複雑・ファジー小説

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Piper in Eastend【キャラクター募集中】
日時: 2013/01/28 01:05
名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: JiXa8bGk)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=7067

えー、まだプライベートでは忙しいんですが、キャラクター募集のご参考にと冒頭をとりあえずあげます(


まず世界観ですが

舞台:文明が花開く時代。18~19世紀頃の欧州圏をイメージしていただけるとよいかと。
社会:産業が発展して新しい社会階級が誕生していっている時代です。
物語:マイノリティ民族出身の主人公(民族楽器の演奏家)がいろんな人に出会いながら大都会で生活する、というもんです。バトル色は薄いです。



連合王国:3つの構成国からなる島国。近年世界を代表する大国となりつつある。
構成国はいずれも独自の文化、言語を保持しているが、近年サクソランドの文化への影響が日増しに強くなっている。

サクソランド・連合王国の主な母体。圧倒的な経済力、文化力の一方食事はまずい。
クレイランド・サクソランドの北方に位置する国。特徴的な文化を最も色濃く残している。主人公の母国。
カディフ・サクソランドの西方に位置する国。鉱山資源に恵まれ発展著しい。


ではでは、どうぞ。


キャラクター募集をリクエスト板でもやっています。

Re: Piper in Eastend【キャラクター募集中】 ( No.5 )
日時: 2013/01/31 08:51
名前: ナル姫 (ID: DLaQsb6.)  

どうも、ナル姫です!
ローラの採用ありがとうございます!
自分の想像以上に素敵なキャラにして頂き…とても嬉しいです!見事なズレっぷりです!ww
イアンくんごめんなさい、そして頑張れ!(笑)

文章も上手で憧れます…レベルの差がハッキリと見てとれますね、うん!

……ちょっと目から汗が出てきたんで今日はこの辺で退散します←
末永くローラをよろしくお願いします!!

Re: Piper in Eastend【キャラクター募集中】 ( No.6 )
日時: 2013/01/31 21:46
名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: JiXa8bGk)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

>ナル姫様
ええ、出させていただきましたよ、本当にいいキャラで!
上流階級なんでそこんとこの掛け合いも書いてて楽しいです。あと少しSなところとか(←

文章はなんというか……変に駄作駄文と卑屈にならないで楽しんでやれば結果は付いてくるんじゃね? と思ってますのであまりご自身の文章を嘆かず前向きにやっちゃってくださいな。

あ、あとキャラは一回応募できますので、暇があったらどうぞ^^

Re: Piper in Eastend【キャラクター募集中】 ( No.7 )
日時: 2013/01/31 21:53
名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: JiXa8bGk)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode


——チェスター寺院

 チェスター寺院は連合王国国教会の主要な寺院の一つで、総本山のセイント・アダムス大聖堂の次に建てられた。いわゆる上流階級出身の令嬢、子弟が由緒あるこの寺院で神に仕える身になるために修道に励んでいる、のだが中にはボンクラもいるようで兵役逃れだの(そういった子弟は貴族社会における信用を失うのだが)箸にもつかないバカ女がお遊びで来ている等労働者階級の連中たちの格好の笑いのネタになっている。
「実際そういう連中も多いわ。ほんとうんざりしちゃう」
 日が傾きかけた坂道をしっかりとした足取りで登るローラは後ろにカバン持ちを従えながらぼやいた。彼女は真面目な理由で入っているのかもしれない。今時労働者階級すら信仰心を失いつつあるというのに奇特な女性だな、カバン持ちはある意味感心していた。
「あなたは神様を信じているの?」
「ん〜、そこまで熱心じゃあないけどね。いい事あったりとんでもない事あったら強くいるって思うかな」
カバン持ちに対して振り向けた眉を少し歪めるあたり何か引っかかるところはあったのだろうが、「そう」と納得したようだった。

「じゃあここまでね、ありがとう」
巨大な石造りの建物の裏門前に着くとローラはイアンの手からカバンを取り、階級差を越えた礼をしたねぎらいの言葉をかけた。
「ああ、じゃあね」
 イアンも寝る時と湯浴み、部屋にいる時以外はかぶっている帽子をとって敬意を示し、その場を去ろうと踵を返す。

