複雑・ファジー小説

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僕の名を誰が呼ぶ
日時: 2014/09/18 23:46
名前: ゆういち (ID: 9nquTbLL)

初めて投稿させていただきます、ゆういちと申します。
いろいろな人に小説、掲示板などについてアドバイスをいただければ幸いです。
もしジャンルを間違えていたら、ごめんなさい。
また、内容が矛盾することもあると思います。

Re: 僕の名を誰が呼ぶ ( No.3 )
日時: 2014/09/18 18:26
名前: ゆういち (ID: 9nquTbLL)

僕たちは向かい合う形でテーブルについた。
彼女は僕のほうを見ず、パンをちぎっては口に運ぶ。
「昨日は驚いたわ。寝ようかと思っていたら、あなたが豪快に扉を開けたんですもの」
「それはすまない。だが、僕が聞きたいのはそんなことではないのだ」
「えぇ、そうね。何故助けたか、だったかしら」
一瞬僕の目を見たような気がしたが、大きな瞳はすでに伏せている。だがどことなく苦虫をかみつぶしたような表情に見えたのは気のせいだろうか。
「初対面の人に言うのもなんだけれど…私、一昨日から記憶がないの」
予想外の言葉だった。僕と同じ境遇の人間だったのだ。だがしかし、それならば尚更理由が分からなくなってくる。
「でも不思議と、あなたのことを知っている気がしたのよ。ええと…何というべきかしら。あなたのその顔を見ると、無性に腹が立ってくるの。反吐が出る」
「面と向かってそんな事を言われるとは」
昨日のこと以外覚えていないのだが、それでいても会ったばかりの人間に恨まれる経験は稀有だろう。
「で、こんな気持ちにさせてくれるあなたなら何か私のことを知っているかと思ったの」
「なるほど、それで助けたわけか」
「それでなくとも一晩くらいは泊めてあげるわよ」
「だが生憎、僕も記憶は持っていない」
今度は彼女が目を丸くして驚いた。かと思えば、不快感を露わに舌打ちした。
「何よもう、役立たずのクズね」
呆れたような本音が漏れた。それほどに憎らしいのか。それについて言及するとさらに事態が悪化しそうなので避けておく。
「それにしても、同時期に二人も記憶喪失者が出るって怪しい」
「やはり何か関わりがあると踏んでいいだろう」
さて、と僕は話題を切り替える。再びざっと部屋を見回す。
「ここは君の家か」
「自分の家なんて知ってるはずないでしょ。この近くに住む木こりの休憩小屋を間借りさせてもらっているの」
この食べ物も、その木こりがくれたものだそうだ。まったく世話好きな奴もいるものだ。しかも出会いがしらに因縁つける女なぞに。
だが、それはそれで好都合だ。
「それならば、しばらくここの世話になりたい」
もしここが女の家であれば、ほぼ泊めてくれるはずはない。
「・・・いいわよ。その代わり、お仕事ちゃんとやってね」
朝食、いや昼食を終えると彼女はすぐさま何かの支度をする。
「今日はお休みでいいけれど、明日からこき使ってやるわ」
ふふん、と鼻を鳴らす少女はどこか得意げだった。呆然としていると、そのままどこかへ行ってしまった。

Re: 僕の名を誰が呼ぶ ( No.4 )
日時: 2014/09/18 23:43
名前: ゆういち (ID: 9nquTbLL)

