複雑・ファジー小説

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そして蝋燭は消えた。【短編集】
日時: 2015/05/22 17:58
名前: 橘ゆづ ◆tUAriGPQns (ID: w4lZuq26)

はじめまして。橘ゆづ(たちばなゆづ)、といいます。
初めて小説を投稿してみようかなぁ、と。
雑談では「ゆづ」として色々歩き回ってるので、見かけたら声をかけていただけると嬉しいです(笑)
まだまだ初心者ですが、よろしくお願いします!

基本、短編-掌編ぐらいの短いのを綴っていこうかなと思います。
(それ以下になる場合も……)
予告なしに痛い表現や匂わす感じがあるのでご注意ください。
ついでに勝手にシリーズとか始めたり、長いものをだらだら書いたり、詩も書きます。

アドバイスなど貰えたら嬉しいです。コメも凄い喜びます。
出来れば誤字脱字も報告していただけると嬉しいです。

では、よろしくお願いします。


・目次
>>1[残念、夢の時間は終了です]
>>2[神に好かれた女]
>>3[1きっとそんな夢を見た。]
>>4[2きっとそんな夢を見た。]
>>5[終きっとそんな夢を見た。]
>>8[1蜜の世界]
>>9[終 蜜の世界]
>>10[すぐそばに]
>>11[潔癖少女の末路]
>>12[吸わない男]
>>13[心傷の靴]
>>14[眠らないブランコ]
>>15[崩れて堕ちた]

・お客様
>>6佐渡 林檎さん
最初のお客様です。私と同じく短編集を書いていらっしゃり、表現力が魅力的な方です。

Re: そして蝋燭は消えた。【短編集】 ( No.8 )
日時: 2015/05/21 06:39
名前: 橘ゆづ ◆1FiohFISAk (ID: Ft4.l7ID)

(6)1蜜の世界
匂わす描写、汚い描写があるので注意

青年視点。


 俺が働いている場所。
大人の世界、未知なる聖地。
性欲真っ盛りの中高生なら一度は憧れるであろう、「ラブホテル」。
俺もあの時は憧れていた。否、神は俺に優しくはないので働いてはいるが使ってはない。
 そんな俺は今日も今日とて深夜と朝の境目に働き出す。
夜は泊まる客が多いから、受付にはおばちゃん一人いれば十分だ。
ちなみに俺はコミュ障なので受付はやらない。清掃だけだ。

 うたた寝をしている受付のおばちゃんに小さな声でお疲れさまです、と言って用具室へと歩を速める。
用具室から業務用の掃除機を出しながら、ぼんやりと長い廊下を見つめた。

 やはりラブホテル、という場所なので、やはり色々なお客様がいる。
お客様が人間とは限らないし、怖かったり、悲しかったり、不思議なこともあった。
過去に犯罪もあったし、ヤのつく家業の人が来たりもする。
 今日は、掃除でもしながらでもそのことを話そうか。


 腕捲りをして、掃除機を持った。
これが業務用のなので意外と重かったりする。
だが夜なので音を立てるわけにもいかない。
せっかくの性夜なのに、掃除機を持ち出す音でそれが冷めてしまうとものすごく申し訳ないし、ムードだってぶち壊しだろう。
なので、足音にも気を付けるのがオーナーのモットーだ。
 抜き足差し足忍び足、とまではいかないが極力足音を立てない。
そのせいで家では妹から驚かれることもしばしばだ。
まぁ、板についてきたと思ってポジティブに受け取ろう。

 早く、尚且つ清潔に。見映えよく綺麗に。
妹に「掃除が上手になったねぇ」と褒められることも多くなった。
そういうところでは、ホテルで仕事というものはいい。
そして清掃仲間のおばちゃんたちも元々ちゃんとしたホテルで働いていた人たちだから、完璧な掃除なんて朝飯前だ。
だけど、出来るだけ湯沸しポットとポンプ式のシャンプー、リンスーは避けた方がいい。
俺たちでも見つけにくいし、悪戯されやすいから。


