複雑・ファジー小説

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灰色のEspace-temps
日時: 2012/07/31 17:55
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)

はい、こんばんは。
またもや新しく作ってしまった火矢 八重です。
短編ですので、すぐに完結すると思います。お付き合い頂けたら・・・と思ってます。

注意事項
・荒らしや中傷、チェーンメールはすぐにお帰りください。
・この話は、ヒトデナシ様作「もしも俺が・・・。」の世界観とリンクしています(勿論ヒトデナシ様の許可はいただいております)。ですので、黒川君をはじめとするキャラがちらほら出たり・・・w
・このお話はフィクションです。魔法や魔女やら出ています。


…以上です。
それでは、物語の始まり始まりー!!


お客様
・ヒトデナシ様
・風猫様
・水月様
・ガリュ様

絵を描いてくれた人
・麻香様
・風マ様

7月8日、執筆始動。
7月13日、参照100突破!
7月23日、参照200突破!


目次
登場人物>>17
序章 世界の裏側にある世界 —Le monde dans l'arrière mondial—>>5
第一章 魔女? —Est-ce que c'est magicien?—>>8>>11>>12>>13>>14
第二章 白と黒と灰色—Blanc et noir et gris—>>18>>19>>20>>22>>23
第三章 正義と悪—Justice et mal—>>24>>25>>26>>27
第四章 五百年前の悲劇—Tragédie il y a 500 années—>>28>>29



前回までのあらすじ
 ある日、『生徒会執行部』の会長と副会長である飛雄馬と令子は、テロリストに抱えられていた金髪碧眼(?)の少女を保護する。しかし、少女は『攫われた』のではなく、テロリストの一員だったのだった。
 金髪の少女=テロリストなんて知らなかった飛雄馬たちは、病院へ連れて行く。だが、少女の病室を中心とした爆発が起こった。令子は昏睡状態、建物は半分が爆破という悲惨な事件に。なのに金髪の少女は無傷で出てくることが出来た。
 奇跡的に無事だった飛雄馬は、『灰色の魔女』という情報を得て、現在警察署に居る、クリスと呼ばれる金髪の少女に会うことに。
 だがクリスは、当時のことをまるっきり『覚えていなかった』——。



Re: 灰色のEspace-temps 『少女と世界の裏側』 ( No.8 )
日時: 2012/07/13 17:28
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)

第一章 魔女? —Est-ce que c'est magicien?—



 とある世界の、とある町。
 その、とある表通りで、三人の男が倒れていた。
 唯一人、呆然と立ち尽くしている男の腕の中には、小さな女の子が居る。


「な、何だよアイツッ…… !!」
「コ、コイツッ…本当に女なのか !?」


 倒された男たちは、口々に言う。若干、声が震えているが、気のせいではない。
 彼らが恐れて口々に言うのは——一人の少女だった。

 茶色のブレザーとスカートを纏っている、少女。ここらへんにある、普通の高校の制服だ。
 だが、腕には『生徒会執行部』と書かれた緑色の勲章がある。
 黒い髪は腰まであり、それらは風にふわりとなびいた。


「貴様ら」


 まるで清水のような、綺麗な声で、少女は言った。
 漆黒の双眸は、スっと、睨むわけでもなく、ただ見つめる。


「気合が足りんな」
「ぎゃぁぁぉあぁぁぁあぁ !!」


 ゴフッ、ボカッ
 九十九の足蹴りヒットと、一の拳が鋭く男たちの身体にめり込んだ。
物凄い音が、表通りで響く。
 倒された彼らは、最近全国で騒がれるようになった、テロリストたちだ。
建物を爆破させる、銃で乱射し、人を脅して楽しむ、など、とにかくあくどいことをやっている犯罪者たちである。

 そして、それらを殴り飛ばし、壊滅させたのは、たった一人の少女だった。



                              ◆



 まもなく、パトカーに乗った警察がやってきた。
気絶した男たちは、順番にパトカーの中に入れられていく。
 サイレンが鳴り響くせいか、表通りには野次馬が集まっていた。


