複雑・ファジー小説
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- シークレットガーデン-殺戮人形と呼ばれた少女の物語-
- 日時: 2019/09/08 08:51
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 9nuUP99I)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=16274
彼女の手は汚れていた。 彼女の身体は穢れていた。 彼女の心は——。
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御観覧ありがとうございます。姫凛と申す者でございます。
こちらの作品は私は現在執筆中の《シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜》の本編に書ききれなかった零れ話ブルー様よりいただきました《ヒスイ》ちゃんの主人公と出会う前、半生を綴ったもの物語となっております。
※表層はトサカ君視点で贈る物語り
裏層はとある新米研究員の物語り
ネタバレ要素を含みます。グロ/残酷描写などござますので苦手な方はご注意くださいませ。
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-殺戮人形と呼ばれた少女の物語-table of contents↓
prologue:血肉を啜る童女>>01
用語解説>>05
◆罪の花散る時>>06-09 >>12
[表層 旅の記録-モノローグ-]>>13-25
登場人物>>04
第一階層[ドラゴンとドラゴンネレイド] >>13-15
第二階層[ウサギとドラゴンネレイド] >>16
第三階層[カジノでのドラゴンネレイド] >>17
第四階層[ウラギリのドラゴンネレイド] >>18
第五階層[カイラクゾクとドラゴンネレイド] >>19-23
第六階層[ナミダを流すドラゴンネレイド] >>24
第七階層[アンサツ者ドラゴンネレイド] >>25
[breaktime-解説-]>>26-27
[裏層 死の秒読み段階-カウントダウンデス-]
登場人物>>28
第一階層[新米研究員の日常] >>29-32…執筆中
第二階層[特別なキャンディ] >>
第三階層[少年R] >>
第四階層[いなくなった実験動物] >>
第五階層[消え半減したモルモット] >>
第六階層[そして誰もいなくなった] >>
最下層 [堆く積まれた木偶人形] >>
-殺戮人形と呼ばれた少女の物語-Completion!
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-感情のない少女の物語-table of contents↓
prologue:人形に感情は否か
登場人物
用語解説
◇人形に感情は応か >>
第一階層[売られてゆく娘] >>
第二階層[娘の品定め] >>
第三階層[光を失った娘] >>
第四階層[娘の決意] >>
第五階層[娘の犯した罪] >>
第六階層[娘の贖罪] >>
最下層 [娘に感情は] >>
-感情のない少女の物語-Completion!
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[殺戮人形と呼ばれた少女の物語]
【第九章 荒くれ者の最期】で狂犬との熾烈な戦いを終えた主人公達。
依頼主である王に報告を済ませ仲間の実家で一休み、そして一晩明けた次の日、主人公が発見したのは眠るように冷たくなっている仲間の姿だったという。
[感情のない少女の物語]
【第六章 裏カジノ編】にてカジノオーナーとの熾烈な戦いを終え仮面の国にある宿で一休みしていると人形が主人公が泊る部屋に訪れこう言った「——人形に感情なんてないよ」と。
彼女は本当に人形なのだろうか——? 人形に感情はいるのだろうか——?
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*その他作品*全て複ファ板です。
*シークレットガーデン 〜小さな箱庭〜
本編。ただの村人だった少年ルシアと愉快な? 仲間達の冒険ファンタジー。
*Secret Garden ~小さなの箱庭~
↑を新な登場人物、物語、設定など追加し始めから書き直したもの。
*シークレットガーデン -魔女と呼ばれた少女の物語
第一章〇〇の封じた過去編を選り抜きしたもの。完結済み。
*「シークレットガーデン-椿の牢獄-」
第四章 監禁・脱走を○○様目線で書いたもの。完結済み。
