複雑・ファジー小説
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- シークレットガーデン-殺戮人形と呼ばれた少女の物語-
- 日時: 2019/09/08 08:51
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 9nuUP99I)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=16274
彼女の手は汚れていた。 彼女の身体は穢れていた。 彼女の心は——。
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御観覧ありがとうございます。姫凛と申す者でございます。
こちらの作品は私は現在執筆中の《シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜》の本編に書ききれなかった零れ話ブルー様よりいただきました《ヒスイ》ちゃんの主人公と出会う前、半生を綴ったもの物語となっております。
※表層はトサカ君視点で贈る物語り
裏層はとある新米研究員の物語り
ネタバレ要素を含みます。グロ/残酷描写などござますので苦手な方はご注意くださいませ。
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-殺戮人形と呼ばれた少女の物語-table of contents↓
prologue:血肉を啜る童女>>01
用語解説>>05
◆罪の花散る時>>06-09 >>12
[表層 旅の記録-モノローグ-]>>13-25
登場人物>>04
第一階層[ドラゴンとドラゴンネレイド] >>13-15
第二階層[ウサギとドラゴンネレイド] >>16
第三階層[カジノでのドラゴンネレイド] >>17
第四階層[ウラギリのドラゴンネレイド] >>18
第五階層[カイラクゾクとドラゴンネレイド] >>19-23
第六階層[ナミダを流すドラゴンネレイド] >>24
第七階層[アンサツ者ドラゴンネレイド] >>25
[breaktime-解説-]>>26-27
[裏層 死の秒読み段階-カウントダウンデス-]
登場人物>>28
第一階層[新米研究員の日常] >>29-32…執筆中
第二階層[特別なキャンディ] >>
第三階層[少年R] >>
第四階層[いなくなった実験動物] >>
第五階層[消え半減したモルモット] >>
第六階層[そして誰もいなくなった] >>
最下層 [堆く積まれた木偶人形] >>
-殺戮人形と呼ばれた少女の物語-Completion!
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-感情のない少女の物語-table of contents↓
prologue:人形に感情は否か
登場人物
用語解説
◇人形に感情は応か >>
第一階層[売られてゆく娘] >>
第二階層[娘の品定め] >>
第三階層[光を失った娘] >>
第四階層[娘の決意] >>
第五階層[娘の犯した罪] >>
第六階層[娘の贖罪] >>
最下層 [娘に感情は] >>
-感情のない少女の物語-Completion!
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[殺戮人形と呼ばれた少女の物語]
【第九章 荒くれ者の最期】で狂犬との熾烈な戦いを終えた主人公達。
依頼主である王に報告を済ませ仲間の実家で一休み、そして一晩明けた次の日、主人公が発見したのは眠るように冷たくなっている仲間の姿だったという。
[感情のない少女の物語]
【第六章 裏カジノ編】にてカジノオーナーとの熾烈な戦いを終え仮面の国にある宿で一休みしていると人形が主人公が泊る部屋に訪れこう言った「——人形に感情なんてないよ」と。
彼女は本当に人形なのだろうか——? 人形に感情はいるのだろうか——?
