複雑・ファジー小説

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やさぐれ白魔導!【おしらせ】
日時: 2018/01/17 00:04
名前: 日向 ◆Xzsivf2Miw (ID: Ueli3f5k)
参照: 基本、毎週末更新。

重要なおしらせ>>73

修正作業中につき。

*これまでのあらすじ*
 何の因縁やら、治癒を司る魔導士の力を持っている純。
 彼は【白魔導士】でありながらにヘビースモーカー、ギャンブル中毒、ちょっと前までは風俗通いという、とんでもないやさぐれ魔導士だった——。
 純は六人の仲間と共に人の臓物を食い、生き長らえる【魔獣】を討伐する。
 当然、それは危険なもので何人もの魔導士が殺されてきた。
 しかし、それは彼らのただ一つの生きる道だった。
 組織本部から日本へと帰ってきた【愛の巣】の面々。
 そんな中、優乃に恋のトラブルが訪れる……!?
******

初めましての方もまたお前かよの方も、どうも日向と申します。

〜目次〜
プロローグ >>1
〜第1章〜
第1話 >>2「やさぐれ白魔導士と時魔導士」【修正済】
第2話 >>3「愛の巣」【済】
第3話 >>6「予兆」【済】
第4話 >>7「侵入」【済】
第5話
第6話
第7話
第7話
第8話
第9話
第10話
第11話
第12話
第13話
第14話
第15話

主な登場人物>>12【済】

参照1000記念(?)特別番外編「大掃除」>>66

*お客様
・風猫様
・ゆぅ様
・朔良様
・通りすがりの俺様
・駿河射水様
・猫又様
・SHAKUSYA様
・銀竹様




訪問・閲覧下さった皆様に心より感謝致します by日向

Re: やさぐれ白魔導!【第6話 6—1とちほ】 ( No.59 )
日時: 2013/06/15 19:46
名前: 日向 ◆Xzsivf2Miw (ID: er/Iprct)

【第6話 6—1 「手がかり」】

「うーん、あの事件のことについてかぁ」

 佐藤は視線を彷徨わせる。純は頭を掻きむしって言った。
 現在二人きりで少し大広間から外れたところに居る。

「七界衆でも駄目なのかよ、それとも俺が一般ぴーぽーならぬ底辺魔導士だからか?」

 純が吐き捨てるように言うと佐藤は肩をすくめて言った。

「そういうことじゃないさ。僕だって最近ここに来たからね、でも」
「『でも』?」

 しばらく佐藤は逡巡しているようだったが、やがて小さな声で言った。彼の癖なのか眼鏡の位置を直しながら。

「その事件を独自で調べてる七界衆は居るよ。駄目もとだけど僕からコンタクトを取ってみる」

 純は目を大きく見開いて喜々として佐藤の肩を掴んだ。佐藤の体が強ばる。
 結局佐藤からは情報を得ることが出来なかったが、事件に繋がるものを手に入れることが出来そうだ。