*美しき雌豚と呼ばれた少女とおくびょう兎と呼ばれた少年
第五章○○封じた過去編の続きを書いたもの。完結済み。
+シークレットガーデン-感情のない少女の物語-
三年前くらいに書いていた元ネタ。
+シークレットガーデン-殺戮人形と呼ばれた少女の物語-
新しく書き直した新ネタ。
執筆開始日2017/11/17〜
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- 罪の花散る時 ( No.8 )
- 日時: 2017/11/26 08:20
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 6/JY12oM)
「王様太り気味ですもんね」
リアのその言葉に
「貴様王に向かってなんて口の利き方を!」
左右に陣取っている雪白の騎士たちが持っていた槍の切っ先をルシア達へ向ける。
鼻すれすれにまで槍に怖じ気づき動けない。いや動けば鋭い矛で貫かれてしまうだろう。
オロオロと何も出来ないでいると
「よいよい」
ブルースノウ王が雪白の騎士たちを止めた。
「しかしっ王!」
食い下がる側近の騎士にブルースノウ王は
「このような言葉遊び如きでいきり立つな」
そう言い聞かせ、リアを見る。
「フォッフォ……貴様だけだぞ、ワシにそのような口が利けるのは」
愉快そうな蔑んだ瞳で。
「……さいですか」
目を合わせないままぺこりと軽く頭を下げると
「さあ帰った、帰った!」
「王は貴様らとは違いお忙しいお方なのだぞ!」
リアの無礼に耐えられなくなったのか、雪白の騎士たちが声を荒げ槍の切っ先で突いてきたのだ。
早く帰れと。
言われなくてもそうする。此処にこれ以上いる理由などないのだから。
雪白の騎士たちに背中を突かれながらルシア達は王の謁見の間を後にしそのままの足取りで城も追い出された。
城の出入り口である巨大な門の前で
「あーーーームカつく!!」
地団駄を踏み全身全霊で怒りを表しているランファ。
「まあ気持ちは分かるけどね。あの王様すっごく嫌味な感じだったから」
「シルさんまでっ!?」
シルと呼ばれた賞金首の娘はランファと一緒になって
「ムカつくぞー! 王ー!!」
城の中に居て聞こえないはずのブルースノウ王に向かって文句を言っている。
(気持ちは分かるけどせめて城から離れた場所で言って!)
ルシアの願いは聞き遂げられなかった。
†
一通り叫んで落ち着いたか、もしくは諦めたか、それともただ疲れただけか、ランファとシルは大人しくなり辺りは静かとなった。
(……良かった)
ほっと胸をなでおろす。
「ねぇねぇーリア」
普段なら決して出さない猫撫で声でリアに纏わりつくランファにリアは
「なんだよ。気持ち悪い」
嫌そうな顔をして絡んできた腕を振り払う。
「ンガー! なんだとー!」
ジタバタして怒っているランファはいつもの事だと放って置くとしよう。
「……つかれた」
ぼそっと独り言を呟いたシレーナの言葉をリアは聞き逃さなかった。
「それはいけない。危険な旅には可憐な花と甘い蜜は必要不可欠。
お姫様方、宜しければ我が家でお身体をお休めくださいませ」
何処の紳士だと言いたくなるような口調と仕草でで台詞を吐き九十度に腰を曲げ頭を下げたリアの前に仁王立ちし
「ふっふんっ。そこまで言うならしょうがない、泊ってあげても……」
腰を持って胸を張り偉そうに言っているランファに頭を上げたリアは
「あーそうですか。嫌なら無理して泊らなくていいですよ。どうせボロ屋ですからねー」
口をとぎらせてそう言うと
「さ、行きましょ」
シレーナとシルの間に入り、二人の肩に腕を回しさっさと自分の実家へと帰って行ってしまった。
「あっ! 待ってあたしも行くのー!!」
さっさと行ってしまったリア達を走って追いかけて行くランファ。
僕達も行こうか、と隣に立っているヒスイに声をかけたのだが
「……」
ヒスイは青いどこまでも広がる空を見上げ、自由に飛び回る鳥を見ているかのようだった。
だが彼女の閉じられた瞳は青い空も、白い鳥も見えてはいないはず、見えない瞳で何を見ているのだろう、と気になったルシアは
「どうしたのヒスイ?」
そっと軽く肩を叩く。
「ん? ああ……ごめんっぼーとしてたみたい」
てへっと舌を出して照れ笑い。
「そんな心配そうな顔しなくても大丈夫だから。ほら置いていかれちゃうよ」
どんどん離れてゆく仲間達を指さしヒスイは刀の鞘を杖代わりに使い先を歩いて行く。
何故だろうか。前を歩く彼女の背中が何処か寂しげに感じるのは。
何故だろうか。笑っていたはずの彼女の顔が泣いているよう見えたのは。
何故だろうか。このまま彼女が何処か遠くへ行ってしまうのではないかと不安になるのは。
