複雑・ファジー小説
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- Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜
- 日時: 2012/04/20 01:11
- 名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)
注意!このお話は人が死ぬ場面が度々登場します。 苦手な方は閲覧をしないことをおすすめします。
その日、彼の人生は一変した。彼の意思とは無関係に。
日本人で、傭兵の神宮寺昴(すばる)は、仕事中のアフガニスタンでテロリストの襲撃に遭い、彼の小隊は壊滅。彼自身も負傷し、視界がブラックアウトする。だが、次に目を開けた時、先ほどまで広がっていた阿鼻叫喚の地獄絵図は消え去り、代わりにあったのはファンタジーな田園風景だった。そして傍らには犬耳の少女がいる。彼女は告げた「ここはもう一つの世界だ」と……
異世界、獣耳、魔法にガンアクション!?ドラゴンも!?
不器用な傭兵と犬耳魔法少女が織り成す異世界放浪記、ここに開幕!!
はじめましてアンゲルといいます。今回はじめて小説を書き始めました。至らぬ点だらけと思いますが、よろしかったら読んでください。
第1話 >>01
第2話 >>02
第3話 >>05
第3.5話 >>07
第4話 >>08
第5話 >>09
第6話 >>10
番外編 >>11
第7話 >>12
第8話 >>13
第9話 >>14
第10話 >>15
第11話 >>16
登場人物紹介
・神宮寺昴 男 22歳
傭兵業を本職とする日本人青年。黒髪に同色の切れ長の瞳。銃器を用いた戦闘をメインとするが、ナイフや刀剣を使っての白兵戦もこなす。膨大な魔力を持っており、魔導弾という戦闘スキルを使う事が出来る。日本人的な律儀で素直な性格。
・エイミア・マギット 女 17歳
愛称はエミ。昴が出会った獣人の少女。人狼の血族で、犬耳と尻尾をもつ。透き通るような白い肌に茶色い髪の毛をしていて、耳や尻尾も同じ色をしている。瞳の色は金色。杖の代わりに短剣を振るって魔法を放つ。家事全般から魔導戦闘までこなすが、やや天然で恥ずかしがりや。
・ヘンリー・アイゼンブルク 女 20歳
アーク帝国騎士団第一大隊に所属する女騎士。セミロングの赤髪に紅い瞳。男性社会である騎士団の中でもかなりの実力派であり、ロングソードと戦闘魔法を併用して戦う。クラウスとはバディであり、恋人同士。しばしば周囲にいじられる。
・クラウス・ホロディン 男 20歳
アーク帝国騎士団第一大隊所属。エルフ。金髪碧眼で整った顔立ちの美男子。口数が少ない。銃剣一体型のガンランスで近接戦から魔眼を用いた狙撃までこなす。ヘンリーとは入団前からの付き合い。
・グレン・クルセイド 男 53歳
アーク帝国騎士団第一大隊の指揮官。現場主義の熱血漢で、部下からの人望も厚い。身長190以上の大男で、背丈程あるバスターソードを使用する。皇帝とは旧知の間柄。
・ギレル・アルマーシ 男 56歳
アーク帝国皇帝。式典やイベント以外ではラフな話し方を好む。帝国史では珍しく、妻はエレーナだけで、側室も持っていない。グレンとは同級生同士。
・エレーナ・アルマーシ 女 41歳
アーク帝国第一王妃。夫のギレルとは恋愛結婚した。名門貴族の出であり、柔らかな物腰の女性。ギレル同様形式ぶった話し方は好まない。ヘンリーとクラウスの恋仲について話が盛り上がるなど、お茶目な一面も。
・カーサス 男 67歳
エノ村の村長でエミの祖父。昴のことを気遣い、旅の案内にエミを付けた。昔は傭兵もやっていたらしい。
・アリシア・マギット 女 34歳
エミの母。エミとは血が繋がっていないため、人間である。柔らかな笑顔が特徴的で、かなりの美人である。
・テイラー・マギット 男 36歳
エミの父。アリシアと同じく人間である。温厚な性格で、アリシアの意見に逆らえない事もしばしば。
- Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.4 )
- 日時: 2012/03/31 11:41
- 名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)
はじめましてキラさん。コメントありがとうございます!