「マジか!? さんきゅせんせー!」

 純は目を大きく見開いて喜々とした表情を浮かべた。
 佐藤は一瞬驚いたような表情を見せたが、眼鏡の奥で優しく目を細めた。
 純から少し離れて片手を挙げて言う。

「うん、じゃあここで待っててよ」
「おー頼む」

 そして佐藤は人の雑踏の中へと消えていった。
******
 大広間にも右京の姿は見えなかった。そして彼女はいつもあそこに居る。
 佐藤は組織の下へ下へとくだる。こんな珊瑚礁で出来た島のどこに地下室を作る余裕などあるのだろうか、そんな事を思いながら佐藤は組織中枢の資料室へと向かった。
 資料室への道は狭く複雑で入り組んでいる。
 佐藤は生憎この道しか知らず、最初の頃は中枢で行われる会議に行くことすら困難だった。トンネル道中では他の七界衆は見られず物音も聞こえなかったことから中枢に向かうのは別の道でも用意されているのだろうが、彼はこの道しか知らない。
 下層部までくると、大広間とは真逆に、手入れが行き届いて居らず壁の塗料は所々が剥げ落ちていた。
 一般魔導士らが地上から組織への道へと進むトンネルと類似している。
 女子供はともかく、標準的な成人男性の体格である佐藤は前屈みになって進まなければならず、灯りも自分の影で遮られており出口のない小さな暗闇の中を自ら這っていくような錯覚を覚えた。
 暫く手探りで進むと徐々にトンネルが広くなっていき、立って歩いても支えることなく、灯りも足下を照らすようになった。
 壁の塗装もしっかりと施され、灯の数も多くなった。
 少し闇の残る前方に黒塗りの重く頑丈な防火扉のようなものが見えた。
 ようやく会議室兼資料室に辿り着けたらしい。
 何の感慨も無いが改めて扉に触れてみる。地下にある所為なのか異常に冷たく感じられて「触れるな」と言われているようだった。
 一応の礼儀として佐藤はその堅牢のような扉にノックした。

「右京さん居ますか? 閻魔導士七界衆の佐藤一郎です。入りますよ」

 答えは無かった。否、あったとしてもこの扉を介して聞こえるかどうかは疑問だが。
 扉に体重をかけて開くというよりは、押すに近い。彼女はよくこの部屋を訪れているようだったが女性一人ではとてもではないが開けることは容易では無いだろう。
 扉が鈍い金属音と共に開ききった。

「うん、良かった。ここに居たんですね」

 扉の向こうには右京がいた。
 古ぼけた茶色革ソファに腰掛けている。
 既に白のパンツスーツではなく、疾うに着替えていたようでいつもの白のタンクトップに迷彩柄のパンツ姿だった。その手には分厚い資料。表紙には英語であろう崩れた文字が鎮座していた。

「——これ、昔の英語なので難しいです」

 唐突に資料に視線を落としたままで右京が口を開いた。会話は成立していない。
 佐藤は返す言葉が見つからず、ぎこちなく相槌を打つしかなかった。
 そうだ、本題を早く伝えなければ。

「あの、右京さん」
「はい、何でしょうか」

 こちらを見ようともせずに応対する右京。佐藤は胸中でMs.パニエ、レナ、右京など七界衆の女性は扱いにくい人ばかりだと苦笑いした。
 
「貴女と会って話がしたいという人がいるんです。僕の知り合いで」

 そう伝えて初めて、彼女は見上げるようにして佐藤の顔を見た。
 やはり、目の覚めるような美しさ。少し見ただけでは日本人と間違えてしまいそうだが箇々の顔のパーツには東南アジア圏特有のものがある。そのくせ肌は白く綺麗だった。

「私、にですか……」

 持参してきたであろう可愛らしい柄の栞を資料に挟んで、考え込むような仕草を見せる。
 目を伏せることで、睫毛の長さが際だっている。
 右京は数分黙ったままだったが、またも唐突に口を開いた。

「佐藤さんの知り合いですね。普通ならこういう事しませんけど……特別です」

 言葉だけ拾うと卑猥なニュアンスに捉えられそうだ。彼女も日本語が苦手なのか妙に間が開くので更にその気が増す。
 佐藤は右京から視線を外しつつ言った。

「あ、有り難うございます。その、彼の所に案内します」
「お願いします」

 右京は尻の埃を払って立ち上がった。女性にしては背が高く、佐藤とそんなに変わらないような気もする。

「それじゃあ行きましょう」
「はい、そうですね」
 
 佐藤は扉を逆方向に押し戻すと、右京は怪訝そうな顔をしたが何も言わなかった。
 そして元の道を戻ろうとしたときにも彼女は何か言いたそうにしていたが佐藤は気付かずに、暗いトンネルを這っていく目になった。



