複雑・ファジー小説
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- Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜
- 日時: 2012/04/20 01:11
- 名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)
注意!このお話は人が死ぬ場面が度々登場します。 苦手な方は閲覧をしないことをおすすめします。
その日、彼の人生は一変した。彼の意思とは無関係に。
日本人で、傭兵の神宮寺昴(すばる)は、仕事中のアフガニスタンでテロリストの襲撃に遭い、彼の小隊は壊滅。彼自身も負傷し、視界がブラックアウトする。だが、次に目を開けた時、先ほどまで広がっていた阿鼻叫喚の地獄絵図は消え去り、代わりにあったのはファンタジーな田園風景だった。そして傍らには犬耳の少女がいる。彼女は告げた「ここはもう一つの世界だ」と……
異世界、獣耳、魔法にガンアクション!?ドラゴンも!?
不器用な傭兵と犬耳魔法少女が織り成す異世界放浪記、ここに開幕!!
はじめましてアンゲルといいます。今回はじめて小説を書き始めました。至らぬ点だらけと思いますが、よろしかったら読んでください。
第1話 >>01
第2話 >>02
第3話 >>05
第3.5話 >>07
第4話 >>08
第5話 >>09
第6話 >>10
番外編 >>11
第7話 >>12
第8話 >>13
第9話 >>14
第10話 >>15
第11話 >>16
登場人物紹介
・神宮寺昴 男 22歳
傭兵業を本職とする日本人青年。黒髪に同色の切れ長の瞳。銃器を用いた戦闘をメインとするが、ナイフや刀剣を使っての白兵戦もこなす。膨大な魔力を持っており、魔導弾という戦闘スキルを使う事が出来る。日本人的な律儀で素直な性格。
・エイミア・マギット 女 17歳
愛称はエミ。昴が出会った獣人の少女。人狼の血族で、犬耳と尻尾をもつ。透き通るような白い肌に茶色い髪の毛をしていて、耳や尻尾も同じ色をしている。瞳の色は金色。杖の代わりに短剣を振るって魔法を放つ。家事全般から魔導戦闘までこなすが、やや天然で恥ずかしがりや。
・ヘンリー・アイゼンブルク 女 20歳
アーク帝国騎士団第一大隊に所属する女騎士。セミロングの赤髪に紅い瞳。男性社会である騎士団の中でもかなりの実力派であり、ロングソードと戦闘魔法を併用して戦う。クラウスとはバディであり、恋人同士。しばしば周囲にいじられる。
・クラウス・ホロディン 男 20歳
アーク帝国騎士団第一大隊所属。エルフ。金髪碧眼で整った顔立ちの美男子。口数が少ない。銃剣一体型のガンランスで近接戦から魔眼を用いた狙撃までこなす。ヘンリーとは入団前からの付き合い。
・グレン・クルセイド 男 53歳
アーク帝国騎士団第一大隊の指揮官。現場主義の熱血漢で、部下からの人望も厚い。身長190以上の大男で、背丈程あるバスターソードを使用する。皇帝とは旧知の間柄。
・ギレル・アルマーシ 男 56歳
アーク帝国皇帝。式典やイベント以外ではラフな話し方を好む。帝国史では珍しく、妻はエレーナだけで、側室も持っていない。グレンとは同級生同士。
・エレーナ・アルマーシ 女 41歳
アーク帝国第一王妃。夫のギレルとは恋愛結婚した。名門貴族の出であり、柔らかな物腰の女性。ギレル同様形式ぶった話し方は好まない。ヘンリーとクラウスの恋仲について話が盛り上がるなど、お茶目な一面も。
・カーサス 男 67歳
エノ村の村長でエミの祖父。昴のことを気遣い、旅の案内にエミを付けた。昔は傭兵もやっていたらしい。
・アリシア・マギット 女 34歳
エミの母。エミとは血が繋がっていないため、人間である。柔らかな笑顔が特徴的で、かなりの美人である。
・テイラー・マギット 男 36歳
エミの父。アリシアと同じく人間である。温厚な性格で、アリシアの意見に逆らえない事もしばしば。
- Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.9 )
- 日時: 2012/04/21 22:53
- 名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)
第5話 魔導戦闘
「なんだぁ、こんな安酒しかおいてねぇのかこの店はよぉ!!」
突然の罵声に昴は声の方を振り返る。見ると、戦争映画なんかに出てきそうないかにも、といったゲリラ風の男が二人立っていた。
「なんだい、お客さん。うちは食堂なんだ!いい酒が飲みたけりゃ、他所行きな!!」
すると、奥からおばちゃんが出てきて怒鳴り返す。
「んだとっ!ババァ、もっぺん言ってみろよぉ!!」
「酒もクソなら店主もクソだな!」
男たちは口汚く罵倒する。どうやら、すでに他で酒を飲んでいたらしく、酔っているのがまる分かりで、足取りもおぼつかなかった。
「おい、そこのゲリラども。せっかくのいい店が汚れるだろ。」
「ちょ、ちょっとスバル!?」
昴は立ち上がり、酔っ払い二人に声を掛けた。男たちは最初、突然のことに驚いていたが、すぐに言葉の意味を理解し、顔を真っ赤にしてズンズンと近寄ってきた。
「なんだとクソガキ!文句あんのか!?」
「ふざけたことぬかしやがって!!」
昴は罵声を無視して二人組みを観察した。二人とも武器を持っているが、身のこなしからして、素人だ。服装が旅をしていたのか、汚れているところを見ると、自衛のために所持しているようだ。
「黙れ、無法者ども。店から出て行け。」
「野郎っ!!」
「死にやがれ!」
昴の挑発に真正面から殴りかかって来る二人。昴は一人目の男の拳をかわし、その腕を横から掴み、足を掛けて転ばせて無防備になった腹に踵を落とす。
「ぐはっ!」
「テメっ」
そして続くもう一人の男はナイフを抜き放ち迫ってくる。拳銃を抜き、攻撃を避けて腕をねじり上げ後ろに回り、肩に銃口を押し当てる。
「ぐあぁ、いてぇ!!」
男が喚くが昴は気にせず、ストライクヘッドと呼ばれるスパイクが付いた銃身を押し付ける。
「抵抗するなら、撃つ。」
「くそがぁ!!」
尚も男は抵抗しようとサブマシンガンに手を掛ける。昴は無傷で捕らえるのを諦め、引き金を引き絞る。
(殺すと面倒だ。死なない程度に!)
バンッ、と乾いた銃声が食堂に響く。エミは口に手を当て、目を見開いている。しばしの静寂は薬莢が床に落ちた音で終わる。男は床にドサッと倒れ伏した。驚くべきことに銃で撃ったはずの部位からは血が一滴も出ておらず、男は気絶しただけだった。
「あれ?なんで…?」
当事者である昴も首を傾げる。確かに撃ったはずだ。
「ス、スバル!あなたなんてことっ」
エミが我に帰り、昴に駆け寄る。
「い、いや、迷惑だったし、周りも困ってたろ?」
「だからって…」
昴はエミの問答に答える。すると、厨房から声がした。
「ほう、兄ちゃん魔導弾が使えんのか。」
どうやら声の主は料理を担当している旦那のようだ。ゆっくりと厨房から出てきて昴の前に立つ。
「魔導弾?」
昴はこの大男が話した単語を聞き返す。
「魔導弾ってのは、弾丸に魔法効果を付ける技術だ。簡単にはできねぇ。」
「これが…魔法……」
昴は初めて使った魔法に驚いた。偶然であり、直接的なものではなかったが、何か感じたことの無いような感覚を覚えた。
「恐らく、電気系の魔導弾でスタンしたんだろう。」
料理人の旦那曰く、込められた魔法効果が電気系統だったため、スタンガンのような役割りを果たしたそうだ。
「まあ、なんにせよ厄介事を片付けてくれたのはありがたい。こいつ等は自警団に引き渡しとくぜ。」
と言って旦那はロープで男二人を縛り上げると、荷物のように二人を担いで、店からでて出ていった。
「悪いね、お客さん。それにしてもいい腕っ節だねぇ。名前は何てえの?」
するとおばちゃんが尋ねてきた。注目を集めてしまったらしい。店の客達が昴の方を向いている。しまったなと思う昴だが、後の祭りだった。仕方なく名乗りをあげる。
