複雑・ファジー小説

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一二三妖【第二音目-1 更新】
日時: 2019/03/08 21:20
名前: 塩糖 (ID: zxPj.ZqW)
参照: https://ncode.syosetu.com/n1349ff/

——数えて百鬼、誰もかれもが悩み、願いを持ち、生きる
ああならば世界はきっと、無常なりて



 消えた妹を探し、山へ姿を消す様に向かった少年。
 ようやく見つけた妹を追いかける途中、彼は外界とは隔絶され妖怪たちが住まう妖界へと迷い込んでしまった。

 そこで出会った狐の妖怪、一尾の少年と、彼は妹を見つけ出そうとする。だがどうやら、妖界の方でも異変が起きていて……?

 果たして少年は妹を無事探し出すことが出来るのか?


*****

 初めまして、塩糖えんとうと申す者なり。ちなみに通俺とも言います。
皆さんの小説を読んでいて自分もやってみたくなり投稿させていただきました。
今回のジャンルといたしましては「妖怪もの」となっております、戦闘などの要素もありますが何分素人ですので期待はせず、読者さんの暇つぶしの一作になれたら幸いです。
ちなみに感想を書き込まれると作者が狂喜乱舞します

誤字訂正報告いただけると感謝感激してすぐに直させていただきます。


※※
 2019/3/7 小説家になろう、にて連載中のリメイク版(URL参照)の方をこちらでも掲載、またそれまでのお話を削除することとしました。
以前のお話を楽しみにされている方がおりましたら大変申し訳ございません。

****
目次
・第零音目 【「音モ無シ」】 
 >>1
・第一音目 【一から始まる妖道】
 壱【目を瞑った】 >>2
 弐【無視をした】 >>4
 参【気が付かなかった】 >>6
肆【迂闊であった】 >>7
 伍【呑気であった】 >>9
 陸【背中を向けた】 >>11
 一【痛みはなかった】 >>12
 漆【話を聞かなかった >>13
 捌【調子に乗って、名も乗った】 >>14
・第二音目 【碌でもない奴ら珍道中】
 壱【渡る世間は鬼ばかり】 >>43

・進捗
 二音目改訂版更新中
****

・企画
オリキャラ募集 無事4人の妖怪が集まりました!参加いただいた方々感謝が尽きません。


*****
お客さん一覧
・マルキ・ド・サドさん
・ダモクレイトスさん
・ヨモツカミさん
・銀竹さん
・月白鳥さん
・ももたさん
・透さん

お便り待ってます!

感想返し ( No.5 )
日時: 2017/07/30 10:25
名前: 塩糖 (ID: C5nAn.ic)

>>3 マルキ・ド・サドさん
 早速の感想ありがとうございます!私もすこぶるはしゃいでおります、
序盤は感想など来ないだろうなーと考えていたのでとてもうれしい限りです!昔はカキコで別名義で書いていた時期もあったのですが最近は読専だったもので、文章力の劣化が気になる本作ではありますが少しでも楽しみになってもらえれば幸いです!

第一音目【一から始める妖道】 ( No.6 )
日時: 2019/03/07 22:02
名前: 塩糖 (ID: zxPj.ZqW)

参【気が付かなかった】



「やー、助かりました本当に! 師匠から貰った地図が間違ってたみたいで……気が付いた時にはもう道に迷ってしまっていて」
「そ、そうなんだ」

 いやー参った参ったと言わんばかりに、彼は片手で後ろ髪を掻くしぐさを見せて笑う。
 十時間ぶりの食事と言えど、流石に羊羹の無駄遣いをするわけにはいかず、追加の羊羹は無し。狐耳の男の子が二個、俺が一個のみの寂しいものであったため、直ぐに終わってしまった。
 気まずさからか、それとも単に罪悪感というものもないのか、食べ終えた男の子が軽く話しかけてきた。恐らく様子からして後者なのだろうとは予想が付いた。

