複雑・ファジー小説

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炎船ナグルファル【第2章 執筆中】
日時: 2017/09/09 19:42
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

古代文明『アーセナル』

遥か昔、大規模な戦乱によりその強大な文明は滅んだ。その時代の生きた証『遺産』だけが世界には残され、それらを納める遺跡は5人の聖女によって守られている。人々は古代文明のことなど忘れ、平和に過ごしていた……



***



よせばいいのに、また新しい小説始めてます……
初めましての方は初めまして!ももたです。
今回は異世界モノ(?)です。人間以外の種族が出てきます。

注意!!
この作品は、多少のグロ表現、下ネタ等を含みます。苦手な方はブラウザバック!



***



第1章:草原の遺産『ガルム』
>>1>>4-11

第2章:森の遺産『ヨルムンガンド』
>>13-

間章壱:グラン族の生態
>>12



***



〈用語解説〉

『アーセナル』……かつて栄えた文明。高度な技術を持っていたらしい。大きな戦争で滅んだ。

原初の民・オリジン……普通の人間。亡国アトランティスに暮らしていた。謎の天変地異がアトランティスを襲い、現在は絶滅したとされる種族。

草原の民・グラン……足が獣のように発達した種族。草原の国プレリオンに多くが暮らしている。丈の長い上着を帯で結んだ民族衣装が特徴的で、男女とも下半身に衣服はまとわないことが多い。寿命は短め。

森の民・バルド……ウサギのように、長く垂れ下がった耳が特徴。五感が鋭く、森の国シャロン=ウッドに大半が生活している。風通しの良い服装をしている。グラン族と同じく、寿命は短め。

砂漠の民・クォーツ……熱さをしのぐため、顔や身体に鱗を持つ種族。砂漠の国サヘリアに多くが暮らしている。ターバンやマントで直射日光を避けた服装をしている。厳格な身分制度があり、装飾の多さで身分が表されている。非常に寿命が長い。卵生。

高山の民・コンダー……両腕から羽が生えていて、足はカギ爪になっており、飛行することができる。高山の国アンデールに多くが暮らしている。袖のないポンチョを被り、気温の激しい変化に対応している。卵生。

雪原の民・フロスタ……顔や体が毛皮に覆われており、他種族に比べると小柄。雪原の国ブリジアにほとんどが暮らしていて、国外には稀にしか存在しない。襟のついた洋服を着ていて、厚着をする傾向にある。クォーツ族に次いで寿命が長い。



***



〈登場人物〉

リーフェン
見た目はバルド族、服装はフロスタ族という、一風変わった女性。外観年齢は、人間の年齢で20歳前後。目深にキャスケットを被っている。小さな飛空挺で旅をしている。男勝りな性格。

バル(12歳)
グラン族の少年。虎の足を持っている。人間に換算すると16歳だが、言動はやや子供っぽい。好奇心が強く、面倒ごとを持ち込んでは周りを困らせる。

ポーラン(9歳)
バルド族の少年。人間に換算すると12歳。バルド族特有の喋り方をする。皮肉屋な民族柄なので、言動がいちいち腹立つ。

ライラ(62歳)
クォーツ族の女性。人間に換算すると20歳。サヘリアの富豪だが、シャロン=ウッドの別荘(砂の館)に住んでいる。物知りで、とても落ち着いている。既婚者らしい。



***



〈お客様〉

銀竹様

Re: 炎船ナグルファル ( No.9 )
日時: 2017/08/29 19:37
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

「詰まってるって……大丈夫なのかよ?」

「大丈夫な訳ねぇだろ!」

リーフェンはそう叫んで、別の操縦レバーを握る。スイッチを押して繰り出されたのは、普通の砲弾だ。しかし『ガルム』はそれを煙たそうにしているだけで、あまり効果はないようである。

