複雑・ファジー小説
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- 先月の君に
- 日時: 2017/01/09 21:38
- 名前: ひのり ◆GBbrT/URYg (ID: uLF5snsy)
はい皆さんこんにちは!ひのりと言います!
今日からは、雑談掲示板の中で主に私の妄想力によってできちゃったお話を書きたいと思います
恋愛&ミステリーって感じで
どんな話になるのかは読んでからのおたのしみ!
ってことで、どうか暖かい目で見てやってください。
それではよろしくお願いします。
- Re: 先月の君に ( No.2 )
- 日時: 2017/01/10 18:27
- 名前: ひのり ◆GBbrT/URYg (ID: uLF5snsy)
ザワザワと、様々な声が混ざる空間。またの名を、教室。
直方体に切り取られた部屋の中で、大多数の人間が同時に会話する。
昼休憩になり、各生徒たちは、それぞれ各々に仲の良い人と机を付け合わせて一緒に話しながら弁当を食べたり、一人で本を読んだりしながら食べたりと、好きなように30分という短い時間を使う。
そんな中、机に突っ伏し、一人で眠る少年がいた。彼の名前は……———。
「たーいきっ!」
突然、彼……霧島大樹の頭に、丸められた雑誌がぶつけられる。
もちろんそれが事故であるわけがなく、その雑誌を持った少女、斉藤彩が、ニヤリと笑って大樹の前に立つ。
「んぁ……いってぇなぁ……って、なんだ彩か」
大樹は、彩の顔を見た瞬間、またすぐに眠ろうとする。
その頭を両手でしっかりと掴み、彩は大樹に顔を寄せる。
「寝るな!起こした意味がないでしょうが!」
「ちょっと、彩。声大きいよ」
大樹を叱る彩を、その近くにいた金坂波人が止める。
学年内でも割と身長が高い方である彼は、その体に似合わぬ静かな様子で、微笑んだ。
「大樹も、昼休憩なんだし、弁当でも食べれば?俺も今から食べるところだし」
「んぁ……そうだな。腹減った」
そう言って、「んーッ」と声を発しながら大きく伸びをすると、大樹は机の横に掛けていた鞄から弁当を取り出そうとする。
しかし、そんな彼の頭に、またもや彩の丸めた雑誌による攻撃が与えられた。
「いったッ!何なんだよさっきから!」
「お昼ご飯は後々。先に、これ見て」
彩は、そう言うと丸めていた雑誌を広げ、付箋が貼られたページを大樹に見せた。
そのページには、大きな見出しと共に、綺麗な夜空といくつもの白い線が描かれた写真があった。
大樹は、叩かれた頭を抑えながら、その雑誌の内容を読む。
「うーわ、ゲスの極み乙女の奴、また不倫したのかよ」
「そこじゃなくて、その下の、ここの記事!」
自分が見せたかった記事とは違うものを読んだ大樹に怒鳴りつつ、彩は下の方の、地味な記事を指さした。
大樹は「いちいち怒鳴るなよ……」と毒づきながら、その記事を読む。
「流星群……へぇ、今日流星群が見れるのか」
そこには、今日、流星群が見れるという気象庁の情報が載っていた。
「そう。1年に数回しか見れない上に、今までちゃんと見なかったことなかったでしょう?こうやって見る機会があるなら、見たいなって。それで、近くの裏山って、街から離れてるし、空気も綺麗だから、そこで見たいの」
「でも、俺は野球部があるから、裏山まで行く元気はないんだ。だから、大樹行ってやってよ」
波人の言葉に、大樹は「はぁ〜?」と明らかに否定的な声を発する。
そして、鞄から出した弁当をダンッと机の上に置き「却下!」と一刀両断した。
「なんで俺が行かねぇといけねぇんだよ。俺達、もう17歳だぜ?彩だって子供じゃない」
「でも、女の子一人だと危ないし……」
「波人。お前は彩を甘やかしすぎだ」
昼休憩も残り15分というところまで迫り、早く食べないと弁当を完食できないという、あくまで食い意地から、大樹は二人をそう言って突き放した。
