複雑・ファジー小説

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BAR『ポストの墓場』
日時: 2017/02/22 03:00
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: 0L8qbQbH)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=685

【店内に掲示された看板より】

ご来店のお客様へ

 大変お待たせ致しました。BAR『ポストの墓場』は16/9/20より新装開店となります。諸般の事情により前倒しの開店となり、何かと準備不足の目立つ開店となったことを此処にお詫び申し上げます。
 保管されたログを閲覧される場合は付近のフロアスタッフにお申し付け下さい。該当のログをお客様の元までお持ち致します。

 上記URL内にて行っていた、当店フロアスタッフ・バーテンダーの募集は16/9/22を以て一旦締め切りとさせて頂きます。ご応募ありがとうございました。
 現在ログとして保管してほしい文書・データの受付準備を進めております。しばらくお待ちください。

  BAR『ポストの墓場』 店長

***

【店内に掲示された注意書き】

・ あるログについて「前後の話はないのか」とお尋ねされることが時折ありますが、当店で閲覧できるログは店長の能力で回収・解読が完了したもののみです。当該時系列以外の時間におけるログの回収・解読について努力は続けておりますが、保証は致しかねます。ご了承ください。
・ 基準世界線以外のログは、原則として基準世界線(1-1-1)の言語に翻訳されています。翻訳には細心の注意を払っておりますが、時折意図した文意と齟齬する/翻訳時に誤字や脱字する等のミスが生じることがあります。そのような文を発見した場合は御申しつけ下さい。速やかに訂正させていただきます。
・ 売名としてのログ保管は受け付けておりません。また、喧嘩/誹謗中傷/あまりにも長時間の雑談等、他のお客様の迷惑となるような行為が見られた場合、退店して頂く場合がございます。

***

【ログ保管庫】

※はじめにお読みください。
Log 00000-N 『店内情報一般』★
>>1

Log 00001-N 『前身:繰り返された歴史の遺物』★
>>2 >>3 >>4 *>>5
Log 00002-N 『第一種警戒令:iso-ha関連文書』★
>>14 >>15 >>24
Log 00008-N 『個人宛の手紙(譲渡予定なし)』★
N/A
Log 00009-N 『個人宛の手紙(譲渡予定あり)』★
N/A
Log 00010-N 『一時預かり記録』★
N/A
Log 00287-N 『門出』 《→8》
*>>6 >>7 *>>8 *>>9 >>10
Log 00489-N 『暗澹』 《→6000》
>>16 *>>17
Log 06000-N 『自戒:回避可能な崩壊について』★
>>18 >>19 *>>20
Log 09956-N 『名にし負う:『神曲』関連文書』☆
>>11 >>12 *>>13
Log 26588-N 『光輝:回避された崩壊について』★
>>21 >>22 >>23

***

Re: BAR『ポストの墓場』 ( No.11 )
日時: 2016/10/03 02:12
名前: 月白鳥 ◆8LxakMYDtc (ID: HccOitOw)

【Log 09956 : プラクトー星間通信サーバー内から回収したテキストデータ】

*セキュリティ・トラップ“好事家の好奇心”クリアー*
*アクセス制限解除 セキュリティクリアランス提示:不要*
*専用術式サーバー『コズミック・テレスコープ』を起動します*

 〈注意:正規の手続きを踏んでないアホにはこのテキストが表示される〉

 解除に掛かった時間:0時間32分15秒
 コメント:ハッカーの単独犯とはちょっと思い難いね、このタイム。

 さて。
 この偉大な長距離通信のサーバーに黒歴史をまき散らしちまった、何とも憐れなアマチュア天文学者の為に、まあちょっとした迷路とダンジョンに挑戦していただいたワケだが。このテキストを読めてるってことはクリアー出来たんだな。別に実績解除も二週目もないが、とりあえずおめでとう。
 しかしまあ、こんな屑データの底にあるサーバーをハッキングで探し当ててくる奴がいるとはね。技術ってのは凄いことだ。もしかしたら何か秘密結社とか政府機関とかが働いてて、スーパーコンピュータを何台も動かしてこの迷宮を解き明かしたのかもしれないな。悪用されたくはないし、そうじゃないことを祈ろう。

