複雑・ファジー小説
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- 英雄伝説-Last story-
- 日時: 2014/03/23 13:10
- 名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=8016
古より語り継がれてきた、歴史に残るいくつもの英雄の伝説。
それは時に御伽噺となり、それは時に闇の中となり、それは時に表舞台で讃えられてきた。
そしてそれらはどれも、同じ魂を転々と他の新たな肉体に宿す、決して倒れない不死身の敵を闇に還す話が綴られている。
この書物に残る話は、そんな永遠の輪廻を断ち切った英雄の話が綴られている————
◇ ◇ ◇
壁|≡(・_・)/~~~
どうもー、案外早く物語が思いついた、性懲りもなく三回目を投稿したキコリでございます。
前作の反省を踏まえて、今宵こそは(こんな僕でもわかりやすく書きやすい単純な話を)頑張って書いていきます!
温かい目で見守ってくださると幸いです。それでは始めましょうか。
☆ルール☆
・はい、まず荒らしはやめてくださいね。絶対ですよ!
・毎度の事ですみませんが、僕は家の事情で土日の更新がメインとなりますので悪しからず。
長期休暇(夏休みなど)の場合は別ですが(^^;
・また前回みたいなことがあると困るので、今回は慎重に更新していきます。
よって、今まで以上の亀更新になるかもしれないので悪しからず。
・毎度お馴染み、お客様コメント返信欄を今回も作成します。
コメントの返信やオリキャラについてのコメントはそちらで行います。
お知らせ
・上記URLのリク依頼・相談掲示板にてオリキャラを募集しています。
お客様コメント返信欄>>1
英雄伝説-Last story-
序章 —不死なる不浄の魂—
>>2 >>3 >>4 >>5 >>7 >>8 >>10 >>11 >>12 >>13
- Re: 英雄伝説-Last story- ( No.7 )
- 日時: 2014/03/16 13:11
- 名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)
「え?死霊?」
険悪そうな表情を浮かべているシヴァから発せられた言葉は「成仏されずに存在している死霊」だった。
「そう。その死霊が肉体に宿ると、どうしてか取り憑かれた肉体は不死になるわ。今まで人間の間で語られてきた英雄伝説では、一切の例外なくその不死の肉体——正確に言えば死霊と戦ってきたのよ」
そして世間の表に出ていない話は、何らかの理由で犠牲者を伴ったとされている。
「ふうん。さっすが、おばあちゃんの知恵ね」
「っ!?」
「ま、まあまあ」
アリサの余計な一言にシヴァの発する冷気が一瞬増したが、腕に触れたリィナによって何とか抑えることが出来た。
精霊たるものこの程度の、しかも人間のからかいで感情を無闇に動かしてはならない。
これは精霊の掟でもあった。だがリィナがいなければ、アリサは今頃氷付けにされているだろう。
因みに精霊は、千歳前後から子供を産むことができなくなる。同時に、年齢に執着しなくなることが多い。
だが、何時までも気にする者もいるし、最初から気にしない者もいる。
シヴァはどちらかというと後者だが、流石に七百歳で『おばあちゃん』と呼ばれるのには抵抗があったらしい。
因みにリィナは後に、シヴァの肌はやはり、すべすべでひんやりとして気持ちよかったと語っている。
気を取り直して、シヴァは続けた。
「でもって、その死霊は青白く光る火の玉のような形を取っているわ」
「!?」
反応したのはリィナだった。
「まさか、エステルと一緒に消えたその何かって……」
「えぇ、死霊という可能性が近いわ。重ねて言えることは、エステルちゃんは死霊に取り憑かれたでしょうね」
その言葉が発せられると同時に、その場の空気が一気に凍りつく。当然だ。
実際、宿った肉体を不死にして悪さをするその死霊は国際的に問題になっている。
リィナたちが知らないのは、各国の政府がその情報を操作して世間の表に出していないのが理由に当たる。
