複雑・ファジー小説

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灰色のEspace-temps
日時: 2012/07/31 17:55
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)

はい、こんばんは。
またもや新しく作ってしまった火矢 八重です。
短編ですので、すぐに完結すると思います。お付き合い頂けたら・・・と思ってます。

注意事項
・荒らしや中傷、チェーンメールはすぐにお帰りください。
・この話は、ヒトデナシ様作「もしも俺が・・・。」の世界観とリンクしています(勿論ヒトデナシ様の許可はいただいております)。ですので、黒川君をはじめとするキャラがちらほら出たり・・・w
・このお話はフィクションです。魔法や魔女やら出ています。


…以上です。
それでは、物語の始まり始まりー!!


お客様
・ヒトデナシ様
・風猫様
・水月様
・ガリュ様

絵を描いてくれた人
・麻香様
・風マ様

7月8日、執筆始動。
7月13日、参照100突破!
7月23日、参照200突破!


目次
登場人物>>17
序章 世界の裏側にある世界 —Le monde dans l'arrière mondial—>>5
第一章 魔女? —Est-ce que c'est magicien?—>>8>>11>>12>>13>>14
第二章 白と黒と灰色—Blanc et noir et gris—>>18>>19>>20>>22>>23
第三章 正義と悪—Justice et mal—>>24>>25>>26>>27
第四章 五百年前の悲劇—Tragédie il y a 500 années—>>28>>29



前回までのあらすじ
 ある日、『生徒会執行部』の会長と副会長である飛雄馬と令子は、テロリストに抱えられていた金髪碧眼(?)の少女を保護する。しかし、少女は『攫われた』のではなく、テロリストの一員だったのだった。
 金髪の少女=テロリストなんて知らなかった飛雄馬たちは、病院へ連れて行く。だが、少女の病室を中心とした爆発が起こった。令子は昏睡状態、建物は半分が爆破という悲惨な事件に。なのに金髪の少女は無傷で出てくることが出来た。
 奇跡的に無事だった飛雄馬は、『灰色の魔女』という情報を得て、現在警察署に居る、クリスと呼ばれる金髪の少女に会うことに。
 だがクリスは、当時のことをまるっきり『覚えていなかった』——。



Re: 灰色のEspace-temps ( No.23 )
日時: 2012/07/20 18:55
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)


「…でも、ちょっと勝手が違うから、説明しないといけない」
「そうなのか?」
「蓄電が難しかったから」


 少し、しょんぼりした顔でティアナは言う。


「大して、蓄電量も増えなかった…。最大で三発打てたものが、六発に変わっただけ。
 …もう少し、私にも技術があればよかったけど……私が良く作るのは、アンドロイドだし」
「あー、構わん構わん」それを見た飛雄馬は、へらへらと笑って返す。


「ティアナと黒川が一生懸命に改良してくれたんだ。それだけでも充分すぎだ。
「……」
「それに、教えてくれるんだろ? 使い方」


 そう言うと、ティアナはがばっと顔を上げた。


「なっ」


 ニコリと笑う。


「…うん!」


 ティアナも、無邪気な笑みで返した。


「じゃあねぇ。まず、空気の量の説明を…」
「すいません」


 ティアナが『空気破壊』の使い方について説明使用としたとき。
 ふいに、声をかけられた。

 凛とした声だが、男の声か女の声かはわからない。

 飛雄馬たちに声をかけたのは、『人間』だった。
 …まあ当たり前だろうが。
飛雄馬たちには、容姿を見たって、それが男か女か判らなかったのである。

 大体、二十歳ほどだろうか。それよりも若く見えたが、しっかりとしたような雰囲気を纏っていて、とても大人びているようにも見える。
 身長は一七〇cmほど。華奢な体格だが、胸はない。
 顔は…芸能人かと言いたいほど整っていた。
 だが、余りにも綺麗過ぎて、これまた男か女か判らない。
 その人は、黒い髪を、巫女のように元結しており、黒いロングコートを身にまとっていた。黒づくめである。


