複雑・ファジー小説

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灰色のEspace-temps
日時: 2012/07/31 17:55
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)

はい、こんばんは。
またもや新しく作ってしまった火矢 八重です。
短編ですので、すぐに完結すると思います。お付き合い頂けたら・・・と思ってます。

注意事項
・荒らしや中傷、チェーンメールはすぐにお帰りください。
・この話は、ヒトデナシ様作「もしも俺が・・・。」の世界観とリンクしています(勿論ヒトデナシ様の許可はいただいております)。ですので、黒川君をはじめとするキャラがちらほら出たり・・・w
・このお話はフィクションです。魔法や魔女やら出ています。


…以上です。
それでは、物語の始まり始まりー!!


お客様
・ヒトデナシ様
・風猫様
・水月様
・ガリュ様

絵を描いてくれた人
・麻香様
・風マ様

7月8日、執筆始動。
7月13日、参照100突破!
7月23日、参照200突破!


目次
登場人物>>17
序章 世界の裏側にある世界 —Le monde dans l'arrière mondial—>>5
第一章 魔女? —Est-ce que c'est magicien?—>>8>>11>>12>>13>>14
第二章 白と黒と灰色—Blanc et noir et gris—>>18>>19>>20>>22>>23
第三章 正義と悪—Justice et mal—>>24>>25>>26>>27
第四章 五百年前の悲劇—Tragédie il y a 500 années—>>28>>29



前回までのあらすじ
 ある日、『生徒会執行部』の会長と副会長である飛雄馬と令子は、テロリストに抱えられていた金髪碧眼(?)の少女を保護する。しかし、少女は『攫われた』のではなく、テロリストの一員だったのだった。
 金髪の少女=テロリストなんて知らなかった飛雄馬たちは、病院へ連れて行く。だが、少女の病室を中心とした爆発が起こった。令子は昏睡状態、建物は半分が爆破という悲惨な事件に。なのに金髪の少女は無傷で出てくることが出来た。
 奇跡的に無事だった飛雄馬は、『灰色の魔女』という情報を得て、現在警察署に居る、クリスと呼ばれる金髪の少女に会うことに。
 だがクリスは、当時のことをまるっきり『覚えていなかった』——。



Re: 灰色のEspace-temps ( No.18 )
日時: 2012/07/21 19:33
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)

第二章 白と黒と灰色—Blanc et noir et gris—


「【灰色の魔女】? 何なんだ、それは」


 飛雄馬が思いっきり「ワケわかんない」という顔で返す。
 杏海は頬を膨らませ、「私だって判んないわよ」と返した。


「私はアンタと同じく、『一般人』だから、魔法とか魔女の類はあんま知らないわ。それに、ただの子供の戯言かもしれないし」


 杏海の言うとおりだった。
 確かに、この世界では『不思議なこと』が起きても、全くおかしくはない。しかし、全部が全部、『そういうもの』とは言い切れないのだ。
 判りやすくいうと、この世界にはちゃんと、『魔女』や『魔術師』、『占い師』『祓魔師』など職業として認められている。しかし、この中にはニセモノも多く居て、詐欺を働く連中は後を絶たないのだ。
 そして、もう一つ。
 自分が『魔法使い』だと『思い込んで』、病気になってしまうモノも居る。
 そう言うものが、犯罪を起こしてしまったり、人様に迷惑をかけてしまったりと、詐欺よりも厄介なモノかもしれない。


「…ただ」
「ただ?」


 杏海は、少し困ったような顔で言った。


「…それを聞いた紫苑の様子が、おかしいのよ。
『知らない』の一点張りなんだけど、顔色が真っ青で」
「紫苑が……?」


 その時、はっと飛雄馬は思い出した。


(そういえば、あの時……俺が、耳鳴りと頭痛で苦しんでいたとき…)


 声が聞こえた。
 止めてと。何度も繰り返し。


(そして——『灰色』)


 あの、少女の声は、確かに『灰色』と言った。
 あの金髪の少女自身も言ったのだ。『灰色の魔女』と。


(ひょっとしたら、あの声は、あの女の子の声なんじゃ…?)


