複雑・ファジー小説
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- 失うものなど無いではないか。
- 日時: 2016/05/09 01:58
- 名前: いちから ◆skRIqZ1BAg (ID: UJ4pjK4/)
「大切なもの」を失ったがために自殺をした若者(10代〜20代)の5人。
目を覚ますと、私立宝山高校と呼ばれる名門高校の2年3組のクラスメートへと転生していた。
残されているのは生前の記憶の全て。いや、全てではない。一つだけ思い出せないことがある。自分が失った「大切なもの」の記憶だった。
知り合いも誰もいない世界。
「自殺をしたら、転生されたんです!」
「子供が悪ふざけをするんじゃない。早く帰りなさい」
警察へ駆け込んでも、まともに取り合ってくれるなんてない。
「こんなことになるなら、自殺なんてするんじゃなかった!」
頭の隅まで思い浮かぶがなかなか思い出せない「大切なもの」への焦燥感。元いた世界へ帰れることもなく、わけもわからず日常が進んでいくが、やがて5人はお互いが自殺の末このクラスへ転生された身であるということを知る。
そんな中、5人のうちの1人「秋斗(あきと)」が、昼食のカレーパンを口にした瞬間眩い光に身体を包まれ、この世界から消えてしまう。
「きっと、あいつは生前の大切なものを思い出したんだよ! カレーパンにまつわる何かを!」
「じゃあ、大切なものを思い出せれば、もとの世界へ帰れるってこと?」
仮説に過ぎないが1つの道筋を見つけた4人は、元いた世界へと帰還するために、「大切なものを思い出し隊」を結成し、失ったものを探すべくがむしゃらに記憶の糸を手繰り寄せ合う。
「怖いものなんてない。だってもう、失うものなど無いではないか」
*****
こんばんは。いちからと申します。
この小説は「リク依頼掲示板」よりメンバーを募集させていただきました「合作小説」でございます。
執筆順(敬称略)
1、いちから
2、凛太郎
3、猫夜又
4、萌野
※執筆メンバーの方は、物語進行上なにか質問などでてきた際はこちらではなくリク依頼の方へ書き込みくださるようお願いします。
- Re: 失うものなど無いではないか。 ( No.7 )
- 日時: 2016/05/08 11:20
- 名前: 猫夜又 (ID: dDPEYPay)
*速水 仍*
私は元高校生だが、一年生だった。故に今やっている二年の授業は全くわからない。
安西の喋っていることが全くわからない。寧ろ聞いていると頭が痛くなる。そんなわけで私は学校側からは成績が悪い頭の弱い子認定をされている。ちなみに国語は得意な方だったのでまだマシだが。
確かに私はゴミなわけだけど、わからないことを教えてもらっても、ゼロに何をかけても結局はゼロ、わからないのだ。
多分中澤さんと間ノ間は無理だろうから、雨宮に教えてもらおう、と考える。うん、それがいいと思う。限度はあるけど、とりあえず高校一年生の範囲だけでも終わらせなくては。
そういえば、と。
私は教室にいるとどうしても頭が痛くなる。授業関係なく。それは私が元の世界でいじめられていたから。理不尽な暴力を思い出して、ズキリと傷んだ。
*
「大切なもの思い出し隊?」
無意識下で屋上に来ていた私と、雨宮、間ノ間、中澤さん。
雨宮の提案。「元の世界」に帰るために、大切なものを思い出す隊。それを私たちで組もうというらしいのだ。
……大切なもの思い出し隊。ダサい、ダサすぎる。そうは言っても私が考える方が圧倒的にダメなので口に出しはしなかったが。
「そう、大切なものを思いだし隊。僕たちで組んでみようと思うんだけど、どうかな」
「なんだよ、その怪しい集いは。宗教でもおっぱじめんのか?」
「もっと真面目な話。僕、授業のときずっと考えてたんだ……元いた世界のことを」
「元いた世界」。私たちが自殺した理由。失ったもの。