「俺は神宮寺昴です。」
「スバルって言うんだね?分かった、また来なよ。」
「ありがとうございます。ほらエミ、行こう。」
「あ、うん。」
昴はおばちゃんに礼を言い、事態を見守っていたエミの手を引いて店を出た。
「でも、びっくりしたわ。スバルが魔法を使えるなんて…」
「俺だって驚いたよ。」
時刻はもう夕方で、少しづつ日が落ちてきたため、二人は村長宅に戻ることにした。その道のりの途中でエミが話を切り出してきた。
「ただ、殺さないように、致命傷にならないようにって考えてたらああなったんだ。」
「驚いたわね…確かに魔力は大きいとは感じたけど、提唱も何も無しにやるなんて。」
エミによると、大抵の魔法は言葉の提唱が必要なのだそうだ。魔導弾等の戦闘用魔法は提唱が必須らしく、先ほど昴がやったのはかなりイレギュラーなことらしい。
「ちょっと念じただけなんだがな。」
「…スバルがこの世界に来たのも、それが関係してるのかしらね。」
「どうだかな。さあ付いた。」
そうこうしていると、村でもそこそこ大きな村長の家に到着した。
「ただいまー」
「お邪魔します。」
二人は帰宅の挨拶と訪問の挨拶をそれぞれし、家に入った。
「おかえりエミ。スバルさんも。」
廊下に優しそうな女性が顔を出した。何故名前を知っているのかと考えたが、恐らく村長から聞いたのだろうと一人納得する。
「ただいまお母さん。」
「え、お母さんなの?」
昴はエミの言葉に疑問を覚えた。エミが母といった女性には耳も尻尾もなかったからだ。すると、その疑問を察知したかのように、エミの母は答えた。
「エミは養子なのよ。この子がまだ幼い頃に引き取ったの。」
「そうなんですか。道理で…あ、すいません。」
昴は納得したように呟くが、失礼なことだと気づき、謝罪する。
「いいのよ。この子の耳、可愛いでしょう?」
「は、はい。そう思います。」
「あら、エミ、良かったわね。可愛いそうよ。」
「お母さんまで!?」
エミの母は悪戯っぽく微笑む。エミは、母にもからかわれ、またかといったリアクションをした。
「ご飯、もうすぐだから居間にきて頂戴。」
エミの母はリビングへ歩き出し、思い出したように振り向いた。
「あ、私はアリシア。アリシア・マギットよ。よろしくねスバルさん。」
「こちらこそ、お世話になります。」
こうして、昴の異世界一日目は過ぎていくのだった。
- Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.10 )
- 日時: 2012/04/22 10:09
- 名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)
第6話 旅支度と出発
昴は寝室に与えられた客間でベッドに寝転び、天井を眺めていた。枕元の横に置いてある白熱電球のスタンドライトが部屋の暗闇を照らしている。
(さて、どうするかな…)
昴は夕食時のことを思い出す。
夕食には、エミの家族全員が同席していた。母のアリシア、父のテイラー、そして村長でエミの祖父であるカーサスだ。祖母は昔に亡くなったそうだ。
「それで、昴君。君はこれからどうするんだい?」
エミの父親であるテイラーが昴に尋ねる。
「行くあては無かろう。お主さえよければ、村に住めるよう手続きするが…」
カーサスが付け加えた。彼はこの村の村長である。住民登録などはできるのだろう。
「いえ、俺はこの村を出ようと思います。」
「ほう?」
昴は考えていたことを切り出した。
「俺はこの世界のことをまだ何も知りません。知識を得るためにも、少し旅をしようと思います。」
「そうかい?一人では危ないんじゃないかな。」
テイラーが心配そうに昴を見る。だが、カーサスが言葉を紡いだ。
「その点は心配ないぞ。こやつは昼間村の食堂で悪さしとった旅人二人を締め上げたからの。腕はわしが保障するぞい。」