 理屈はわからない。
 もう一回言うように、飛雄馬は一般人だ。
勿論、テレパシーみたいな超能力を持っていない。
人の心に語りかける魔法なんていうのも知らない。
 なのに、そうなんじゃないかという確信があった。


「…なあ、杏海」
「ん?」
「俺、そのこに会いたいんだけど…会うこと出来るか?」


                                ◆


 翌日。
 飛雄馬は警察署へ向う。金髪の少女に会いにいく為だ。
 本当は、昨日のうちに行きたかったのだが、物凄い剣幕で杏海に止められた。


「アンタはまだ安静しなきゃダメ!! 今日一日は寝ときなさい!!
 それに、彼女はまだ警察署で事情聴取を受けているの。面会が出来るのは、早くても明日だろうし。
それに、彼女は重要参考人よ。何だって、無傷で済んだのだから、何か事情があるはずって、警察は睨んでいる。
 面会するなら、事前に話さなきゃ取り合ってくれないわ」
「私が電話して、明日には会えるようにしとくから、我慢なさい」と言われ、飛雄馬はしぶしぶながら引き下がるしかなかった。


 で、昨日は大人しくちゃんと寝ていた。
 そりゃもー寝た。イヤと言うほど寝た。
 そのお陰か、怪我も殆ど治り(大きな火傷はまだまだだが)、体調は好調。天気も良く晴れており、飛雄馬はマウンテンバイクで向っていた。
 昨日、自分が寝かされていた広場を横切る。到着するのが早いからだ。
 サンサンと強い日差しが降り注ぐ。日差しが苦手な飛雄馬は、木陰のところを通ることにした。
 水の落ちる音が聞こえた。噴水の時間が始まったのだ。

 ふと、飛雄馬はブレーキをかけた。
キッ、と鋭い音と共に、ペダルに置いてあった足を地面につける。
 飛雄馬は空を見上げた。
 空には入道雲と……燃え、壊れ、大半が灰になってしまった病院があった。


(…まるで、原爆で破壊された建物のようだ)


 小学校の修学旅行の時を、飛雄馬は思い出す。
 今はもう消えているが、あの時の——爆発した時の紅蓮の炎と、どす黒い煙を思い出した。


(今思い出しても…怖い)


 あんなにも熱かったのに、背筋は凍っていた。
 頭は沸騰していたのに、身体は氷の柱を飲み込んだように冷えていた。
 良く、自分は令子を連れて帰れたと、飛雄馬は改めて思う。


(あれは、事故じゃない)

 恐怖とともに、爆発したときの事を思い出した飛雄馬は、強い確信があった。
 そう。あれは事故じゃない。
 誰かが仕組んだことだ。


(これにも根拠なんてモノは無いけれど…でも、あの時の声は)




 あの少女の声は。止めてと叫んだ。


 一生懸命に叫んでいた。





(それは、確かに僕に届いたんだ。でも、それに逆らうように、あの爆発が起きた)


 きっと、全部繋がっているのだと。何かかかわりがあるのだと。


(令子のこともあるし…あの少女の声が届いた以上、見捨てるわけにはいかない)


 飛雄馬は強く思った。

 この事件は、とても大きな事件だ。
 犯人は、病院という場所を選んだ。もう既に何十人ものの死傷者が出ている。犯人は相当残酷なヤツだ。
 それに、自分が出来ることなんて、たかが知れている。そんなの判っている。
 自分は『一般人』で、『学生』なのだから。
 それでも、目の前で泣いている人を見捨てることは出来なかった。


 こんな風に人の命を奪えるヤツを、許せないと強く思った。
 今、意識を失っている大切な相棒と、『止めて』と、一人訴えている少女を、助けたいと思った。


Re: 灰色のEspace-temps ( No.19 )
日時: 2012/07/17 18:53
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)

                        

        ◆


 静かな廊下に、カツカツと音が響く。
 飛雄馬を案内してくれた婦警さんが、トントンとドアを叩いた。


「どうぞ」


 なまりがない日本語が返ってきた。
 その時、飛雄馬は確信した。


(間違えない——あの『声』と同じ声だ)


 婦警さんが、重いドアをゆっくりと開ける。


「クリスちゃん、今日は貴方に会いたいっていう人を連れてきたわよ」


 婦警さんに続いて、飛雄馬は部屋に入った。
 そこには、可愛らしいネコの絵柄が描かれたコップを持つ、金髪の少女が座っていた。


(やっぱ、美人だなあ…)


