複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 妖王の戴冠式【4/3更新】
- 日時: 2015/04/03 20:50
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: foJTwWOG)
あやかしの王様、子供をもうけた。
いっぱいいっぱい子供をもうけた。
たくさんのお妃様と百年の間ずっと。
王様ついに死期が来た、もうすぐ、もう一歩のところまで。
ヒタヒタと、芋虫が這うようにゆったりとだが着実に。
王様困って頭を抱えた。
後継者は、どうしたものだろうか、ってね。
あやかしっていうのはいつだって迷惑をかけてくるものなのさ。
人間にとってはね。
そしてわっちはただの情報屋さ。
誰が戴冠するのか、ただ楽しみに待っている。
ただわっちが期待しているのはこれから始まる戦の方さ。
いつの時代も血と汗の飛び交う祭りっていうのは需要があんのさ。
暇ならあんたも時々ここに話を聞きにきなよ。
心配すんな、代金はいらないし真面目な語り部になってやるからさ。
何も企んでなんかいないさ、わっちはただこの愉快な祭典をなるだけ多い人に広めたいだけだからね。
わっちがあやかし?
馬鹿なこと言いなさんな、わっちはただの情報屋。
人か物の怪かなんて些細な問題じゃないか。
まあ、まだ始まってもいない話なんだしまた来なよ。
できるだけ急いで情報集めてやるからさ。
ーーーーーー
はいはーい皆様初めまして、あるいは少数派の皆様お久しぶりです。
今回手を出すのは妖怪の類いのようですが、どういう方向に進んでいくんでしょうね。
本編は情報屋さんの口調の現れない堅苦しい三人称ですがよろしくお願いしますm(__)m
コメントやアドバイスなんかがあれば気軽に書き込んで下さると嬉しいです。作者でなく情報屋さんが気さくに答えてくれます←
御話
春先の吹雪
>>1 >>3 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16 >>17
狐の嫁入り
>>2 >>18
実はしれっとキャラクター募集やってました(締め切りました)
>>4-11
- 【求:特定登場人物の情報】妖王の戴冠式【1/11更新】 ( No.9 )
- 日時: 2015/01/12 16:22
- 名前: 星の欠片 ◆kMUdcU2Mqo (ID: 0jBqS0Km)
どうも、初めまして。
昔ちょこちょここの板で活動してた星の欠片と申します。
まあ最近はオリキャラ置いて読み専に徹している次第ですが…
お蔵入りになったキャラで良ければ、是非使っていただけるとありがたいです。
学生じゃないですけど……良いですかね?
あなたの名前:星の欠片
あなたの小説、掲載板:今は書いてないです
募集キャラの名前/読み:無道立花/むどう りっか
どの聖獣でしょうか:玄武
性別、年齢、学年:女性 26歳
大雑把な容姿。:平均より高めの背。出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでる。長い黒髪を後ろで一つに結んでいる。黒縁眼鏡を付けており、仕事中は白衣を装備。
性格や生い立ち:
性格)細かいことを良く気に懸けられ、丁寧に物事をこなせる。だが実際のところ割と面倒くさがりやでオフの時間帯はアバウトさが目立つ。出来る限り楽をする為の苦労は出来るタイプなので、仕事に支障はない。
生い立ち)基本的に極普通の人生を生きてきた。
中学生の頃から、将来の安定性を求めて医者を志し、有名医大を卒業後、故郷の町に戻り民間の診療所を営んでいる。
生活に支障を成すほどの弱視であり、眼鏡の度は非常に強い。
仕事外では培ってきた教養で要領よく手を抜いている。酒に弱いが重度の喫煙者。
現在は親の元を離れアパートで一人暮らし。酒に酔ってた際に玄武と出会ったらしく、その出会いを立花はまったく覚えていない。
玄武に対しては、仕事を邪魔しない程度なら手伝うつもりであり、王にすることに否やは無い。
玄武の方もそれを肯定しているのだが、立花にとってただ優先するのは自分のオフタイムであり、その辺りが微妙に反りが合わない。