「とはいってもお義父さん、地理も分からないでしょう?」
テイラーが道が分からないのでは?と言い加えるが、カーサスは意外なことを口にした。
「道案内はエミにやらせるつもりじゃ。」
「えっ?おじいちゃん!?」
突然名前が出たエミは、驚いてカーサスと昴を見比べる。テイラーも驚きを隠せず、カーサスに反論する。
「エミはまだ17だよ?いくらなんでも無理だ。」
「なにを言うか。エミに魔法を教えたのは誰だと思っておる。」
カーサスはなんのそのといった感じで答える。何の心配もないらしい。
「大丈夫なんですか?」
昴はエミを見てからカーサスに問う。エミは何かブツブツ呟いていたが、話の行方を聞き逃すまいと耳を立てていた。
「何の問題もないわい。エミは日常で使う魔法から魔導戦闘までこなせる。旅の仕方も教えたしの。」
「で、でもお義父さんっ。アリシアも何か言ってくれよ。」
「あら、私は賛成よ?可愛い子には旅をさせよって言うじゃない?」
「むぅ…そうかな…。うん、二人が言うなら良いだろう。くれぐれも気を付けてくれよ?」
「分かりました。エミは俺が守ります。」
「よく言ったわ。男の子はそうでなくっちゃ!」
「…というわけなんじゃが、エミ、良いかの?」
一通り話を終えた一同はエミの方を見る。エミは真面目な顔つきで皆を見返す。
「分かったわ。外の国を見るのも面白そうだし、私行く。」
「そうか。じゃあ、よろしくな、エミ。」
「ええ。よろしくスバル!」
エミと昴は視線を交わす。旅立ちは仲間を一人得て、決定したのだった。
「それで、いつ発つ気なの?」
「そうだ。準備もしなきゃいけない。」
マギット夫妻が質問する。昴の答えは決まっていた。
「明日の昼頃には出たいです。エミも大丈夫?」
「準備にそれほど時間はかからないわ。大丈夫よ。」
エミは目を自身に輝かせて言った。
「そりゃまた急じゃの。分かった。お主の分の荷物と食料はわしが手配しよう。」
「お気遣い感謝します。」
「うむ。」
そんなやり取りをして、夕食と昴の進路会議は終わったのだった。
そして今、昴はシャワーを浴び、客間でベッドに寝そべっているのだ。昴はカーサスの言葉を思いだす。
『炎天山には近寄るでないぞ。あそこはここ最近、強力な人外が多く出没するでな。』
人外というのは、この世界に存在する魔物、モンスターの類の総称だ。カーサスの話によれば、炎天山というのは、その昔金鉱山だった山で、かなりの大きさらしい。金鉱の洞窟跡がそのまま放置されており、内部も相当入り組んでいるそうだ。少し前までは、人外もそれほど生息していなかったのだが、最近になって人外による死傷事件が多発しているそうなのだ。カーサスは何かがある、と唸っていたが、実際どうなのかなんて、昴には分からない。とりあえず、エミも一緒に行くのだし、近寄らないのが得策だろうと昴は考えていた。
そんなことを考えていると部屋の扉がノックされる。
「スバル、私。」
声はエミだった。昴は入室を促すと、エミはそっと部屋に入ってきた。
「あのね、渡したい物があるの。」
エミはそういって、ミサンガのような物を渡してきた。
「これは?」
「人狼族に伝わるお守りみたいなものよ。一度だけ身代わりになってくれるの。」
見れば、所々にビーズのような物も編みこんである。スタンドの明かりで反射してまるで宝石のようだ。
「そうなのか。これはどこに着ければ良いんだ?」
「腕とか足だけど、一般的には腕よ。着けてあげる。」
そう言ってエミは昴の手の平からミサンガ(らしき物)を取り、昴の左腕に巻いた。
「利き腕じゃなくて良いのか?」
昴はふと疑問に思ったことを聞いてみる。
「利き腕には武器を持つでしょ?どうしても交わせない攻撃は左手で防御するから、こっち。」
昴はそういう物なのだなと納得した。エミはミサンガを解けないようにしっかりと結び、昴との距離に気が付いて頬を染める。
「こ、これで大丈夫。」
「ありがとな、エミ。」
「いいのよ。誰かに作ってあげることなんて無かったし…」
