複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- Solve&Tea party
- 日時: 2016/05/03 21:38
- 名前: かたるしす (ID: f/YDIc1r)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=520
複雑・ファジーに投稿するのは初めての、かたるしすと申します。
まったり系の話ですが、時たまシリアスなので注意です。暴力表現は、流血は無いですがあります。性的表現はない、と思われます。
つまりは基本ほのぼのってことです((
いい小説が書けるように、頑張っていきたいと思います!
◇目次◇
第一話 〜噂はきっと正しい〜 >>1-4
第二話 〜小さくて大切なモノ〜 >>5-11
参照300御礼&記念イラスト >>10
◆プロローグ◆
古びた横引きの扉を開ける。
柔らかい光が差す、午後の教室。
「いらっしゃいませ」
教室の真ん中に、ぽつんと置かれた、白いテーブルと椅子2脚。
片方の椅子に、華奢な少女が座っている。
淡いブロンドの髪をかき上げ、空のように青い目を細めた。
「お待ちしてましたわ。橋村様……で間違いありませんこと?」
俺は軽くうなずくと、もう片方の椅子に座る。案外座り心地が良かった。
向かい合わせの彼女は、優雅に笑い言った。
「本当に災難でしたわね。今や学園一の噂話ですわよ? 橋村様の起こした一連の事件は」
……違う。
そう返したかった。学園一の噂の的は俺ではない。
本当の、学園一の標的は……
「まぁ、その問題を解決するのが、私達……『茶会部』の務め。話を聞きますわ」
てぃーぱーてぃ部、と完璧に発音する。流石、純ヨーロッパ人。
感心していると、ふいに彼女は不敵に微笑み、白く細い指をすっ、と持ち上げた。
「Let's tea party……ですわ」
指が鳴る音。
突如、視界が真っ白に染まる。
……そう。
学園一の噂話の種……
それは、この『茶会部』だ。
◇登場人物◇(随時更新)
瀬名 つばめ (せな つばめ)……主人公。1年C組。5月9日生まれ。少し面倒臭がりで、少しのんびり屋で、猫っぽい。なのに若干忠犬属性。足が遅い。茶会部でのポジションはメイド。
相原 昴 (あいはら すばる)……茶会部部長。2年B組。8月12日生まれ。明るく爽やかだが、人をからかうのが大好き。器が大きい。喧嘩がとてつもなく強い。茶会部でのポジションはギャルソン。
水城 慶 (みずしろ けい)……茶会部副部長。2年A組。9月1日生まれ。無表情、無口が基本。内面は穏やかで、天然。運がとても良く、「福部長」と呼ばれる。茶会部でのポジションは和風担当。
カトレア・アントワーヌ……茶会部会計係。2年A組。12月25日生まれ。純ヨーロッパ人。嬢様言葉で話す。一見高飛車だが、アクティブで優しい。運動神経が良い。茶会部でのポジションは洋風担当。
三枝 樹希 (さえぐさ いつき)……茶会部1年。1年B組。2月27日生まれ。イケメンなのだが、常にキレているような雰囲気をまとっている。ドSで腹黒い。でも先輩には勝てない。茶会部でのポジションは製菓担当。
◆Special Thanks◆ [ ]内いただいたキャラ
小太郎様 [暁月 司]
ヒュー様 [徳重 真鈴&花鈴]
囚人D様 [仲篠 一穂]
大関様 [郷 猛]
モリヤステップ様 [本多 光希 藤堂 玲二]
◇お知らせ&呟き◇
更新めちゃくちゃ遅れましたああああ!
最近、「かたるしすって物を美味しそうに食べるよね!」と言われました。
複雑です。
- Re:第二話 〜小さくて大切なモノ〜 ( No.8 )
- 日時: 2016/03/31 08:14
- 名前: かたるしす (ID: f/YDIc1r)
※若干のパロディ注意です!
