複雑・ファジー小説
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- 死血誤惨
- 日時: 2017/10/14 00:14
- 名前: 梶原明生 (ID: 97SCsTUE)
あらすじ
毎年10月11月と開かれる神社へのお詣り、そう「七五三」。我が子の幸福と無病息災を願って行われる行事でもある。今年も全国でいつもの七五三で賑わうはずだった。そう、あの時までは…鈴美、琴也、美弥は今年7歳5歳3歳になる三兄弟。電気工事士の父と主婦である母は、共に「真倉の光」教会の信者。二人はある恐ろしい、10年に一度行う儀式の真実を知る。「今年は黄泉の年。7歳5歳3歳の三兄弟を生け贄に捧げるだけではない。我等真倉の光信者が台風が来る十の月一五に自害いたし、真倉神の復活に魂を捧げるのじゃ。」二人はある男に助けを求めるものの、当日拉致されてしまう。そのある男の天宮竜也は途中、8人の男女の助っ人を得て、台風の中、警察も呼べない事態で一路親子の救出に向かう。「空手VSゾンビ」の飽くなき対決が今始まった。
- Re: 死血誤惨 ( No.7 )
- 日時: 2017/11/16 15:07
- 名前: 梶原明生 (ID: JnkKI7QF)
…部屋を出る前に配下の者が尋ねる。「あの、坂本様。」「馬鹿者、私は坂上だ。信者の爺から養子縁組みで盗った名前だ。いい加減覚えろ。」「も、申し訳ありません。」恐れおののき、配下の者は退散する。「全く、どいつもこいつも。お布施は私の金だ。それを横領だっ、糾弾だっ、ふざけるな。皆死ねばいいのだ。ゾンビ騒ぎに紛れておさらばバイバイてか。フハハハッ…」タオルを嗅ぎながら不適な笑みを浮かべる坂上。一方天宮一行は険しい森の中を、コンパスと地図だけで踏破していた。藤堂が休憩中に愚痴をこぼす。「たく、よくこんな山道スイスイ歩けるな。何なんだよあいつ。」山崎が気がつく。「もしかしたら自衛隊員かも。」「自衛隊…」「よく見たらあれは半長靴だし、オリーブ色のポンチョに地図とコンパスだけで踏破するなんて並みの登山家でも無理だろう。ましてこんな台風の中、平気で俺達を導けるなんてありえない。」「た、確かに…」山崎は思い切って叫んだ。「なぁ、あんた電気工事士の前は自衛隊にいたんじゃないか。」「まぁな。第34普通科連隊にいた。」「やっぱりそうか。俺の知り合いも自衛官なんだ。」「マジか。…さて、時間だ。皆、休憩終わり。あれを見ろ、もう目と鼻だ。」天宮が指差す茂みの向こうに、そびえ立った教団施設が厳然と姿を表した。「やった、行こう行こう。」具志上がまくし立てる。そこへ彼らを見ているもうひとりの客がいた。「あー良かった。あの人達についてけば避難所につける。イラストレーターのオフ会女子会で田舎のペンションに泊まろうなんて企画作る奴が馬鹿。」一人悪態つきながら天宮一行を追いかける一人の女性。その頃教団施設では、馬鹿デカい講堂で全信者が整然と集まっていた。優に1000人は越えるか。「皆さん、それでは黄泉の国で会いましょう。」坂上はそう言ってある薬剤の入ったワイングラスを、信者全員で一気に飲み干すよう促した。暫くすると一人、また一人と阿鼻叫喚の叫び声と共に、吐血して死に絶えていく者達で溢れ返った。「そうだっ皆、俺のために死ね。」狂気の眼差しで叫ぶ坂上。彼は講堂の裏口から平気な顔で出ていった。「さて、琴也は生け贄にするが、鈴美に美弥はまた10年前みたいにわしの慰め物にするかのう。イシシシ」不気味な笑顔を見せて施設内へと戻る坂上。…続く。