エミは俯いてそう語る。最後のほうは小さくて昴には聞き取れなかった。
「明日からはよろしくな。俺は分からない事だらけだから、エミ、案内してくれるか?」
「もちろんよ!いい旅になると良いわね。」
エミは胸を張って答えた。尻尾をパタパタさせているから喜んでいるのだろう。分かりやすい性格だ。いや、見た目というべきか。
「じゃあ、改めて。」
そういって昴は手を差し出した。エミは一瞬その手を眺めて我に帰り、手を握り返す。握手は全世界、次元共通の挨拶だ。昴は、エミの手から伝わる温もりを感じて、自分が今、確かに生きていることを実感した。
「す、スバル…?」
「…あぁ、悪い!」
昴はエミの声で自分が必要以上にエミの手を握っていたことに気づく。慌てて手をパッと離す。エミは何故か少し残念そうにしていたが。
「そ、それじゃあ、もう遅いから。また明日。」
「ああ。おやすみ。」
「おやすみなさい、スバル。」
昴はしばらくぶりにする就寝の挨拶を交わした。
旅立ちは明日。放浪記のプロローグは終わり、序章への幕は開かれた。
- Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.11 )
- 日時: 2012/04/06 23:33
- 名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)
番外編:アーク帝国編予告?
私は悪路に揺れる兵員輸送装甲車の車内で同僚たちと会話をしていた。
「それで、今度の任務は炎天山近郊にでた小型翼竜の討伐だったな。」
「そうらしいわね。火属性のワイバーン級が一匹、楽勝よ。」
私は同僚の問いに元気良く返す。私たち、アーク帝国騎士団第一大隊は今回、帝国領に跨る炎天山から沸いた小型の飛竜の討伐を命じられていた。飛竜種の討伐は、傭兵ギルドなどでも余されているため、騎士団に依頼が回ってくることが多いのだ。
「…いつも完璧に行くとは限らないよ、ヘンリー。」
「分かってるわよクラウス。士気を高めただけ。」
「…油断は禁物。」
会話に混ざってきたのは、私のバディであるクラウス・ホロディンだ。彼はエルフで、普段はその特徴的な耳をフードで覆っているため、人間だと思われがちだ。顔もエルフ特有の美形で、金髪碧眼の持ち主だ。透き通るような美しさを放っている。
「おいおい、夫婦漫才は他所でやってくれよリア充どもめ。」
「なっ、夫婦言うな!」
「…心外だ。」
「ちょっと、それどういう意味!?」
混ぜっ返す隊長に反論するが、クラウスの呟いた一言もガツンときた。そんなこんなで騒いでいるとスピーカーから運転席の声が届いた。
「隊長、前方で火の手が上がっています!例のワイバーンです!」
「急いで接近しろ。皆聞いたな?人が襲われているかもしれない。民間人がいたら、その救出が最優先だ!いいなっ」
「了解!!」
同志達は雰囲気を切り替える。戦闘が始まろうとしていた。
このときだ。私、ヘンリー・アイゼンブルクがあの男と出会ったのは。
- Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.12 )
- 日時: 2012/04/22 23:20
- 名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)
第7話 商隊と指導
翌日、昴たちはエノ村を旅立ち、マニエール共和国南部の国境へと向かっていた。昴もエミも旅は初めてなので、村に来ていた物流の商隊と行動を共にすることにした。商隊は6人編成で商人は2人だ。
「へえ、知識を得るために旅にねえ。」
柔らかな口調で話すのは中年の女性商人である。揺れるトラックを運転しているのがその夫だ。彼女らは夫婦で商人をしている。
「ええ、田舎から出てきたんで、少しでも世間を知っておこうと思いまして。」
「うん、いいことだね。でも、気をつけなよ。最近は物騒な事が多いからね。」