ギィィ、と重たい音がし、扉が開く。その向こうには、灰色の壁をした空間。そして、奥に、いかにもガラの悪そうな男たちが5、6人いる。全員、どぎつい色に髪を染め、下げパンにピアスはみな一様、モヒカン、タバコ、フーセンガム……と、典型的なただの不良だ。私が言うのも何だが、素人目にも分かるほど子どもっぽい。必死になってやりすぎた、そんな感じだ。
「……!」
そいつらの、さらに奥。くもり窓ガラスの真下に、縄で縛られた少年がうずくまっている。カトレア先輩のよりも、濃い色の金髪。蜂蜜色のこちらを見る大きな目は、涙で潤んでいた。私の横にいる樹希も気付いたようで、物凄く険しい目をチンピラどもに向けている。私も、胸のあたりがかあっと熱くなり、自然とそいつらを睨んでいた。
そんな私たちの前に立つ、カトレア先輩と慶先輩。さっき、注目を集めると言っていたが何をするのか。カトレア先輩は腕を組み、慶先輩は無表情のまま、それぞれ無言で立っている。
チンピラどもは、しばらく私たちと睨み合いを続けたが、少しして、沈黙を破り、野郎どもの中で一番体格の良い男が話しかけてきた。リーダー格らしい、ドスのきいた声だ。
「……お前らの中に、暁月はいねぇなあ。ビビって代役をよこしたか? まあ所詮、ただの『おぼっちゃん』だからな。しかも女が2人って……ナメてんだろ? アぁ?」
……恐い。チンピラでも恐いもんは恐い。
私たちが口を閉ざしていると、相手の男は眉を上げて、何かを言おうとした。
その時だ。
慶先輩が、いきなりリュックをドスッと下ろし、その中に手を突っ込んだ。何かをまさぐっている。
「!?」
チンピラどもが、動きに反射し見構える。目のギラギラ感がより一層増していた。視線は、リュックと、慶先輩の手元に注がれていた。私たちも、思わず凝視してしまう。唯一表情が無いのは、腕を組んだカトレア先輩だけだ。
慶先輩が取り出したもの……それに、カトレア先輩を除く全員があっけにとられた。
「CDプレイヤー……だと?」
モブキャラのお手本のようなチンピラの台詞。確かにそれは、白い、小さめのCDプレイヤーだ。コードがないため、充電式らしい。慶先輩は、電源を入れ、ボタンを数回押して準備を整えた。
何をしようとしているのか、誰も予想がつかない。沈黙の中、カトレア先輩が突如下を向いた。その動きにも過剰に反対するチンピラ。こいつら、案外ビビリなのか。
全員が、2人の様子に注目している。凍りついた空気。
慶先輩が、プレイヤーのボタンを押した。カトレア先輩が、片手をななめ上に挙げる。
流れだす音楽———
『本能寺の変♪ 本能寺の変♪』
「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」
『本能寺の変♪ 本・能 ・寺の変ッ♪』
さっきとはまた違う沈黙が、倉庫の中を支配する。
……凄い。
まさに完コピだ。「真似できてるねー」なんて、生易しいものではない。腕の角度、足の振り上げ、顔の位置、目線……全てにおいて完璧に、2人は踊っている。テレビで何度も何度も見た「エ●スプロージョン」そのままのキレで。しかも、ものすごい真顔で。それが、言葉にならないシュールさを醸し出している。
『どうして〜♪ どうして〜♪』
「……どうしてなんだろうな」
「……うん」
チンピラどもの中には吹き出すやつもいて、そのたびリーダーの男に睨まれていた。縛られている……なんだっけ。そう、セスも、ポカンとした顔をしていた。涙も引っこんでいる。
『付いたあだ名は…………ハゲ♪』
あ、また1人笑った。リーダーが、赤くなった鬼のような形相でそっちを睨みつける。だが、2人のダンスを止めることはできない。セスも、笑いを必死に堪えていた。
『そ・れ・が・本能寺の変♪ 本能寺の変♪』
リーダーの握り拳がブルブル震えていた。チンピラたちは、リーダーの顔色をうかがいながらも、ダンスから目を逸らせないでいる。私と樹希は、2人の完コピダンスを、凄いと思いながら、どこか呆れて見ていた。
『本・能・寺の変♪ 諸説あり』
最後のポーズまで、全て完璧。素晴らしいとしか言えなかった。無意識に、手を叩いてしまう。樹希も加わり、2人分の拍手がコンクリートの部屋に響きわたる。カトレア先輩が、ポーズを解き、こちらに向けて微笑んだ。