 会議室兼資料室に残された資料。
 それは歴代七界衆の黒魔導士だけが集められた本だった。
 風など有るはずもないのにページが走るように捲られた。
 音は響く。
 そして栞のページで止まった。
 少女と呼ぶにも幼い顔写真だが、あどけなさは無く凛とした強い瞳と青がかった黒髪が印象的な、幼女だった。
 その顔写真の横には「Angel」とあった。

【第6話 6—1 「手がかり」】

Re: やさぐれ白魔導!【第6話 6—1更新】 ( No.63 )
日時: 2013/10/29 20:51
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: 6QYZf7dF)

壁│)

壁│・)

壁│ω・)ソー…

壁│´・ω・)ノどうも

 こんばんは、駄文士ことSHAKUSYAと申します。
 ずっとROM専で見ておりましたが、どうやら復活なされそうなので、こちらでコメントをばと思い。

 (不)純さんのやさぐれっぷりが大好きです。そして(不)純さん物理的に丈夫すぎる。さすが白魔導士(?)
 自分も雑草のような医者とセクハラ大好きな看護婦と口の悪い軍医は書いたことありますが、やさぐれているのは新鮮ですね(´∀`)<自分は反社会的な人間を動かすのが苦手なので見習いたいどす
 尚、自分は佐藤先生が優しすぎることにちと感涙です。

 七界衆の御方々と愛の巣の皆々と、それと右京さんの知り合いっぽい黒髪幼女と(不)純さんが一体どうなるのか、これからも楽しみに待ってます。
 それでは!

Re: やさぐれ白魔導!【第6話 6—1更新】 ( No.64 )
日時: 2013/11/18 08:18
名前: 日向 ◆Xzsivf2Miw (ID: B6dMFtMS)

SHAKUSYA様>>

コメントありがとうございますm(_)m
長い間、返信できずに、すみませんでした。

純さんに「不」を付けるとは…わかっておられr((
読み返して見ると、確かに丈夫ですね^^;
彼が攻撃される機会も多いのもそう思わされる要因かもですが、白魔導士だからという素晴らしい口実が←
え、雑草のような医者って何ですかw 
でも、口の悪い軍医ってニュアンスがもうイケメンですねω
そうですね、佐藤先生は甘いです、甘々な砂糖の干菓子位甘いです。

暖かいコメントありがとうございました(^0^)
これからも不定期更新ながら頑張らせて頂きます!

Re: やさぐれ白魔導!【整理中】 ( No.65 )
日時: 2014/01/21 20:33
名前: 日向 ◆Xzsivf2Miw (ID: SMalQrAD)

【6—2】

 ようやく大広間に戻ってきた佐藤は純の姿を探す。
 七界衆として右京が大広間を歩き回るのは危険だと判断した佐藤は、大広間から少しはずれたところに右京を待たせた。
 一応、自らも七界衆ではあるのだが。
 宴はまだ続いているようで喧噪は止まない。多少酔い潰れた者も居るようで少し人口密度は減少したようだ。
 
 やはり、あの男は目立つ。
 傷んだ金髪に白衣の男は人混みの中でもすぐに発見できた。
 佐藤は人を掻き分けるようにして、できるだけ大声を張り上げた。

「純、連れてきたよ」

 純の視線が佐藤の方へと動いた。佐藤を視認した純の口角が上がる。
 しかし返ってきたのは労いの言葉では無く。

「おっせーよ、どんだけ待たせるんだよ。酒の匂いでぶっ倒れるとこだったんだぞ」

 雑言。
 しかし嘘では無いらしく、こちらに向き直る足はおぼつかず顔も火照っているようだった。一般的な白魔導士ならこのような症状は出ない筈だが純は元からアルコールに強くないのか、極端に弱かった。
 明らかに普通ではない純の様子に佐藤は心配そうに声をかけた。