- Re: 死血誤惨 ( No.8 )
- 日時: 2017/11/19 16:23
- 名前: 梶原明生 (ID: SKF4GgT1)
…ボストンバッグを手に取り、ファスナーを開ける坂上。「ウホホ、まずこの5000万はワシのもの。残りは裏口座に隠してあるから、台風が去る明日の朝には二人を連れて逃避行かのう。イシシシッ」不適に笑う姿は正に不気味そのものだ。一方、天宮一行は柵で仕切られた教団施設前にたどり着いていた。「どうすんだよ、鍵かかってっし。」長瀬が悪態をつく。「任せな。」天宮が背嚢から道具類を出して、門のセキュリティーシステムの解除を始めた。「ほっ、さすがは電気屋にして元自衛隊だ。手際がいいな。」山崎がボヤく。「てなわけで、セキュリティーを解除した。開けてみな。」「よっしゃ俺が。 」徐に藤堂が、柵型の門扉を開ける。「あれ、本当だ。」門扉はいとも簡単に開く。「さて、ルームサービスに行くか。」天宮が冗談混じりに敷地内に入る。「おい、妙だな。ドア開いてるぞ。」藤堂がドアを開けて不審がる。「どうぞお入りくださいって感じだ。何か罠臭いな。」「考えすぎだよ〜。たまたま開いてただけさ〜。」具志上が拍子抜ける口調で安心させる。「良かった良かった、ここが避難所か〜助かった。随分豪華な建物ね。これなら安心安心。」突然割り込んできた見知らぬ少女に一同絶句した。「あ、あなた誰。」岬が見回すように尋ねる。「え、私。梅野愛。こう見えてもイラストレーターよ。てか、卵かな。専門学校行ってるし。あ、皆さんも台風でここに避難して来たんですか。」天宮が割って入る。「君は真倉の光教団の人間か。…」「は、真…何ですそれ。違いますよそんな。」長瀬が食い込む。「絶対そうだよ。私達を監視するために来たんだ。汚えー奴らさ。」「え、何、あなた怖い。何なの。」つかみかかる長瀬を止める天宮。「まぁ待て。どう見ても教団の人間じゃない。多分台風の避難民だ。」と言った矢先、閉めたドアからいきなり「ガチャン」という音と「ピーッ」という電子音が鳴り響いた。そして特殊合金製のシャッターが窓を閉め始める。「何だよこれは。」藤堂が叫んだ。「しまった、これは罠か…」「おい、あんた、さっき門を開けたろ。開けてくれよ。これじゃ連れ戻しても帰れんぞ。」藤堂が天宮に頼むのだが「ダメだ。電子系統が厚い剛板で覆われてて、内側から工作できない仕組みになってる。門扉の所とは大違いだ。これを切れるほどの工具は残念ながら持ち合わせてはいない。」「そんな…」山崎がつい口に出す。「え、何がどうなってんの、え、え、え、え、怖い。」…続く。
- Re: 死血誤惨 ( No.9 )
- 日時: 2017/11/21 16:51
- 名前: 梶原明生 (ID: NOqVHr1C)
…梅野が頭を抱えつつパニックになる。天宮が決断する。「とにかく、皆の大事な人を探しだすのが先決だ。それから出口を探そう。だが問題なのは、これだけの罠を仕掛けたとなると、向こうさんもかなり抵抗する構えだということだ。ここには運良く格闘技経験者が勢揃いしている。9人で協力しあって戦おう。」「おうっ、望むところだ。」山崎に藤堂が名乗りを上げた。「ちょっと待ってよ。えー、9人て、わ、私も。そんな私関係ないし。何が何だか知らないけど、戦うなんて、部外者だし〜っ。」そこで天宮は彼女に事の詳細を聞かせてやった。「と、言うわけなんだ。