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*その他作品*全て複ファ板です。
*シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜
本編。ただの村人だった少年ルシアと愉快な? 仲間達の冒険ファンタジー。
*Secret Garden ~小さなの箱庭~
↑を新な登場人物、物語、設定など追加し始めから書き直したもの。
*シークレットガーデン -魔女と呼ばれた少女の物語
第一章〇〇の封じた過去編を選り抜きしたもの。完結済み。
*「シークレットガーデン-椿の牢獄-」
第四章 監禁・脱走を○○様目線で書いたもの。完結済み。
*美しき雌豚と呼ばれた少女とおくびょう兎と呼ばれた少年
第五章○○封じた過去編の続きを書いたもの。完結済み。
+シークレットガーデン-感情のない少女の物語-
三年前くらいに書いていた元ネタ。
+シークレットガーデン-殺戮人形と呼ばれた少女の物語-
新しく書き直した新ネタ。
執筆開始日2017/11/17〜
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- 第一階層[ドラゴンとドラゴンネレイド] ( No.13 )
- 日時: 2017/11/30 09:23
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: C0FcWjM6)
人の心が具現化した精神世界"プリンセシナ"
持ち主によって、造り、深さ、見せる記憶は違う——百人居れば百通りのプリンセシナが存在するということ。
だがしかし千差万別のプリンセシナでも大きく分けることで二種類に分類することができる。
一つ目は参加型。
プリンセシナの持ち主である人物の過去の記憶世界の登場人物として参加し体験する世界。
この世界では登場人物達にルシアの姿は見えており、会話をすることも可能。
まるで今まさに現実時間(リアルタイム)で起きているかのように感じることが出来る。
——現実的な体験であっても所詮は過去に起きた出来事の再現。起きた過去を書き換えることなど神にもできない。
二つ目は劇場型。
プリンセシナの持ち主である人物の過去の記憶を劇や映画を観るかのように映像として観て体感する世界。
この世界では登場人物達にルシアの姿は見えておらず、会話をすることは不可能。
過去に起きた出来事の記録映像を傍観者として観るだけしか出来ない。
——過去を変える権利すら手に入れていない者に過去を変えることなどできない。
大きく分ければこの二種類に分類される。……が、人の心とは他人(ひと)が思うよりも複雑で難解、二種類の世界が入り混じった世界も存在すれば、どちらにも属さない世界もまた存在する。
未だよくわかっていないというのが我々の見解だ。
とある研究員の論文.
- Re: シークレットガーデン-殺戮人形と呼ばれた少女の物語- ( No.14 )
- 日時: 2017/11/30 10:24
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: C0FcWjM6)
(ルシアside)
身体を包み込んでいた温かい何かが消えた。
たぶんヒスイのプリンセシナの中に着いたんだと思う。いつもプリンセシナに入る時は、温かい光に包まれて目を閉じて、身体を包み込んでいた温かいものが消えて、目を開けると見たこともない世界が広がっていたから。
だから目を開けた。もうプリンセシナに来るのは四回目。慣れたくないけど少しは慣れてしまった。だからもう少々な事では驚かな——
『ブオオオオオオオオオン』
「うわっお!?」
……い、つもりだったんだけど突如唸りを上げた獣のような咆哮に驚いて尻餅をついちゃった。イタタ……地面が砂浜だからそんなには痛くなかったけど。って、砂浜?
顔を上げて改めて辺りを見渡して見ると、此処は僕も良く知っている場所だった。
上に張られているのは見えない結界、そして深海魚たちが空を飛ぶ鳥達のように自由に泳いでる。周りにある建物はどれも古くて崩れていて苔まみれ、砂浜にはワカメとかの海藻類や色とりどりのサンゴ礁が生えている……そうかここは海の中にある国アトランティスなんだ。
「なんです。この素敵な深海の世界はっ。
ご主人様との式は海の見える小島の教会でと思っていましたけど、ここのような海の中にある教会で挙げるというのもいいですね♪」
じゃあもしかしてあの大きな獣みたいな声は、二匹のドラゴンとかいう生き物のもの?
「ちょっとあそこの獣がうるさいですけど、まああんなのはパピコちゃんのご主人様への愛の劫火(ごうか)にかかれば一瞬で炭と化します♪」
ブルースノウ王から狂犬を退治する為に此処へ来た僕達はなぜか犬じゃなくて、トカゲみたいなワニみたいな頭の大きな獣、ドラゴンと戦うはめになったんだ。
ドラゴンは絵本とかのおとぎ話の世界で最強生物と呼ばれている化け物。
でも彼らはおとぎ話の世界にしか存在しないはず、なのにどうして現実の世界に存在しているんだろう?
「新居はどうしますぅ? やはり海辺の白い家です? それともいっその事、ここに新居を建ててしまいましょうか♪
ここでしたら、深海魚が食べ放題でヘルシーですし♪」
後から現れたドラゴンは空間を破ると言うか、世界を隔てる壁のような物をぶち破って"コチラ側”に侵入してきたって感じだったし……。
それに"あのドラゴン"が言っていた「帝竜(ていりゅう)を召喚しやがった」ってどうゆう意味なんだろう。
ドラゴンにも名前とかあるのかな。帝竜ってことは偉いドラゴンだったのかな?
