複雑・ファジー小説
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- 或る日の境界 第2話完結。
- 日時: 2012/04/08 22:19
- 名前: とある犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: GHOy3kw9)
ただいま、スランプ脱出する為に頑張って書こうと気張ってます。
正式なハンネは遮犬と申します。
※所々、微妙なグロが入ったりしますので、ご注意ください。大抵は大丈夫だとは思います。描写下手なので。
【目次】
プロローグ……>>1
第1話:或る日の日常
【#1>>2 #2>>5 #3>>6 #4>>7 #5>>8】
第2話:或る日の現実
【#1>>9 #2>>10 #3>>11 #4>>12 #5>>13】
第3話:或る日の錯覚
【
- Re: 或る日の境界 ( No.4 )
- 日時: 2012/03/17 17:53
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: /HF7gcA2)
>>ホットアリスさん
コメントありがとうございますー。
初めまして、とある犬こと遮犬と申します。
スランプ中なので、やはり幼稚な文章しか表せなく、本当に申し訳ないです;
一生懸命頑張りますので、応援という言葉がもう有難すぎて言葉が出ませんっ。
ありがとうございます、これからもよろしくお願いいたします;
改めて、コメントありがとうございましたっ。
- Re: 或る日の境界 ( No.5 )
- 日時: 2012/03/17 19:25
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: /HF7gcA2)
遅刻はするが、一応朝の練習はかかさず毎日行っている。いい運動にもなるし、元々剣道はしていたから特に苦という部分もなかった為だ。
仕方なく本荘の相手をさせられていた西城も俺と同じように素振りを始め、ものの数分で西城はバテてその場に座り込んでしまっていた。
その後、本荘が来るのを察知したかのように西城は本荘の来る数秒前に立ち上がって再びその大きな体についてある脂肪を揺らしながら息を紡いでいた。
そんな朝の練習が終わり、俺と西城は同じクラスなので一緒に向かう。本荘は別のクラスの為、一人で行くことになるのだが、俺や西城と違って本荘が仕度を済ませる速度は尋常じゃないぐらい速いものだった。いつの間にか目の前からいなくなっているほどに。
俺もある程度仕度は慣れているので早くに済ませるのだが、やはり部で一番遅いのは西城だった。
「ひぃ、ひぃ……待てってば、樋里ぉ〜!」
「早くしないと、朝飯食いそびれるだろ?」
「後少し! 後少しだから!」
西城は慌てたように防具を片付けるのに必死になっているのを横目に、俺は食堂の方へと見た。
この学校は寮があり、スポーツをやっている者やスポーツ推薦などで入学してきたものが4割程度。他6割はその他家庭事情等で寮に住まうもの達だ。寮が広いのと、ルームシェア等が出来たりするし、出費もそんなにかからない為、寮に住む者が多いのでほとんど全寮制っぽくはなっているが、やはり家から通う者も俺のようにいるわけで、全寮制とまでには至っていない。
といっても、朝ご飯は寮に住む者にとっては食堂で食べるのが一番手っ取り早いので、この朝の練習が終わる頃には皆食べに来ている。まあ、それに備えて食堂の大きさもそれ相応に大きく、広いわけなのだが。
だがしかし、朝の人気メニュー等もあったりして、それらは勿論の如く売り切れということは十分ある為、急がなくては十分に吟味した朝飯がありつけないというわけだ。
「……よしっ、出来た!」
西城の声が道場内に響いたものを聞くと、俺は西城へと再び目を向けた——が、そこには既に西城の姿は無く、人がせっかく待っていたというのにそれすらも目に入らないという様子で食堂に向けてその巨漢の体を揺さぶりながら走っている姿が透明のドア越しに見えた。
毎度のように、西城は飯のことになるとああなる。というより、飯のことしか考えなくなり、こういう行動に走ってしまうのだ。
「何というか……相変わらず、西城だよな」
一人で小さく呟くと、俺も続いて食堂へと向かった。
——————————
——それは"この世界"ではない、ある世界だった。
"この世界"では有り得ないものを生み出す、それがある世界の特徴だった。ただ、その世界は壊れかけていた。多くのその世界は、集まっては砕け、集まっては砕かれていたのだ。
それは、人ではない。人ではない、何かの"意思"によるものだった。