「勝てるのか?」

「……正直、かなり厳しいな」

リーフェンは素直に答えた。先ほどの余裕は消えて、防戦に徹している。

「……砲筒さえ直ればどう?」

「そんなことが出来りゃ、こんなに悩んでねぇよ」

リーフェンが乱暴に答えると、バルは「分かった」と小さく呟く。

「……俺が、砲筒を直してくるよ。何日も見てたから、この船の設計は分かる。リーフェンはその間、持ちこたえて」

「は?」

バルはそう言うと、コックピットの扉に手をかける。

「馬鹿か!?死ぬぞ!?」

「『死んでも後悔するな』って言ったのは、リーフェンだろ?どの道、俺たちが負けたら、プレリオンも滅ぼされるんだったら……」

バルはふと思い出す。広大な草原で飼われた家畜たちを追いかけては、伯父によく怒られたこと。狩に行く大人たちに紛れ込もうとして、アルスランに見つかったこと……

「俺はその前に、やれるだけの事はやるよ!」

バルは、リーフェンの瞳を真っ直ぐ見つめる。リーフェンは申し訳なさそうな表情をした。しかし最後には

「……頼む」

と言ってくれた。バルは頷き、コックピットを出て行った。



***



梯子段を登りきると、バルは脱出口を開けた。そこを出たところの側には、この船の主砲が位置しているはずだ。凄まじい強風に髪を押さえながら、バルは目を開ける。

「うひぃ〜〜〜〜」

ソレを見た瞬間、バルは情け無い声を上げた。主砲に詰まっていたのは、『ガルム』の爪だった。先ほどの一撃で刺さったのだろう。引き千切られた指の肉が、余りにも痛々しい。

[聞こえるか、バル?どうだ、直りそうか?]

近くからリーフェンの声がした。ラッパ型の口先を持った管から流れてきた声だ。リーフェンは伝声管と呼んでいたものだ。コックピットと繋がっているようだ。

「さっき少し燃やしたおかげで、隙間ができてる。取り出せそうだ!」

[そうか……]

伝声管越しに、リーフェンの安堵した声が聞こえる。バルは早速、主砲と爪の間に指を差し込み、力一杯引き抜こうとする。

「ふんぎぎぎぎ」

揺れる機体の上では、バランスが取りづらい。転げ落ちたら真っ逆さまだ。バルは慎重に、かつ迅速に、主砲から爪を引き抜いた。

「よし!主砲が直った……」

後は機内に戻るだけだ。バルは安心して振り返る。その時、バルは恐るべきものを目撃した。

「あ……」

口だ。『ガルム』が大きく口を開けている。バルくらいの大きさのグラン族など、噛まずに飲み込まれてしまうだろう。

[バル!主砲は……?]

伝声管から、リーフェンの悲痛な叫びが聞こえた。

Re: 炎船ナグルファル ( No.10 )
日時: 2017/09/04 03:41
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

リーフェンは、砲弾を撃ち込みながら後退することにした。プレリオンまではまだ距離がある。主砲の修理が終わるまでは、逃げる余裕があるだろう。

「くっそ……」

それでも、危機的状況にあることには変わりなかった。主砲に頼りきっていたので、砲弾のストックは少ない。いつまでこの猫騙しが通用するかは、分からないのだ。

「バル……まだか……」

バルが上で作業をしているので、派手な回避行動はとれない。バルを振り落としてしまう。しかし、砲弾を遠くから撃ち込んでいるだけでは、『ガルム』にとっては足止めにもならないようだ。『ガルム』は砲弾にも怯まず、飛空挺を追いかけてくる。

「せめて、目とか急所に入れば……」

『ガルム』と言えど、光さえ失えば、攻撃は出来ないだろう。加えて痛覚はあるのだから、目などに砲弾が入れば、相当苦しむはずだ。リーフェンは『ガルム』の大きな双眸に照準を合わせる。