「ふっ……ざけんなよお前ら。バカにしやがって……!」
チンピラのリーダーが、タコのように真っ赤になった顔で叫んだ。その声に、他のチンピラどももハッとし、こちらを睨む。もう遅いような気もするが。カトレア先輩が不敵な表情になり、リーダーと向き直る。慶先輩も、薄く笑っていた。先輩は鼻を鳴らし、余裕たっぷりの、優雅な声音で朗々と話す。
「私たちの『本能寺の変』、いかがでした? それにしても、貴方たち……見事なアホ面でしたわね。舞ったこちらが、笑いそうになってしまうかと思いましたわ。あ、その称賛すべきマヌケ顔を記念して、このコがきちんと動画を録っていてくれていますわ。もちろん、貴方たちの顔を……ですわよ」
樹希が、物凄いゲス顔で手に持ったスマホを振った。楽しくてたまらない、といった表情だ。こいつ、いつの間に……
「てめえら……ブッ殺す!」
分かりやすい挑発に乗っかったチンピラどもが、少しずつ距離を縮めてくる。カトレア先輩と慶先輩は、突っ立ったまま動かない。さらに、じりじり距離を詰めてきた。全員、チェーンやらバットやらを持っているため、射程の問題もある。でも、へえ。バット投げないんだ。また、少しずつ、少しずつ迫ってきた。そろそろ危ない。そんな時。
———後ろの、窓ガラスが開いた。
ガラガラガラッと、大きな音に気づき、チンピラどもは歩みを止め、咄嗟に後ろを振り返った。そして、目を見開く。窓から乗り込んできた2つの影は、すたっと着地した。
「おっす! ありがとなお前ら。こっからは俺らのターンだぜ!」
「……お疲れ」
2つの影……もとい、昂先輩と司さんは、大きい目をさらに大きく開いたセスの頭を撫で回した。それと共に、セスの目に涙が溢れる。司さんが、小さなハサミで縄を切ると、セスは迷わずに司さんに抱きついた。チンピラどもをこっちに引きつけることで、後ろにセスを助け出せるスペースを作ったのだ。どうして今にも襲いかからないんだろう、チンピラどもは。
「暁月とあれ……相原じゃねーか……黛学園の不良ども10人と喧嘩して、全員ボコったって言う……」
なんだ、ただ単にビビってたのか。
まゆずみがくえん、とは私たちの通っている学園だ。まさか、学園内にも不良がいたとは。その不良を相手に……ああ、昂先輩ならやりそうなイメージは十分ある。
「俺らの学園は、知らないとこで腐ってるからなー。っていうか、その噂話間違ってんぞ。12人、な」
昂先輩が、唇の端をつり上げる。司さんも立ち上がり、チンピラを睨んだ。
「……許さねえから」
「だってさ。親友が言ってるんだから、協力するだろ、普通。ま、そういう訳で……」
「噂話通りになってもらうぜ、お前ら」
- Re:第二話 〜小さくて大切なモノ〜 ( No.9 )
- 日時: 2016/04/03 22:06
- 名前: かたるしす (ID: f/YDIc1r)
いきなり、司さんが動いた。
セスを抱きかかえ、「動くなよ」と念を押す。動揺しているセスを、昴先輩と司さんは、セスの背中をこっち側に向けて持ち上げた。
「樹希! いくぞー!」
「えぇ……俺すか」
「いいからー!」
樹希が舌打ちをし、両手を広げて腰を低くする。あ、読めた。これから何が起こるか分からない、おろおろしている頭の悪いチンピラをよそに、司さんと昴先輩は叫んだ。
「「せぇー……の!」」
セスが勢いよく倉庫の中を飛ぶ。呆気にとられるチンピラたちの間をすり抜け、こっちに向かって、一直線に。じたばたせず、じっとしていたため、大して軌道も変わらなかったのだろうか。危なげなく、樹希の腕に吸い込まれるようにして、セスは受け止められた。その顔を覗き込むと、涙目で口を引き結んでいた。カトレア先輩が、セスの頭を撫でる。同じ純日本人ではないところに安心感を感じたのか、セスはカトレア先輩に抵抗せず抱擁されていた。
「乱暴ですわね、あの2人は。もう大丈夫ですわよ……」
涙で制服が濡れるのを気にせず、カトレア先輩はセスを抱きしめ続けた。チンピラどもの視線を感じ、私はすぐに、銀の盆を盾のようにセスの前に掲げる。そして、一番近くでこっちをガン見していたチンピラを睨みつけた。