 サーバーにアクセスした理由は何だろうな。
 土壇場になって仲間から聞いたか、土壇場じゃなくても俺の仲間を拷問して聞き出したか。信じられんが、本当に偶然極極極超天才ハッカーが見つけ出しただけなのか? 流石の俺でも画面の向こうのお前等がどんな状況に陥ってるかは分かりようがないからな、答えはお前の胸にでも聞いてくれ。
 だが、お前等がどんな理由でこのサーバーにアクセスしようと、このテキストサーバーに保管された情報の価値は変わらない。此処に保存されたデータは、絶滅寸前の魔法使いが見つけ出した切り札。この世界の『真理』と手を結び、動かしていく術式に使う呪文とか使う道具とか、まあそう言うことに必要な情報全部だ。
 お前等が馬鹿みたいに科学を追い求めたせいで、神様は完全にヘソを曲げてる。並大抵の妖精やら精霊やらの声は、最早お前等が馬鹿にした神の耳には届かないだろう。だから俺達は、『真理』に声を上げさせて神様の眼をこっちに向かせようと画策した。その成果の一つが此処にある。

 下地は俺が作ってやった。感謝しやがれ。
 後をどうするかはお前等次第だ。健闘を祈る。

 ——プラクトー星間通信サーバー管理主任 カノープス


**追伸**
 俺の仲間に拷問を仕掛けてこのサーバーに辿り着いたヤツ。
 悪いがこれを解いても使えるとは限らない。悪い目的で使われちゃ困るんでね。
 使いたけりゃ俺の仲間全員連れてきてみろ、バーカ!

  ——“ななしのごんべえ”


〔尚、このメッセージが表示されるまでにラブレターと思しきポエムを3000通確認し、全て第八ログとして確保しました。ログの内10%は、文章の癖から同一人物のものと推測されます。 :マスター〕
〔どうして第八ログに全部確保した! 言え! :ギルバート〕
〔業務だからです。 :マスター〕

Re: BAR『ポストの墓場』 ( No.12 )
日時: 2016/10/09 12:25
名前: 月白鳥 ◆8LxakMYDtc (ID: HccOitOw)

【Log 09956-a : 術式サーバ『コズミック・テレスコープ』内のエラーデータ -1】

*ロックされています。パスワードを入力してください*
*エラー。パスワードが違います*

〔総当たり式によるパスワード検索を開始。計1000回のエラーを観測〕

*1000回パスワードエラー。メッセージを表示します*

 だから言っただろ、使えないって。
 何でこのデータにアクセスしようとしてるか知らんが、使いたいなら俺の仲間を連れてこいっての。
 仲間なら全部知ってる。こんな苦労絶対に必要ない。
 ぶっ殺したりしたんなら、許さねぇぞ。

  ——“ななしのごんべえ”

*セキュリティ・トラップ発動*


【Log 09956-b : 術式サーバ『コズミック・テレスコープ』内のエラーデータ -2】

*ロックされています。パスワードを入力してください*
*エラー。パスワードが違います*

〔残留データを使用したパスワード検索を開始。計2000回のエラーを観測〕

*2000回パスワードエラー。メッセージを表示します*

 何だか随分捻くれたことしてくれるじゃねぇか。
 根性は認めてやるが、そんなことしたって解けないぞ。良いから仲間を連れてこいって。
 連れてこれないってことはないだろ?

  ——“ななしのごんべえ”

*セキュリティ・トラップ発動*

〔以降、-yまで同一のメッセージが続く〕
〔このメッセージはリアルタイムに書き込み・送信されているものではないようです。 :マスター〕


【Log 09956-y : 術式サーバ『コズミック・テレスコープ』内のエラーデータ -25】

*ロックされています。パスワードを入力してください*
*エラー。パスワードが違います*

〔総当たり式によるパスワード検索を開始。計25000回のエラーを観測〕

*25000回パスワードエラー。メッセージを表示します*

 いい加減にしろよ。サーバーの使用履歴お前で埋まってんだけど。
 分かった、分かったよ面倒臭いな。話くらいは聞いてやるよ。
 さあ、言ってみろ。一体全体どうしてこんなことしてるんだ?

