複雑・ファジー小説
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- ピエロ恐怖症の高校生達のサーカス
- 日時: 2016/10/15 13:34
- 名前: のあ (ID: RQnYSNUe)
「あのシェアハウスに住む6人は、皆何かが欠けているんだって。」
初めまして。「のあ」と申します。今回が初めての小説となります。キャラや設定は小説内で書いていきます。
〜開幕〜
貴方はピエロを知っていますか?
そう。サーカスなどで有名なピエロです。
貴方はピエロが好きですか?嫌いですか?
好きな人は普通にいるでしょうね。ピエロは皆さんに笑顔を届ける素敵な存在です。
…では、嫌いな人は?
その人達には何かしらの理由があるのでしょう。ただ純粋に何となく嫌いだと思っていたり、過去に何かがあって嫌いになったり、…あるいは私達のように、恐怖を抱いたり。
この話は、とある男女6名の高校生が体験した、長い長い「サーカス」のお話。
ブーーーー…
…おや、時間が来てしまいましたね。
まもなく開幕します。どうぞ私達が体験したサーカスの話を、
…お楽しみください。
〜プログラム〜
ハジマリ >>1
ムカシバナシ『左手』>>11
ハジマリサイカイ>>12
ムカシバナシ>>14
- ムカシバナシ『左手』 ( No.11 )
- 日時: 2016/10/02 12:11
- 名前: のあ ◆chbMkOQ7W6 (ID: RQnYSNUe)
4/4 PM??:??
独side
「ようこそ!孤独サーカス団員の皆さんと、新人団員さんたち!」
何でお前がここにいる?
何で先輩たちも此奴のことを知っている?
孤独サーカス団員?
お前は何がしたいんだ?
そもそも、俺は何でこいつを知っているんだ?
******
3年前
俺な好きな人が死んだ。いや、死んだというより「動かなくなった。」
皆泣いてた。遥瑠も泣いてた。俺は泣き叫んだ。
彼女_山内(やまうち)密葉(みつば)が植物になってしまった原因は、交通事故。
その事故に遥瑠も巻き込まれ、左眼が失明した。
俺は信号を無視した運転手を恨んだ。一時は遥瑠も恨んだが、どうにもならないとわかって辞めた。
彼女のいない世界なんて、耐えられない。
中学に入学した俺は、もう何もかもがいやだった。小学校からの友達とも距離を取り、独りで殻にこもる。
もう死にたい…そうだ、何も変えられないなら、自分が消えればいい。
とある廃墟ビルの屋上に腰掛ける。俺が死んだら、皆どんな顔をするだろう。
誰も…悲しまないよな。
悲しまないと思うからこそ、簡単に死ねるんだ。
_じゃあな。世界中の人間共。
勢いよく飛び降りる。風が全身に染み込んで気持ちいい。
これで楽になれる…そう思っていたんだ。
_目覚めた場所は、サーカス会場だった。
俺は何をしていたんだっけ。あぁそうだ。廃墟ビルから飛び降りて…。
それじゃあ、ここは天国か?それとも地獄か?
