複雑・ファジー小説
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- ぶどうの恋とバラの花
- 日時: 2015/11/28 07:03
- 名前: モンブラン博士 (ID: 6HmQD9.i)
爽やかで甘めだけれど、心に残るような作品を書けるようにしたいです。
タイトルは夕凪泥雲さんに提案していただきました!
- Re: ぶどうの恋とバラの花 ( No.5 )
- 日時: 2015/12/01 17:56
- 名前: モンブラン博士 (ID: 6HmQD9.i)
MTさんへ
ありがとうございます。読者が入りやすいと言ってくださり大変嬉しいです! 指摘してくださった箇所にも訂正を加えました。
「先が気になって仕方がない」展開にできるようにがんばります!
- Re: ぶどうの恋とバラの花 ( No.6 )
- 日時: 2015/12/07 11:07
- 名前: モンブラン博士 (ID: CMSJHimU)
大原は体育館に向かう通路を半分ほど歩いたところで、ピタリと足を止めた。
ひとりで行くのはなんとなくつまらなく感じたからだ。
どうせいったところで準備係以外は誰も来ていないだろう。
さりとて教室に戻って誰かを誘おうとしても、自分を敬遠するに違いない。
ここで再びやよいの顔が浮かんできた。
あいつは俺を怖がってはいたが、嫌っている様子はなかった。
うまく警戒心を和らげられさえすれば、自分と距離を縮めてくれるかもしれない。
だが、肝心の彼女がどこにいるのかわからない。
先ほどの僅かなやりとりから、やよいの性格上行きそうな場所を推測してみることにした。
まず真っ先に考えられるのは図書室だが、今の時間帯は開いていない。
トイレにしては遅すぎる。
彼女は教室を出る際にスケッチブックを持っていた。
とすると、そこから離れて別の場所で絵を描きたかったのだろう。
人気のない場所となると、中庭か屋上しかない。
両方のうち、より人が来ない所はどこなのか。
答えは屋上しかない。
巨体とは裏腹に明晰な頭脳をもっていた彼は素早くそこまで推理し、屋上に繋がる階段を早歩きで登っていた。
早くしなければやよいが絵を描き終えて、どこか別の場所に行くとも限らないからだ。
☆
「はあ、怖かった」
やよいは屋上に設置されてあるベンチに腰を下ろし、胸を撫で下ろす。
引っ込み思案な彼女にとって、初対面の相手に絵を見せるなど恐怖以外の何者でもない。
それに子どもっぽいイラストを描くのが好きなことに引け目を感じていたため、他人に見せて笑われたら、自分は不登校になってしまうだろうとも思っていた。
それほどまでにやよいは臆病だったのである。
しかも頼みに来たのは190㎝をゆうに超える大原だ。
小柄な彼女にとって、その長身がどれほどの迫力を与えたかは想像にかたくない。
天気は雲一つない快晴で青々とした広い空があり、フェンス越しからは見慣れた街の光景、通学路では歩いている生徒達や、行きかう車の姿が見える。
のどかな風景に、彼女は心を和ませることができた。
大きく息を吸い込み、吐き出す。
高所にいるため、地上の空気よりも美味しく感じられる。
「そうだ、ここの風景を描いてみようかな」
思い立ったが吉日。
