複雑・ファジー小説
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- Secret Garden ~小さなの箱庭~
- 日時: 2019/09/09 10:07
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: 9nuUP99I)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=16274
在る者はこう言った——この物語は希望に満ち溢れた兄妹の話だと。
在る者はこう言った——この物語は絶望に呑まれた兄妹の話だと。
また在る者はこう言った——この物語には希望も絶望もない犯した罪の十字架の重みに嘆き苦しむ少年少女たちの後悔を綴ったものだと。
"あなた"の目にはこの物語はどう映るのだろう——か。
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お初にお目にかかります。物書きモドキをしております。姫凛と申します。
こちらの作品は私が2014年からチマチマ マイペースに書き進めています『シークレットガーデン~小さな箱庭~』を大幅に加筆、変更、させたリメイク作品となっております。
※更新スピードは亀さん以下(一週間に一回は更新しようかなと思います)
※小説家になろうでも書かれています。
※グロ/残酷描写有り。苦手な方はご注意ください。
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-目次-[シークレットガーデン〜小さな箱庭〜]
∮登場人物∮>>
∮用語解説∮>>
∮魔物図鑑∮>>
∮読者の皆様からの頂き物∮
≪オリジナルキャラクター≫
『シル』Orfevre様より
『リア・ハドソン』はる様より
『ヒスイ』ブルー様より
『エリス』レム様より
-章の目次-
∮???章 ——これからこの物語を"観るキミ達"へ∮
第零話『覚醒』【>>16】
∮???章——始まりを告げる者∮
『絶望の???編』【>>17-18】
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【お知らせ】
スレ創立日:2017.12.01
執筆開始日:2017.12.17~凍結
立て直し日:2019.09.01~
「修正」
2018/1/11『混沌→絶望の未来編(文字数が2180から4500に笑)』
- 忘れ去られた人々編 ( No.14 )
- 日時: 2018/01/11 12:16
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: UsiAj/c1)
「今日の獲物は……?」
ルシアは木の陰に身を潜め隣にいる師匠に訊ねた。
「あれだ」
師匠もルシアの隣へしゃがみ込み自分が仕掛けた罠に群がっている数頭の猪達を指さした。
むしゃむしゃと地面に置かれた果物や木の実を貪る猪達。その中心にいる体長百五十センチはありそうな母猪、その周りにいる体長三十センチ程の小さなうり坊は彼女の子供だろう。母猪は周りに敵がいないか確認し、食べ物に罠がないか確認し、安全確認をしてから子供達へ食べさせているようだ。……仲慎ましい親子をこれから殺さなければならないと思うと胸が締め付けられるように痛む。
近隣の農家では猪が畑を荒らし丹精込めて育てた作物を食い荒らし、作物は全滅し商売が成り立たなくなったなど様々な被害情報をよく耳にするが、ルシア達が住む村で彼らが人間に何か害をもたらしたと言うことは一度もない。わざわざ人里に下りなくとも此処に沢山の食べ物があるからだ。人に害をもたらす者だから狩る近隣に住む狩人達と、なんの被害も受けていないのに猪を狩るルシア達の違い、それは他人や自分の生活の為に殺す善意か自分達が生きるために殺す悪意か。勿論ルシア達は後者だ。生きるためにはたんぱく質も必要、それを摂取するには他の生き物を殺し肉を食べるのが一番手っ取り早い。だから彼らは月に数回猪といった大型の獣を狩るのだ。
「行きますか……?」
猪達が食べている餌の下には網が引かれている。繋がったスイッチとなる縄を斬れば猪達は網の中、捕獲成功というわけだ。縄を斬ろうと剣の柄を握りしめたルシアを師匠「待て」と止めた。どうして? きょとんとした顔で振り返ると師匠は見たこともないような神妙な面持ちで語り始めた。
「ルシア。お前こんな噂を知っているか?」
「噂……ですか? なんの?」
「……今この森には……出るらしいぞ」
「だから何がですか? ユッカル師匠」
えらくもったいぶった言い方をする師匠に少々苛立ちを感じ始めたところで師匠はおもむろに語り始めた。その顔はどこか鬼気迫ったものを感じさせる。
「半透明の猪が出るそうなんだ! 嘘でも盲信でも見間違いでも幻でもないからな! 目撃例だって近隣の町村合わせて何十件もあるんだぞ!
