複雑・ファジー小説

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99%のボクと1%のキミ
日時: 2018/01/13 21:29
名前: わたあめ (ID: cdCu00PP)

目が覚めた時、見えたのは真っ白な天井だった。
少しぼやけて見える。
いや、ほぼぼやけていて白いことしかわからない。

そこに何人か、顔を覗き込んできた。
驚いたが、体は何も反応しなかった。

動けない。
手が、足が、すべてが言うことをきかない。

なぜだ。
ここは一体どこなんだ。
俺はここで何をしているんだ?
こちらを見ているのは誰なんだ。

そんなことを考えただけでもの凄く疲れた気がした。
瞼が重い。
今にも目を閉じてしまいそうだ。
だが不思議とここで目を瞑れば、もう二度と同じ風景は見れない気がした。
目を覚ますことができなくなりそうな気がした。










あれ、俺は一体?







【登場人物】

#三島 椋 (みしま りょう)
高校2年生。夏に心臓移植に成功するも人格が180°変わってしまう。
元は大人しく読書が好きな青年だったが移植をしてからは口数が増える。

#藤井茉里(ふじい まり)
高校2年生。椋と同じ学年の女子。
移植前の椋と話すことはなかったが移植後に話すようになる。

#有明翔太(ありあけ しょうた)
高校2年生。移植後の椋と仲良くなる。
爽やかで誰にでも優しい。

#土屋健人(つちや けんと)
高校2年生。翔太と同様、移植後の椋と仲良くなる。
チャラついていて女子からの人気が高い。

#森山芽以(もりやま めい)
高校2年生。茉里と同じクラス。
口が悪くはっきりした性格。

#蛯名秀雄(えびな ひでお)
椋の主治医。

#四宮洸(しのみや こう)

#芹沢飛鳥(せりざわ あすか)

【ストーリー】
#01 【 春に 】 01~05
#02 【 ずっと君のことを 】 06~10
#03 【 ひそかな気持ち 】 11~14
#04 【 助けて頂いた者です 】 15~

Re: 99%のボクと1%のキミ ( No.9 )
日時: 2017/12/31 17:44
名前: わたあめ (ID: w4lZuq26)



風呂をあがり、迷いながら翔太の部屋に戻ると3人は真面目に勉強をしていた。

「おお、やってんなー」

つっちーはタオルで濡れた髪の毛を拭きながらそう言いソファに腰を下ろした。

「森山さんに教えてもらったから俺はもう科学完璧だよー。次はつっちーの番」

翔太はそう言いペンを置いた。

「へえ、森山さん翔太に教えてあげたんだ」

俺がそう言うと、芽以は不機嫌そうに「茉里に教えるついで!」とぶっきらぼうに答える。

「あー勉強したくねーなー」とつっちー。

「誰のための勉強会だよ」

俺は呆れながらつっちーを見て言った。
つっちーは「俺と茉里ちゃんのため」と答える。
茉里はコクンと頭を下げた。

「森山さんすごいんだよ、本当にわかりやすいの」

翔太は俺とつっちーにノートを見せて言った。
俺たちはノートを見て答える。

「へええ、すっごい綺麗なノート」と俺。

見れば、ノートは図に綺麗に色がつけられ、字もきれいで読みやすく改行されたりしていた。

「へえ、お前ガサツに見てるのにな」

つっちーがそういうと、芽以は翔太からノートを取り上げて「お前ほどじゃねえよ」と言った。

「芽以ちゃん科学の授業すっごく真面目に受けてるんだよ」

茉里も言う。

「へえ、科学好きなんだ?」と俺。

芽以は少し黙り込んだあと「あんたには関係ないでしょ」とそっぽを向いてしまった。

「せっかく褒めてやってんのに相変わらず可愛くねーの」

つっちーはバカにするように芽以に言った。
その後二人は言い合いしていたが気にせず。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はい、じゃあ俺はもう一人で勉強できるからその他の教科を森山さんとつっちーに教える担当。椋ちゃんは藤井さん担当。いい?」

翔太に言われ、

「仕方ないからいいよ」と芽以。

「はーい」と俺。

「よろしくお願いします!」と茉里。

「うぃー」とつっちー。

「じゃ始めよっか」と翔太が言い、午後一時にようやく勉強会が始まった。

俺の向かい側で茉里が勉強している。
下を向いている顔も可愛いんだよなこれが。

だがどうもペンが進んでいない。

「…あの、さっきから手が動いてないんだけど…」

俺がそう言うと、茉里は泣きそうな表情でこちらを見て「全然わかりません…!」と言った。

「えと、なにがわかんないの?」

俺がそう言い、ノートを見ると数学は問1で止まっている。
何をしていたんだか。

「…藤井、まず素因数分解できる?」

俺がそう言うと、茉里はポカンとした表情で「そいんすーぶんかい?」と首を傾げた。

こいつは本当に高校2年生か?

