複雑・ファジー小説
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- 君を、撃ちます。
- 日時: 2018/09/13 16:37
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: 4MZ2FBVM)
君の手は、とてもとても暖かいね。
もう疲れたっていったら、君は怒ったりするかな。
大好きだよ、とってもとっても。
だから、ね。
僕の、最後のお願いを聞いて欲しい。
———————
■二年が経ちました。(>>59)
改めて、更新を開始していこうと思います。ゆったりとした更新ですが、よろしくお願いします。
□どうも、柚子といいます。普段は別名義です。
□
第一話『僕』 >>01-44
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第二話『私』 >>44-66
>>44 >>45 >>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>62
>>63 >>64 >>65 >>66
□お客様
ゆぅさん/風死さん/朔良さん/千鶴さん
憂紗さん/日向さん/悠幻さん/涼さん
エリックさん/環奈さん/Orfevreさん
キコリさん
□since.20130318〜
———————
( 虚空に投げたコトノハ )
( オオカミは笑わない )
( さみしそうなけものさん )
ふわりとかすった花の香 /餡子
- Re: 君を、撃ちます。 ( No.10 )
- 日時: 2013/03/24 15:28
- 名前: 千鶴 ◆t8xM.VhDXM (ID: ezxnwr3m)
描写が丁寧で羨ましい限りです。
そして引き込み方がお上手で……
一気にぐぐっと作品につれてかれました笑
紹介が遅れました、千鶴という者です
こちらで書き始めたばかりなんですが
やっぱり未熟だなあという気がします。
柚子さんの他の作品にも軽く目を通したのですが、
世界観が独特で、本当羨ましいです笑
私には無いものばかり持っていて
少しくらい分けてもらいたいですね……笑
そしてお話しがポンポンと軽快と進む割には
私とは違って文章が丁寧で !!
リスペクトしまくりです笑
続き楽しみにしています !!
私的に伊吹君の名前が気になりますね
執筆頑張って下さい!!また来ます(・∀・)
- Re: 君を、撃ちます。 ( No.11 )
- 日時: 2013/03/24 21:30
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: nMbYaRrD)
千鶴さん
初めまして、柚子と言います。
まだまだ技術面では未熟な点ばかりです。
言ってしまえば、全て未熟なので万年見習いから卒業しないつもりです(苦笑)
自分は彼是こちらでは四年目に入り、執筆では五六年やっているのでそれの集大成が今だと思っています。
十年近く執筆をされている人には、遠く及びません。
軽快に進めるのは『咎人』からの教訓でして。
同じシーンでgdgdするよりも、ちゃっちゃか進めてしまおうと思っているので。←
リスペクトは……しないであげてください、プレッシャーには弱いのでw
コメント有り難う御座いました^^
- Re: 君を、撃ちます。 ( No.12 )
- 日時: 2013/03/26 20:04
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: uh7M8TG/)
何分か、何十分か、何時間か。扉の前で蹲ったまま僕は少しも動かなかった。同じように顔の熱さも少しも変わらない。着ている服は、背中から出る汗のせいできっと素肌が見えているなぁ、なんて考えた。相変わらず隣の部屋からは五月蝿いくらいに声が聞こえてくる。
「男」の大きな声と、「女」の小さな声。誰よりも静かで丁寧で、柔らかい声は「椿木」のものだと直ぐ分かった。僕は立ち上がって、扉の鍵を開ける。シーツを被ったまま一階へ行き、リビングへ入った。「母親」に不思議な顔をされたが、気にせずにキッチンへ向かう。
冷蔵庫をあけ500mlのペットボトルジュースを取る。中に入っているのがスポーツドリンクだと確認して、キャップをはずし飲む。独特のにごった色をごくりと飲みこみ、口からペットボトルを放した。シーツで口元を拭き、リビングのソファにどっかりと座る。
「二階の子達、元気よね。お母さん凄いと思うわ。××も椿木ちゃんみたいに学校行ったりしたい?」