奴は怖いぞ、お前なんかが見たらちびること間違いなしだ。なんたって奴は半透明なだけじゃなくて、金色に輝く古代文字で書かれた帯のようなもので全身をグルグルに巻かれていて、人の言葉を喋るそうだぞ! 古代語だから何を言っているのかは分からないけどな。
それに奴の吐く息は猛毒で少しでも吸っちまったら、身体がビリビリになって動けなくなってしまうんだからな! 神経毒だぞ! やばいだろ! この話を聞いただけでチキンなルシアくんはちびっちまっただろうな……まあ俺様レベルになればあんな奴くらい……」
「あの師匠……」
どや顔で自信満々に語る師匠に申し訳なさそうに口を開いた。当然のりにのっていた師匠から厳しい視線を送られたがこればかりはしょうがない。だって……。
「師匠が話している間に猪達、餌を食べきって逃げてしまいましたよ……」
「なにぃぃぃいいい!?」
阿呆がくだらない話をしている間に猪達は用意した果物や木の実を全て耐えらげ間食して何処か遠くへ逃げて行ったようで、罠のある場所には食べかすしか残されていなかった。
あぜんの師匠とそれを苦笑いしどうすればいいのか分からず見守る事しか出来ないルシア。
この日、森には
「嘘だと言ってくれぇええええええええええええええ!!!」
大馬鹿者の叫び声が木霊したと言う——。
- 忘れ去られた人々編 ( No.15 )
- 日時: 2018/01/11 12:17
- 名前: 姫凛 ◆x7fHh6PldI (ID: UsiAj/c1)
——世界の何処かにはこの世の叡智の全てが納められいる図書館があるという噂があった。その図書館に保管されている書庫は、神を信仰する聖書や異界から悪魔を召喚する魔導書(グリモア)から、人の歩んで来た歴史や滅びを招いた失敗例または今では限られた者しか使えなくなってしまった魔術や最近発見された機械工学などが記されているらしい。これらを欲する輩はごまんと居よう。だが誰一人としてこの図書館に辿り着いた者はいない。広がるのはそんな図書館が世界の何処かにあるという"噂話"のみ。
しんと静まり返った空間に佇む一軒の建物。外観は朽ち果て苔が生えている様子からもう何百年も誰も手入れをしていない事がうかがえる。人々から忘れ去られ進行されなくなった教会のような外観の建物だ。
両開きの木で出来た扉を開けば出迎えるのは暗闇の中に点々と胃蝋燭が立てられた蜿蜒と続く螺旋階段。それを永遠と感じられるような長い時間上り続けた先に見えて来るのは巨大な本棚に囲まれた空間。本棚だけも何台あるのだろう、目の前にあるものだけを数えたとしても数百はくだらない。地平線の彼方に見えるものや更に上へとつながる階段を見上げれば、まだまだありそうだなと予想される。
では本棚にしまわれている本の数だと、どうだ。一つの棚に収納できる数は五十冊程とすると、それがしまわれている棚が百……二百……数百万はくだらなそう、だが建物とは違い収納されている本は時代の劣化はあれど酷く痛んでいる様子はない。誰かが定期的に補正修正をしている証拠だ。
「№654.これは錬金術の使用方法の本、ですね。Kの棚に収納ようです」
建物の中央、まるで受付カウンターのような場所に佇みせっせと機械的に本の仕分けをしている女が一人いる。白く細い指で握られているのは羊の皮で表紙が作られた一冊の本。パラパラと捲れば白い紙暗号のような文字がびっしりと事細かく書かれ、たまに円の中に人が書かれている絵などの挿絵が描かれている。どうやらこれは魔術とは別の魔法技術を記した本のようだ。新しい知識に女は釘付けになった、アップルグリーンの瞳が色鮮やかに輝いている。口から少し垂れているのは涎だろうか。楽しい読書の時間を愉しむ女だったが、その時間は一人の来訪者によって邪魔される事となる。
「オディーリアさん、こんにちは」
急に声をかけられ少し驚いた。だが振り返れば声の主はよく此処へ遊びに来る兄妹の兄の方だった。鶏のようなトサカヘアが印象的な少年の名前は確か。
「ルシア様ようこそいらっしゃいました」
本に夢中になっていた顔を動かし僅かに口角をあげると女は機械音声のような声を出した。無表情であるがこれでも友好的に歓迎しているつもりだ。身体をルシアと向かい合うように動かす、その動作と連鎖して高等部にあるねじ巻きも僅かに動き回転する。背中に装着した金色の機械で出来た天使のような二枚の羽もぴこぴこと動く、それで飛ぶ事は出来ないが数センチ浮かぶ事なら出来る。
