このサクリファイスという名の通り、この装備には生贄が必要だ」
女教師はガントレットを教壇へと置き、真剣な表情で再び口を開いた。
「生贄となるのは、お前ら自身だ。つまり、力を使いすぎると、お前ら自身が滅びる。影響が出るのは個人によってバラバラなわけだが……視力や、足の麻痺、一番タチが悪いのは心臓の部分。力は使い方によっては悪影響にしかならない。そのことをよく覚えておけ——以上で集会を終わる。細かい説明はそれぞれの制服のポケットの中に紙が入っているはずだ。その紙には自分の名前と、クラス名が書かれている。そこへ向かえ。……解散」
女教師の解散という言葉と同時に、一斉に体育館にいた奴等は移動を始めようと動き出した。
この世界は、本当に自分の知っている世界ではない。そのことを実感したのだろうか。皆、どうやってこの世界にきたのか……。
色んなことがごちゃ混ぜに俺の頭の中を駆け巡るが、どれもわけが分からない。俺は体育館の中で立ち止まって考えていた。
「行かないの? 樋里っち」
「……いや、俺は——」
刹那が話しかけてきたのに対して、躊躇いながらも断ろうとしたその矢先、突然キーン、とマイクの音が聞こえた。
「あぁ、言い忘れてた。芹澤 陽助(せりざわ ようすけ)、加藤 巳緒(かとう みほ)、七瀬 望(ななせ のぞみ)、樋里 由一、木下 刹那。お前ら5人は俺の担当だから、着いて来い」
先ほどの女教師が、俺と刹那の名前を含み、話した。気付けば、大人数の奴等が既に体育館からいなくなっていた。40〜80人ぐらいの中から、呼ばれた俺達は、戸惑いながらも女教師の元へと歩いて行った。回りの奴等は皆静かに俺達を見つめていた。中には怯え、泣いている者もいたし、移動するのが面倒臭いという理由で移動しない奴もいた。
その中、俺と刹那を含めた5人が女教師の元へと行く。間近で見ると、女教師の美貌はそこらとでは比べ物にならないぐらいのものがあった。人を魅了させるような何かが。
「よし、着いて来い」
自信に満ちた声で女教師は言うと、歩き始めた。その後ろを戸惑いながらも俺達は着いていく。
俺の前を歩くどことなく気弱そうな男が芹澤 陽助か。その他、二人は女子だがどっちがどっちなのか検討がつかない。一方はムスッとした感じの雰囲気を出す強気そうな女子で、もう一方は何を考えているか分からない不思議な雰囲気を出している子だった。
刹那は俺の隣を歩いているが、その表情は何だかどことなく嬉しそうな感じで、妙に気持ち悪い。
「何でお前はそんなに嬉しそうなんだ」
「ん? ふふん、そんなお顔してました?」
「……いいな、お前は」
よくこんな時にそんな表情をしていられる。俺はわけが分からない。勿論、刹那を除いた他の三人もそうだろう。突然目が覚めたと思いきや、寮の個室で寝ていて、体育館へと行ったらこの世界は現実世界とは別の世界、だとか言われるのだから。混乱するのは無理もない。それに、俺達に"神"とやらと戦え、というのだ。何故そんなことをしなくちゃいけないのか……説明されたとはいえ、理解できないのが普通だろう。
女教師は、次々と階段を登り、校舎の上へ上へと上がって行く。その中で何人もの生徒と出会ったが、皆表情が強張っていた。
「着いたぞ」
間もなくして、俺達は一つの部屋へと辿り着いた。先ほど廊下を歩いていて思っていたのだが、この学校は俺の元いた学校と似ているようで全然似ていなかった。その部屋は、ただの教室ではなく、大学の講義室のような広さがあり、敷地もとてつもない大きさを誇っていた。他の教室等も同じような大きさのようだった。
「今日から此処がお前達のクラスだ」
教室の中に入ると、既に人が何人か中にいた。男女問わず、同じ制服をきた様々な人達がいる中、俺は——たった一人に目を奪われていた。
「本荘……!?」
教室の一角、そこには確かに本荘の姿があった。
第2話:或る日の現実(完)