「頼む……当たってくれ……」

ドォン……ドォン……と、何度も砲弾が撃ち込まれる音がする。顔には当たるようになったが、なかなか目には入らない。大きさ的にはあんなに大きいはずなのに。

砲弾も残り少なくなってきた頃、勝負を焦ったリーフェンは、『ガルム』に少し接近する。そしてもう一度照準を合わせた。

「当たれ……」

ドォン……

リーフェンの祈りとともに放たれた一発は、『ガルム』の左目を潰したようだ。『ガルム』は獲物を見失い、しばらくの間混乱している。

「やっ…………!?」

リーフェンが喜んだのもつかの間、『ガルム』はこちらに鼻を向けた。片目が潰れて、まともに見えていないはずなのに……

そこでリーフェンは思い出す。『ガルム』は兵器である以前に、狼なのだ。暗闇の中でも、その優れた聴覚で、獲物を見つけることは出来よう。まして、こんなにうるさいエンジン音のするデカブツなら……

「バル!主砲は……」

ガルムは大きく口を開けていた。リーフェンは伝声管に向かって問いかける。

[直った!すぐに撃ってくれ!]

バルの返事はすぐに返ってきた。主砲が使えることには安心したが、このままではバルが巻き込まれてしまう。

「ダメだ!お前の避難が先だ!」

[それじゃ間に合わない!俺は大丈夫だから、撃ってくれ!]

バルが叫ぶ。このままでは、飛空挺は『ガルム』に噛み砕かれる。リーフェンは、主砲のスイッチを押すのに一瞬ためらった。しかし、迷う時間は与えられていない。

(その言葉、信じるぞ、バル!)

意を決し、スイッチを押した。業火の槍が、『ガルム』の口の中を貫く。そのまま脳を損傷したらしい。『ガルム』はやがて活動をやめ、その場に大きな音を立てて倒れた。

「やった……やったぞ、バル!」

笑顔とともに、歓喜の声で伝声管に向かって叫ぶ。しかし、その声に答えるものはない。

「バル……?」

リーフェンは狼狽えた。何度も伝声管に呼びかけたが、返事がない。

「そんな……大丈夫だって言ったじゃないか、バル!!」

まさか死んでしまったのか、とリーフェンは涙を浮かべた。今になって、彼の言葉を鵜呑みにしたことを後悔する。リーフェンが1人、悲しみに暮れていると……

「ぉーーーーぃ」

小さく彼の声が聞こえた。幻聴かと疑った。しかし、何度も呼びかけられるうちに、それが外から聞こえていることに気がついた。リーフェンは下を見た。

そこには、バルが五体満足で、飛空挺に向かって手を振っている姿があった。

リーフェンはすぐに飛空挺を着陸させ、地面に降り立つ。そして、バルの元へ駆け寄る。バルは大きく腕を広げ、彼女が飛び込んで来るのを待っていた。

「やったな、リー……」

「こんのっ……クソ虎ぁぁぁぁぁぁああ!!」

「ぐぉっ!?」

予想に反し、リーフェンは正拳突きを繰り出す。バルは涙を浮かべ、意味がわからず吹き飛ばされた。ややあって、リーフェンがバルの胸ぐらを掴む。

「なんで……生きてやがんだよ……」

「酷いなぁ……ちゃんと大丈夫だって言ったのに」

バルはリーフェンの真意を分かっていた。彼女はとても心配してくれていたのだ。その気持ちに答えるように、彼は説明する。

「照射の瞬間に、飛空挺から飛び降りたんだよ。俺の足、ネコ科だからいけると思って……」

「あの高度から、にゃんぱ○りすんじゃねぇ!!」

今度は、リーフェンにゲンコツを落とされた。初めて聞く技名に、バルは戸惑っている。そして何度も、リーフェンに謝罪の言葉を述べた。

そんな時、『ガルム』の方から物音がした。

「!?」

バルが音の方を睨みつけると、『ガルム』の背中に誰かが乗っている。

月明かりに照らされたその姿は、齢10前後のオリジン族と思しき少女だった。美しくも、どこか無機質で、まるで生きていないかのような錯覚に陥る。バルは初めて見るオリジン族の姿に、驚愕の表情を見せていた。