 素直に飛雄馬は思う。
 一度、気絶している時に顔を見たが、目を開けていると更に美人に見えた。
 十年後したら、男がわらわらと集まってくるに違いない。


「…だれ?」


 小首をかしげ、大きな瞳をくりくりとさせた。


「御巫飛雄馬君。
 ……あの時、現場に居た男の子よ」


 婦警さんが言うと、金髪の少女は大きく目を開き、そして俯いた。
 婦警さんは苦笑して、ドアノブに手を付ける。


「私は外に出ているから、後は二人で話してね」


 そう言って、婦警さんはそそくさと出て行ってしまった。



 さあ、どうしよう。
 飛雄馬は、どうすればいいか判らずに、立ちすくんでいた。


(一体何から話せばいいんだ? 『灰色』から話せば良いのか? でも、いきなり灰色の話をしてもワケわかんないし…あの『声』の事も話すべきか?)
「ヒュウマ」


 悶々と悩む飛雄馬に、金髪の少女が声をかけた。


「とりあえず、座る」
「…あ、はい」


 金髪の少女に進められ、座ることにした。
 さて、じゃあとりあえずあの『声』のことを話そう——と思った時、金髪の少女が口を開いた。


「クリスタル・ファントム・エ・レ・クレール」
「…は?」


 抑揚の無い台詞に、思わず、飛雄馬は聞き返した。
 何だ、この呪文みたいなヤツ——と思っていると、金髪の少女は言った。


「ヒュウマ、名前言った」
「あ、ああ」
「だから、自分の名前言った。
 初対面の人と話すとき、自分の名前明かすの、礼儀」
「…ま、まあそりゃそうだけど」


 一体、何処からが名前で何処からが名字だ——と思っていると、まるで心を読んだように少女は言った。


「私の名前、クリスタル。ファントムが名字。
 後はミドルネーム」
「…そ、そうか。
 えっと、クリスタルさん」


 そろそろ本題に入ろうとしたとき、また金髪の少女——クリスが遮った。


「クリスでいい。
 クリスタルまでいうの、めんどい」
「そ、そうか…」
「聞いててイライラする」


 ハッキリとした物言いだなあ、と飛雄馬は思った。


(でも、まるで別人みたいだ。
 あの時の少女の声は、とても一生懸命だったけれど…)


 この少女は、何に対しても無気力に見える。
 本当に同一人物なんだろうか、と飛雄馬は思った。


「えっと、クリス。
 君は……」
「覚えていない」


 飛雄馬は、「君は、爆発したときのことを覚えているのか」と言おうとした。
 けれど、またクリスは遮った。

 飛雄馬は目をパチクリと瞬かせる。


「覚えていない。
 ちょっと前まで、私。西洋に居た。
 でも、気を失って。気付いたら、見知らぬ病院に居て。建物が爆発していた」
「…そ、そうか……」


 飛雄馬は、務めて冷静な調子で返した。
 内心では、(ななななななな何で俺の言いたいことが判るんだぁぁぁ!?)と、動揺しまくっていたけれど。
 だが、クリスが聞き逃せないことを言った。


「ヒュウマ。言いたいこと、全部顔に書いてる」
「嘘!?」
「ホント」


 クリスに言われ、飛雄馬は恥ずかしくなった。
 耳まで紅潮していくのが自分でも判る。


「は、ハズかしい…」


 思わず両手で顔を覆った。
 すると、「ふふっ」クリスの声が降ってきた。
 今さっきまでは抑揚のない喋り方だったのに、何だか楽しそうな声で。
 覆っていた両手を下ろして、飛雄馬は視線をクリスに向けた。















 クリスは、目を細めて、笑っていた。
 今さっきの、無気力で無表情だったのが、嘘みたいに、優しく、柔らかく笑っていた。
 クリスは笑ったまま、春の陽だまりのような暖かい声で続けた。


「私、表情がコロコロ変わる人、嫌いじゃない。
 その人は素直だから。だから嫌いじゃない」
「……」


 思わず、飛雄馬はその笑みに見惚れてしまった。


(——ああ。こんな風に笑えるんだな)
(この少女は、こんな風に、優しく笑えるんだな)


 そう思うと、こちらも暖かい気分になって。
 気付かないまま、飛雄馬は柔らかい笑みで返していた。


 すると、みるみるクリスの頬が紅潮していった。
 雪のように白い肌の上に、紅い花が咲いているように。


「…?」


 どうしたんだろう? と飛雄馬は思っていると、今度はクリスがぎこちない調子で言った。


「…に、ニヤニヤ顔。き、気持ち悪い。とっとと直して」


 ガラガラガッシャァァァァァァン!!
 心の中で、何かが盛大に壊れた。もうそりゃ雷が落ちたように壊れた。
 今さっきまで幸せな気分だったから、尚更だ。
 クリスはさらに追い討ちを掛けるように言う。