「はい、どいてどいてー」


 そこに、一人の少年が人ごみをかけわけた。
 黒い短髪に、黒の瞳という平凡な容姿だが(と言っても、少しだけ茶色が混じっている)、少女と同じ学校の制服を着ており、腕には同じく『生徒会執行部』という勲章がある。
 少年は少女のもとへ行くと、呆れてため息をついた。


「…何してんだ、令子」
「…あ、飛雄馬」


 少女は少年の姿を確認すると、ニパ、と笑った。



 テロリストたちをぶっ飛ばしたこの少女。名は螢光院令子(けいこういんれいこ)。
 普通の高校一年生だが、諸々の事情で、『生徒会執行部』の副会長を務めている。
 そして、この少年の名は御巫飛雄馬(みかなぎひゅうま)。容姿とは裏腹に、珍しい名前だ。
 彼もまた高校一年生なのだが、諸々の事情で『生徒会執行部』の会長を務めている。


 彼らが住んでいるのは、とある世界の小さな町。
 その町では、『魔術』も『超能力』、所謂『オカルト類』が認められている、奇特な町だ。
 その為、『不思議な力』を持つ人間が警備に当たっていたり(その、不思議な人間が集まる集団を、『特殊部隊』という。『特殊部隊』隊員の年齢は様々で、学生からお年寄りまで存在する)、逆にその力を犯罪に使う人間も居る。
 彼らが務めている『生徒会執行部』は、『特殊部隊』の系列の集団である。(しかし、立場は『特殊部隊』が上である)その為、事あらば実力行使を認められている。
 …と、まあ。この『世界』の説明が終わったところで、早速本文へ戻ろう。

 
「…ったく、買い物途中でハデな音が聞こえたから来て見れば」


 少年は、深く、深くため息をついていた。


「ここまでになっていたとは……。
 どーするんだよ、始末書書かされるぞ」


 そう言うと、令子はシラっとした顔で答えた。


「その時は、飛雄馬に任せよう」
「オイィィィィ!!」彼はすかさずシャウトする。
「なんなんだ、騒々しい…」
「いや、オレじゃないし! お前がしたんじゃん!!
これどう見たってオレ無関係だよなッ!? なあ!!」


 若干涙目で訴える飛雄馬。
 だがしかし、令子は更にこう言った。


「いや、会員の手柄は全員の手柄。
 逆に、会員の失態は生徒会長の失態だろ?」
「うぐッ!! いや、確かにそうだけど…。
 …はあ。オレ、全然悪いことしてないのに……」
「自分で言った事じゃないか」


 令子にバッサリと言われて、シクシクと泣き出す飛雄馬。


「…泣くなよ、会長」


 あまりにも威厳のない会長である。
 令子は一つため息をついた。


(少し、やりすぎたか…)


 苦い思いが広がる。
 自分らは権利があるとはいえ、学生だ。
 それが、全国を騒がすテロリストをぶっ飛ばせることが出来たとしても、やはり危ないことに首を突っ込むべきではない。
 それが最近になって判るようになった令子は、慎重に行動するようにしていた。これでも。


(…けど、今回ばっかりは)


 ふと周りを見渡すと、あの少女が立っていた。
 どう見たって、十歳前後の外国人。
 淡いのに、とても良く目立つ金髪だ。
 瞳は、海や空を連想される蒼とも、樹海のような深い緑ともとれる、不思議な色。
 そして、何よりも、異国というより、異世界の国のもののような、そんな服装を身に纏っていた。

 少女がテロリストに抱えられていた——それを確認した時には、すでに身体が動いていた(そして冒頭に戻る)。


(私、小さい子には弱いからなあ…)


 はあ、と思わずため息をつく。
 ちょっと前、飛雄馬に「ショタロリコン」と言われたが(その時はローキックをかましてやった)、本当にそうかもしれないという疑惑が胸の中にあった。


(…でも私は、一応好きな人がいるから、ショタロリコンじゃないよな!? うん、そうだ! ただ単に小さい子が好きなだけなんだ!!)


 どうでも良いことを自己完結させて(若干言い聞かせているような気がするが)、改めて少女がどのような流れでテロリストと共にいたのか、考えることにする。


(家族と一緒に、旅行で来ていたのだろうか?)