その言葉に、波人は困ったような表情をして、彩はむぅーと口を尖らせた。
「良いもんっ!もう一人で行くんだから!」
最終的に彩はそう言ってプイッと顔を背け、ズンズンと歩いて行く。
波人はしばらくその後ろ姿を見送った後で、大樹に目を向ける。
しかし、怒った彩を特に気にする素振りも見せず、白飯とから揚げを口に頬張り、さらにガツガツとオカズを食していく大樹を見て、呆れてため息をついた。
「お前って、欲望に忠実に生きてるよなぁ……」
「モグモグ……ゴクッ。だって、午後で腹減ったら嫌だし……彩に嫌われたところで、痛くも痒くもねぇもん」
大樹の言葉に、波人は少し驚いた様子で目を見開き、「なんでだ?」と聞く。
「お前、エロ本とか読みまくってるし、女とか大好きだろ」
「彩は別。あんなの女じゃねぇって。女っていうのは……」
大樹がそこまで言った時、教室の扉がガラガラと音を立てて開かれる。
少しして、そこから一人の少女、栗原博子が入ってきた。
背中まである、綺麗な黒髪を携えて、彼女は一冊の本を片手に自分の席に向かって歩いて行く。
清楚な佇まい。人形のように整った顔立ち。優雅な仕草一つ一つに、ほとんどの男子生徒の目は奪われる。
無論、大樹もその一人だった。
「……おい」
その様子に、波人は呆れた様子で声をかけた。
少しして、大樹は「ハッ!」と声に出しながら我に返り、波人に顔を向ける。
「女っていうのは、あんな人のことを言うんだよ」
「あんな人って……栗原さんのこと?」
波人の言葉に、大樹は大きく頷いた。
その即答に、波人は僅かに苦笑いをした。
「クラスのマドンナ、栗原博子。成績優秀、眉目秀麗。家はあの有名な栗原財閥で生粋のお嬢様……お前って、ああいうのがタイプなんだ?」
「ちっげぇーよ見ろよ、アレをよ」
大樹は、にやつきそうになるのを耐えながら、博子のことを指さす。
博子は、一人で席に座り、本を読んでいた。
「……一人ぼっちで寂しく本を読んでいるだけじゃない」
「違う!あれは孤独じゃなくて孤高だ!孤独っていうのはああいうの」
そう言って指さしたのは、博子と同じように一人で本を読む少年、日野凌也だった。
博子と違って、特にパッとしない風貌の彼に話しかける人間はおらず、まるで、彼の周囲だけ、別空間にあるようだった。
「あれが孤独。一人ぼっち。でも博子さんはちげぇ。孤高っていうか、高嶺の花っていうかさ。別世界に住んでるっていうか」
「別世界に住んでる感で言えば、日野君も良い勝負だと思うけど」
波人の言葉に、大樹は少しムッとして、「お前さぁ」と言う。
「博子さん見て何とも思わねぇの?」
「特には……。普通のクラスメイトってくらいかな」
言い終わると同時に、チャイムが鳴った。
それに、大樹は「ヤバッ」と言い、慌てて弁当の残りをガツガツと食べ、すぐに弁当をしまう。
少しして、次の授業の担当の教師が来たため、波人も自分の席につき、そのまま授業が始まった。
結局、それから大樹と彩が会話をすることはなく、その日は過ぎていった。
- Re: 先月の君に ( No.3 )
- 日時: 2017/01/11 18:16
- 名前: ひのり ◆GBbrT/URYg (ID: uLF5snsy)
翌日。唐突に、事件は起きた。
「昨夜……このクラスの、斉藤彩さんが、お亡くなりになったそうです……」
担任教師から発せられた一言に、大樹は顔を上げ、しばらく固まった。
今朝から、彩は来ていない。どうせ、寝坊でもしたんだろう。そんな風に、暢気に考えていた。
死んだ、なんて、誰が予測できただろうか。
「それはどういうことなんですか?先生」
恐らく、大樹と同じことを考えたのであろう。
波人は立ち上がり、担任に問うた。
担任教師の話では、昨夜、彩は流星群を見に行くと言って家を出て、裏山に行ったという。
彩ももう子供ではないし、自分の身は自分で守れる。彩の母は、そう油断していた。
