複雑・ファジー小説

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エリスの聖域 (5/15 更新)
日時: 2013/05/15 23:23
名前: Lithics ◆19eH5K.uE6 (ID: 9AGFDH0G)
参照: http://www.kakiko.info/bbs_talk/read.cgi?no=10911

 世に光あれかし。
 人に道あれかし。
 そして、どうか——彼女(エリス)に、聖域の加護があらんことを。


 
○ご挨拶
 
 初めまして、Lithicsと申します。
 カキコでは主に短編を書かせて頂いていましたが、この度、長編に取り組みたいと思いスレッドを立てさせてもらいました。
 絶対に手を出すまいと思っていた吸血鬼ものです。人によっては表現に不快感を覚える方がいらっしゃるかも知れないので、あしからず先に断らせて頂きます。
 また我が儘ですが、読んで頂いた方からコメントをもらえると非常に励みになります。ただ、その際、内容の区切りの良い所であれば更に嬉しいです。もしくは参照にある雑談板の方にお越し頂ければ、これまた無上の幸いです。

 ——では。
 どうか、暗い夜道にはお気を付けて。



○目次

第一章:黒い十字架

序幕 >>1-4 >>1 >>2 >>3 >>4

第一幕 >>9-11 >>9 >>10 >>11



・執筆、構成中()
・休筆、コメント待ち(○)

Re: エリスの聖域 ( No.10 )
日時: 2013/04/26 19:46
名前: Lithics ◆19eH5K.uE6 (ID: KE0ZVzN7)

 カチカチという秒針の音が、妙に耳に障る時間が続いた。
 そのうち時計をデジタルにしようとか、いい加減に部屋の模様替えをするべきだとか、そんな現実逃避してみても状況は変わらない。

 夏希は月を半分にぶった切ったような目を向けたまま逸らそうとせず、まさに針の筵になった気分。きちんと学校の制服を着て仁王立ちする夏希と、寝巻きのままベットに正座する自分とでは、どっちが年上か判らないくらいだ。とは言え、自分にもさっぱりな事を、一体どう説明しろというのか。春希は深く肺を絞るような溜息をついて、誤魔化すように笑ってみせた。

「あー、ちょっと、な」
「ちょっと、じゃないってば」
「……はい、ごめんなさい」

 びしっと鼻先に指を突きつけられて、いよいよ進退は極まった。
 本当の事を話す訳にはいかないだろう。しかし、全くの嘘というのも難しい。なにせ夏希が生まれてから15年、物心ついてからでも10年の付き合いである。根本的な所で下手な嘘をついても、一瞬でバレてしまうのがオチだろう。

 それに、だ。夜毎に必ず血を抜かれた死体が見つかる、この時代である。夏希にだって、だいたいの予想は付いているはずだった。
 言いたくないのだが、仕方ない。静かに息を吸って。なんでもない事のように、できるだけ昔を思い出させないように、春希はその言葉を口にした。 

「——吸血鬼、だ」
「っ……!」

 夏希が肩を震わせる。2年前からずっと、その単語は兄妹の間ではタブーだった。



2/第一幕:日常(偽)

「な、なんだか信じられないけど……」

 嘘のコツは、中身に少しだけ事実を混ぜることである。と、どこかで読んだことがある。春希が必死になって頭を回転させて紡いだ言い訳は、半信半疑ながらも夏希を納得させたようだった。
 それも出食わした化け物から逃げ出し、途中で転んだ拍子に先にやられた他人の血を被ったらしいという、明らかに無理のある話だった。嘘のコツとは物の言い様で、つまりは長年の間で何となく培った夏希を騙すコツである。

「きゅうけ……アレから無傷で逃げてくるなんて。ハル、そんなに足速かったっけ?」

「地味に傷つくな、それ。お前と一緒に走ったことなんて無いんだから、分からんだろう?」
「あー、うん。そうだよね……そもそも、わたし走ったことないから分かんないや」
「ん……悪い。そういうつもりじゃなかったんだけど……」

 気が緩んだのか、普段は絶対に言わないような失言を漏らしてしまった。
 先天的に腎機能の障害を抱える夏希は、定期的に血液の人工透析を受ける必要がある。それゆえに幼い頃から激しい運動は禁止され、学校も休みがちになってしまう。両親が逝ってからは特に、中に閉じこもり気味になっていて。春希には明るい表情を見せるものの、その事に対して寂しさや歯がゆさを感じているのは間違いなかった。