「誰……」

「聖女だ。まだ一仕事残っているな……」

聖女という言葉に、バルは過敏に反応した。この少女が、先ほどまで、自分の祖国を滅ぼそうとしていたのだ。リーフェンはそう言って聖女に近寄る。懐から、小さめの銃を出しながら……

リーフェンは聖女のそばまで寄ると、銃口を聖女に向けた。

「リーフェン!?」

「口を出すな。こいつは世界の敵だ」

そしてトリガーに手をかけた。するとその時、聖女は口を開く。

「危険因子、排除失敗。アトランティスの……」

バチィッ

最後まで言い終わらぬうちに、リーフェンは引き金を引いた。撃ち出されたのは銃弾ではなく、電撃だった。電撃を浴びた聖女は、ビクリと身体を震わせる。そして静かに膝を折り、その場に倒れた。

「聖女の遺体を船に運ぶ。バル、手伝ってくれ」

「お……おう……」

バルは戸惑いつつも、聖女に近づいた。あれほどの電撃を浴びたにも関わらず、聖女の身体は火傷一つ負っていない。不審に思いながらその身体を持ち上げる。

「おっも!?」

身体の小さな女の子だと思って抱え上げたが、質量は見た目に反して大きかった。バルは唸りながらも、どうにか遺体を船に納める。

「聖女の遺体なんか、どうするんだよ?」

「聖女5人を全て倒したら、まとめて処分する。こいつらは危険だ。普通の生き物じゃないんだ」

リーフェンは、飛空挺のわきに付いている収納庫を開けた。そこは、聖女のために作られた場所のようで、他には何も入っていない。

バルは聖女の遺体を、そこに寝かせる。それを確認したら、リーフェンは収納庫を閉めた。まるでそれが、納棺のようだとバルは思った。

「だ〜〜〜つっかれた〜〜〜っ!!」

「あんな死に目に遭ったのに、能天気だな……」

バルはうんと伸びをした。リーフェンはその横で、飛空挺へと入っていく。ちょうど、東の空が明るくなり始めていた。

「あれ?リーフェンどうしたの?」

「寝るんだよ!こっちも一国を救ってヘトヘトだ」

「じゃあ、俺も一緒に……」

「お前は家に帰って、クソして寝ろ!」

リーフェンはバタンと扉を閉めた。締め出されたバルは、ぶーたれながらもプレリオンへ足を向ける。

「はーい……伯父さん、怒ってるかな……」

バルは、あの電撃のように、伯父の雷が落ちるのを想像しながら、帰路に着いた。



***



寝室で一人きりになると、リーフェンはペンたてから、ペンを一本引き抜いた。それで、壁に貼られた図絵の1枚に、大きくばつ印をつける。

「まずは一つ……」

そして、バルが見たというノートを持ってくると、机の上にそれを広げた。ペンをとり、最後の文字の下に、新しく次のように書き加える。

〈C.3394.3.4. 草原の遺産『ガルム』撃破〉

Re: 炎船ナグルファル ( No.11 )
日時: 2017/09/04 01:37
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