昴が転移した原因は物語が進むと共に解明されえる予定です。
- Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.5 )
- 日時: 2012/04/20 22:35
- 名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)
第3話 現状確認と進路
気が付いたら異世界だった。それが現在のスバルの状況である。倒れていた昴は、助けてくれた犬耳の少女、エミについて、村長宅に向かっているところだ。
「ってことは、スバルは違う世界から来たの?」
道すがらスバルの説明を聞いていたエミは疑問符を浮かべる。
「多分そうなんだと思う。こっちの世界にはエミみたいに耳の生えてる人間はいなかったし…」
「私は人狼族だし。でも、そういう話、聞いたことある。」
「本当か?この世界では俺みたいな例はよくあるのか?」
「前に、町の図書館でそういう文献を読んだことがあるわ。」
昴は困惑する。この世界ではそれほどイレギュラーなことではないようだ。自分だけ偶然飛ばされたのかと思っていた昴には軽い衝撃だった。
(もしかすると神隠しの正体って、こういうことなのか…?)
神隠し。極東に伝わる伝説で、人が煙のように消え、居なくなるという現象だ。そして、かなりの時間がたった頃に、突然現れる。だが、その時の記憶は無いという。
「ここは平行世界…もう一つの世界なのでしょうね。」
(衝・撃・の・事・実!)
昴は考えるのを放棄した。
「でも、いまだに信じ難いな。ここが異世界だなんて…」
「私だってあなたが違う世界から来たなんて信じられない。」
昴は情報を集めるため、話をしながら周りを見渡してみる。村人がちらほら見受けられ、こちらを見てくる。向こうでは、トラクターのような機械が畑を耕しており、この世界にも機械が存在するのだと知る。
(異世界っていうと、もっとファンタジーなのを想像したんだがな。)
井戸のある広場のような場所が見え、子供たちが遊んでいる。その中にも耳や尻尾の生えた子がいるようだ。
「ここよ。ちょっと待ってて、話をつけてくるから。」
「分かった。」
そう言うと、エミは建物の中へと消えた。村長の家というだけあって、他の住宅より少し大きい。玄関の扉は開放されており、広めの廊下が続き、その先にドアがあった。
しばらくするとエミがドアを開けて出てくる。
「いいわ、来て。」
呼ばれたので、昴はエミについて家に入る。
「村長、お連れしました。」
「うむ。わしはこの村を預かっておる村長のカーサス
という者じゃ。」
「はじめまして。神宮寺昴といいます。」
二人は挨拶を交わす。カーサスと名乗った村長は、年のころ60代前半位で、短髪に顎鬚と精強な顔つきの老人だ。
「話はエミから聞いた。異世界から来たそうだな?」
「ええ、まあ。」
カーサスは目を光らせる。疑っているのだろうか。
「ふむ、その銃、ちと見せてもらえんかのう?」
昴はためらう。だが、断るのも不味い気がして答えた。
「弾倉は抜かせて貰います。」
「ああ、構わんよ。」
昴は銃からマガジンを抜き取り、安全装置を掛けて村長に渡した。
「この辺りではあまり見かけん銃だな。」
村長は昴の愛銃、M4カービンを観察する。アクセサリーパーツで多少ゴテゴテしているが、村長は何の問題も無く、眺めたり構えてみたりする。
「経験がお有りで?」
「ちいとばかりな。わしも昔傭兵だったからの。お主も傭兵であろう?」
「はい。そうです。」
「やはりな。ありがとう。いい銃のようじゃ。」
カーサスは銃を昴に返す。昴は銃の肩紐を肩にかけ、後ろに回した。
「それで、お主は道に倒れていたそうじゃな。記憶はあるかの?」
「はい、はっきりと。」
するとそこへエミが飲み物を持って入ってくる。二人分の飲み物を応接テーブルに置くと退室しようとするが、
「エミ、お前も座りなさい。」
とカーサスが促す。エミは、はいと言いス昴の隣に腰を下ろした。
それから、昴は自分がどういう状況にいたか、そして気が付いたらエミに保護されていたことなどを話した。
「うむ。事情は分かった。恐らくそれは転移じゃろう。」
「転移?」
「空間移動魔法の類ではないかの?」
「多分ね。」
昴の疑問にカーサスとエミが答える。
「特定の空間に一度に過剰な量の火薬が炸裂した。それに加え、お主の死にたくないという強い願望、それと魔力が影響し合い、時空を歪めた…といったところか。」
「ちょっと待ってください。魔法ってなんですか?」
昴は聞きなれない単語を聞き返した。宗教の勧誘か何かだろうか?