「本日はどのようなご用件で?」
「ヨナの為に本を借りてあげようかなって。いつも寂しい思いをさせているからせめてもの償いでね」
「そうですか。ならこちらの本は如何でしょう」
取り出したのは分厚い本。表紙には白い花の絵が描かれている。
「この本は? あまり文字ばかりの本はヨナは読まないと思いますよ? でも絵本とか絵ばかりの本はすぐに読み終わっちゃうから沢山借りないといけなくなっちゃうか……」
「その点についてはこちらも了解しています。これは分厚いですが、世界各地に咲く花の絵をまとめそれを紹介している図鑑と呼ばれる本です。前にヨナさんが此処へ遊びに来られた時、熱心に読まれていらしたので、喜こばれると思いますよ」
「そんな、また一人で外出したんですか!?」
ルシアが出かける前には必ず家で大人しくしていると約束しているのだが、いつもヨナは約束を守らず勝手に外へ遊びに出かけてしまう。図書館は家からさほど遠くはないとは言え病人の身だ、道中でもしなにかあって倒れたりしたら大変だと言うのに、それをヨナは判ってくれない。新しい本が読みたいのなら、いつでもお兄ちゃんが借りて来てあげるのに……と思う気持ちはただのお節介焼きなのだろうか。
「じゃあその本をお願いします」
「はい。では手続きをしますので少々お待ちください」
背を向け、カタカタと何かを操作する音が響く。数秒後、振り返ったオディーリアから花の図鑑を受けとるとルシアは急いで家路へと帰宅した。
気が付けば外は夕日で茜色に染まっていた。蝋燭の灯りしかないこの村では真っ暗な闇が支配する夜に出歩く事をあまり良しとしていない。
——日が昇れば、人の時間。日が沈めば、獣の時間。村に古くから伝わる言い伝え。これを護らない悪い子は悪い獣が黄泉の世界へと連れ去って喰っちまうぞ! 親が幼い子供に夜歩きを禁じさせる時の言いつけ。それをヨナに今一度言い聞かせないと、とルシアは家路を急ぐ。悪い子はちゃんと叱ってあげないと、それは親のいない子供が父親代わりを頑張る証拠であり、押し潰すように伸し掛かる重圧。自分しかヨナを護れる人はいないんだ。自分だけしか——だがそれはヨナも同じ事。自分だけが兄を幸せにしてあげられるんだ。すれ違う兄妹の想いは皮肉かな。
- 零話『覚醒』 ( No.16 )
- 日時: 2019/09/05 07:39
- 名前: 姫凛 (ID: 9nuUP99I)
『———此処は何処だ』
目覚めた"私"を迎えたのは永劫の闇。
無限に広がる黒い世界だった。
『———あの子たちは無事だろうか』
遠い故郷へ思いを馳せる。
だが当然、帰れるはずもない。
どうやら"私"は常闇の世界に囚われの身となってしまったようだ。
此処が何処なのかもわからない。帰る手段もない。
ならばいっそこのまま——
「おや。こんなところにおられましたか」
生きて故郷へ帰ることを諦めかけた丁度その時だった
救いの手を差しのべる者が現れたのは———
***
「さあ——主《あるじ》こちらへどうぞ」
私の事を主と呼男に付き従い私は常闇の中を歩く。
闇は深く濃く何故かぼんやりと発光する自分の身体と案内をする男の姿がぼんやりと見えるだけ。
物腰柔らかそうな男。おそらく二十代後半か歳を取っていたとしても三十代前半くらいだろう。声からは私とは違う若者特有の新鮮《フレッシュ》差とでもいうのか若さが感じられる。
あの男と私はどうゆう関係だ。何故男は私に親切にする。こんな場所で一人迷い子《まよいご》となった私を哀れに思ってのことか。いやそれならば困っているのは男も同じはずだろう。こんな訳の分からない場所で目覚めれば誰だって困惑するもの、だが男にそのような節はない至って平凡だ。
最初は私を助け出してくれる救世主のように思えた男の優しい声や態度が一気に恐ろしい物へと変わる。何か裏があって優しい物言いをしているのではないか。私を此処へ閉じ込めたのはこの男の仕業なのではないだろうか。この男は助けるふりをしてなにか莫大な対価を要求してくるのではないのか。
一度疑い始めればそれは止まる事を知らない。
私の心は早く男から離れたい、それだけでいっぱいになっていった。
どうすれば離れられる。どうすればこの男から私は解放される。
円滑にそして迅速に男から離れる手段を思考しているその時だった。
「主」
黙々と歩いていた男が振り返ったのは。
驚き、身体が震える。「どうなさいましたか」とうっすらと見える口元が笑っている。