数日後

先日の騒動が嘘のように、プレリオンは平穏を取り戻していた。家畜たちも多くは無事だったので、別段生活に困る様子も無さそうだ。

リーフェンは1人、飛空挺に乗りながら、街の方角を見つめていた。

「さて……次の準備をするか……」

まるで自分に言い聞かせるようにして、腰を上げた。なんだかこの国が名残惜しく感じた。それは、あの少年に、もう会えないからだろうか……

「私らしくないな……」

リーフェンは自嘲気味に言う。グラン族の寿命は60年ほど。彼らは光のように年をとってしまう。次に会う時は、土の中かもしれない。

そんな感傷に浸っていると

「リーーーーフェーーーーン!!」

あの間抜けな声がした。最後に聞いておきたかった声だ。リーフェンは昇降口へ急ぎ、ガチャと扉を開ける。

バルは何やら、荷物を背負っていた。

「リーフェン、まだ『遺産』と戦い続けるのか?」

彼は問う。その目は、今まで見たことがないくらいに、強い光を灯していた。

「そうだ」

リーフェンはその目を知っている。それは、迷いのない人の目だ。

「『遺産』は、他の国も同じように滅ぼそうとするのか?」

「……そうだ」

リーフェンは少し迷ったが、素直に答えた。それは、彼の言葉を期待していたから。

「俺も行くよ!」

そうだ、その言葉。

ずっと1人で生きてきた。この『ナグルファル』と宿命を背負って、ずっと生きてきた。自分の種族では、成人となる年を迎え、ようやく旅に出た。そして、最初に出会った……

「一緒に戦ったんだ。俺たち、もう……」

「仲間だ」

リーフェンの意外な言葉に、バルは一瞬面食らっていた。しかし、すぐに堪え切れないほどの笑顔を浮かべ

「おう!」

と胸をどんと叩く。

「家族は……いいのか?」

「伯父さんには話した。揉めたけど、最後には納得してくれたと思う」

バルはふと、父の話を思い出した。母はバルが生んでからすぐに亡くなり、しばらくは父二人子一人のような状態で暮らしていたらしい。そんな父も、バルが幼い頃、狼の群れから狩仲間たちを救って死んだそうだ。

そのせいか、伯父は言っていた。

『お前みたいなクソガキは、オレの子じゃねぇ!アイツの子だ!バカの子はバカらしく、仲間なり国なり世界なり、勝手に救ってきちまえ!!』

ぶっきらぼうな伯父らしい送り出し方だった。今になって、涙がこみ上げて来そうになる。

「それに、リーフェン一人だと、また失敗しそうだしな!」

「うるせーよ、バカ!」

いつもの調子が戻り、互いに小突き合う。炎の船は、新たな仲間を迎え入れ、次なる『遺産』へ向けて飛び去って行った。




第1章 完

Re: 炎船ナグルファル【第1章 完】 ( No.12 )
日時: 2017/09/08 20:26
名前: ももた (ID: jFPmKbnp)

〈間章壱:グラン族の生態〉

それはまだ、リーフェンが草原の国 プレリオンに滞在していた時のこと。リーフェンはバルを連れて、市場で屋台を巡っていた。

「本当に、肉しか売ってねえな……しかも、毛皮ついたまま……」

「グラン族の男は、狩りができるようになって一人前、グラン族の女は、捌けるようになって一人前なんだよ」

リーフェンはグラン族の花嫁修行を想像して、思わず倒れてしまいそうになった。これが、狩猟民族の本領である。

「つーか、お前ら……肉ばっかりで野菜は食わねえの?」

リーフェンは屋台を見回して、生野菜を売っている店がないことに驚いた。あるとすれば、缶詰だ。それも大半の生産国は、プレリオンのお隣である森の国 シャロン=ウッド。リーフェンは昔、その製品を食べたことがあり、それがとてもマズイことを知っていた。

「グラン族はちゃんと内臓まで食べるから、野菜を食わなくても平気なんだ。リーフェンも食べる?羊とか美味しいよ?」

「いや……遠慮しとく……」

砂漠の国 サヘリアほどとは言わずとも、プレリオンは乾燥帯である。作物栽培に土地が向いていない。木も少ないので、果実もとれない。そんな土地柄では、骨の髄までしゃぶり尽くすのも当たり前なのだろう。

ふと、軽食屋の前でたむろする若者たちの姿が目に止まった。彼らの足を見ると、ヤギや、牛や、狼など、様々である。皆一様に、鹿か何かのもも肉を、人間が手羽先を食べる要領でかぶりついている。

