複雑・ファジー小説
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- 不死鳥の少女 サキュリナ
- 日時: 2012/08/11 18:14
- 名前: からあげ ◆L/fXxGshUc (ID: v/O9fUEE)
- 参照: http://koebu.com/koe/1d923020858748429df07c8d7f4ca9011d52ebd3
プロローグ
ああ。そろそろ話が聞きたいって? そう焦るんじゃない。じゃあ、どこから話そうかな?
これはとっても不思議な物語で、ロマンチックで、感動的な物語なんだ。まるでおとぎ話みたいな、ね。絶対好きになると思うよ。
大昔、世界に一羽の不死鳥と、一匹の巨大な毒蛇が存在していた。どちらも朽ちることのない不老不死の肉体を持っており、また、とてつもない力を持っていたんだ。すごいだろう?
不死鳥は、いかなる穢れであろうと一瞬で浄化し、あらゆる傷や不知の病ですら癒す力を持っていた。
毒蛇は、美しい湖でさえ一瞬に穢し、いきとしいける者すべてを蝕み殺す猛毒をもっていた。
相反する力を持つ二つの命は、互いを天敵と見なしていた。決して相容れぬ運命であった……
時代が流れ、大きな戦争が始まると、人々は薬と武器を必要とした。それも普通のものじゃない。戦争で負傷したたくさんの人たちの傷をすぐ治せる薬と、誰が相手だろうとすぐに殺せる強力な武器! ——もうわかるだろ? ああ、そうさ。
人々は不死鳥と毒蛇の力を自分達のものにしようとした。もちろん、二つの命は嫌がったさ。だけどたくさんの人間達があまりにしつこく狙ってくるから、二つの命はむちゃくちゃに痛めつけられてしまった……
いくら不老不死の肉体といっても、痛いものは痛いし、苦しいものは苦しい! 不死鳥も毒蛇も何とか逃げ切って、どこかにこっそり隠れてしまったらしい。それでも、欲深い人間達はその力を手に入れることを諦めなかったんだ。
大事なのはここからだ——もう二つの命がどれほどの間、隠れていたのだろうか。見かねた神様が、空の上から地上に降りてきたんだ。そして、二つの命に魔法をかけた——それはとても特別な魔法だ。
神様の魔法のおかげで、なんと不死鳥と毒蛇は人間の姿に生まれ変わった! その代わりに不老不死の肉体ではなくなったけれど、二つの命に平穏な日々が訪れた。
どこから見ても普通の人間で、何の変哲もない——だけど、魔法は完璧ではなかった。魔法は必ず、いつかとけてしまう。二つの命が不死鳥と毒蛇の姿にもどってしまうと、馬鹿な人間達は間違いなくまたその力を利用しようとする!
おっと、そんな悲しそうな顔しないでくれ。大丈夫、神様もちゃんと解決方法を用意してくれてたんだ。
その魔法を完璧なものにするには——条件があった。それは゛人間に愛され人間を愛する゛こと。そうすりゃ、完璧な人間になれるってわけ。ようするに深い恋をしなきゃいけないのさ。
ん? それから不死鳥と毒蛇はどうなったのかって? だからそう焦るなって!