「ち……調子に乗りやがって!」
そいつが叫び、私に襲いかかってくる。睨むんじゃなかったと後悔しつつも、セスの前に盾にした盆はそのまま、放さなかった。
拳が振り上げられる。その瞬間、私とそいつの間に、慶先輩が割り込んできた。
「!? 危ないですよ……」
私が叫び終わる前に、慶先輩は、無表情で相手の顔面に緑色の物体をぶちまけた。相手が言葉にならない悲鳴をあげる。あぁ、リュックに詰め込んでたアイテムその2、わさびか……
目を押さえたそいつに、今度は樹希が立ちはだかった。すりこぎ棒でみぞおちに、強打をかます。うわ、痛そう。会心の一撃を食らった相手は、うめき声をあげ、2つに折れ曲がり床に伏した。樹希が、満面の笑みを浮かべて振り返る。
「1名撃破」
このシチュエーションとあの性格さえなければ、充分にイケメンだとすら思ってしまう笑顔。もったいない。
さらに、慶先輩がリュックからポットを取り出し、わざとらしく床に少しだけ熱湯を注いだりもした。樹希も、すりこぎ棒の先にからしを塗ったりしている。それだけで、次々に襲いかかろうとしていたやつらの足が止まる。火傷をしたり、目が開けられなくなる未来が見えたのだろう。賢明な判断だ。
セスの方を見ると、ようやく泣き止んだようで、目をしきりに擦っている。抱き締められて恥ずかしい、という思いもあるのだろうか。私は、盆を掲げる手に力を込めた。
向こうでは、司さんと、昴先輩がゆっくり歩き出した。それはもう、小腹空いたしコンビニ行くかーみたいな感じで。隙だらけだが、襲いかかるやつは誰もいない。チンピラどもは、2人をじっと見て、出方をうかがっている。昴先輩の冷たいニコニコ顔も、司さんの鬼のような形相も、どちらも恐い。
「うらぁぁぁぁっ!」
このまま怯んでいても仕方ないと思ったのか、1人のチンピラがバットを振り上げ、襲いかかった。一気に間合いを詰め、勢いをつけて昴先輩に降り下ろす。昴先輩は、ひょいっと後ろに跳んで避けた。そのままよろめいて前屈みになった相手の頭に、鋭いかかと落としを食らわす。ゴツっ、と派手な音がした。チンピラが床に額をぶつけ、2度目の大きな音を出す。そのままそいつはのびてしまった。
「うわぁ……弱いねぇ、動物園のおサルさんより弱いわ」
ははっ、と乾いた笑いを見せる先輩。目が笑っていないのも恐い。司さんも、ぎらぎら光る目で周囲を見渡す。やがて、誰かを見つけたのか、ゆっくりそいつに近づいていった。その視線をたどると、オレンジ色の長い髪をしたやつに行き着いた。カトレア先輩は、嫌な予感がしたのか、セスの目を手で隠す。司さんは立ち止まると、口を開いた。
「お前さ……セスをさらったやつだろ? 今日の朝」
「ああ……だ、だけど、オレは頼まれただけで、悪く」
言葉が途切れる。司さんが思いっきり、金属バットを横にフルスイングしたからだ。そいつは、かろうじて自分のバットで攻撃を受け止めた。高い、耳障りな音がする。司さんが、物凄い速さで追撃をする。それに応じ、チンピラもバットを振る。激しい打ち合いになった。チンピラの意識が、上半身に向く。
次の瞬間、司さんの足は、チンピラの股間を蹴り上げていた。そいつが、股間を押さえてうずくまる。完全に戦意を喪失した様子のそいつに、司さんは背を向けた。
「……あと3人か」
低く、ざらついた声に、チンピラどもは後ずさった。
- Re:第二話 〜小さくて大切なモノ〜 ( No.10 )
- 日時: 2016/04/16 14:13
- 名前: かたるしす (ID: f/YDIc1r)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=171.jpg
「ねえねえ、散々ナメてた俺たちにやられて、どんな気分〜?」
「す……すみませんでした……っ」
「感想になってねえよ。はいやり直し」
倉庫に響く、ねっとりした声。そして、悔しさがありありとにじんでいる声。私の目の前では、ロープでぐるぐる巻きにされたリーダーを、昂先輩と樹希が責め立てている。もちろん、意味ありげにスマホを掲げながら。2人のゲスい顔に、私はいささかげんなりしていた。動画なんか録って、何に使うの、脅し?
