複雑・ファジー小説

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ダスティピンク#502
日時: 2016/05/27 09:09
名前: ▲ (ID: /dHAoPqW)

初めまして▲です
よろしくおねがいします


+注意事項+
・性表現、暴力表現アリ
・誤字、脱字アリ
・不定期更新


+登場人物+
・舟引 都色(ふなびき といろ)♀
・萬田 千寿(よろずだ せんじゅ)♂
・花尾 若鮎(はなお わかあゆ)♀


+もくじ+
#001>>1 #002>>2 #003>>3 #004>>4 #005>>5 #006>>6 #007>>7 #008>>8 #009>>9




+跋扈する愛の話+
イメージソング:春の雨/ハルカトミユキ


Re: ダスティピンク#502 ( No.7 )
日時: 2016/04/21 17:24
名前: ▲ (ID: /dHAoPqW)



#007


春といっても、夜はまだ冷える。
ソファでゆっくりするつもりだったのに、二人のせいで引き返すはめになってしまった。
どこかの店に入り、一人で酒でも呑もうかとぶらつく。

お肉、忘れないようにしないと。
コンビニで買えばいいか。

口からするりと空気が抜けて、ああ呆れているのか、と思った。
私、呆れているのか。
あの二人に。

「あれ、舟引さん?」

突然声をかけられ、振り返る。
残業帰りの同僚だ。
足を止め、彼が追い付くのを待つ。

「お疲れさま」
「ありがとう。あれ、今帰り? 大分前に出たよね」

いつかのように二人でのんびりと歩く。

「一回帰ったんだけど、なんとなく落ち着かなくて、ぶらついていたの」
「そうなんだ。危ないよ、送っていこうか?」
「もう少し、時間潰したいかなぁ」

なんとなく空を見上げれば、ぽっかりと夜空に穴が開いたような満月。
仕事帰りなのに私の歩くペースに合わせてくれる。

「……君に会えて良かった」
「……は?」

ぽつりと呟くと、驚いたのか足を止める彼。
隣の彼を見上げると、気まずそうに眉を動かした。

「暇だったから」
「……うん。話し相手くらいにはなれるしね、俺も」
「そう。君と話すのは好きよ」
「あのね、舟引さん」

うん、と返すと、くるりくるり、目線を動かす。
見ていて飽きないこともあるけど、と付け足そうとしたけど止めた。
彼がようやく口を開いたからだ。

「俺、期待するよ。しかも、とっても」

返事はしないでおいた。
そろそろ帰ろう、と呟いて歩き出すと、彼が後ろからついてきて送っていくよ、と言ってくれた。

Re: ダスティピンク#502 ( No.8 )
日時: 2016/04/28 22:26
名前: ▲ (ID: /dHAoPqW)



#008


アパートの前までついてきてもらってしまった。
何度も、家までついてきてもらうなんて申し訳ない、と言ったのに彼は好きでやることだから、と聞かなかった。
べつに家を特定されることを懸念していたわけではないし、千寿でもアユでもない人と話したい気分でもあったので有り難くそうしてもらった。

別れ際、先程のように彼は急に立ち止まった。

仕事ができて、爽やかで、優しい。
計算しているときもあるくせに、時に不器用。
感情が顔や行動に出やすく、身ぶり手振りが大きめ。
私のやや後ろで私を見つめる男は、私とも千寿とも、アユとも違う。

純粋で、生きるのがうまいのだと思う。
彼の構成する彼の人生は安定していて、周りはそれに惹かれ、その構成する一部になりたくて、安心したい。

その気持ちは分からないでもないな。

彼は再び、言葉を選んでいるようだった。
強い視線で何か言いたげに唾を飲み込んだ。

私は言葉を待つ。

「あの、さ」

瞬き。
沈黙で続きを促せば、短く息を吐き出した。

「俺、舟引さんのこと好きなんだ」
「前に聞いたけど」
「うん。分かってる。忘れたわけじゃなくて、その……」

二度目の告白にすら彼は緊張しているようだ。
当の私、愛を伝えられた方はいたって冷静である。とくになんでもない。
告白されることになれているわけではないけど。こんなに何も思わないものなのか。
自分の淡白さには笑えるかも。

「片想いの分際で、こんなこと訊くのは生意気かもだけど。あの男の人とはどんな関係?」

あ。
やば。

油断した、と思った。

彼の性格を熟知しているわけではないと、実感。

夜に溶け込む双眼が、ゆるりと熱を帯びたのだ。
その質問を口にした彼の押さえきれぬ感情が温度を持った。

無意識に足の指に力を込める。

苦手だなぁ。
その、有無を言わせない正しさが。

Re: ダスティピンク#502 ( No.9 )
日時: 2016/05/16 12:28
名前: ▲ (ID: /dHAoPqW)



#009


「都色? どうかした?」
「あ、ううん。なんでもない。先行ってて」

教室の扉の所で友人が声をかけてきたので、我に返る。
は、として咄嗟に持っていた筆箱を机の中に突っ込んだ。隠すように。
その動作に彼女は首を傾げたが、それ以上何かを聞いてくることはなかった。

部活動の集まりのために、私と友人は朝早く登校する。その時間にはまだ、私たちの所属する部活の部員しかいない。しかも、荷物を置いてすぐに部室に移動するため、教室はとても静かだ。
それは今朝も例外ではなく、友人が去った今、教室には私しかいない。
しん、と沈黙した教室で、私は再び恐る恐る筆箱を取り出す。