物騒な事、というのは炎天山周辺のことだろう。ここ最近、アーク帝国領にある炎天山周辺は人外による殺傷事件が増加している。
「はい、できるだけ危険な箇所には近寄らないようにします。」
昴は言われたとおりにする事を誓う。面倒事は御免だし、エミを危険に晒すわけにもいかない。
「それにしても楽しみね、スバル。アーク帝国に行くの。」
「ああ、初めての大都市行きだからな。どんなところなんだ?」
現在、昴たちが向かっているのはマニエール共和国南部に国境を接するアーク帝国の首都、メリュウスだ。商隊は、街道を通って国境付近の町まで行き、そこで分かれる予定だ。そこからは二人で帝国に入国し、メリュウスを目指す。
「アーク帝国はラキシア大陸有数の先進工業国で、首都圏はこの辺とは比べ物にならない位近代化が進んでいるわ。」
「ふーん。ほんとに都会なんだな。」
説明を聞いた昴は、東京やニューヨークの町並みを思い浮かべた。
「でも、やっぱり郊外の方は自然豊かなのよ。炎天山みたいに大きな山とか、広大な湖なんかもあったり。」
商人の女性が説明を付け加える。
今まで聞いた情報によれば、この世界では、都市部と郊外では文明差があるのはどこの国もあまり変わらないらしい。例を挙げれば、郊外の一般家庭はガスを用いたコンロや風呂を利用しているが、都市部はIHヒーターや燃料電池などのハイテク機器が一般家庭にも多々あるそうだ。日本で言えば、昭和後期と平成くらいの差だ。地球で言えば、中国やアフリカの一部の国も同じような状況が存在するため、昴はそれを聞いたときもそれほど驚く事はなかった。
「有名なのは、国立図書貯蔵館と帝国騎士団ね。」
「図書貯蔵館は分かるが、騎士団っていうのは何?」
「騎士団は公務員の一種なのよ。害獣の討伐、帝都の衛視、災害派遣が主な仕事。その他にも、式典等での公開演習、音楽隊の演奏、要人の護衛もやるわ。」
「なるほど、公務員か。」
昴の中ではとある近しい組織が浮かんだ。自衛隊である。日本が世界に誇る自衛隊は、世界でも、奪った命より救った命が圧倒的に多い素晴らしい集団だ。戦後政策の象徴であり、国際平和を願う日本国の象徴でもある。騎士団の仕事は自衛隊に近い物があった。
「騎士団は入団試験が厳しい事で有名よ。筆記、実技、面接、そして忠誠心を調べる試験があるの。」
「どんなの?」
「魔力の篭った水晶に手をあてがって、12時間苦痛に耐える。精神的な屈辱と激痛に襲われ続けるわ。入団希望の三分の二はそれでやめてしまうそうよ。」
経験者の話だと、過去のトラウマや、自分が最も恐れる事の脳内再生と共に、全身を電流が流れるような感覚が襲い続けるそうだ。
「それを乗り越えた者は、自らの血で契約書にサインして、晴れて騎士となるわけ。志願者は毎年定員越えなのだそうよ。」
女商人が説明を引き継ぐ。騎士になるのは随分大変なようだ。ただの公務員になるために、軍の特殊部隊の入隊試験のようなことをやらされるのだからすごい職業だ。それでも志願者が後を絶たないというのは、騎士団と言う存在が国民から愛されており、尊敬されているからなのだろう。
「そういや、あなた魔法の使い方をしらないんですって?」
女商人が話題を変えた。昴に興味があるらしい。
「はい。魔力はあるらしいんですけど…」
「そうね、じゃあ簡単な魔法なら教えてあげるわ。」
「お願いします。」
そういって、女商人は右手の人差し指を立て、呟くように短く提唱をする。すると、隣に置いてあった小さな木箱がフワフワと宙に浮かんだ。
「これは比較的初歩の魔法よ。念動力で触らずに物を動かせるわ。」
「何度見ても魔法はすごいな…」
「動かしたい物の形と、それを宙に浮かべる映像をイメージするの。意識を集中させてやれば成功するわ。」
昴は言われたとおりに試してみる。手近にあった木箱の形を記憶し、目をつぶってイメージを投影する。そばにあった木箱は少し揺れてからゆっくり宙に浮いた。
「そうそう。意識を集中して、効果が途切れないようにね。」
成功のようだ。昴はそのままゆっくり木箱を荷台に下ろす。