これから話すのが、その不死鳥の恋の物語さ。
——これは不死鳥の恋の物語——
゛人の命を簡単に助けてはいけない。助けられることに慣れてしまった人間は、簡単に何かを傷つけてしまう。
癒されることのありがたみを忘れてしまった人間は、傷つけることの痛みも、傷つけられることの痛みも忘れる゛
(URL 音声)
〜あいさつ〜
知ってる人も知らない人もクリックありがとうございます
主な登場人物たったの三人なんで話が読みやすいかと
思いますw
わりと短めです
なんかごちゃごちゃ登場人物多い小説ばっか書いたり複雑な力とか単語とかそういうのばっかでてくる小説かいてたら疲れちゃったんで絵本風のわかりやすいでもおもしろい話書いてみたいと思いますはい
ちなみに描写もろくに少ないただの自己満足のようなつまらない小説を書くつもりはないです
とはいっても私もまだまだ稚拙な文章が多いですので、アドバイス等お願いします( =ω=)
こんな性格ですが仲良くしてくれたら幸いです
ファンタジーな中世のおとぎ話風の話です
ぜひ読んでいってください
文末に〜た。が多いのは仕様ですかっこわらい
プロローグ>>5 第一章 >>1>>2>>3>>4>>6>>9>>10>>12>>13>>18>>19>>20
〜音声PV〜
サキュリナ>>11
〜コメントしてくださった方〜
みたまさん >>7
蟻さん (小説感想スレ)
- Re: 不死鳥の少女 サキュリナ ( No.1 )
- 日時: 2012/07/26 16:01
- 名前: からあげ ◆L/fXxGshUc (ID: v/O9fUEE)
第一章
青年が体をひきずりながら歩き続けること約三十分——ようやく、一つの希望を見つけた。誰もいない夜の森の奥に建つ一軒の家を見つけた時、青年はすがる思いでその家まで歩んだ。右肩に刻まれた爪跡の部分だけ服は破れており、生々しい傷口は丸見えだった。そして、そこに注ぎ込まれた毒により青年の体はどんどん蝕まれていった。
「ちくしょう……こんなところで、死んでたまるかってんだ」
毒は体力を削り、意識を朦朧とさせた。わずか数時間で毒は全身にまわっていき、手はしびれ、足は歩くことすらままならないほどだ。青年の茶色い髪の毛は自らの汗で濡れ、服は血で汚れていた。
くらくらする頭の中で自分が死にかけていることを理解しつつ、青年は決してあきらめようとはしなかった。
老人のように遅く危ない足取りで、ようやく家の扉の前までたどり着いた。それと同時に、青年は膝を地につき、そのまま頭から倒れこんだ。
「くそ……どうなってんだ……」
青年はうつぶせのまま、横目で傷跡を見た。えぐられた皮膚は血と紫色の毒で滲み、見ているだけで冷や汗が止まらなくなるほどだ。
もう誰もが助からないと判断するにちがいないほどの重傷だった。青年自身も、薄々は自分が助からないことに気づきはじめていた。それでも、あきらめたくなかった。
「頼、む…………たす……けてく……れ……」
声にならぬ声で青年はそう言った。扉が目の前にあるというのに、立ち上がってそれを開けることすら出来ない。大声で助けを求めることすら出来ない。悔しさと苦しみが、ただ彼の心を支配した。
やがて、青年のかすむ視界は、真っ暗になってしまった。そのすぐ後に苦しみを忘れたかのように意識を失った。
青年が意識を失って、ほんの数分後のことだった。家の扉が、中から開かれたのであった。
「……誰かいるの?」
家から出てきたのは、真っ赤な髪の毛の少女だった。真っ直ぐに切りそろえられた前髪と、長く柔らかそうな巻き毛は根元から毛先まで燃えるように真っ赤だ。
すぐに赤毛の少女の視界に、足元の男が映った。顔を地面に突っ伏して倒れているその青年を見たとき、少女は体をびくりと大きく震わせ、驚いた。
「大丈夫!? 生きているの!?」
少女は慌ててしゃがみこむと、青年の体を横に揺らしながら声をかけた。しかし、青年は微動だにせず、返事もしない。
右肩の傷跡に気づくと、少女はすぐに緊急事態であると理解した。触れることすらためらってしまうような傷口からは、血が滲んでいた。
「大丈夫、大丈夫よ。すぐに助けるから……」
