複雑・ファジー小説

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愛しき隣人、善き先達
日時: 2014/12/01 21:14
名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: RtQ9ht2V)

 遠い遠い、どこかにある小さな国と大きな大陸。
 そこに住まう人々は、電気を知らない。
 ガスも無い、石油なんてものも知らない。
 あるのは人力、水力、馬力だけ。
 不便に見えるようでも、知らなければ不便に思うようなことなんて無い。
 至って幸せに暮らしていた。

 さて、このお話の主人公は、大きな国の王子様と、小さな国のお姫様の二人。
 二人の恋の行方はどこへやら?




 はじめましての方ははじめまして、お久しぶりの方はいつも有り難うございます。月森和葉(つきもりかずは)と申します。
 いつもはシリアス・ダークに居たり雑談板に居たりリク依頼総合にてイラスト屋をやらせて頂いたりしています。
 興味が沸きましたら、是非とも見てやって下さいませ。

※ここから注意です※
●月森のことが嫌いという方は、無理に見て頂かなくてもかまいません。
●荒らしはご遠慮下さい。
●コメントをする際は、ネチケットを守りましょう。

 以上でございます。
 皆様に楽しんでいただけますよう。

2014年12月1日

Re: 愛しき隣人、善き先達 ( No.3 )
日時: 2014/12/18 20:29
名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: RtQ9ht2V)

 リンダはやっとのことで人混みを避けてベランダへ出ていた。
 彼女の長い髪が風に乗ってかすかに揺れる。
 そのリンダに聞こえない程度の距離に、数人の女性が固まって彼女を見ていた。
「なんでしょう、あの野暮ったいドレス」
「それに、あの髪! 折角あれだけ長いのなら結えばよろしいのに、そうしないのは……」
「しっ! 聞こえますわよ」
 そう言ってくすくす笑うのである。
 全く、いつの時代も女というものは恐ろしい生き物である。
 ほんの少しの違いだけで、ここぞとばかりに文句をつけたり笑ったりするのだ。
 今の流行は大きく膨らんだスカートと華やかに結い上げた髪なのだが、リンダはその流行を頭から無視していた。
 薄紫色をした細身のドレスと、長い髪はリボンを結ぶだけで背中に流してしまっている。
 確かに流行ではないが、その姿が実に夜に映えるのだ。
 彼女達のリンダに対する揶揄は、確かに流行に乗らないリンダを馬鹿にするものだったが、そのうちのいくらかは自分達に真似出来ない雰囲気を纏った彼女に嫉妬する意味もあったろう。
 と、そこへ人の波をかき分けてアーネストがやって来て、リンダに声を掛けた。
「どう、楽しんでる?」
「そうね、ちょっと人が多くて疲れちゃった」
「あはは、そうだね、俺も」
 そういって敬語も使わず至って親しげに話しているのだから、先ほどまでリンダの品定めをしていた女性達は、自分達がどんなことをしていたのかようやく悟ったのである。
 青くなって数人で棒立ちで居ると、何も知らないアーネストが彼女らに気付いて笑顔で近寄った。
「今晩は、キーツ男爵夫人。お久しぶりです」
 内心、夫人はそこから逃げ出したかったことだろう。
 それでも、夫の体裁を保つためにもなんとか笑顔を作って(それは若干引きつったように見えたが)、本日の主催者の息子に返事をした。
「これは、お久しぶりですわ、アーネスト殿下。とっても楽しませていただいていますの」
「それはよかった。それで、ついでと言っては何ですが、彼女を紹介しましょう」
 そうして彼はリンダをこの場に呼ぶのだから、夫人はとうとう生きた心地がしなかったろう。
 しかも、アーネストが言った彼女の紹介がそれはもう決定的だった。
「紹介しましょう、私の幼馴染で、ユスラグスタスの第六王女、リンダ嬢です」
 夫人は悲鳴が漏れそうになったのを精一杯飲み込んだ(とうとう口元を扇で覆い隠して見えないようにして)。
「始めまして、キーツ男爵夫人」
 紹介されたリンダは、夫人が青い顔をしているのを気付いていないのか、優しく微笑んで膝を軽く折ったが、夫人はそれどころではない。
 震える声で挨拶を返し、扇で口元を覆ったままアーネストに訴えた。
「申し訳ありません、体調が優れませんのでこの場は……」
「おや、大丈夫ですか、医師を呼びましょうか?」
「いえそれには及びませんわ。では失礼をして……」
 キーツ男爵夫人とその取り巻き達が居なくなると、アーネストがベランダの手摺に腰掛けてため息をついた。
「ふう……」
「あの人たち、さっきまであたしの悪口言ってた。でもあんたがあたしを紹介したら、一瞬で青い顔してたわね。いい気味」
「悪口? なんて言われた?」
「いつものことよ。ドレスが野暮だとか、髪型が妙とか」
「そうかな。俺は似合ってると思うけど。そのドレスも、髪型も」
 顔色ひとつ変えずに平然と言ってしまうのだから、それがこの男の怖いところである。
 普通は頬を赤くしてとか、多少なりとも恥らうはずなのに、それではこちらが恥ずかしくなってしまうではないか。
「——っ、そういうこと、言わなくていいの!」
 それを言った本人は何故彼女が動揺したのか分からない様子で、首を軽く傾げている。
「今日は城に泊まっていくだろう? リンダ」
 よく分からないが、話を変えたほうがいいと悟ったアーネストは問うた。
「ええ。西側に部屋を準備してもらってると聞いたわ。——それで、アーネスト」
 急にリンダは表情を引き締めて言う。
「何?」
「相談したいことがあるの。夜会が終わってからでいいから、あたしの部屋へ来て」
 彼女が何をしたいのか皆目見当もつかなかったが、相談を無下に断ることもない。
 快く了解を言うと、リンダは部屋に戻ると言って大広間を出て行った。