「はい、なんでしょう?」


 飛雄馬は持ち前の人懐っこさのせいか、違和感なく話しかけた。
 だが。

 ティアナは尋常じゃない怯え方をしていた。


「…どした、ティアナ」


 小さな声で聞くと、震えた声で、ティアナは言った。


「…きゅうま。その人から離れないとダメ」
「何故」
「だってその人……」


 そんな様子に気付かない『人間』は、ヘラヘラ笑いながらこう言った。


「ここらへんに、女の子を見かけませんでしたか? 十歳ぐらいの、金髪碧眼の女の子を」
「…金髪碧眼の、十歳の女の子?」


 クリスの姿が、脳裏に浮ぶ。


「…そう」
















 その途端。


 今まで愛想よく笑っていたのが、冷たいモノへと変わった。
 そして、ティアナの細い首に腕を巻き、一気に自分の胸元へ持ってきた。
「ひゃ!」というティアナの声が漏れる。


「ティアナ!!」
「おっと、動かないで」

『人間』は、ティアナの首元に、鋭いナイフを突きつけた。
 ティアナの顔色が青くなる。

 対して、『人間』は、ヘラヘラと変わりなく笑いながら続けた。


「お前……」
「動くなって言っただろ?
 私はすぐに、この子の命を奪うことが出来る」


『人間』の言葉に、飛雄馬は拳を握り締めた。


 茜色の空が、だんだんと群青色に近づいてきている。
 綺麗な一番星が、輝いていた。


「——丁度、この子みたいな、『渡った』少女。
 見ていないとは、言わせないよ」



 その、『人間』の笑みに、飛雄馬は悪寒と、腹の底から出てくる忘れかけた『感情』を、感じていた。



第二章 白と黒と灰色—Blanc et noir et gris— fin

Re: 灰色のEspace-temps ( No.24 )
日時: 2012/07/23 18:32
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)

第三章 正義と悪 —Justice et mal—



 昔々、とある一人の少女が居ました。
 その少女は、神様と同じ力を持っていました。
 周りは喜び、崇めます。目の前に、神が存在しているから。
 けれど、少女はそれがイヤでイヤでなりませんでした。崇められるのに疲れたのです。

 少女のせいで、大きな争いが起きました。
 血は流れ、涙は枯れ、世界は滅びます。
 周りは少女を蔑み、憎みます。少女が居なければ、自分たちは不幸にはならなかったのだから。
 少女は苦しみました。人に蔑まれる理由が判っていたからです。

 長い長い年月を得て、少女は『神』になりました。
 誰にも崇められず、誰にも蔑まれない、たった一人で生きる『神』となりました。
 けれど少女は嘆きます。
 こんなことを望んだわけでは無いと、長い間一人で泣きます。

 長い長い年月を得て、少女は泣くのを止めました。
 代わりに、少女は一人歌います。
 たった一人の世界で、永遠に。





 私には判りません。
 何が綺麗で、何が汚いのか。

 私には判りません。
 何が光で、何が闇なのか。

 私には判りません。
 何が生で、何が死なのか。

 私には判りません。
 何が正しくて、何が悪とみなすのか。

 私には、全てが綺麗で、全てが汚く見えるのです。
 私には、全てが光で、全てが闇なのです。
 生きているものは死に見え、死に見えるものは生きているかのように見え。
 全ての行いが正しく見えて、悪のように見えるのです。


 だからどうか教えてください。
 この世界は、本当に存在しているのですか?




                             ◆


「この子みたいに、『渡った』魔女。
 ——見たよね?」


 ニコリ、と黒づくめの『人間』は嗤った。
 それだけを見れば、そこらへんに居る女子が黄色い声を上げるだろう。
 だがしかし、『人間』はティアナの首元に、ナイフという物騒なモノを突きつけている。
 優しい人間では無いだろう。

 残酷にも、ティアナに刃を向けて嗤う人間。
 そんな姿を見ていると、忘れたと想っていた『怒り』が、ふつふつと沸いて来た。


「……それは、『灰色の魔女』のことか?」


 飛雄馬はゆっくりと言葉をつむいだ。
 あえてクリスの名を出さなかったのは、相手が術師で、名前を知らないかもしれないからだ。
 昔、紫苑やその友人の召という男の子が言っていた。名前は、この世で一番短い「呪い」なのだと。
 生憎と、飛雄馬は一般人だ。術師に対抗する術は持っていない。そんな相手に、人の名を迂闊に名を明かしたらどうなるか。