「聞こえるかい?」
小さく呟かれた少年の言葉。その少年の言葉は誰に話しかけているのかも分からない。何も無い世界に、ただ一人の少年が誰かに話しかけているような形だった。
「誰もいないのかい?」
少年は確かめてから、なお確かめる。それは誰かがいるという確信の表れなのかもしれない。
人ではない、意思の塊。それが少年だったからだ。
「居場所を、見つけたんだ」
独りと分かっても、まだ話しかける形で少年は喋った。いや、声が少年だということだけで、実際に少年かも分からない。それは単なる、意思なのだから。
「僕もきっと、友達が作れると思うんだ」
たった一人の意思は、何を求めるのか。ただ単純に友達と言い表すだけでは計りきれない。それはこの少年の声は、とある意思なのだから。
「僕は——」
声は、それから届くことはなかった。
少年の声、いわゆるとある世界の意思は——"この世界"に"境界"を作り出したのだった。
——————————
食堂の方はもう人が見渡す限りには集まっていた。既に食事を始め、友達やらと会話を楽しむ生徒達も少なくない。カウンター越しに、料理を作っているおばちゃんに目掛けて注文をごった返す生徒達も大勢いた。
少なくとも、俺がこの食堂に着いた時にはそれだけの数がいたが、いつもに比べると結構少ない。寮生活を勤しむものが多い学校であるからして、総生徒数もまちまちに少ないとも、多いともいえない人数ではあるのだが、食堂はその生徒達を全員入らせられるほどの大きさを確保してあるので、見渡す限りに生徒がいるのはまあ、普通の現象といえるのだ。
「さて……俺も飯を確保するかな」
そう言いつつも、カウンターの方へと目を移した。
まだ食事にありつけていない生徒達が今かまだかと地団駄を踏むような姿が確認出来る。カウンターは一つだけではなく、他にもあるわけだが、限定メニューや人気メニュー等はどのカウンターで注文することが出来るのか限られている。
言ってしまえば、今そういうものを注文しようとしている生徒達で行列が作られているというわけだった。
(まあ、俺は普通メニューでいいからなぁ……)
そんなことを思いながら、今日の人気メニュー、限定メニューに目を向けてみると、
【限定メニュー!:黄金色丼 人気メニュー!:ボリュームカツ丼デラックス】
と、二つのメニューが大きくカウンターに張り出されていた。この二つのメニューどちらも丼で重たいのに、よく朝からそんなものを食べる為に並ぶなぁ、と俺は少し感心の目で行列に並ぶ連中を見つめた。よくよく思えば、その行列を作っている連中はどれもラグビーやら野球やらサッカーやらバスケやら柔道やらのスポーツ系統の部活ばかりで、さらに全員男だということに気がついた。
(まあ、メニューがメニューだしな……)
そう思い浮かべながら、俺は普通メニューを頼むべくして行列の作られていないカウンターへと向かった。こっちの普通メニューの方にもカツ丼はあるのに、人気メニューとどう違うんだろうかとは思う。
カウンターには、おばちゃんが料理を忙しく作っている姿が見えた。なんとも話しかけ辛い……が、勇気を呼び起こして声を張り上げようとした。
「すみませ——」
「すみませーんッ! 杏仁豆腐餡蜜たっぷり掛け2つ、抹茶プリン3つと、チョコパフェアーモンド風味2つ!」
俺の隣からより大きな声で、さらに有り得ないメニューが次々に放たれた。
食堂のおばちゃんは、忙しくしている素振りから一転、そのメニューを聞いたや否や「あいよっ!」と声高らかに言うと、先ほど言ったメニューを次々に調理場のおばちゃん達に伝達した。
その有り得ないメニューを頼み、悠然とその場で笑みを零して食堂を見つめるのは、肩までの髪の長さに整え、薄い栗色の髪をヘアピンで幾度か留めているこの無邪気な少女がその正体だった。
「ふふん、朝はやっぱりこのメニューでなくっちゃねー」
人の順番を横取りした上に、その悠然な態度をとるこいつの正体は嫌でも分かる。同じクラスの——
「海藤 柚子(かいどう ゆず)……!」
「うん? ……あ、樋里君、おっはー」
俺を見ると、爽快な笑顔と共に、右手をあげてその手のひらを見せた。何とも憎めないキャラ、それが海藤 柚子だった。
クラスでも人気者で、クラス副委員長を務めている。あまりに元気がいっぱいすぎて、周りがついていけない時もあるが……その童顔な顔つきとは違って、穏やかそうな感じには見えるが実際はものすごい活発少女だということが印象的な奴だ。
「おっはー、じゃなくてだな……人の順番を抜かすなって前から言って——」
「はい、杏仁豆腐餡蜜たっぷり掛け2つ、抹茶プリン3つと、チョコパフェアーモンド風味2つね!」