Re: 愛しき隣人、善き先達 ( No.4 )
日時: 2015/01/01 17:02
名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: pk2OclHY)

 そして夜、あちこちの部屋から笑いさざめく声が洩れ聞こえてくる。
 穏やかな夜だ、酒でも片手に、久しぶりに会った知人と歓談しているのかもしれないし、家族の一家団欒を楽しんでいるかもしれなかった。
 微かな話し声が満ちる廊下を、静かに進んでいく。
 彼が女官に聞いた話では、彼女の部屋は西塔の一番端になったという。
 夜はまだ冷えるから、上着を羽織りなおす振りをして顔を隠した。
 そうして身を隠しつつ西塔の端へ辿り着いた。ドアには”ユスラグスタス王女リンダ”の札が掛かっている。
 ドアをノックして扉が開かれるのを待つが、待つまでもなくすぐに扉は開いて、中から伸びてきた手がアーネストの腕を掴み、扉の内側へ引き込んだ。
「うわっ……!」
 思わず声が出たが、幸い響かずに笑い声は廊下に溢れたままだ。
 彼を部屋に引き込んだ本人が、口元に人差し指を当てて静かにするよう促す。
 何がなんだか分からないままに頷くと、遠くから足音が近付いてきた。
 その足音はまっすぐにリンダの部屋の前に来ると、ノックをして扉の向こうから問うてきた。
「リンダ様、異常はありませんか?」
「ええ、大丈夫よ。お勤めご苦労様」
 おそらく城内の警戒と客の安全確認のために各部屋を回っているのだろう。
 衛兵は扉の前から離れると、隣の部屋の前へ行ってドアをノックしていった。
 それを見届けると、いつのまに詰まっていた息がため息となって彼女の口から溢れた。
 そうして、年上の幼馴染に眼を当てて文句交じりに呟く。
「あんたね、少しは忍んで来なさいよ。仮にも一国の王子と王女なのよ? 誰かに見られたらどんな詮索をされるか分からないんだから」
 仮にもとはひどい。
 が、彼はフードを被っただけで隠れたつもりだったのだから、そう叱責されても仕方がないかもしれない。
 アーネストは自分に非があったことを素直に認めて頭を下げた。
「それで、なんであんたを呼んだかなのよ」
 扉の前から移動し、ソファには座らずに絨毯の上に座り込む。
 幸い絨毯は足が沈み込むほど柔らかく、直に座っても何の支障もない。
 二人は子供のように顔を突き合わせたが、呼び出した側のリンダは何から話せばいいのか掴みかねているようで、斜め下を見ながら考え込んでいる。
 そんなリンダに、アーネストが先に声を掛けた。
「リンダ」
「んっ、何?」
 急に問いかけられたのに驚いたのか、咽喉に息が詰まったような声で返事をする。
「俺も”セイリャクケッコン”なんてのは大反対だ。俺は良い。でも相手の女の子にだって事情はあるだろう。だったらこんなことやめるべきだ」
 顔を上げたリンダと、前を見つめるアーネストの視線が合致する。
 二人の意思が固まった瞬間だった。

Re: 愛しき隣人、善き先達 ( No.5 )
日時: 2015/01/22 21:09
名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: wpgXKApi)