正直、そこまで乗り気ではない。前にも言ったけど、自殺するほど辛いことなんて思い出したくない。思わず下に俯いてしまう。同時に、中澤さんも俯き、間ノ間は雨宮を見つめる。
他の人は、どう思っているのだろうか。私は。
私は……正直思い出したくない。辛い思いなんてしたくない。自分勝手だし最低だし、前に進もうなんて思えないゴミクズだけど、私は物語の主人公みたいに強くない。
でも、私みたいなゴミに失ったら自分で自分を殺すくらい大切なものとか、そういうのがあったんだったら____思い出したいとは、思う。
小さな声で、言う。
「私は、賛成。多分、このままだと、変わらないし。」
私みたいなのが言っても説得力ないと思うけど、と自嘲気味に付け足した。
- Re: 失うものなど無いではないか。 ( No.8 )
- 日時: 2016/05/08 18:20
- 名前: 萌野 ◆1fkY44fL5I (ID: Kot0lCt/)
* 中澤みなも *
大切なもの思い出し隊。
放課後あたし達は、誰からともなく田中が消えた屋上に集まった。拭えない不安感を抱えてやってきたあたしに、雨宮が告げた答えが、それ。あたしは意味がわからなくて、雨宮に聞き返してしまったけれど、彼は至って本気の目をしていた。
「大切なものを思いだし隊。僕たちで組んでみようと思うんだけど、どうかな」
雨宮によると、それは忘れてしまった大切なものを思い出して、元の世界に帰ろうという趣旨のものらしい。
大切なもの思い出し隊、と何度か頭の中で繰り返してみるが、ううん、ネーミングが安直すぎるのではないだろうか。どうせなら、「remember a lost memory」の頭文字をとってRALN(ラーン)とかの方がおしゃれじゃないかな。そう提案しようとしたけど、やめた。あたしは、特にこういう場合において自分の意見を言うのが苦手だった。誰かに批判されるのが途方もないほど怖かったし、だいたい名前なんてどうでもよかった。
「なんだよ、その怪しい集いは。宗教でもおっぱじめんのか?」
「もっと真面目な話。僕、授業のときずっと考えてたんだ……元いた世界のことを」
あまり事の概要を理解していなさそうな間ノ間と、真面目な顔で話す雨宮。
それってつまり、元いた世界での大切な記憶を思い出したら、田中みたいに消えちゃうってこと? 田中の大切な記憶って、カレーパンだったの?
あたしは全ての疑問を押し込んで、考えてみる。
速水が言うように、普通に考えて田中は元の世界に帰った。元の世界とは、田中が自殺してしまった世界だ。つまり、あたしも大切なものを思い出してしまったら、この世界から消えて、あたしが自殺してしまった世界に帰る。
大切なもの思い出し隊。そんなの反対に決まっている。自殺するほど嫌なことがあった世界に帰るより、ここで酒が飲めない、化粧ができないとぼやいている、生ぬるいこの世界の方が絶対に良い。元の世界に戻った田中は、これからどんな人生を過ごすのだろうか。一度でも本気で自殺してしまった世界なんて、良い方向に進むとは思えなくて。
あたしは、大切なものを思い出すのが怖い。そう言おうとした時。
「私は、賛成。多分、このままだと、変わらないし」
速水の小さな声が聞こえて、私ははっと顔を上げる。
速水の賛成が嬉しかったのか、雨宮は柔らかい笑顔を浮かべた。
ふたりとも、変わっていくことを認める強さをちゃんと持っているんだな、と思う。若いからかもしれないけど、あたしよりずっとずっと強い。羨ましいとさえ思ってしまう。この現状に甘えている、あたしなんか。
屋上は既に、希望的なオーラが漂っている。ついさっきまで、一緒に弁当を食べていた田中が、自分が自殺した言わば地獄みたいな世界に戻ってしまい、自分らもいつそうなるかわからないのに。
あとは間ノ間さえ賛成してしまえば、多数決で大切なもの思い出し隊は結成されてしまう。
「間ノ間、あんたはどう思う……?」
お願いだから、反対してくれ。あたしは恐る恐る、間ノ間を見上げた。