「あ、待って」
 首を声の主の方へ向ける。そこにはまだ彼女がいた。
「またお話できるかしら?」
 何を言っているんだこの人は。この押しの強さは本当にいいとこのお嬢さんなのか、とでも言いたいかのようにイアンの顔は困惑の色に染まった。が、好意を台無しにするのは良くない。それに
(面白い人だ)
 と自分の悪癖であるものごとに首を突っ込む性分が首をもたげて出てきていたことを感じていた。
「ふさわしい場所でなら」
 シスターの口と目元が上がった。
「ごきげんよう、料理人さん」
 本職は演奏家と言ったのに。

——翌日、レストラン『リストランテ・ディ・サンティ・イ・ミゲル』

『サンティ・イ・ミゲル』はサウサンハムでも珍しいアトーチャ料理専門の店。アトー茶王国は連合王国から船で3日程南に進むと行くことのできる半島の国。かつては強国だったが、現在はその面影はない。その代わり中産階級を中心に近年観光地として人気がある。なんといっても史跡が豊か。
そして青い空に燦々と輝く太陽に育てられたワインと作物が有名だが、連合王国の人間を引きつける最大の魅力は太陽。連合王国、とくに年中曇と霧の多いクレイランドとサクソランド北部の人間にとって一年のうち300日が晴れとも言われるアトーチャの強い日差しは憧れの対象でもある(アトーチャ人は反対に日差しが強すぎるので昼寝の文化があるらしいのだが)。

「ええと、イアンだっけ?」
「はい、メルから紹介があったと思うんですけれど」
「ああ知ってるよ」
セントラル北部の「準備中」の札がかけられたドアの向こうでは、こじゃれた内装の店内でイアンと、対面する形で椅子に座っているテストランの共同オーナー、ミゲルが話し込んでいた。
ミゲルは名前のとおりアトーチャ人(こっちで言えばマイケルということになるだろう)で、太い眉に黒髪、大きい鼻にややずんぐりした小柄な容姿は北方の民族である典型的な連合王国人とはややかけ離れた容姿をしている。決して美男ではないがアトーチャ人というのはこちらでは色男、色女としても知られ、王国の人間とは比べ物にならないフェロモンがあることは同性のイアンも悟るほどだった。
また、彼らの言葉遣いと仕草も面白い。そのユニークな発音(彼らは古代の大帝国の言葉を受け継いでいるらしい)は強烈に耳に残り、抑揚の激しい話しぶりと手振りは聞き手の気持ちを高ぶらせる。アトーチャ人とはこういう人間たちか、聞いていたよりもずっと強烈な印象をイアンは受けていた。

「それで、何ができるんだい?」
「掃除や皿洗いは家でもやっていたから出来ると思いますよ」
「料理は? 例えば羊肉料理を作ったことは?」
「出来ます。羊肉が有名な地方の出ですから自信があります」
 ミゲルの毛虫のような眉が動く。
「部屋の家賃はいくら?」
「350ポンド」
「……よし、じゃあ1日6時間で50ポンド、キッチンとホールの両方担当、昇給有りで雇おう」
「あっ、ありがとうございます!」
 レストランのパートで50ポンドはいい値段だ。同世代の労働者階級の平均に達するにはほぼ毎日働かなくてはいけないが、イアンの場合は朝食と水道代が無料になっているから幾分暮らしやすい。考えていたよりも良い待遇にイアンの心は踊り、思わずミゲルの毛深い手を両手で取った。