「あの……ご主人様?」
考えれば考える程、疑問ばかり増えていって答えがみつからない。
「私(わたくし)の話聞いてます?」
僕達の前に現れた二匹のドラゴン。そしてヒスイのプリンセシナ第一階層目がここなのはどんな理由があってのことなんだろう。
ここが闇病にかかったきっかけのようなものがあるのかな。だとしたらそれは一体。
「ご主人様!」
「ふぇ、あっはい!?」
びっくりした……気が付いたらパピコさんの顔が目の前にあった。
それにどうしてだろう……すごく怒っているように見える。
「もう! 私の話聞いてました?」
え……? パピコさん何か僕に話しかけてたの?
「はあ……」
うわっすっごいわざとらしい溜息をついているよ。
ちょっと考え事に集中しすぎていて悪いことをしてしまったかな……。
「ごめんね、パピコさん」
「いいですよー、どーせご主人様はヒスイさまの事で頭がいっぱいなんですからー」
はぶててるっ。すっごい棒読みでそっぽを向いて唇をとぎらせてパピコさんは言っている。
小さな子供みたいだと、少しくすりと笑いそうになったけど我慢我慢。もしここで笑ってしまったらさらにパピコさんの機嫌を損ねてしまうよ。
「それよりも。ここは何なんです?」
あっそうかパピコさんは知らないんだっけ。僕はこの場所の説明をしてあげた。
パピコさんはふーんと興味なさげに聞いていたけど、
「つい昨日の光景が現れるだなんて珍しい事もあるもんですね」
少し難しそうな顔をして頷いていた。
やっぱりこれって珍しいことなんだ。プリンセシナの案内人であるパピコさんが言うんだから間違いはないはずだよ。
「それで何処へ行きましょう?」
「そうだね……まずは広場に行こうか。そこで僕達はドラゴン達に出会ったから」
「りょーかいでございます♪」
チャキッと敬礼するパピコさん。本当彼女は感情の浮き沈みが激しいというか、切り替えが早いというか、白黒がはっきりしている人だなと思う。
アトランティスはドーナツみたいな円形で中心にぽっかりと空いた穴、広場に向かって迷路みたいな細い通路が入り組んでいる造りなんだ。
始めて来た昨日は迷いに迷って、大変だったけど。二回目の今日はもう迷わないぞ。……たぶん。
『ギャハハハハッ!!』
『ブオオオオオオオオオン』
遠くから聞こえてくる二匹のドラゴンの咆哮。
『お願いだからここではない何処か遠くへ逃げてぇぇぇぇええええ!」
少し違ついてきたヒスイの叫び声。そうか今この世界での僕達は——。
- 第一階層[ドラゴンとドラゴンネレイド] ( No.15 )
- 日時: 2017/12/01 10:34
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: hr/PPTT1)
『やめろ……くるなッ! 死ぬのか? この俺さまが死ぬ?
アアッ! やめろやめろやめろ! やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろぉぉおおおおお!!』
——突如聞こえた断末魔。誰かの最期の叫び声。死にたくないと願う声が消えた。
僕達が広場に辿り着いた時には"もう全てが終わった"後だった。
「……終わったんだ」
僕達が見たのはピンっと張っていた糸が切れたように身体が揺らめいて、繋がっていた糸が切れた操り人形のように、ヒスイがへたりとその場に尻餅をつくところだった。
広場にはあれだけ大きな声で鳴いていた二匹のドラゴンの姿はなかった。
あるのは崩れた石像と何か大きなものが通ったように真っ直ぐ直線に抉られくりぬかれて地層が丸見えとなっている地面。
「また随分と凄い事があったみたいですね」
まじまじと抉られた地面を見ながらパピコさんが言った。確かに僕もそう思う。
どんな攻撃をしたらこんなことになるんだろうって。ヒスイがあの時「逃げて!」って言ってなくて、僕があのまま駄々をこねてこの場に居続けていたらどうなったんだろう。
この攻撃に巻き込まれて全滅? なんてことになってかもしれない。
地面が抉られている部分は丁度、僕達が立っていた部分だから。ヒスイが立っている場所から後ろは抉れていないみたいだけど、彼女が立つ正面はもう……全部崩れてる。原型が一部でも残っているのが不思議なくらい酷い有様だよ。
「ヒスイさまはどうしてこの記憶を残しておられたのでしょう」
「どうゆう意味です?」
パピコさんが言った記憶を残したって言葉に違和感を感じだ。だってプリンセシナっていうのは忘れてしまいたい、心の奥底に封印した記憶がしまわれている場所で、意図的に記憶を残す場所ではないはず?