 もくもくとそんなことを考えている間に、扉の前に立っていた。
鍵を取り出して鍵穴に差し込み、ドアを開ける。


「オー……。」


 部屋の酷さに、思わず外人のごとく呟いてしまった。
いやはや、これはひどい。
撒き散らされている吐瀉物に、ベッドにこびりついた男の白濁。
昨日の昼間はどうやらお盛んだったようだ。
 「305号室は酷いわよお。ユアサくん、一人で大丈夫?」とおばちゃんに聞かれ、はい!と快く承諾してしまった五分前の自分を殴りたい。今すぐに。
305号室に入るお客様は周一には利用する常連さんなので、強いことは言えないらしい。
お客様の性を詮索する必要はない。
無心で手を動かした。

 そういう汚いプレイをする客は少なくはない。
確かに家でするには難しいだろうし、後始末も大変だ。

 ちなみにラブホに泊まる時は一人でも大歓迎だったりする。
最近、遠慮する若者が多い。泊まればいいのに。
その方が掃除も少なくていいし、ラブホなら下手なビジネスホテルより安いのでお財布にも優しい。いいことだらけだ。

 というわけでホテルに困ったら泊まってくれ。
うちにはないが、女子会割りがつくラブホもある。
欠点と言えば、喘ぎ声とベッドのきしむ音が耳につくけれど。
気にしない人ならばいいだろう。だけど盗聴は犯罪です。
法的ルールを守ってみんなでラブホに泊まろうぜ!
「ホテルクレイジーピエロ」をよろしくな!

 等と「くっだらねぇ」と妹に嘲笑されそうな内容を考えながら、アルコールスプレーを浴槽に吹き掛けた。
浴槽には吐瀉物に血。ベッドと同じような感じだ。
 溢れそうになるため息を飲み込んで、タオルで汚れを拭い取った。
あ、そういえばシャンプーやリンスーに悪戯ってのは、白濁液を入れられるってこだ。そういうことして楽しむ客がいるからな。気を付けろよ。
湯沸かしポットも似たようなもんだ。
 どっこいしょ、とおっさんのように呟きながらシャワーを手に取る。
水をかけようとした瞬間、きらりと水に反射して光るものが視界に写った。
多分、連れの女性が忘れていった指輪だろう。よく忘れていくそうだ。
俺はその指輪を排水溝から救いだし、ハンカチで包んで拾ってポケットに押し込む。
おばちゃんから指輪のことも聞かされている。抜かりはない。
そしてタオルでまた拭きあげて、浴場をあとにした。



(1蜜の世界)
続く。
この物語はフィクションであり、実在の人物、団体とは一切関係ございません。クレイジーピエロなんて存在しません。

Re: そして蝋燭は消えた。【短編集】 ( No.9 )
日時: 2015/05/21 06:41
名前: 橘ゆづ ◆1FiohFISAk (ID: Ft4.l7ID)

(7)終 蜜の世界


 ふぅ、と汗を袖で拭いて、ベッドの上に仁王立ちする。
ここからは無心だ。もう汚さなど考えない。
そう。俺は今──地蔵なのだ……。観音様でもありだ。
とにかくアレだ。無だ、無。
ふはは、今の俺は無敵であるってな。やかましいわ!


 次は色々なお客様のこと。
まず援助交際は制服でない限り、うちの店では無視だ。
証拠もないのに警察を呼んでも逆に俺たちが注意される。
ついでに俺の店はあからさまな未成年は通報ではなく、帰ってもらう方だ。
店によっては通報するところもあるから気を付けろよ。
ラブホは18歳から、だからな!
 同性愛も後片付け的に拒否する店もあるが、ほとんどの店は気にしないから。
だからどんどんいらっしゃい。

 俺がこのラブホを勤めてきてビックリしたのはおばさんと中学生くらいの男の子二人で来たときだ。
六十歳くらいのおばさんと、華奢なお坊ちゃんっぽい少年。
なんともいえないコントラストで、でも言いがかりで警察を呼びつけるわけにもいかないからスルーしてたが、驚いたのはその後だ。
 時間になりフロアに帰ってくる少年にお姫様だっこされたおばさん。
少年はもう賢者タイムに入っていた。
おお、と声に出してしまったことは内緒である。
 そして備え付けのコンドームは使っていないのに、ティッシュはゴミ箱にいれていたということは生だ。生。

 あれは繁華街の闇、というか人間性の闇を実体化した人たちだったと思う。
おばちゃんたちは「絶対、教師と生徒よ」と話していたが、もしも親子だとすると……と更に闇を深くする妄想をしていたのは秘密。