いろいろ考えてると、目の前にピエロが立っていた。
「!?なんだよお前!」
俺が思わず後ずさると、ピエロはクスクスと笑う。
「君が独君だね?…ボクはヨル。見た通りピエロさ。きみは確か飛び降り自殺未遂をしたよね?」
声的に男性だろうか。少なくても俺より年上に見える。
服装は普通のピエロの姿だ。顔は仮面なのでよく分からないが、仮面の頬の部分に三日月のマークが描かれていた。
というか、自殺未遂?確かに俺は死んだはずだ。
「君は飛び降りた後、ぎりぎり一命を取り戻した。ただし、左手を失ってね。」
「…は?」
何言ってるんだ此奴は。左手をなくした?何言ってるんだ。
「君に選択肢をあげよう。一つ目は、このまま君のお望み通り死ぬこと。二つ目は、条件付きで君を左手のない状態で生き返らせること。」
そんなの…
「そんなの…死んだ方がいいじゃないか!」
ピエロはため息をつき、
「そういうと思ったよ。でもね。君は誰も悲しまないと思っているだろうけど、実際には皆悲しんでいるんだ。両親や親戚、クラスメイトまでもね。そしてここで君が死ぬことを選んだら、ボクにチェーンソーで殺されることになるけど?」
そういうとピエロ…ヨルはチェーンソーを取り出した。かなり大きい。こんなもので殺されると思うと背筋に汗がつたった。そして俺は…
「っ…!わかったよ…。で、その条件っていうのは?」
言ってしまった。生きるって。俺が言うとヨルはチェーンソーをしまい、
「わかったよ。それでその条件なんだけど…。君は左手を返してほしいだろう?そこで、ゲームをしよう。ルールは簡単。君がボクを殺せば君の左手は返してあげる。制限時間は君が死ぬまで。君がボクを殺したら君の勝ち。ボクを殺せずに君が死んだらボクの勝ち。どうかな?」
ルールは実に簡単だが、かなり残酷なゲームだと思った。俺は返事を返そうと口を開けようとしたが、強い光に飲み込まれた。
次に目が覚めたのは病院。左手を見てみる。そこは綺麗に肩から下がなくなっていた_
- Re: ピエロ恐怖症の高校生達のサーカス ( No.12 )
- 日時: 2016/10/11 18:42
- 名前: のあ ◆chbMkOQ7W6 (ID: RQnYSNUe)
4/4 ??:??
遥瑠side
訳が分からない。
何でこいつが…ヨルがいるのか。
お姉ちゃんを殺しかけて、私の左眼も奪ったヨルが、何でここにいる?
私はヨルに、「左眼がほしければボクとは違うピエロ…ヨウを殺せ」と言われた。
お前が奪ったくせに何で別のピエロを殺さなきゃいけないんだ。そう思っていたが、理由はすぐに分かった。
その、ヨウというピエロは、私の双子の姉…4年前に睡眠状態となった、山内密葉だった。
そう、ヨルは私が好きだった姉を殺せといい、殺せなければ左眼はあげないという硬い壁を作り、私を手のひらで弄んでいたのだ。
******
どれくらいの時間がたっていたのだろう。
独の「やめろ!」という言葉で目が覚める。
正気に戻った私は、自分のつかんでいるものを見てしまう。
それは、今にも死にそうになっている友邪先輩の_首だった。
「え…。先輩?」
私は真っ先に手を放す。いったい何が起きたのか、まったく分からない。
友邪先輩は咳込みながらも真っ先に睨んでいたけど、睨みつけていたのは私ではなく、未だにステージのど真ん中に立っているピエロ…ヨルだった。
「ヨル!何で遥瑠にまで手を出すんだよ!何も悪くないのに!」
友邪先輩はヨルに向かって叫ぶ。だけどヨルはびくともしない。
「おやおや、お怒りだねぇ。僕はただ、今のことを遥瑠ちゃんは『未来予知能力』で見てるのかなぁって思って試しただけだよ。けど遥瑠ちゃんが簡単にボクの能力に引っかかったことを見ると、予知していなかったようだね。」
私は左眼の代わりに、新しい別の眼を貰った。その眼はクローバーのシルエットが書かれていて、その眼は未来を見てしまうため前髪で隠しているのだ。
そしてヨルの能力っていうのは…人間を自由に操れる能力を持つ。しかし操れる人間は一度に10人までで、しかも体力も使うと言っていたような気がする。
「ていうか、何の用。」
ずっと黙っていた天先輩が問う。先輩たちは何回かヨルにあっているようで、そんなに怯えはしなかった。でもやっぱり警戒しているように見える。
「んーまあ気まぐれかなあ。とりあえず独君と遥瑠ちゃんを君たちが暮らすシェアハウスへ導いたのはボクだっていうことを言いたかっただけ。」
「…まあそういうことだろうと思ったけどさぁ…。こんなのいちいち言わなくてもいいじゃん。」
暁先輩が呆れたように言う。
「んーそうなんだけどね。でも新人二人にも分かってもらいたくってー。」
ヨルは軽い口調で話を進める。四方八方から殺意を込められた目でみられているの動じていないのは、慣れなのか、それとも仮面の下で泣いてるのか。
「かといって全員呼ばなくても…。」
渚先輩も反論する。
「いやでもね。3人とか4人とかが一気にその場から消えたらびっくりするでしょ?それなりの僕の優しさだよ。優しさ。さて、質問はそれだけかい?」
「「「「「「…………」」」」」」
皆黙り込んでしまった。質問を考えるよりも、早く現実世界に帰りたいと思っているのだろう。
「ないね?ボク的にはもうちょっと遊びたかったんだけどなぁ…食事中悪かったね。」
ヨルが話している間に、会場の証明が消え始める。そして最後には真っ暗になり、一気にまぶしい光に包まれた。そして意識が戻る時にヨルの声が響く。
「それじゃあ、またね。」
序章 ハジマリ (完)
- Re: ピエロ恐怖症の高校生達のサーカス ( No.13 )
- 日時: 2016/10/08 19:42
- 名前: 夕雨 (ID: tXtJgBFl)
ピエロの話なんですね!!