色々な事を心の中で思いつつ、考えつつ、ルシアはヒスイの後を追い、先を行く仲間達の背を追いかけリアの実家である大豪邸へと向かった。
今日はそこに泊まり明日また次の目的について話し合えばいいやと。
——ヒスイには"明日”また聞いてみればいいやと軽い気持ちでそう思っていた。
†
街の誰もが寝静まった夜更け、夜の帳の景色を眺める女が一人。
今宵は星一つない曇天模様。人々が寝静まっているため街の灯りもない暗闇の景色を寂しく眺める女が一人。
——違う。女は瞼を閉じている。
閉じた瞼の中にあるのは光をうつさない瞳。
終焉の世界しかうつさないその瞳で女は大粒の涙を流す。
何を憂いているのだ。
細い指で握るのは杖代わりにいつも使っている刀ではなく
手のひらサイズ小さな小瓶。
思いつめたような。覚悟を決めたような。
小鬢の蓋を開け、中に入っていた無色透明な液体を飲み干す。
ぐらりと身体が揺れる。ビクビクと痙攣し口からは赤い液体が噴き出される。
よたよたした足取りで女は寝床へ向かいそのまま
——ばたりと倒れ静かになった。
- 罪の花散る時 ( No.9 )
- 日時: 2017/11/28 13:13
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: u3utN8CQ)
夜が明けた。
昨日の夜から曇天模様だった空は大粒の涙を流していた。雷雲鳴る土砂降りの大雨だった。
(……やっぱり気になる)
昨日から、いやこの国に来てから、それともカジノで驚愕の真実を知った時から、ヒスイの様子が可笑しかった。
朝日が昇ると同時に起き上がったルシアはあらかじめ設定していた目覚まし時計の電源を切ることも忘れ、寝巻から洋服へ着替え身なりを整えることも忘れて部屋を飛び出した。
隣の部屋、ヒスイが泊る部屋へ向かって。
ドアの前に立ち深呼吸。焦る気持ちを抑え軽くドアをノックする。
「朝早くにごめん。ルシアだけとヒスイ……ちょっといい?」
「…………」
返事はなかった。
物音一つ聞こえない部屋の中から人のいる気配が感じられなかった。
まだ夜が明けたばかり。こんな時間に何処かへ出かけたのか?
「ヒスイ……?」
もう一度ドアをノックしてみたがやはり反応がない。
鼓動が早まる。もしかして……と嫌な予感が過る。
ドアを叩く力が強まる。ドアノブを捻ってみると、
「……開いてる」
ドアに鍵はかかっていなかった。不用心な。だが今は好都合
(ごめんなさい)
心の中で謝罪するとルシアはドアを開け部屋の中へとこっそりとひっそりと足を音をたてないように静かに入って行く。
部屋の中は薄暗かった。
電気はついていない。カーテン、窓は全開に開け放たれていた。
朝日が少し眩しく、外から入って来る雨風が冷たい。
鼓動がどんどん早まる。痛いくらいに。
「…………」
部屋に備え付けのトイレ・お風呂の前を通り奥にある寝室に入りかかったところでルシアは"見つけた"
「…………」
寝具の上に仰向けに横たわっているヒスイの姿を。
(なんだ……寝ていただけだったんだ……)
ふぅと額に流れる冷や汗を拭った。
胸の上に祈りを捧げる信者のように指を絡ませ置いたまま布団の上から横たわり目を瞑っているヒスイに近寄り
「布団ちゃんと着ないと風邪ひいちゃうよ?」
そう優しく声をかけ身体の下にひかれた布団を引き抜こうとする、すると違和感を感じた。
ヒスイの胸が上下に動いていない。細身の彼女にしては身体が鉛のように重い。
一度引いた冷や汗がまたぶり返すようだった。鼓動がまた痛いぐらいに早まる。
これ以上関わってはいけないと本能が告げる。でも……。
「ヒスイ?」
ルシアは触れてしまった。彼女の身体に。
「……う……そ……でしょ?」
触れたヒスイの身体は鉛のように重く、鉄のように固く、そして——氷のように冷たかったという。
- Re: シークレットガーデン-殺戮人形と呼ばれた少女の物語- ( No.10 )
- 日時: 2017/11/27 18:08
- 名前: ブルー (ID: yWcc0z5O)
来ました!!ブルーです!!
ってぇ、ヒスィィィィ!Σ(×_×;)!ってなっております。
海の国の皆様になにか恨まれてるのか、覚悟の決めた内容、何故、小瓶の液体を飲んだのかと気になり過ぎておりますっ!!
続きをまっております!!
- Re: シークレットガーデン-殺戮人形と呼ばれた少女の物語- ( No.11 )
- 日時: 2017/11/28 13:12
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: u3utN8CQ)
まさか本当に見に来てくださるとはΣ(・ω・ノ)ノ!