「あっ、いえっ、なんでもございません♪」
でもその疑問には答えてくれなかった。
パピコさんは場が悪いような、しまった! って表情をして慌てて誤魔化しの台詞を吐いていた。どうしてパピコさんがそんな見え透いた嘘をつくのか分からないけど、触れてほしくないことなら無理に聞いたらいけない……よね。
「ここの階層で見られるのはここまでのようですね。ささっ、サクッと次の階層へ向かいましょう♪」
「そうだね」
パピコさんに促されるまま僕達は、広場のから少し東に行ったところにあった第二階層と書かれた扉に手をかざした。
扉はそれだけで自動的に内側へと開き始めて、次の階層へと僕達を招き入れる。
次の階層では何が見えてくるんだとう。ワクワク半分ドキドキ半分って感じだな。
人の封じた過去の記憶を楽しむのは不謹慎だと思うしそれに、見られたくない心の闇を盗み観る事になるんだからあまり好い気もしない。
ぶつぶつとそんな事を考えながら僕はパピコさんと第二階層へと続く扉を通った。
†
「きゃはは♪ まさかこの記憶をとっておくなんて物好きダネ♪」
誰もいなくなったアトランティスに響く童女の声。
「あまり不要な干渉はするなと言ったはずですよ」
背後からやって来た童女を叱るのは落ち着いた青年の声。
「だってツマンナイだもーん♪ アタシも"あの子"でアソビたーい♪」
「何を言っているんですか。兎で十分遊んでいたではないですか」
くるくると回り朽ち果てた街の建物を蹴り飛ばし遊ぶんでいる童女に青年はそう諭すが
「シュヴァルツァーダケあの子でアソブなんてずるいヨー。きゃはは♪」
「なるほど」
納得したように青年は大きく頷くと口角をニッと上げ
「私はいいのですよ。遊んでさしあげた"記録は既に消去(デリート)"していますので」
手の持っていた古い文字で書かれた分厚く重たい本をぱたっと閉じ
「さあ——お遊びはもういいでしょう。観測を続けますよ」
「ハーイ♪」
身体を翻し青年と童女はシュッと音もなくその場から消え去った。
アトランティスからは本当に誰もいなくなった。第一階層からは本当に誰もいなくなった。
- 第二階層[ウサギとドラゴンネレイド] ( No.16 )
- 日時: 2017/12/04 11:24
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: GbYMs.3e)
温かい。
第二階層に来て最初に感じた感想。瞼を開けてみると見えて来たのは緑豊かな大自然。
小鳥が歌い、ウサギやキツネ、タヌキとか小動物たちが楽しそうに踊っている豊かな森。
「深海の街の次は森の中ですかあ。自然豊かで素敵な場所でございますね、ご主人様♪」
この森は南の森? 僕の故郷の近くにある森に似ているような気もする、けど多分違うと思う。南の森もこんな風に穏やかな春の気候で沢山の動物たちが暮らしていて、家族がピクニックするのに最適な場所……だったのは過去の話だから。
「海の中にお家と言うのも魅力的ですが、やはりここは定番に森の中にひっそりとウッドデッキのお家と言うのも乙なものでございましょう。
動物たちに見守られながら、愛を育んでいくのですっキャ♪」
自然豊かな森だった南の森はとある事件のせいで植物も動物も誰も生きられない死の森へと変えられてしまったんだ。そう……あいつのせいで。
「そうです! ウッドデッキも良いですが、御伽噺(おとぎばなし)に擬(なぞ)えてお菓子の家と言うのはどうでしょう?