死霊は出現する度に英雄が肉体と一緒に闇に葬ることで解決してきたが、今回はリィナにとって、肉親を殺さねばならない事態にある。もしも彼女が英雄となるのだったら、の話だが。
そもそもまず、国際問題に発展している時点で死霊の話はどこかで出ている。
その時点でエステルは、まわす気もなしに世界を敵にまわしたことにもなる。
「世界の各国を回って、情報を集めればエステルちゃんには会えるでしょうね。でも——」
「エステルそのものが、無事に私の元へ帰ってきてくれるとも限らない。でしょ?」
「そうよ」
さあどうする。皆の視線がリィナに集まり、そう言っている。
だが、彼女の答えはある意味予想内で、それでいて皆が本気かと疑った。
「エステルに会うわ。そうすればきっと、何とかする方法もあるはずよ」
それでも、一同は頷いた。
が、シヴァだけ悲しげな目で、窓の向こうの空を流れる雲を見ていた。
(助かる術なんて、ないのよ。リィナ……)
- Re: 英雄伝説-Last story- ( No.8 )
- 日時: 2014/03/17 22:56
- 名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)
「……それで、何でここに来た訳?」
リィナはエステルを探すべく、旅に出ることを決意した。
するとその後、ジョルジュがそんなリィナとシヴァを伴い、この国『レミン王国』の図書館の前までやってきた。
因みにジョルジュはギルドに入ったのがリィナと同期で、リィナにとっては最も付き合いが長い相手となる。
そんなリィナの盟友ジョルジュは、彼の後ろでそうぼやいた彼女を振り返った。
「い、いや……ほら、エステルちゃんに取り憑いた生霊と戦うなら、事前の知識は多いほうがいいかなって」
「何でそうする必要があるの? そんなの、シヴァに聞けばどうとでもなるでしょ」
その戦士とは思えない細い腕を組んだリィナは、ジョルジュの混じりけのない黒い瞳に続いてシヴァを蒼い瞳を見た。
何かを期待するような目線を彼女に送っていたリィナだが、そんな期待は見事、シヴァの一言で粉微塵に打ち砕かれる。
「私にも知らないことはあるわ」
「え゛っ」
頼りにしてたのに。そういいかけたリィナを見て、ジョルジュは腹を抱えて笑い出した。
「アヒャヒャヒャ! ほら見ろリィナ、俺は間違ってない!」
「こ、この……」
からかうジョルジュにリィナは思わず太刀の柄を引っつかんで抜刀しかけた。が、ここは仮にも国立図書館の前。
迂闊に得物を手にすれば、いくらギルドの関係者でも怪しまれてしまい、国家権力にお世話になってしまうのが関の山である。
因みにアリサや、ジョルジュと同じくリィナと同期のフロンは、ギルドの仕事もあるので支部内に残っている。
他のメンバーも同じで、旅に出るのはリィナとジョルジュ、別行動でシヴァ。この三人だけだ。
困ったときは駆けつけるとのことだが、リィナは若干心配している。
「知らないことがあるから、私は別行動で情報収集するのよ。分かるかしら?」
「は、はい……」
少しだけしょ気るリィナ。
そんな様子が先生に謝っている生徒のように見えたジョルジュが、再び腹を抱えて笑い出した。
「あーヒャヒャ! や、やっぱりおか……へぶっ!」
途端、リィナの拳がジョルジュの腹にクリーンヒットする。
殴られて呻く彼を他所に、リィナは殴った拍子に肩にかかった、その長くしなやかな銀髪を手で払いのける。
再び腕を組むと、玲瓏たる金の瞳でジョルジュを睨み、彼のボサボサな黒髪の生えている頭を踏みつけた。
そしてリィナは可愛らしく小首を傾げ、太刀の柄を握って宣告する。
「次言ったら、バラしてあげるねっ」
これ以上ないほど誰もがうっとりとしてしまいそうな笑顔で、歌うように告げられた解体宣言。
「ごめんなさい、もういいません!!」
ジョルジュは地面に顔を向けた状態で頭を踏まれていたために見えないが、横でそんな光景を見ていたシヴァや通りすがった通行人は冷や汗を流しながら苦笑を浮かべている。
七百年の時を生きた氷の精霊に冷や汗を流させたのだ。
ジョルジュは仕方ないので、結果的にそうやって反省の色を示すしかなかった。
「ふん!」
それほどにまで強烈だった光景とリィナの覇気。それはやがて、彼女の荒い鼻息と共に消えた。