「私、表情がコロコロ変わる人間は嫌いじゃない。
 けど、眼鏡はキライ」
「んだとテメェェェェェ!! これは伊達じゃぁぁ!!」


 飛雄馬の頭のネジが盛大に飛んだ。そりゃもー、世界の裏まで飛んでいったかも知れない。
 ガタッ!! と、飛雄馬は立ち上がった。思いっきり立ち上がったので、椅子が倒れたが、そんなことは気にしない。



「やるかぁ!? 俺の方が六歳ぐらいちげえんだぞぉ!?」
「望むところ。返り討ちにしてやる」





 とある世界の、とある国の、とある町の、とある警察署。
 その一室で、十歳の少女と取っ組み合いになっていた大人気ない高校一年生が居た。
 ——というか、飛雄馬だった。

Re: 灰色のEspace-temps ( No.20 )
日時: 2012/07/18 18:16
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)










 十分後。
 満身創痍になった飛雄馬とクリスは、机に寝そべっていた。どうやら引き分けのようだ。


「や、やるな…」
「そ、そっちこそ…」


 フフフフと、疲れていても笑う二人。どちらも、はぁはぁ、ぜーぜーぜーと息切れが酷い。


「…って、こんなことしてる場合じゃないんだよ!!」


 ダン!! と、飛雄馬は机を叩いた。


「お前の調子に乗せられて、本来の目的忘れてたわ!!」
「…何。いきなり。逆ギレ。責任転換するな」


 疲れと呆れが混じった情け容赦ない言葉が返ってきた。
 じとーっという視線を送られ、罪悪感にかられる。
 しかし、生徒会長は——何時も会員の始末書を書かされている生徒会長は、そんなことにはめげないッ!!
 一回深呼吸して、心を落ち着かせた。


「俺、君に聞きたいことがあったんだよ」
「『灰色の魔女』のこと?」



























 空気が、凍ったような気がした。
「君、『灰色の魔女』って、何のことか知ってるか——?」今まさに、聞こうとしたことを。








 また、言う前に答えられた。


(…こ、コイツゥゥゥ!! 一体何者!?)
「だから。『灰色の魔女』」心を読んだように——というか、心を読んでクリスは答えた。

「魔女は心を読めるのかよ!?」
冷静なんていう言葉は、飛雄馬の辞書には載っていない。寧ろ、一瞬にして白紙になった。
「当然」クリスは無表情で答える。
「…マジか」


 何だか、一気に力が抜けた。倒れたイスを元に戻し、ゆっくりと座る。
 クリスは言った。


「とりあえず。魔女の話からする。
ヒュウマ。あまり魔女のこと。知らないっぽいし」
「…よろしく頼む」


 言葉にしなくても話してくれそうだなと、飛雄馬は若干達観していた(ダジャレではない)


「まず。魔女には。二通りある。
『黒魔女』と。『白魔女』の二つ」
「…で、どういう風に違うんだ?」


 飛雄馬が聞くと、クリスは答えた。


「魔女は。キリスト教では。とっても異端。
 何故なら。神の力を得ることとなるから」
「……?」


 良く判らない。そう思うと、クリスはもっと判りやすく説明した。


「宗教は。神は絶対的存在だから。自然の力を持つから。だから宗教者は崇める。
 でも魔女は。人間でありながら。神と同じ力を持とうとするから。そして持つから。だから嫌われる。
人間ほど。愚かな生き物は居ない」


 そう言ったクリスは、やはり無表情だった。

 けれど。


(何でだろう? 声は、怒りと悲しみで出来ているような、そんな印象がある)


 飛雄馬は、黙って聞く。



「神の力をもって。誰かに認められたい。誰かをいいなりにしたい。誰かを殺したい。
 …魔法は。元は闇の中で生まれた。
 だから。最初に生まれたのは。人を呪う。黒魔女だった」
「……」
「でも。後から。聖職者の中で。魔術を行うモノも増えた。
 奇跡の技を見せれば。より多くの信仰を集めることが出来るから。便利だから。
 そして。彼らはそれらを使って。人助けをしていった。
 聖職者の間で増えた魔法使いを。人は、白魔女と呼んだ」




 それが、黒魔女と白魔女の違いだと、クリスは言った。
 人を呪うか、否か。その違い。
 悪い魔女か、良い魔女か。その違い。


(…あれ? でも…なんかおかしくないか?)