 いや、襲おうとした相手にそれはどうなんだ……と少しのイラつきから無視することも考えた。が、流石に元気を取り戻している相手をわざわざ挑発してもしょうがないと思い、一応の言葉を返す。

「あっそうだ、まだ名乗ってもいませんでしたね失礼しました……。僕──じゃなかったすいません、私は尾獣堂の一尾、|始《はじめ》といいます。見たところそちらは……?」
 
 先ほどまでの衰弱ぶりはどこへやら、すっかり元気を取り戻した彼は立ち上がり名乗ってきた。
 服についた土を払い、始と名乗った少年。ゆらりと黄色のしっぽを揺らしてこちらの顔を覗き込んでいる。その顔が、どうにも「弟たち」と触れあっているような感情にさせて思わず一歩後ろに下がった。

 いきなり「一尾」という単語が出てきたこともそうだが、こちらの素性を探られていることもこちらを混乱させる。人間ではないことなんてわかってはいたが、本人から言われるとやはり驚くものだ。
 なんと答えるべきか、頭がまとまらない。

「あーえーと、俺は」
「──人間のようですね、とても珍しい」
「っ!」

 誤魔化しが効かないどころか、喋る前に言い当てられてしまったことが更に頭の中を混乱に陥った。
 数瞬ばかり、一尾が人間のような体を持っていたことから、一目では分からないかもしれないと希望を持ったのだが……、普通にばれてしまう様だ。
 バレたらどうなる、先ほどの続きが始まるのか。そんな不安も沸いて、少したじろいだ。 
 そう考えていたのが表情でも分かったようで、始は苦笑しながら答える。

「いや、流石に助けられたのに食べようとするほど厚顔無恥では……それと、見た目だけならまだしも服装が明らかに『こっち』の物とは違いますからね……」

 そう言って始は俺の服装を指さした。仮に彼の和を彷彿とさせるような服が彼らの基本ならば、確かに浮いてしまうかもしれない。
 そんな簡単なことだったこともあり、不安が薄れる。

「そ、そうなのか」
「ところで、人間さんは一体全体何の目的でこんなところへ?」

 こちらの警戒が解けたことに気が付いたのか、彼の顔に喜色が増した。そのまま、彼はまた質問をぶつ
けてくる。

「(……別に話しても問題はないか)」

 しゃべろうかしゃべらないか少し迷うも、先ほどの始の所作から警戒心を解いていたのもあり、正直に話してみることとした。

 ピクニックに出かけたら妹がいなくなってしまった事、夜の山の中、妹を追いかけていたらいつのまにかここで倒れていたことを打ち明ける。
 それを聞くと、始は困ったように首を傾げ後、手を顎に当て考えるそぶりを見せた。

「ふむ、そんな感じで簡単に入れるほど結界は甘くないはずなのですが——」
「結界? そもそも、いったいここはどこなんだ?」

 ポツリと零した単語が気になり、少し食い気味に尋ねた。思わず一歩踏み込んで、手を伸ばせば彼の頭に届くほどに近づいていた。

「むむっ? あーそこからですよね。そうですねー説明したいのですが……」
 
 そう言って彼は空を見上げる。既に太陽らしきものは中天を過ぎていた。

「そろそろ移動しないとまたこんな林道の中で夜を過ごさねばならないので歩きながら行きましょうか」
「そう、だな……」

 こちらの問いに少し困ったそぶりをしながら、始はしゃがんでいるこちらに対し手を伸ばした。
 なんとなくだったがそこに悪意はない、罠ではないことがわかる。
 だがまだその手を取ることは恐くて、俺は自力で立ち上がった。





 目の前で狐の尻尾がずっと揺れている。そんな様子を見ながら歩く。
 林道はあまり整備されているとはお世辞にも言えず、仮に自転車や車などがあったところでこんな道は通れないだろうな、と息を切らしながら考えていた。

 昨日のピクニックの時の山道とは違い、体力の消耗が激しいのを大いに感じた。そんな俺を、始は心配そうに首を後ろに向けて確認している。
 しばらくすると左側から川が流れる音が聞こえ始め、そう時間はかからずに川に沿った道に合流することができた。始が言うにはもう少し下っていけば町が見えてくるらしい。