 確か、ある国では、六月から夏休みというところがあった。
 そうだとしたら、夏の休暇で家族と来たのだろう。
 ならば、彼女は今、家族と離れ離れになっているのではないか。
 放っておけなかった令子が少女に話しかけようとしたとき。


 突然、少女の身体が揺れた。


(…? どうしたんだ?)


 フラフラと、彼女は揺れ、そして。






















 バタン。


 少女は、フライパンのように焼けたアスファルトの上で、うつ伏せになった。


「あぁぁぁぁ——!!」
「え、どした!?」


 令子の叫び声に、飛雄馬が反応した。
 飛雄馬は、令子の視線を辿り、同じように叫んだ。


「って、ああああー!! 女の子が倒れてるぅぅぅ——!!」
「早く、救急車!! 救急車!! えっと、一一〇番だっけ、一一九だっけ……」


 大パニックになる飛雄馬と令子。
 周りは、『何やってんのあいつら』という視線を彼らにぶつけていたが、そんな視線を汲み取ることすら出来ないほど慌てている、生徒会長と副会長だった。

Re: 灰色のEspace-temps 『平凡な会長と超人な副長』 ( No.9 )
日時: 2012/07/09 21:22
名前: ガリュ (ID: yycNjh.Z)


 どうもです!うおお——新作だ——!!!!!
初コメとれなかった;
とりあえず令子が好きだ——!!

金髪の少女が魔女!?倒れた後どうなるのか…!?楽しみです!
更新頑張ってください!!

Re: 灰色のEspace-temps 『平凡な会長と超人な副長』 ( No.10 )
日時: 2012/07/10 17:55
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)

ガリュ様ああああ!!w

コメありがとうございます!!

令子が好き…やっぱり最強で可愛い女の子はイイですよね!w

金髪の少女…これは果たして何者なのか、お楽しみです!

更新頑張ります!!

Re: 灰色のEspace-temps 『平凡な会長と超人な副長』 ( No.11 )
日時: 2012/07/10 18:13
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)





 取り合えず、二人は少女を連れ、病院へ行った。診断は軽い日射病。
「少しここで休ませなさい」という先生のありがたい言葉に甘えて、少女を寝かせることにした。


「うっ…」

 暫くして、少女が目を覚ます。
 傍にいた令子が、「大丈夫か?」と聞いた。ちなみに、飛雄馬はただいまお手洗いである。
 少女はだるいのか、首を少しだけ動かした。


「ここは…?」


 返ってきた言葉は、意外や意外、流暢な日本語である。


「ここは病院だ。君は、テロリストに連れ攫われていたんだぞ、覚えているか?」
「…連れ攫われた?」
「安心しろ。テロリストは捕まった。
 君のお母さんやお父さんは何処にいる? 連絡した方が良いだろう?」


 にこやかに続ける令子。
 だが、少女は上半身を起こすと、冷ややかな声で言った。


「余計なお世話よ」
「…何?」


 少女の言葉に、令子が訝しげに返した。


「だれが助けてくれなんて言ったかしら?」
「…言ってはいないが、テロリストに攫われているのを見たら、誰だって…」
「ああ、やっぱり勘違いしていたのね」少女はクスクスと笑いながら続ける。
「私は、テロリストに攫われたわけじゃない」


 そして少女は、悪意を込めて笑った。


「私はあいつらの、テロリストの一員よ」


 ……だが。


「ヘー、ソウナンダー」
「…何、その棒読みとその無表情な顔は。
 信じちゃいないわね?」
「いや、だって…なあ?」


 ここまで来て、この少女は中二病じゃないのか、と疑いたくなった。
 令子の明らかさまに信じていない態度に、ため息をつきながらも、やはり笑い続ける。


「…まあ、いいわ。信じてもらえなくても。
 こんなナリじゃ、誰だってそう思うだろうから。
…でも、貴女。面白いわね」
「…は?」


 令子が聞き返すと、少女は更に悪意ある笑みを濃くした。









































「…だって貴女、『灰色』でしょう?」





 ダン! と、床を蹴る音が響いた。
 令子は少女から離れ、後ろに下がる。


「…何処で、それを」


 清水のように清らかな声も、ヤスリで削ったような声に変わった。


(…何だ。何だ、こいつ)


 冷や汗が流れる。奥歯が鳴る。産毛が逆立ちする。


(今まで、怖いなんて感じなかったのにッ……!!)