私そうゆうのメルヘンチックなお家に住んでみるの夢だったのです♪」
あいつのせいで多くの血が流れ、多くの涙が流れ、多くの人の命が消えていった。あいつは許せない……そう思っていたのに、いざ目の前からいなくなってしまったら、達成感よりも虚無感の方が強く残ったような気がする。心にぽっかりと大きな穴が開いてしまったような、そんな気が……。
『まだこの本途中なの。最後まで読みたいから、ここでもう少し読んでるね』
あれは……ヒスイ?
ぶつぶつと過去の出来事を思い返しいると、勝手に歩き出していた僕の足は目的地まで辿り着いていたみたい。
森の中にぽっかりと拓けた草原の広場、その中央に佇んでいる一本の大樹……名前は確か時渡りの聖樹さまって言ったけ? 女神さまよりも昔から此処に生えているっている凄い長生きしているお爺さんの樹。
その下にいるのはヒスイと多分この世界の僕達。
話している内容から察するに、賢者の隠れ里で女神さまのいるアンコールワットへ行く許可を貰ってこれから言って来るよって事をヒスイに伝えている所だと思う。
昔あった戦争のせいでヒスイが生まれてきた種族、ドラゴンネレイドは臆病ウサギって呼ばれいる、リリアン達が忌み嫌らわれているそう。
だから聖地であるアンコールワットにヒスイを近づけさせない事、それが長から僕達に提示した条件。
僕には戦争とか、今ドラゴンネレイドが抱えている状況とか、よくわからないけど、ヒスイが辛いのを独りで我慢しているのは分かる。……分かっているのに何もできなかったんだ、あの時も、今も。
『わかった……すぐに帰って来るから』
僕たちは手を振りながらアンコールワットに向かって歩き出した。ヒスイは見えていないはずなのに、僕から過去の僕たちが見えなくなるまで手を振り続けて、見えなくなった丁度で手を振るのを止めた。
いつも思ってたけど、ヒスイは目が見えない事を感じさせないくらいに普通に生活している。ごく普通に生活しているからたまにヒスイの目が見えていないことを忘れそうになってしまうよ。……駄目だよね、正常者が障碍者の手助けをしないといけないのに。
『さてっと』
座り直して手に持っていた子供用の絵本を開く。ヒスイには僕たちの気配は感じていないみたい。それを良しとするのは間違っているのかもしれないけど、彼女の隣に座って絵本を覗き見てみる。
「あれ? 何も書いてない?」
開かれている絵本は白紙で何も書かれていなかった。
「それはそうでは? だって彼女は目が見えないのでしょう?」
「そうなんだけど……でもヒスイは読書家さんでいつも沢山の本を読んでいる姿を見かけるよ」
「盲目なのにですか?」
「……うっ」
そう言われたら反論できない。確かに目が見えないのにどうやって読書を楽しんでいるんだろう。ちらりと見たヒスイの横顔は読書を楽しんでいるかのように、楽しそうに微笑んでいた。
もしかして本当は見えているとか? ……でも本は白紙なのにどうやって……色々頭を悩ませた僕の疑問は小さな一言で解決する事になった。
『真っ白なのに何がそんなにおもしろいの?』
「えっ!?」
声をした方を振り向くとそこには、小さな子ウサギ……じゃなかった、ウサ耳が生えた子供達が興味津々って感じでヒスイを取り囲んでいる。
『なんで目をとじてるんだよー』
不思議そうにヒスイの顔を覗かせているのは、ピンっと伸びた黒いウサ耳と短く整えられた黒髪に黒真珠のような黒い瞳で全体的に黒一色でまとめたやんちゃそうな男の子。
『その、絵本、わたち、知ってる』
可愛い茶色く黄ばんだウサ耳のぬいぐるみを抱えて途切れ途切れに話しているのは、垂れた長い茶色のウサ耳と栗色の長い髪と銀杏(イチョウ)の葉のような瞳で全体的に茶色系な物静かそうな女の子。
『ちょっとチミたち、知らない人と話してはいけないとせんちぇいが言ってましたよ』
かけたメガネをくいっと上げて後からやってきたのは、ライオンの鬣(たてがみ)のようなふさふさしたウサ耳と肩まで伸ばした毛先がカールしていて、透き通った海のような瞳の真面目系な男の子。
可愛い子ウサギ三人組。隠れ里に住んでいる子供達かな?