「お主の世界には無かったのだな。魔法と言うのは…エミ、やってみせい。」
「はい。」
するとエミは立ち上がり、何かを唱える。すると、テーブルに置いてあるカップの紅茶だけが浮き、球体になって浮遊した。
「なっ!?」
すると今度はその球体からティーポッドのようにカップに紅茶が注がれ、紅茶はもとあったように全てカップに収まった。
「こういうのが魔法ってやつじゃな。」
「・・・・・・」
にわかに信じがたい。昴はそう思った。だが、同時に強い興味も抱いた。
「魔法については後で教えよう。それよりお主、泊まる所は無いのであろう?今日はわしの家に泊まるがよい。」
「いいのですか?」
「なに、客人をもてなすのは当然のことよ。エミ、案内しなさい。」
「はい。スバル、こっち。」
スバルとエミはカーサスにお礼を述べ、入ってきた時とは違うドアから部屋を出る。エミに連れられ、廊下を歩いて行き、小さな、それでいて狭くもない部屋に通される。
「ここが客間よ。食事はリビングだから。お手洗いは向こう。洗面所も。」
「すまないな。何から何まで。」
「気にしないで。それよりまだ日があるけど、村を見て回らない?」
エミは笑顔で提案する。尻尾が少し揺れているのは、彼女も気分がいいのだろう。
「ああ、そうしたい。あと、銃は置いていきたいんだが、この鍵付きのロッカー、使ってもいいかな?」
「いいわ。これが鍵よ。失くさないでね。」
そう言ってエミは、服のポケットから小さな鍵を取り出した。スバルはロッカーを開け、銃とチェストリグ
(エプロン型のポーチ)を体から外し、中にしまう。念のため拳銃だけは服の中に忍ばせたままにしておく。しっかりと鍵を閉め、エミに向き直った。
「それじゃ、行こうか。」
「はい!」
傭兵と少女は外へと繰り出した。
- Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.6 )
- 日時: 2012/03/31 16:40
- 名前: 見習い魔術師 キラ (ID: n5JLvXgp)
おやや?
謎が解明されていました。
なるほど、空間移動魔法ですか・・・空間移動魔法!?
私そういう単語に過剰反応するんです!!!!
続きが楽しみです。
- Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.7 )
- 日時: 2012/04/01 00:25
- 名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)
第3.5話 Side:エイミア
今日も私はいつも通りに起床し、身支度を整え、軽い朝食を食べて畑へ向かった。
「いってきます!」
「おぉ、気いつけての。」
家族に挨拶し、畑に向けて歩き出す。天気は晴れ。日差しも良く、いい日だった。私は晴れている日が好きだ。畑までのんびりと歩けるし、日光がとても気持ちいい。雨の日は煩わしい外套を着なければならないし、空気も良くない。だから私は晴れの日は気分がいい。
「おはようエミちゃん。今日もお手伝いかい?」
「おはようございます。えぇ、そうです。」
「偉いねぇ。うちの子にも見習ってほしいよ。」
近所のおばさんに声をかけられた。この村の住人はいい人ばかりだ。獣人の私にも優しくしてくれる。町のほうへ行くと、あからさまではないが、嫌な目で見られることがある。
「それじゃ、私行きます。」
「がんばってね、エミちゃん。」
再び歩きだす。少しすると、自分の家の畑が見えてきた。既に父が作業を始めている。
「お父さーん!」
遠巻きに声をかけてみる。すると父は手を挙げて返した。私は小走りになり、畑で午前中を過ごした。
午後にはすっかり作業も終わり、私は昼食を取るため、持ってきたバスケットを抱え、お気に入りの場所へと向かっていた。父は他にも仕事があるらしく、農作業を終えると、家へと帰っていった。私はお気に入りの木陰でお弁当にしようと思い、軽い足取りで歩いていた。
「うん?何だろう…」
すると、地面に何かが落ちているのが見えた。まだ遠くてよく見えない。
「…血の匂い…!?」
人狼族の私は人間より数倍鼻が利く。微かな血の匂いが、物ではなく、人が倒れているのだと告げた。
(大変、怪我してる!助けないと…)
私は走り出した。すぐにその人のそばに駆け寄る。意識は無いようだ。
(あ……綺麗…)
私は思わずドキッとしてしまう。倒れていたのは青年…20歳位だろうか?黒髪で、キリッとした目元に長いまつげ。スラリとしつつも鍛えられ、整った体躯。そんな彼を見て、カッコいいとか、逞しいとかの男性へ向けるような賞賛ではなく、ただただ綺麗だなという印象を受けた。
「出血してる…」
私は見とれていたことに気づき、頭を少し振る。手当てのために傷口を水筒の水で洗い流した。
「これは銃創ね…」
私は、その傷が銃で撃たれた物だと思った。
(こういう時って確か…!)