読んでいて面白かったです!!
続き、待ってます♪
- ムカシバナシ『本物』 ( No.14 )
- 日時: 2016/10/09 19:16
- 名前: のあ ◆chbMkOQ7W6 (ID: RQnYSNUe)
夕雨さん
コメントありがとうございます!
更新は遅いと思いますが頑張ります…!
******
4/4 PM12:20
独side
今のは夢か何かだったのか?
目が覚めると、数分前までにいた食卓に座っていた。
テーブルには食べつくした食事と、居た堪れない空気で座っている俺も含めて6人の高校生が座っていた。
「あのさ。いつか話そうと思ったんだけど…皆の過去、奪われてもらった能力とか、話そうよ。」
最初の口を開いたのは暁先輩だった。その話には賛成だった。他の5人も静かにうなずく。
「どうする?誰から話す?」
友邪先輩も口を開く。先輩はさっきのことがあってからか、少し顔色が悪い。
「それじゃあ、私話すよ。かなり昔の話だし…あ、それとも友邪話す?」
「いや。渚から話していいよ。その方が分かりやすいと思う。僕は次に話すよ。」
この二人は昔から何か関係があるのか…?
「分かった…じゃあ話すね。」
渚先輩が話し始めた_
******
6歳の私は、山奥の小さな村に住んでいて、外見も今のような金髪ポニーテールでもなく、茶髪で髪の毛はぼさぼさしていた。
そんな私でも、一人、仲のいい男の子がいた。
「ねえねえらい!おにんぎょうさんごっこしよう!」
「いいよ!じゃあぼくじぶんのにんぎょうもってくるからちょっとまってて!」
彼の名前は南雲(なぐも)雷(らい)。私と同じ母子家庭で、家は隣同士だった。まあ今の現代風の家ではないけど…。
そして私の持っている人形は確か…凪(なぎ)だったきがする。凪は今の私と同じ金髪のポニーテールだった。
私と雷は毎日のように遊び、人形ごっこはほぼ毎日、かくれんぼや鬼ごっこでも遊んでいた。
『ねえなぎ。かくれんぼをしないかい?』
『いいわよ×☓。わたしがおにね!』
親同士でも仲良しだったため、夜の寝る時間以外はずっーと遊んでいた。
そんなある日。事件は起こった。
いつもどおり雷と人形で遊んでいると、少し離れたところでパアン!という鋭い音が響く。なんと、それは銃声だった。
私と雷は近くの木へ登り、緑の茂みの所へ隠れた。
木の高さはけっこう高く、かなり広い範囲が見える。離れたところに、人だかりができていた。いや、人だかりは周りだけで、中央には縛られている村人の姿があった。…察しの通りその中には、私と雷のお母さんもいた。
「っおかあさ…」
「しずかにしてなぎさ…!みつかったらぼくたちもひとじちにされちゃうよ…。」
人質にされた村人たちの周りには、マフィアやヤクザなどの分類に入ると思われる人たちがたっていて、村人たちを助けるのは不可能だった。
人質にしたと思われる一人が、大きめの声を上げた。
「あーあ。あと一人、人質になってくれりゃあ、助けてあげるのになぁ!」
その言葉を聞いて雷は上っていた木から、大声を出そうとする。
「やめてらい…!ひとじちになりたいの!?もうあえないかもしれないんだよ!」
「たくさんのひとがきえるより、ひとりだけきえるほうがいいでしょ?だからぼくは、ひとじちになる。ぼくがやつらをおびきだすから、きみはやまをくだってにげるんだ!」
「そんなのだめだよらい…。それならわたしが…」
私の言葉を遮るように、雷は木の上から手を振って声を上げた。
「そこのおとこども!!!ひとじちならここにいる!!!ぼくがおとりになるからほかのむらびとたちをかえせ!!!」
「…らい!」