「それもある。あと、家でじっくり楽しむ用」
「あ、俺も俺もー!」
「……どん引き」
ため息が自然とこぼれる。今の会話をセスに聞かれなくて良かった。ちなみにセスは、カトレア先輩、慶先輩、司さんに倉庫の外でなだめられている。どうして私がゲス組と一緒なんだ……
不意に、昂先輩がスマホをズボンのポケットにしまい、リーダーに向き直った。真面目モードになったようだ。軽いけれど、逃げを許さない口調で、ゆっくり問いただす。
「でさ、本題だけど。どーしてセス君をさらったのかな? 分かってるよ、司をおびき出すためだって事は。俺らが知りたいのは、むしろそっち」
「……頼まれたんだよ。暁月組の組長の跡取り息子を、捕まえてこいって、小乃組の奴らからな。何でかは知らねえ」
「……おのぐみとは?」
「ここら組で活動してる、でかい組だよ。そいつらに目えつけられるなんてな、司。で、司と仲良くなったセスをさらったってわけか」
リーダーが大きく頷く。樹希は、冷めた目でそっちを見た。しばらく考えていた昂先輩は、急ににっこり笑う。そして、片手をひらひら振った。
「よし分かった。ありがとーな。じゃ、また」
踵を返し、此処から立ち去ろうとする。樹希が、鼻を鳴らしながらそれに続いた。私も慌てて後を追う。倒れている男たちを避けながら進むのは、中々にグロテスクだ。後ろから、縄を解いてくれ、という非痛な叫び声が聞こえたが、完全に無視。縄はとてもきつく絞められたようなので、かなり暴れないとほどけないだろう。ようやく解けたとして、体、腕の痺れは酷いものだと思われる。まさに、想像を絶する辛さだ。えげつねえ……
赤い扉の前で、昴先輩と樹希は立ち止まり、後ろを振り返った。私も2人の横に並ぶ。昴先輩がいつもの明るいニコニコ顔を見せたと思った瞬間、鋭い、きつい目でリーダーを睨みつける。口角は上がったままだ。樹希の無表情も、相手を圧倒するような冷たさがあった。昴先輩の口が開く。
「今度俺らにちょっかいかけたら、これじゃ済まさないから。その時俺らが何するかは……」
「ご想像にお任せ、だな!」
暴れるのを一瞬でやめ、大きく頷くリーダーを尻目に、私たちは倉庫から出た。大きな音を立て、扉が閉まる。
「あ……!」
すぐそこで待っていた4人の中で、いち早く私たちを見つけたのは、セスだった。びくっと肩をすくめ、司さんの後ろに隠れる。見え隠れする蜂蜜色の瞳は、涙で潤んでいた。昴先輩が、セスに気付き、近づいていく。司さんは止めようとしたが、構わずにセスの前にしゃがんで、視線を合わせた。そして、ふわっと笑う。
「……司、いい兄ちゃんだろ? お前の為に死ぬほど走って来たんだ。こんな性格だけど……意外と優しいんだぜ?」
「…………知ってる」
昴先輩はとても満足そうに頷き、呟いたセスの頭をわしゃわしゃ撫で回した。司先輩のズボンをぎゅっと握るセスが、照れているように見えるのは気のせいか。
「……昴。色々とありがとな。セスも無事だったし……本当に良かった」
「おう、気にすんな! 俺らは茶会部だし、悩みを聞くのは当然だし。何より俺ら、ダチだろ?」
「というか、もう7時ですわ! さ、帰りますわよ!」
「……うん、帰ろう」
2年生の皆が歩き出す。私たち1年2人も、後ろについて歩いた。
「……なんかさー……茶会部って、いっつもこんな感じなの?」
「……そうだけど。オカルトマニアの人もよく来るし、生徒会のやつもたまに来る。依頼とかいっつもこんなんだし」
「……へえ」
今日は本当に疲れた。大きく伸びをすると、肩がボキボキいう。だが、不思議と足取りは重くなかった。むしろ軽いし、明るい。
そういえば、辺りはもうかなり暗い。
伸びのついでに空を見ると、深い闇に銀色の星屑が輝いていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さて、この度、参照300を突破致しました!