 うんうんと独りでにうなづき、ベッドの下に散らばった避妊具をごみ袋にいれてシーツを回収する。
新しいシーツをベッドに付け替えて、タオルも回収した。


 経験したなかで一番怖かったのは、浮気バレだったりする。
ある日、三日連続で宿泊している珍しいカップルがいた。
その三日目に客じゃない女性から「あの、ホテルに旦那がいると思うんですけど……車を確認しにいってもいいですか?」と電話があった。
 事情がよくわからないので話を聞くと「他県に出張中の旦那が何故かここのホテルにいるんです。実は浮気を疑っていて、素行調査をあらかじめ行っていました。確認をとりたいのですが」とのこと。
当然、慌てるうちのスタッフ。
清掃に来てた俺も目を白黒とさせた。

 法律には詳しくないが、多分守秘義務とかで確認させることは出来ないという結論に至った。
が、あまりに悲痛そうな女性にオーナーが「ホテル側としてはそれを了承することはできないのですが、幸か不幸か疑いのかけられてる車はホテルに近寄れば外から確認できる位置にあるので、お客様が勝手に見られる分にはどうぞ……」と打開策を講じた。
 お礼を言って、もちろん見に来る奥様。
確認する奥様。静かに激怒する奥様。
そして鬼と化した奥様はホテルへと走り出した。
スタッフたちの制止を振りきり、廊下で大声で泣き叫びはじめる。


「でてこおおおおい!!!!タカノブぅぅぅぅづづ!!!!許さねぇぞっっっづヴ!!!タカノブおまえぇっづぐヴ、ぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 嗚咽混じりにタカノブへ叫ぶ奥様。そしてそれでも出てこないタカノブ。
このままではいけない、とオーナーがタカノブの部屋を把握していたので電話。
直接話しあうことにしてもらったものの、やっと出てきたタカノブの顔を見た途端、奥様はタカノブに飛びかかって爪で引っ掻くは殴るは蹴るはで話すどころじゃない。
浮気相手と思われる女性は「私だけって言ったじゃない!このクソ男!」奥様と同じようにタカノブに飛びかかっている。
なんとも自業自得だが哀れなタカノブ。
 とりあえずお金だけ払って貰い、外に出して近所の緑地で殺りあってもらうった。
あの時の奥様と浮気相手の顔を思い出すだけで恐ろしい。
浮気ダメ、絶対。


 窓を拭きながら思い出して、背筋を震わせる。ああ恐い恐い。
拭き終わったら次に床を拭いて、雑巾をバケツに放る。
つん、とした吐瀉物の臭いが鼻についた。


 うちは近くに居酒屋などが揃ってないのでないが、都会とかでは準強姦があるらしい。朝になって窓から飛び降りようとした女性もいたんだから、気を付けような。
ついでに監視カメラとか本当に無い。マジだ。そもそもプライバシー侵害だろうし。
だから疑いのあるところに何でもかんでもガムテープ貼るのやめてくれ……。
 露出癖のあるカップルは大変だ。俺的に。
恥ずかしいやら俺が虚しいやら悲しいやらでもう見てられない。
やめてくれ。これもついでにやめてくれ。

 そしてヤのつく家業の皆さん。
怖いけど凄いチップくれるし多く払ってくれる。
でも凄い怒鳴る。そして顔が顔だから怖い。
近所に組事務所があるのであの人たちは常連なんだけど、なんせ注文が多かった。
 ホテルに入る直前で「前の部屋に泊まらせろ」や、「この部屋落ち着かない。他の部屋に変えろ」とか、「前入った部屋にいれろ」も。
入室してからも朝の四時頃に「腹が減った。寿司屋に出前取れ」と言ってくる勝手ぶりだ。
けどやっばりチップくれるし、常連さんなのでこれが途絶えるのは店としてもいたい。
なのでみんな目をつぶっている。


 掃除機をかけて、最後に部屋を見渡しうなづく。
扉を閉めて、鍵をかけた。
また掃除機を引きずらないようにして持ち上げる。
窓からは日が差していた。もう、朝か。
あくびをして、体を引き締める。よし。今日も頑張る。
耳に誰かの喘ぎ声が響いた。
おお、朝からお盛んなもんだ。
さて、フロントに戻ろう。おばちゃんたちが待っている。