「……なんでもない」
「そうでございますか。それは良かった」
男はまた前を向く。
なにが良いものか私はちっとも良くないとも思いはした。が、それを口に出す事はしない。
男の目の前に見慣れぬ扉があったから。
「開けていただいても」
「何故私が……」
「この扉は貴方様にしか開けられないように出来ているのですよ」
お忘れですか? と、男は言う。暗いため今男がどんな表情をしているのかはわからないが声から察するに恐らく苦笑しているのだろう。まるで小さな幼子が些細な失敗を犯し周りの大人たちが静かに笑っている、そんな印象を受ける声だ。
「何故私にしか開けられない。生体認証でもあるのか」
暗くて詳しい事はよくわからないが。ぱっと見た印象ではそのような化学的な物は付いていないように思える。ただの古い木製の両開き扉にしか見えない。
男の方をちらりとみてみる。男は不敵の笑みを崩さないままだ。私が扉を開けるまでそのまま立ち続けるつもりのようだ。
私に彼と共にここで呆然と立ち続ける理由はない。出来ることなら一刻でも早くこの不気味な男から遠ざかり、出来る事ならあの子たちの元へ帰ってやりたい。
「そうだ——私には帰る場所がある」
故郷に残した大切な者たちの顔を思い浮かべば自然と勇気が湧いてくる。
蛇の道は蛇。豹が出るか虎が出るか。どちらにせよ扉を開けなければ先へは進めない、一生を常闇の世界で終わらせることとなるだけだというならば——
意を決して私は扉に手をかざす。
扉は大きく外側へゆっくりと開かれてゆく。常闇の世界に白く輝く閃光が侵入してくる。
眩しさに私は瞼を閉じた。
「おかえりなさいませ——我らの主よ——」
再び瞼を開けた先に広がっていたものは——
-To Be Continued-
- ∮???章——始まりを告げる者∮ ( No.17 )
- 日時: 2019/09/06 08:57
- 名前: 姫凛 (ID: 9nuUP99I)
-絶望の???編-
分厚い黒い雲に遮られ灯りの無い常闇が支配する森の中で大きく煌く深紅の光。
轟々《ごうごう》と獣の唸り声のような音をたて、黒い炎が森の木々や動物たちを容赦なく燃やし溶かしていた。
上空から見れば森は深紅に煌めきを放つ黒い炎に呑まれ黒煙を上げ、ゆっくりとだが確実にじわじわと全てが灰となろうとしていた。
「おえっ。お、おえええ……」
女だ。いやまだ少女というべきだろうか。
大人の女とはまだ言い切れない、子供のようなあどけなさとを残した少女が木に手を付け盛大に胃の内容物をぶちまけている。
自慢の白銀に輝く髪が胃酸で汚れる事も気にせず少女は腹の中に蓄えていた物を吐き出す。
べちゃくちゃと吐き出された物の傍らには一体の死体が転がっていた。
死体には首よりも上、下歯茎から上、上歯茎から頭頂部が存在していなかった。
灼けて溶けたかそれとも何処かで落としたか。残された下歯茎部分に収められた舌は表面が炙られだらりと力なく垂れ下がり、残っていた唾液の気泡がぶくっと膨れては破裂するを繰り返していた。
只の死体であればきっと少女は見捨てていただろう。非情にも思えるが≪この時代≫では仕方のないこと。
彼女は慣れ過ぎてしまったのだ。死体を見るのもそれを作る事にも。
「おぇえええ」
まだまだ吐き足りない。吐く物が無くなっても嗚咽は止まらない。
それは何故か? 転がっている死体が彼女にとってとても大切な存在だったからだ。
彼女はとある組織に所属している。そして同時にとある組織と闘う戦士である。
転がっている死体の名はハーゲルン・クラウン。大貴族クラウン家の嫡子だ。
顔が半分ないが着ている服装で彼だと判った。
派手好きの彼。皆着飾る余裕がないというのに彼だけは少ない物資をやり繰りしいつ如何なる時でも貴族として恥ずかしくない振る舞いを心掛けていた。
自身を着飾る余裕があるのならば飢えに苦しむ子供たちに少しでもいい食事を提供できるようにすればいいじゃないのかと、毎日顔を合わせる度にちょっとした喧嘩をしていたのはいい思い出だ。
——本当にいい思い出だった。
前に売り言葉に買い言葉で「あんたなんて死ねばいいんだ!」などと言ってしまったことがあった。
すぐに謝ろうと思った。だが彼女も彼も組織では要とされる重役。闘いが激しくなるにつれゆっくり二人で会話をする時間を設けることはできなかった。
——そう。今此処で彼の死体を見つけるまで。
「ぁ……あぁ……ああああああ!!」
