複雑・ファジー小説

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「奇譚、やります。」 ——千刻堂百物語譚
日時: 2014/09/06 03:26
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: ykAwvZHP)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=8089

【目次】
語り部紹介 >>1

『前説』 >>2

『足音』            >>3-4
『とん、ぴとん』        >>5
『八十年蝉』          >>6
『小隊、此処に並び飛ぶ』    >>7-8
『渋滞の多い道』        >>9
『天使の音楽会』        >>10
『土蔵の猫』          >>14
『すずがらす』         >>15
『訳あり物件のエクソシスト?』 >>16
『静謐の犯人』         

——————————————————————————————————

そう、全ては「だて」なのであります。
そう、「すいきょう」なのであります。

一夜を明かしませう。
あおぐろい光の下で。

—————————————————————————————————

【前書き】
 何時だってどうも始めまして、駄文士のSHAKUSYAです。
 別の所であれこれ書いていますが、それとは全く関係のない、駄文士の息抜きホラー短編集です。
 良ければ流し読み程度に。

【注意】
・ この小説はジャンル「一応全年齢」「一人称」「和風ホラー」「オムニバス」「ごく軽微なグロ」「軽い死ネタ」を含みます。でも期待しすぎはNGです。
・ スレ主自体に霊感は全くありません。何も見えない人の創作だと思って、お気楽にお読み下さい。
・ 一般に言う『荒らし行為』に類するコメントの投稿はおやめ下さい。荒らしはスルー、これがこのスレ内の基本です。
・ 更新は不定期です。予めご了承下さい。
・ コメントは毎回しっかりと読み、噛み締めさせていただいておりますが、時に駄文士の返信能力が追いつかず、スルーさせていただく場合が御座います。予めご了承いただくか、あまり中身のないコメントの羅列はお控えいただくようお願い申し上げます。
・ この物語はフィクションです。

【お知らせ】
・ 根緒様の御題屋(URL参照)から、御題『天使の音楽会』を頂きました。根緒様、コメントもありがとうございました!


(平成二六年八月五日 改)

Re: 奇譚、有ります。 ( No.8 )
日時: 2014/06/03 01:18
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: 7hsLkTT7)
参照: 肆 (語り部:萩原 直人)

 で、さ。編隊飛行披露した後、そいつら何したと思うよ。
 ——降りてきたんだ、滑走路まで。
 何度か頭上を旋回した後、それは一旦遠くに離れたかと思うと、六機並んで滑走路に着陸しやがった。


 バラバラバラバラ……


 って、どんどんプロペラの回転数が下がっていく音が僕の間近に迫ってきていたよ。きっと僕がマーシャリングの担当だって、何となく向こうも分かってたんだろう。零戦一一型が全盛だったころに、今と同じような誘導指示をやってたかどうかは分からないけどさ。
 それで、僕は次々近付いてくる零戦の機体の真正面に立って、とりあえず旋回指示を出した。
 ……嗚呼。そりゃもちろん。滑走路内は結構混雑するんだ、幽霊でも誘導しないわけにはいかないよ。
 幸い、添乗員は物分りの良い人だったようでね。滑走路の空いたスペースに着陸してくれたから、六機とも何とか押し込めた。プロペラやエンジンが止まってしまうと、もう辺りには静けさばかりだ。
 そうして静まり返った滑走路の上で、僕は動きを止めた零戦を見た。
 そいつらはヘルメットを脱いだ後、傷だらけの風防を跳ね除けて、そのまま滑走路に飛び降りてきた。
 ん? ったりまえだ、普通はしないよ。あんな高さ、下手したら足挫くよ。実際、それで捻挫した挙句上官に絞られて、心霊現象の起こる部屋に移動させられた奴とかいるからね。

 ……っとぉ、話が逸れた。
 そう、その降りてきた六人のパイロットだけど——
 五人が僕らと同じ二十歳くらいの男で、一人だけ三十歳後半くらいだったかな。カーキ一色の戦闘服も黒い軍靴も泥まみれにして、パイロット達はまず僕の前に立った。で、バッと音を立てて敬礼した。
 ——そうだね、とてもそれが幽霊だとは思えなかった。軍靴の時点で分かったかもしれないけど、パイロット達にはちゃんと足が付いてたわけだし。しかも向こう側が透けて見えたりしないし、足音も聞こえたし、足元に影もあった。僕の知りうる限り、幽霊らしい要素なんか一つも見当たらなくてさ。
 で、このご時勢に零戦乗りなんていたっけ——なんてバカらしいこと考えながら敬礼返したら、年嵩の人が僕をじぃっと見てきてね。蒸し暑い滑走路の上で、僕だけが射すくめられて冷や汗タラタラだ。年上の人に「顔に何かついてますか」なんてジョーク飛ばすほどの度胸もないから、黙りこくるしかなくて。
 十秒、二十秒。滑走路の上は水を打ったように静まり返った。
 そして、三十秒になろうかって時に、やっと声が上がったんだ。