しかし、夜の十時を過ぎてから、不審に思い始めた。流石にこの時間まで帰ってこないのはおかしいと。
すぐに警察に連絡し、捜索願を出した。そして翌日に、裏山にある池の底から、彩の遺体が見つかったという。
「……クソッ」
朝のHRが終わった後、大樹はすぐに廊下に出て、しばらく歩いた後で呟いた。
なぜ、自分も一緒に行かなかったのか。なぜ、自分が守ろうとしなかったのか。
そんな、後悔の念が、彼の頭の中を駆け巡る。
「大樹」
その時、彼を呼ぶ声がした。波人だ。
しかし、呼んだ波人も、呼ばれて振り返った大樹も、顔色は最悪だった。
それもそのはずだ。彼等と彩は、幼馴染なのだから。
幼いころからずっと一緒にいて、一緒に遊び、一緒に笑い、一緒に泣き、一緒に怒り。一緒に育ってきたのだ。
そんな、女兄妹のような存在だった彩が死んだことは、二人にとって、かなりのショックであった。
「波人か……」
「彩……死んだんだってな。溺死、だって……」
「……アイツドジだったからなぁ。足でも滑らせたんだろ」
馬鹿にするような、大樹の言葉。その態度に、波人は顔を上げ、説教の一つでもしようと思った。
しかし、大樹の顔を見た瞬間、波人は言葉を詰まらせた。
「……ヒグッ……本当に……馬鹿だよ……」
大樹は、泣いていた。
涙を流し、嗚咽を零し、ひたすら泣いていた。
「俺が、俺が付いて行ってやれば、救えたのに……馬鹿だよ……彩も、俺も……」
「たい……」
「もし、斉藤さんが救えるって言ったら、どうする?」
波人の言葉を遮って、そんな声が聴こえた。
声がした方を見ると、そこには、クラスメイトである凌也が立っていた。
「お前……」
「こんにちは。霧島君に、金坂君」
そう言って、微笑む凌也。
一日中。退屈そうに本を読んでいる凌也の笑顔なんて初めて見た大樹達は、それに少しドギマギしつつも、なんとか言葉を発した。
「お前……俺達に何の用だ!」
「だから、斉藤さんが救えるかもしれないと言ったんですよ。……とりあえず、場所を移動しましょうか。ここじゃ人目につきます」
凌也の言葉に、大樹は周りを見渡した。
確かに、周りには数名の生徒が行き交い、話の流れによっては、聞かれる可能性もあった。
「……どこに行くんだ」
大樹の言葉に、凌也は「付いてきて」と言って、歩き出す。
彩を救えるかもしれない。そんな、微かな可能性に、藁にも縋る思いで、二人も後を追う。
やがて、三人は、教室がある校舎とは別の、通称、旧校舎に来ていた。
基本、移動教室などがあるため、多少は人がいたりもするが、今は、誰もいなかった。
その中で、多目的教室という、いわば空き教室に入り、凌也は立ち止まった。
「おい。こんな所に連れてきて、一体何を……」
「自己紹介が遅れました」
大樹の言葉を遮って凌也は振り返ると、ニッコリと優しい笑顔を浮かべた。
「僕の名前は、ひのり。この世界では、日野凌也と名乗っていますが」
「ひのり……って、お前、女か?」
波人の言葉に、凌也……ひのりは、「やだなぁ」と言ってケタケタと笑った。
普段、一人で本を読んでいる陰鬱な雰囲気とは一転して、フレンドリーというか、明るい雰囲気を出す彼に、二人は何も言えず、ただ見ていることしかできなかった。
やがて、笑い終えたひのりは、「確かに、名前は女ですよね」と言った。
「色々と説明が面倒なんですが……あぁ、あれです。僕未来から来ました」
- Re: 先月の君に ( No.4 )
- 日時: 2017/01/11 22:12
- 名前: ひのり ◆GBbrT/URYg (ID: uLF5snsy)
「色々と説明が面倒なんですが……あぁ、あれです。私未来から来ました」
サラッと出てきたトンデモ発言に、二人は少し間を置いて、「はぁ?」と間の抜けた声を出した。
「今、何て……」
「だから、未来から来たんですって。大体、500年くらいかな?いや、もっと?」