ありがとうございます(●^o^●)
確かに今の段階だとなんのこっちゃか分からないですよね苦笑
裏層まで話が進んだら、覚悟の内容、小瓶の中に入っていた液体を飲んだ理由がわかるかもです。
(ゆっくり亀さんなのでいつまでかかるか分かりませんが……)
海の国の皆(もとい壊楽族の人々)に嫌われているのは簡単です。ヒスイちゃんがドラゴンネレイドだからです。
ドラゴンネレイドとして生まれてきたから……ただそれだけの理由です。
*かつて行われた世界で最も強い種族を決めるというくだらない戦争。
そこで流れた多くの血と涙。
ドラゴンネレイドに敗北した壊楽族の民は王を奪われ、国を追われ、ドラゴンネレイドからいろいろ散々目に合わされきた彼らは決して忘れない。
この憎しみを復讐心を絶対に——忘れることはない*
- 罪の花散る時 ( No.12 )
- 日時: 2017/11/28 14:50
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: oyEpE/ZS)
「ああ……」
朝日が昇っていたことを告げる鶏のそれよりも
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっ!!」
大きな少年の叫び声がゼルウィンズの街に響き渡ったという。
†
その声で起きてきた仲間達はすぐにヒスイの眠る寝具を囲い悲し気な顔で話し合う。
「どうして……なんで……」
誰に問うでもない質問を投げかけるシル。
だが誰もそれに答えることは出来ない。その答えを知らないから。
「チッ」
苛立ちを露にして足元にあったゴミ箱を蹴り上げるリア。
「ひっく……なんで……いっぐ」
一枚のハンカチではとても拭ききれない大粒の涙を流すランファ。
鼻から垂れる水もテッシュで一度かむくらいではおさまらない。
「……これ」
看護師としての観点からヒスイの身体を調べていたシレーナは、空になった小さな小瓶を寝具の下から取り出し立ち上がった。
手のひらサイズで表面には角が生え二枚の翼が生えた馬のシールが貼られている見たことない小瓶だった。
この家の物かとリアの方を見たが、知らないと首を振っている。この家に元々あったものではないとすると、ヒスイが自分で持ち込んだものなのだろうか。
「ちょっと貸してみ」
シレーナから小瓶を受け取り鼻を近づけ中身の臭いを嗅いでみる。
「これ……毒か」
「……ん」
臭い嗅いだ、だけで毒だと分かるリアも凄いがそれを聞いてごく自然に頷けるシレーナもまた凄い。
「……変」
部屋を見回しながらシレーナは言った。
小瓶に入っていた毒物は即効性の高いもので飲めばすぐに全身の組織を破壊し苦痛にもがき苦しみながら死に至るそうだ。
だが横たわるヒスイの身体は綺麗そのもの。その見た目は眠っているのと同じ、とてもそんな苦しんだようには見えない。
吐血することもあるようだが、口元はもちろんのこと、布団や床にひかれている絨毯(じゅうたん)にも血などは付着していなかった。
——ここには何者かが存在した?
一瞬頭の中に過った疑問。だがその疑問はシレーナの次の言葉でかき消された。
「……まだ……脈ある」
「えっ!?」
あんな氷のように冷たかったのに——そんなまさか、と思いシレーナが持っていたヒスイの左手首を軽く握ってみる。
やはり体温は感じられない。人形のように固く冷たい。これはもう……。
「……ぁ」
僅かだが指にトクンッと波打つ感触を感じた。
今にも消えてしまいそうな弱々しい鼓動を感じた。
ヒスイはまだ生きている!
諦めかけたルシア達に見えた僅かな希望の光。
「……解毒剤……作る」
今は仮死状態と言われる者らしい。
息をしておらず、心臓も動いていないのに? と、色々疑問な点は多くあるが今はそんな事よりも解毒剤を作ってヒスイを助ける事の方が先決だ。
解毒剤を作るのに何が必要かと、ルシアがシレーナに聞くと
「…………それだけじゃだめ」
顔を俯せシレーナは静かにそう言った。
「そんなどうして!?」
なんで、なんで、と聞くルシアに
「治したところでまた自殺するからだろ」
リアは冷たく事実を言い放った。
「え……これは自殺という事?」
第一発見者であるなら薄々は分かっていたこと。でも認めたくなくて仲間達に聞く。
これは自殺ではないと言ってほしくて。
「自殺だ。ヒスイは自分の意思で自分の命を絶ったんだ」
でも事実は変わらない。現実はいつもルシアに牙をむける。
解毒剤を作ればヒスイを蘇生することが出来る。でも蘇生したところでヒスイはまた自害を選んでしまうだろう。
どうすれば、どうすればこの負の連鎖を断ち切ることができる?
