複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- ぶどうの恋とバラの花
- 日時: 2015/11/28 07:03
- 名前: モンブラン博士 (ID: 6HmQD9.i)
爽やかで甘めだけれど、心に残るような作品を書けるようにしたいです。
タイトルは夕凪泥雲さんに提案していただきました!
- Re: ぶどうの恋とバラの花 ( No.1 )
- 日時: 2015/12/13 11:28
- 名前: モンブラン博士 (ID: 6HmQD9.i)
もしかすると三人の出会いは運命だったのかもしれない——
どこの学校にもあるクラス分け。
第一高校2年生になった早乙女やよいは、自分がどこのクラスになったかを確認すべく、早朝から2年の教室に現れて、ドアに貼られている紙をしげしげと眺めていた。
探した結果、彼女は2組なことがわかった。
だが悲しいことにこのクラスで仲の良い人はいない。
知らない人ばかりであるため、内気な彼女は新学年早々不安にかられる。
「いじめられたらどうしよう……」
未知の恐怖におびえるあまり内股になって、鞄をぎゅっと胸で抱きしめる彼女。
その姿はまるで、チワワのように愛くるしい。
もしもこの場に男子がいるのだとするならば、その可愛さにいじめたくなるだろう。
「お前、教室に入んないのか」
「ふえっ!?」
背後から聞こえた男子の声にやよいは驚き両肩をびくつかせる。
声の主が誰なのか気になったものの、引っ込み思案である彼女にはそんな勇気を出せるはずなどない。
どうしようかと躊躇っていると、不意に辺りが暗くなる。
停電でもしたのだのだろうか。
ふと頭上を見上げたやよいは、
「きゃああああああああああぁっ」
「人を見て叫び声をあげるなんて、失礼な奴だな」
そこにはなんと、190センチはあると思しき高身長の男子生徒が立っていた。
三白眼の瞳と逆立った髪が印象的なワイルドな外見をしている。
「邪魔だから、どいてくんねぇか?」
「はいぃ、ご、ごめんなさいっ」
少年から放たれる無言の威圧感と野太い声に気押され、やよいはおずおずと道を開けた。
そのままでは枠にぶつかるのであろうか、男子は少し屈んで教室に入る。
そして教卓まで足を進め、自らの座席を確認すると、教室の窓側に位置する列の後ろから二番目の席にドカッと腰を下ろした。
椅子が重みに耐えかねきぃきぃと悲鳴をあげているが当の本人は気にする素振りも見せずに鞄から小説を取りだし、黙々と読書する。
彼の見た目に似合わない穏やかな雰囲気にやよいはいくらか安心したのか、少し呼吸を整えた後、ようやく教室へと足を踏み入れた。
新学期の説明会が始まるまで、残り50分。
まだまだ十分な時間があったので、やよいは教卓の真ん前という授業中居眠りをしたい生徒にとっては最悪の席に腰かけ、趣味である描きかけのキャラクターイラストの続きをすることにした。
- Re: ぶどうの恋とバラの花 ( No.2 )
- 日時: 2015/12/10 09:15
- 名前: モンブラン博士 (ID: CMSJHimU)
暫くは物静かな時間が流れた。
聞こえてくるのは大柄な男子が本のページを捲る音とやよいがペンを走らせる音だけだ。
騒がしいのがあまり好きではないやよいは、できることならこのままの時間がずっと続いてほしいと思っていた。
「おい」
再び発せられた野太い声に、やよいはびくつく。
「どどど、どういたしましたでしょうか……っ」
同級生なのだが、あまりの貫禄に圧倒され、やよいはつい敬語で訊ねていた。
そんな彼女を無表情な顔で一瞥し、少年は本に視線を戻して言う。
「俺は大原正平(おおはらしょうへい)だ。お前の名前はなんて言うんだ」
「は、はいっ! わ、私はさささ、早乙女やよいですっ」
「そうか。いい名前だな」
「えっ——」
「弥生……まァ——その、なんだ……一年間、よろしくな」
名前を褒められて嬉しかったのと恥ずかしさのあまり、彼女は耳まで真っ赤にしてこくりと頷く。
大原に対し怖いとしか感じていなかった彼女であるが、本を静かに読む姿と名前を褒めてくれたことで、心優しい人なのではないかという疑問が目覚めたが、何しろまだ会ってそれほど時間が経っていない。よく知らない人間と話し過ぎるのは、相手にとっても迷惑だろうと思案して、ここはイラストに集中して気を紛らわそうとした。
そして再度、ペンを持ち、まだ塗り終えていないキャラの頭部に取り掛かる。
彼女は小さい頃から絵を描くのが好きだった。
保育園でも、他の子が玩具で遊ぶ中、ひとりだけクレヨンで白い紙に絵を描いていた。
運動は苦手で自転車にも乗れず、サッカーもドッヂボールも水泳もいつもビリだったが、美術だけは大得意で成績はいつも5だった。