自分を取り囲んでいるあの子達に気が付いたヒスイは優しくお姉さんのように微笑んで
『これは点字の絵本だよ』
『てんじー?』
「点字ってなに?」
子供たちと一緒になって首を傾げるとパピコさんに笑われてしまった恥ずかしい……。
『触ってみると分かるよ』
差し出された絵本に子供たちは手を伸ばす。
ご主人様も如何です? とパピコさんに言われて僕も触ってみることに。
『ブツブツだ!』
『ポコポコ!』
『いえこれはデコボコですね』
「人によって感じ方は違うんだね」
触ってみた紙はブツブツもポコポコもデコボコもしていた。丸い点みたいなものが等間隔にあるような気がするけど、もしかしてこれが?
『それが点字。そのプツプツでお姉ちゃんは絵本を読んでいるんだよ』
『へえー目とじてても本が読めるなんてずげーな』
『……すごい」
『そ、そんなこと勉強すれば僕にも出来ますよっ』
爛々と目を輝かせてヒスイの持っていた絵本を触っている子供達。
僕たちがアンコールワットに行っている間、寂しい思いをしていないか心配だったけど
「良かった、ヒスイは子供達と楽しい時間を過ごしていたんだね」
ほっと胸をなでおろしていると、隣に座っていたパピコさんが難しそうな顔をして声を潜めて
「……どうでしょうね」
何処かを指さしながら言った。引きつけられるようにその方向を見てみると
『きゃあああああああ!!?』
持っていた籠(かご)を振り上げ、尻餅をつく一人の女の人がいた。白いウサ耳とブロンドのなびく長い髪が綺麗なリリアンの人はどうしてあんな、まるで化け物でも見たような形相で驚いているんだろう。
『あ、ドロシー先生』
やんちゃそうな男の子がへたりと座り込んでいる女の人に声をかけた。でも女の人は呼吸困難になっているみたいに、口をパクパクさせて顔からはどんどん血の気が引いて行き蒼白とした表情になっている。
『こ、子供達!』
絞りだした声で女の人は子供たちを呼んだ。なんで呼ばれたのか分かっていない子供たちはきょとんと首を傾げてお互いの顔を見合わせ女の人の元へと駆け寄った。
女の人は子供たちを強く抱きしめて
『大丈夫ね? なにもされていないわね? 怪我はしてないわよね?』
何度も何度も、無事を確認する。そんなあの子たちを傷つけるようなことヒスイがするわけないじゃないか、と僕は言いたくなった、けど。
『貴方に敵意がない事はお仲間からお聞きしています。……ですが、私達は貴方達から受けた傷を忘れた日はありません。
貴方がそれに関与している、していないに関わらず、私達は貴方を許す事は出来ません。
どうか……私達に武器を取らせないでください。どうか……何も知らない子供達にあの悲劇を見せないでください』
子供たちに身体を抱えられ助けられ、重たい身体を引きずるようにして女の人たちは隠れ里へと帰って行った。
これがリリアンとドラゴンネレイドの間にある溝なんだ。
ヒスイにリリアンたちとどうにかしたいと言う気持ちはない、リリアンのみんなもそれは理解してくれている、でも、なのに受け入れ合うことは出来ない。
それだけリリアンとドラゴンネレイドの間には深すぎる溝はあるから。
「この階層の記憶はここまでのようです——行きましょう」
前を歩くパピコさんに続けて僕も重い足を動かした。
次に待ち構える第三階層と書かれた扉を探すために。
- 第三階層[カジノでのドラゴンネレイド] ( No.17 )
- 日時: 2017/12/07 09:54
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: UQpTapvN)