……俺の言い分はおばちゃんの大きな声によって消えた上、その目の前にあるお盆の上には見るだけで倦むほどの甘ったるいメニューが出揃っていた。
「うわーい! ありがと、お姉さん!」
「あらやだ! 柚子ちゃんじゃないの〜! 杏仁豆腐、まだいる?」
「え、いいの!?」
「えぇ、いいのよぉ〜。ほら、皆には内緒よ?」
皆には内緒といいつつも、おばさん。思いっきり皆が食ってる前で堂々と渡さないでくれ……それに、俺が思い切り目の前で見ているじゃないか。
「えへへ、ラッキー」
また一つ、甘ったるさがレベルアップしたお盆に出揃ったメニューを従えて、海藤は優々と席へと着きに行くのだった。
「全く……あ、俺は定番Bメニューで」
「ごめんねぇ〜、そのメニュー今ちょっと無いのよー」
「……なら定番Aメニューで」
俺だけ何か上手くいかない感じがして、妙に残念な気分の朝食だった。
- Re: 或る日の境界 ( No.6 )
- 日時: 2012/03/18 16:01
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: /HF7gcA2)
飯は西城と毎度のように食うのだが、俺が定番Aセットを持って席に着く頃には、既に西城は食事に勤しんでいた。
西城の目の前には、普通の丼よりも遥かに大きな丼があり、その他にサラダが山盛りになった皿なども置かれていた。その丼の中には、まだかろうじて残されたカツがあった。これが人気メニューのボリュームカツ丼デラックスだろうか。
「これ、ボリュームカツ丼デラックス?」
西城の目の前の席に座りながら、俺は西城へと聞いてみた。西城は忙しなくサラダをがっついていたが、その箸と口を止めて、俺の方をチラリと見てから、
「いんや、黄金色丼だよ」
「……黄金色丼にも、カツ入ってたのか?」
「入ってたよ」
「……そうか」
何も言葉が返せなくなってしまった。何で黄金色丼にもカツがあるのか。いっそのこと、俺も頼んでみようかとも思ったが、さすがに朝っぱらからこの定番Aセットと黄金色丼のダブルを食おうという気にはならない。確実に胃もたれするであろうメニューだからだ。
それから俺と西城は飯を食い終わると、いそいそと食堂を出る。その出る直前ぐらいに残りチョコパフェアーモンド風味のみとなったメニューを西城の勢いが如くがっついている海藤の姿を見たが、いつも通りのことなので、特に気にした様子も無く俺達は出て行った。
「あぁ、食ったなぁー」
「お前、胃もたれとかしないのか?」
大きく半円を描いたような西城の腹を見て、俺はそう聞いてみた。大柄な西城は見た目だけでなく、力もそこそこ強い。ただし、飯の時には。だけど本荘には剣道で負ける。西城いわく、本荘の竹刀が見えないそうだ。あいつの素振りとか勿論見たことがあるけれど、確かに速い。だけどそこまで言えるほどのレベルなのだろうか、とも思う。何せ、幼少時代にあいつが剣道とかしていた、ということを俺は全く知らなかったから、どうにも幼馴染とはいえない情報量だと俺自身もどうかと思っている。
「腹いっぱいになったら、眠くなるよなー」
何だか熊みたいなことを呟き始める西城を尻目に、俺は階段を登った。俺達の教室は3階にあり、食堂から遠くも近くも無い距離にある。
ようやく辿り着いたかと思うと、もう既にその階の廊下には生徒らが騒々しく会話を楽しんでいる様子が伺えた。俺達もその廊下を通るわけだが、何となしにその様子がどこかいつもとは違うことが分かった。
人だかりが、一点に集まっているように見えたからだ。その人だかりの指す方向には、掲示板があった。
「何だ? あれ」
「さぁ……」
西城が呟いたのを聞き流すかのように適当に返事を返すと、俺はそのまま無視して教室へと入ることにした。
「樋里っ、お前気にならないのかよ?」
「この人混みを掻き分けてまで見ようとは思わないな」
西城を後にして、俺は速やかに自分の教室へと入った。あぁ、掲示板の設置場所が俺の教室の奥の方でよかったと、内心安堵しながら。
それから間もなくしてSHRが始まる。いつもの朝だった。一応副委員長な海藤がその日は突然、教卓の方へと向かい、隣にいる委員長の羽賀 善郎(はが よしろう)が突如口を開いた。
「今日から文化祭のことについて決めていきたいと思います。何かやりたいことがある人は挙手をお願いします」
どうにも堅苦しい雰囲気で、それとなく近寄り難いというか、難しそうな感じを放つのがこの羽賀 善郎だった。
何となく馴染めないのが理由に、俺はこの羽賀とはあまり話したことが無い。いや、ただ単純に話したくなかった。