小説紹介にあたって参加してほしいキャラクター:今は書いてませんので…
基本的に優遇しますが完全なVIP対応じゃないです。構いませんか?:OK牧場
気に入らなかったり使いにくかったりしたら没OKです。ではでは。
- Re: 【求:特定登場人物の情報】妖王の戴冠式【1/11更新】 ( No.10 )
- 日時: 2015/01/12 17:08
- 名前: 日向 ◆N.Jt44gz7I (ID: dK6sJ/q3)
お久しぶりでございます。
雪女ちゃんの棘っぷりに早速やれらてます、はい。何あの子欲し((
いえいえ痴態晒すために訪れたわけではなく。
あなたの名前:日向
あなたの小説、掲載板:【やさぐれ白魔導!】:複雑ファジー
募集キャラの名前/読み:虎島 秋弘/こじま あきひろ
どの聖獣でしょうか:白虎
性別、年齢、学年:男、31歳
大雑把な容姿。:身長176cm、体重68Kg。平均的な中肉中背。ぱっとしない顔つきで目鼻立ちも何も目に付くところが無くキャラ、影が総じて薄い。
瞳の色、黒。髪の色、焦げ茶。平日は少し見栄を張った青のブランドネクタイと黒の大量生産スーツ。休日は無難な個性0のトップスボトムス(ここはひが殿のセンスに任せます
性格や生い立ち:幼いころよりお受験小学校からエスカレータ式に中学高校大学と進学。なんらエピソード無く、ちょっと大変な就職活動を経て現在の会社に入社。就職活動の際、近くの神社でお参りしたところ白虎が憑いてきた。最初は恐怖に慄き泣き喚いたりもしたが、平凡な自分に舞い降りた非凡なチャンスと白虎との出会いを喜んだ。王についての旨を知ると、これまた非凡なチャンスと快諾した。
小説紹介にあたって参加してほしいキャラクター:情報屋さん、雪女ちゃん
基本的に優遇しますが完全なVIP対応じゃないです。構いませんか?:もう煮るなり焼くなりコロ助なり
学年と書いてあるのでもしかしたら学生のみか?と思ったりもしましたが突っ切りました((
秋弘は白虎が秋の方角にあるということで掛けてみた所存です。
これからも執筆頑張ってくださいなーω
- Re: 妖王の戴冠式【1/11更新】 ( No.11 )
- 日時: 2015/01/12 19:15
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Ru7e1uoX)
作者の返事は後半にて、まずは茶番(情報屋)にお付き合いください
おっと一気に二件も来たね、これで全員分のデータが揃ったって訳だ。ほんとに助かったよ。何てったって情報屋の看板掲げといて知らない事があるだなんて中々人に言えやしないしねぇ。
あ、学年という欄はただ単に誕生日とかで学年が一個ずれるような不始末が起こらないように付け加えただけさ。誰かに紹介する時、同級生だと説明したらまだ誕生日の来てない先輩だったとかあり得るからねぇ、伝え忘れてて申し訳ないよ。
一人目は無道さんかぁ、玄武の奴は中々年より臭くて堅苦しいからねぇ、几帳面だと気が合うと思うよ。逆にプライベート面ではお説教が炸裂するかもね、この様子だと。
ふむふむ、広報は無しと。じゃあ彼女の戦線を離れた、医者としての様子をこそこそっと偵察してくる事にするよ。他の噺の合間にいつか喋る時が来るよ。
で、白虎は虎島青年に憑いてるんだね。平凡で温厚だと気性の荒い白虎の相手は苦労すると思うよ、いつか喧嘩しないかヒヤヒヤだねぇと言いたいところだけど主人公チームがそもそも険悪だからそれほど心配するほどじゃないかぁ。
雪女さんの好評は中々面白いよ、辛口で中々冷ややかかと思ってると不意討ちで褒めてくるからね、周りからへそ曲がり扱いされてるのも納得な気分さ。
そろそろ時間だね。二人が見つけてくれた契約者もまた後日わっちの噺に現れるから、楽しみにしといてくれると有り難いねぇ。それじゃ、またの来店を待ってるよ。
以下作者
>>星の欠片さん >>9
初めまして、狒牙と言います。読み方はひがです。
コメントと投稿ありがとうございます。上に書いてある通り学生でなくても大丈夫です。
知らなかったらこの例えを言うの申し訳ないんですけど、多分玄武とこのキャラクターはディーノとエンツィオみたいな感じになるかと思われます。