「じゃあ明日から来てくれ。あと、そうだな……」
ミゲルが視線を落とした。

「仕事中、特に接客中そのスカートは止めてくれ」
 赤毛の少年が固まる。
「は?」
「いや、だからそれだよそれ」
 毛深いオーナーがつんつんと指差すそれは、慰安の腰から膝上を覆う青いタータンの……
「ミゲルさん、これはスカートじゃなくてキルトと言って」
「ここはアトーチャ料理店だからね、クレイランドじゃあないんだ。この店はただ食べるだけじゃなくアトーチャに行けない人にも行ったかのような気分で食事を楽しんでほしいのさ。そこにクレイランド人がスカートを履いて接客してたらどう思う?」
「だーかーらー! これはキルトですって! 俺達の正装ですよ?!」
 スカートと自覚しているのだろう。しかしこれはれっきとした男物で、イアンにとって茶化されたように言われるのは堪えられなかったのかもしれない。思わず声が荒くなってしまう。
「いーや、キルトだかタルトだか知らないけれど店のルールは守ってもらうぞ! もし押しのけてまでそれを穿きたいというなら……女装して踊り子になってもらうからね!」
「じょ、女装ぅ?!」
 思いもよらなかった攻勢の連続にとどめの一撃。最も意外な方向から来た言葉にイアンは抵抗するどころか完全に面暗い、顔は戯画のそれと同じようなほうけた表情を作った。
「そうだ、女装だ。幸いアトーチャには有名な女性の踊りがあるからちょうどいいね。小柄で顔も中性的だから見分けつかないだろうし……」
 脱がさせていただきます、だから女性だけは! とイアンが即答したのは言うまでもない。

Re: Piper in Eastend【キャラクター募集中】 ( No.8 )
日時: 2013/02/01 21:20
名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: JiXa8bGk)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

——厨房

「ピンチョス・モルノス(羊の串焼き)!」
「あいよー!」
 落ち着いた店内の裏側では男たちが皿を洗い、肉を焼き野菜を切る音と匂いの空間が作られていた、その中で赤毛の少年は面接で「得意」と言った羊料理を捌いていた。既に手は脂に塗れ、エプロンも撥ねた油と血で汚れ、髪が入らないように被った帽子も汗に濡れ始めている。
 今、イアンの足は黒のズボンに覆われている。オーナーの要請通りにしたのだが、生まれて初めて穿くズボンは心地がいいとは言いにくいものだった。動きやすいのはわかるがやはり通気性のあるキルトがいい。オーナーも外国人だからいくらか同情したのか、キルトが禁止された代わりにタータンの切れ端をシャツに縫い付ける事を許可してくれた。

「なんだってそいつが大切なんだ?」
 とスー・シェフのカルロスは尋ねる。まあわかるわけがないよなと自分を納得して聞かせた。
 この柄はいわば身分証明書のようなものだ。クレイランド人はタータンの柄によって、どの氏族に属するかを判断してきた。現在でもおよそ十種類の柄があり、大体の出身地域と社会階級が分かるし、サクソランドにおいて一人で暮らすイアンの精神的な拠り所ともなるアイテムでもあった。
イアンが着用する青のタータンは北部の労働者階級が用いるもので、また激しくサクソランドに抵抗し征服後は連合王国軍の主力となった氏族であったことから今でもクレイランド人で構成される連隊はこの柄を好んでいることが多い。
そういったことを説明するとアトーチャ人のオーナーも納得したようで(アトーチャも地域差と各地の自己主張が激しいらしい)許可してくれたわけだが、他の従業員が知らされもせずに気づくわけがないだろう。彼らは階級外だしこの国の面倒な(成功を夢見る労働者階級の若者にとっては甚だ絶望的な)階級制度を理解し入ってゆく必要なんてない。

「いっちょあがりー」
 きつね色によく焼けた羊の串焼きが青地の皿に乗せられホールへと消えていった。イアンはまだ食べていないがアトーチャ人の作る料理はつくづくセンスがいいと感じていた。ニンニクとオリーブオイル、レモンを多用した味付けや肉の旨味を閉じ込める焼き方、そしてワインとの組み合わせを考えたコース料理の組み立ての発送はこの国にはまだ根付いていない。
特にサクソランドの人間たちはひどい。野菜はグチャグチャになるまで煮たと思ったら煮汁は捨てるわ、肉はガリガリに焼きスパゲティは巻いただけでブツブツ切れるまで茹でる。トドメは味をつけない。だからテーブルに塩や胡椒、モルトビネガーが「味を加える」のではなく「味を付ける」ために存在する。なんであんなに美味い紅茶を愛するのに料理は酷いんだ。おかげで連合王国を詳しく知らない連中がクレイランドまでひとくくりにしてしまっている。