胃酸さえも吐き出せなくなった彼女は自身の居場所が敵に察知されるのも構わず叫んだ。
へたりと崩れるように座る。汚物で形見の紅いポンチョが汚れることも厭わずに。
彼に恋慕に感情を自分が抱いていた事は知っていた。彼もまた自分に対して同じ感情を抱いてくれている事を知っていた。
だが自分たちは貴族さまと迫害者。身分があまりにも違い過ぎる。そうでなくとも今の時代、婚姻など祝い事で貴重な食糧や物資を使う余裕などない。
だから言えなかった。言えるはずもなかった。
ただ遠くからでも互いを思い合っていればそれでよかった。それだけで良かった。……それなのにどうしてこんなっ。
彼の残された頭の下半分を手に持つと
ぐちゃり
鈍い音をたて首から頭が取れた。
「…………」
泣き腫らした顔に≪彼だったモノ≫を近づけ頬釣る。
涙はもう流れなかった。泣き過ぎて枯れてしまったから。
彼女はうん……うん……そうだね……と彼だったモノと会話をかさね。満足がいったような顔をするとそっと元あったように彼を置いた。
スッと立ち上がり、ポンチョの裾に着いた汚物を取り払う。
何時までも此処で泣いている訳にはいけない。自分には他の誰にも代わりの出来ない使命があるのだから。
彼女は自分を振い立たせ前へと進む。
「もしもさ。輪廻転生《りんねてんせい》の先でまた会えたらさ」
だがその前にもう一度彼が眠る方へ振り返った。
「——また喧嘩しようね!」
ニカッと笑う彼女の笑顔が好きだった彼の為に彼女は今できる最大限の笑顔で別れを告げた。
- 絶望の???編-2- ( No.18 )
- 日時: 2019/09/09 09:58
- 名前: 姫凛 (ID: 9nuUP99I)
——走る。
彼女は振り向かずひたすら前だけを見て走る。
うぉぉぉおおん。
——走る。
彼女を追う狼に似た獣の遠吠えから逃げるために走る。
ガサガサと木々が揺れる。
走る彼女の身体が当たり揺れていたのではない。視線だけ後ろへ向け見えたものは。
ぐるるるぅぅぅぅ。
鍛えられた闘犬とも、または狼の群れのボスとも見える、が、そのどちらでもない数匹の四足獣。
その屈強な肉体はほぼ筋肉だけで造られており、人のこぶしくらいはありそうな筋肉の塊がぼこぼこと凹凸し元の身体の原型を留めてはいない。
呻き声をあげる四足獣たちが一般的に家庭で飼われたり、自然の世界で自由に暮らす獣と違う点がもう一つ。
首がない。
正確には胴体から続く首とその上にあるはずの頭がなく、その代わりに青白く燃える炎が陣取り獣が声を発するたびに炎は形を大きさを変える。
その姿はまるで墓場に現れる《デュラハン/首無し騎士》によく似ていた。
彼らはナニモノか——化け物=デュラハンと一言で片づけてしまえば問題は簡単に解決したようにみえる。
だが彼らは騎士ではない。強いて言うのであればデュラハンが跨る首の無い馬の方が近いだろう。
それに一括りデュラハンと言えど《フェアリー/妖精》寄りのものか《アンデッド/死神》寄りのものと大きく二つに分けられる。
彼らはその見た目の醜悪さからフェアリー種ではないだろう。
ならば犬か狼の死体が何らかの方法で突然変異を起こしアンデッド化したか。または第三者が生前の彼らに何か施したか。
そのどちらかだろう。アンデッドを自らの手で生み出す手段を持つ《ネクロマンサー/死霊使い》辺りがこの世に復活させたまたは生み出された《哀れな化け物たち》
「……きもちわっる!」
そんなことどうでもいい。化け物の生い立ちなど知った事ではない。そんなの自分には関係ない。
踵を返し彼女は追って来る化け物たちと相対する。
うううぅぅぅ。
化け物達は想像もしなかった突然の鼓動に驚き足を止め威嚇の呻き声をあげた。
「——おそいっ!」
声を発すると同時に背負ってた自身の身体と同じまたはそれ以上の銀色に煌めく剣を鞘から抜き取ったと同時に薙ごうた。
間合いに居た化け物達は皆何が自身に起きたのか理解する時間もなく四本の足を失った。
くぅあ。
近くに居たため運悪く足を失った化け物。ほんの少し離れていたおかげで運良く逃れた化け物。
数秒後あげられた間抜けな鳴き声はどちらがあげたものだったか。
その更に数秒後、己の足が奪われた事に気が付いた化け物たちは痛みと悲しみと悔しさが入り混じった声をあげた。
うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉん!!!