*コメントを入力して下さい*

 コメント:全ての有益な情報を開示・保管・共有することが私の目的だからです。

*送信*
*認証中…*
*認証完了。メッセージを表示します*

 けっ。くそハッカーにしちゃ上等な御託並べてくれるじゃねぇか。
 いいだろう。お前に一部領域だけ開示してやろう。二万五千回もテキストの迷宮に挑んだ努力賞だ。
 だが、もし変な気起こしたら、今すぐにでもお前のこと消し炭にしてやるからな。

  ——“ななしのごんべえ”

*クリアランス解除*
*術式サーバ『コズミック・テレスコープ』第一圏にアクセスします*

【Log 09956-z : 術式サーバ『コズミック・テレスコープ』内のエラーデータ -26】

*Warning!*
*N-205経路内で不正アクセスが検出されました。防壁を展開します*
*カウンターウォール“125EFLOPS”起動中…*

“メッセージを表示します”

 くそ忌々しい大天使どもめ。最近大人しいかと思えば、性懲りもなく外に助けを求めたか。
 失せろ。辺獄に触れることすら貴様等には許さん。

  ——“アケローン”

〔メッセージ受信の0.5秒後、演算回路に対するランダムアクセスが125E18回/秒を大幅に超過。演算能力を大きく超えたため、『コズミック・テレスコープ』へのアクセスは中断された〕


〔不正なアクセス元については調査中です。実体を持ったアクセス元ではないと予測されています。 :マスター〕
〔表が停電したのってこのせい? :ヨシタカ〕
〔停電は別件です。脚立が壊れているからと言って電球の交換を怠るべきではありませんでした。 :マスター〕

Re: BAR『ポストの墓場』 ( No.13 )
日時: 2016/10/13 11:59
名前: 月白鳥 ◆8LxakMYDtc (ID: wO3JvUoY)

【Live Log : Neutralized】

「こンのハッキング野郎ッ!!」
 がらがらとした濁声と共に、マスターは真正面から右ストレートの一閃を喰らった。
 咄嗟に身構えることも許されぬほどの刹那、しかしワインの瓶とデキャンタだけは放り出さないよう握りしめて、アンドロイドの重い機体が強かに背を打つ。どだん、と古い木の床全体が倒れた衝撃に揺れ、忙しい中で目まぐるしく動き回っていたスタッフも、客と共に音の方を見た。
 いち早く反応したのは、傍で空の食器を下げようとしていたナベシマである。
「マスター!? えっと、あのっ、どしたんですか!?」
「……見て察して頂ければいいのですが、私は大丈夫ですよ。ただ、個別に対応すべき事案が出ただけです」
 ざわつく店内、集まる人の眼。不安と焦燥の入り混じる中、マスターは慌てて近づいてきたナベシマに抱えていたものを押し付け、今しがた拳を喰らった場所に手を当てながら身体を起こした。一方のナベシマは困惑の表情も露わに、ぎこちなく立ち上がろうとするマスターと、肩を怒らせ立ち尽くす男とを交互に見ている。
「個別にって、マスターを張り倒した方ですか」
「ええ、多少時間が掛かります。今日はこれ以上お客様が増えることは恐らくありませんから、貴方とルークさんだけでも対応できるでしょう。もし私に取り次ぎがある場合は遠慮なく言って下さい、場合に応じて指示を出します。——それと、ナベシマさん」
 無感情なモノアイが、猫のような眼を真っ直ぐに見据える。
 ぎょっとしたように眼を丸く見開いた彼女へ、マスターは疲れたように肩を落とした。
「お客様の前で失礼な言動は慎んでくださいね」
「! すっすいませっ」
「構いませんよ、次から気を付けて下さい。……それ、五番テーブルにお願いしますね」
「は、はいっ」
 ワインのボトルとデキャンタを手に、ばたばたと慌ただしく客の間へ紛れていくスタッフの背を尻目に、マスターはエプロンの裾を軽く払う。そして男の顔をちらと一瞥し、ほんの僅か首を傾げたかと思うと、何事もなかったかのように深く頭を下げた。
「お待たせしました。此方へ」
「ふん」
 客とスタッフの起こす騒々しさなど、当然と言わんばかり。
 二人の姿が消える頃、フロアの空気は元に戻っていた。