「おい大丈夫かい?」
「あ? るっせーな、早くしろよ」

 佐藤の心配も余所に、悪態吐く。
 だが佐藤はそっぽを向いた純の顔を覗き込んで、安心したような顔で言った。

「中学から変わってないんだな、本当に」
「いい加減うぜーよ」
******

「えと……こちらが右京・ファルマーター・進さん。白魔導士代表の七界衆だよ」
「よろしく、あなたが純ですね?」

 大広間から少しはずれた小部屋。今は使われていない書斎らしく、大きな本棚に囲まれおびただしい数の辞典サイズの本が並んでいる。
 ここなら話を聞かれることもないはずと、佐藤の配慮だった。
 純は本棚の背板にもたれ掛かり、右京は本棚の空いた棚板に腰掛け、佐藤は二人と遠くない位置に立っている。

「そうだ、よろしく。——右京さんよ、あの話について知ってることがあれば教えて欲しい」
「おい純……いきなりか」

 純をたしなめる佐藤をよそに鋭い眼光で訴えかける。
 右京は長い髪をかき上げ、そんな純に表情一つ変えることなく言った。

「良いですよ、でもあなたが知りたいのには理由がありますね。その理由を教えてください」

 そこを突いてきたか、と純は眉を顰めた。溜息を吐いて胸ポケットの煙草を取り出す。
 取り出した煙草を咥え、ライターを探るが、それを真っ白な手が阻止した。
 苛立ちを隠すことなく軽く舌打ちをしながら手の主へ面を向けると、まっすぐな黒い瞳が純をひたと見据えていた。

「質問に答えて下さい。それと書斎で火はだめです、色んな本が焼けます」
「あぁ、そうかい」

 純はそう吐き捨てて、煙草をぐしゃりと胸ポケットに突っ込んだ。そして頬杖をついて。
 
「理由ねぇ……。俺な、会ったんだよ、そいつに」
「!? 会ったんですか!? その子、アンジェル…!?」

 今までと打って変わり、目を見開き、身を乗り出し、大声をあげた。
 近くにいた佐藤はびくりと肩を振るわせた。

「ア、アンジェ……?」
「失言です、お気にせずです。そ、そうですね本部には知らせなかったんですか? 相手は魔導士を五人を殺害し、一人を再起不能まで追いやったんですよ『会った』というならば……無傷では済まない筈です」

 軽く咳払いをし、平静を取り戻す右京。その目は真っ直ぐだった。
 その視線から逃れるように純は目を閉じ、片手を柔く振って答えた。

「まあ治すのにゃ時間はかかったわな。しかも治してすぐ此処に来いってんだからな」
「なっ…何故すぐ組織に言わなかったんですか?」

 困惑する右京、それと対象的に純は少し考えるような素振りを見せて、天井を仰ぎ言った。

「あー、忘れてた」

 右京は唖然とした。
「忘れていた」など有り得ない。
 命を狙われ、怪我を負ったのにも関わらずこの男はなんと危機感のない、と。
 しかも右京の読みが外れていなければその襲撃者は——。
 何故か自らの口元が綻んでいくのを感じた。

「面白いひと——。もういいです、教えましょう、いまわかっていること、わたしが調べ上げて、わかったかもしれないことを」

 右京が微笑みながら言った。
 脇から佐藤が焦りを隠そうとせず言った。

「う、右京さん!? 本当に良いんですか? その事を言ったら、も、もしかしたら右京さんが」
「いいですよ、この人……純は信用出来る気がします」
「分かりました、右京さんがそう言うのなら」

 長い睫毛が揺れる。
 佐藤はそう言われては引き下がるしかないと、溜息をつき元の位置へと戻った。
 その表情は暗い。
 佐藤が渋る理由や「もしかしたら右京が」その言葉が純の脳内に一縷の不安が脳をよぎったが、次の右京の言葉が掻き消した。