これも応援して下さった皆様のお陰です。本当にありがとうございます!
上のURLは、友人作のつばめです。許可とってます。上手さはさておき、自分のイメージとかなり合致していたので、イメージ画としても使えます。
他のみんなもいつか、描いてもらいたいですね。
これからも、茶会部のみんなを、それからこの私めを、よろしくお願いします!
- Re:第二話 〜小さくて大切なモノ〜 ( No.11 )
- 日時: 2016/05/03 21:33
- 名前: かたるしす (ID: f/YDIc1r)
「じゃーな……イギリスでも、頑張れ」
「……うん」
抜けるような青い空、ゆっくり流れる白い雲が浮かんでいる。穏やかな風で、少しだけ寂しそうなセスの金髪が揺れた。
イギリスに帰るセスを見送りにやって来た私たち。しかし、セスのお母さんの実家は、大豪邸だった。広すぎる庭や門まであるし、車は当然の如く黒塗り。詳しくないので、車種は分からないが、とにかく高級であることはハッキリと確認できる。車を傷付けまいと、そばを通るときは緊張でガチガチだった。
あの夜の後、セスは両親からたっぷり絞られた。母親の母国を旅行中に家出など、言語道断だと。そして、私たちに謝って謝って……私たち皆がついて、セスは無事家に帰れたのだ、と。あれはキツいお説教だったな、と、思い出してみる。
「……それにしても、セスの母さんの実家広いなぁ。俺のアパートの部屋いくつ入る?」
額に手を置き、ため息をつく昴先輩を横目で見ながら、司さんがセスに問う。
「お前、なんで家を飛び出したんだ? 理由があったんだろ?」
「……」
優しいが、はっきりとした口調にセスは少しうつむき、小さな声で話し始めた。
「……家から、出させて貰えなかったんだ。異国は危ないって、執事やメイドの皆が……」
「し、執事……メイド……」
そこにつっかかるか、昴先輩。
「父さんと母さんは、仕事ばっかりで僕にはかまってくれないんだ。小さい頃、遊んでくれた覚えだってないのに……僕、もう大きくなって、もっともっと興味ない人になったのかなあ」
言葉の終わりに向かうごと、声が震え、小さくなっていく。最後には完全にうつむき、黙り込んでしまった。
あぁ、そっか。
セスはあの時……親からお叱りをくらった時、下を向いてたから気付かなかったのか。
2人の親の目の端の、きらきら光るものに。
私たちは顔を見合わせ、その後司さんに視線を送る。司さんは頷き、セスに歩み寄ってしゃがみこんだ。そして、頭をゆっくり、ゆっくり撫でる。
「……親にとって、お前はまだまだ子供だよ。まだ頼りなくて、まだ幼くて、まだ弱くて、まだ小さくて……これからずっと、大切なものだ」
「…………」
ぽろぽろ、雫がセスの頬を伝い、地面に落ちる。
セスは乱暴に目を擦り、ばっと顔をあげた。
「ありがとう、司お兄ちゃん。みんなも」
まだ涙で濡れている瞳は、真っ直ぐで力強い。大丈夫だろうな、という安心感すら覚えた。セスはきっと、イギリスでも元気にやれる。
私たちは、顔を緩めてセスの頭を撫でた。
「ちょっと! 恥ずかしいよ! ……あ、そうだ。カトレアお姉ちゃん」
「ん? なんですの?」
「これ」
「……!」
セスが、足元の紙袋から取り出したのは、緑色の紙に包まれた、缶。カトレア先輩は、それを見て目を丸くしている。セスがそれを渡すと、なんとも言えない表情で受け取った。
「お茶会で使ってよ。安いものだけど」