好きが高じてイラストレーターになる夢を持つようになった。
高校卒業後は、家の近くにあるイラストレーターの専門校に通って腕を磨くつもりだ。
もっとも彼女の場合は、その成績の悪さ故に卒業できるかどうかも怪しいのではあるが。
「できた!」
色塗りが終わり、昨日から取り組んでいた作品がついに完成した。
長い時間かけたこともあってか、出来上がったときの喜びは大きいものがある。
余韻に浸っていると、彼女の目の前に正平がぬっと現れた。
「えっと、正平くん? 私に何か言いたいことでも——あるのかな?」
段々と声が尻すぼみになっていったのは、彼の顔があまりに怖かったからに他ならない。
何か悪口でも言われるのではないか。
やよいは自らの心臓がバクバクするのを感じつつ、相手の返事を待った。
「お前の絵、もしよかったら、俺に見せてくれねぇか」
- Re: ぶどうの恋とバラの花 ( No.3 )
- 日時: 2015/11/29 05:24
- 名前: モンブラン博士 (ID: 6HmQD9.i)
突然の言葉に、やよいは瞬きをして相手を見る。
絵を描くのは好きであったが、これまでクラスメートに見せた経験はなかった。
なぜならば、彼女がよく描くイラストは少女漫画のイラストだからだ。
彼女が抱きしめている紙には、瞳が大きく可愛らしい女の子のキャラクターが描かれている。
見られたら笑われるかもしれない。
あまり男子と話さないため面食らったのもあり、
「ごめんなさいっ」
短く謝り、脱兎の如くその場から去る。
大原はそれを追いかけるような真似をせず、彼女の姿が遠く見えなくなるまで、無言で目で追いかけていた。
「臆病な奴だな」
バカにしたわけでもなく、同情した風でもない。
彼は自分が感じた印象をポツリと口にし、先ほどと同様に席に付くと読書に戻る。
ある程度クラスメートも集まってき始め、仲の良い生徒達は固まって雑談に花を咲かせる。
強面で巨漢の正平は他者を寄せ付けない雰囲気があるのか、誰も近寄ろうとはしない。
本を閉じ、ふっと顔を上げる。
小学生のときから頭一つ分大きかった彼は、クラスの大将的存在だった。
本人は自分から進んでそうなったのではない、ただ、他人がそのように接するのでそれらしく演じていただけであった。
中学になると、その恵まれた体格故に数々の運動系の部活動から勧誘がかかった。
けれど結局、彼は帰宅部という選択をした。
運動部に入れば嫌でも目立つことになる。それだけは御免だ。
目立つ事が大嫌いであったのと、部活の見世物となるのは我慢できないだろうと考えた末に出した結論だった。
後悔してはいない。
おかげで誰にも縛られることがない、自由な放課後を過ごせたのだから。
当然、嫌な経験もした。
校内の不良グループに絡まれ、少し相手をしたら担任に怒られたこと。
長身のために高い所に置かれたものを取るために雑用係りにされたこと。
それらの記憶が鮮明に蘇ってくる。
外見のせいで怯えられ、友達が全くできなかった中学時代。
苦い思い出を良いものにしようと入った高校。
だが、青春を謳歌できるはずの高校生活は、中学生活とさほど変わりないものだった。
唯一変化があったことは、給食ではなく弁当になったぐらいだろうか。
「つまんねぇな」
口から漏れた呟きを聞いたものはいない。
皆、友人達との会話で夢中だからだ。
どうやらこのクラスも一年次と同じらしい。
彼らを見渡すと席を立って教室を出る。
少し早いが、始業式の会場である体育館に行くつもりなのだ。
歩きながら、ふとひとりの人物の姿が脳裏に浮かんだ。
ふんわりとした柔らかそうな髪と童顔が特徴な可愛らしい少女。
「確か、やよいと言ったか。あいつは、面白い奴かもしれねぇな」
口角を上げて笑みを浮かべた彼は、先ほどまでの考えを訂正する。
「あいつのおかげで、少しは楽しい学校生活になるかもな……」
- Re: ぶどうの恋とバラの花 ( No.4 )
- 日時: 2015/12/01 13:33
- 名前: MT (ID: CMSJHimU)
かなり読者が入り込みやすい雰囲気になったと思う。
無理に一人称にする必要はないから、こういう風に、ていねいにそれぞれにスポットを当てる三人称でも十分かと。
あと、ちょっと細かいけど
『知らない人ばかりなため、内気な彼女は新学年早々不安にかられる。』
っていう一文があったけど、『ばかりなため』ではなく『ばかりであるため』が文章としては正しい。細かいけど、多少気にした方が読者は違和感を覚えないよ。
でも、そこんところは大して気にするほどのものでもないので、すべり出しは上々かと。これから大切なのは、いかに読者を引き付ける展開にしていけるか、だから。まずは、読者に、「先が気になってしようがない」みたいに思わせることができるような工夫をしよう。
まあ、未完にならないようがんばれ!