(…考えたくもない)


 背中に冷たい汗が流れた。
 黒づくめの『人間』は、ピクリ、と眉を上げた。


「……どうしてキミは、あの子が『灰色の魔女』ということを知っている?」


 訝しげな声が返ってくる。


(……キミってことは、クリスと少なからず面識があるってことだよな)


 そう思った飛雄馬は、聞いてみることにした。


「…アンタは一体、何者だ。
 何で『灰色の魔女』を聞こうとするために、その子に刃を向けている」
「質問に答えないからだよ」


 凍るような声が返ってきた。
 ナイフが首元に強く突きつけられる。夕陽に当てられて、キラリと刀身が光った。


「さあ、早く答えなよ。
 じゃないと、この子の白い肌が、真っ赤に染まるよ?」
「きゃっ…!」


 ティアナの悲鳴が漏れる。

「や、止めろ!」

 焦った飛雄馬が言うと、『人間』は低い声で言った。


「じゃあ、早く話してよ」
「…!」
(これ以上は挑発すると、ティアナの命が危ないか)


 そう思った飛雄馬はこう言った。


「話したら、ティアナを離してくれるな?」



 かなり情けない要求だったのを、飛雄馬は自覚していた。
 …きっと、コイツには嗤われるだろうな、と想った。




 …のだが。


 そう言うと、『人間』がポカンとした様子になった。




(……?)




 一瞬のフレーズ。

 そして。




「…あ、アヒャヒャヒャヒャ!」
「!?」




『人間』は、大爆笑した。
 一体なにが起こったんだと飛雄馬とティアナは混乱する。
『人間』は腹を抱えながら、途切れ途切れに言った。





「は、話したら離すって……!!」
「え、ギャグと受け止められたの!?」


 思わず突っ込んだ突っ込み生徒会長。
 ティアナもこんな展開になるとは思わなかったのか、『人間』の方に見て、あんぐりと口を開けている。
『人間』はティアナから離れ、地べたになってどんどんと地面を叩いた。



「は、話したら離す…話したら離す!!」
「いや、笑い過ぎだよアンタ!! どれだけ笑の融点低いの!!
 後俺、受け狙いで言ったわけじゃないからね!?」


 そこまで言うと、我に返ったのか、『人間』は笑うのをやめた。


「…と、笑っている暇は無い」


 ゴホン、と大げさに咳払いをして、キリリ、と顔を引き締める。
 だが、今さっきみたいな緊張感と怒りは、既に無い。



(…なんだろう、この脱力感……)


 そう、例えるなら、ホラーだと思っていたら、実は馬鹿馬鹿しい話でした、みたいな。
 顔を青くしていたティアナも、「もー飽きちゃった」みたいな顔をしている。
 そう想っていると、突然、お空からレボリューション(思いつき)が降ってきた。



(…うん? なら)
「さっさと話してくれるかな。
 私も暇じゃないんだ」


 そう言って、改めてナイフをちらつかせた。



「よし、判った!!
 これを十回ちゃんと言えたら言ってやる!」
「…何?」



 怪訝な様子が帰ってきたが、飛雄馬はとびっきりいい笑顔で、ビシ! と指差し指を指した。


「『なまむぎなまごめなまたまご』!! はい、十回言って見やがれ!」
「えっ…『なまむぎなまごめなまたまご』!『なまむぎなまごめなまたまご』!『なまむぎなまごめなまたまご!』『なまむぎなまもめなまたまご』!…」
「今、噛んだな!?」

 慌てていった『人間』に対して、飛雄馬は素早く修正する。


「今、『なまもめ』って言ったな!?」
「あ、しまった…!! …って、なまもめって……」





 そう言うと、『人間』は一瞬フリーズ。
 …また大爆笑。








「あ、あひゃひゃ! あひゃひゃ! なまもめって…なまもめって!! ヒー!!」


 今さっきより受けたのか、今度は転がっている。




「今のうちだ、ティアナ! 来い!」


 そのうちに、飛雄馬がこそ、と言う。
 ティアナは頷き、こっそりと離れた。

 一方、『人間』はそれにも気付かず、十分ぐらい笑い転げていたのだった。

Re: 灰色のEspace-temps ( No.25 )
日時: 2012/07/25 22:37
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)