「フォートナム・アンド・メイソン……あ、ありがたく頂戴しますわっ!」
缶を抱き締めて、恍惚としている。
「あの……これは……」
「……紅茶の茶葉だ。あれ。きっと有名なものなんじゃね」
「なるほど……」
さすが茶会部。
「じゃあね、皆! またきっと会いに来るから!」
「おう、じゃーな!」
「また」
「気を付けるのですわー!」
車の窓ガラスごしに、ブンブン手を振るセスに負けじと、私たちも手を振る。小さくなっていく車を見ながら、司さんが小さくため息をついた。それに気づいた昴先輩が、司さんの肩に手を置く。
「なぁ司」
「……なんだよ」
「飲むぞ!」
- Re:幕間 〜予言と雲〜 ( No.12 )
- 日時: 2016/05/13 22:36
- 名前: かたるしす (ID: f/YDIc1r)
「何かと思えば、お茶かよ……」
「それ以外に何があるって言うんだよ。一応未成年だぜ? 俺ら」
「一応って」
青空をゆっくりゆっくり雲が流れる。窓から吹き込む初夏の風が気持ちいい、午後。
俺は白い机を挟み、司と向かい合って座っていた。
司は湯飲みを傾け、慶の淹れた緑茶をのんびり堪能している。調理室では、カトレアが「紅茶の出番がありませんわ!」とごねているのだろう。まぁ、司にティーカップなんて、きっとゴリラにスマホと同じぐらい違和感満載だ。その場面を想像して、少し笑ってしまった。
「何だよ」
「いや。何でもない」
相変わらず、ゆっくり雲は流れる。
司が味しらべの袋を破っている最中に、急に扉が勢いよく開き、部屋に人がやって来た。思わぬ来客に、目を丸くする。と同時に、少し呆れる。
「やあ昴! ……ってあれ、先客が居たか」
後ろでくくったうねる黒髪に、瓶底眼鏡。さらに怪しい笑みとくれば、もうこいつしかいない。俺はため息をつき、困惑して袋を破りかけたまま固まっている司の方を見た。
「……誰だこいつ」
「……仲篠 一穂。新聞部によるアンケート企画『あなたが思う、この学園で敵に回してはいけない人物と言えば?』ランキング堂々の第1位。オカルト研究部の部長だ」
司は、あぁ、と納得の表情をし、頷いた。
「聞いたことはある。顔まで分からなかった」
「君は暁月 司……だね! もちろん、君のことは知っているよ。何でかは秘密だけど」
「それより、用件は何だ? 味しらべを食いに来たのか」
一穂は人指し指を立て、ちっちっち、と横に振る。そして、わざとらしく腰の後ろで手を組み、うろうろ歩く。かなり大げさな動きに少しイラッとした。
「今日はだねぇ、昴。君たちに予言を遺しに来たのだよ。そう……重大な……ね」
「はいはいはいはい、早く言え」
頬杖をついて急かすと、一穂は明らかに眉を寄せて不満そうな顔をした。ため息をつかれる。あぁもう、じれったい奴すぎる。言葉通りの意味で。
「まったく、君は予言の大切さを知った方が良い。世紀末、世界を騒然とさせたノストラ……」
「わかったわかったわかった! はーやーく!」
「……双子だよ。愛らしき双子の片割れがやって来る。歓迎するといい! きっと良い出会いになる!」
「…………ぉ、おう」
いつの間にかうろうろを止め、味しらべを頬張っている一穂。いつも思うけど、旨そうに食うな、コイツ。
一穂は袋を俺に押し付けると、片手をひらひら振って歩き出した。
「それではまたな! 再開をこの手に!」
「おぉ……もう二度と来んなよ……」
扉がバタン、と閉まる。
俺は司と顔を見合わせ、同時に吹き出した。