足をどけた彼女は、痛い痛いと泣きそうになっているジョルジュに回復魔法をかける。
「全く、ギルドの戦士がその程度の怪我で泣いてどうするの」
呆れているリィナの言うことは尤もらしいが、この場に至ってはそうではない。
察したシヴァが、何か言いたくても何も言えないらしい状況に置かれたジョルジュに助け舟を出した。
「リィナ、それは違うわよ」
「ふぇ?」
間の抜けたような様子でシヴァを見上げるリィナ。
どういうことですか。そんな疑問が誰にでも分かるくらいしっかりと顔に書かれていたので、シヴァは心底呆れた。
「あのね、女の子に蹴られた男の子は誰でも泣きそうになるものよ。ましてや好きな子だったらね」
だがシヴァなりの解釈は、どうやらジョルジュの言いたい事とは少し違っていたようだ。
「へ、変態!!どっかいって!!」
結果ジョルジュは、その解釈を真に受けた様子のリィナによって繰り出されたアッパーをアゴと腹に食らってしまった。
そんな予感が何となくしたので予め歯を食いしばってはいたが、それでもアゴの骨にはいくつかの亀裂が入ったらしい。
俺の言いたいことはそうじゃない。強烈なアッパーを食らった後、一メートルほど浮いてから地面に落ちたジョルジュの口からはそう漏れていたが、不幸にも誰にも聞こえていなかったとか。
- Re: 英雄伝説-Last story- ( No.9 )
- 日時: 2014/03/18 09:01
- 名前: はる (ID: iFTmHP4V)
こんにちはー。
今回は主人公が女の子なんですね!新鮮で良いと思います。
いやー、そういいつつもジョルジュが一番ツボったキャラだったり(
更新頑張ってください。
- Re: 英雄伝説-Last story- ( No.10 )
- 日時: 2014/03/18 21:38
- 名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)
「もー、私が悪かったってばー……ねぇ、何で口きいてくれないの?」
「変態にはどっか行ってほしいんじゃなかったのか?」
「だ、だから誤解なのは分かったって……」
その後予定通り、図書館で件の生霊について調べることとなった三人。
だが、アゴ周りに包帯を巻いて腹を抱えているジョルジュが拗ねてヘソを曲げており、事が上手く成り行かずにいた。
(この二人、本当に大丈夫なのかしら……)
本棚の物色に集中するシヴァも、時折横目でそんな二人を見ては心配し、溜息をついていた。
氷の精霊が吐く息は、やはりというか冷たい。因みにジョルジュ曰く、それはシトラスミントの匂いがするとのこと。
一度、何故知っているのかとリィナに問われたことがあったが、その時の彼は顔を真っ赤にしてはぐらかすだけだった。
「あら?」
そしてそんな状態が暫く続いたとき、シヴァは一冊の本に目が留まった。
何か見つけたか。そう言いつつ、ジョルジュとリィナが彼女に近付く。
手に取っていた本は、英雄伝説裏事情というタイトルがつけられた本だった。
「う、胡散臭い題名ね」
「まあ、調べないよりはいいんじゃね?」
怪しむリィナを他所にジョルジュに促され、シヴァはこの本を見てみようと決めた。
正直言うと、リィナと同じく胡散臭いと思ったので気が進まない彼女だったが、これもエステルのためと思い表紙をめくる。
めくるや否や真っ先に視界に映ったのは、小さな子供によるものであろう行き過ぎた落書きだった。
「ほ、本当に大丈夫かしら……」
「あーもー! 何なら俺に貸せ!」
中々先へ進まないシヴァに痺れを切らし、ジョルジュが彼女から本を引っ手繰る。
その際に「ビリッ」という音がしたが、リィナは気付かなかったことにし、シヴァも気のせいという事にした。
ジョルジュは端から気付いていない様子で、本のページをさっさとめくっている。
「なになに? レジス帝国の大泥棒捕まえた……って、何じゃこりゃあ?」
「ちょ、貸しなさい!」
まさか、そんなこと書いてあるはずがない。
そう思って疑ったリィナが、今度は彼女がジョルジュより本を引っ手繰った。
またしても「ビリッ」という音がしたが、やはりというか彼女は気付いていない。
シヴァはまたその音を確認して溜息をつき、今回はジョルジュにも聞こえていた。
(俺、さっきやっちまった?)