どのみち俺達と行動を共にしないと、ここからはでられない。安心しろ、君は俺の近くにいろ。守ってやるから。ただし、協力してくれ。」岬が前に出る。「彼女は私がそばにいます。」「そうか。君なら心強い。頼んだ。」「はい。」「うわ〜助かった。」梅野が胸をなで下ろしたのも束の間。何かドスンという音が玄関ホール中に響いた。「何だっ。」「廊下奥から聞こえたぞ。」明かりは玄関ホールにあるものの、廊下奥は薄暗い。そこからなにやら人影が現れた。身長190はある男がヨロヨロと歩いてくる。「何だ、何だよありゃ…」具志上がおぞましい姿に震え上がった。服はズタズタで、顔は青白い上、醜く焼けただれたような皮膚。目は灰色に濁っていた。さすがに天宮も呆気に取られた。「ウガーッ」牙をちらつかせて大きく口を開ける大男。「あんた一体何者だ。真倉の光のもんか。」天宮の声に反応する大男。巨大を揺らして突進してくる。「やめろ、さもないと正当防衛で…」言ってる場合じゃないなと悟った天宮は、大男の脇腹からすり抜けて後ろ蹴りを叩きつける。「あんたが悪いんだぜ。」「フゴッ、フガーッ。」再び立ち上がり、大男は襲ってくる。しかし藤堂が羽交い締めにしてパイルドライバーをお見舞いする。「こいつ不死身か…」死んでるはずが、再び起き上がった。「違う、藤堂さん、皆、こいつは人間じゃない。いや、生きてなんかない。ゾンビだ。」「ぞっ、ゾンビだと。…」躊躇している間に襲いかかってきた。しかし。「ウリャッ」傘に仕込んでいた剣で長瀬が首を叩っ切る。「キャーッ。」梅野が半狂乱になって叫んだ。「天宮さん、あんたの言う通り。こいつらゾンビだ。だから銀の剣に弱いし、頭を叩き落としたら確実に倒せる。教団トップの坂上は自分の信者をある薬剤で一旦死なせ、その後ゾンビにする計画を立てた。」…続く
- Re: 死血誤惨 ( No.10 )
- 日時: 2017/11/28 17:36
- 名前: 梶原明生 (ID: MqiTTCa3)
…倒れた大男の衣服で剣に付いた血を拭い去る長瀬。「だから明日の朝、目覚めたゾンビが一斉に街に放たれた後、死血誤惨の生け贄に7才5才3才の子供をゾンビに差し出すのさ。」「許せねー。」天宮は再度警察に電話した。しかし答えは朝と変わらなかった。「もしもし、あれ、通じなくなった。」長瀬が笑う。「ハハハッ、無駄だよ。警察も台風と道路寸断にやられてるから、早くても明日の朝にしか来ない。多分通信網も遮断されただろう。文字通り絶対絶命。自分達で何とかするしかないのさ。」天宮が全く別な質問をする。「戦うしかないが、君は何故そこまで詳しく知ってるんだ。」少し固まる長瀬。「友達がここに入っててさ。最後に連絡してくれたのさ。それが何か。」「いや、別にいいんだ。じゃあとにかく皆さん、行こうか。」「ああ。」「しかし、ゾンビは明日なるんだろ。こいつは何なんだ。」藤堂が疑問をぶつける。「どうやら予定より早くゾンビ化しているみたい。気をつけて。油断したらやられるよ。」長瀬の一言に皆震え上がった。しかし止まるわけにもいかない。天宮は廊下を進みはじめた。奥に事務所らしき部屋がある。中には誰もいない…はずなんだが。新空手の上村がある人影に気づいた。「あ、綾乃。綾乃か。」まるで幽霊のように立ち尽くす華奢な女性に近づく上村。「綾乃じゃないかどうした。お姉ちゃんは、ん、どうした。心配したんだぞ。」長瀬がまた剣を抜いた。「上村さん、どいた。そいつもう死んでる。」「よせ、バカ何言ってるんだ妹は生きてるじゃないか。」