顎に手を当てながら言う彼に、大樹は「お前中二病か?」と言った。
すると、ひのりは笑顔のまま、大樹の足を踏んだ。
「いってぇ!?」
「まぁ、情報は整理できたから。説明するね」
それから、ひのりは自分がどうしてここに来たのかを説明し始めた。
その話によると、今から数百、数千年後の世界では、人類の人体改造、絶滅を防ぐための進化などにより、まず、性別というものが無くなった。
見た目などで、多少男らしさ、女らしさなどはあるが、実際の性別は存在しない。実際、ひのりの見た目も中性的で、どちらかと言えば男だが、女と言われても納得できるレベルだ。
そこまで技術が進化した未来の世界で、タイムマシンというものが出来上がった。
タイムマシンは、主に学校などの歴史の学習や、今までの歴史をさらに細かく調査し、同じ過ちを起こさぬようにする職業までできたほどに普及した。
「それで、僕はその職業志望で、高校でもそれに関する勉強をしている。それで、二年生になったら、実習も兼ねて、一年ほど、こちらの世界に来ているんだ。昔の生活に体や体内時計なんかを慣らし、様々な時代に行っても大丈夫なようにって」
「なるほど……サッパリ分からん」
大樹の言葉に、ひのりはガクッとずっこけるような動作をした。
ずっと無言で聞いていた波人は「それで……」と口を開く。
「お前が未来から来たということと、彩を救えるかもしれない、ということは、どう関係があるんだ?」
波人の言葉に、ひのりは「あー……」と言い、うなじの辺りを掻いた。
その後でヘラッと笑い、「話聞いてなかった?」と言う。
「僕は未来から、この時代まで戻ってきた。例えば、この時間から、斉藤さんが死ぬ前まで戻ることもできる、と……」
ひのりの言葉に、大樹は「マジかよ!?」と身を乗り出した。
それに驚きつつも、彼は一度頷き、窓の外を見た。
「本当は、未来を変えるなんてことは、やっちゃいけないことなんだけどね。二人見てたら、あのまま自殺とかしちゃいそうな勢いだったし」
「おいおい……」
「それに、正しい歴史では、斉藤さんは生きているハズなんだ」
「えっ?」
聞き返した波人に、ひのりは鞄の中から、薄い板のようなものを取り出した。
この時代で言うスマートフォンに似ているが、その厚さはかなり薄く、恐らく未来のものだろう。
やがて、ひのりは一つのページを表示し、波人に見せた。
そこにはどこかで見覚えがあるような、ないような。不思議な女性が写っていた。
「誰だコイツ」
「彼女が斉藤さん。詳細な過去の調査により、過去に生きた人間の情報も、色々と載っていたりする。それによれば、斉藤さんは112歳まで生きるハズなんだ」
「すげぇ長生きだな」
大樹の言葉をひのりは無視し、タブレットを見つめながら、顎に手を当てた。
「恐らく、これが正しい彼女の寿命。多分、ここで僕が干渉して、助けるのが正しいんだと思う。でも、過去の人間と、必要以上に親しくはなってはいけない。その決まりがあるから、助けられるほど親しい仲になることもできない。だから、金坂君、霧島君。君達に救ってほしいんだ」
真剣な言葉に、大樹はしばらくポカーンとしていた。
波人は、しばらく考えた後で、「少し、考えさせて」と言い、大樹を連れてひのりから距離を取る。
話を聞かれるとまずいと思ったのか、さらに教室に出て、隣の教室まで行き、やっと大樹の腕を離した。
「どうする?アイツの言葉、信じるか?」
波人の問いに、大樹は、「やー……」と声を漏らした。
「信じるも何も、ありえないだろ。未来から来たとか、普通、ありえねぇし」
「だよな……でも、例え嘘でも、賭ける価値はあると思う。彩を救えるなら……」
その言葉に、大樹も「確かにな」と言う。
「まぁ、嘘だとしたら、あんな変な機械や、写真まで用意しないだろうしな」
「あぁ。じゃあ、答えはもう決まってるな」
波人の言葉に、大樹は、「あぁ」と頷いた。