クラスメイト達は羽賀の言葉を聞いて、ガヤガヤと何か話し始める。そんなクラスメイトや羽賀を他所に、海藤はチョークをガガガガッと音を小刻みに鳴らしながら黒板に【文化祭、催し!】と書き殴っていた。
「誰か、いませんか?」
羽賀の二度目の問いかけに対して、クラスメイト達は特に何も意見は無い、ということを示すかのように挙手をしなかった。
そんなクラスメイト達の表情や様子を見て、羽賀は冷静に、無表情に言い放った。
「それでは、今日は何も無しで構いません。明日再び聞くので、各自考えてきておいてください」
キッパリと言い切った後、羽賀は自分の席へと戻って行った。残った海藤は更に凄みを利かせた【文化祭、催し!!】の文字を見つめて満足そうだった。——まあ、実際変わったのは文字の大きさとビックリマークが一つ増えただけなのだが。
(そういえば、もう文化祭か……)
窓の外は、梅雨が近づいてきたことを伝えるかのような湿っぽい風が流れてきていた。
それからの授業はすんなりと終えて行き、昼飯も食堂でいつものように西城と食べ、一日を毎日のように普通に過ごした。普通すぎる、といっては何だが、俺にとってこの毎日はとても退屈なものに見えた。
俺の席は窓側の一番後ろの席なので、このクラスが一面見渡せる。クラスメイトの表情や様子は、どれも違ってはいるがどうにも退屈そうだった。
(アニメとか、ゲームとかの世界なんかとは全然違うよな)
わけの分からない単語を並べているような英語教師を余所目に、胡坐をかきながらそんなことを思った。
実際そんな世界があったとしても、この世界はこの世界だし。それに、そんな非現実的なことがあるわけもないし。非現実的って言葉は、現実が今この世界だと認識しているからあるようなもので、じゃあ非現実的でないような出来事って一体何だろうか。
(……何を言ってんだ、俺は)
すっかりと、俺はコンセレクト・ヴィコーズに毒されてるな、と思った。
そんな、非現実的なことが現実になるなんてことは。
——あるはずがなかったからだ。
- Re: 或る日の境界 ( No.7 )
- 日時: 2012/03/18 17:11
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: /HF7gcA2)
学校から帰る時には、もう既にコンセレクト・ヴィコーズのことが頭に浮かんでいた。早く帰ってプレイしたい。そんな思いが俺の頭の中でいっぱいだった。
「おいっ、樋里、今日も剣道いかねぇの?」
後ろから西城にそういわれても、俺は特に理由を述べるわけでもなく、
「あぁ、まあな」
と、コンセレクト・ヴィコーズが頭の中でいっぱいのせいでニンマリとした笑顔で返していたのだった。
それから、現在。俺は勿論のように家に帰ると、喉の渇きを潤す為に冷蔵庫の中からお茶を取り出し、一気に飲む。ゴクゴク、と喉を何度も唸らせ、最後にはぷはぁーと息を大きく吐き出した。
ふぅ、とため息ではない、それはこれから起こる楽しみを予感しての吐息だった。早速俺はいつものようにパソコンを起動し、コンセレクト・ヴィコーズを起動することにする。
ちなみに、パソコンは親からのお下がりで貰ったものだ。ノートパソコンではあるが、仕事用だったのかゲームとかする用だったのかはいまいいち分からないが、どちらにせよかなりの高スペックだった。だから今こうしてコンセレクト・ヴィコーズが出来るわけだが。
コンセレクト・ヴィコーズのパッチ等が起動する時間は少々かかる。それまで、椅子の上でまたいつものようにヘッドギアのようなものを被り、息をゆっくり、大きく吐いた。
コンセレクト・ヴィコーズが家にあるということは誰にも言っていない。勿論、西城にもだ。もし言ったならば、それのせいで剣道を休んでいると必ず責め立てられるし(多分、本荘から)西城辺りは必ずやらせて欲しいと言って遊びに来たがるだろう。そういうのは勘弁だからな。
『パッチ、起動完了』
その文字が画面上に現れた時ほど胸が躍る瞬間は無い。弾む心臓の音がやけに大きく聞こえた。
「よし……行くかっ」
俺はスタート、と書かれた文字をクリックした。
一瞬にして目の前が真っ暗に変わっていく。元から黒いサングラスのようなもので目は覆われているようにヘッドギア状、なっているのだがそれがまるで何も見えなくなる。目の前には闇ばかりが見えるだけで、かなり不安にもなる。最初、これをやった時は結構ビビった。
そして瞬時にまた白い霧のようなもので包まれて行く。着いた場所は——いつものように、戦場を選ぶ為のいわゆる街のような場所だった。ここでは大勢の人が集まったりしていて、結構賑わいを見せている……はずなのだが、どうにも今日は人気が少ない気がした。こんなことは初めてだ、もしかするとこの時間にログインする人が少ないのかもしれない。何せ、まだ今は5:30ちょっとだろう。学生しか帰宅してないからかもしれない。
