複雑・ファジー小説

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愛しき隣人、善き先達
日時: 2014/12/01 21:14
名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: RtQ9ht2V)

 遠い遠い、どこかにある小さな国と大きな大陸。
 そこに住まう人々は、電気を知らない。
 ガスも無い、石油なんてものも知らない。
 あるのは人力、水力、馬力だけ。
 不便に見えるようでも、知らなければ不便に思うようなことなんて無い。
 至って幸せに暮らしていた。

 さて、このお話の主人公は、大きな国の王子様と、小さな国のお姫様の二人。
 二人の恋の行方はどこへやら?




 はじめましての方ははじめまして、お久しぶりの方はいつも有り難うございます。月森和葉(つきもりかずは)と申します。
 いつもはシリアス・ダークに居たり雑談板に居たりリク依頼総合にてイラスト屋をやらせて頂いたりしています。
 興味が沸きましたら、是非とも見てやって下さいませ。

※ここから注意です※
●月森のことが嫌いという方は、無理に見て頂かなくてもかまいません。
●荒らしはご遠慮下さい。
●コメントをする際は、ネチケットを守りましょう。

 以上でございます。
 皆様に楽しんでいただけますよう。

2014年12月1日

Re: 愛しき隣人、善き先達 ( No.1 )
日時: 2014/12/01 21:20
名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: RtQ9ht2V)

 豪奢な大理石で造られた大きな廊下に、人が走り抜けるばたばたという音が響く。
 その人物は勢いを殺すことなく、そのままに木製の大きな扉を開け放った。
「やあ、リンダ。いつの間に来ていたの?」
 机の前に座っていた少年は、唐突に入ってきた少女に驚くことなく、至って普通に声を掛けた。
「ついさっきよ。それよりアーネスト、あの話、ほんとうなの?」
 ここは、王国グラスダリア。
 たった一人の国王が統治する、小さいけれども勢力のある、新進気鋭の国だ。
 アーネストと呼ばれた少年は、その国の第一王子である。
 成人を間近に控え、大国の第一王位継承者であっても驕らない穏やかさと優しさがある。
 くすんだ金髪に青い瞳、背は少し高く、勉強が得意な大人しい少年である。
 ペンを置き、少女に向き直った。
 威勢よく入ってきた少女の名はリンダ。
 隣国、ユスラグスタスの第六王女である。
 ユスラグスタスは領土こそ大きいものの、国はとても貧しい。
 しかも彼女には五人の姉が居て、父王は政治が不得意という、そんな環境の彼女は贅沢や虚飾とは無関係に育った。
 明るい茶髪を長く伸ばし、そしてそれを高く結い上げ、背中に流している。
 瞳は黄緑、乗馬とフェンシングが得意なじゃじゃ馬娘である。
「本当さ、俺自身もさっき父上から聞いたばかりだけれどね」
「あんたそれでいいの!? 自分のことなんでしょう!?」
「リンダ、政略結婚には本人達の意思は関係ないんだよ」
 少女は言葉に詰まる。
 あの話、とは、グラスダリア王国第一王子アーネストに持ち込まれた縁談である。
「カルマンドは国情も安定しているし、土地も富もある。父上は向こうからやって来たチャンスを見過ごすようなお方ではないよ」
 大陸の北東に位置するグラスダリアより少し南に下ったところにカルマンドという国はある。
 南側の暖かい気候を利用して作物はいつも豊作、そして暖かい場所にしか生息しないという植物を商い、国も民も決して豪勢ではないけれども豊かな暮らしをしているのだ。
 先日顔合わせをしたその国の姫君は、箱入り娘という言葉がぴったりの大人しそうな娘だった。
 父王の後ろに慎ましく控え、自分が紹介されると一歩だけ前に出て恥ずかしそうに会釈して見せた。
「今度、カルマンド王国一向を歓迎するパーティがあるよ。最も、表向きは、だけど」
 それは、表向きは一行を歓迎するパーティだが、実際の名目はおそらく、アーネストとカルマンド王女クラウディア嬢の婚約披露パーティと思って差し支えないだろう。
「君も来なよ。ユスラグスタスの代表として。きっと、君のお父上はいらっしゃろうとはしないだろう」
 そう言って、たった今書いていたばかりの便箋を折り畳み、封筒に入れて封をしたものをリンダに差し出した。
 どうやらそのパーティの招待状を書いていたらしい。
 勿論、全て彼が書くのではなく、彼が個人的に呼びたい人物、としての招待状だろう。
 本来なら招かざる客のはずだが第一王子の友人となれば衛兵も彼女を無下にすることはできない。
 彼なりの、彼女への優しさだった。
 黙ってそれを受け取ったリンダは、唇を噛み締め、今にも泣きそうな表情をしていた。