 「ナオトか?」

 年嵩が上げた声だった。
 一瞬何のことか分からなかったけど、まあナオトって名前の面子は班の中に僕しかいないわけで。そうだって返事したら、年嵩は真っ黒に日焼けした顔に一杯笑顔浮かべて、そうかそうかって感慨深そうに頷くんだ。
 ワケ分からない、そりゃ皆同じさ。振り返ってみれば、班の奴等もポカーンとして、班長だけが腕を組んで真顔だった。で、僕がどうにも反応に困ってるのを見たんだろう、班長が物凄い大またでこっちに来た。年嵩の方も、顔に傷のある五十路男がいきなりすごい早足でやって来たってんで、眼を丸くして居住まいを正したよ。
 で、班長は黙って僕の隣に並んだかと思うと、いきなり年嵩に向かって最敬礼をしてね。ビックリしてる年嵩に、いつもの威勢の良さはどうしたってくらい、ぼそっとした声で言うんだよ。

 「伍長、満足されましたか」

 年嵩はもっと驚いたように班長の顔を見て、それから嬉しそうに笑った。それから、年嵩の方も踵を鳴らして、たった一言返したんだ。それは静かな声で。


 「無論です、少佐」


 瞬間、年嵩と五人のパイロット達は、その場からフッと消えてしまった。
 あっと思って見てみれば、僕が誘導したはずの零戦六機もその場から消えていた。滑走路の上には相変わらずの蒸し暑さと静けさがあったけど、僕の背中は冷たかった。今、さっきまで確かに居た年嵩が消えたことと、班長が口にした「伍長」の言葉、これが何時までもぐるぐるぐるぐる頭を巡っていたよ。
 ……うん、班長も分かってたみたいでね。突っ立ってた僕の背中をぽんっと叩いて、班長は「後で資料室に行ってみろ」ってだけ言って、そのまま演習に戻っていった。

 演習が終わった後は、資料室までひとっとびさ。ハードな演習でヘトヘトだったけど、そんなことお構いなし。零戦最盛期、第二次世界大戦頃の資料を引っくり返して漁った。
 そしたら、すぐに見つかったよ。
 第二次世界大戦の中盤、B-29だのワイルドキャットだのが跋扈していた空を飛び回っていた、たった六機の零戦部隊——実に二十機以上のB-29を落とした部隊の隊長こそは、僕のひいじいさんだった。

 ……嗚呼、調べたよ。
 部隊は洋上で被弾・墜落して投げ出され、アメリカの軍艦に拾われたらしい。でも、季節は真冬だ。それ以前からの怪我もあって、拾われたときには虫の息。介抱虚しく次の日には息を引き取ったとか。
 その時の詳細も一応、資料には事細かに書いてあったけど……それは言わない。しっかり胸の中に秘めとくよ。


 ——それにしても、ひいじいさん。
 ひい孫の僕を見て、何を思ったんだろうか。

Re: 奇譚、有ります。 ( No.9 )
日時: 2014/06/05 01:15
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: 7hsLkTT7)
参照: 伍  (語り部:杉下 佐京)

   『渋滞の多い道』



 ひい祖父さん、さぞかし良い御人だったんだろうねェ。ウチの横柄で博打好きのひい祖父さんとは大違いさね。まあね、アッシにゃいろいろ贅沢もさしてくれたけども、ひい祖母さんにもトト様にも乱暴な人だったから、アッシはあんまりひい祖父さんに良い記憶ってなァ持ってないのサ。
 ま、そのひい祖父さんについてはまた後にも話しやしょ。まだまだ座談は始まったばかり、初っ端はちょっと軽いものをネ。短いし怖くないよ、お膝崩して楽に聞いてくだせぇな。

 あれは三年前のこと、むさっ苦しい暑さも緩んだ、夕刻さな。
 「そこ」は何故だか毎日毎日ゴミゴミするトコでね。無論、四つ角で曲がったり進んだりする車が多かったってのもあるんだけど、それを抜きにしても渋滞の凄いところなワケさね。だから、カーナビの発達した今のご時勢、アッシはそこを通るときはオートリルートなんてものに頼っているわけだけども。
 でも、その時ばかりはそこの四つ角を曲がっていかなきゃならない用事があってネ。一分に三十センチも進めない渋滞の中を、燃費の悪いボロ車でノロノロプスプス走ってたんでさァ。
 そこでアッシは、初めて渋滞の多いその道の、混雑する理由を知ったってワケだ。