 二人が考えた作戦はこうだ。
 明日の朝、リンダは国に帰ると言って早朝にグラスダリアを出る。
 怪しまれないように時間を空け、アーネストは散歩に出ると言ってユスラグスタスとは反対の方向へ向かう。
 王城を取り囲む森を抜けたら森に沿って迂回し、先に出たリンダと合流する。
 その間にリンダはこれからの旅に必要なものを揃えておく。
 一風簡単だが、簡単な分衛兵の目を盗めるはずだ。
 地図の上を指が一つ一つなぞっていく。
 二人は頷き合って自分がすべきことを頭へ叩き込んだ。
 そうして、次の衛兵が見回りに来る前にアーネストは上着を深く被りなおして西塔を後にした。

 そして、翌日の早朝である。
 作戦通りリンダは荷物を纏めて自らその荷物を持って馬屋に向かった。
 まだ寝ぼけ眼だった馬屋番だが、リンダの姿を認めるとすぐに直立不動になった。
 顔を合わせたことはないはずだが、従者も連れずに身一つで馬の背に乗って来る王女などそうそういるものではない。
 すぐさま彼女の馬を連れてきた。
「有り難う。悪いのだけれど、荷物を括り付けるのを手伝ってもらえません?」
 彼女の荷物と言ってもそれほど大きくない鞄だけだったのだが、女の子一人でやるのは確かに骨が折れるので馬屋番は恐縮しながらも(普通は従者がやるものだからだ)リンダの鞄を馬の背に括りつけた。
「有り難う」
 もう一度言って馬屋番に微笑むと、リンダはグラスダリアを後にした。
 優雅に馬を操り、原野を駆けて行く。長い髪が馬が走るにあわせて左右に揺れるのが、とても眼に楽しい。
 リンダは必要なものを集めるために、森を抜けてユスラグスタスに向かう街道にある小さな街に訪れた。

 一方のアーネストも散歩と偽り城を抜け出した。
 至って気軽に愛馬に揺られ、荷物は腰に括りつけた小物しか入らないような鞄のみだったので、誰がどう見ても少し遠出するだけの散歩にしか見えなかっただろう。
 しかし、その鞄の中には持てるだけの金貨を詰めた袋と小ぶりな刃物、筆記具と火熾し機と簡単な食料とが詰められていた。
 鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気で、アーネストは森を出た。

Re: 愛しき隣人、善き先達 ( No.6 )
日時: 2015/02/22 18:42
名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: wpgXKApi)

 リンダが向かったのはソルタという小さな町だ。
 旅人を主な商売相手とし、旅に必要な道具や防寒具、そして地方の土産物を売っている所である。
 駄々広い平野にグラスダリアはあり、その東にある山脈と麓に広がる森がユスラグスタス、そしてその中間点にはコルタスという国が入り込んでおり、そこにソルタはある。
 コルタスを通らずともユスラグスタスには向かえるが、買い物をするなら断然ソルタに行った方が手間が省けるというので、リンダはよくこの町に訪れては店を覗き込んだり町を意味もなく歩いてみたりしたことがあるのだ。
 幸い、どの店に何があるかは迷わなくて済む。
 こちらも鼻歌でも歌いだしそうに上機嫌で歩いていった。
 抗議の家出とは言うが、親しい友人と遠出するということが、二人とも楽しみで仕方がないのだ。
 子供のようだが、建前では気軽に城を出ることなんて出来なかったから、外の世界は知っていたとして眼に見える何もかもが煌いて見える。
 リンダはとりあえずフードが付いた全身が隠せる外套と食料を買って、アーネストとの待ち合わせ場所であるソルタの傍の森へ向かった。

Re: 愛しき隣人、善き先達 ( No.7 )
日時: 2015/03/17 06:16
名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: wpgXKApi)

 この森はコルタスとユスラグスタスの国境に跨っており、それなりに深く小高い丘の上に生い茂っているものだから盗賊が出るとも言われているが、そんなことを気にしても始まらない。
 今夜はこの森で過ごすつもりだったが、合流したアーネストがそれに反対した。
「駄目だ、危ない」
 彼はそれしか言わなかったが、青い眼は譲る気は無いようだ。
 だが、彼女はそれ以上に譲る気はなく、猛然と言い返してきた。
「こんなところに泊まらなくたってソルタにだって宿はあるだろう?」
「父様は私がグラスダリアに行ったことを知っているし、その後にソルタに行くってこともきっと知っていらっしゃるわ。それなのにソルタの宿に泊まるなんて、すぐに捕まっちゃうじゃないの、駄目よ、そんなの」
 自分達の家出が知れたら、まず近くの街を調べようとするだろう。
 この旅が長期化すれば、かつて大陸一の強さを誇ったと謳われたユスラグスタスの騎士団がやってくることさえあるかもしれない。
 それならなおさらソルタには居られないと言うのだ。
 昔から言い出したことは頑として曲げない彼女だ、危ないことにならないといいがとアーネストは切に願ったが、残念ながらその願いは聞き届けられなかったのである。


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