「(妖怪の町、か……)」

 川の様子はかなり穏やかで、水もかなりきれいに見える。少し目をやっただけで魚が泳いでいるのが見えるくらいだ。どことなく、心が穏やかになるのを感じる。
 それ故に、これから向かっていくのが死地になるかもしれないと思うと更に足が重く感じた。

「簡単に言えば、人間さんが普段いる世界が人間界、こちらは私達妖怪たちが住まう妖界ようかい、この二つの世界は結界が貼られていて、簡単に行き来することは不可能のはずなんですよ」

 こちらに顔を見せて後ろ向きに歩く始は常識のようにそれを言った。いや事実、妖怪たちの中でそれは常識らしい。
 不意にその目が軽く光を帯びる。

「この結界を行き来できるのは妖怪のみで、通るにしてもに中々妖力を奪われてしまいますので……まず人間さんにはその妖力自体ありませんからね」
「その、妖力ってのは? なんとなくは分かるが(漫画とかでよくある奴とかか?)」
「では、少しお見せしましょう」
「?」

 妖怪の存在に妖界と人間界、そして妖怪しか通れないはずの結界。
 頭の中を整理しつつ、聞きなれない言葉について尋ねてみれば、始は左手の人差し指をピンと自身の目の前に立てて見せた。

「──一 ー《ひー》、二《ふー》、三《みー》、四《よっ》! と」
「うわっ!」

 火が灯った。
 こちらが首をかしげていると、いきなり彼の指に消しゴムサイズほどの火の玉が現れたのだ。
 その色は青白くガスの火とはまた違った圧を発していた。火はすぐに消され、少し自慢げな始が訪ねてくる。少々うざい顔だ。

「ふふん、どうです? 狐火ってやつですよ」
「す、すごいな魔法みたいだ」
「正確には妖術っていうんですけどね。こんな感じでいろんな現象を起こすときに必要な力なんですよ」

 そんな力があれば、今頃人間界は大騒ぎだろうなと思った。
 なるほど、確かに結界とやらを通る際にそんなものを支払う必要があるのであれば自分や妹は通れるはずもない。

 ならば何故……そう考えている内にどうやら林道から抜け出せたようで、川幅もいつのまにか広がり、足元は小さな石が積み重なってできた道が広がっていた。

 やはり空気はおいしいし、水も相変わらずきれいである。その景色に若干の感動を覚えていると始はまた少し笑いながら言った。

「さ、あと少しで町が見えますよ。もう少し頑張りましょう」

 その顔に、どこか焦りが見て取れた気がした。



*****

前話>>4
次話>>7

【一から始める妖道】 ( No.7 )
日時: 2019/03/07 21:46
名前: 塩糖 (ID: zxPj.ZqW)

肆【迂闊であった】

 
 少々増水している思わしき川に沿って下る。
 先ほどよりは始の足が遅くなって、もう少しすればただの横並びになるだろうというほどの距離感。
 心なしか、彼の顔色が少し悪くなってきたように見えて、心配になって何度か声をかけた。

「い、いや大丈夫ですよ! そりゃ元気満タン、とはいきませんがだいぶ楽になってますし! ほら、ほら!」
「わ、わかった。わかったから……」

 けれど、その度に逆にから元気を出されていてはしょうがないと追及するのを止めた。ただ歩くより、誤魔化すための身振り手振りの方が体力を大きく削っているように見えたからだ。
 それに、もう少しすれば目的地。どのみち疲れはそこでとれるのであれば多少無理してもらっても問題はないのかもしれない。

「……なあ、その町ってところに人間は……いないよな?」
「そうですね、というより妖界に人間は一人もいないはずですよ?」
「そ、そっか」

 彼に聞いたところによればもう少し下っていけば橋があり、そこを渡って道なのに行けば町につくらしい。なんでも、妖界の中では二番目に栄えているという場所らしい。
 望みは薄かったが気になり、町に人間はいるのかと尋ねてみれば速攻で「いない」と返ってくるので、いくばくかの不安を覚え、視線が自然と下がる。
 彼はそれに気が付いたのか、こちらを気遣い励まそうとしてきた。