「……まあいっか。とりあえず、戦場を選びに行こう」
街の真ん中には、戦場を選び、移転することが出来るワープゲートがある。ワープした瞬間、俺は戦場を体感することになるわけだ。
早速俺はワープゲートの傍へと寄り、様々なゲームモードの中からチームデスマッチを選択した。これはチーム同士で戦うモードなのだが、デスマッチなので、死んでもまた生き返ることが出来るシステムだ。しかし、ポイント制で、相手を倒すと100ポイント。これを5000ポイントまで先に稼いだ方の勝ちだ。ちなみにタイムリミットもあって、それはゲーム設定によって様々なのだが、5分や10分、15分や30分なんてのもある。ポイントを全て獲得するまで帰れない、なんて無限式もあるぐらいだ。
とにかく、俺はいつものように5分制を選んだ。5分といっても、結構長い時間だ。やってみればやってみるほど長く感じるのがこのゲームの特徴だともう分かっていた。
行きたい戦場を選択すると、俺はそのボタンに触れた。プンッ、という電子音のようなものが鳴って、自分の体の周りに白い光のようなものが集まってくる。それらはオーラのように俺に纏い、そして一気にワープさせた。
——————————
樋里がコンセレクト・ヴィコーズを楽しもうとしている中、西城は道場へと向かっていった。いつものように、もう既に練習を始めているだろう本荘に樋里のことを伝えに行くからだった。
道場の透明なドアを開けると、既にブンブンと素振りを行う音が聞こえ、それと同時に息が小刻みに吐いては吸い、吐いては吸いを行っている綺麗な少女の姿があった。勿論、それは本荘である。
「本荘、ちょっといいかな?」
素振りを行っている最中にも関わらず、無粋にも西城は本荘を呼び止めた。素振りを続けていた竹刀はピタリと動きを止め、汗を顔に垂らしていた本荘は息を整えながら、小さく「何?」と西城を見つめて言った。
その目はとても澄んでいて、どこか冷たいものを感じさせるような感覚がするはずなのだが、西城はそこらの辺りも鈍いのでそんな本荘の視線など全く気にせずに話し出した。
「また樋里が休むんだってよ。あいつ、絶対サボりだぜ」
また、というのは大袈裟ではない。ここのところ、毎度のようにサボっていた。朝の練習は遅刻はするものの、とりあえずは来て練習している。その時の表情も真面目そのものだ。しかし、本腰である放課後の練習に来ないというのは言語道断もいいところであった。
「3人しかいないけどさ、樋里は一応副主将だし、主将から何か言ってやった方がいいんじゃないか?」
「……そうね」
冷たい返事なようで、どこか間の抜けたような声で本荘は西城に向けて返事をした。しかし、顔の方向は西城ではなく、目の前の木の壁だった。
「……もう、私が言っても何も聞かないもの」
「え? 何か言ったか?」
「……何も」
本荘は小さく呟くと、また素振りを再開した。
まるで、何かを振り払うように。
——————————
ワープの完了した俺は、ジャングルの中にいた。太陽の日差しがジャングルの木々に邪魔されて、どこか薄暗い感じがする。そんなジャングルの中、いつものようにNPCの声が頭の中に響いてきた。
『チームデスマッチだ! 相手を殲滅しろ! 油断するなよ!』
息を整え、俺は周りを見渡した。仲間は確かにいた。けれど、何も喋っては来ない。こいつは、無愛想な奴なのだろうか。この準備スタートまで残りわずかのこの時に挨拶ぐらいを交わすのがこのゲームの常識だった。
「あの、よろしく」
「………」
俺が声をかけても、何も返事はしない。俺の他に5人ほど味方がいたが、全く返事をしてくれなかった。そういえば、どこか目も虚ろな気がする。このコンセレクト・ヴィコーズではリアルの自分の姿がほとんど再現されることになるが、勿論変更可能だ。しかし、だからこそ表情などはリアルになっている。
だが、ここにいるチームメイトは皆虚ろな目をしていて、表情が何も無い、無表情だった。
(何だこの人達……気持ち悪ぃ……)
そんなことを思いながら、ギュッと手に持っていたAK47のアサルトライフルを握り締めた。
『作戦開始だ!』
その掛け声と同時にゲームが開始された。虚ろな目をしたチームメイト達は所々に散らばって行く。たまたま俺が行こうとしたルートには一人のチームメイトが目の前を先行していた。
「まあ、着いて行くか……」
後ろから後を着けるようにして行く。その人の名前も何も"表示されていない"、という不自然な状況にも気づかなかった。
少し先を行った直後、突然目の前の方に敵が見えた。
(ヤバい……ッ!)