「純、手短に済ませましょう——。あなたを襲撃した犯人は、元黒魔導士七界衆の【アンジェル】である可能性が高いです」
 
【6—2】

Re: やさぐれ白魔導!【特別番外編執筆中】 ( No.66 )
日時: 2014/07/09 22:50
名前: 日向 ◆N.Jt44gz7I (ID: mkQTRQtj)

【「やさぐれ白魔導! 番外編」愛の巣大掃除】

 日々の激務から解放される週末。無論魔獣の情報が入れば週末関係無く出向かなければならないのだが。
 窓から差し込む春の陽気が心地良い、朝。夜明けの歓びを小鳥が歌う。
 しかし、それすらも鬱陶しげに掛け布団の中に潜り込む部屋の主。
 
「朝から、うるせぇ……」

 煙草臭い部屋、くすんだ白いはずの壁、無造作に脱ぎ捨てられた白衣。似使わない大きな白塗りの薬品棚、床に散乱した成人雑誌、クリスタルの灰皿には山のように積み重なった煙草の吸殻、水分を吸って乾いたティッシュ。
 一目瞭然、あの男の部屋である。
 息苦しくなったのか、深い息を吐いて布団から頭を出した。
 そして丁度頭を出したところに日光が直撃する。
 妙な呻き声をあげて、再び布団に潜り込み、手だけを出し、手探りでサングラスを探る。
 それを探し当て、装着するころには目が覚めてしまった。
 のそのそと布団から抜け出し、渋々伸びをして、目を開けるとマスクとエプロン姿の優乃が仁王立ちでその男、純を見下ろしていた。

「……不法侵入罪で起訴可能だと思うんだが」
「相変わらず煙草臭い部屋ですね。ていうかそろそろ起きて下さい、純さん」

 優乃は純に歩み寄り、強引に布団を剥ぎ取る。
 傷んだ金髪、無数のピアス穴、就寝前からつけていたであろう首、腕、指の装飾品。昨日から履いていた黒のズボンと半袖Vネック。
 蓑を剥ぎ取られ、もそもそと俯せで丸くなる純。
 正に目の毒。
 優乃は適当に放ってあった白衣をつまみ、純に投げた。

「さっさと着て、リビングに来てください。今日は大掃除をします」

*****

 リビングにて純、大輝、優乃、陽太の男魔導士が集った。真衣、亜花莉の女魔導士の姿は見えない。
 このリビングは暇さえあれば真衣が片付けているのでいつでも綺麗になっている。純がこの部屋で煙草でも吸おうものなら優乃によって即退場させられる。
 優乃はむっとした表情で腕組みをしている。陽太はピンク色のポケットがゼブラ柄がアクセントになっているエプロンを喜々として着用し、今しがた目を覚ましたようで大輝は気怠そうに欠伸をしている。
 カーペットさえ敷かれていない地べたに正座させられている純が口を開いた。

「んで、何だって?」
「純さんの部屋から異臭がすると、九原さんと篠田さんから苦情が出たんですよ」

 優乃はそう嫌悪を隠そうともせず言い放った。
 しかし純は眉一つ動かさず反論した。

「亜花莉はともかく、真衣はそんな事言わない」
「あたかもゴミ屋敷扱いされたことについては反論しないんですね」
「まあ、良いだろ。たかが小部屋の掃除だ、さっさと済ませようぜ」

 大きな欠伸を一つ、寝ぼけ眼をこすりながら純の部屋へ急ぐ大輝。背中で結んだリボンを揺らしながら軽やかな足取りで大輝の後に続く陽太。
 純も溜息をつきながら後に続いた。
 
******

「これはひどい」
「ひどいわね」
「やはり臭い」
「なあ、開口一番にそれは無いだろ」

 純を除く一同、踏み入れたのを後悔した。室内の様相は今しがた著したが。
 殺菌しましょう、と一番息巻いて張り切っていた優乃が入室するのを渋っていた理由を大輝は悟った、これは単なる小部屋の掃除ではない。