                   ◆


 クリスは、嫌なことがあると、良くのどをつまんだ。
 小さい頃から、良くつまんだせいで、声が出なくなった時もあった。
 嫌なこと…それは、『記憶喪失』のことが原因だった。

 親は知らない。
 気がつけば、一年前、自分はみすぼらしい服で、袋小路に居た。
 何も覚えていない。なのに、頭に響く『知識』があった。

 私の名前は、クリスタル・ファントム・エ・レ・クレール。
 白魔女でも黒魔女でもない、『灰色の魔女』。年齢は九歳。

『灰色の魔女』。それは、白魔女にも黒魔女にも追いかけられる存在。
 あの時の自分は実感が湧かなくて、何故自分が追いかけられなくてはならないのか判らなかったけれど。今なら、少し判るのだ。

 けれど、判らない。
 何故、自分は『灰色』なのか。魔女なのか。
 一体、自分は何なのか。









 …どうして、時に記憶が途切れるのか。


「…『一体何者』。か。
 そんなの。私が聞きたい」


 飛雄馬の想った言葉を思い出す。
 何故か自分は、人が言いたいことが判る。
 色んなものが生み出せる。
 色んなものを消せる。


「そして……世界を『変える』力。か」


 クリスはゴロンと、ベッドの上に転がった。
 ベッドという知識はあったから、ナニコレ珍百景状態には陥らなかった。だが、ベッドの上で寝るというのは、ココに来て初めての経験だった。


「はは、笑っちゃう。
 何が世界を『変える』力よ」


 自嘲気にクリスは呟く。
 ふと、鮮やかな記憶が脳裏に写った。


「結局、あの時だって、あの世界だって、変えられなかったじゃない」


 その事を思い出して、クリスは乾いた声で言う。


(そうだ。あの時も、あの世界でも。
 私は。何も変えられなかった。寧ろ。人を傷つけてばっかり)


 心の中で呟く。
 だが。


(…アレ?
 何で。私)


 記憶喪失なのに。


(知ってるの? あの時のこと。あの世界のこと)









「…ホント、笑ってしまうわ」


 勝手に、口が動いた。
 自分の意思では無い。別の誰かが、喋っているようだった。


(え——!?)


 その声に、ゾっとした。
 自分が喋っているから、自分の声なのに。何故か、その声は低く、冷たく、悪意のある声だった。


「結局、誰も助けられない。
 貴女だけじゃ、何も変えられないのよ」
(…何。これ————!!)


 怖い。
 恐い。






















 コワイ——!!


「…あら、恐がらなくても良いわ」


 クリスではない、別の『魂』が、クリスの肉体の主導権を握る。
『魂』は、十歳にしては発育の良い胸をゆっくりと撫でながら、優しく言った。


「私の『悪魔』の力と、貴女の『許容』の魔法があれば、大丈夫。
 きっと、貴女の思い通りな世界を創ることが出来るわ。
 皆貴女には逆らうことは出来ない。貴女に絶対服従な、そんな世界を創ることが出来る。
 だから、恐がらなくてもいいのよ? クリス」


 優しく、優しく、心を逆なでしてくる。


(イヤ…イヤ!!)


 クリスの心が、『魂』を拒絶する。


「あらあら、強情ね」


 凍てつくような笑みで、『魂』はクリスの胸を抉る様に掴んだ。


「…でも、貴女の意見なんて、どうでもいいの。私がこの言葉を唱えるだけで良いのよ?」
(あ——)


 私の、魔法名。
 そして、私をコントロールするための『呪文』——。

(や、止めて! お願い!)