咄嗟に地面へとしゃがみ、銃を構える体制に入ったのだが、前に先行していたプレイヤーはそんなことはせず、銃も構えることは無かった。
「おいっ、何をしてるんだよ! 早くしゃがむか、銃で撃つか——」
俺の声は、その時聞こえてきた"とある音"によって掻き消された。それは今まで聞いたこともないような、酷く生々しい音だった。
ぶしゃぁぁっ!
俺の目の前が赤く染まっていく。何だこれは。何が起きたんだ。
ただ、その気持ちの悪い音と、幾度かの銃声の鳴った瞬間、目の前が赤くなった。そして、何故か鼻腔から鉄の匂いがした。
ごろっ、と何かが倒れた音がした。それは前方、そしてその何かとは——目の虚ろな、チームメイトの血で染まった姿だった。
それも、その状態が酷すぎた。体中、銃弾で貫かれた痕から血がどんどん溢れ出し、それはとどまることのない、まさに人間の死が目の前で起こったのだ。
通常なら、こんなこと起こるはずがない。血といっても、地面に点々とあるだけで、それを見たら誰が死んだのか分かるようになっている。それに、死体もすぐに消えるはずだ。だけど、死体は消えない。匂いも感じるはずないのに、確実にこれは鉄の匂い——言い換えると、血の匂いだった。
「え、あ、ぁ……」
あまりの衝撃で俺は言葉を失った。何を考えることも無く、ただ目の前の俺を見つめる死体しか目に入らない、何も考えられない。
その時、俺の方へと近づいてくる足音が前方から見えた。銃を構えている、そしてそいつは、明らかにこの目の前のチームメイトを殺した奴だった。
この目の前の死体は、いつになったら復活してくれるのだろう。頼む、復活してくれ。これはチームデスマッチだろ? いつもやっているように、復活してくれよ。その——虚ろな瞳を俺に向けないでくれ!
「う、わぁぁああ!」
ダダダダダダ! と、AK47を思い切り唸らせた。それはまるで狂ったかのように。目の前に近づいてくる恐怖を打ち消すかのように、ただ銃の引き金を引いていた。
何度も肉が裂ける音や、血の噴出すような音が聞こえた。それは自分からではない、きっと俺が今撃っている目の前の敵のものだった。
ガチッ、ガチッ、と引き金を押しても弾は出てこない。どうやら弾切れのようだった。おそるおそる、俺は目の前の敵を見た。
「ぅ、うぁっ! ぐぅぇ!」
思わず、口を押さえてその場で吐いてしまった。血みどろになったその敵は、手や足などがあらぬ方向へと向き、内蔵も何もかもズタボロになっていた。まさに、血の海の状態だったのだ。
(殺したんだ! 俺が、殺してしまったんだ!)
落ち着け、と何度言っても落ち着けられなかった。ゲームの世界だ、といくら制しても無駄なことだった。
俺の手は——真っ赤に染められていた。それは、他人の血だと分かると、俺は一層、知らぬ恐怖が盛り上がっていった。
「何だよ、これ……!」
俺はAK47にマガジンをセットし直した。震える手が止まらない。どうにか、早く終わって欲しい。そんな気持ちでいっぱいだった。
ふらつく足取りをそのままに、俺は前方後方を気にしながら慎重に隠れられる場所を探した。とにかく、落ち着こうと思ったからだった。
(どこか……どこか、ないか……!?)