 飛雄馬は、違和感を感じた。
 何ていうんだろう。自分でもよく判らなかった。
だが、こう、『これ、ちょっと間違ってないか?』という違和感が——。
 だが、それにたどり着こうとする前に、クリスが説明の休止符を打った。


「…そして。その中間に出来たのが。『灰色』。けど、なんやかんやで。数は滅亡したといって良いほど。少なくなった。
 だから。『灰色』の存在を知る人は。凄く少ない。
 以上。終わり」
「ああそう。以上で終わり————ってええ!?」


 ガタ!! と立ち上がる。本日二回目。


「いや、『灰色』については!?
『灰色』は一体どういう理由で生まれたの!? 『なんやかんや』でほぼ滅亡した、その『なんやかんや』って!? 黒魔女と白魔女の説明と比べて大雑把すぎやしませんかね——!?」
「五月蝿い。メガネ。だからお前は。何時までたっても。伊達メガネなんだ」
「何だその伊達メガネ否定批判はぁぁぁ!!」


 最早漫才化している二人の喧嘩。しかも若干涙目になっている情けない高校男子生徒。
 はあ、とクリスはため息をついた。


「ヒュウマ」
「…なんだよ」
「この世の中には。知って良いことと。知らないほうが良い事があるんだよ」


 そう言って、クリスは笑った。


「『灰色』のことなんて。知らなくても。生きていける。
 本来。知らないほうが良いんだよ。
 貴方は。笑って。幸せになれる権利がある」
「…ううん。違う」クリスは首を振った。














「貴方には。幸せになる義務がある」












 その笑みと声は、あまりにも優しかった。
 優しい、拒絶だった。



「貴方には。家族が居る。
 一人、意識不明だけれど。それでも。貴方が傍で。笑わないと。幸せにならないと。
 きっと。帰ってこない」


 青緑の目が、ゆっくりと近づく。
 その目は、とてもとても、何処までも深く、優しい色が彩られていた。
 クリスはそっと、綺麗な手を飛雄馬の頬に当てる。













 暖かい。



「…だから、もう。『灰色』のことは。忘れて。
 私の情報を与えれば。その子を助けることが出来るかもしれないと思った。だから話した。
 …だから。それ以外の時は忘れて」


 そう言って、クリスは目を細めた。


 その時。
 飛雄馬は、クリスの心の深淵を覗いたような気がした。



(本当は)飛雄馬は思った。
(彼女は、無表情の仮面を被っているだけで。本当は、優しくて、暖かい女の子なんだ)

















 そう。
 まるで、この子の瞳のように深くて、柔らかい春の日差しのように。

Re: 灰色のEspace-temps ( No.21 )
日時: 2012/07/18 18:54
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
参照: http://hugen.web.fc2.com/rikue2.html

クリスちゃんの絵を更新!! 風マ様作です!!

Re: 灰色のEspace-temps ( No.22 )
日時: 2012/07/19 22:06
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)

                            ◆


 陽射しが強い午後の広場。
 噴水の傍に在るベンチ(日陰)には、どよよんと重い空気を背負う飛雄馬が座っていた。


(……結局、丸く収まられて何も聞けなかった……)
「一体、何してきたんだ、俺……」


 独り言を呟く。
 肩が、身体が、重い。


 助けたいと想った。
 救いたいと想った。


(なのに…)
「何で俺、引き返しちゃったんだぁ?」



 更に身体が重くなる。
 それを振り払おうと、飛雄馬は思いっきり顔を上げた。

 キラキラと水の珠が飛び散る。
 強い日差しが、少し柔らかくなったような気がした。
 空は、相変わらず青い。
 それに負けず、のびのびと育った木々が、太陽日差しを遮る。



(…あんな風に、拒絶されるのは初めてだった)



 生徒会長になって、人助けをする機会が増えた。
 けれど、最初のうちは中々上手くいくことはなかった。というものの、最初は全て手酷く断られた(?)のだ。



「アンタなんかに私の気持ちが判るはずがない!!」——良く言われた。ってか、今でも言われる。
「偉そうに。偽善者が」——今でも日常茶判事に言われる。



 最初は、攻撃的な言葉に、へこみそうになった。
特に、「偽善者」なんていわれた暁には、自分が正しいことをしているのか、判らなくなった。
 けれど、少しずつだが判ったのだ。
 そう言うことを言っている人こそ、実は「助けて欲しい」と願っているのだということに。

 だから、飛雄馬は迷わず自分の「正義」を貫いてきた。
 けれど。


(…あの笑顔みたら、その『正義』が本当に正しいのか判らなくなってきた……)