処置の仕方を思い出し、私は赤面する。
(で、でもやらなきゃ。うぅ…恥ずかしいけど、仕方ないわ…)
私は思い切って決意する。傷横たわる青年の傷口にそっと口付け、血を吸い出す。鉛の毒を取り除くためだ。少しだけ吸って私はその血を吐き出す。それを二回ほど繰り返してからハンカチを裂いて傷を覆った。
(あ、血が付いてる…洗わなきゃ。)
自分の口元に血が付着していることに気づいた私は、とりあえず青年を引きずって、お気に入りの木陰に寄りかからせた。そして、血を洗うために、小川へ向かった。
- Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.8 )
- 日時: 2012/04/21 11:57
- 名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)
第4話 きっかけと魔法
昼下がりのひと時を、昴は異邦人として過ごしていた。一緒に隣を歩いている少女の頭には柔らかそうな犬耳が付いている。
(何か、成り行きでこの世界で生活することになっちまったが…)
昴はため息をつく。
(あいつらはどうなったんだろう…エドは、ミハエルは、隊長は…)
昴はPMCの仲間を思った。昴がこの世界に飛ばされる寸前に、何人もの同僚が死んだ。荒くれ者のPMCだが、仲間意識は強く、チームは家族も同然だった。そんな仲間達は、あの後どうなってしまったのか。
(よそう、考えても分からないことだ。)
昴はこれ以上考えても、ネガティブな思考の悪循環にしかならないと判断し、違うことに意識を集中しようとした。
「ねえ、スバルっ!」
「お、おう。何だ?」
エミが声を上げて話しかけてくる。
「何だって、もう、聞いてなかったの?」
どうやら先ほどから話し続けていたようだ。昴はエミに向き直り、話を繋げた。
「す、すまん。考え事してた。」
「前の世界のこと?」
「…ああ。同僚の事をな…」
「あ…ごめんなさい。」
しまった、重い。昴はそう思ったが、とっさに口に出てしまう。エミは不味い事を聞いてしまったと、しゅんとしている。
「いや、いいんだ。それより何処に連れてってくれるんだ?」
昴は雰囲気を変えようと、話題を自分たちの行き先のことに変更する。
「えっと、この村見るとこは商店とか、食堂くらいしかないけど…」
「じゃあ、それを見て回ろう。」
「うんっ、行こう!」
すると、エミは元気になり、昴の手を引いて歩き出す。尻尾もパタパタと動いている。エミは喜んでいると判断して良いのだろうか。
しかし、店がこれしかないというのは以外だった。エミの話によると、この世界は、都市部と郊外での文明差が著しいらしく、大都市と田舎ではタイムスリップしたような感覚さえ覚えるそうだ。
「町のほうへ行けば、お店もたくさんあるのよ。美術館とか図書館なんかもね。」
「そうなのか。あ、ところで…」
昴はここで重大なことに気づいた。
「この世界のお金って、どんなの?」
そう、先立つ物というやつだ。前の世界の、アメリカの紙幣や硬貨が使えるとは思えない。
「お金は、都市部では電子化されたりしているけど、基本は、金、銀、銅貨が流通してるわ。」
これが銅貨と銀貨、といってエミはポケットから硬貨を取り出す。さすがに金貨などは簡単に持ち歩いたりはしないようだ。当然と言えば当然だが。
「大丈夫よ。とりあえず最初のうちは貸してあげる。」
「・・・・・・」
エミは親切に貸してくれると言ったが、昴は内心ショックだった。