持ち帰るのが面倒で毎日毎日机の中に置いて帰っていた、長い間使っていた筆箱。
布製で、細身。シンプルで使いやすく、気に入っていた。

それが今朝、いつものように取り出してみれば。
カッターで切り裂かれ、見るも無残な姿に変わっていたのだ。
中身も無造作に机の中にぶちまけられていた。
いつ、誰が、こんなことを。
昨日教室を出るときは何でもなかった。
私が昨日の放課後に部活に行ってそのまま下校し、登校するまでの間。ダメだ。まったく目星がつかない。
誰かの恨みを買ったか?
覚えがない。
知らない間に何かしてしまっただろうか。
ここは中学校。私を含めみんな思春期で多感な時期。些細なことがきっかけで人の負の感情に晒されることが、無いとは言い切れない。

胸がざわりとする。
なんだ、これ。
なんでこんな。

これから、悪化しないといいけどな。

不安を抱えたまま、私はそれを鞄の中に詰め込んで、部活に向かった。

廊下に出たときに、くすくすと笑い声がしたような気がしたけれど、聞こえないふりをして振り返らず走った。

Re: ダスティピンク#502 ( No.10 )
日時: 2016/05/28 21:56
名前: ▲ (ID: /dHAoPqW)



#10


思い出したのはその朝であった。
言葉を探すべきなのに、私はまず千寿との思い出の中で一番古いものを引っ張り出していた。頭の中で再生されたその記憶は、今となっては若干事実とは異なるだろうが、確かに覚えている。
あの時の感情も確かに覚えている。
どきどきそわそわだったなぁ。あんな経験、初めてだったから。

さっきも言ったけど、目の前の男に質問を投げかけられている以上、私は答えになる言葉を探すべきなのだ。
それなのに、物思いにふける間抜けなわたしの表情に、彼は困惑したようである。まぁ仕方ない。
彼は熱を帯びた瞳で、真剣に自分の恋心に正直に向き合い、そして私とも真剣に向き合ったというのに、当の本人はその質問をぶつけられて口を紡ぎ、言葉に迷うわけでもなくぼーっとしているのだから。
かわいそうなことをしているな。

答える様子のない私に、彼は苦笑いを向けた。
困らせてしまった。
しかし、仕方のないことだ。
あれだけ真面目に感情をぶつけられると私は参ってしまう。どうしたらいいのかわからないのだ。
私のそばにいつもいたのは千寿だった。千寿はあんな瞳で私を見つめたりはしない。あんな熱を私に向けたりはしない。
慣れていない。
だから、困る。
だから、困ってもらった。
困れば自然と、優しい彼も同じように困ってくれる。彼の優しさを利用したというわけだ。心の中で謝っておく。ごめんね。ありがとう。

私はそして、ようやく言葉を探し始める。
私と千寿の関係を表す言葉。
前に訊かれた、恋人とは違う。明らかに違う。千寿にはもうすでに恋人がいるから。それに、私はそういう目で千寿のことを見たことがないから。
友達。それも違う。彼のことを友人だとは思ったことはない。最近会った友人二人と同じくくりに千寿を分類できるかと訊かれれば、答えはノーだからだ。
何度も頭から降りてくる、関係を表す言葉を、これは違う、と戻して考えた末に私はシンプルに事実だけを述べることにした。

「同棲しているの、」
「は?」

彼の恋人の女性と一緒に、という言葉を続けようとしていたが、彼がやけに強い口調で遮ってきたので思わず止めてしまった。

え、こんな声、出せるんだ。
驚愕でこれまでないくらいに目を見開いている。
そんな私を見て、一瞬ハッとして、そんな声を出した時に浮かべた不機嫌そうな顔を取り消す。しかしすぐに、また眉をしかめてやや瞳を小さくした。
器用に表情を作るな。いや、感情を抱くことに慣れているんだろう。
変だけど、こんなことにすら上手い下手は存在するのだ。

Re: ダスティピンク#502 ( No.11 )
日時: 2017/06/02 21:39
名前: ▲ (ID: noCtoyMf)



#11


「付き合ってはいないんだよね?」
「うん。話は最後まで聞いて?」

不満げな彼に告げると、ごめん、と小さく投げ出した。

心臓が痛かった。それはきっと目の前の彼のせいだ。
困るなぁ。
ちり、と感じた痛みは罪悪感なのだと思う。
本気で、私のことを好いてくれているんだろう。こんな私を。
まっすぐ向けられている視線に、唇を噛む。

ああ、もっと。
もっとこの人が、やさしくなければよかったのに。
そうすれば、私はこんなこと思わなくて済んだのに。
もっとわがままで、唐突で、乱暴な人だったなら、私は遠慮なく彼を突き放すことができたのに。
中途半端に、私に似合わない、見合わない、そんなよくできた人間だから。傷付けるのをためらってしまう。
私は非道なんかじゃない。彼に興味はなかったはずなのに。
ああ、もっと。
もっと私が、冷たい人間だったならよかったのに。
どちらかがもっと、欠けていればよかったのに。

仕事帰りの肩掛けバッグを右肩から左肩に持ち変える。
変に疲労を感じる。

「千寿の彼女と三人で、同棲しているの」
「……三人?」
「そう」

安心できる要素を渡したつもりだったのに、なおも彼の顔色は晴れない。
それでもなんとか引き下がってくれるようで、無理やりに微笑んでくれた。
そうなんだ、ととってつけたようなセイフまでつけて。

またこのことに関していつか尋ねられるだろうな、と人ごとのように思う。

それまでに、どうか彼の恋心が、息絶えてくれればいい。
私を好きでいてほしいなんて、思えない。


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