(えぇ、やっちまったわね)
誰にも聞こえないような声で耳打ちしあうジョルジュとシヴァ。
「な、何よコレ。シトラ諸島の一部で火山が大噴火?」
「う、嘘?」
しばらくして、先ほどジョルジュがぼやいた内容と合わせてリィナの目に入った情報はそれだった。
すると今度は、まさかと思ったらしいシヴァがリィナより本を引っ手繰った。
やはりというか、またもや「ビリッ」という音がする。
リィナとジョルジュは吹きだしそうになったが、自分たちもやっていたので笑うに笑えない。
微妙で引き攣ったような笑みを浮かべながら、二人はシヴァの反応を待つ。
やがて、数十ページ見終えた彼女が反応を見せた。
「この本は駄目ね。次、行きましょう」
先のような内容が続いていたのだろうと察した二人は、何か追及するわけでもなく、その場を去っていくシヴァに続いた。
因みにその本には、これまでの英雄達がやってきた善事、或いは不覚にもやってしまった悪事などが綴られている。
深く読み込めば恐らくはどのような本か理解できるが、流し読みするような読み方では到底理解できない内容である。
その本を執筆した小説家本人が、書籍化時にそう語っている。
因みに、その本には件の生霊について詳しく書かれているのだが、それはまた別の話である。
- Re: 英雄伝説-Last story- ( No.11 )
- 日時: 2014/03/20 15:17
- 名前: キコリ (ID: gOBbXtG8)
やがて参考になりそうな本が見つからないまま、三人は一切の収穫もなしに図書館を出てしまった。
その後シヴァが「他の国に赴いてみるわね」と言い残し、そのまま転移魔法を使ってその場を去っていった。
残されたリィナとジョルジュ。第三者がいないと、場の空気は相変わらず気まずい。
二人は現在、この国『レミン』を出て街道を歩いていた。
この街道は左右に山々を望むことの出来る、見渡す限りの大草原となっている。
一応遠くを見れば小さな村、山を越えれば大きな城下町が見えるが、それでもこの道は初見では迷う人が多い。
なので目印に、所々に看板が立てられている。
そんな街道にもモンスターは跋扈しているが、魔法街灯という不思議な力を放つ街灯によって、モンスターは街道の道には——正確に言えば魔法街灯付近には——近付いて来れない。
だが、それでも道を外れればモンスターはいる。一部大きな草むらの陰に、小型でも侮ってはいけないモンスターたちが。
故に、一定の間隔で置かれたその魔法街灯は一般人の助けとなっている。
そんな魔法街灯が、ひとつだけ明かりを灯していない箇所があった。
「あ、あの街灯光ってないぜ」
「直さないとね」
魔法街灯は名前の如く、電力ではなく魔力を使って光っている。
電線のように魔力を供給出来るような設備は今のところ開発されていないため、魔力を街灯の中に溜め込む必要がある。
必然的に蓄電池のような造りとなるため、充填された魔力もいずれは尽きてしまう。
こうして魔力が尽きた魔力街灯を見かけた場合、魔法を使える者が直すのが常識だった。
今この場では、リィナが魔法を使うことが出来る。
彼女は渋々ながら右手で街灯に触れ、仄かな温かみを放つ白い光と共に魔力を注ぎ始めた。
魔力は魔力であり、元素などの力や効力はそれ自体にはない。魔力で出来上がった元素は魔力の錬金の末に出来たものであり、魔力そのものは何の力も持たない。それは俗に、無属性と呼ばれている。
リィナは、その無属性と呼ばれる魔力そのものを注ぎ込んでいる。
「はぁ、街灯の魔力充填も楽じゃないわね」
「泣き事言ってないでやれよ」
「むっ……」
魔法は、誰しもが必ず使えるとは限らない。
先天的な才能、或いは血筋で魔法が使える者もいれば、その逆で使えない者もいる。
修練により一から魔法を使えるようになることも出来るが、それもやはり才能の問題で適わなかったりする。
今この場では、ジョルジュが魔法を使えない。
故に現在、彼は魔力充填作業中の彼女を傍観したままのんびりしている。
じゃあアンタがやれよ。と思ったリィナだが、すぐにそのことを思い出した彼女は言葉に詰まってしまった。
代わりにその艶めかしい唇が開き、口からは呆れたように溜息が一つ零れた。
「アンタはいいわね。魔法使いの苦労も知らないで傍観できて」
「魔法使いっつーか……お前賢者だったろ?」