私は思わず大声を上げるが、あちらの人には聞こえていないようだ。男たちはゆっくりと私たちに近づいてくる。
「さぁて、囮になるのはそこの坊やか〜い?」
「ひっ!」
怯える私とは裏腹に、雷は真剣な目で話す。
「うん。ぼくだよ。ぼくがおとりになるから、ひとじちにされているむらびとたちをかえせ!」
そういうと男はげらげらと笑いだした。
「はっはっはっ!笑わせるね!でもなぁ、おれらは人質を解放するなんて言ってねえんだよ!俺らは今捕まっていない人間は人質にしないっていう意味で言ったんだ!まんまと騙されたな!(笑)」
「っ!?」
「ら、らい!にげよう!」
私は雷の手を引く。だが、直ぐにその手は男たちによって引きはがされてしまった。
「んーまぁ折角申し出てくれたしぃ?このお嬢ちゃんは逃がしてあげてもいいがなぁ。た・だ・し!おめぇは人質行きだ。」
男は雷が逃げないようにがっちりと押さえつけ、戻ろうとする。
「いや、らい、いかないでぇ!」
雷は歩みを止めてこちらを振り向き、
「なぎさ。やくそくしよう。ぼくはかならずいきてみせる。どんなてをつかっても。だからきみもいきるんだ。またいつか、かならずあおう。」
そういって雷は再び歩き出す。雷の頬を涙が伝う。私の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。
「ぜったいあおうね!だけどいかないでよぉ!らいいいいっ!!!!」
この時の声は、雷には届いていたのだろうか。私はそのまま地面に倒れ、気を失った。
******
目覚めた場所は、サーカス会場だった。なぜか周りには人がおらず、ステージの真ん中に仮面をかぶったピエロがいるだけだった。
「やあ、君が渡部渚ちゃんかい?」
「そ、そうだけど…だれ?」
私は怯えながらも返事をする。
「そうか。僕はヨル。見ての通りピエロなんだ。ところで、君の持ってるその人形は、名前があるのかい?」
人形…凪のことだ。
「な、なぎっていうんだ。わたしの…たいせつなにんぎょう…。」
「そう。ところで渚ちゃん。ゲームをしないかい?」
「ゲーム…。する…。」
この時の私にとって、ゲームはやりたいと思っていることの一つだった。やりたくても村には知っている人がおらず、説明が下手な私では何もできなかった。
「そうか。じゃあルールを説明するよ。この世にはね。ボクと同じようなピエロが4人いるんだ。君はその中のランというピエロにあることをしてほしんだ。君の命が尽きるまでにあることを行えたら君の勝ち。あることというのは…そのうちわかるさ。そのあることができなかったらピエロ…ランの勝ちっていうことでいいかな?」
「いいよ!」
今思えばあることというのは、殺せということだったのだろう。この時の私は考えもしなかった。
「あともう一つあるんだ。渚ちゃんは、今この服装、外見じゃ、この先心配でしょ?」
「?うん…。」
私はよくわからないまま頷く。
「だからね、君とその人形、凪ちゃんの外見を入れ替えようと思ってね。君に物と自分を入れ替える能力を与えよう。でも、このことは誰にも秘密だよ?」
「よくわからないけどわかった!」
そう、私が奪われたのは本当の自分の姿。そして、自分を人を入れ替える能力を貰った。
要するに、人の性格や体格などを自分と入れ替えるということだ。
私は人形と外見を入れ替えた。そこで今の私の外見がある。
目が覚めたのは、病院だった。特に目立った外傷はなく、直ぐに退院し、独児院へ入れられた。そこで友邪とも出合った。
後から聞いた話だと、あの後村人たちの行方は分からず、私の証言だけが頼りに捜索をしているらしいが、結局のところ、何も手がかりは掴めていないらしい。
- ムカシバナシ『右耳』 ( No.15 )