- Re: 失うものなど無いではないか。 ( No.9 )
- 日時: 2016/05/09 01:53
- 名前: いちから ◆skRIqZ1BAg (ID: UJ4pjK4/)
「間ノ間、あんたはどう思う……?」
なにかに怯えて縋る子供のように俺を見上げてきた、中澤。この表情から察するに、多分だが、こいつは自分が失ったものを思い出すのも、元いた世界へ帰ることになることも、ごめんなんだと思う。
気づけば、考案者と賛成派の2人の視線も俺の元へと集まっていた。
……ぶっちゃけ、どっちでもいいんだ。俺は。
それが率直な感想だ。投げやりすぎかもしんれんけど、ゴタゴタ考えるのは俺の性分に合わない。なるようになる、っていうのが正直なところなんじゃないのか。
元いた世界に未練はない。今思えばなんで自殺なんてバカな真似したのか思い出せないけど、まあ、何かしらの出来事があって、それによって当時の俺にとっては生きていく価値がない世の中だと思ったんだろう。金もないし、職もないし、女もいないし。はっきりいってクソみたいな人生だったってのは事実だ。だからと言って、日頃から死にたいと思っていた覚えはない。むしろ、俺は自分で自分の命を絶つほど弱い人間だったのかと、今でも信じられないでいるくらいだ。
そして俺は、この世界にも未練はない。
さっき考えていたとおり、煙草も吸えなければ、酒も飲めない、AVも手に入らない。パチンコだって打てないんだ。これだけで既に最悪じゃんか。はっきり言ってここへ来て何か大きなメリットを感じたことは、一度もないからな。
どっちの世界にいたって、舞台はろくでもないことに変わらない。変わらないなら、自分がなんとか変わるしか選択肢がない。クソみたいな世界だって、やり方次第では、いつかちっとはマシになる日がくるかもしれないってことだ。自殺した人間がなにを言うかって話だが、少なくとも今の俺はそう思っている。
だから結論どっちでもいい。
そう、俺は。
「賛成だな」
中澤の目線が不安定に動いた。動揺しているんだろう。俺が反対すると思っていたのか。いや、反対してほしいと思っていたんだろ。
俺はどっちでもいいんだ。でも、お前はどうなんだ、中澤。
嫌なら嫌と言え。ここにいる道を選びたいなら、はっきりと自分の口で表明しろよ。中澤は、自分を見せているときの方がずっと良いんだ。お前は、へらへら笑っているときよりも、酒が飲めないことが辛いってぼやいている時の方が見ていてしっくりくる。くだらない多数決で俺に便乗して反対したって、なんにも良いことなんてないんだ。
一拍間を置いて、決まりみたいね、と泡のように消え入りそうな声で呟いた速水の姿を一瞥した中澤。そして、優しく微笑んでいる雨宮に向かって、彼女はへらりと笑ってこう言った。
「……うん、あたしも賛成! 元いた世界に、帰りたいし」
- Re: 失うものなど無いではないか。 ( No.10 )
- 日時: 2016/05/09 20:28
- 名前: 凜太郎 (ID: LN5K1jog)
*雨宮 蓮*
「……うん、あたしも賛成!元いた世界に、帰りたいし」
みなもはそう言って笑った。
全員が賛成。それが嬉しくて、僕の顔は緩んでしまう。
「良かったぁ・・・・・・みんな賛成してくれて」
正直、反対されると思っていた。
その時は、僕一人でどうにかするしかないと諦めていたけど。
「でもこれからどうするんだよ。大切なものを思い出すって、何するんだ?」
慶一の言葉に、僕の笑顔は引きつる。
単純明快。これからどうするか。
ハッキリ言おう。全く考えてなかったよ。どうしよう。
とはいえ、ここで考案者の僕が「何も考えてません」と言えば、とりあえず責められるだろう。
下手したら物理攻撃を喰らう可能性もある。
残念ながら僕の左胸のポケットには現在何も入っていない。生存フラグがない。
いや、諦めるな。考えろ。諦めなければ試合は終了しない!
この世界の数学教師と同じ名前の男も言っていただろう?
