複雑・ファジー小説
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- 宵月町の幽霊退治人@第二話 夏=恋の季節
- 日時: 2012/06/14 18:48
- 名前: 乱舞輪舞 (ID: ./RSWfCI)
宵月町は普通の町といったら普通の町で、変わっている町と言ったら変わっている町という、なんともあやふやな町である。
一見本当にどこにでもある普通の町。
だが本当は、謎の小さな傷害事件がよく起こる町。
だから普通といったら普通で、変わってると言ったら変わっているのだ。
そこで問題、宵月町の謎の傷害事件の犯人は“幽霊”である。○か×か。
答え、○。
そしてもう一問、その幽霊から宵月町を守ってくれている人たちがいる。○か×か。
答え、○。
最後の問題、幽霊から宵月町を守ってくれている人たちのことをなんという?
答え、幽霊退治人。
読者様
揶揄菟唖様
ゆっ子様
あずき様
ありがとうございます!!
- Re: 宵月町の幽霊退治人 ( No.1 )
- 日時: 2012/06/13 16:53
- 名前: 乱舞輪舞 (ID: ./RSWfCI)
プロローグ
谷戸竜也、高校二年生の一日は午前零時より始まる。
と、言うより、無理やり始められる。そして今日、この日も——
竜也が気持ちよくベッドで眠っていると、「竜也起きろ、もう零時だ。“仕事”の時間だぞ」という嫌なほど聞きなれたハスキーボイスが聞こえてきた。
せっかくいい夢見ていたのに……てか、零時のことを“もう”とか言うのってありか? と思いながらも、もう一度眠りにつきたいのをこらえ、うっすらと目を開く。
声の聞こえた先には、いつものことながら白の道着と赤い袴を身にまとっている巫女さんスタイルの少女がいた。右手には長い薙刀を持っている。
学校のマドンナであり、竜也とクラスメイト、さらには家がお隣さんで幼馴染いうザ・ヒロインのこの少女の名前は神林美麗。口の下にある小さなホクロがなんとも色っぽい少女だ。
美麗は部屋の片隅で腕を組んみ、ベッドに横たわる竜也を睨みつけていた。どうやら竜也に対して相当ご立腹の様子。
後で何をされるかわからないので、竜也はベッドから急いで飛び起き、ひとまず美麗の前で深々とお辞儀をする。
「すみません!! 寝坊してしまいました」
月に一、二回は繰り返されるこの光景。
同学年の二人だが、上下関係は白と黒よりはっきりしていた。
「竜也、私は貴様の目覚まし時計ではない。罰として今日の仕事は私をおぶりながらやること。いいな」
フッ、と意地悪な微笑みを浮かべ、美玲は艶やかな黒髪をスッと耳にかける。
ああ、この人、本気だ。本気でおぶらせる気だ。竜也は後日筋肉痛になることを覚悟した。
「はい、おぶります。いや、おぶらせていただきます!!」
「よろしい。では、道着に着替えろ」
ボロボロの竜也の洋服棚を薙刀の先でちょいちょいと示しながら言う。
「了解!!」
もう一度言おう。上下関係は白と黒よりはっきりしている。テストに出るぞー!(出ません)
- Re: 宵月町の幽霊退治人 ( No.2 )
- 日時: 2012/06/13 16:55
- 名前: 乱舞輪舞 (ID: ./RSWfCI)
黒い道着を手に、竜也は洋服棚付近で着替えを始めていた。
美麗はと言うと「そんな貧素な体、見たくない」というあてつけの理由をつけて部屋の向こう側の扉に寄りかかって竜也と会話をしている。
実のところの理由はただ単に恥ずかしいからなのだが、プライドという名の自尊心の高い彼女からしてみれば、恥ずかしいという言葉は“負け”を意味するらしく、けして口には出さないNGワードとなっている。そのため、あんなあてつけの理由を口に出しているのだ。
まあ、いくら幼馴染で仲が良い(?)と言っても二人は高校二年生。さらには異性と来ているものだから、恥ずかしいのは当然だ。と言うか、そうでなくてはマズイ。
「なあ、竜也一つ聞きたいことがあるんだが……いいか?」
扉越しに聞こえる声はいくらか、くぐもって聞こえる。
あとは袴を締めるだけなので、「後で部屋でてからじゃダメ?」と、竜也が聞くと、「駄目だ」と、即答で返ってきた。
「じゃあ、どーぞ」
きゅっと袴を締めて、母の作ったおにぎりが入っている赤いリュックを背負い、洋服棚に立てかけてあった古い日本刀を手に取る。
着替え終わったからつい癖で部屋を出ようかとドアノブに手を伸ばしたが、部屋を出てからじゃダメだと先ほど言われたのを思い出し、竜也も美玲と同様に扉によっかかった。
「竜也、貴様は何のためにこの仕事をしているのか?」
いつも自信に満ち溢れて偉そうな口の利き方をする美麗だが、なぜかボソリとした感じの口調。
仕事のことねぇ……と、竜也は天井を仰ぎ見る。今思えば、一度も不思議に思ったことも考えたこともなかった。
- Re: 宵月町の幽霊退治人 ( No.3 )
- 日時: 2012/06/13 16:58
- 名前: 乱舞輪舞 (ID: ./RSWfCI)
“仕事”
学生は勉強が仕事というので、もちろん竜也たちの仕事は勉強でもあるのだが、竜也たちには勉強とは比べ物にならないくらいの大切な仕事もあるのだ。
その仕事は命を賭けるもの。だが、その仕事をしなくては、この町が、下手したらこの国が危ない。
そう、竜也たちの仕事。それはあの世に行けず、この世にさまよっている幽霊たちをあの世へと送る仕事“幽霊退治”だ。
竜也の家の谷戸家と美麗の家の神林家は、平安時代からの陰陽師の家系。
陰陽師の仕事は、天文・気象・地理を観察し、あらゆる知識や技術を学んで、政府の機関として公式な暦を作成したり、政の吉凶を占ったりをするのが大半の仕事だったが、怨霊や悪鬼を退治するのもまた陰陽師の仕事だった。
その仕事は今でも続き、竜也は谷戸家当主23代目。美麗は神林家当主22代目である。
谷戸家と神林家に生まれたからといっても、誰もが幽霊退治人になれるというわけではなく、幽霊退治人になれるのは生まれた時に、谷戸家は蒼い光、神林家は紅い光を放って産声を上げた者のみとされる。
なので、中には幽霊といった類のものが、全く見えない者もいたりするのだが、大半が幽霊退治人でなくても、一般の人よりは霊感が強い。
竜也と両親と美麗の両親は幽霊退治人ではなく、霊感の強い普通の人だ。逆に、竜也の祖母と美麗の祖父は幽霊退治人で、年も年だがごく希に幽霊退治の仕事を手伝ったりもする。
そんな家に生まれた竜也と美麗は、小学生の頃から幽霊退治人として、夜中に宵月町を駆け抜けるというのがいつの間にか食後に歯を磨く、という程のものになっていた。
だから、突然「何のためにこの仕事をしているのか?」と聞かれれば、谷戸家に生まれ蒼い光を放ち産声を上げたからとしか言い様がない。だが、竜也はそれもまた何か違うような気がした。