「えっと、ルートの計算はできる?」

茉里はなにも答えない。

まじか。そこからか。
基礎の基礎の基礎からかこいつ。

横を見ると、つっちーも泣きそうな表情をしていた。
翔太は苦笑、芽以はつっちーにキレている。

こいつらが赤点をとらないというのは果たしてできるのだろうか。





数時間経ち、ようやく勉強もひと段落ついた。
茉里もようやくすべての教科を基礎くらいは理解してくれたはずだ。

「疲れた〜」

茉里はそう言って背伸びをした。
つっちーも横で背伸びをする。

「あれ、もうこんな時間だね。二人とも時間大丈夫?」

時計を見て翔太は茉里と芽以に言った。
時計は21時を回っていた。

「あたし帰らなきゃ」と芽以。

「わたしも。帰ろっか」

茉里はそう言って芽以を見る。

「三島くん、今日はありがとう!とってもわかりやすかったよ!」

茉里は立ち上がり、そう言って俺に笑顔を向けた。
うわー、かわいい。

「いえいえ。わかったなら良かった。もう暗いし駅まで送るよ」

俺はそう言って微笑み、立ち上がる。

「あ、ううん大丈夫!わたしここから歩いて帰れるから」

あっさり断られた。

「いやでも危ないし」と俺。

「本当にいいの?」

「うん、もちろん」

「じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとう」

茉里はそう言い、カバンを持つ。

「あたしもーーーーーー」

芽以がそう言って立ち上がると、「芽以ちゃんは俺らが送るよー?」とつっちーが制す。

「は?頼んでねえよ」

芽以は冷たく言い放つ。

「森山さんは家どっちなの?」

翔太が言う。

「電車で二駅だけど」

てことは駅か。

「茉里ちゃんは駅の方向?」

つっちーがそういうと、茉里は「真逆なの」と残念そうに言った。

「なら!森山さんは俺とつっちーが駅まで送るよ。椋ちゃん藤井さんのことよろしくね」

翔太はそう言って立ち上がる。
芽以は嫌そうに「茉里、またね!」と茉里に手を振る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「なんであたしがあんたらと」

芽以は翔太とつっちーの間を歩きながら不機嫌に呟く。

「女の子だろ、一応」

つっちーは一応、を強調して言う。

「一人で帰れるもん」

「まあまあ、夜道は危ないから」と翔太。

「茉里とアイツを二人きりにする方が危ないっつうの」

芽以がそういい、つっちーは不思議そうに「なんで?」ときく。

「茉里はこないだ最悪なクソ男と別れたばっかなの。アイツ茉里に気があるんでしょ。何かあったらどうするのよ」

「え、知ってたの?」と翔太。

「知ってるも何も見てたらわかる」

「大丈夫だって〜。椋が変なことするように見えるか?」

つっちーがそう言うと、芽以は少し考え込んでから「わかんないじゃん」と答えた。

「そんな度胸あるように見えねえだろ、あいつ。おっぱい触るように見えるか?」

「んなことしたらぶっ殺す!ただでさえ傷心中だってのに」

「藤井さん、まだ元彼さんのこと?」と翔太。

「言わないけどきっとそう。茉里は強がってるだけなの。だからちょっかいかけんな」

芽以は口を尖らせる。

「大丈夫だって。椋は茉里ちゃんのこと傷つけたりしねえよ」

つっちーに言われ、芽以は「わかんないじゃん」とすかさず言い返す。

「わかるよ」

「わかんないよ」

「わかるんだよ!」

「わかんねえよ!」

「まあまあ」と翔太。

「…茉里ちゃんの前の男がどんなやつだか知らねえが、椋はそんなチンケな男じゃねえよ」

つっちーにいわれ、芽以は「だといいけど」と呟く。

そんなこんなで駅につき、

「気をつけてね」と翔太。

「じゃなあ〜気をつけて帰れよ」とつっちー。

いわれ、芽以は少し恥ずかしそうに胸の位置で手を振った。

「…ありがとう。じゃあね」

芽以はそう言うと改札を抜けて振り向かずにホームへ消えていった。

「よし、じゃー俺たちも帰ろっか」

翔太はそう言って歩きだそうとすると、横でつっちーは止まって改札を見ていた。

「え、え?つっちー?ちょっと?」

翔太はそう言いながらつっちーに話しかける。
つっちーは「あ、おお」と言って歩き出した。

「どしたの?」と翔太。

「なにが」とつっちー。

「いや、止まってたから」

「…いや、可愛いなって」

「…は?!」

「最後の、顔」

言われ、翔太はまた一瞬ぼーっとしたつっちーの顔を不思議そうに見た。

Re: 99%のボクと1%のキミ ( No.10 )
日時: 2018/01/02 00:15
名前: わたあめ (ID: cdCu00PP)