諦めたらそこで試合(人生)終了だと。
「え。えっと・・・・・・基本的には今までとやることは特には変わらず、ただ、時間がある時とかは、積極的に調べものをするようにするべきだと・・・・・・」
とりあえず咄嗟の思いつきだけで言ってみる。
隊の名前もそうだけど、直感で思いついただけにしては悪くないよね。僕って。
いや、流石に『大切なもの思いだし隊』は無いか。うん、無いよね。
『蓮君ってば、ネーミングセンスないなぁ』
一瞬、脳裏に少女の面影が過った。
同時に、胸が一瞬痛んだ。
「どうかした?」
その時、仍が首を傾げてくる。
急に黙ったから心配したのかもしれない。
心配させたらダメだ。考案者の僕がここで暗くさせたら、皆変に思うよ。
「え?ううん、なんでもないよ。それじゃあ、『大切なもの思いだし隊』。頑張って行こう!」
僕が拳を空に突き出すと、皆も同じようにした。
色々あったが、こうして『大切なもの思いだし隊』は結成された。
- Re: 失うものなど無いではないか。 ( No.11 )
- 日時: 2016/05/14 01:01
- 名前: 萌野 ◆1fkY44fL5I (ID: K/8AiQzo)
* 中澤みなも *
ついに結成されてしまった、「大切なもの思い出し隊」。やることと言ったら、空いた時間に調べ物をしたりみんなで情報を共有しあったりするくらいなんだけど、やっぱりあたしの心持ちは重かった。
決まってしまったものは仕方なくて、ここでひとり愚痴を叩くほどの勇気もない。まあ、前世で自殺してしまった原因を知りたくないわけではないし、前の世界に戻れたなら、酒も飲めるしお洒落もできるし友達もいる。大学生ってのは自由で、朝に授業がなければ昼まで寝ていられるし、夜遅くまでアパートで缶チューハイを飲みながら詩を書いている時なんて至福の一言に尽きる。そのためなら、今いる世界を投げ出したって構わない、実はそうなのかもしれない。
ここに転生してきて、どれくらい経ったのだろう。雨宮や速水、間ノ間に対して情が湧いてしまう前に、元の世界に帰らなくては。そうやって無理やり思い込んで、あたしは笑った。
「で、これからどうするんだ? 図書室とかなら、俺は絶対行かねえからな」
「酷いなぁ。みんなで図書室に行こうと思ってたのに」
面倒そうにしながらも、きちんと話を進行してくれる間ノ間と、苦笑いを浮かべて言う雨宮。
あたしも、図書室なんて場所は陰気くさくて好きじゃない・・・・・・ということになっている。本当は本独特の紙の匂いが大好きだし、ホコリをかぶっている正岡子規大全集なんかをずっと隅の席で読んでいたい。進学校なだけあって図書室はやけに豪華で、いつも人が多いから立ち寄れなかったけれど、本当は前を通る度に気になっていた。
「図書室に行くのは、私も反対。この時間は三年生が多いから」
黙ったまま聞いていた速水も話に加わる。
そういえば、速水は前の世界では高校一年生だった。20歳のあたしからしてみると、高三なんてガキもいいところだし、ちっとも怖いなんて思わなかったけれど、一年生にとってやっぱり先輩というのは絶対的で、少し遠慮してしまうものなんだろう。
「先輩、ねえ」
その言葉を、声にしてみる。
懐かしい響き。ふと思った。中高どっちも帰宅部だったあたしに、初めて先輩ができたのは大学の時だった。友達に誘われて入った軽音部は、思っていたよりは楽しくて、本当は文芸サークルに入りたかったけど、これはこれで良いなって思って。
「俺らからすると、三年なんてみんなガキだからな。な? 中澤」
「うん、そうだね・・・・・・」
誰かが尊敬している先輩も、歳上から見たら子供でしかない。あたしの先輩だって、あたしが盲目的に尊敬していても、ほかの誰かからすると子供でしかないわけで。
夢を見すぎたんだよ、みなも。頭の中でそう言い聞かせるのは、あたし自身の声だった。昔から嫌なことがある度に、「その人に期待してしまった自分が悪い」と思ってきた。そしてある日、追い打ちをかける物凄く嫌なことがあって、自殺してしまったのだろう。
「じゃあ、どうする? 他に調べ物っていうと、近くの図書館まで歩いていかなくちゃいけないけど」
「本から離れろよ、まず」
気がつくとまたふたりは喋っていて、速水も相槌をうっている。ぼーっとしていたせいで、あたしだけ会話についていけなくなったら、それは困る。
「家族に連絡してみるっていうのはどう?」
咄嗟に口から出たのは、そんな言葉だった。
高校は全寮制だけど、前にいた世界と同じようにコンビニがあって法律があって、勉強の内容も同じなら、みんなの家族も存在している可能性が十分にある。
家の電話番号くらいは覚えているだろうから、家族と話をしてみるのがいいんじゃないか、と思っての提案だった。