「それにしても、提唱なしでできるのね。珍しいわ。」
「やっぱり普通は提唱しますか?」
昴は一瞬しまった、と思ったが、自分だけではないのではないかと疑問を口にする。
「イメージ力や想像力が豊かな人は提唱しなくてもできることがあるわ。あなたもその類でしょう。」
どうやら、昴だけが特別なわけではないらしい。
「じゃあ、少しだけ魔導戦闘の事も教えるわ。銃を持っているようだけど、この先必要になることもあるだろうから。」
「そうね。スバル、しっかり聞いておいて。」
エミも賛成と声をあげる。正直、昴には戦闘で魔法を使いこなせるか分からない。銃火器で戦うことを考えていたが、場合によっては銃が使えない状況にも陥るかもしれない。戦闘用魔法も教わった方がいいだろう。
「はい。是非に。」
「じゃあ、まずは防御魔法から。障壁展開について教えるわ。」
それから国境付近の町に着くまで数時間、昴とエミは魔法を教わり、揺れるトラックの荷台で談笑も交え過ごした。
町には日没頃に到着し、そこで商隊と分かれる。二人は、今宵の宿を探しに夕暮れの町へ繰り出した。
- Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.13 )
- 日時: 2012/04/13 00:44
- 名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)
どうも作者です。気付かぬ内に参照回数が100突破!読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!これからも更新に尽力致しますので、どうかよろしくお願いします。
追記:第5話一部修正しました。
それでは本編です。
第8話 部屋割りとアーク帝国
国境付近の町、ウルクでは昴とエミが宿を探して歩いていた。商隊の女商人に聞いた話によれば、この近くにギルドの経営する宿場があるらしい。
ちなみに、ギルドというのはこの世界の労働組合のような物で、Workers・Guildというギルドの傘下に各ギルドが存在している。傭兵、狩人、旅人、使用人等様々だ。そんな中の一つ、旅人ギルドが経営しているのが『金盞花亭』だ。
「ここかな。言われた場所はこの辺りだけど…」
昴は目の前にそびえる建物を見上げながらエミに話しかける。
「うん。ここは何度か通った事があるからそうだと思う。」
「じゃあ、とりあえず入るか。」
二人は宿へと足を踏み入れた。店の一階はロビーとフロントで、端っこにある開放された扉からは食堂らしき物が見えた。落ち着いた作りの内装で、三階建て横長の建物である。奥行きもそこそこあるようだ。フロントに居た従業員の男は昴たちを見つけ、お辞儀をする。
「ようこそ金盞花亭へ。ご宿泊でしょうか?お食事でしょうか?」
男は丁寧な言葉遣いで話しかけてきた。
「ええと、宿泊で二人なんだが…」
「畏まりました。お部屋はいかが致しましょう。ご一緒ですか?」
ここにきて昴はハッとした。部屋割りをどうするか決めていなかったのだ。
「あー、やはり二人部屋のほうが安いのかな?」
「左様でございます。部屋を別々に取られますと、二部屋分のお値段となってしまいますので。」
「・・・・・・」
昴は悩む。確かに二人部屋の方が安いだろう。だが、一緒に泊まるのは、PMCの仲間や家族でもない。まだ十代の少女なのだ。無論、昴自身は何もするつもりはないし、しようとも思わない。だが、世の中には世間の目、と言う物がある。成人近い年齢の彼女でも、自分が一緒では周りからの目線が気になるのだ。
「スバル、私は別に一緒でいいよ?」
「え?お、おう。そうか。」
ちらりとエミの方を見たら、エミから助け舟を出してきた。昴は一瞬うろたえるが、疚しい事は何一つ無いため承諾する。
「では、二人部屋でよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。それで頼む。」