 さて、ここまで読んでくれたみんな。
俺が話せるのはここまでだ。
ラブホはけっこうキツいが、意外と楽しかったりするぞ。
おばちゃんたちも優しいし、色んな人がいるから同じ境遇の人もいるかもしれない。
知らないことを知れたりするし、人間の穢さも闇も垣間見れる。
高収入なところもあるから、探してみるといい。
ぜひ一度、働いてみて。
 じゃあ、この辺で。
ちなみに俺の名前はユアサタカシだ。
この蜜の世界であったら挨拶してくれ。
また会おう。では。


(終 蜜の世界)
end。

この物語はフィクションであり実在の人物、団体とは一切関係ございません。
クレイジーピエロなんて存在しません。

橘ゆづ

Re: そして蝋燭は消えた。【短編集】 ( No.10 )
日時: 2015/05/20 17:27
名前: 橘ゆづ ◆1FiohFISAk (ID: FpNTyiBw)

(10)すぐそばに。



「アアそういえば。」

「どうしたんだ?」

「昨夜、ヨシカワのじいさんが死んだらしい。」

「そうなのか?へぇ……。あの人は恨まれてたからなぁ、色んな人に。」

「ざまあみろって話だよ。俺たちを散々コケにした罰だと思え。」

「それもそうだな。本当、ヨシカワのじいさんはひどかった。」

「うちの娘を息子に嫁がせろって無理やり言ってきたんだぜ?しかも、あそこの息子、顔がお世辞にも良いとは言えないんだよ。」

「それはひどい。俺のところの畑もよく荒らされたもんだ。」

「確か、米だったか?」

「そうそう。……って、米はお前もよく勝手に盗ってくじゃねえか。」

「ハハ、悪い悪い。米は高くてな。」

「俺のところはお前らのお陰で赤字だよ……。」

「イヤア、悪いって。あ、悪いといえばヨシカワのじいさんも元々心臓が悪かったらしいぞ。」

「話をすり替えるなよ……。?そうだったのか?ア、そういえば薬を飲んでたような……。」

『ヨシカワのじいさんの死因は刃物で刺されたんだとよ。その刃物はまだ分かってないらしいが』

「ア、そうだったな。飲んでたな、あの人。」

「そうそう。いつもあのじいさん動き回ってるだろ?だから誰も心臓が悪いなんて知らなかったんだよ。」

「そういえば、なんで動き回ってたんだろうな。あんなに。」



「誰かから、逃げるみてぇに。」



「……オー、こわいこわい。」

「そうだな、塩でも撒いとくか。」

「それにしても、ナイフで滅多刺しなんてひでぇよなぁ。」

「アア、どんな非道人なんだろうな。顔が見てみたい。」

「そうだな……。ヨシカワのじいさんもいないことだし、今日はうちに来ねぇか?まだ犯人も見つかってないし、一人住まいじゃあぶねぇよ。」

「悪いな、世話になる。」

「いや。全然、構わねぇよ。」

「本当に、ありがとうな。」



(すぐそばに)
end。

Re: そして蝋燭は消えた。【短編集】 ( No.11 )
日時: 2015/05/21 06:35
名前: 橘ゆづ ◆1FiohFISAk (ID: Ft4.l7ID)

(11)潔癖少女の末路
汚い表現注意。


 けたたましい警報器の鳴る音。我先にと人を押し倒し玄関へ向かう全児童たち。
教師たちはいきなりの火事に対処が出来ていない。人間、死ぬとなると誰よりもかわいいのは自分だ。
大人という体格で児童を退けて走っていく姿は何者よりも醜かった。
トイレに閉じ込められた少女は煙にむせ混みながら、何処か他人事ように今の悲劇的な出来事を考えていた。
体には無数の刺し傷とかすり傷、頭から水を被せられたのか水滴が髪と頬をつたっている。
 少女は虚ろな目で目の前のトイレの扉を見る。
トイレの外はもう火が回っていた。
逃げようにも出口はホウキとガムテープで塞がれているし、それに玄関前はとっくに火が回って、全員が外に避難している頃だろう。


「悔しいなぁ。今まで生きてきたのはなんだったんだろう。苦しいなぁ、寂しいなぁ、酷いなぁ、憎いなぁ、殺したいなぁ、けほっ、……穢い、なぁ!」


 最後の一言を呟くと、少女はびしょ濡れになっていたカーディガンで手を拭い出す。
摩擦で手の皮は剥がれ、血が出てきてるというのに少女は擦るのをやめない。白魚のような美しい手が、やがて醜くなっていく。
顔はまさに鬼の形相で、手が憎いとでも言うように擦ることをやめない。
火花が音を立てて扉を壊そうとしているのに、少女は目もくれなかった。