その悲痛な叫び声を合図に仲間の血で黒く汚れた剣を握りしめたまま呆然と何もせず佇む標的に向け同時に飛びかかりその強靭な爪牙で襲い掛かった。
鋭く尖った牙は白桃のように白くすべすべとしたか細い二の腕にずぷりと突き刺さる。
大地を削る爪は大地を踏みしめる馬の皮膚で造られた帆の長い履き物を引き裂き、その下に隠された柔肌を傷つける。
何もせずただ呆然と立ち尽くす彼女の身体は纏っていたポンチョと相まって紅く染められてゆく。
喰らう。裂く。これでもかと化け物たちは柔らかい身体を喰らい尽くす。
しょっぱい。肩を喰っていた化け物が感じた。
顔をあげると獲物から水が流れていた。しょっぱい味の水だ。まずい。この水はうまくない。
こんなまずいものを飲ませやがって、このまま肩を喰いちぎってやる。オマエが奪った仲間の足みたいに。
化け物はぐっと噛みしめ喰いちぎろうとした。だがしかしそれは出来なかった。なぜなら。
ぎゃあああああああおぉぉぉん。
肩を喰いちぎろうとした化け物の身体は宙を舞っていたからだ。
何が起こったのか分からずまた反応が遅れた刹那また化け物が吹き飛んだ。今度は剣を持つ腕を噛んでいたものだ。
何が起こっている。何が起こっている。理解が追いつかない化け物たちはとりあえず噛んでいる《獲物》から離れようとした……できない。喰いちぎってやろうと深々に刺した牙はぷにっとした柔らかな肌に飲み込まれているように抜け出せない。切り裂こうとした爪も同様。
「ふふふっ」
震える。噛んでいる獲物が声を出し震えている。
「あはっあはははっあーはははははははははっ」
頭の中に響く声。声。声。狂いそうだ。いや眼前に居るこいつはもう既に狂っている。
気づいた時にはもうすでに事遅し——軽く。本当に軽く。周りを漂う小蠅を払うかのように軽く剣を一振りされ飛び散った。
悲鳴をあげる暇もなく散った。
宙に放り出され斬られた。肉片と共に臓物が辺りに飛び散った。
真っ二つに斬られた胃からは胃酸の酷い悪臭を放なたれ、ぶつ切りにされた盲腸からは糞尿などが飛び出し酷いアンモニア臭が漂い、ずるりとむき出しにとなった心臓は自身を収納し護ってくれる肉体を失った事に未だ気づかず、どくんどくんと巡回する先の無い血液を回し続ける。
燃える木々の臭い。香ばしいを通り越し炭と化した動物の臭い。原型を留めないぐちゃぐちゃになった肉塊の臭い。まき散らされた臓物の悪臭。
それら全て舞台の背景だと言わんばかり踊り狂う少女が一人。
「あははっ踊ろう! みんなでもっともーーーとっ踊りましょーーーーーーーーう!」
あはははははっと乾いた嗤い声をあげ彼女は踊る。
時には観客を魅了する《バレリーナ/白鳥》のように。時には見る者を笑わす《ピエロ/道化師》のように。
あはははははっと乾いた嗤い声をあげ彼女は剣を振るう。
周りに観客はもういない。いるのはバラバラになった肉片のみ。
「…………」
——と、思われた狂乱に舞う舞台を見据える観客が数名……いや数百名存在した。