「純、最後に俺がこの部屋に入ったのはいつだ……?」
「一ヶ月前くらいじゃね?」
 
 以前大輝は大学のレポートを纏める際、純に手伝ってもらうためにこの部屋で作業したことがあるが、煙草の匂いに多少頭痛がしただけで部屋の様相はここまでひどくなかった。
 純の横で頭を抱えていると陽太がごそごそと薬品棚の引き出しを開けて、何かをつまみだした。
 真っ黒で背表紙も何もない、形はDVDケースのようだ。

「やだ、何これー? 真っ黒のDVDケース? なんかやらしー」
「おい陽太、勝手に人のモン漁んな」
「あっ、ちょっとぉ」

 純は早足で陽太に近付き、ケースを取り上げた。
 少し拗ねたように陽太は上目遣いで純に中身を訪ねた。

「ねえ純ちゃんそれってなんなの?」
「DVDケースだよ」
「違うわよ、中身のことよ」
「あー? これな、これなー。外国から取り寄せたの無修正モンのエロスナッフだよ」

 部屋の温度が下がり、地雷を踏んだ陽太の表情が凍てつく。大輝は咳払いを一つ、ずれた眼鏡を元の位置に戻した。
 優乃は部屋の隅で箒を掃く手を止めずに言った。

「それって法に触れないんですか……」
「ヤらせ偽物臭いからセーフだ」
「逮捕です」

 無表情で純からそれを奪い取ると、そこらに落ちていたガムテープでパッケージをぐるぐる巻きにすると、既に半分ほどゴミでうまった燃えないゴミの大袋に放り込んだ。
 その様子を見た純は優乃の肩を景気よくぱんぱんと笑いながら叩いた。

「ん、なんだ欲しいんだったら素直になれや、もうそれは見飽きたからそんな手荒にしねーでもやんぞ」
「大輝さん、そのクリスタルの灰皿こっちに……そうだ陽太はバケツ一杯の水と麻袋を」
「優乃、勿論冗談だ」

******

「全く、何時間かかったんですか」

 朝から始めた大掃除、気がつけば部屋から差し込む日差しは強く、陽が高く昇っていた。
 あんなに汚くモノが散乱していた部屋もなんとか片付き、壁に染み込んだ諸々はとれないものの優乃の芳香剤散布が功を奏したらしく、匂いも気にならないレベルまで落ち着いた。
 その代わりに純の部屋の隅にはダンボールの山ができていた。
 純は優乃の小言は聞き流しつつ、白衣の裾でサングラスのレンズ部分を拭いている。

「片付いたんだし、良しとしようじゃないか。昼飯でも作るよ、たまには真衣たちも休ませてやらないとな」

 大輝はドアノブに手をかけ、純の部屋から出て行くのと同時に、陽太がぱたぱたと駆け寄り。

「大輝ちゃん、あたしも手伝うわ」

 陽太は勝って兜の緒を締めよ、とエプロンの背中のリボンをきつく結い直してぱたぱたと大輝の後を追いかけた。
 取り残された優乃と純は互いに顔を見合わせた。

「なにアイツらできてんの?」
「そんな訳無いでしょうが。さ、純さん、僕たちもリビングに行きましょうか」

 そう言い残し優乃は純より一足先に部屋から出た。
 純は優乃の足音が遠ざかるのを聞き届けると、やおら立ち上がり薬品棚に向かった。
 その上から二つめの引き出しをそっと開けた。中身は古ぼけた医学書がたった一冊あるのみだった。

「よかった、捨てられてなかったんだな」

 ぽつりとついでた一言。誰も聴く者は無し。
 純はその本の有無だけ確認すると本を引き出しへ戻し、そっと引き出しを閉めた。
 そして皆の待つ食卓へ向かう為、ドアノブに手をかけた。

【「やさぐれ白魔導! 番外編」愛の巣大掃除】


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