怪我も治っていたので、追いかけようかとも思ったが本当にこき使われそうで、おとなしく毛布をかぶっていることにした。まるでずいぶんと寝ていなかったようなだるさが、まぶたを重くさせた。
とけるような微睡と泥のような眠りの間に身を任せ、どれぐらいそうしていたか。
腹に衝撃が突き刺さり、変な声を上げてしまった。
苦しみにえずいている僕に怒声が被さった。
「いつまで寝てるつもりよ!」
あの少女だ。
「昨日からずっと寝て。もう仕事の時間なんですけど?」
寝起きの頭に独特の甲高い声が突き刺さる。
せかされるまま、朝ごはんも食べずに少女の背を追いかける。うっそうと生い茂る木々の間を縫うように少し歩いていく。どこからともなく、音が一定のリズムで木霊する。それに耳を傾けていると、突然ぽっかりと開けた空間が現れた。
そこには一人の木こりがいた。音の正体は彼であった。
少女は彼に近づくと陽気に声をかけた。その様子からして、あの家の持ち主である木こりは彼であろう。
「おぅ、嬢ちゃん。遅ぇじゃねえか。もう始めちまったぜ」
「ごめんなさい。このクズ…じゃなくて、この男にかまっていたら遅くなってしまって」
僕の時と打って変わってずいぶん殊勝な態度である。というか今クズと言った。いや、聞き間違いではない。
「んん?見ねえ顔だが、嬢ちゃんの知り合いかなんかか?」
骨ばった手を不精髭の生えた顎に当て、僕の顔をじろじろ見てくる。僕が口を開くより先に少女が答えた。
「断言できないけど、違うと思うわ。私と同じ境遇の人よ」
「ん。こりゃまた珍しいな」
「どうしても私のもとで働きたいっていうから住み込みで雇ってあげたの」
「待て。今の言い方には語弊がある。世話になりたいと言ったのは確かだが、どうしてもとは一言も」
「そりゃあいけねぇ。うら若い男女が一つ屋根の下ってなぁ、いろいろまずいだろうが」
どうやら僕は意見できないらしい。いや、無視されているようだ。
「あら。それならおじさんのお宅に押し付けてもいいのよ」
「野郎を引き取るほど寛容じゃねえや。嬢ちゃんみてえなベッピンさんならいいけどよ」
「お断りいたしますわ」
本人を目の前にしてよく押し付け合いができたものだ。木こりに至っては下心丸見えではないか。
「ま、いいさ。男手もほしいとは思ってたしな」
発言権も拒否権も、僕にはなかった。ため息一つ、それだけ。
さらに二言三言言葉を交わし、木こりが僕に斧を手渡してきた。
「ほれ。女の子がやるんじゃ酷だろ?」
何が女の子なものか。そう思うことで溜飲を下げた。
しかし、斧は予想以上に重かった。全く腕が上がらない。
少女が呆れて、僕からその重い凶器を取り上げた。
「情けない奴。魚でも釣ってきたら?」
軽々と振り回すあたり、やっぱり女じゃない。
仕方ないから、木こりの負担を減らすため、食材を狩ってくることになった。
文句を言える立場に無いことは分かっているので、おとなしく探索を開始した。

Re: 僕の名を誰が呼ぶ ( No.5 )
日時: 2014/09/19 18:13
名前: ゆういち (ID: 9nquTbLL)

一日中寝ていたためか、もう昨日のようなだるさは消えている。
それだというのにすぐに疲れてしまう。きっとまだ本調子じゃないのだ。記憶がなくなるということは、それほど頭を強く打ってしまったのだろうから。
斧が持ち上がらないのも、そのせいだ。
やがて、水のせせらぎ。
湖だった。
エメラルドブルーの水面に日光が乱反射して、僕の眼を焼いた。
その視界の端で、黒い影が踊る。
そちらに視線を移すと、少年と目が合った。
少女よりずっと幼く見える彼は、静止してじっとこちらを窺っているように見えた。
なんと声をかけるべきか迷っていると、先手を打たれた。
「ここに来る人、初めて見た」
彼の意外な言葉に、言いかけた口を閉ざす。
「兄ちゃん誰?ここで何やってんの」
ずかずかとこちらに近寄って、そう問うてきた。
「食べるものをとりに来た」
反射的に答えてしまう。
その回答に満足しなかったのか、少年は口を尖らせた。
「なんだ。じゃあ魔法使いじゃないのか」
「魔法使い」
不意をついた単語。
「もしかして知らないの?」
嘲笑するような顔で僕を見上げてくる。なんだってこう馬鹿にされるのだろう。
「魔法使いって言うのはな、えっと。魔法っていうので、いっぱい戦って、でも人間と違って…とにかく、すげえ奴なんだよ!見たことねえけど」
得意げに語る彼はちょっと、見ていて面白かった。もう少し、付き合ってやろうと思う。
「そうなのか」
「うん。ママが言ってた。すごく怖い奴だって」
「怖いのか」
「人間を殺したり、泥棒したりするんだよ。こえーよなー。だってこの森にもいるんだぜ」
最後の台詞に、びっくりして辺りを見回した。
「だから本当は、ここに入っちゃいけないんだ」
少年は怖くないんだろうか。眼をきらきら輝かせて、身も知らぬ魔法使いに思いを馳せている。
「じゃあ、帰った方が良いのではないか」
「やだよう。今友達と面白いもの探ししているんだもの」
どうやらママの言いつけを守らない、悪い子らしい。
「明日になったら、また会える?三人で遊ぼうよ」
怖いもの知らずのやんちゃ坊主は、にっこり僕に笑いかけた。

Re: 僕の名を誰が呼ぶ ( No.6 )
日時: 2014/09/19 18:18
名前: ゆういち (ID: 9nquTbLL)