すでに、二人の意志は、固まっていた。
- Re: 先月の君に ( No.5 )
- 日時: 2017/01/12 17:54
- 名前: ひのり ◆GBbrT/URYg (ID: uLF5snsy)
二人が教室に戻ると、ひのりが腕に何やら巻き付けているのが分かった。
「それは何だ?」
「ん?あぁ。これは、実習生に配られたタイムマシンさ。回数は制限されるけど、君たちを過去に送るくらいは造作もない」
「なぁ……ひのり……」
波人の真剣な様子に、ひのりは少し戸惑いつつも「どうしたの?」と聞く。
「お前、良いのか?未来から来たことを、そう易々と教えて」
「うーん……どうなんだろう?まぁ、タイムマシンの使用履歴から探られて、強制帰還くらいはされるかもね。あっ、ちょうど良かった。二人はさ、未来人の存在のこと、人に言ったらダメね」
ひのりの言葉に、大樹は「なんでだ?」と聞き返した。
波人は予想していたことなので、黙って続きを待つ。
腕時計状のものを腕に巻き付け終えたひのりは、顔を上げて「んー」と言う。
「未来人の存在っていうのは、元々言ったらダメなんだよ。僕の場合は事情もあったし、強制帰還、厳重注意で済むだろうけど、二人が面白半分に言ったら、恐らく、消されるかも……」
「消されるって、まさか、スイッチ一つで存在そのものを抹消される、とか……?」
波人が恐る恐る聞くと、ひのりは「いや……」と言って、目を逸らす。
じゃあ、一体どんな風に消されるというんだ?
二人は、彼の次の言葉を待った。やがて、ひのりはゆっくりと、口を開く。
「時空の狭間に連れて行かれて、人知れず釘バットとかで頭をガツンと」
「結局物理かよ!?」
大樹のツッコミに、ひのりはクスッと笑った。
それに、二人もなんだか楽しくなって、三人で声をあげて笑った。
「まさか、お前とこんな風に話すことがあるなんて思わなかったよ」
「僕も。そもそも、実習生のルールでは、過去の人間とは関わったらダメだって言われてるし」
「えっ、それってヤバくないか?問題とか起こしたら、お前の、学校での成績とかにも関わるだろうに」
「そんなことないよ。問題起こす実習生って、毎年いるみたいだし」
波人の言葉に、ひのりはそう言って肩を竦める。それを聞いて、二人はホッと息をついた。
しばらく静寂が流れた後で、ひのりは、腕に巻いたタイムマシンを見た。
「じゃあ、そろそろ、行くね?早くした方が良いだろうし」
「あぁ……そうだな」
「君が強制帰還ってことは……もう会えないんだよね?」
波人の言葉に、ひのりは、「うん」と言って俯く。
その言い方はどこか悲しそうで、二人も、なんだか寂しくなった。
「あ、はは……やっぱり、過去の人間と関わったらダメだね。少し、悲しいや」
「ひのり……」
「ごめん。二人は、僕より大事な人を助けないとダメなんだもんね……ごめん」
そう言って、目を逸らすひのりに、二人は言葉を詰まらせた。
しかし、突然、大樹がひのりの両肩を強く掴んだ。
「俺、絶対お前のこと忘れねぇから!」
「……えぇっ?」
「俺も。未来人と話したなんて、忘れられるわけないだろ」
波人も、そう言って笑う。
その言葉に、ひのりは眉をハの字にして、「ありがとう……」と言う。
しかし、そんな雰囲気をぶち壊すように、ひのりの腕に巻かれたタイムマシンの画面が赤く染まり、ビーッビーッとけたたましい音を立てる。
「……時間だ。多分、学校側にばれちゃった」
「でもっ……」
「バイバイ」
ひのりは、そう言うと、タイムマシンのスイッチを押した。
すると、二人の体は光に包み込まれ、消えていった。
「……頑張ってね、二人とも」
すでに、誰もいない教室で、一人呟くひのり。
やがて、彼の体も光に包まれ、静かに消えていった。
そして、誰もいなくなった。
- Re: 先月の君に ( No.6 )
- 日時: 2017/01/13 18:03