「だ、大丈夫ですって! 妖怪が人間を襲っていたなんてだいぶ昔の話ですし、町に住むような妖怪は人をわざわざ襲うようなタイプじゃないですから!」
「いや妖怪って時点で恐いんだって……それにみんながみんな人間に似ているような容姿ってわけじゃないんだろ?」
「それは、そうですが」

 3mを超す巨人の様な鬼が出てくればどうしよう、ホラーゲームに出てくるような怪物にでも会えば腰を抜かすどころか……。そこまで想像してしまい体温が下がるのを感じた。

──そもそも、妖怪だらけの町に人間という自分が入れるかどうかすら怪しいのだが……入れなければのたれ死ぬ運命が待っていそうだ。そこは考えないでおくことにした。流石に始にも何か考えがあるのだろう。

「(……幸)」

 暗い闇の中、手が届かなった妹の事を思い出す。
 俺は早く人間界に戻り、幸を見つけないといけない。本来、妖力がなければこちらにはこれないというのだから、幸は未だにあの山の中で彷徨っているのだろう。
 弱音を吐いて、だらだらと時間を消費するわけにはいかない。そう頭の中で何度も繰り返して、騒ぐ心臓を抑えつけた。


 幸いにも、無理を効かせるのには好条件なほど天気はよい。ちょくちょく空には異形な鳥が飛んでいるさますら見えたのは置いておくとして、快晴といっていいほど空は青々としていた。
 たまに雀やカラスらしき鳥も確かに見かけ、完全に別の生態系というわけではないことを俺に教えてくれた。

「雀……美味しそうですね」

 やはり体調が優れないのは空腹からか。
 ジュルリ、と口からよだれが垂れそうだと思えるほど大口を開け、空を軽く見上げていた始。それに思わず後ずさりをすると、始は照れながら頭に生えた耳をかく動作を見せる。
 ふと思ったが、頭の上に耳があるという事は顔の横には生えていないのだろうか。

「あー、あーいや、別に人間さん食べたりはしませんよ? 恩を仇で返すような狐ではございませんので!」

 彼は人間を食べることが出来る、という事は否定しなかった。最初の時に彼に力がなければ頭からバリバリと食べられていたのだろうか。
 冷や汗がでた。

「そ、そういえば始はさっきの妖術? って、やつで食料を調達しようとか思わなかったのか?」
「っ、いやまあ……の、のどが渇きましたねー」

 少しでも話をそらそうとして気になっていたことを口にしてみると、何かまずいことを聞いてしまったようだ。始は耳がせわしなくパタパタし始めた。
 そしてお互いさまではあるが、分かりやすすぎる話題そらしをする。

 そう言えば歩き始めてから大分たった。自分も少しだけでも水を飲むべきか。
 リュックからペットボトルを取り出し口をつける。
 その動作につられ、彼も腰に待ちつけていた竹で出来た水筒を取り出した。飲もうとしているのか傾ける。

 しかし、そこからは水の一滴も出てこない。どうやら空のようだ。

「……あっはっはっは。そ、そう言えば飲み切ってました」
「そりゃ、行き倒れしてたんだし水なんてとっくに飲み切ってるだろうな……の、飲むか?」
「いえいえ、すぐそこの川で汲んできますよ」

 流石にこちらだけが飲むというのは気が引けた。
 なので、自身が持っていたペットボトルをおずおずと差し出してみたが、それは悪いと始は川を指さし小走りでかけていった。

 妖術とやらで飲み水の問題も解決できなかったのだろうかと疑問に思ったが、妖術とやらも万能ではないのだろうと自分で結論付け、ボトルをリュックにしまい始を追うように歩いて近づいた。
 川の流れは緩やかになっているようで、ゴミが浮いているようなことはないようだ。色も透き通っていて、飲み水には十分使えそうだ。
 彼はその場でしゃがみ込み、川に手を突っ込んでいた。飲む前に手を洗っているのだろう。