少年は面白いものを探していくため、さっさとその場を後にしていった。明日の日がてっぺんに昇るころ、この湖のほとりで会うと約束して。
僕が木こりと少女のもとへ帰るころには、日もすっかり昇り、空腹を感じていた。
二人は既に昼食をとっていた。
少女は、魚や木の実を抱えて息も絶え絶えな僕に向かって、
「こんなに時間をかけて、たったこれっぽっちなの」
と宣ってくれた。
今日僕がとってきたものは夕食にするという。
置いてあった僕の分のサンドイッチを、見よう見まねで口に運んでみた。
美味い。
完食したところで、さりげなく話を切り出した。さっき少年が話していたことだ。
「そういえばここは魔法使いがいるのか?」
魔法使い。その単語にまずいち早く反応したのは意外にも少女だった。
「魔法・・・使い!?」
カップを落としミルクをぶちまけ、今までで見たことない形相を見せた。そもそも何故僕を睨む。
一方木こりは「あぁ」と顔をしかめた。
「そういや出るって言い忘れてたな」
お化けでも出るような言いぐさである。
「なんだ、嬢ちゃんなんかあるのか」
「え…」
少女は虚を突かれたように言葉を失う。
あの態度から一変したその動揺ぶりが、少し意外だった。
「分からないわ。ただなんとなく、すごく嫌な予感がしたの」
なんとなくという割にはすごい表情だったが。
「僕もさっき知ったのだが、妙に引っかかる。その、魔法使いというのはなんなのだ」
「あ?そうか、記憶がねえから知らねえのか。面倒だな」
木こりは気だるそうに座りなおし、語り始めた。

Re: 僕の名を誰が呼ぶ ( No.7 )
日時: 2014/09/19 19:12
名前: ゆういち (ID: 9nquTbLL)

まず自分たちは人間であること。
人間は社交性に富み、感情豊かであること。そのためたくさんの人とともに生活を送る。また生殖行為を行い、その人口を増やすことができる。
対して魔法使いとは何らかの特殊な手段を用いて奇跡を起こすことができるもの。性もなく、その個体は永久に時を過ごすこと。その神聖さから太古の昔は人間から神と崇め奉られたそうだ。
見た目こそ人間そっくりだが、感情の起伏はなく、その中身は冷酷非道。
数十年前に人間を虐殺したことがあり、それ以来両者の間には絶対的な隔たりができてしまった。
魔法使いを神と崇めた人間は、その魔法使いを利用して武器を作った。聖剣クーペは、斬りつけたもの何もかも、存在するものすべての存在を無にしてしまう恐ろしい兵器。
死ぬはずのない魔法使いを消すために。彼らは魔法使いと全面的な争いを起こした。たった数日だというのに、両者に多大な被害を出し、ただでさえ少ない魔法使いの数は激減した。それ以来魔法使いは森や海など人間が少ない場所へ身を隠すことにした。
ここの森に棲む魔法使いは殊更強いらしい。
木こりは話し終えると、残っていたミルクを一息に飲み干した。
「だから、あんまり一人で出歩くなよ。ここの魔法使いは、家に死体があるって噂だ。一昨日なんかすごい爆発があったしな」
え?僕さっきとても一人だったんだが。記憶なくなるほどの怪我をしてたんですが。
悲しいかな、僕の思いなんてつゆ知らず、少女は疑問を投げかけた。
「どこに棲んでいるの?会ったことあるんでしょう!?」
「いや、分かんねえ。実際この森にいるかも怪しい。見たことあるってやつもいるんだが、それも怪しいところだ」
後姿からでも、少女が歯噛みしているのが分かった。自分が何者かすらわかっていないはずだが、その魔法使いのことは覚えているのだろうか。いや、きっと僕と同じで何かが引っ掛かっているだけだろう。
ただ、彼女の、魔法使いに対する思いは。
「もういいわ」
食事もそこそこに彼女はその場を去った。
「今日はもうお仕事は終わりでしょう。あとは自由にさせてもらうわ」
探すのだろうか。例の魔法使いを。
関係のないことだが。
「ところで」
僕は話を戻す。
「一昨日、何かあったと言っていたな」
「ん?あぁ、この森で、夕方から妙な音がしてたんだよ。街の人間もビビッてたな。そしたらどかーんといったわけだ」
分かったような、分からないような説明を聞いて、ふむ、と少し考え、再び問いを投げる。
「あの少女を発見した場所は?」
「確かここから少し東に行ったところだったかな」
そこまで聞き終えて、僕の方針が決まった。
荷物をまとめるとそれを担ぎ、僕も立ち去る。
「自由時間であるならば、僕もお暇させてもらう」


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