Re: 愛しき隣人、善き先達 ( No.2 )
日時: 2014/12/08 21:43
名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: RtQ9ht2V)

 そして訪れる当日、リンダを乗せた馬は衛兵に招待状を差し出して門を潜った。
 ここでまずおかしいのが、普通ドレスを着た令嬢は馬車などに乗って来るもので、従者を一人も連れずに馬の背に乗ってくるなんてものはありえないのだ。
 リンダの入城を許可した衛兵は、そんな令嬢が第一王子直接からの招待状を差し出してきたものだから、可哀想に驚くやら恐縮するやらで眼を白黒させていた。
 一の郭に入ると馬を降り、馬屋番に愛馬を引き渡して城内に入る。
 中にはすでにかなりの人数が揃っていた。
 騎士団長に侯爵、伯爵、伯爵夫人に令嬢。
 おそらく有名な地位にある人々なのだろうが、政治だのなんだのということに関わりの無いリンダには誰が誰やら検討もつかない。
 やがて時間になり、正面右からアーネストの父であるグラスダリア国王とアーネスト、左からカルマンド国王とその令嬢クラウディア嬢が入ってきて、型どおりの挨拶を始めた。
「皆様、このたびはお集まり頂きまことに有り難うございます。我がグラスダリアとカルマンド王国、末永い友好を願い、挨拶に変えさせて頂きます」
 拍手と歓声が上がり、熱気が増したように思えた。
 アーネストは盛り上がる大広間を、どこか冷めた眼で見つめていた。
 国王達が正面中央の椅子に腰掛けると、早速ごますりだかなんだか知らないが、礼服を来た男達が群がる。
 それらから逃げるように端に行くと、丁度そこにはクラウディアが立っていた。
 危うくぶつかりそうになったアーネストは身体を捻って彼女から離れる。
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。すいません、お見苦しいところを……」
「いえ」
 白いドレスを着たクラウディアは、品良く微笑んだ顔を見せた。
「すごいですわね、この国のパーティは」
「え?」
「わたくしの国ではこれほど豪華なパーティは開けません。こんな細工をする技術もありませんし、外から買ってくるにはあまりに高すぎます。この国にはわたくしの国に無い技術があるんですのね……」
 それを聞いたアーネストは、少し変な顔になり、やがて人に紛れてそっとその場を離れた。
 彼と入れ替わるようにしてそこへリンダがやって来た。
 どうやら彼を捜しているようで周囲を見回しているが、この人の量では見つけ出すのは困難だろう。
 クラウディアに気付くと、一国の姫らしく自己紹介をしようと近くへ行った。
「はじめまして、今晩は。ユスラグスタスの第六王女、リンダと申します。以後お見知りおきを」
 軽く膝を折ってにこやかに言ったが、クラウディアは何も言わない。
 ただ、小さく「ええ」と呟いて、何処かへ行ってしまった。
 その態度にリンダは少し首を捻っただけだったが、明らかに立場のある女性らしからぬ受け答えである。
 一体彼女はどんな教育を受けてきたのだろうと訝しく思ったが、そんなことも珍しくないのですぐに忘れてしまった。 


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