「足が草食でも、口は肉食なんだな……」

リーフェンは、見ているだけでお腹がいっぱいになりそうだった。隣でバルはヨダレを垂らしながら答えた。

「色々血が混ざっているからね。俺の足は虎だけど、俺の母ちゃんの足はキリンだったらしいよ」

色似てるしな……と思いながら、見かねたリーフェンが鹿肉を購入する。バルに渡すと、嬉しそうにかぶりついていた。尻尾をブンブン振っている。

リーフェンはふと、バルの全身を眺めた。グラン族の服は、男女とも膝丈のトップスだけだ。打ち合わせ部分が、首もとに斜めに付いていて、それより下は脇腹寄りに沿っている。その上に、お腹のところで帯を締めている。

毛皮や尻尾が邪魔になって、下に服を着れないのだろうが、最初のうちはリーフェンも目のやり場に困っていた。ふと、今まで気になっていた疑問を問いかけてみる。

「なぁ、バル。お前らって、パンツ履いてるの?」

バルは豆鉄砲を食らったような顔をしていた。やがて、真面目な顔をして答えた。

「パンツ……褌のことだっけ?俺は履いてるよ。女の人は履かないらしいね」





以来、リーフェンは風が吹くたびに、グラン族の女性から目を背けるようになったと言う。

グラン族の元ネタは、パンという西洋の妖精なんだって。ヘソ周りから下は獣足で、毛皮が隠してくれるから、そんなに気にならないよ(バル談)

Re: 炎船ナグルファル【第1章 完】 ( No.13 )
日時: 2017/09/14 12:02
名前: ももた (ID: q9W3Aa/j)

第2章:森の遺産『ヨルムンガンド』

草原の国プレリオンを出発したリーフェンとバルは、次に森の国シャロン=ウッドを訪れた。遺跡があるのは、国のはずれだった。しばらくは、近隣の小さな村を拠点にすることになるだろう。

シャロン=ウッドは、採集・農耕が中心の国家だ。スコールの起きやすい熱帯雨林で、森の中には、高床式の住居が立ち並び、その間をバルド族の人々が行き来している。皆一様に、風通しの良さそうな民族衣装を着ている。