(今の俺って、所謂ヒモってやつだよな…)
昴はPMCとして働いていたため、給料もかなりの額を貰っていた。そのため、金に困ったことは無く、これからも困らないだろうと考えていた。しかし、予想外なことに、今の自分はヒモ同然。そのことを認識した昴はがっくりと肩を落とした。
「?」
そんな昴の心境を知らないエミは不思議そうに彼を眺めている。その純情さが恨めしいよ、と昴は思ったのだった。
「着きました。ここが村の往来で、街道の一部にもなってます。」
エミがニュースのリポーター風に紹介する。そこには石畳で舗装された道路があり、人通りは多くないが、それなりに賑わっていた。露店が出ていたり、何に使うのか分からないような道具が並んだ店があったりと、昴は先ほどの落胆を忘れ、辺りを見回した。
「結構人が居るな。」
「今日は町からの物流が来る日で、定期市みたいなことをやってるの。」
見れば、一部の露店では野菜や魚などを叩き売りしており、ファーストフードのような物を売っている露店もあるようだ。
「色々と見たい物はあるが…」
「それなら、」
とそこでグゥ〜と音がした。エミのお腹が鳴ったらしい。エミは真っ赤になって俯き、先ほどまで元気だった尻尾も下がっていた。
「お腹すいたのか…?」
「…うん。丁度昼食時にスバルを見つけたから…」
どうやら原因は俺らしい。昴はとりあえず、食堂に入ろうと提案し、手近な店に入った。
「いらっしゃい!好きなとこ座んな!」
食堂に入ると、カウンターから威勢のいい声が聞こえた。言われた通り、適当な席に座ると、おばちゃんがお冷を持ってきた。
「あら、エミちゃんデートかい?」
「ち、違います!」
店のおばちゃんがエミをからかい、エミは赤くなって講義する。
「そうかい。あんた見慣れない格好だね。どっから来たんだい?」
おばちゃんの矛先が昴に向いた。不味い、どう言い訳するかと悩んでいると、
「大きな迷子よ。しばらく家で面倒見るの。」
エミが助け舟を出してくれた。昴はその言い方に多少ムッとするが、おばちゃんに話をつけた。
「はい、しばらくこの村でお世話になるのでよろしくお願いします。」
「へぇ、最近の子にしては挨拶ができる子だねぇ。関心関心。よし、今日は初回サービスだ。定食タダでいいよ。」
「ありがとうございます。」
おばちゃんは挨拶に機嫌を良くし、厨房へ大声で定食二つと叫んだ。
「あ、私はお弁当があるから、ミルクだけお願い。」
「そうかい?わかった、そうするよ。」
するとおばちゃんは注文の紙を書き直し、厨房に声を掛けながら戻っていった。厨房に居るのは旦那のようで、筋骨隆々といったいでたちのおじさんだった。夫婦で切り盛りしてるようだ。
しばらくエミと雑談しながら待っているとおばちゃんが料理を運んできた。
「はい、日替わり定食。あと、ミルクだね。」
定食は、パンが二つに、肉と野菜の炒め物、そしてシチューのようなスプがついている。とてもおいしそうで、しかも空腹だったため、すぐに食べようと挨拶した。
「いただきます。」
「…何それ?」
すると、エミが質問してきた。どうやらいただきますがきになったらしい。
「ああ、これは食事のときの挨拶だ。宗教的なもんかな?」
「へぇ、そうなの。聞いたこと無かったわ。」
まぁ、前の世界でも、外国ではよく同じことを聞かれたから慣れている。
定食を食べ終え、食後に、と出された紅茶を飲んでいると、
「なんだぁ、こんな安酒しかおいてねぇのかこの店はよぉ!!」
突然場違いな大声が食堂に響いた。