「母親」の冗談には何も返さずにソファの上に足を乗せ、縮こまる。シーツに体全部を包んだ僕は、傍目から見たら白い置物だろう。「母親」にシーツ越しに頭をぽんぽんとされ、内心でそんなに子どもじゃないと毒づいたが、静かに目を閉じて眠ってしまった。
「いーぶーきーくーん、みんな帰ったよー」
「椿木」のその言葉に、ばっと頭を上げる。ジンとした後頭部の痛みを感じ、シーツの中で後頭部を手で押さえた。シーツの間から「椿木」を見ると、顎を押さえて蹲っている。僕は痛みをこらえながら、「椿木」の頭を撫でた。ふわふわの茶髪が自分の手に触れているのは、とても不思議で少しだけ優越感に浸れる行為だった。
優しく撫でたり、わしわし激しく撫でたりすると、段々「椿木」の髪の毛がボサボサになっていくのが見れて少し嬉しい。「椿木」はされるがままに撫でられていて、時折小さなうめき声が聞こえた。だけど僕は止めないで、うなり声が聞こえるたびに優しく撫でるようにした。
「ちょっ、伊吹くん! 髪っ、髪ボサボサじゃない!?」
出そうで出ない言葉を飲み込んで、ボサボサになった「椿木」の髪の毛を整える。
言葉が伝えられなくて、ごめんね。
「椿木」の望んでいる答えをあげられなくて、ごめんね。
気を使わせたら、ごめんね。
そう、心の中で僕は謝る。どうやっても「ごめんね」がありがた迷惑に引っ付いてきて、どうしようもなかった。顔を見せないようにシーツで全部包まってから、「椿木」の頭をいじっていた手をしまう。
「……伊吹くん?」
心配そうに声を出す「椿木」に、「母親」が楽しそうにクスクスと笑った。その笑いの対象が僕だとは分かったけれど、何も言わなかった。言えなかった。悔しかったけど涙は出なくて、そのことも容易に想像ができているだろう「母親」は何も言わない。
何が原因なのかもきっと分かってる「母親」は、敢えて僕をほうっておく。僕が伝えるか、「椿木」が気付くかを少しだけ試しているようなその態度が好きじゃなかった。
「ね、伊吹くん。どうか……した?」
「椿木」への言葉は、全部「ごめんね」で埋め尽くされた。
- Re: 君を、撃ちます。 ( No.13 )
- 日時: 2013/03/27 22:25
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: .MCs8sIl)
小さな頃はお喋りで。口を開けば今日の出来事や、楽しかった思い出を何度も繰り返して話していた——気がする。七年前のとある日の出来事は、今はもう、社木伊吹とその「母親」の記憶ぐらいにしか留まっていない。僕を殺そうとした「誰か」は、何かで聞いたが同日に銀行強盗をして、銀行の「職員」を殺害した。
そのまま「誰か」は逃げて、僕を見つけ誰も来ないような廃ビルに連れ込まれ首を締め上げた。きっと僕の苦しそうな表情は、「誰か」にとっては悦だったんだろう。「椿木」の声を感じながら、僕は外界の音をシャットダウンするかのように、過去の出来事を思い出していた。
僕に居たはずの弟は、それっきり姿をけした。家に仏壇は一つも無い。「母親」一人の財力では厳しかったはずの一軒家に、神棚も仏壇も無かった。「母親」が僕の弟について何か言ったりしたことは、一度も無い。僕から話を振ることは、ゼロに等しかった。
「伊吹くん、何か気に触ること言っちゃってたら、ごめんね。それじゃ、私お風呂行ってくるね」
そう言った「椿木」の気配が遠くにいったのを感じる。シーツから頭を出して、キッチンのほうを向くと「母親」が晩御飯を作っていた。香ばしいごま油の匂いが鼻腔をくすぐる。メモ帳とペンを取るためにソファをおりた。
メモ帳と普段使っている黒ボールペンを手にとって、キッチンへ向かう。金網の上に揚げた鳥のから揚げがおかれていた。香ばしいごま油の香りは気のせいだったようで、IHヒータの上には油が沢山入ったダッチオーブンが一つだけだった。
「伊吹くんのお母さん、お風呂借りますね」
顔を覗かせた「椿木」に「母親」は、遠慮なく使ってね、と笑顔を向けた。
「さて、××は何か言いたいことあるの? ご飯の準備中にキッチンくるなんて、珍しいじゃない」
たれに浸かった鶏肉をダッチオーブンの油の中に入れ、「母親」が聞いてくる。僕はボールペンのキャップをはずし紙に“椿木はどうして、僕達の家に来たの?”と書いた。相変わらず、子どもみたいな汚い字で。
それを見せて、僕は「母親」の表情を窺う。本当に困ったときは、いつも感情の伴っていない笑顔を見せるから。じっと「母親」を見つめて、回答を待つ。「母親」は先ほど油の中にいれた、程よく揚がったからあげを金網の上に出し口を開いた。