 必死に、クリスは叫ぶ。

『魂』は嗤う。
そして、無慈悲に唱えた。
































「Fair is foul, and foul is fair」



                            ◆


「アハハハハ…あれ?」
「やっと気付いたかニブチン」


 やっと、ティアナが居ないことに気付いた『人間』。
 …ついでに、『空気破壊(エアクラッシャー)』の銃口を突きつけられたことにも。


「な、何でそんな物騒なモノ、私に突きつけてるのかな?」
「決まってる。アンタが怪しすぎるからだ」


 飛雄馬はスウ、と息を吐いていった。


「これで形勢逆転だな。
 さあ、吐け。何であの子のことを知っている」


 飛雄馬の言葉に、『人間』は嘲笑して言った。


「…キミは、形勢逆転の意味を知らないみたいだね。
 薄々気が付いていると思うけど、私は魔術師だよ? そしてキミは魔力を持たない『一般人』だろう。私が魔法を使えば、キミは一瞬で——」
「このバズーカ」


 だが、『人間』が言い終わらぬうちに、飛雄馬が遮った。


「名前は『空気破壊(エアクラッシャー)』って言うんだけどさ。この破壊力は、トラック一台を木っ端微塵に出来るほどのモノだ」


 飛雄馬は、引き金に人差し指をかけた。
 そして、淡々と言い放つ。


「今、既に安全装置を引いていて、後は引き金を引くだけで良い。
 さて、アンタの魔術と、俺の『空気破壊(シリアスクラッシャー)』とどちらが早いか試して——」
「さあせんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!!」

Re: 灰色のEspace-temps ( No.26 )
日時: 2012/07/27 14:10
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)



「…たく、最近の学生は恐ろしいね。
 そんな危ないものを人に突きつけるなんて。銃口には刃があると想えーって習わなかったのかい?」


 フウ、と『人間』がため息をつく。
 ちなみにまだ、武装解除はなされておりません。


「不審者相手にそんなことする必要ねえし。
 それに、俺は生徒会長だ」
「生徒会長……」
「ちょいとここらは荒れていてな。
 人々の安心を守る為に、実力行使を許されている。ただ、俺は一般人だから、こんな得物を使わなきゃならないワケだ。
 アンタみたいな、不審者には特に目を光らせてるんだ」
「何か軽く傷つくんだが…」
「うっさい。クリスを追い掛け回しているお前は不審者で決定だ」
「いや、私はキミがクリスを監禁しているのではないかと思って……」
「え?」
「え?」


 お互い視線を交わす。


「…どういうことだ? お前は、その、クリスの魔法とやらを狙っておっかけた魔術師じゃないのか?」


 きょとんとした顔で聞くと、『人間』もキョトンとした顔で聞き返した。


「そっちこそ、爆発の参考人としてクリスを連れて行って監禁していたんじゃないのか?」
「え?」
「え?」


 二人の間に、沈黙が流れる。


「…どうやら、お互い勘違いしていたようだな」
「…みたいだね」


 飛雄馬は、ゆっくりとバズーカを下げた。


「何だ…結局はやとちりかよ」


 飛雄馬が盛大にため息をつくと、あはは、と乾いた声で『人間』は笑った。






 誤解が解けたところで、二人は互いに自己紹介をする。
『人間』の名はシルバー・C・ハリウッド。一応、男だそうだ。


「…さて、キミは『灰色の魔女』のことを、何処まで知っているんだい?」


 よっこらせ、と、外国人らしからぬ掛け声で、ベンチに腰を掛ける。


「俺は…黒魔女でも白魔女でもない、としか聞いていない」
「…そうか。では、まず、あの子の魔法から話そう」


 そう言うと、シルバーは少し強張らせた。
 そして、信じられないことを口にした。








































「まずは、あの病院の爆発だが……。あれは…あの子がやったことだ」










 思考が、停止した。

「…嘘だろ?」


 震えた声で、飛雄馬は聞く。
シルバーは「信じられないことだろうが」と返した。


「あの子の魔法は、様々な名前で呼ばれている。
 あるモノは、『拒絶』といい、あるものは『許容』と呼ぶ。あるものは『反転』といい、あるものは、『灰色の魔法』と呼ぶ」
「…反転、っていうのは?」
「そうだな…例を挙げよう。
 例えば、人が普通に立っていたとする。これを、願えば逆立ちさせることが可能なのだ。
 対照的なら、何でも叶う。
 例えば、火がないときに、『火がない現実』と、『火がある空想(願い)』を反転させれば、『火がある現実』になるということだ。簡単に言えば、火を生み出すんだ。
 逆に、『火がある現実』を、『火がない空想』に反転することも出来る」