少女は自分に言い聞かせるようにそう言った。そして、自らの白いふっくらとした手を、傷口にのせた。
それはとても不思議な光景だった——
少女の左手が傷口を覆った瞬間、傷口から白い光が溢れた。エメラルドのような少女の瞳に、確かにその光は映っていた。夜の寂しげな森を照らすように、その白い光はまばたいたのだ。
やがてそのほのかな光は、白い手に包み込まれ、隠れるように消えていった……
少女が手をどけると、そこにあったのはずの生々しい傷口も消えていた。あの血と汗で滲んでいた肌は、傷一つない磁器のようになっていた。傷跡どころか、さっきまでの怪我はまるで夢だったかのように、跡形もなくなっていた。
青年は依然意識を失ったままであったが、少女は安堵の溜息をもらすと、小さく微笑んだ。
- Re: 不死鳥の少女 サキュリナ ( No.2 )
- 日時: 2012/07/30 14:07
- 名前: からあげ ◆L/fXxGshUc (ID: v/O9fUEE)
不思議な夢を見たような気がした。どんな内容だったかは、彼自身覚えていない。ただとても心地よく、今までで一番不思議な夢だった。
「んんん……」
青年はこもった声を漏らし、体をわずかに動かした。同時に、少女の体もびくりと驚いた。どうせ眠っているのだと、少女はその青年の寝顔をまじまじと観察していたところだったのだ。
少女は、彼をずっと地面に寝かすわけにもいかないと思い、自分より一回りも大きな青年の体をずるずる引きずって、何とか自分の家に入れていたのだ。
床で眠る彼に毛布をかけてあげたあと、少女はそれまで気にもとめなかった彼の顔つきにいきなり興味を抱きはじめた。彼と歳が近いような気がした。自分の赤い長髪とはまったく違う、茶色い短髪、眉、睫毛……全てが新鮮に見えた。男らしい顔つきと体格は、少女にとって珍しかった。男ものの服でさえ特別なもののように思えた。とにかく、青年を観察するのに夢中になっていた。
少女は青年のそばに座り込むと、のぞきこむように、ジッと男の睫毛を見ていた。すると、濃いまつげがぴくりと震えたので、少女の体もまたびくりと震えた。
「あっ……」
閉じていたまぶたが開かれると、少女は思わず声を漏らした。すぐに首をひっこめ、目覚めたばかりの青年の顔を見つめた。
「ん……あれ? 俺、生きてる……?」
寝ぼけたように呟く。青年の声を耳にした瞬間、少女の胸の中で何かが少し動いた。思わず、もう一度青年の顔をのぞきこんでしまった。
青年のぼやけた視界に入ってきた少女の顔は、意識がはっきりしてくると同時に鮮明に映るようになった。その少女は自分の茶色い瞳に食い入るように見つめてきたのだ。青年も目を細めながら、初めて見る真っ赤な髪とエメラルドの美しい瞳を見つめた。
やがて青年は半笑いで、
「……やあ。俺、夢でも見てるのかい?」
「まだ傷口が傷むかしら」
「傷口……? ああ、やっぱ俺死んだ——」
言いかけて、言葉は止まった。青年は自分の右肩を見た瞬間、目を見開いた! ——傷が、ない!? あれほど自分を苦しめていた傷が、跡形もなく消えていたのだ。青年は勢いよく上半身を起こした。少女は慌てて首をひっこめ、動揺する青年の横顔をただ見つめた。
「なんで!? なんでないの、傷!? 俺、夢見てた!? ていうかここもしかして天国!?」
確かに右肩の部分だけ、服は破けていた。そう、確かにそこにあの痛々しい傷があったはずなのである——青年は少女をよそに、ひたすら困惑していた。
「あ、あの……ちょっと落ち着いてほしいんだけど」
あまりに青年が騒ぐため、少女はどうしていいかわからなかったが、とりあえず声をかけた。すると、青年の騒ぎ声はぴたりと止んだ。
青年は静かに少女のほうを向いた。そして——感嘆した。燃えるような赤い髪と、吸い込まれそうになるエメラルドの瞳。あどけない顔つきは間違いなく美しく、どこか神秘的だった。だから、青年は少女が自分を迎えにきた天使のように思った。
「……君は天使かい?」
「違うわ。普通の人間。ここは私の病院」
「病院?」
青年は家の中を見渡した。普通のリビングだった。木で出来た床と壁に、小さなキッチン、小さな食卓とイス、何の変哲もないタンス……とても病院には見えない部屋だ。