物理的な癒し系キャラクターとしても活躍してくれそうですね、ありがたく使わして頂きます。
どうも、ありがとうございましたm(__)m
>>日向さん >>10
木の葉にてさいきょ……いえ、何でもございません。
お久しぶりですー、っていう事はおそらく紳士ですね。
うん、日向さんなら雪女さん好きになると謎の信用をしておりました((
服のチョイスはとりあえずこの作者に任せたら大変な事になります←
とりあえず更新は続けていきたいと思います。
とりあえず今日中に続きを。
それではここらで、コメント、投稿共にありがとうございましたm(__)m
- Re: 【求:特定登場人物の情報】妖王の戴冠式【1/11更新】 ( No.12 )
- 日時: 2015/01/12 22:04
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Ru7e1uoX)
さて、休憩はこんくらいで続きに行こうか。休憩にしては長すぎる? 勘弁してよ、わっちの時間感覚はかなり乱れてるからさ。ま、こんな無駄話は短くまとめて本題に入ろうか。
なんせ、雪女たちの初陣が迫ってるからね。
「思い知ったかしら? あらごめんなさい、もう聞こえてないわよね」
いつも通り、自らの術で仕留めた手応えを確かに感じたので、彼女は勝ち誇ったように夜行へと告げる。夜行はさっきから指一本とてまともに動かしていなかった。その事と、彼女の本来の氷のあまりの純度の高さから錯覚を起こしていた。
それはつまり、夜行が本当は凍っていないのに凍りついたと勘違いしていたという事だ。そしてもう一つ、彼女は気付いていない。今や、彼女の力が全て失われてしまった事に。
「さて、契約者をそろそろ探さないといけないわね。どうせならイタコあたりが良いんだけど……どこを探せば良いのかしら」
「それなら北上して東北に行けよ、確かあそこが本場だから」
「そう、ありがとう。……って嘘! 何で動いてるのよ!」
さっきまでピクリとも動いていなかった夜行が目を離した隙に動き始めた事に彼女は面食らった。確実に凍らせたと思ったはずなのに、どうして動けるのか理解できず、思わず後ずさった。得体の知れない何かに感じる恐怖、なぜこの男は身動きが取れるのか、動揺した頭では何も考えられなかった。
しかしそれは、彼女に限った話ではなかった。実のところ、夜行も今何が起こったのかさっぱり理解していなかった。つい今しがた、確かに自分の体に異変を感じたはずだ。突然司会の中の靄が晴れて頭が整然と調えられたような開放感。そして各所から感じられた、気配ともとれる違和感のような不思議な感覚。
さっきは確実に、その中で一際濃い存在感を目の前の女性は放っていた。それなのに今となっては、何も感じられない。
「で、お前今何やったの?」
「あんたを凍らせようと妖術を使ったの。それなのに何でこんな……」
どうやら、まだ彼女はこのような事を言い続けるようだと、一旦冷静に夜行は考える。少し頭が可笑しい女の戯言、そう捉えることもできなくはない。しかし、先程自分の中に巣食ったあの感覚がやけに引っ掛かる。地中から、空の上から、そして目の前の女から感じた、謂わば『尋常ならざる気配』。あれがもしも、妖怪などの発するものなのだとしたら。そう思うと、先刻確かに捉えた強大な力、それと今の女の発言。やはり自分の捉えた気配というのは人ならざる者の発するエネルギーのようなものだとすると、辻褄があう。
だが、目の前の女はなぜその力を正常に扱えなかったのか。それだけではない、なぜこの女からは、今となってはその力の片鱗すら感じとれないのか。自分のさっきの感覚は文字通り一瞬だけのものだったのかと考えるが、集中してみると随所から同じような気配は感じ取れる。この感覚は本物だろうと他ならぬ自分自身の直感が告げている。
「何さっきから黙りこんでるのよ、何か言いなさい」
「……なんでイタコなんて探してるんだ」
「はぁ? 何であなたなんかにそんな事を教えてあげないといけない訳?」
「良いから、早く答えろ」
強めに命令すると、抵抗するのも時間の無駄と考えたのか、すぐに自称雪女は折れた。さっさとイタコを探そうというのがおそらく本音であろう、この際疑問は考えずに目の前の男、つまりは夜行にこだわらない方が楽だと判断したのだろうか。