 対照的なら、何でも良い。火意外のモノを生み出すことだって出来るし、天地をひっくり返すことも出来る。
 …そして、光と闇を反転することも。



「消すことが出来るから、『拒絶』という。生み出すことが出来るから、『許容』とも呼ばれる。
 …どちらのことも出来るから、彼女は『灰色』と呼ばれるのだ」
「……どういうことだ?
 黒でも白でもないから、『灰色』なんじゃないか!?」



 頭が混乱する。
 あの少女が、爆発を起こした?
 病院で、沢山の人の命を奪い、人々に多大なる傷を残し、令子をこん睡状態にさせた。






















 それを、あの子が——!?


「…あれはあの子がやったというのは、少し間違った表現かもしれない。
 あの子は犯人では無い。張本人ではあるが」
「……?」
「あの爆発は、『灰色』の魔法ではないということだ」



 ますます判らない。
 あの爆発は、クリスでは無いけれど、張本人ではある。
 そして、あの魔法は『灰色』ではない。


「黒魔女と白魔女の違いを、どう教えられた?」
「…魔法の最初の始まりが、闇と教えられた。人を呪うのが黒魔女で、聖職者が行って人々を救った魔法が白魔女だと」
「……少し、論点がずれているね」
「え?」
「確かに、生まれた理由はそうだけれど。
 けど、今の存在理由はそんなのではない。何故なら、黒魔女でも人々を救うし、逆に白魔女でも、人を呪う時があるからだ」
「なっ……!」


 言葉を失った。


「じゃあ、なんなんだ、一体!? 白魔女は、神様に仕える聖職者たちが行った魔法なんだろ!?」
「だからだよ」


 冷ややかな声が、興奮した飛雄馬の言葉を鎮める。


「白魔女が祀るのは、神だ。
 神が善だと想ったら大間違いだ。横暴で、暴君で、理不尽な存在である神を祀る。そのためなら何だってするさ、あいつらは。
 逆に、黒魔女は神に背く。そして、悪魔に身を売る。それが黒魔女だ」
「……」
「…そして、灰色は」













 静かな、広場。
 もうすっかり日は暮れ、街灯が照らしている。
 おけらがどこかで鳴いていた。



「——神でありながら、人であり人を愛おしく思う。
 いわば、人を祭る魔女なのだ」

Re: 灰色のEspace-temps ( No.27 )
日時: 2012/07/27 15:54
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)





 シルバーの衝撃的な言葉に、飛雄馬は開いた口が塞がらなかった。
 クリスに聞いてから、白魔女は善の魔女だと思っていた。逆に、黒魔女は悪の魔女だと思っていた。


 それが、あっけなく崩された。



(でも…あの時、感じた違和感は、こういうことか)


 何となく変だと思った。
 何となく、あの言葉に『嫌なもの』を感じた。
 …未だに話の内容は全然理解出来ていないのだけれど。
 もう難しい単語が多すぎる。魔術とは関係の無い『一般人』である飛雄馬にはどんなに優しく説明されても到底理解できぬだろう。



「まあ、難しく考える必要は無い。恐らく、キミは一生知らなくてもいいことだから」


 顔に書いていたのか、シルバーが言った。
 まあな、と飛雄馬は答える。言う前に言われることに、慣れてしまった。


「…取り合えず、黒魔女とか白魔女のことは置いとこうぜ。
 今は、クリスの話だ」

 あの爆発のことについて、飛雄馬は知りたいのだ。
 沢山の人たちの命を奪い、何よりも令子を眠らせた事件の裏方を。
 だから、ここまで『未知の世界』に踏み込んでいる。