 試しに自分も彼がしている様に川の近くにしゃがみ込み、水の中に手を入れる。
 程よい冷たさで、指と指の隙間を通り抜けていく感触は去年みんなで川遊びしたことを思い出させた。川の底に見える黒くて丸っこい石を拾い磨き、宝物にしていたことすら思い出す。
 少し前までの会話で生まれた不安も、この川の前ではすべて流れてしまう、そんな気さえするほど、人生で一番きれいな川だった。

「うー、水が冷たくて気もちいいですね…………ん?」

 同じように癒されていたのだろう始。けれど彼はなにか気になったのか、しきりに首を傾げ一向に水に口をつけようとしない。

「そうだなー……って首傾げてるけど、なんか気になることでもあるのか?」
「……何といいますか濁りがあるような」
「へー、これでまだ濁ってるのか。妖界はかなり自然がきれいなんだな」

 濁りというワードに少し疑問を覚えつつ反応を返せば、彼は未だに首をかしげ、それでも飲まないわけにはいかないのか竹筒に水を汲む。が、鼻に近づけ何度もにおいをかいでいた。
 別に異臭がするというわけでもないので俺は、軽く両手ですくって口につける。
 塩素の味は全くしない、見た目の通り透き通った味だ。水道水とどちらがいいと言われれば、断然こちらの方を選ぶだろう。

──だが、喉の途中に何かが引っ掛かった気がした。

 見た時にはわからなかったが、ごみでも混ざってたのだろうか。そんな気がする程度で、別段気持ち悪くなる程ではない。
 しかし、そんな俺を彼は心配そうに見つめていた。

「だ、大丈夫ですか? 嫌な予感がするんですが」
「特になんもないけど……」
「うーん……そうですか、ではどれどれ——ぅべぇっ!」
「──大丈夫か!?」

 恐る恐る彼が口にすると、すぐに目を見開き吐き出した。演技だと疑う余地もないほどに彼は水に対しての拒否を全身で表していた。
 そのまま四つん這いになり、ほぼからっぽであろう胃の中身さえも吐き出しそうになる。
 思わぬ事態に驚き、濡れた手を服の端で拭いて彼の背中をさすった。

 それから、一分ほどが経っただろうか。彼のえづきが収まり涙目になりながらも言葉を発した。

「だ、だいじょうぶです……なんか口に入れた瞬間体中に悪寒が走って、おかしいですね……こんなこと普段はないのに」
「(さっきの嫌な予感ってこれか? けど俺は、別に何も……とりあえずこの川の水じゃなきゃ飲めるか?)なら、俺の水を飲むか? ほら、羊羹もまだ余裕はあるし少し休憩とって食べろって」

 自分の軽はずみな行動のせいで苦しんだのが申し訳なくて、ついリュックから水と食料を渡した。
 始は一旦それを遠慮して受け取らず、強気にふるまおうとまた竹筒を口に近づけた、だが先ほどよりも顔が引きつって寸前のところで飲むことが出来ていない。
 そんなところを見ても居られず、彼から竹筒を奪い取り、ペットボトルを無理やり握らせる。

「あ——」
「お前に倒れられたら困るのはこっちなんだ。だから遠慮せず飲め、な?」
「む、むぅ……ではお言葉に甘えて一口だけ」

 彼は視線を何度かぐるぐるとさせた後、ゆっくりとペットボトルを傾けて、水を口に含んだ。
 今度は悪寒も感じなかったようで、自然と目じりが下がっているのが分かる。

 だがやはり遠慮し、少し飲んだだけで返そうとしたのが少しいらついた。いたずらするような気持ちで、片方の手はペットボトルを、もう片方は彼の後頭部をつかみ、無理やり飲ませた。

「──?!」
「ちゃんと飲め」

 寝込んだ弟たちの世話を思い出す。
 いつもは元気なくせして、病気にかかれば何を弱気になっているのか粥すら食べようとしなかった弟たち。それにムカついて自分の取り分すら無理やり食べさせていた事。