「怖いでしょう?」心を読んだように、少女は言った。
「当たり前よ。だって、貴女より私の方が歳を食っているもの。
 貴女も、『灰色』としてかなりの腕前のようだけど、歳の差には勝てないわ」


 少女は、ゆっくりと近づく。
 歩み寄るのではなく、そのまま空を浮いて近づいているのだ。手足は、全く動いていない。

 まるで、瞬間移動のように、少女は令子の目の前にいた。
 少女は、令子の顎を指でつついて、ニッコリと笑顔で言った。


「あら、恐怖に怯えている顔も可愛いわね。
 恐怖で怯えながらも矜持を保っているのも、また素敵。壊しがいがあるわ」


 けれど、その笑みは温かみなどカケラも無くて。
 更に恐怖を濃くするような、凍てつく笑みだった。


「…貴様、何者だ!」


 震える声で、令子は聞く。
 脳裏で、思考が駆け巡る。


(私が『灰色』だと知っているのは、この世でただ一人のはずだ)
(そして、私以外の『灰色』も、存在しない。というか、あってはならない)
(なのに、この少女は何故ッ…!!)


「あら、私?
 …どうしましょう。『今』の私は、真名で名乗った方がいいかしらね」


 長い、美しい人差し指を口にくわえて、少女はこう言った。




























「Fair is foul, and foul is fair」




 少女がそう放った時。
 この病室を中心とする爆発が、起こった。

Re: 灰色のEspace-temps 『【灰色】の少女、対峙』 ( No.12 )
日時: 2012/07/11 16:07
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)

                 ◆



 少し時間を遡って。


「あれ、飛雄馬の兄貴—?」


 お手洗いに行っていたこの物語の主人公、そして主人公なのに全然目立たない飛雄馬は、病院の廊下で一人の少女に会った。


 身長は一五〇cmと小さめである少女は、ベージュで統一されたチャイナ服を着ている、ちょっと変わった外見だった。
 黒く長い髪を一つ結びに纏め、人懐っこそうな顔立ちと雰囲気。

 彼女の名前は賀茂紫苑(かもしおん)。飛雄馬が卒業した中学校の後輩であり(現在中学二年生)、令子の従妹にあたる少女だ。


「おー、紫苑。どうして病院に?」
「ボクは定期検査だよ。最近、トラブルに巻き込まれてさー」ニッコリと、紫苑は笑った。


 自身を「ボク」と言っている、変わった少女。
 実際、彼女は変わっていた。
 彼女はタロット占いが出来るのだが、これがまた『絶対に』はずれることは無い。

 その他タロットカードを実体化させたり、術式を作ったり等の『魔法』を使える。

 だが、『魔法』が使えるゆえに、普通の人は持たない『リスク』を背負うことになる。そこで、定期検査が必要なのだ。

 …まあ、色々説明をはぶってしまったが、詳しい話はまた後ほど。


「兄貴は?」
「ああ、俺は——」


 かくかくしかじか。
 今までの事を話すと、紫苑は納得した。


 小説とは、便利なものである。




「へえ。じゃあ、令子お姉さまも居るの?」
「ああ、そうだけど」
「よーし、じゃあ会いに行こう、兄貴」


 相変わらずニコニコと笑う紫苑。
 紫苑には、両親が居ない。昔爆発事件に巻き込まれ、亡くなった。現在、祖母と二人暮らしである。
 令子にも両親が居ない。なので二人は、姉妹のような関係だ。紫苑が「お姉さま」というのは、そう言う事情からきている。


(…だから、令子も紫苑を妹みたいに可愛がっているんだろうな)


 飛雄馬は、そんな事を思った。










 紫苑と肩を並べるように廊下を歩く。
 何故か廊下には飛雄馬と紫苑以外誰も居ない。だが、もし通行人が居たなら、二人を仲の良い兄妹だと思っただろう。
 歩いていると、ふと、紫苑がこんなことを言い出した。