すがるような思いで探し続ける。だが、そんな都合のいいものは見つからず、代わりに一線の何かが飛んできた。
パスッ! と、それは俺の腕にかすらせた。その瞬間、痛みが、俺の腕に走っていく。見ると、そこには一線の切り傷のようなものが出来ていた。前方を見ると、敵がニヤニヤしながら俺の方へと銃を向けていた。
痛みは今まで感じなかった。けれど、この激痛は本物だ。もし、これが——俺の体に、まともに直撃なんてしたら……
「う、うわああああ!!」
俺は咄嗟に逃げた。逃げるしかなかった。戦おうなんて、そんなことは思えなかった。ただただ、恐怖だったからだ。それは、紛れもない生命の危機だと体が勝手に判断したからなのかもしれない。
(悪い冗談なら、悪い冗談なら冷めてくれよ……!)
近くにあった障害物に身を隠す。そこでババババッ! と銃弾が所狭しに俺の方目掛けて飛んできた。
「ひっ……!」
身を小さくし、その小さな障害物で何とかしのぐ。
俺は、どうすればいいんだ。あいつを殺す? 何で殺すんだよ、これはゲームだぞ? いや、ゲームだから大丈夫なのか? 待て、いや——
「ミィツケタァ」
前方から、声が聞こえた。それは恐ろしい、化け物かと錯覚するほどの気色の悪い声色だった。
バンッ、と放たれた銃声。もう何も出来なかった。声も体も、何もかもが金縛りにあったかのように。
「あ——」
目は、開いたままだった。銃弾が目に向かって飛んでくるのを見ていた。だが、その瞬間、サイレンがジャングル内で鳴り響いた。それはゲームの終わりを示すサイレン。つまり——ゲームは終了した知らせだった。
銃弾は、俺の目の前で落ちた。相手が銃弾を発射したのと同時にサイレンが鳴ったので、本当にギリギリで——俺は助かったらしい。
白い光が俺を包み、消えるように俺はログアウトした。
- Re: 或る日の境界 ( No.8 )
- 日時: 2012/03/20 07:19
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: /HF7gcA2)
「ッ、ぷはぁっ!」
まるで溺れそうになっていたのを、間一髪で酸素を手に入れて呼吸したかのように、俺は椅子から飛び起きていた。目がチカチカする他、呼吸がやたらと乱れていた。パソコンの画面には、昨日同様にパッチのタブのみが開かれていた。
「スタートなんて、誰が押すか……ッ!!」
乱暴にマウスを動かし、そのタブを即座に消した。
ふぅ、と大きくため息を吐く。額に手を乗せ、天を仰ぐように上へと向いた。気付いたら既に夕暮れ時で、カラスの鳴き声がカァカァと聞こえてくる。だが、それだけで、その他はもの悲しいほど静かなものだった。
(俺は、今さっきまで、何を……)
考えれば考えるほど、頭が混乱してくる。あれは夢だったのだろうか。実はまだログインしてなくて、していると思い込んでいただけで、本当は寝ていただけなんじゃないのか。またログインすれば、また普通に戻るんじゃないのか。
そうした時、ふとズキズキと何かが疼くような感覚が左腕にあった。目を開け、それを見てみると——
「う、あ……」
絶句してしまっていた。
ゲーム中での出来事のはずが、現実に現れてしまっていたのだ。
それは、ゲーム内で受けた銃弾のかすり傷が、一線しっかりと残っており、血が丁度滲み出ようとしていたところだった。
このことが意味すること。それは——
「あれは……夢じゃない……ッ!」
恐怖が全身を震わせた。あれが、もし10分制のものだったら。10分制のもので、まだあれから戦闘が長引いていたら……俺は、どうなっていただろうか。確実にまず、この目や頭は貫かれていたことだろう。
そういえば、相手の様子もおかしかった。どこか、狂ったような……何かがおかしい感じがした。舌を出し、涎も垂らしながら、気色の悪い声を出して——思い出しただけでも吐き気がする。あの無残な死体。その中の一つは、俺自身が殺したものなのだ。
「正当防衛……だよな……?」
一人で呟く宛先はどこに向けられたものでもない。ただ、そう信じたいが為に呟いたのだ。
そうでなければ、やりきれない思いが膨れ上がり、あれを現実のものとして認識してしまう。ダメだ、あれはゲームだと押さえ込まなければいけなかった。この傷は、今日の学校で怪我したものだとも思い込んで。
「何だってんだ……畜生……ッ」
頭に付けたヘッドギアを地面へと投げつけ、俺はその場でうずくまった。
今日のことは、もう忘れよう。そう思って過ごすことを心に決めた。
——————————