- 日時: 2016/10/16 22:05
- 名前: のあ ◆chbMkOQ7W6 (ID: RQnYSNUe)
「ったく!あんたなんか産まなければよかったわっ!」
「…っ!」
ボキッボコッ…と、聞きたくない音が響く。物心のついた頃から全身を殴られているおかげで、痛みはあんまり感じなかった。
「もう!哲邪(てつや)は何もかも完璧なのに、あんたがいるせいで台無しじゃない!」
僕を殴り飽きたのか、母はぐちぐち文句を言いながら倉庫を出ていく。
外でフクロウの鳴き声が聞こえるあたり、時刻は恐らく夜なのだろう。僕は全然と言っていいほど役に立たない薄くぼろけた毛布をかぶり、目を閉じる。しかし、肌寒いし、少し殴られた場所が痛いせいで、全然眠りにつけなかった。…いつものことだから気にしないのだけれど。
しばらくごろごろしていると、外からザッザッ…という足音が聞こえてきた。わざと足音を立てているあたり、『彼奴』だろう。
原口(はらぐち)哲邪(てつや)…僕の2つ上の兄であり、僕がこのような状態にされた張本人でもある。
哲邪はいわゆる「完璧人間」であり、頭は当然のようによく、スポーツも万能、ルックスも…僕から見る限りいい方だろう。両親や周りの人間は哲邪を愛していた。
「友邪大丈夫…じゃないよな。また痣できてるし…。」
だけど、僕はそんな哲邪を殺してしまいたいほど嫌いだった。
だってそうでしょ?哲邪がいなければ僕は普通の人間でこんなことにもならずに済んだし、頑張れば哲邪と同じくらい愛されていたはずだ。きっと哲邪も、僕のことを『いらない子』扱いしているに違いない。だから僕も哲邪の事を『いらない子』扱いするんだ。
「お母さんもお父さんも酷いよな…。友邪は何も悪くないのにさ。」
哲邪は僕のけがの手当てをしながら両親の文句を言う。そうそう。僕は何も悪くない。悪いのはお前だ。
「うん…。お父さんもお母さんも酷いよ…僕…何もしてないのに…。」
なんてことは言えないから、僕は哲邪の事を信頼している演技をする。もうこの演技にも慣れてしまったのか、ウソ泣きも自然とできるようになった。
「はい。終わったぞ。ごめんな…夜しかこれなくて。でもお母さんとお父さんに見つかったら…友邪がどうなるか分からないし…。」
哲邪は心配そうな表情をするが、本当は自分が面倒事に巻き込まれるのが嫌なんだろう。
「哲邪兄ちゃん。ありがとう!」
僕は精一杯の作り笑顔を兄に向ける。此奴に感謝するなんて死んでも嫌だ。
******
ある日、目が覚めると、僕は『さーかすかいじょう?』というところにいた。
「やぁこんにちは!君が友邪君かい?」
「…そ、そうだけど…?お、お前も僕を殴ったり蹴ったりするんでしょ…・」
いきなり見知らぬ人…しかも見たことのない服を着た人に声を掛けられ、僕の声はかなりふるえていた。そして、もしかしたら今までにない力で殴られるんじゃないかと不安にもなった。しかし、そいつが言ったことは全然違った。
「いや?僕は君を嫌ったりはしない。むしろ君の味方さ。ボクはピエロのヨル。ちょっと君に協力してほしいことがあってね。…君の兄、哲邪君のことで。」
哲邪。という言葉で僕の心は黒に変わった。もしかしてこのヨルとかいうやつも哲邪の事を嫌っていたのではないか。
「ちょっとボクもね。哲邪君のことはあんまり好きじゃなくてね。多分君はもっと嫌いだろう。…だからね、君とボクの手で、原口哲邪を殺そうと思うんだけど…どうかな?」
哲邪を殺す_これほど爽快感のある文章はあるだろうか。この時の僕の顔は酷くゲスかっただろう。
「哲邪を殺すの…?全然いいよ!今すぐ殺したいくらい!」