「どうせ信じないでしょうけど、次世代の妖の王様を決めるために、後継者同士の争いをしているの。候補は数百から数千人、お互いその力を競いあって戦いで優劣を決める。最後に立っていたのが次の王よ」
「で、お前も候補か。イタコを探す意味は?」
「やけに素直に信じるわね、逆に気持ち悪いわよ」
五月蝿いと言わんばかりに夜行は顔をしかめる。一矢報いてやった事にほくそ笑むが、雪女は彼の真意が掴めないまま説明を続ける。
「私たちがそのまま戦うとあまりの力の強さに天変地異が起こってしまう。だからその力を契約者の人間、あるいは人として生きている半妖に力を預けるの。人間の器だと妖怪の体より出力が抑えられるから」
タンクとしては人間は十分機能するのだが、中身を出す水道としては劣る。そのため妖術の規模が自然と小さくなり、比較的周囲に影響を与えずに暴れることができるという訳だ。
「ただ、イタコや巫女、占い師みたいな本職霊能力者はその力を引き出しやすいの。ただ単に霊感があるだけでもかなり違ってくるわ。契約した二人の事を私たちはつがいと呼んでいて、つがいのそれぞれが優れた力を持っている事が勝利への近道ね」
「だからイタコを探してたのか」
その通りだと彼女は頷く。となると、さっきから薄々と感づいていた予想が夜行の中で確信に変わった。と同時に、彼女にそれを告げるのがかなりハードルが高いことに気づく。相手からこちらは嫌われていて、こちらも相手に良い印象は抱いていない。夜行の本音はこんなの願い下げ、である。
だが、言わねば何も始まらない。唇は重たく感じられたが、我慢して彼は口を開いた。
「多分さっき、俺とお前がつがいになったんだと思う」
「あー、その可能性はあるわ。だって契約の方法は相手に自分の妖力を注ぎ込むことだ……し……えっ?」
その瞬間、ようやく彼女は自分の目の前で起きた異変の正体を飲み込めたようだ。先程、夜行を氷付けにしてやろうと自分の術を使ったその時、何らかの手違いで夜行の体内に自分の力を注ぎ込んでしまった。その結果、二人が契約してしまった。
「待って待っておかしいわ! 契約した事はないけど、私は今あなたを外から凍てつかせようとしたはずよ。それなら契約にならないはず……何でこんな事になるのよ」
「いやいや、文句言いたいのはこっちだふざけんな。何でそんなヤバそうなのに巻き込まれないといけないんだよ」
「黙りなさい! 私だってあんたみたいな口うるさい男なんて願い下げよ」
でも仕方がないだろう、そう言って夜行は掌を近くの電柱へと向けた。初めて手に掴んだ能力だというのに、使い方が手に取るように分かる。やり方さえ覚えれば縄跳びをするような要領で簡単にできる。意識を集中させて、冷気の指向性を定め、力を吐き出す。掌を向けた先にある電柱に巻かれた黒と黄色の縞のラバーが易々と凍てついた。
「嘘でしょ……そうだ、一回までなら契約破棄ができたはず……」
何かを思い起こしたように、夜行をそっちのけでぶつぶつと呪文を唱える。しかし、その直後の落ち込んだ表情が芳しくない結果を物語っていた。
「破棄できない……どうして?」
「何なんだよこれ、お前マジで歩く冷蔵庫だったの?」
「その愉快な言い方は止めなさい!」
ギャーギャーギャーギャーと喚くこと喚くこと。五月蝿いったらありゃしないよ。そんなんだから敵にもすぐに見つかるってもんさね。キリが良いからもう一度休憩を挟もうかね。
何だかこの二人が上手くやっていけるかわっちも心配になってきたよ。こんな事で近くにいる他の候補者に勝てるんだろうかねぇ。
まあこの二人、一人一人は中々大したもんだから、今後の成長に期待するしかないね。ただ、今後があれば、って感じだけどさ。
ちょっくら酒でも煽りながら休憩するよ、あんたもどうだい? 呑まないならまた時間を開けてからやっておいで、わっちの晩酌は長いから、さ。
- Re: 妖王の戴冠式【1/15更新】 ( No.13 )
- 日時: 2015/01/15 00:24
- 名前: 狒牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 49KdC02.)