「でも、金髪碧眼の美少女かー。
 案外、外国から来たんじゃ無くて、ティアナちゃんみたいに異世界から来たかもしれないねー」
「まさか」飛雄馬はすぐに否定した。


 確かに紫苑の言うとおり、この町には異世界を渡ることが出来る能力者も存在する。
 とはいっても、その能力は極めてレアだ。
 飛雄馬と紫苑の友人に、その能力を持つモノが一人居る。しかし、その能力も一日三十分が限度だ。



「一方的に送ったり引き込んだりする術者や能力者なら『渡る』能力者よりかは多いけど…それでも少数だし、更に難度の『行って帰る事が出来る』能力者っていうのは、そうそう居ないだろうな」
「もー! 兄貴は夢のない事言ってー!!」紫苑は頬を膨らませ語調を強くして言った。
「世界は広いんだよ!? それに、世界は一つだけじゃないんだから!
 沢山の世界の中で、異世界を『渡る』事が出来る人間が居ないなんて言い切れる!?」
「…まあ、そうかもしれないが」


 実際居るしなあ、と飛雄馬は心の中で呟いた。


「…けど、人間じゃないかもしれないぞ」
「え?」
「世界には、人間じゃないモノも居るだろ?
『渡れる』のは、人間だけじゃないかもしれないぞ?」


 飛雄馬の言葉に、「あ、そっかー」と紫苑は納得した。


「じゃあ、一体何だろうね?」
「さあな。妖とか、精霊とか…




























 はたまたは、神様とかな」



 その言った時だ。
 キィィィィン…と、耳障りな高い音が、飛雄馬の鼓膜を突き破るように響いた。
 同時に、頭に鋭い痛みが走る。


「!?」


 あまりの痛さに、飛雄馬は顔を歪める。


「どうしたの、兄貴。大丈夫?」


 紫苑が、飛雄馬の顔を覗き込んだ。
「大丈夫、心配するな——」そう言おうとしたが、それは出来なかった。
 耳鳴りは止んだが、痛みは引かない。寧ろ、どんどん悪化していくようだ。
 頭痛があまりにも酷くて、飛雄馬は膝をつく。


「兄貴ッ!?」
「うっ……」


 今まであまり心配した表情を出さなかった紫苑の瞳に、焦りが表れた。
 飛雄馬は、痛みのあまり、目を閉じる。






















 ——…めて。


 頭痛で紛れ込みそうな、か細い声が頭の中に響いた。


 ——止めて……!

 今度は、ハッキリした声が聞こえた。
 少女の声だ。
 だが、耳から聞こえるわけではなく、頭に直接話しかけるような、所謂『念話』というモノのような気がした。


 ——止めて! 私の身体を使って、酷い事をしないでッ!!
 ——止めて…! 止めて…!!
 ——『灰色』だからって…そんな権限は私にも貴女にも無い。そうでしょう!? だから、いい加減止めて!!


(…灰色? 一体、何の事だい?)
 ——これ以上、地獄を見せないで!!


 飛雄馬は少女の声に語りかけるが、少女には届かないようだった。
 それでも、飛雄馬は話しかける。


(君は誰? 何を止めたいんだい?)


 だが、少女には届かない。


 ——地獄に落ちるのは、私だけでいい。
 ——あんな世界に佇むのは、私だけでいい。
 ——だから、これ以上、無関係の人を巻き込まないでッ!!


(地獄……? ねえ、君は一体何なんだい?)



 それでも、それでも飛雄馬は話しかける。
 届かないと気付いても、話しかける。


(どうして、そんなに辛いんだい?)
 ——止めなさいッ!!



 飛雄馬の声は届かないまま。
 少女は、とてもとても強い口調で『命令』した。
 けれど、その言葉は、あまりにも寂しく、悲しく、辛い、ものだった。





 一瞬、『何か』が見えた。
 そこは、灰色の雪が降っていて、少女がそこにポツン、と一人佇んでいるのだ。
 景色には何も色が無いのに、少女だけ色があって。
 髪は淡い金。肌は雪のように真っ白でも、薄く紅がさしていた。
 少女は、後ろを向いていた。だから、顔は良く判らない。











 少女が何かに気付いて、ゆっくりと、振り向こうとした。


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