 彼は観念したのか、次第に水をしっかりと飲み始める。半分ほど飲んだのを確認した後、ペットボトルを離すと大きく息を吐きだす。
 その隙を狙って今度は羊羹を口に突っ込んだ。

「ちょっ」
「吐いたんならしっかり食え」
 
 拒否しようとしても無駄だと目で言えば、彼は渋々羊羹を食べた。
 いつの間にか、彼への残っていた警戒心はすべて消え、ただの兄貴分としてふるまっていた自分がいた。



******

前話>>6
次話>>9

Re: 一二三妖 ( No.8 )
日時: 2017/08/06 22:19
名前: ダモクレイトス  ◆MGHRd/ALSk (ID: lmEZUI7z)

 塩糖様、はじめまして。駄作者のダモクレイトスと申します。昔は風死や風猫などのHNで活動していました……
 一二三妖、という題名に惹かれて開いたところ、大当たりでございました♪
 文章もお上手で、何よりジャンルが和風ファンタジー……妖怪物とは嬉しい限りです!
 ファンタジーや異能物、妖怪物大好きです。
 ただ、いくつか文章の件なのですが、!や?は地の文では使わない方がいいです。
 それと会話文で使う場合は、!や?を使ったあとはスペースキーで一つ分余白をもたせたほうが良いです。
 
 これからも頑張ってください! 

【一から始める妖道】 ( No.9 )
日時: 2019/03/07 21:48
名前: 塩糖 (ID: zxPj.ZqW)

 伍【呑気であった】


 羊羹を食べ終えた始はその金色の目を輝かせ、こちらを上目遣いで見つめている。後ろの尻尾は興奮を隠せないのかはちきれんばかりに左に右に揺れていた。
 人懐っこい犬を思わせるその光景、一体なんだというのだ。

 無理やり水と羊羹を食べさせたのだから、終わった後に文句の一つでも言われると思っていたのに。
 どうしてこうなったと困惑するしかない。

「一度ならず二度までも、更には貴重なお水までももらってしまい……本当に感謝しております!」
「だ、だからそれはお前が倒れたら困るわけで」
「いえ、いえいえいえ! そもそも最初に食糧をもらった際にも碌にお礼も出来ず申し訳ないと思っていたんです。人間界に戻る手伝いだけではもはや返せない恩ができてしまいました……!」

 しかし、どう返せばいいのでしょうかと悩む彼を前にこちらは困惑するばかりである。
 散々こちらが妖怪に対してどういう反応を返したのか忘れてしまったのだろうか、いやこの感じだとどれだけ不当に扱われても後で飴一つ渡せば懐いてしまいそうなちょろさだ。

 この子がその先、悪い大人に騙されて生きないか少し不安になった。
 それが表情に出ていたらしく、心配はないと手を振る。

「ある程度人の善し悪しが分かるから、と師匠は私を旅に出してくれたのですよ。安心して下さ──そうだ! 確かに人間さんは妹さんを探しているんでしたよね!?」
「そうだけど……」

 ならば、と始は右手を自身の胸に置き、自信満々に鼻息を吹かす。ほぼ同時に耳と尻尾もピーンと伸びて、気を付けをしているようにも見えた。

「この一尾の始、貴方が人間界に戻り妹さんを探しだすまで、必ずやお力になることを誓いましょう! 師匠などにお頼みして人間界に一時的にですが滞在する許可もいただきます!」

 そう言いきると、彼はこちらに背中を向けて、「もう少しで石橋が見えるはずです!」と言って歩き始める。さっきまでよりも力強く、休憩の効果が出ているのかもしれない。
 それを受けて俺はというと、その行為が少し重いような、嬉しいような、複雑な気分で彼を追うことにした。
 何はともあれ町についた後、そして山で妹を探す時までも妖怪の協力者がいる、というのは心強い。心の端で考えてふと