身体を包み込んでいた眩く暖かな光が消えていくのを感じる。第三階層に着いたみたいだ……ここが第三階層……瞼を開けて景色を見る前に僕を……。
「臭いッ!」
鼻が曲がるような強烈な臭いが襲った。
なんだろうこの臭い。甘い木苺と酸っぱい柑橘と爽やかな石鹸とその他色々な香りを混ぜて、新たな臭いを生み出しちゃったみたいな。
絵を描くときに使う絵具をがむしゃらに色々混ぜてみたら、最終的に生まれるのは何色なのか分からない、しいて言うなら黒? って感じのあの色を臭いにとして具現化させたものみたいな……。
鼻を手の甲で塞いで薄っすらと瞼を持ち上げると、突き刺すような眩しい光が目の前一杯に広がった。
眩しい過ぎて一度瞼を瞑って慣れてきた頃にもう一度瞼を開いて見てみる。
「あっここ、カジノだったんだ。どうりで……」
全体的に金色の空間。ドルファフィーリングが経営している二大娯楽施設の一つ、仮面の国にある巨大カジノ。そのエントランスだ。だからなんだ、沢山の人たちが行き交うカジノの玄関口だから、いろんな臭いが残ってて臭かったんだ。なるほど。
金で出来た壁に掛けられているのはどこかの貴族様か王族の人たち? それともどこかの企業の社長さんかな? モフモフのお髭を生やしたお爺さんたちの肖像画が壁一列に掛けられて正直これを夜中に見たら怖い。
床も金。ひかれている絨毯(じゅうたん)は深紅の色をしていて何だったけ? リアさんが言っていたんだけど、確か……ペルシャ絨毯とか言う貴族様御用達の高級品らしいよ。
肌触りも最高でこんなのが家にあったらヨナも喜んだ、だろうに。
建物を支える柱も金。床屋さんの入口付近に置かれている青と白のシマシマがクルクル回っている置物みたいな模様。……もしかしてそれをイメージして造ってあるとか? まさかね。
吹き抜けの天井も金。下げられているシャンデリアも金、聖誕祭(クリスマス)で使うイルミネーションみたいな煌びやかな装飾がされていた色鮮やかに輝いてとても綺麗。
「森の次は目がチカチカする賭博場ですか……」
隣まで歩いて来るとパピコさんはやや残念そうに言った。
そう言えばパピコさんっていつも数秒遅れてやってくるよね。次の階層へ続く扉に入る時、僕の方が数秒早く入るからかな?
「パピコさんはこんな風に派手な場所はあまり好きじゃないんですか?」
「ええ。そうですね。お祭りなどの派手さは好きなのですが……こうゆうネオン色の派手さはあまり……」
驚いた。ってきりパピコさんはこうゆうの好きなタイプの人なのかと思ってた。だって、伸ばした青紫色の髪を頭の左右で、濃い紫色のリボンで結んでいて、出目金みたいな大きな青紫色の瞳は何でも入ってしまいそうだし、紫陽花のが描かれた和服の背中には半透明の青紫色の虫の羽のような……丸い羽根が左右二枚ずつ蝶みたいな感じで付けて、仮装大会に出る人みたいな恰好しているから……ってきりそうなのかと思ってたけど……違うんだ。
「それよりご主人様?」
辺りを見渡し
「このカジノでは何かあったんです? ヒスイさまのプリンセシナにこのカジノがあるって事は何かあったと思われるのですが?」
何かあった……か。そうだろうね。
ここでヒスイ……いや僕達全員とって衝撃的な事があったんだ。そのせいでヒスイの心が傷つき闇病に侵されてしまったのかもしれないね。
でもそれをどうパピコさんに伝えたらいいのかな? ありのまま全てを? ……でもそれは。どうしようかと顔を俯せて悶々と考え込んでいると。
『…………』
僕とパピコさんの間を誰かが素通りして行った。誰? って自然と新線が目の前を通って行った人を追った。