 だからこそ。春希は、妹の為ならば出来うるだけの事をしてやりたいと常々思っている。断じて、断じてシスコンの類ではないし、夏希もブラコンではないと思う。

 そう。お互いに唯一の肉親として、縋らなければ生き辛い世の中だというだけ。

「ううん、いいの。『おにいちゃん』は、わたしに気を遣いすぎなんだよ」
「……とりあえず、その呼び方は止めれ。こう、何かゾワっとくるから」
「えー、ひどいなぁ。いいじゃない、仲良さそうでさ」
「は、なんだそれ。仲悪くはないだろ、ほら」

 ベットから立ち上がって、夏希の頭をくしゃくしゃと撫で回す。
 さらさらとして指通りの良い髪は、いつも少しだけひんやりとしていて心地良い。

「ん……」

 身長は頭二つ分も違うから、まだまだ子供に見えて、つい手を置いてしまうのである。普段なら直ぐに擽ったがって猫のように逃げてしまうのだが、今日は目を瞑ってなすがままにされている。
 思わず「どうした」と言いかけて。そのとき夏希が見上げるように顔を向けた事で、春希は言葉を出せなくなった。

 ——その穏やかな笑み。
 不覚にも言葉に詰まったのは、そこに懐かしい母親の面影を見たからだった。

「うん……ほんとに、良かった。もう心配させないでよね、ハル」

 あぁ、生きている。理由も意味も分からないけれど、自分は生きているのだと、春希はその実感で涙が出そうになった。一度は諦めなければならなかった。だが、それでもまだ続けろというのなら……

「……あぁ。善処しますよ、お姫様」

 黒須春希は、彼女の為に生きると誓おう。

Re: エリスの聖域 ( No.11 )
日時: 2013/04/26 19:47
名前: Lithics ◆19eH5K.uE6 (ID: KE0ZVzN7)

3/第一幕:日常(真)


「うーん。この貸しは、そうだねぇ……」
「……どうか、お手柔らかに」

 ——その邪悪な、もとい悪戯な笑み。
 そこにも亡き母親の面影を見た春希だったが、今度は少しも懐かしいとは思わなかった。

 貸しと言われれば、確かに貸しである。記憶にないとは言え、血塗れで転がり込んだ春希を二階の自室まで運び、服を着替えさせ、身体を拭くという一連の作業は、夏希にとっては大変な重労働だっただろう。
 それに報いるのはやぶさかではないが、それを申し出た途端に夏希の目が光ったのが気になりすぎる。なにか虎視眈々と機会を伺っていたような気配が、そこにはあった。 

「じゃあね、一緒に観たい映……」

 ほら来た。夏希の満面の笑みに対して、春希は脊髄反射で拒否をしていた。
 
「却下! ダメ、絶対。ホラーとかもうね、この世から無くなればいいと思います!」
「な、まだ何も……映画みようって言っただけだってば!」
 
 冗談を言ってはいけない。春希とは対照的に、夏希は重度のホラー映画ファンであり、事ある毎に春希にHD(ホロゥグラフ・ディスク)のコレクションを観せたがる。曰く、「ホラーは好きだけど一人で見るのは怖い」のだそうで。
 さもありなん。HDとは半世紀前に登場した、立体映像を鑑賞者を中心とした空間の全方位に投影するタイプの記憶・再生媒体で、その臨場感は3D映像の比ではない。ホラー映画に応用すると余りにもエグいので、この媒体で制作されたものは数が少ないのだが、その分最初(はな)から開き直って恐怖を追求したものばかり。春希にとっては、罰ゲーム以外の何物でもなかった。

「ふぅん? ホラーじゃないっていうなら喜んで観るけど」
「ぅ……い、いや、ホラーじゃないっていうか、その。サスペンスホラー、みたいな?」
「もっと悪いわ。胸がドキドキとか血がドクドクとか、もういいんだって」
「むぅ……意気地がないなぁ、ハル」