「ああああああああああああああああああああああああ!! 汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚いこれのせいだこれが汚いから私が虐められるんだなんで私が死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない生きたくない逝きたくない!」


 泣きながら自分を否定する姿は、何とも痛ましかった。
泣き叫び、そのたびに煙を吸って肺を壊していく。
顔が煙のせいで黒く染まり、手が痺れて動かせなくなって、はじめて少女は止まった。
 カーディガンを放って、汚いトイレの床に体を預ける。
もう、座る気力すら無かった。

 なぜ自分が虐められる。汚いのか。汚いのが、原因か。
嗚呼、そうか。
来る日も来る日も少女は手を足を体を、痛いほど強く洗った。
でも、虐めは止まない。
少女は分かってしまった。
汚いのは、自分だと。自分の心だと。
死に値する、死ぬべき存在。それが自分だ、と。


「死にたくないよう。死にたくないよう。おかーさ、ぇほっ、ぉえええ、うえ、おえぇえ、ぇおっ、うぐ、う、ぅうぅ! げほっ、こほっ、っは、たす、けて、……。」


咽び泣き、顔を鼻水と涙と煙に汚くした少女は確かに醜かった。
口からは体が有害物質を拒絶したせいか、汚い吐瀉物が出ている。
片目を閉じて、血を流して、汚い少女。
 だが、生きたいと。
そう初めて願って、少女は一心の思いで手をすがらせる。
そこに、人などいないのに。


「生きたいよ、生きたい! おねがい、だれか、だれか、だれでもいい、ねぇ、ぉえっ、ぉえええっ、げ、ほ、ぅ、う、ぅぅ!! ねぇ!誰か! 誰か!」


すがっても、どんなに喚いても誰も助けてはくれない。
 このまま、少女は意識を失って焼かれ、悔やみを残しての垂れ死んでいくのだろう。
悔やんで、憎くて、生きたくても逝けない。


「いたい、あつい、いた、あつい、しにたくない、やだ、しにたくない、あつい、あつい、いたい、いたい、いたい、」





喘ぐように最後に少女は呟いて、目を閉じた。
そして、どこかで彼岸花が咲いた。


(潔癖少女の末路)
end。

Re: そして蝋燭は消えた。【短編集】 ( No.12 )
日時: 2015/05/21 07:08
名前: 橘ゆづ ◆1FiohFISAk (ID: Ft4.l7ID)

(12)吸わない男

中年視点。


 鼓膜を揺らす、女児の泣き声。
熱いと泣いている少女に、思わずタバコを取ろうとしていた手を止めた。


「おがあざぁぁぁぁあ!! あづいよう!! ぅぅうぁぁ!!!!!」
「マイちゃんっ! 大丈夫? 痛いね、いたいね、痛いのいたいのー、飛んでけっ! ちょっと待ってね、救急車呼ぶからね、ごめんね、痛いね。少しだけ待ってね。」


 まだ四歳ぐらいだろうか。その女児が額を押さえながら泣いていた。
熱い、とは。周囲を軽く見渡すと、女児の直ぐ目の前でサラリーマンが情けなく慌てていた。
手には火が灯されているタバコ。
それで大体の人は察せるだろう。

 娘を慰めながらも母親の方は冷静かと思ったら、鞄から出したのは携帯ではなくハンカチ。
あわあわと母親はどんどん混乱に陥った。
心配か、はたまた興味か。野次馬がどんどん集まってくる。

 そこに混乱している母親に一人の青年が近づき、母親を落ち着かせながらも救急車を呼んだ。
やがて聞き馴染みのある音が聞こえてきて、女児は連れていかれる。
その直ぐ後にやってきた警察に、サラリーマンは連れていかれた。


 俺はその嵐のような光景を見ながら、もう一度タバコを手に取る。
もしかしたら、あのサラリーマンは俺だったかもしれない。
歩きタバコでもなくとも、あの小さな命を縮めていく鍵になる。


 ぼすり。
タバコをゴミ箱に押し込んだ。
そして、俺はいつしかタバコを吸わなくなっていた。


(吸わない男)
end。


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