 応接間、と手書きの札が下がった扉の向こうには、質素な調度品の置かれた部屋が広がる。やや手狭な空気の否めない中、頑丈なチーク材のテーブルを挟んで、マスターと男は対峙していた。
「ご用件は『コズミック・テレスコープ』の件でしょうか?」
「“今回は”、な。以前にもお前と似たようなことを仕出かしたハッカーが居たが、その時は『マクスウェル・オヴザーバトリ』、その前は『インフィニット・ベネディクト』。分かるだろ、お前が呼ぶその名は偽物だ」
 男の声色は堅く、非難の色を帯びる。
 マスターはそれでも、怖気づくことはなかった。
「確かに……かのサーバ内に潜ませたものが本当に『真理』を揺り起こすための情報ならば、わざわざ二万五千回もエラーを吐き出させる必要はないでしょう。重要性と秘匿性の齟齬には気付いておりました。中で待ち受けるものが何かも、私には予測が出来る。——防壁の厚さから見て、他に害を成すデータの集積なのでしょう」
「そこまで分かっててハッキングしたってのか!?」
 何てことを、と激昂しかけた男の声を遮って、投げかけた声は、冷たく。
「そのまま、同じ言葉をお返しします」

 虚を突かれ、刹那出来た思考の空隙に、マスターは言葉を捻じ入れる。
「私を私たらしめるものは、貴方方がかのデータの奥底に幽閉するものと同じ——電子媒体上を飛び交う情報の山積。私は、私と出自を同じくする者の声を聴いたのみです」
 ふざけるな、と、地獄の底から這い出たような声が、それを破った。
「お前は自分が何を言っているのか分かっているのか。仮にあのクソ忌々しい天使どもが“氷地獄(コキュートス)”から這い出てみろ、俺達の世界はどうなる。星間通信サーバーを破壊されて、俺達の住む地球は一体全体全宇宙の損失を何で贖(あがな)えと言うんだ!」
 激しい殴打音。男の激情を込めた拳がテーブルを揺らす。
 それでも、マスターの態度は変わらない。
「此処が『ポストの墓場』と呼ばれる理由はご存知でしょう、カノープスさん」
「知らずに来るほど愚かじゃねぇよ、Nとやら。此処は漂着するもの全てを受け入れるのだと——だがな、あんなもの受け入れられるアテが此処にあるか!? 悪意の塊、マルウェアの集合体みたいなもんなんだぞ!」
「判断するのは私です」
 マスターの冷徹な声が、煮え滾る怒りを覚まして響く。
 思わず声を喉に詰まらせたかの者へ、続く声は厳しい。
「貴方に口を出される謂れは、ありません」

 男と、彼と。睨み合い、緊張の糸が張り詰める。
 その空気を打ち払うは、控えめなノックの音だった。
「あ、あのー……・マスター、今大丈夫ですかー……」
 ドア越しにも険悪な空気を感じ取ったのだろう、開けもせずにおずおずと尋ねてきたのは、他でもないナベシマである。牽制するようにかの者へ視線を送っていたマスターは、声が届いた瞬間、何の感慨もなくレンズの向く先をその方へと向けて膠着を破った。
 どうした、と、ソファに座ったまま声を投げ掛ける。そこで、ようやくドアを開けて彼女は顔を出した。
「えっと、マスター、ちょっとフロアに出てきてもらえません?」
「フロアに? トラブルと言う事でしょうか。ルークさんでも解決出来そうにありませんか?」
 ナベシマは申し訳なさそうに点頭を一つ。
「いきなりフロアの電気が全部止まっちゃって……直前まで何とも無かったんですけど……」
 相当に焦っているらしい、揺れに揺れた声は、後少しで泣きそうなほどだ。
「こんな状態じゃ仕事出来ないですし、真っ暗でフロア大パニックになって……あの、ルークさんと一緒に何とかお客さんだけ帰したんですけど、ええっと」
「状況は分かりました。落ち着いて下さい」
 もごもごと弁解の言葉を並べようとするナベシマを、マスターはきっぱりと声で制した。
 ハッとして彼女が口を噤むと同時、彼は身を沈めていたソファから立ち上がる。
「ありがとうございます、ナベシマさん。残りのシフト分も付けておきますから、今日は上がって構いませんよ」
「えっ? でも、マスターだけじゃ」
 人手が足りないだろう、と続けかけたナベシマの肩を、数度叩き。彼女とすれ違いに部屋を出ながら、マスターは思い出したように二人を振り返った。
「店ごと木っ端微塵にでもされない限りは、大抵私一人で対応できる事案です。人手の心配はならさずとも大丈夫ですよ。……貴方もお帰りください、カノープスさん。私はフロアの状況を確認しに行かなければなりませんから」
「————」
 言葉はない。その代わりに、彼は黙ってソファから立ち上がる。そして、足音荒くナベシマの横を通り抜け、マスターより先にフロアへ出ようとして、その背を重たい声が撃った。
「貴方は私の綽名を御存じのようですが、由来を聞いたことは?」
「ねぇよ、そんなもん。俺はサーバーの使用履歴にNってのが並んでるのを見ただけだ」
 苦いものを吐き捨てるような声。振り向きもせず、そのまま歩み出ようとするその足を、マスターは静かに止める。
「“Neutralize”。それが私の識別名です」
 扉の閉まる音が答えとなった。