 そうだねぇ、十分かそこらくらいはそこで足止めされたかね。
 前の車がようやっと道をノロノロ曲がって、さあアッシも通り過ぎようって、アクセル踏んだ時だナ。

 そう、声がするんさね。
 「待って、ちょっと待って」っつって。

 いやービックリさ。思わずギュッとブレーキ踏んで、後ろの車から思いっきりクラクション鳴らされながら前見たら、何かいるんだヨこれが。アッシの車と五十センチも離れてない所で、真っ白なワンピースに麦藁帽被った、うっすら向こうの透けてる女の子が、頭の上で腕交差させてんのさ。
 アッシもそこで初めて気付いた。なるほど、これが原因かって。
 まあ、きっと普通の車なら幻覚か幻聴と思って通り過ぎちまうんだろうねェ。でもアッシはほら、そこの辺幻覚幻聴で済ませられる奴じゃねぇモンで。幸い近くにコンビニがあったから、そこに車寄せて、相変わらず待って待って叫んでる女の子に声掛けてみた。「何かあったんか」って。
 そしたらその女の子、「これ見て」って言いながら、自分の足元指差すんだ。んでアッシが見てみたら、そこにゃびゅんびゅん通る車で渡りあぐねてる半透明のカルガモ親子七匹だよ。その女の子、幽霊になってまでこの幽霊カルガモ親子を渡らせたかったらしいでサ。

 ちょっと笑っちまったけど、こうなっちゃーこの杉下さん、やらいでかってね。
 その幽霊女の子とカルガモ連れまわして、すぐそこの横断歩道を、「青になってからだ」って念押しして一緒に渡ったわけだ。今までその女の子、青になったら車が止まるってこと知らんかったみたいでね。
 んでさ、何のこたァない、だだっ広い道路を渡り終わった後、その子えらい感動してねェ。これならいつでも渡っていける、どうもありがとうって、アッシの手握ったつもりになって上下にぶんぶん振りまくってさ。それから。麦藁帽に挿してた半透明のひまわりアッシに渡して、ワンピースの裾ふわふわ翻しながらカルガモと一緒に駆けてった。
 ふと見てみりゃ、アッシの足元には摘んだばっかりのまだまだ黄色いひまわりが一本、ぽとっと落っこちてたよ。

 うん、その女の子がどしたかじゃろ。今から話そうと思ってたトコさ。
 そう、その女の子、今もたまーに見るよ。今度はちゃんと、横断歩道を青で渡ってる姿をネ。
 だからかなァ、最近そこの道、全然渋滞しないヨ。

Re: 奇譚、有ります。 ( No.10 )
日時: 2014/06/05 01:18
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: 7hsLkTT7)
参照: 陸  (語り部:蓮如 美奈)

   『天使の音楽会』



 渋滞かぁ……あたしの家の傍にもよく渋滞する道がありましたけど、そんな声聞いたことないです。父や母はよく犬の声を聞くって言うんですけど。やっぱりあたしに霊感がないだけかなぁ。
 あっ、でも今からする話はちゃんとした体験談ですよ。あんまり怖くないですけど、聞いて下さい。

 時期は……うーん、大体十二年かそのくらい前かなぁ。あたしがまだ小学生の頃です。
 あたし、その頃図書委員に入ってて、小学生なのに七時とか八時まで普通に居残りしてました。
 いや、別に真面目不真面目ってわけじゃなくって。あたしの家は両親が共働きで、夜九時過ぎとかにならないと帰ってこなかったから、司書の先生が図書館をずっと開けてくださっていたんです。

 その日もそんな感じで、八時過ぎまで居残っていました。
 「そろそろ閉めるよ」と言って、司書の先生が電気を消して帰り支度を始めたので、あたしも読みかけの本を借りて、先生と一緒に図書館を出ました。
 小学校の図書館は校舎の三階にあったんですけど、その頃にはもう廊下の灯りも消えて、辺りは十メートル先もちょっと覚束ないくらい。でも、あたしも先生もそんなの慣れっこでしたから、図書館の戸締りをした後は、普通に職員室まで鍵を返しに行こうとしていました。
 もうすっかり暗いね、とか、そんなこと先生と話しながら階段を降りた、その時のことです。