——今、妹はどんなに寂しい思いをしているのだろうか、それだけが気になった。





 川の傍を歩き下っていく。次第に川のへりを形成する石は小さく、それでいて次第に土が混ざり始める。
 深さも見た感じでは大の大人が頭まで余裕で隠れてしまう程度には増しているし、水の透明度も少し下がり、川の底はあまり見えないようになった。

 ふと気が付いたが、川が透明な時でも途中からは魚が見えなくなっていた気がする。あれはあの辺りから水に異変が起きているという合図だったのだろうか。今考えてもしょうがないが、頭の片隅に入れておいていいのかもしれない。

「(それはそうとして……なんか疲れたな)」

 不意に襲ってくる脱力感、頭に血が上っていないのだろうか。普段だったらこの程度なんともないはずだというのに。
 額を伝う汗を袖でぬぐいながら、ペットボトルの水に口をつける。なんとなく、竹筒に入れてある水が飲みたい気持ちがしたが……さすがに妖怪である彼が吐き出すほどの水をわざわざ飲む気にはなれなかったし、それを始に伝える気もなかった。

「ああほら、あの石橋です。あれを渡ればすぐ町ですよ!」
「ど、どれだ……ああ、あれか? 遠いな」

 汗を大分かいている俺と違い、少しの汗も見えない始。彼が指さしたほうへ目を細めると確かに、橋らしきものが見えた。人間よりも視力がいいのかもしれないが、そんな遠い場所を指摘されても困る。
 とはいえ、目的地が見えるとこちらのやる気も湧いてくるというものだ。
 ついつい二人して小走りになってしまい、残りの体力をほとんど使うような愚行をおかし、ようやく石橋にたどり着くことができた。


 石橋は長さ10m程度。手すりなどはないが人が2,3人が並んで歩ける程度の広さはあるのでそこまで不安はない。苔が張り付いている部分がちらほらあるのが伺えたが、人が歩く部分は削れており、足を滑らせることもないだろう。
 中央部分に向けてアーチが築かれており、耐久性においても安心できそうである。
 試しに端っこを何度か、足に勢いを持たせ踏んでみるがびくともしない。なるほどとても頑丈だ。

「ほら、何をしてるんですか? 早く行きましょうよ!」
「ああ、待てって」

 リュックを背負い直し、急かす始に軽い返事をして、横並びになり橋を渡り始める。
 ここを渡り切れば次は妖怪の町、その前に本当に俺が町に入っていいかどうか、そしてどうやって人間界に戻るのかを聞いておくべきだろうか。
 ここに来るまで一日も経っていないというのに、よく色んなことが起きたものだと物思いにふける。
 一時は死さえ覚悟したが、案外何とかなるものだ。自分の身は悪運が強いとは思ったことはあるが、ここまで物事がトントン拍子に進むのもなかなかない。

 その間も緩やかに流れる水の音が何とも心地よく、石橋を渡るという普段なかなかない感覚を楽しむ。
 けれど、足が橋の中央に届いた時、隣の彼は急に動きを止める。尻尾を、耳を立て、辺りの様子を忙しそうに探し始めた。
 そして彼は、自分が今立っている石橋をまじまじとと見た。

「おい? どうし——」
「危ない!!」

 いったいどうしたのだと聞こうとすれば、不意に衝撃が走り、いつの間にか足は橋から離れ、次の瞬間には体が勢いよく地面に触れる。石が混じっている土にぶつかる痛みは言葉にできなかった。
 数秒してああ、自分は突き飛ばされたのかと理解するも理由が分からず、反射的に始がいた方向へ顔を向ける。

「な、なんのつもり……っ!?」
「早くにげ──」

──瞬間、轟音が起こった。
 吹き飛び落ちてくる「石橋だったもの」の破片を慌てて躱した。


 理由を問いただす気は失せた。見ればわかったから。 
 目の前には、石橋ごと吹き飛ばされている始の姿、そして常識からはかけ離れた化け物。

 大型車を想起させるほどに巨大な亀が、川の中から這い出てきていた。



*****

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