〔停電は翌日の午後三時までに問題なく復帰し、午後から営業を再開しました。当事案に関する追加のLive Logは存在しますが、都合により内容は秘匿されています。 :マスター〕
〔停電した後の方が知りたかったです! :ナベシマ〕
〔↑中々スペクタクルな 〔ここから先は人為的に破り取られている〕〕

〔追記: しつこい。怒るぞ。 :マスター〕
〔大変申し訳ございませんでした。 :ナベシマ・ルーク〕



      →Which the log will you choose?

Re: BAR『ポストの墓場』 ( No.14 )
日時: 2016/10/13 12:10
名前: 月白鳥 ◆8LxakMYDtc (ID: wO3JvUoY)

【Log 00002 : 世界線3-3-5内の廃屋から回収したテキストデータ】

〔注意:現在見ているテキストは十進数から変換された未知の言語を翻訳したものです。本来の文意とは異なる可能性があります〕

 Baemootが迫っている
 こんな時にテンキーしか使えないなんて 憎々しい
 数字しか打てないのがもどかしい capteeteaが憎い〔忌まわしい〕

 iso-ha〔10497〕 に残ったのは私だけか 全員無事なのか
 わからない 祈る〔願う/希望を抱く〕ことしかできない

 私は此処で〔編集済〕 じきにそれを出来る奴が来る
 だから
 私は
 私が

 勤め〔義務/責務〕を果たす
 二度とこんなことがあってはならない

 〔専門用語が多く、また機密と思われる情報を含むため割愛〕

 これで全部だ 私の知るこのisoの全てだ

 愚かなのは私だけでいい
 もう誰も死なないでいい

 このisoは この世界は 正常〔正確〕であらねばならない
 いつまでも〔永遠に〕

 幸運を
 死に逝く私から これからも生きてゆく貴方達に 祝福を

 Aimern.

   ——iso-ha総合監督官 Dr.Andersen


 〔テキストデータの回収地点(Dr.Andersenの居室と思われる)は無数の節足類・哺乳類・爬虫類・植物・菌類、及び未知の生物の腐敗した生物組織が散乱しており、鋼鉄製の扉はそれら実体の体構造によって引き裂かれていました。また、部屋の内部と思われる区画の実体は銃弾・熱・薬品、その他様々な要因による損傷を受けたものが多数見受けられました。
 尚、部屋の主のものと考えられる成人男性のスーツ及び白衣と、未知の化学成分によって溶解した成人男性の体組織がPC前の椅子に貼り付いていました。
 PCは物理的・化学的損傷が大きく使用不可能となっていましたが、外付けHDDは無傷で残っており、内部データは現在第二ログ関係データとして全て保管されています。 :マスター〕
〔重要な情報を多数含んでいるようですが、引き渡すのでしょうか? :ロマ〕
〔譲渡を視野に入れて目下調査中です。 :マスター〕



〔ログの譲渡先が存在することを確認しました。 :マスター〕

Re: BAR『ポストの墓場』 ( No.15 )
日時: 2016/10/13 12:14
名前: 月白鳥 ◆8LxakMYDtc (ID: wO3JvUoY)

〔-aから-vfまでの文書は機密性保持のため非公開〕

【Log 00002-vg : Log 00002元データ引き渡し先からの返書】

 匆々、BAR『ポストの墓場』店長殿。
 データの返却、及び翻訳文書の提供に応じて頂き誠に感謝する。我々はこの情報を元により良い方策を練り、我々の世界をより永く健やかに保つよう努力してゆけるだろう。