あー、長いこと呑んじまったねぇ、もうとっくに一日以上経っちゃったよ。ため込んでた酒樽が一気に空になっちまった。いやいや、そんな驚いた顔しなさんなって、別にわっち一人で呑んだんじゃないさ。
昔馴染みの雪菜(せつな)がやってきたからついつい話しこんじまったんだよ。まあ、彼女のおかげで戴冠式の様子が知れるんだ、ちょっとぐらい勘弁してくれよ。
それじゃあ続きだね、不仲な二人に迫る奴らに注目さ。
最初こそ見学者はいなかったものの、まだ日の出ている往来で堂々と口喧嘩をしていたために、二人の周囲には段々と人だかりが出来始めていた。それもそのはず、周りの人に聞かれるような羞恥などお構いなしに二人の苛立ちが募っていたからだ。
「冷蔵庫なんてレベルじゃないよな、歩く冷凍庫、はい決定」
「ふざけないで! あなたの辞書には皮肉しか載ってないのかしら?」
「あらやだ奥さん、俺は事実しか言ってませーん」
「いい加減にしなさい」
手を振り上げて、今にも夜行を引っ叩こうとしたその瞬間、ようやく彼女は自分たちの置かれている立場に気が付いた。道行く人々が珍妙そうな表情で横を通っていく。立ち止ってあからさまな野次馬になるような者はいないが、それでも何度か二人の方をちらちらと見つめていた。
年上の女性が年下の少年に絡んで怒鳴り散らしている姿、他人の視点で見ると誰が見ても夜行が被害者に見えるだろう。もし夜行が後三歳年上だったならば痴話喧嘩に見えただろうが、夜行はまだ十五、それに対して雪女はもっと大人びていた。
餓鬼の挑発に乗って手を上げようとする女性を周りはどのように見るのだろうか。それが分かっている彼女は顔を真っ赤にしたまま腕を下ろした。恨めしそうな視線を夜行へと向ける。
「くっ……男のくせに生意気なのよ。口ばっかり達者で情けない」
「女のくせにがさつなんだよ、腕っ節の方が強そうだけど……実は男とか? だってもはや胸板だよな、それ。ってかまな板?」
「あぁ、もううるさい。流石にそれはどうなの! 氷漬けにして一生私の部屋のオブジェにするわよ」
「え、そんなに大事にしてくれんの?」
「違う!」
それどころではないと言うのに、雪女を煽る夜行に対して、彼女はかなりの苛立ちを覚えていた。勝手に契約が行われたどころか、契約破棄すらもできない状況は明らかに異常だ。今、彼女は夜行を氷漬けにしてやるとは言ったものの、そのための力は全て契約者たる彼に奪われたままだ。
「……一旦落ち着いて話を聞きなさい、このままだとあなた、大変な事に巻き込まれるわよ」
「変態、というか変人さんには巻き込まれてるな」
「そういうのはもう良いから、聞きなさい」
打って変って真剣な表情になる彼女に、ようやく夜行の減らず口も収まった。見れば中々に通行人の視線が痛々しく、そろそろ自分の知り合いにも見られる可能性も出てくる。
それ以前に、彼女の言うファンタジーのような話も作り話ではなく現実の事だとさっき己の目で確認したのだから。これ以上、今の状況から目を逸らす訳にはいかない。
「悪いな、俺も動揺しててさ」
「謝罪なんて要らないから。とりあえずこっちに来て」
「どこ行くんだ?」
近くにあまり人のいない空間ぐらいはあるだろうと雪女は言う。むしろ、このあたりに住んでいる夜行こそが知っている事だろうと次いで尋ねてきた。どこならば聞き耳を立てられずに込み入った話ができるだろうか、このあたりの地理を彼は思い出す。
公園はこの時間帯だと犬の散歩をする人が多いので却下。中学校や小学校に近づきすぎると下校中の生徒に会う可能性が高い。卒業生であり、卒業式の終わった夜行達は休みでも、在校生はまだ三学期は終わっていない。
廃工場もあるにはあるが、不良のたまり場になっているし、そもそもかなり人目に付く。フェンスを越える必要もあるためやはりこの場合は不適切だ。カラオケなんかに連れて行ってもこの女は良く思わないだろう、そう考えて夜行は頭を抱えた。
自宅には既に母が帰っているはずだ。
「あんまり思いつかないな」
「言い訳は良いから、早くしなさい」