「かしこまりました。お客様のお部屋は階段を上がって右4番目のお部屋になります。」
フロント係の男は、手元の端末を操作して部屋の空きを確認した後、昴に告げた。これがキーですと大き目のストラップの付いたルームキーを渡された。
「料金の方ですが、一名様あたり一日銀貨五枚のところ、二人部屋ですので、銀貨七枚と銅貨四十枚となります。」
「えっと、銀貨…」
「いや、待ってエミ。」
昴は鞄をゴソゴソ始めたエミを止め、代わりに昴が銀貨を出す。
「来る途中に少しは仕事したんだ。これは払わせてくれ。」
「で、でもいいの?おじいちゃんから貰った旅費もあるし…」
「いいのいいの。」
昴は、ウルクの町に到着するまでに、商隊の護衛も兼ねていたのだ。実際、道中の人外の排除にも貢献したし、倒した人外の素材や食肉を売買して得たお金が多少ある。いつまでもエミに頼るのは嫌だと思っていた昴は、ここで切り出す事にした。
「宿泊費一日分チャージ完了いたしました。どうぞごゆるりとおくつろぎくださいませ。」
そう言ってフロント係は再度お辞儀をする。
その後、昴とエミは様々な人々でごった返す食堂で夕食を取る。食事代は宿代に含まれているそうだ。食事を済ませると、二人は言われた部屋へと向かった。
「スバル、終わったよ。」
「分かった。」
とりあえず、シャワーでも浴びようと思い立った昴だったが、レディーファーストと言う事で、エミに先に使わせた。
しばらく待っているとエミが脱衣所から顔を出し、声をかけてきた。自分もさっさと済ませてしまおうと、昴も浴室へ向かう。
「私の荷物は?」
「あ、く、クローゼットの中だ。」
「ん、ありがと。」
昴はかなりドキドキしていて、エミの声を聞き逃しそうになる。
(エミ、いい匂いするな…って俺は変態か!)
昴は自分の思考を打ち消すかのように頭をぶんぶんと振る。エミはしっとりと湿って艶々した髪のまま、寝間着姿でうろうろしていた。良く見れば、特徴的な犬耳と尻尾も湿り気を帯びている。
(えぇい、さっさと入ろう。そうしよう。)
昴は逃げるように浴室へと消えたのだった。
物凄い早さでシャワーを浴び、体を洗って出てきた昴にエミは少し驚いたような顔をしていた。
「早かったのね。」
「まあ、いつもそんなに掛からないしな。」
昴はそういって自分のベッドに腰掛けた。立て掛けて置いた銃に目をやるが、エミがいじった形跡はない。昴もエミを信用しているが、念のためだ。
(弾薬の調達をどうするか、だな。この世界にNATO弾なんてあるのか?)
昴の愛銃、M4カービンアサルトライフルは、5.56ミリNATO弾という弾薬を使用する。この世界にも銃火器は存在しているが、地球とは少し違う物が多い。エノ村で退治した旅人や、商隊の他の護衛も銃を持っていた。探せばM4に使える弾薬もあるかもしれない。
「エミ、アーク帝国では武器を売ってる店なんかあるかな?」
「それはちょっと分からないわ。ごめんなさい。」
「いや、分かった。誤らなくていい。」
昴の問いに答える事が出来ず、エミは少しシュンとしてしまう。昴は慌ててエミをフォローする。
「あ、スバル、入国するときの事だけど、おじいちゃ…村長から貰った身分証持ってる?」
「ああ、あるよ。」
身分証と言うのは、戸籍も何も無い昴のためにカーサスが作ってくれた物だ。昴はエノ村の住人、と言う形で登録されている。
「それ、失くさないでね。入国時に必要だから。」
「分かった。気をつけるよ。」
昴は返事をし、アーク帝国に着いてからどうするかをしばし考える。しばらくして、エミを見るとうつらうつらしていた。どうやら疲れが出たのだろう。目もウルウルとしていた。
「エミ、もう寝よう。明日も早いし。」
「んん…分かった…」
エミはむくりと起き上がり、
「ん、おやすみなさい…」
と言って昴の頬にキスをした。
「なっ!?」
昴は突然の出来事に呆然とするが、エミは何事も無かったかのように自分のベッドへと潜り込んだ。
結局、昴はしばらくの間立ち尽くしていたのだった。