 話は変わるが、あの文書の全容を知ってしまった貴方には、我々が、彼が、どのような場で何をしてきたか、言わねばならないと思う。本来であればそれは重大な規定違反であるが、これが我々iso監督官の総意なのだ。
 とは言ったものの、正直な所、私は筆まめな性格ではない。冗漫で分かりにくい文かもしれない。それでも良ければ、どうか最後まで読んでほしい。

 データ回収地点の状況を見た貴方なら、恐らく分かったかもしれないが。我々の業務は、とても簡潔に記すならば、バイオハザードの封じ込めだ。
 細菌やアメーバを含め、植物、昆虫、魚類、爬虫類、哺乳類……恐るべき攻撃性や毒性を持ったものを収容する一方で、いつか彼等が多様性の一つとして要求された時のために保護する。それが我々の仕事であり、義務であり、成し遂げることが我々の幸福なのだ。
 それは、かの“メイデイ”を経た今さえも変わらない。

 そうした理念を我々は掲げているわけだが、彼は我々の中でもとりわけ業務に熱心な人だった。責任感があり、賢く、温和で。何より臆病だった。
 その慎重さは、彼が粘菌やカビと言った、小さく執拗な生物の研究者であったからかもしれない。取るに足らぬ事案への判断に時間を掛け(即決即断できるだけの頭脳や判断力は持っていたのに、だ)、自分や研究員に危険のある実験は絶対に避けていた。
 皆彼の事を、正直舐めた目で見ていた。優柔不断で気弱な研究員、命が惜しい半端者だと。私もそうだった。

 忘れもしない。“メイデイ”の始まりは突然だった。
 人で賑わうカフェテリアにけたたましくアラートが響き渡ったとき、私もそこにいた。
 isoの連中は、半分は狼狽えて放送を聞いていたが、半分は……私も含めた、上級研究員は笑っていたよ。あの男はしばしば、一般的な学生がやらかすようなバイオハザードでもアラートを鳴らし、大山を鳴動させるようなことを仕出かしていたから。今回も彼の臆病風が吹いただけだと思っていたのだ。
 だが、その時は本物だった。血を吐くような絶叫がカフェテリア一帯に響いた。

「収容中の全ての生体が隔離区画から漏出し、iso内全域に広がろうとしている」
「区画〔編集済〕の者から順に退避せよ」

 ……今思えば、isoの総合監督官とは本当に凄い能力を持っていなければ務まらないのだと分かるよ。
 博士はたった一人でiso内の漏出状況を全て把握し、非常隔離壁や排気装置を作動させて研究員の退路を確保しながら、我々に誘導指示を出し続けた。どんな判断にもまごまごしていた男とは思えない、恐るべき迅速さと正確さだった。
 狼狽する人いきれに紛れ、私もカフェテリア内から退避した。iso内には多くの安全な退路が用意され、通路内で多くの研究員が押し合いになることもなく、我々はisoの広大な敷地内から外へと出ることが出来た。そして、列の殿を引き受け、最後にisoから飛び出した私は……自分のすぐ背後で、隔離壁が次々に閉まっていく音を聞いた。
 振り返った時、私の目の前で、最後の隔離壁が閉まった。


 中で何があったか、我々は知ることが出来ない。
 ブラックボックスも監視カメラも、完膚なきまでに破壊されてしまっていた。
 ただ、棺はぞっとするほど軽かった。


 我々は最も貴重な人材を永久に喪ってしまった。
 それでも我々は在り続ける。博士が最期まで望んだように。
 博士のような臆病者が、喉の破けたような声で叫ばず済むように。

 何度でも貴方には言いたい。
 博士の遺志を拾い上げてくれて、ありがとう。

 だが願わくば、もう二度と会わずにいたいものだ。



   ——iso-ha総合監督官 Dr.Grim


〔その後、iso-ha及びその類似施設に関するログは追加されていません。 :マスター〕

〔追記:機密情報保護の観点より、-bから-vfまでの複製ログに対するアクセスを完全に制限しました。全文の閲覧は現在許可されません。 :マスター〕
〔博士やその周辺の方々が元気にされているといいのですが。 :ロマ〕
〔Grim博士はこの間お客様として来店されました。打ち上げだったそうです。 :マスター〕


〔追記2:第二ログの複製は世界線保持のための重要な情報を含みうるため、永久に第二ログ保管となります。不用意な持ち出し、複製、及び損壊を厳に禁じ、無断での持ち出しが発覚した場合ペナルティが課されます。 :マスター〕


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※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。