着いて早々、バルはその蒸し暑さに驚いた。

「何これ、すごく暑い……」

バルが呟くと、リーフェンも不快そうに答える。心なしか、顔色も悪い。

「気温は高くないが、湿度のせいで……少し……苦し……」

ドサッ

突然リーフェンが倒れた。バルは慌てて駆け寄る。

「リーフェン!?すごい熱だ、大丈夫!?」

リーフェンは、バルの腕の中で、荒い呼吸をしている。ひどく汗をかいていて、健康状態が悪いのは一目瞭然だ。

「リーフェン!どうしよう……病院は……」

「おめー、さっきからうるせーアル」

突然、後ろから声がした。振り向くと、少年が立っている。おそらくバルより年下だろう。黒いぶち模様の耳を持ったバルド族だ。

「君は誰?一体どこから……」

「おいらは、ポーランっていうアル。ドアが開きっぱなしだったから、勝手に入ったアル。声が聞こえたから、様子見に来てやったアル」

バルは、風を通すためにドアを開けていたことを思い出した。加えて、バルド族は五感に秀でた種族である。耳なれない音が聞こえたので、気になって来たのだろう。

「ポーラン、この辺りに医者は?」

「小さな村だから、いねーアル。でも、当てがあるアル」

ポーランは立ち上がると、飛空挺を降りようとする。バルはドアに鍵をかけて、リーフェンを背負って連れ出した。

「治せるかもしれねーアル。ついてくるヨロシ」



***



バルは、リーフェンを背負ったまま、ポーランの後をついていく。ポーランは村を通り抜け、遺跡と反対側の方角へズンズンと進んでいた。

途中、すれ違う住人たちの視線を感じた。グラン族が珍しいのか、皆こちらを見ている。

「こんな田舎によそ者が来たんで、皆びっくりしているだけアル。今は、ライラの所へ行くアル」

「ライラ?」

この辺りでは聞かない名だったので、バルは聞き返す。

「この辺りでは、一番長く生きてる人アル。物知りで、困ったことがあったら、皆ライラを頼るアル」

バルは、ヨボヨボの老婆を想像した。そんな人を頼って大丈夫なのかと不安になる。そんなことを考えている間に、目的地に着いたらしい。

バルは息を飲んだ。バルド族の木造住居とは違い、それは石造りの豪邸だった。大きな屋敷を、庭園の花々が取り囲んでいる。

ポーランは先に敷地に入り、扉を叩く。

「ライラ!お客さんアル!」

「客じゃないよ、患者だ!」

バルが訂正すると、ポーランは舌打ちをした。先ほどから思っていたが、バルド族というのは、どいつもこいつも態度が悪い。

「分かったアル……ライラ!お客さんとうるせー患者アル!」

「俺は病気じゃねぇ!!」

バルが突っ込むと、ポーランは素知らぬ顔をしている。そんな問答をしていたら、扉がガチャっと開かれた。

「どちら様でしょうか?」

出迎えたのは、クォーツ族の女性だ。綺麗な顔立ちだが、顔や腕に鱗がある。人間で20歳くらいだろうか。

森の国にクォーツ族が住んでいることに、バルは驚く。クォーツ族は宝石が好きと聞いていたが、その女は質素な服装をしていた。

「こいつら、村はずれの飛空挺の奴アル。シェラ、ライラにこの女を診て欲しいアル!」

シェラと呼ばれた女は「かしこまりました」と答え、中に案内してくれた。

ポーランの話では、この家は『砂の館』と呼ばれているそうだ。住んでいるのはライラという女性と、その召使いのシェラの2人だけ。しかしその館は、2人で暮らすにはあまりに広いと感じた。

シェラは二階に上がり、ある扉の前でノックをした。

「奥様、病人が運ばれて参りました」

「分かったわ。開けて差し上げて」

シェラはガチャっと扉を開く。そこで彼らを迎えたのは……

「グワッ!」

……アヒルだった。見知らぬ人に警戒しているのか、アヒルはグワグワとけたたましく鳴く。

「静かにしなさい、サマルカンド!カモ鍋にして食べてしまうわよ!」

「グワワッ!?」

その声に一喝されると、アヒルは大人しくなった。大層にも、サマルカンドという名だそうだ。

「ライラ、そいつはアヒル アル。北京ダックにするヨロシ」

ポーランが声をかけた人物は、シェラ同様クォーツ族の女性だ。シェラとは違い、腕輪や帯など、いたる所に貴金属や宝石を散りばめている。この女が主人であるようだ。

年は、リーフェンとさほど変わらないように見える。ポーランは、彼女がこの辺りでは一番年上だと言っていたが、バルはすぐに納得した。クォーツ族は寿命が250年ほどもある、長寿の種族だからだ。

「病人がいるそうね。そこのベッドに寝かせてあげて」

ライラは、部屋にあるベッドを指差した。バルはリーフェンをそっと下ろす。意識が朦朧としているようだ。ライラはすぐに、バルと場所を変わる。

「症状が出たのは何時くらいかしら?」

「ついさっきだよ。プレリオンから来て、シャロン=ウッドに着いたら、急に熱が出てきて……」

ライラはリーフェンの症状を調べるため、顔まわりを触る。一瞬、ライラは電流が走ったように硬直した。

「ごめんなさい、診察するから、皆外に出てくれるかしら?」

ライラは作り笑顔を浮かべると、そう言って振り向いた。バルは不安に思ったが、ポーランに急かされ、ライラにリーフェンを預けて部屋を後にした。


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