- 名前: ひのり ◆GBbrT/URYg (ID: uLF5snsy)
「あれ……ここは?」
先ほどと同じ多目的教室に出た大樹は、辺りを見渡しながら呟いた。
それに、波人は答えず、ポケットからスマートフォンを取り出し、電源を点けた。
そして、「……えっ?」と声を漏らし、大樹に画面を見せた。
その画面を見て、大樹は、「なっ!」と驚きの声を漏らした。
「これって……」
「あぁ。一ヶ月前の日付だ」
先ほどまで、自分たちがいた日の、一ヶ月前。
その事実に、二人はしばらく言葉が出なかった。
「……とにかく、教室に戻ろう。この時間帯は、授業がしている時間だし……」
「あ、あぁ……そうだな」
波人の言葉に大樹は頷き、多目的教室を出て、自分たちの教室に戻った。
すでに授業が始まっているためか、廊下には誰もおらず、二人の足音だけがやけに響く。
やがて、教室に着き、二人は扉を開けた。
「であるからして……ん?」
教科書を見ながら説明をしていた、歴史の担当である藤原隆は、教室に入ってきた二人を見て言葉を止めた。
見れば、クラスの全員の視線が二人に向けられており、その中には彩もいた。
「彩……ッ!」
大樹は、小さく言葉を発した。
彩は、少し驚いた様子で二人を見ており、体感時間でのつい数分前まで、死んだ、ということすらも、信じられなかった。
過去に戻った、というのは本当のことらしく、クラスの様子は、自分達の体感での昨日までと、ほとんど変化はなかった。
……日野凌也がいないことを除けば、だが。
彼が座っていた席には、同じ列の一番後ろに座っていた女子が座っており、その女子が座っていた一番後ろには、席など存在していない。
その、微かな違和感以外は、本当に、前と変わっていなかった。
「遅刻だぞ、二人とも。霧島はともかく、金坂まで……」
「す、すみません……お腹痛くて、トイレに籠ってました……」
頭を下げながら言った波人に、大樹も、「俺もです」とちゃっかり便乗した。
それに、藤原は「ハァ……」とため息をつき、「もう良いから。さっさと席につきなさい。授業を再開する」と言って、教科書に目を向ける。
大樹は、周りの生徒に頭を下げながら席に向かい、着席した。
その時、彼の後ろの席では、教室内で少し地味な女子生徒二人が、何やら楽しそうに話していた。
「これって絶対……アレだよねっ」
「霧波は前から推してたんだぁ。二人、幼馴染だし、どっちもイケメンだもん」
よく分からない単語に不思議に思いつつ、大樹は、自分より前に座っている彩に目を向けた。
彩は、少しして大樹の視線に気づいたのか振り返り、ニヤッと笑った。
(さっきまで死んでたとは、思えねぇよなぁ……)
心の中でそう呟き、大樹はハァ、とため息をついた。
やがて、一限目の授業は終わり、生徒はそれぞれ思い思いに過ごし始める。
大樹は、次の授業の時間を用意していたが、その時、頭を何かで叩かれた。
見ると、彩が数学の教科書片手に立っていた。
「どうしたんだよ?」
「こっちのセリフ!遅刻なんてして、どういうつもり?」
「それはっ……」
———お前を救うために未来から戻ってきたんだよ———。
そう言うことが出来なくて、大樹は黙った。
「大樹」
その時、名前を呼ばれたので顔を上げると、波人だった。
「あっ!波人。そうだ、波人も波人だよ。なんで大樹と一緒に遅刻なんてしたの?」
「だから、本当に二人とも腹壊してたの。それより、ちょっと俺、大樹と話あるから。また後でね」
「むぅ〜。数学の後で聞かせてもらいますからね〜」
頬を膨らませながら言うと、彩は自分の席に戻る。
それに苦笑しつつ、波人は大樹に目を向け、「行こうか」と言う。
その言葉が聴こえたのか、先ほど、霧波とか言っていた女子二人は、大樹の後ろで歓声をあげた。
大樹は、それを煩わしく思いつつも立ち上がり、波人に付いて行く。
そして二人は、旧校舎の多目的教室に向かった。