「こんな美味そうなもんを毎日食べてるのか?」
「普段はもう少し質素だけどな、まあここのよりはずっと美味いぜ」
「ふーん、俺も暮らしてみたいな」
 皿洗いのノッポのアンヘルが話に首を突っ込んできた。器用な奴で、目を離しても油まみれの皿を洗い続けている。
「やめとけやめとけ。今あそこに行ったって仕事はねぇよ。だから俺たちはこうしてここで働いてんのさ」
 だろうな、とすぐに納得した。確かのこの国は空前の発展を遂げているし、ひと稼ぎと考えるのは当然だろう。自分もクニのインハスではなくわざわざ汽車で一日半かかるサウサンハムに来たのはそのためだからだ。

——深夜、ノートン・パーク・アパートメント

 夜のイーストエンドは静かだ。住人の大多数が昼に働く労働者階級で、夜騒がずしっかりと寝るからだろう。貧弱な外灯と誰もいない通りを歩く事は女性にとっては難しいもしれないが、街灯すらない村で育ったイアンにとってはどうってことはない、はずだが
「怖ぇ〜〜」
 田舎の人間は夜更しをしない。夜は危険だし、仕事(主に牧畜)は明るいうちの方がいい。それに娯楽もないから早く寝るのだが、今の仕事は夜にやる上(インハスでもパブで演奏をしたことはあるが)夜の大都会の怪しい雰囲気というやつも初体験に等しい。イーストエンドには無いが、セントラルの北にはパブや娼館がゴロゴロとあり、人間のしょうもない欲を満たす場所となっているのを見た。

「こんばんは、戻りました」
「おかえり、お仕事はどう?」
 肌寒い外から入ると、決して立派とは言えないアパートの1階は石炭ストーブで温められ、冷えた頬にぬくもりを与えてくれる。タイミングが良かったようで、寝る前のお茶を淹れていたらしい。玄関からちらりと2つのカップとポットが見える。
「ええ、いいところでしたよ。やっていけそうです」
「よかったわね。あ、そうそうお茶を入れていたんだけれど飲むかしら?」
「もちろん」
 あの味は忘れられない。葉の種類を聞いて実家に贈ろう。

「今着いたばかりだけれど、あなたの向かいの部屋に入居者が入ったの」
「へぇ、どんな人です?」
「今お茶を飲んでいるわ」
 カップが2つあったのはそのためか。そしてその「入居者」の組んでいる足が見える。歩を進めると顔が見えた。中性的な整った顔立ちは無表情、というよりはどこか緊張や悩みを抱えているように見えた。室内だというのにショートカットの赤毛混じりの黒髪は帽子に隠れ、着ている服は白いシャツの上に生地の厚いコートを着込み、サスペンダー付きのズボン、ブーツと労働者階級の典型のものではあるが綺麗に手入れがされており、他の労働者階級の人間とは雰囲気が違った。

「こちらが新しい入居者のロビンさん。で、こちらがあなたの向かいの部屋のイアンさんよ、ロビンさん」
「よろしく」
 入居者、ロビンが頭を上げると、そこには赤毛の少年が手を差し出している。
「……よろしく」
 彼の手を握り返し、誠意に応えた。

Re: Piper in Eastend【キャラクター募集中】 ( No.9 )
日時: 2013/02/02 21:25
名前: しゃもじ ◆QJtCXBfUuQ (ID: JiXa8bGk)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode

「ロビンさんはフルートの演奏家なんですって」
「奇遇だね、俺も音楽をやっているんだよ」
 共通点を持ち出しても新しい入居人の心は弾んでいないようだった。常に顔は一種の緊張と警戒を見せ、自分に悪意のない興味を抱いている二人に対してもくつろいだ状態でいられていない。

「そうか……失礼、今着いたばかりで疲れているんだ」
「あらそう、おやすみなさい」
 そう言うと少年、ロビンは軽い会釈をして席を立ち、階段を上っていく。外見はさして自分と変わらないというのに、妙に重々しい足取りをしていることに赤毛の少年は興味と疑念を抱いた。
「あの子、前は私の知人の部屋を間借りして暮らしてたのだけれど知人が亡くなったからツテでここに来たのよ」
「へぇ、そうなんですか」
「聞いた話では難しい子でね、素行に問題があるというわけじゃないそうなんだけれど、なかなか人と打ち解けられないみたい」