頭を抱え悩み苦しんでいると
『悩めるご主人様も素敵♪』
ルシアの心中へ直接、誰かが語り掛けてきたのだ。甲高いキャピッとしたぶりっ子しているような、若作りが大変そうですねと、言いたくなるような女性の声だ。
普通ならこんなショッキングな体験をして深い精神的ダメージを負って疲れているのだと、空耳、気のせいだと流すところ。
だがしかし、ルシアはそうしない。何故ならこの声の主を知っているから。
『パピコさん!』
『はいっ♪ シルさんのプリンセシナぶりでございますねっ、ご主人様♪』
パピコ。それは人の心が具現化した世界プリンセシナと呼ばれる場所の案内人の女性だ。
人懐っこい性格の彼女はルシアのことをご主人様と呼び、べっこう飴のようにベットリと絡みついてくるような話し方をし、ルシアが右腕手首にはめているブレスレットを通じて、ここではない何処か遠くから話しかけているのだ。
パピコの声はルシアの心の中に直接語りかけているため他の者には聞こえない。
ルシアの声もまた心に思った声なので他の物には聞こえない。
ただ第三者からは呆然と立っているように見える為、変な人認定されてしまうのが玉に瑕(きず)だ。
『パピコさん、今ヒスイが大変なことになっててそれで……』
今は忙しいからまたあとでと言おうとしたルシアの言葉を遮るようにパピコは
『そのヒスイさま? とかいう女、闇病にかかっていますよ』
『……あとにってえぇ!?』
ルシアは驚いた。まさかヒスイまでも闇病に感染していたなんて。
闇病とは死の流行病。
かかれはもう治す手段はないとされ、死ねば穢れと呼ばれる人ならざる化け物へと変化してしまう襲ろしい病。
そんな病にヒスイが侵されていただなんて……気づきもしなかった。
『もしかしてヒスイが自殺した理由って……』
『確かな事は分かりませんが、闇病にかかっていることも理由の一つかもしれませんね』
闇病は別名心の病と呼ばれることもある。
それは闇病にかかる者の多くが過去・今現在に罪を犯したものだからだ。
——罪悪感を感じた時人は罪人(つみびと)となる。
単衣(ひとえ)に罪人と言っても千差万別だ。
物を盗んだ。人を殺した。など分かりやすい罪人もいれば、
幼子が親にお菓子を食べてはいけないと言われたのに食べてしまい、それがバレて怒られた幼子は罪の意識を感じる。それも立派な罪人だ。
闇病の前に犯した罪の大小など関係ないのだ。
「ルシア君? ボーとしてるみたいだけど大丈夫?」
パピコと話をしていると、不意にシルが心配そうな顔を覗かせた。
「え……? あっ、うん、大丈夫だよ」
ぎこちのなく笑ったあと
「みんなあの——きいてほしいことがあるんだけど……」
パピコと話した内容を仲間達にも伝えた。
ヒスイが闇病にかかっていること。
おそらくそれが原因で自殺したのではないかということ。
自分がヒスイのプリンセシナに行き闇病に穢れてしまった心の浄化をするから、その間にみんなは解毒剤を作って、と。
「そうすれば負の連鎖を断ち切ることができると思うから」
力強い口調でルシアはそういった。
「闇病で……なんとなく分かるかも。私もそうだったから」
自分の胸元を強く握りしめながらシルは言う。
「あの頃は死にたくて、死にたくて、死にたくて、しょうがなくて……でもユウがそれを許してはくれなくて……そしてルシアが救ってくれたんだよね」
俯せた顔を上げシルは優しく微笑む。
彼女もまた闇病に侵された罪人なのだ。
人の心の世界プリンセシナに行くには水色の特別な石、精霊石というアイテムが必要不可欠。
この石は元々ルシアの持ち物ではない。初めてプリンセシナに入った時に無理やりランファから持たされた物だ。
ランファの持ち物なのに、精霊石はルシアにしか使いこなせないそうだ。
精霊石をヒスイの胸元に近づけると、眩い程の光を放つ。
「じゃあ行って来ます」
光に包まれ薄っすらと消えていく仲間達に見送られながらルシアはヒスイの精神世界プリンセシナへと旅立って行くのだった。
-To be continued-