 飛雄馬の言葉に、シルバーは頷いた。


「そうだね。では、先ほど『灰色』の魔法のことは話したよね?」
「うん。それは何となく判った。
 要は、想像すれば、何だって出来るってことだよな?」
「少し語弊があるような気がするが…近いからまあ良いか」


 そう言って、シルバーは続ける。


「あの爆発は、『灰色』の魔法ではない。『灰色』の魔法とは、自分の意志で発動するものだ」
「じゃあ何か? あれは、クリスの意志で爆発したってワケじゃないのか?」


 飛雄馬が聞くと、シルバーは逆に聞き返した。


「あの残酷な爆発を、あの子が望んでするように見えるか?」


 そう言われて、飛雄馬はたじろぐ。

















 不意に、彼女の笑みが脳裏に浮んだ。

 あの、あたたかい笑み。
 あの笑みには、少しだけ寂しさが滲んでいた。
 あのあたたかい体温。
 少しひんやりしていて、それでもこそばゆいような、あたたかさが在って。とても気持ちよかった。

 そして——…あの言葉。

『あなたには、幸せになる義務がある』と。

 そういった少女の顔は、とても印象深いものだった。
 あたたかそうで、冷たそうで。
 存在感があって、儚そうで。
 触れてみたかったけれど、触れたら消えてしまいそうで。

 だから、助けたかった。



「…いや」


 飛雄馬は言葉にしていた。


「そんな子じゃない」


 それも、はっきりとした声で。


(そうだ。あの声が、あの笑みが、嘘なわけあるか)


 あの声を聞いて、自分は助けたい、救いたいと思ったのに。
 あの笑みを見て、自分は迷ってしまって。

(疑いすぎだ、俺)

 あの子を、信じなくてどうする。
 周りを疑ってばかりじゃ、何も進まない。


 そう思った時、霧が晴れたような気がした。
 焦りが消えた。憤りが消えた。
 わけのわからない用語も、頭に染み込む様に理解できるようになった。


 シルバーが、フッと笑う。


「あの子は、キミに会って、本当に良かったかもね」
「え?」


 キョトンとした顔で返すと、シルバーは悲しみと怒りを混ぜたような表情をした。


「…今まで、あの子は『灰色』というだけで、追いかけられていたんだよ。
 記憶を失う前も、失った後も。
 一部の黒魔女や白魔女には、その力に目を付けられて追われる。一部の黒魔女や白魔女は、その力に恐れて、彼女を殺そうとする。…今まで、そんな人生しか送っていない」
「……!」


 飛雄馬は、絶句した。
 そう言えば、さっきも言っていた。
 彼女の魔法は、天地をひっくり返すことが出来る。
 無いモノを生み出し、在るモノを消す。
 闇と光を…反転させることが出来る。


(そんな巨大な力…欲にまみれた人間が、見逃すはずがない)


 そして、愚かで小心な人間は、その力を恐れて、排除しようとするだろう。

 ニンゲンと言うのは愚かだ。
 救いようのない、愚か者。
 そんな人間は、そのまま欲や恐怖で…ゆくゆくは身を滅ぼし、勝手に果てるのだ。


(…そんな人間を沢山見てきたのに、彼女は……)


 飛雄馬の心情を知ってか知らずか、シルバーはこういった。


「…きっと、私ではあの子を救えない。だからって、キミを巻き込んで良いということではないと思うが…それでも、頼む」


 シルバーは、深々と頭を下げた。













「どうか、あの子を救ってはくれないか——」

































 昔々、とある一人の少女が居ました。
 その少女は、神様と同じ力を持っていました。
 周りは喜び、崇めます。目の前に、神が存在しているから。

 けれど、少女は普通の女の子でした。
 おしゃれ好きで、可愛いものが好きで、甘いお菓子が大大大好きで。
 優しくて、あたたかくて、何時も人のことを思って行動する、普通の女の子でした。
 何時も、人を疑わない、純粋な少女でした。

 彼女には、善も悪もありませんでした。
 闇も光もありませんでした。
 ただ、どちらも愛おしく想う、『灰色』の少女でした。


 それが、全ての始まりでした。
 悲劇と惨劇の、全ての始まりでした。

第三章 正義と悪 —Justice et mal— fin


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