 あの、暖かい優しさの裏には、冷たい拒絶が潜んでいた。
 けれど、それも「優しさ」ゆえに冷たいのだということに気付いたからこそ、引き返してしまった。


(あれは、必死で助けているような感じじゃなかった)


 優しく在れるのは、余裕があるからだ。
 余裕のないものは、人の事なんて考えない。


(…だったら、お節介になっちゃうだろうな)


 ぶらんと、手を背もたれにかける。



 人が手を貸して良いときは、その人が一生懸命に悩んで、助けを求めている時だ。
 それ以外は、絶対に手を貸しちゃいけない。
 それは、飛雄馬のポリシーだ。


 何故なら、本当にその人の為になっているか、判らないからだ。
 その行為が、その人にとっては毒になっているかもしれないからだ。

 その人の為とは、その人にしか判らない。
 …否、きっと、その人自身にも判らない。
 けれど、やはりその人の意志を周りが曲げることは許されない行為じゃないかと、飛雄馬は思った。














『——判らないときや、悩んだときは、空を見上げなさい』


 杏海に言われた言葉だった。


『空に、大きな目があると想いなさい。その目は、何時だって自分を見ている目だと想いなさい。
 ——その目に見られて、恥ずかしくない行動をとるよう心がけなさい』




 そう言われて、ずっと心がけてみたけど。


「…良く、わかんねえなあ」


 やはり答えは見つからなかった。




























 女の子の声が、遠くから聞こえた。


「……ま、きゅうま!」


 ゆさゆさと小刻みに揺らされて、飛雄馬はまぶたを開けた。
 視界には、女の子の顔が大きく写っていた。

 少女は、高校生ぐらいに見えた。レモン色の長い髪に、サファイヤの瞳を持つ、とても可愛らしい女の子。
 そして…かなりけしからんほどのナイスバディだった。


「…おや、ティアナ」
「えへへぇ。
 もう、夕方だよ」


 起き上がると、確かに夕陽が広場を染めていた。


「…意外と寝てたんだな、俺」
「こんな暑い日に外で寝るなんて。きゅうまはひょっとして『まぞ』?」
「いや、俺はノーマルだから。
 …ってか、何処で覚えた? そんな言葉」


 飛雄馬が聞くと、ティアナと呼ばれた少女は、ニッコーと笑っていった。
 その時、飛雄馬の第六感(嫌な予感)が働いた。



「ゼロが教えてくれた!!」
「アイツかぁぁあぁぁぁぁ!!!」


 ティアナの予想通りな答えに、飛雄馬はシャウトしたのだった。















 少女の名前はティアナ・ホワイト。
 飛雄馬が知る、『異世界』を渡った一人である。
 と言っても、彼女が異世界を渡る力を持っているわけでは無い。前回書いたように、飛雄馬の友人の『力』でこの世界へ来た。
 どうやら彼女は、『いつの間にか』この世界に来ていたらしい。
 …詳しいことは、あまり判ってない。

 趣味兼特技はアンドロイド作り。天才的機械技術知識を持ち合わせており、現在はゼロと呼ばれるアンドロイドと共に、飛雄馬の友人の友人の家に居候中だ。
 詳しいことは、『もしも俺が…。』を読んでみよう!!


 ちなみに、こう見えても彼女は十歳である。もう一度言おう、十歳である。





「…てか、何でティアナがここに?」


 飛雄馬が聞くと、ティアナはニッコニコと笑いながら、脇に抱えているものを取り出した。


「クロカワにこれ、頼まれての。きゅうまに渡してって」


 ちなみに、彼女が飛雄馬のことを「きゅうま」と言っているのは、当初口が回らなくて定着してしまったあだ名である。
 まあ、それはともかく。


「黒川に…?」


 一体なんだろう? と、飛雄馬は思っていると。
 テッテカテーっと、どっかの某二十二世紀ネコ型ロボットがポケットから秘密道具を取り出す効果音が鳴って出てきたのは…。


——————————蒼のバズーカだった。











 良くこんなものを持てたな。ってか、良く職務質問されなかったな。
 そんなツッコミは、言わないで頂きたい。
 そう。これはフィクション。ファンタジー。
 何でもありな世界なのである。


 まあ、飛雄馬たちには違和感がないので、スルーしていたりしたのだったりする。


「…そいつは、空気破壊(エアクラッシャー!!)
「蓄電量二倍にすることが出来たよぉ。
 勿論、ティアナも手伝った!」
「サンキュな、ティアナ!」



 感謝の言葉を言って、飛雄馬は蒼のバズーカを受け持った。


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