やよいは早速持ってきたペンを取り出し、サラサラと風景をデッサンする。僅か5分で完成したのは、彼女が3歳から膨大な量のイラストを描いていたからに他ならない。
風景を描き終えたやよいは頃合いとみて、体育館へ行くことにした。
- Re: ぶどうの恋とバラの花 ( No.7 )
- 日時: 2015/12/12 14:31
- 名前: モンブラン博士 (ID: 6HmQD9.i)
「早乙女か」
「正平くん」
階段を降りたところで、やよいは大原にばったりと出くわした。
「どこへ行くんだ」
「体育館だよ。ホラ、そろそろ始業式始まっちゃうから」
「俺もそこへ向かおうとしていたんだが、どうだ、ついでだから一緒に行かねぇか」
やよいはちょっとの間考えたものの、にこっと微笑み、
「うん、いいよ」
「ありがとな」
彼女は知らない。
最初から大原が自分を誘う気であったことを。
歩きながらやよいが訊いた。
「正平くんって大きいよね。身長、何㎝ぐらいなの?」
「194」
「凄いね! 私は152㎝しかないから羨ましいなぁ」
羨望の眼差しを向けるやよいに、ほんの僅かだけ頬を赤らめる大原。
これまでそんなセリフを言われたことがなかったため、照れくさくなったのだ。
中学時代化け物呼ばわりされたり、教師に高い場所にある荷物を取ってもらうように頼まれたことはあったが、憧れの言葉などかけられたことは一度もない。
それだけに純真な瞳で羨ましそうにする彼女が新鮮に映った。
「女子はそれぐらいが一番可愛いと思うがな」
「ほんと!?」
「そうだ」
「ありがとうっ」
「なんで礼なんか言うんだ」
「だって、嬉しかったんだもん! 私、ずっとチビチビって言われて悲しかったから……
そんな風に褒められたの初めてで、嬉しい」
やよいは嬉しさのあまり泣き出す。
大原はポケットからハンカチを出し、彼女に手渡した。
「これで拭け」
「ありがとう。正平くんって大きくて怖いイメージあるけど、優しいんだね」
「涙と鼻水が付いた奴は受け取りたくねぇから、明日洗って返してくれ」
「酷いっ!」
- Re: ぶどうの恋とバラの花 ( No.8 )
- 日時: 2015/12/12 18:28
- 名前: モンブラン博士 (ID: 6HmQD9.i)
この日は始業式とHRだけで授業は終わった。
やよいの所属している2年2組のクラスメート達も我先にと帰り支度をし教室から出て行く。
「正平くん、一緒に帰ろっ」
「馴れ馴れしい奴だ」
「えーっ、そうかなぁ?」
「無自覚な分たちが悪い」
「もしかして私と話すの嫌いなの?」
瞳に涙をためて潤ませるやよいに、大原は言葉を詰まらせる。
こういう状況ではどんな言葉を言ったらいいだろうか。
体育館に行く際の会話で彼女が泣き虫だと悟った彼は、どうすれば彼女が泣き出さないかを頭を振り絞って考える。
ここでやよいを泣かせてしまえば、今以上に自分を避ける人が増えるに違いない。
自己保身と言えば悪い表現になるだろうが、ともかく大原は彼女の機嫌を取ろうとする。
「嫌いじゃねぇ。だから泣くな」
「……うん」
頷き彼から貸して貰ったハンカチで涙を拭き、鼻をかむ。
コイツはポケットティッシュを持っていないのか。
外見に反してそんなところは無頓着らしい。
女子力が低いのか?