「あー、最近病院を始めたの。でも建てられないから、自分の家でやってる。家の前に一応看板おいてるんだけど、誰も来てくれなくって……だから、あなたが初めての患者さんってわけ」
「なるほど、とんだ重傷人だったな……ってことは俺、生きてるんだな?」
少女は微笑みながら頷いた。
青年は右肩を上げてみたり、足を動かしたり、手を開いたり閉じたりしたあと、にっこりと笑った。
「うん、すっかり治ってる。にしても、すごい名医さんがいるもんなんだなあ。なあ、ちょっとお医者さんを呼んできてくれないかい?」
「私が医者よ」
「嘘だろ? 君は看護師さんじゃないのかい?」
「この病院には私しかいないわ」
青年は笑顔を崩し、首をかしげた。
「君ひとりであの傷を完治させたってのかい?」
「——ええ、そうよ?」
少女は少し言葉を詰まらせたあと、胸を張りながらそう答えた。
——青年は疑問を抱き始めたが、とりあえず自分が生きていることに感動した。少なくとも、この少女も自分のためになにかしてくれたのだろう、そう思うことにした。
「いやあ、それにしても本当にありがとう。もうダメかと思ったよ」
青年はひざの上で毛布をたたむと、それを少女に手渡した。少女も笑顔でそれを受け取ってくれた。
「本当にどうお礼をいったらいいものか——」
「ああ、そのことなら、三百万でいいわよ」
「!?」
再び青年の笑顔は崩れた。青年は眉間にしわをよせながら、口をぽかんと開けて唖然とした。
「さ、三百万!? おいおいおい……無茶いわないでくれ!」
「無茶? 命を救ったのに三百万なら安いほうでしょう?」
お互いしかめっ面になりながら、立ち上がった。
「俺は金持ちじゃない、一般庶民だ! そんな金請求されたって、払えやしない!」
「じゃあ、お礼もせずに帰るっていうの!?」
「さっきお礼は言っただろう!」
「゛ありがとう゛って? ゛ありがとう゛って言っただけで命を救ってもらえるなら病院も医者もいらないわよ!」
二人の声はだんだんと大きくなり、怒りも増していった。さっきまでお互いの顔に見入っていたくせに、そんなことなかったかのように口論を続けた。
「だいたいなあ、俺はあんたに助けてくれなんて頼んでいない!」
「あら? 人の家の玄関の前で情けなく倒れていたのは誰だったかしら?」
「あ、ありゃあ偶然倒れてただけだ。勝手に助けたのはあんただろ!」
「じゃあなに!? あのまま、あなたを見殺しにすればよかったって言うの!?」
青年は一瞬黙り込むと、またすぐに口を開いた。
「いいかい、お嬢さん? 俺はあんたが本当に医者なのか怪しんでるくらいだ。少なくとも、あんな大怪我を一瞬で治すほどの医者なんて存在しないしな」
「でも、実際にあなたの傷は消えてるわよ?」
「確かに、ああ、確かにそれはそうだ……でもな、お嬢さんが治してくれたなんて確信も証拠もない! 俺にはお嬢さんが医者にはとうてい見えないね」
「状況的に私以外あなたを治せる人なんかいないわよ、こんな森の奥なんだから!」
少女は毛布を強くにぎりしめながら、負けじと青年に反論していた。青年も一歩も退かなかった。
「なんだよ、緊急事態だったのはわかってるだろ? お嬢さんも同じ人間なら、命くらいタダで救ってくれてもいいじゃないか!」
「いやよ、絶対にダメ! そんな簡単なことだと思わないで!」
「とにかく! 俺は絶対にそんなお金払えない!」
「私だって絶対にタダで帰らせたりしないんだから!」
それが最後の怒号となった。カーテンのあいた窓からは、朝の太陽の光が射していた。
しばらくの沈黙が流れたあと、青年は自分のアゴを触りながら口を開いた。
「——じゃあ、教えてくれよ。あんた、どうやって俺の傷を治したんだ?」
少女の釣りあがった目が下がり、無意識のうちに青年からそらされた。
「……それは……」
急に声が小さくなった。青年はやっぱりな、と言ったように目を細めると、
「ほら、君は医者じゃないんだろう」
その言葉に、少女は再び眉間にシワを寄せ、青年の顔を見上げた。
「違う、私は本当にあなたを治したの!」
「どうやって?」
「どうせ言ったって信じてくれないんでしょ」
「ああ、そうかもな」