 違和感はそのためか。妙に張り詰めた面持ちと態度の謎の一つがわかってイアンは一つの疑問が解けたことにすっきりした一方で新しい疑問が生まれていることも感じた。
(なんだってあんなに人間を遠ざける態度をとっているんだろうな)
 会ったばかりの人間に余計な詮索をすることはいいことではないのは分かっている。今日は紅茶でそれを流し込んでねるとしよう。明日も気になるようだったら彼と話せばいい、


——チェスター寺院
 「Deus caritas est,
et,
qui manet in caritate,
in Deo manet,
et Deus in eo manet」

 天井の高い、石造りの礼拝堂は香油と厳かな雰囲気、パイプオルガンの旋律を携え外の喧騒とはまるで違う亜空間を作り出していた。構内では質素な服装に身を包んだ聖職者達が彼らの母語ではない言語を操り神の愛を讃えていた。
 祈りを捧げ、詠う神の下僕達の中に一際目立つ、濃い赤髪が僧衣から見えるシスターは口をぎゅっと閉じ、自らの世界、心の中で神を讃えていた。

父も友人達も「神は歌ではなく言葉をお聴きになる」と言う。父は忙しい見ながら母を亡くして悲嘆にくれていた自分の為に上流階級では珍しく家庭教師をつけず自分で全ての面倒を見てくれ、尊敬もしている。しかし、歌うのだけはどうしても嫌だった。
(言葉をお聴きになるなら、わざわざ歌わなくてもいいじゃない)
 それがローラの考えだった。その代わりシスター達からは少し浮いた存在となり、信頼されている一方で敬遠されもしている。神を讃えるはずの儀式が自分を苦しめて神との対話を阻んでいることが我慢ならなかった。儀式への憤懣はやがて音楽そのものへの嫌悪に変わっていったのだった。

(あの子はどう思うでしょうね)
赤毛のクレイランド人が頭をよぎった。あの人のいい少年は自分が音楽嫌いだと知ったらどんな顔をするだろう。音楽を仕事さえしていなければ、階級さえ違わなければ誰よりも深い友達になれるかもしれないのに。
神様、何故この国には階級というものがあって、何故人間には天分があって、それが友情を育むことを阻んでいるのでしょうか。赤毛のシスターの苦悩はたとえ今日という日を全て神を賛美し当事に時間を費やしても解決できなかった。


——キング・アルバート・パレス

 今日の演奏はあまりお金が入らなかった。日曜日ではないということもあるが基本的に連合王国は年中観光客が訪れ、労働者の労働環境も整備されているため労働者が休みを取って公園でくつろぐというのは珍しくなく、平日、休日ともにキング・アルバート・パークは連日人であふれかえっているから、音楽家が小銭を稼ぐにはちょうどいいところなのだ。
イアンにとって路上パフォーマンスは生計の一つである一方顔と名前を売り、コネクションを作る手段なのでそこまで目先の金額にがっつく必要もないのだが、やはりあまりもらえないというのも寂しい。
「まぁ、こんな日もあるよな」
 こういう時は気持ちを切り替えるしかない。少ないとはいえ18ポンド、節約すればウナギゼリーを3日分は食べることができる。そう思えばかなり儲けものだ。今日もバグパイプ奏者として顔を売ったと思えばさらにいい。

 演奏を切り上げて公園から出ると、何やら騒がしい。どうやら何かあったらしい。新聞の売り子が大声で号外が出たことを知らせ、紳士や労働者がこぞってその新聞を買おうと殺到する。イアンもその人ごみを掻き分ける形で新聞を購入しようとしたが、人垣は彼を前に進めようとしない。
「なぁ、何があったんだ?」
 隣にいた背の高い身なりのいい紳士ならば知っているだろうと思い、話しかけてみた。思った通り紳士は何が起こったのかわかっていたようで、少し難しい顔をしている。
「戦争だよ、キャセイと連合王国がね」
 戦争、ということには対して驚かなかった。しかし相手が問題だ。
「どうして? この前勝ったろ?」
 そう、8年前に勝ったのだ。これ以上ないほど差を見せつけて。しかもその戦争が始まった理由は……


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