振り向いた矢先に上村の腕に噛みつく綾乃。その形相は見る見るうちに先ほどのゾンビと変わらぬ肌になる。「うわーっ、綾乃、やめろ、やめろ。お兄ちゃんだぞ。」山崎が綾乃の額を打撃して口を開かせ、足刀蹴りで突き放した。「下がってっ大丈夫か上村さん。」山崎が上村を庇うと、再度牙をむく綾乃に長瀬が立ちはだかった。「やめろーっやめてくれっ。」上村の叫びも空しく、長瀬は銀の剣で綾乃の首を叩っ斬った。「うわーっ綾乃っ綾乃っ。」制止を振り切り変わり果てた妹を抱きしめる。「テメーっ何で綾乃をっ。」長瀬に向かって殴らんばかりの勢いを天宮が制した。「やめろって、彼女のせいじゃない。妹さんはゾンビ化してた。もうどうすることもできなかったんだ。」「クソっクソっ。」やり場のない怒りを机を殴ることでしか晴らせない上村。「坂上、許せねー。奴も見つけ出してやる。」怒りに燃える天宮…続く。
- Re: 死血誤惨 ( No.11 )
- 日時: 2017/12/04 01:20
- 名前: 梶原明生 (ID: HrJoNZqu)
…と同時に後悔もあった。あの時北川の拒否を遮ってでも家に泊まるべきだったと。今はただ無事を祈るのみだ。一方、父母と別れて監禁された鈴美達三兄弟は、部屋から逃げようと必死だった。「んもう、琴也何とかして。このドア開かないよ。」「えーっ僕に言われてもう。」次女の美弥がだだをこねる。「えーんっママはママはっ。」「お姉ちゃんの私がいるでしょ。泣かないの。必ず会えるから。」宥めてる間に琴也が部屋のクローゼットの引き出しを片っ端から開け始める。「あったっ。探してみるもんだよお姉ちゃん。ほら鍵。」「でかした琴也。きっともう一つの鍵を忘れてったのね。さすが我が弟。」冗談紛いに言う鈴美。早速合い鍵でドアを開ける。廊下に灯りはあるが、不気味に薄暗く感じる。「見つからないように、お父さんお母さん探そ。」「うん。」素直に答える琴也と美弥。三兄弟は走り出した。その頃天宮達は施設一階を捜索するものの、坂上は見あたらず、講堂に伸びる廊下は頑丈な防火扉で塞がれていた。長瀬が何か壁に違和感を覚えて一気に剥がす。「何か書いてあるよ。行動すべき扉の理解者は二回食いごとにあり。何だこれ。」天宮が悟る。「行動は講堂を意味するんじゃないかな。扉の理解者は鍵で食いごとだから食堂かなにかか。」藤堂が促す。「ああ、とにかく行ってみよう。」こうして天宮達は階段を上がるのだが…灯りはあるものの、同じく薄暗い。一行が歩き始めたその時。何やら階段を上がってくる一団の足音が聞こえた。「ゾンビだ。しかも30人はいるぞ。上村が叫ぶ。「藤堂さん、上村君。女性陣連れて奥へ。俺と山崎君と具志上君はここでゾンビを食い止める。」「ええ、望むところっすよ。」「なんくるないさっ。」3人はそれぞれ構えた。「あたしも行くよ。」長瀬が傘の剣を抜く。「頼もしいよ。それじゃ一丁行くか。ヤーッ。」天宮は先陣切って飛び出した。ゾンビの伸ばされた腕を掴み、上段足刀蹴りで右のゾンビを叩き折る。続いて掴んだゾンビの首を掴み、後ろのゾンビに叩きつける。しかし、横から来たゾンビを避けきれない。牙剥き出しで食らいつくところを間一髪長瀬が叩き切る。その反対側では山崎、具志上が拳にもの言わせて殴り倒していた。山崎は袖を掴み、引き倒してから頭部に回し蹴り。続いてくるゾンビに外受けしてジャブストレートアッパーにフック。まさにスピードとタイミングが勝負の戦いだ。次々襲い来るゾンビだったが、何とか無事撃退できた。…続く。