「世界の意思。それは神の意思。意思に従わない世界など、存在しない」
少女は、そう呟いた。小さく、けれどハッキリと透き通る声で言った。
月夜の照らされた草原が、キラキラと光を反射し、ザザーっと風で靡く音が一面に広がっていく。
その中に、少女はいた。月夜の光に照らされ、辺りは暗闇の中に月の神々しい光が照らす、そんな世界だった。
少女は、そんな世界にふさわしい雰囲気を身に纏っていた。可憐なようで、凛とした表情を見せ、か弱い中に気高きものが眠ってあるような——そんな不思議な雰囲気を纏っていたのだ。
「この世界もまた、定められるのだろう。それは単に、神の曖昧な"或る日"を理由として、捻れていく」
少女は、ただ月を見つめる。白銀の長い髪を風で揺らし、赤色の眼を輝かせながら、
「——この世界は、神に勝つことが出来るのか」
たったそれだけ、少女は"言葉"は呟いたのだった。
——————————
「う……っ」
気がつくと、朝だった。あれから今日まで、俺は寝てしまっていたらしい。小鳥のさえずる声と、気持ちのいい朝の日光なども差してきている。
「お腹空いた……」
そういえば、昨日は何も食べていなかった。腹が減るのも当然で、俺は腹を擦りながら椅子の上から起き上がった——その時、
ぶみゅ。
何か、柔らかいものが当たる感触がした。それは手元からで、椅子を土台にして踏ん張り、起き上がろうとした時にこの感触が手元にきたのだ。ゆっくりと、俺はその正体を見てしまった。
「え……女の、子……?」
予想だにしない出来事が今まさに現実として起きた。
目の前に、白銀の長い髪をした少女が黒いミニドレスのようなものを着て眠っていたのだ。
「え、ええええ!?」
思わず俺は朝っぱらからすると大きな声を出してしまっていた。いや、こんなはずはない。俺はどこかやはりおかしいんじゃないのか。昨日のゲームのことだって……いや、それは思い出さないと決めたんだった。
そんなことよりも、目の前の少女が気になって仕方が無い。誰も連れ込んだわけじゃないし、何より普通に寝ているという事実がなお頭を混乱させる。
「お、起こすのもまずいし、えっと、あぁ、どうすればいいんだ……! 夢ならさっさと覚めてくれ!」
「——夢じゃない」
「うぉっ!」
突然、少女の目がパチリと開き、黒い純粋無垢な瞳が現れた。綺麗な二重で、これほどの美少女を身近で見たことは初めてな気がしたほどだった。よくよく見ると、格好こそはロリな感じはするが、大人に成長すれば凄く綺麗な女性になるだろうと容易に想像できる。
そんなことを考えながら、俺はじっと少女の顔を見入ってしまっていた。
「……おはよう?」
「……え? あ、おはよう……ございます……」
何故か敬語で挨拶してしまった。明らかに少女の方が年下に見えるというのに、何だかこの状況に緊張しまくりでどうも心が安定してないらしい。
とりあえず、少女と俺の今の状態というと、少女が寝転がって、俺を見つめ、俺は中途半端な、中腰的体制で少女を上から見つめて——
「って、これはいかんいかんいかん!」
色々気付いた俺は、咄嗟に立ち上がって何もしてません、といいたいぐらいに"気をつけ"の姿勢をとった。
「……?」
そんな俺の行動がよっぽど理解不能だったのか、小首をかしげてどこか不思議そうな顔をした。無表情な為、ほとんど変化は分からないわけだが。
「あぁ、そうだ! ええっと、君は何でここに——」
「そんなことよりも、いいんですか?」
「はい?」
突然、少女が喋りだした。それも、俺が質問をしていた時に。先に事情の方を知りたかった俺は、まさか遮られるなんて思わなかった為に、拍子抜けしたような返事を返してしまっていた。
その次の瞬間、俺は耳を疑うというより、思いもよらないことが起きてしまった。
そう、起きてしまったのだ。
「——貴方、死にますよ?」
その直後、パンッ! と、一つ乾いた音が聞こえた。それは、どこか聞いたことのある音で、バシッ、と何かが俺へと触れて飛んでいったようにも思えた。
目の前に、銃弾が飛んできていた。
「え……?」
窓を見ると、そこから得体の知らない、何かが俺へと近づいてきていた。
少女は、ただ無表情で俺を見つめ、小さくこう呟いた。
「既に始まっている。——死にたくなければ、戦うがよい」
まるで口調の違う少女の言葉は、何故か重々しく、現実という、日常ではない、これが非日常なのだと叩きつけられたかのような。
そんな、気がした。
——世界はログアウトしました。
——世界はログアウトしました。
第1話:或る日の日常(完)