コツコツと金で出来ている床を軽く小机音が聞こえる。見覚えのある白い生地に若草色の蝶の模様が描かれている和服と呼ばれる和の国特有の衣装を着ている女の子の後ろ姿。ヒスイだ。
ヒスイが向かっている方向から、反対側を見てみるとカジノ内へ続く扉のところで爛々と目を輝かせている田舎少年少女たち……って、過去の僕たちなんだけどね。
カジノなんて始めて来た場所だったから。それに金色の建物なんて初めて見たから。でも傍から見たら只のおのぼりさんにしか見えない……は、恥ずかしい。うう、あの時は気づかなかったけど僕もあんな無邪気にはしゃいでたんだ。ランファのこと怒れなかったかも……ごめん。
「ご主人様。あの女、黒服と何やらヒソヒソと怪しく話してますよ?」
あの女って……。パピコさんはたまに口が悪くなるから困る。
パピコさんが言う通りヒスイは黒いサングラスに黒いスーツを着てビシッと決めている男の人を捕まえて何かをヒソヒソと話していた。
確かヒスイが黒服さんと何か話してくれたおかげで通常フロアの奥にあるVIPフロアへ案内してもらえたんだよね。……吐き気がするような場所だったけど。
「気になりません?」
「えっ、何が?」
「だってご主人様に隠れてコソコソと行動してヒソヒソと声を潜めて話しているんですよ?
きっと何か良からぬことの相談をしているんですよ」
そ、そうかな……。パピコさんはたまに疑り深いところもあるかた困る。
でもそうだね。ヒスイが何を話していたのか気になると言えば気になるかな。あの時はごにょごにょとしか聞こえなくて、話している内容はさっぱりだったからね。
エントランスに置かれている観賞植物の陰に隠れるような形でヒソヒソと話している。ヒスイと黒服さんに近づいてみた。二人には僕たちの姿は見えていないみたいだから安心して進み聞き出来る?
『メシアの生き残り及び特異点、その他を連れて来ましたナナ様へ連絡お願いします』
「えっ!?」
ヒスイは僕がメシアだってことを知っていたの?
黒服を捕まえたヒスイは身をかがめて誰にも聞こえないように囁くようにして言った。
黒服はこくんと一回頷くとスーツの襟元(えりもと)に付いている黒いポッチ? 小さなアミアミの機械みたいな物を口元に近づけて
『ナナ様ヒスイがメシアと特異点、おまけを捕らえて来たそうです。どうしましょう』
そう言い終わると今度は耳の穴の中に入っている黒い物体に手を当ててうんうんっ頷いて
『……かしこまりました』
ヒスイの方を一度見て、次に過去の僕たちを見た。えっと……何がどうしたの?
一連の行動を見たけどやっぱりよく分からなくて。僕の住んでいた村には魔法や化学や、なんてものは存在しなかったから。全部人力で、みんなや動物たちと協力して行うのが当たり前だったから。こんな新型の機械とか見てもよくわからないよ……。
「パピコさんになら今のがどうゆう意味だったのかわかりますか?」
隣で僕と一緒に黙って見ていたパピコさんに訊ねてみた。
「さあ?」
でもパピコさんは意味ありげに首を傾げるだけだった。……意地悪。
「次の階層への扉はあのVIPフロアへ続く廊下から行けるみたいですよ」
話を切り替えるようにパピコさんは次に向かうべき場所を指さして言う。
でもまあ、そうだね。今はパピコさんの事を詮索するよりも、ヒスイの心の闇を晴らす事が先決だよね。……闇病がいつまで大人しくしてくれるかわからないし。
穢れ化するまでの時間は人それぞれ。でも早い人は発病したその日のうちになってしまったらしい。ヒスイは毒の件もあるし。いつまでもつかなんて誰にもわからない。出来るなら早く治してあげた方が良いに決まってる。
僕たちは第四階層へ行くため廊下を歩き出した。