「椿木ちゃんね、お母さんとお父さんに虐待されてるんだって。学校が午前中だけのときは、家に帰りたくないらしくて、よく家の庭にくるのよ」
「それで、ついに耐え切れなくなったらしくてね。この前××が椿木ちゃんと会った時に、招き入れちゃった」
ごめんねぇと、ゆるく言った「母親」に、メモ帳で書いた、ありがとうを見せリビングへ戻る。メモ帳とボールペンをもとの場所に戻して、部屋へ戻った。どうしようもなく、罪悪感に襲われたまま僕は部屋に入りラグの上に横たわる。
——ごめんね、勝手に聞いちゃって。
そんな申し訳なさが慣れなくて、僕はクッションを抱いたまま横になって動かなかった。
- Re: 君を、撃ちます。 ( No.14 )
- 日時: 2013/03/29 15:55
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: VKAqsu.7)
謝ってばっかりだ。声に出せないまま、出そうともしないまま心の中で謝り続ける。声が出せないのが苦になったのは、初めてだ。「母親」となら筆談でやっていける、耳は聞こえるから話の内容も理解できる。けれど僕の声が出ないことを良く分かっていないのかな、「椿木」は。
書いて教える手もあるけれど、あからさま過ぎて。“僕は声が出ないんです。だから代わりに書いたので見てください。”なんて、馬鹿げてる。七年前の事件すら無ければ、きっと元気に遊んでいられたんだろうな。今でも、十分元気に遊べるのか。自分が動こうとしなかっただけで。
クッションを離し、無音の部屋を見渡す。窓から差し込んでいる満月の光がベッドを照らしていた。都会独特の喧騒も無い場所だから、夜になれば月や星が綺麗に見える。田舎程ではないけれど、それなりに空気も澄んで星も綺麗だ。
「いーぶきくん、入ってもいーい?」
ドア越しに聞こえた声に反応して、僕は扉の正面まで歩いていく。一度首に触れ、包帯があることを確認した。「母親」にも、「椿木」にも見せたくない傷は、隠さないといけない。包帯から手を離し、ノブに手を掛け扉をあけた。正面にはまだ少し髪が濡れている「椿木」が笑っている。
僕も少し笑顔を作り、「椿木」を部屋に招き入れる。部屋の電気をつけると、電球の眩しさに思わず目を細めた。「椿木」がラグに立ったままだったから、手で“座ってどうぞ”と示す。申し訳なさそうに微笑んで、その場に「椿木」は座った。
「男の子の部屋って初めてはいるけど、物全然ないんだねー」
きょろきょろと僕の部屋を見る「椿木」に、なんと言葉を返せばいいのか分からなかった。取り敢えずベッドに付属している引き出しの中から新品のメモ帳と同じく新品の黒ボールペンを取り出す。“そうでもないよ”と書き、「椿木」に見せた。
「えー、そうかなー。ってこんな事話に来たんじゃなくって。……うるさかった、かな? 夕方にみんな連れてきたのに、帰るときは真っ暗になっちゃってさ」
僕は座ったまま黒いクッションを手繰り寄せて、胡坐をしてる足の間に置いた。利き手である左手にはペンをもったまま、「椿木」の話を聞く。
「それで、学校祭の進行役とか確認してプチリハーサルもやってみたんだ。本番、明後日だから。それでね、明後日の学校祭に伊吹くんに来てほしくって」
どうかな、と僕を見る「椿木」。返答に困ったけれど、“いいよ。何で?”とメモに書いて見せた。少し考えた表情を見せたあと、「椿木」が口を開く。
「んー、楽しんで欲しいからかな。隣町の中学校の子とかも、沢山来て楽しいんだよ。私がちゃんと責任持って案内するし」
得意気に胸を張ってみせた「椿木」に、思わず口角が上がった。少し不服そうな「椿木」の顔が、無性に可愛く感じる。可愛いな、と言いたかったけど言えなかったからただ声を出さないまま笑顔を向けた。頬をふくらまし、体育座りをした「椿木」の頭を「母親」にしてもらったようにぽんぽんとする。
僕をじっと見てくる「椿木」の視線を気にしないで、右手でぽんぽんとし続けた。まだ少し湿っている髪の毛は新鮮だと感じる。可愛いな、「椿木」って。
「結局どうする、伊吹くん。学校祭くる?」
僕に撫でられたまま聞く「椿木」に、さっとメモ帳に書いた文字を見せる。嬉しそうな顔をして、「椿木」が僕を見てきた。満面の笑みで「ありがとっ!」と言う。僕はその笑顔にときめいたのか、赤くなった顔を見せないように、顔を背けた。
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