「うっ……」
魔法を使える者には、体内に溜め込むことの出来る魔力や魔法一発ごとの強さなど、その度合に応じて称号がつけられる。
まだ魔法に関して拙い者は『見習い』
普通に魔法を使うことが出来るようになった者は『魔法使い』
十分に魔法に関して知識を蓄えた者は『賢者』
最早悟りの境地に達したと言っていい者は『ビショップ』
——といった具合につけられる。
その称号は通っている学校、或いはギルドや国から与えられ、そうすることで与えられた称号を名乗ることが出来る。
リィナの場合、本人は魔法使いと言っているが、彼女はもう既に賢者の称号をギルドのアリサから受け取っていた。
再び言葉が詰まる。今度は代わりに、怒声が発せられた。
「何よ、別にいいじゃない。賢者を名乗ってると色々面倒なの!」
「ふーん」
称号が上位のものになるほど、それに比例して知名度も上がっていく。
ビショップを名乗れる人も大陸に数人程度しかいないので、賢者もそれなりに有名なものだった。
知名度が上がって色々と後先が面倒になるのが嫌なリィナは、あえて下位の称号を名乗っている。
魔法使いの称号になった途端、どこにでもいるような人になるので知名度が大幅に下がるからだ。
だが、魔法が使えないジョルジュには分かってない。その気の抜けた返事が、非常に分かりやすい形でそう語っている。
怒りを煽られたリィナはもう一発どこか殴ってやろうかとも思ったが、このまま怪我ばかり増やさせて後でお荷物になるほうがよっぽど面倒なのでやめた。
代わりに目を細めて悪意の篭った笑みを浮かべ、嗤うような目線をジョルジュに向けた。
「あ〜っ、それとも何? 魔法を使えないアンタの分際じゃ私の苦労が分からないって言いたいの?」
「っ……」
魔法を使える者は限られる。
故に魔法を使えない者は、使える者を妬む、或いは羨むことが多い。
リィナはそれを知っているので、今度は嫌味を含ませてジョルジュをからかった。
台詞だけ聞いていればリィナが苦労しているようだが、彼女は今、この上なく嫌らしい笑みを浮かべている。
やり込められてしまった。そう思ったジョルジュは反論が出来なくなってしまった。
やがて魔力の充填が終わり、リィナの白い光が途切れた。
終わるなり懐からハンドタオルを取り出し、汚れた右手を拭う。
潔癖症というわけではないが、彼女は汚れたものが得意でないがため常に綺麗好きでいる。
「さ、行きましょ」
「あぁ」
もうリィナの嫌味がどうでもよくなってきたジョルジュは、大人しく先行するリィナに続いた。
その時だった。
「あら?」
「?」
突然、何の前触れもなく霧が出始めた。
この辺りが霧に包まれることは、本来であれば気候上ありえない。
何者かによる幻影。この場合、その考えが一番理に適っている。
そう考えたリィナは太刀を抜刀し、周囲を警戒し始めた。
ジョルジュもそれに倣い、自分の得物である拳銃を二丁構える。
丁度その時、リィナの脳裏に一つの映像が流れた。
「っ!?」
リィナはその映像を鮮明に思い出すなり、冷や汗を浮かべた。
武者震いだと思い込んでいた震えも、いつしか恐怖によるものだと認める。
まさかと思ってもう一度脳内の映像を思い出し、周囲の霧とそれを重ねる。
この霧、どこかで見たことはないか。そうだ、あるではないか。それもつい最近に。
エステルを掠めたであろうあの青白い霊。あれが現れたとき、外はどういう状況だった。
否、このような嫌な気しかしない濃霧が発生していた。
複数いるのかは推測の域を出ないが、もしかしたら今、あの霊がこの場にやってくるのではないか。
そこまで考えたリィナはいよいよ震えが最高潮に達し、その場に膝から崩れてしまった。
「なっ、おい! どうした!」
「嘘……でしょ……こんなことがあるなんて……!」
リィナはいつしか、太刀の柄を右手に握り締めたまま一点を見つめていた。
不審に思ったジョルジュは、彼女のその目線を追う。
追ってすぐに視界に映ったそれを見て、彼も全身に震えが走り出すのが分かった。
青白い光を放つ、火の玉のように燃えている非物質の浮遊物体がそこにいたのだ。
ジョルジュは話に聞いていたそれと特徴が見事一致し、硬直。リィナは完全に見覚えがあるとして、震えも止まってしまった。
そして、男の声が響いた。
『——クククッ、みぃ〜つけたぁ〜……つぅ〜かまぁ〜えたぁ〜……』