人がいない場所、となると候補は後一つぐらいしか残されていない。盆や正月は訪れる客がそれなりにいるが、普段はほとんど誰も見かけない場所、お寺の裏の墓地である。街灯もなく、夜になると驚くほど暗くなる。手入れもあまり行き届いていないため、真夜中に一人で来るのは大人でもご遠慮願うという心霊スポットだ。
夜行は幼いころ、ここで死霊の声のようなものを聞いたことがあり、それ以来そこを訪れようとはしなかった。今でもあまり気分のいい場所ではないので、提案が躊躇われる。
ちなみに、その時のそれは本物の心霊現象だったのかただの物音だったのかは未だにはっきりとしていない。目の前に妖怪がいるのだから本物なのではないかという予感が強まるほどである。
「仕方ない……か」
「思い出したの?」
「おう、お寺の裏にあるお墓」
首を縦に動かして了承の意を伝えた雪女は、さっさと案内しろと言わんばかりに顎で示す。傲慢な態度にため息をつくが、黙って夜行は先導した。
少しでも聞きたいことは聞いてみようかと、夜行は親睦がてら雪女に話しかける。
「なあ、今お前自分の能力使えないのか?」
「ええ、屈辱的だけど」
「じゃあさ、コンセントの抜けた冷凍庫ってよんで……」
「良い訳ないでしょう」
やっぱりかと彼は肩を落とすが、それが本心でない事は彼女も見抜いた。そして、その真意も。仕方ないと言わんばかりにそのまま名を告げる。
「雪姫(せっき)と呼びなさい」
「漢字は? 雪に鬼か?」
「雪に姫よ、喧嘩売ってるの?」
「うっわ、イメージに合わねー名前」
「放っておきなさい」
自分が姫と呼ばれるほど可憐な性格はしていないと彼女は自分でもよく分かっている。そのため、雪姫はもう一つの皮肉に対する反応が遅れてしまった。一拍遅れてその意味に気付いた彼女は、怒りで顔を上気させて夜行を問いただす。
「何よ、あなたもしかしてこの私が鬼ババだとでも?」
「そんなつもりはないけど……そう思ってるの?」
「その口縫い付けるわよ」
怖い怖いと夜行は口に手を当てた。上体を彼女から遠ざけるように倒し、警戒を身振りで示す。これも挑発、そろそろ慣れ切っていた雪姫はもう怒りはあまり湧いてこなかった。
「……なあサトリさんよ、あいつらがあんたの言う、他の候補者って奴なのかい?」
夜行達から数十メートルほど離れた所に、その男達は立っていた。聞き耳を立てるようにして、じぃっと神経を二人の方へと集中させている。目で見て、耳で聞いて、彼らの事を五感全てで感じている。
人間の男の隣には、まるで着ぐるみを着ているかのような、全身が毛でおおわれた人型の異形な化け物が鎮座していた。大きく尖ったくちばしの隙間から、卑しげな笑い声が漏れ出る。
「へへ、そうそう。いやぁ、それにしても俺は当たりだよ。あの大嫌いな雪姫の野郎を……」
————真っ先に始末できるのだから。
紫色の舌をくちばしの隙間から覗かせて、舌なめずりをする。じゅるりと、汚らしい音が辺りの空気を舐めまわした。
「なあサトリさん……あの女倒したら、俺にくれよ」
「あー、君は趣味が拷問だからね。警察にも追われてたっけ」
「気丈な女が泣くところ、見たくない?」
「そんな趣味はないけれど」
あの女が泣き叫ぶところは見てみたいかもね。そう言って、二人は目線を合わせてニタリと嗤った。
いやあ、にしても気色の悪い連中だねえ。こういう奴らはとっとと御縄にかかっちまえばいいんだよ。
それにしても夜行のやつ……しつこく冷凍庫ネタ引っ張るね、狙って言ってる分あっちの九尾よりも性質が悪いよ。
あ、そうだわっちの店なんだけど、金曜日は開ける予定だけど、その次の日の土日と二日ほど閉店してるよ。月曜日には開けようと思ってるんだけど、もしかしたら火曜日になるかもしれないね。(注釈:センターなんです)
まあ何だい、そろそろわっちも大好きな、血沸き肉躍る戦いの祭典さね。わっちの語りじゃあんまり盛り上がらないかもしんないけど、精一杯、出来得る限りの臨場感を持って伝えるよ。
それじゃ、この話は一旦ここで休憩しようか。金曜日、わっちの休憩が終わった頃にまた来て頂戴ね。