「おぉ、やる気満々だねぇ。それじゃあ順序を説明するね。一週間後の夜、ボクがとある手段を使って君の家に火をつける。その時についでで君の両親も殺しといてあげるよ。そしてもう一回ボクがとある手段を使って哲邪君を君のいる倉庫へ導き、一緒に外へ出る。友邪君にはここで火の奥に哲邪君を突き飛ばしてくれればいいよ。ただし、哲邪君を殺した後、君の右耳に人の心の中を読める力を与えるけどね。」
僕はめったに使わない頭をフル回転させてヨルの言った説明を覚えた。
「おっけい。覚えたよ!でも人の心が読める力って何?」
「うーん…説明が難しいなぁ…。まあそのままの意味で、人が今何を思っているかがわかるっていうことかな。」
「へぇ…。面白そう!僕、一週間後、頑張るね!」
そのあとはあんまり覚えていない。覚えているのは、起きた時に父に脇腹を殴られたことくらいだ。それよりも僕は両親と哲邪を殺すことで頭がいっぱいだった。
_殺す3日前。久しぶりに哲邪が倉庫にやってきた。
いつものように手当てをしてもらうと、哲邪は袋の中から何かを取り出した。
「なぁ友邪!俺のクラス、今度の文化祭で劇をやることになったんだけどさ、俺、主人公の『テツ』っていうピエロ役になったんだ!」
哲邪は楽しそうに劇の話をする。絶対学校に行けない僕のことを馬鹿にしているのだろう。
散々話置いた哲邪は、倉庫の扉の所まで行くと、悲しい顔で言った。
「ごめんな。お前が学校いけないの知ってこんな話して。だけど俺、お前のこと一番愛してるから。」
「…えっ?」
「…なんでもない。またな。」
突然の言葉に反応が遅れた。愛してる?哲邪が僕を?嘘だ。絶対嘘だ。哲邪はうそをついてる。こんな優しい人間が3日後。死ぬわけないじゃないか。
そして、ついにヨルとの約束の日が来てしまった。
勢いよく扉が開けられる。僕を助ける人物など分かりきっていた。
_哲邪だ。
「友邪。お母さんとお父さんを置いて、逃げよう!」
あぁ、なんて愚かなのだろうか。後に目の前にいる人物に殺されるというのに。
僕等は倉庫を抜け出す。家の目の前まで行くと、僕は足を止めた。
「何やってんだよ友邪!早く逃げないと、焼け死んじゃ…」
「ねぇ兄ちゃん。」
僕は哲邪の言葉を無視して、静かに話しかける。哲邪は「な、なんだよ。」と少し怯えながら聞いた。
「正直に答えて。兄ちゃんは僕のこと好き?嫌い?」
「そんなの…好きに決まってるだろ!」
あぁほら。また嘘をつく。
「へぇ。本当に?僕はね。兄ちゃんが嫌いだ。大嫌いだ。この手で殺したいほど。…言いたいこと、分かるよね?」
「っ!?」
ほら怖がってる怖がってる。僕はそんな兄にゆっくりと近づく。火の海に突き飛ばそうと手を伸ばしたその時、_哲邪は僕を抱きしめた。
「…何で?」
僕は思わず聞き返す。だって…あまりにも予想外すぎる。
「ごめんな。こんな兄で。実は、お前が俺に抱いている殺意。知ってたんだよ。でも俺は本気でお前が好きだった。だからお前に好きになってもらおうと何回も来た。けどもう。手遅れなんだよな…。」
哲邪は淡々と僕についての本気の感情を語る。しばらくして哲邪は手を放し、両手を広げた。
「なぁ。最後にお前の『嘘の嘘』を聞かせてくれないか?そのあとは何をしたっていい。」
いつの間にか哲邪の頬には涙が伝っていた。そして僕の頬にも、涙が伝っているのに気付いた。本物の涙を流すのは、何時振りだろうか。
そうか。そうだったんだね。
僕は、兄ちゃんのことが、大好きだったんだ。
僕は口を開く。
「大好きだよ。お兄ちゃん。」
僕は静かに兄の体を突き落した。
哲邪兄ちゃんは笑っていた。
僕も笑えていただろうか。
僕の思いは届いただろうか。
きっと、届いていただろう。