- Re: 不死鳥の少女 サキュリナ ( No.3 )
- 日時: 2012/07/31 13:51
- 名前: からあげ ◆L/fXxGshUc (ID: v/O9fUEE)
少女は落胆したかのような表情を浮かべると、肩をすくめた。
「……もういいわ。無茶な請求をしてごめんなさい……帰って」
毛布を胸に抱えると、部屋の隅にある階段のほうへ歩いていった。白い生地のロングドレスから伸びた華奢な足首が、とても頼りなく見えた。
急に少女が大人しくなったので、さすがに青年も気に留めた。
「お、おい」
青年が呼びかけると、少女は顔だけ振り返った。
「気分を悪くしてしまって、ごめんなさい。お金のことはもういいわ。この病院のことは、忘れてちょうだい」
それだけ言うと、静かに階段をのぼっていった。
青年は少女が見えなくなるまでただ黙ってその姿を見つめていた。何ともいえぬ、後味の悪さだけがそこに残った。
ふと、自分の足元を見てみた。さっきまで、そこで自分は眠っていたのだ。そして、そばにはあの赤毛の少女がいた。
あの少女は青年が今までに見たどんな美人よりも、魅力的だった。少し童顔であるが、充分に美しかった。思わず、見とれてしまうほどに。
確かに大金を請求してきた時は焦ってしまい、いつの間にか口論に発展していたが——あんなに怒鳴ることはなかったんじゃないのだろうか? あんな無垢な顔をした少女が、人を騙すようなことをするのだろうか。そんなふうに青年は思い始めた。
青年はこのまま家を出ようという気が起きなかった。外へいく気が進まなかったので、なんとなく家の中をゆっくり物色していた。
家は決して広くはなかった。一人で暮らすのにちょうどいい大きさくらいだ。もしかしてあの少女は、こんな森の奥の家で一人で住んでいるのだろうか? この部屋にあるのは、綺麗だが小さなキッチン、レンガで出来た暖炉、木で出来た食卓とイス、壁にかけられた古時計、小さめのパインタンス……青年はパインタンスの上に置かれてある一つの写真たてに気づいた。
写真たてには、一枚の色あせた写真が入っていた。青年はパインタンスに歩みよると、その写真を手にとって見た。
「……家族写真、か?」
そう思って見てみたが、違った。顔がしわだらけの、でも優しそうな笑みを浮かべたおばあさんと、その隣に無邪気に笑う赤毛の女の子が映っていただけの写真だった。その写真にはその二人以外誰も写っていなかった。
その写真の女の子は、間違いなくあの少女だった。今よりもう少し幼く背もさらに小さい頃の写真だ。何より、この赤毛が同一人物であることを示していた。
青年は少女の言葉を思い出した。「この病院には私しかいないわ」「あなたが初めての患者さんってわけ」
脳内に浮かぶ最後に見せた少女の表情は、とても切なそうだった。青年はこの時初めて、自分が彼女を傷つけてしまったということに気づいた。罪悪感が彼を襲った。どちらが悪いだの、彼女が医者であるかの真偽なんてもはやどうでもよく思えた。とにかく、自分は彼女に謝らねばいけない——
しかし、そうは言っても、この部屋のの上で一人で悲しんでいる少女に、今更どんな言葉をかける? ごめんなさい、って謝ってその後は? 自分にあのか弱そうな少女を慰めることが出来るのか?
さまざまな考えが頭の中を駆け巡った。どれも良い考えではなかった。もうどうすればいいのかわからない、お手上げ状態だ。
その時——偶然、キッチンが少年の目に入った。青年は突然なにかを閃いたようにキッチンの前に立つと、そこに置いてある調味料や、カゴに入った熟したフルーツたちを見つめた。
塩、砂糖、小麦粉などの調味料や粉類は、一つ一つラベルつきの袋にまとめられ、整理されていた。木で出来たまな板とよく研がれたナイフはとても使いやすそうで、火はコンロではなく焚き火だった。不便そうな小さなキッチンに思えたが、綺麗で充実していた。
キッチンに置いてあるカゴの中の真っ赤なリンゴが青年の目にとまった。あの少女の髪のように赤いリンゴは、とても美味しそうに熟していた。青年が今までに見たリンゴの中でそれは最も赤かった。
「そうか、この手があった」
急にそう言うと、カゴに入ってある真っ赤なリンゴを手にとった。