 そう言って拗ねる夏希を見て、春希は苦笑いをするしかなかった。
 天国の父さん母さん、貴方たちの教育はちょっと間違えてたと思う。別に妹の趣味に口を出すつもりはないが、あまりに暗くはなかろうか。ここで一緒に観てやると言わなければ、夏希は一人でも観るのだろう。部屋に篭って、カーテンを締め切って。
 あぁ、その光景を想像してしまったら負けである。やっぱり叶わないなぁ、と今度は深い溜息をついて。

「はぁ……ほんと、最初だけな。あと、やたら音量上げるの禁止で」




  
 そうして交渉は決し、夏希がニコニコと笑顔で部屋を出て行く。
 その後ろ姿を見送って、春希は再び一人になった。彼女が朝食を用意してくれている間にシャワーを浴びて、着替えを済ませ、身だしなみも整えなければなるまい。だが……

「…………」

 一人になった途端、両肩にずしりと重しが乗ったような感覚。
 何故お前は生きているのか、という見えない何者かからの謗りを受けている気がする。それは春希を殺した女吸血鬼かも知れないし、矛盾を許さない世界そのものかも知れなかった。

 これでは、気鬱になるのも当然だろう。自分が生きている理由、もしくは死ななかった理由が明らかにならない限り、この重圧は続くのだ。瞬きをした拍子にでも、邯鄲の夢よろしく、あの『死』の瞬間に帰ってしまうのではないかという恐怖感に苛まれる。本当なら、映画を観る約束なんてしている場合ではなかった。

「考えろ、考えろ……」

 ベットから立ち上がって、部屋の中を意味もなく動き回る。
 右手の指は先刻から忙しなく擦り合わせていたせいで、もう赤くなってしまっている。それでもカスカスと鳴るばかりの指音に焦りを募らせながら、春希は昨夜の出来事に思考を遡らせた。

  事実は一つだけ。吸血鬼は、その細い腕で春希の命を絶った。

 どんなに荒唐無稽で悪い夢のようでも、それは間違いない。あの血塗れで破れたシャツが、それを証明している。あんな風に腹に風穴を開けられたのでは、頚から血を吸われるまでもなく春希は死んでいたはずで——

「え、ぁ……血を、吸われた……?」

 その時、ふと。
 今まで一向に鳴る気配のなかった指の音が、まるで春希の思考を嘲るように。一人、静まりかえった部屋にパチリと響いた。

(第一幕、了)


Re: エリスの聖域 ( No.13 )
日時: 2013/05/01 15:01
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)

リシクス様こちらでは初めまして。雑談ではそれなりにお世話になっている風死です。
しかし、一番最初にコメするとか言っておいて……ですね。

ハル青年と吸血鬼さんの追いかけっこのシーン凄く緊迫感があるという亜k、吸血鬼さんが色気あって良かったです♪
後半の妹さんとハルの話のシーンも序盤の追いかけっことは違った魅力があって良かったですvv
更新がんばってくださいね。

Re: エリスの聖域 ( No.14 )
日時: 2013/05/01 19:19
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: uY/SLz6f)

こんばんわ!前々から読みたかったのですがやっと読めました……塾の休み時間なうです。
携帯からのコメントなので文字化けしていないか心配です(´・ω・`)

はじめ題名見たとき、エリスゆえに森鴎外の舞姫らへんを連想しました。
それも手伝って、吸血鬼モノと聞いていたので古風な物語なのかなぁと思っていたのですが、

なんと未来の話でしたか(*゜∀゜)!


春希くんがこれからどういうアクションを起こしてゆくか気になります。
執筆頑張ってください!

Re: エリスの聖域 ( No.15 )
日時: 2013/05/03 17:58
名前: lithics ◆19eH5K.uE6 (ID: fExWvc7P)

出先よりスマホで失礼します。

>>13
>風死さん

コメント、ありがとうございます!
どの順番でも、感想を頂けるだけで嬉しいですよ。

色気を出すような描写は初めてに近いので、そう言って頂ければ安心します。退廃的な近未来を描ければと思っています。

>>14
>ryuka さん

コメント、感謝です!
確かに、題名は中世っぽいですね(苦笑
案としては吸血鬼が本当にいたら、ネズミ算式に増えていかないものだろうか、というアイデアなので。一番そういう話にしやすい近未来を選びました。邪道だと言ったじゃないですか((笑)


ありがとうございました。


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