彼の疑問は増すばかりだ。
☆
やよいと大原はふたり並んで道路を歩く。
「なあ、早乙女」
「やよいでいいよ」
「俺は苗字で呼ぶのが好きなんだ」
「そうなんだ。でも苗字読みだったら、同じ苗字の人がいたら困るんじゃないかな?」
「まぁな」
「私は苗字よりも、名前で呼んでもらった方が嬉しいな」
「俺に名前で呼べと強要しているのか」
「そうじゃないけど……」
「ま、お前がそれがいいならそうするか」
「これからやよいって呼んでくれるの?」
「そうだ。ただし、今じゃない。お前と信頼関係を築けるようになってからだ」
「そっか。そうだよね。いきなりはやっぱり無理だよね」
「当たり前だ」
「そうだ! 携帯電話とメールのアドレス交代しようよ」
「なんでそうなる」
- Re: ぶどうの恋とバラの花 ( No.9 )
- 日時: 2015/12/31 14:37
- 名前: モンブラン博士 (ID: akJ4B8EN)
「正平くん、また明日ね!」
「そうだな」
ふたりはメールアドレスと電話番号を交換して、横断歩道前で分かれた。
大原にとっては電話番号を交代する相手などいなかったので、妙な嬉しさを感じた。遠ざかっていくやよいの後ろ姿を遠い目で眺めながら、ポツリと呟く。
「俺に対して恐怖心を抱かないとは、人は見た目によらねぇな」
幼さの残る姿に反して仲良くしようと歩み寄る姿勢に、大原は少しながら彼女という存在を認めることにした。
「本屋にでも寄って帰るか」
いつもとは違い下校時間が早いため、帰宅しても誰もいない。
さりとてひとりで食事を作るのも面倒であり、ママ友とレストランに行っている母親が帰ってくる2時になるまでの間、彼は行きつけの本屋で時間を潰そうと考えた。
店は平日なこともあってか、入店客は少ない。
それが逆に大原の身長が目立つ結果となってしまった。
自分と目を合わせた客達は声には出さないものの、皆同様に好奇な目を向けている。
これまで大原が体格で得をしたことなどほとんどなかった。
ドッジボールでは大きさ故に恰好の的にされ、バスケットボールではダンクシュートの役回りを演じさせられる。
腕っぷしには自信があったが、下手をすると相手が重傷を負ってしまう危険性があったので、彼は苛めの標的にされて暴力を受けても反撃した経験はない。
大原は自分の持つ力の強大さをよく理解していた。
この並外れた高身長が生かせる職業があるとすれば、プロレスラーやボクサーだろう。
だが、どちらを選んでも見世物となることは避けられない。
現にその恵まれた素質に惚れこんだプロレス興行師が勧誘してきたが、やんわりと辞退した経験がある。
それだけに、立場は違えど身長で苛められた過去を持つやよいに親たしみを感じたのだ。
しかしながら、彼は彼女と仲良くしすぎるのはどうかと考えていた。
親しくなればなるほど「凸凹コンビ」だの「ピクシーと怪物」などと言われからかいの対象にされるのは明らかだった。
自分のせいで仲良くなった友人に被害が及ぶのであれが、非情になって縁を切る。
それが大原の処世術なのだ。
☆
小一時間ほど本屋で過ごし外に出た彼は思わぬ光景に出くわした。
「俺と遊ぼうぜ?」
「嫌です! 離してくださいっ」
「そんなこと言わずに、ちょっとだけならいいだろ」
腰まで届くツインテールが特徴のおとなしそうな美少女が、金髪にピアス、サングラスをかけた男に手を引っ張られ軟派されていた。
少女は必死に抵抗するが、力の差があるため、男の手を振りほどけない。道行く人間はその様子を見て見ぬふりをしている。
このままでは少女は男に連れ去られ、心に大きな傷を負うだろう。
自分なら助けられる。
だが、それは目立つことを意味する。
彼は面倒事には首を突っ込みたくない性質だった。
俺は日陰に生きたいんだ。
ただでさえ目立っているのにここでヒーロー気取りで飛び出したら、余計に目立つ。
これが少女漫画なら爽やかなイケメンが現れて彼女を救う。
現実でも同じならば嬉しいのだが。
淡い期待を抱いた彼だったが、正義の味方が現れる気配は一向にない。
しかし彼は自分は関係ないとでも言いたげに、その場から離れようとした。後ろめたさはあったが、それ以上に自身のコンプレックスを大きく感じた。
「すまねぇな。俺はあんたのヒーローになれねぇ男さ」
独り言をぼやいたそのとき、少女と彼の目が、一瞬合わさった。
『助けてください』
相手の腕を振りほどこうともがくのに力を費やし、助けを求める言葉も発せない彼女。
しかしながらその刹那に放たれたアイコンタクトは、確かに彼に通じた。
大原は覚悟を決めると音もなく男に近づき、サッと首をホールドするなり口を開いた。
「絞め落とされたくなかったら、その女の子に手を出すな」