 ——校舎の向こう側から、何か音がしたんです。
 なんて言うのかな……ホラ、ちょっと古い椅子に座ったときみたいな、ギシギシって音。あれが三階の廊下のずうっと向こうから聞こえてきて。
 でも、あんまり怖くなかったですね。音の聞こえてきた方向って実は音楽室のある所で、その日もずっとブラスバンド部が来月の演奏会に向けて練習してましたから、あたしも先生も熱心が人がまだ居残りしてるんだろうって思ってて。
 それで、あんまり遅くまでいると親御さんも心配するし、何より危ないだろうって、あたし達様子を見に行ったんです。

 真っ暗な廊下を懐中電灯で照らしながら、先生の横に並んで歩いていると、さっき音のした方からは、ピアノの鍵盤を叩く音がし始めました。
 最初は何かを確かめるみたいに一音ずつ、次は二音ずつ、その次は和音。それから主旋律、副旋律。
 段々音の数とかメロディの数を増やしながら、その人は「ラ・カンパネラ」を弾いてました。今でもそのメロディははっきり覚えてます。

 それから、一分くらい歩いたかな。音楽室は図書室のある廊下の突き当たりから右折したところの、更に突き当たりみたいな所にあるんですけど、確かに音楽室からは灯りが漏れていて、ラ・カンパネラはそこから聞こえていました。そこから先は先生が先に立って、あたしは後からついていったんですけど……
 先生、音楽室の入り口から十メートルくらい離れた所で、急に立ち止まってしまって。
 何だろうって思って前に回ったら、先生泣いてるんです。びっくりして、どうしたんですかって聞いたら、泣きじゃくりながら、たった一言だけ言いました。

 「佐野先生が、弾いてる」

  って。
 ……佐野先生って言うのは、あたしが通ってた小学校の、音楽の先生だったんですけど。
 本当にピアノが上手で、「先生の演奏は天使の賛美歌だ」なんて、ちょっとキザな風に言われるくらいの人でした。でも、佐野先生はこの日の二ヶ月前——事故で左腕が動かなくなって、リハビリしてもピアノは弾けないだろうって知らされた後、失意の内に自殺されていた方なんです。
 そして、司書の先生と佐野先生はとても仲良しで、事故の前には「リクエストしてくれてたラ・カンパネラを聴かせてやれそうだ」って意気込んでいたとか。

 あ、ちょっと話逸れましたね。戻します。……って言っても、もう話すことあんまりないんですけど。
 先生は結局音楽室に入れないまま、持っていた懐中電灯を取り落として、その場に座り込んでおいおい泣き始めちゃって。それで、頑張って慰めようとしたけど泣き止まないから、あたしまで泣き出しちゃって。

 廊下には、先生とあたしの泣き声と、ラ・カンパネラがずぅっと、いつまでも響いていて——
 窓には、左腕をだらっとぶら下げて、でも楽しそうに右手だけでピアノを弾く人影が、確かに映っていました。


 それからも時々聞こえてましたよ、佐野先生のピアノ。
 司書の先生が病気で亡くなられるまで、ずっと。

Re: 奇譚、有ります。 ( No.11 )
日時: 2014/06/28 22:22
名前: 狐 (ID: 8TaBVFdu)


SHAKUSYAさん

いつもお世話になっております、狐です^^

個人的には、一人称のSHAKUSYAさん珍しい!(私の知っている中では)ということで飛びつきました(笑)

雑談のほうでもお話させて頂きましたが、やはり桔梗さんの口調が雰囲気あって素敵です(*´Д`)
それぞれの話し方から登場人物の個性がにじみ出ていて、流石のSHAKUSYAさんですね(`・ω・´)

百物語、冬だろうがなんだろうが更新楽しみにしております(笑)
頑張ってください^^

Re: 奇譚、有ります。 ( No.12 )
日時: 2014/08/04 08:44
名前: 根緒 (ID: LuHX0g2z)

>>10

もう何カ月も経っているのに中々見に来なくって申し訳ありません;
覚えていらっしゃいますでしょうか、>>10のお題を提供させていただいた根緒です。

天使の音楽会だけ最初に眺めていたんですが最初の渋滞の所で「ん?」となって、前のお話から読んでみたら、あら不思議。これまるでリレーみたいに話という話が次の人へ次の人へと語り継がれていっていて、うおおお短編集にはこんな方法がと感動しました。

いやいや、天使の要素も音楽会の要素も練り込まれているではないですか。素敵な方法で使っていただけたなと思っています。佐野先生という天使の腕を持った人の、司書の先生に捧ぐ音楽会。オカルトだけど怖さっていうか、そのドラマに感動してしまった私です。楽しそうにっていうのがまた切なくなりますな……そんな事件に出会えないかな← 


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