そしてそして俺はと言うと。

「やっぱり夜はまだちょっと寒いねー」

茉里は辺りを見渡しながら言った。

「だね。もう7月になるのにね」

こんなありきたりなことしか言えない。
つまんないとか思ってるのかな。

「夏休みかあ、わたしあるのかな」

茉里は自虐風にそう言って微笑んだ。

「それはどうだろ、藤井思ってたよりバカだったから」

俺は笑いながら言う。

「ひどいなー、もう」

茉里は口を尖らせる。

「三島くんに教えてもらったから大丈夫!わたし明後日追試頑張る!」

茉里にそう言われ、自然と笑みがこぼれた。
歩いていると、コンビニが見える。

「コンビニ寄ってもいい?」と俺。

「あ、いいよ」

そんなこんなでコンビニへ。
茉里は外で待っている。

俺は二人分の飲み物をレジを通し、すぐさま茉里のところへ。

「はい、どっちがいい?」

俺はそう言ってお茶とオレンジジュースを見せた。

「え、いいの?」と茉里。

「どうぞ」

「ありがとう。じゃあー、こっち!」

茉里はそう言ってオレンジジュースを手に取った。

「ありがとう、いただきます」

「どうぞ」

茉里はキャップをあけ、オレンジジュースをひと口飲んだ。

「美味し〜」

茉里はそう言って微笑む。
あー、かわいい。

「あ、見て!」

俺が茉里に見とれていると、茉里は空を見上げて言った。
俺が空を見ると、たくさんの星が光っていた。

「コンビニの前だから少し曇って見えるけどいっぱい見えるね、今日」と茉里。

「今日は晴れてたしね」と俺。

すると茉里は俺の方を見て「三島くん、少しだけ時間大丈夫?」も言った。

「え、時間?俺は大丈夫だけど、どうしたの?」

俺が言うと、茉里は嬉しそうに俺の腕を引っ張っり、歩き出した。

「ちょ、まって、どこ行くの?」

まてまてまて。
これは思春期の男にはたまらん。
とか考える時点できもいか?
いやいやそんなことよりどこへ。

「ついた」

茉里に連れられてきた先にはコンビニから少しだけ離れた場所にある大きな公園だった。

「ここ?」と俺。

茉里は「うん!どこがいいかなあ」と言ってしゃがみこみ、芝生に横になった。

「わーやっぱり。ここだとすっごくきれいに見える」

茉里は仰向けに寝そべり、空を見て呟いた。
俺も恐る恐る茉里の隣に寝そべる。

すると、目の前に広がった光景は今まで見たことないくらい綺麗な空だった。
そこらじゅうで星が煌めき、隙間がないほど小さな星が大きな星を覆っている。

「すげえ…きれい」

俺は空を見て呟く。
茉里は笑顔でこちらを向いた。

「でしょ?ここでよく星見たんだ」

見た?過去形?誰と?
いやなんかストーカーみたいだな俺。

「…誰と?」

聞いてしまった。
俺が言うと、茉里は微笑んだ。

「タツヤ先輩」

タツヤ先輩?
え、だれ?

「前にお花見のときに会った人」

茉里はそう付け加えた。

ああ…元彼さんね。
なんて言えばいいんだろう。
胸が痛い。

「…まだ好きなの?ってー、前も聞いたよな、これ」

俺はそう言って苦笑した。
答えは決まっている。

"うん"とか、"すきだよ"とか、俺には向けられていない言葉が返ってくるだけだ。

わかっている。
なぜ俺自身がこんなことを考えてしまうのだか、もう自分がわからない。

「…わかんない」

茉里の返答は意外だった。
まあ、考えてみたらあれから2ヶ月以上経つしな。

「そっか」

なんて言っていいかわからない。
ぐいぐい踏み込むのも…。
だが【好きじゃない】という返答がない限り喜ぶことはできない。

「先輩さ、わたし以外にも付き合ってた人いたみたい」

茉里は少し笑いながら言った。

「二股ってこと?」

「ううん、たぶん、もっといる。こないだ一緒にいた女の子だって、きっとわたしと付き合ってた時から…」

「…そう、なんだ。藤井がそれでもあいつを好きな理由、わかんねえな」

「わたしにもわかんない。三島くん、前に失恋したことあるでしょって言ったらわかんないって言ったよね。どういうこと?」

おお、俺の話になるか。

「…俺さ、心臓が悪かったんだよね」

俺がそう言うと、茉里は「えっ」と言って起き上がった。
俺は寝たまま続ける。

「結構噂になってたから、知ってるのかと思った」

俺がそういって微笑むと、茉里は大きく横に首を振った。

「でさ、移植手術したら、手術する前の記憶がなくて、自分が誰なのかもわからなかったんだ。学校に来てみて、周りから聞く限り俺はこんな性格じゃなかったみたいで、おかしな話だけど、俺は俺じゃなくなった」

「…だから、その、わかんないって?」

茉里は言いづらそうに訊いてきた。

「まあ、そんなところかな。以前の記憶がない以上本当にわかんないからさ」

俺はそう言って微笑む。

「…変なこときいて、ごめんね」と茉里。

俺は焦って起き上がり、「いや!全然そんなことないよ!」と彼女を見た。





今なら、言えるかもしれない。





そう思った。


「…藤井」

俺が言い、茉里は「ん?」と不思議そうに俺を見た。

「…俺…さ、手術を受ける前のこと、1つだけわかってることがあって…」

「なに?」

「俺、前の俺は…」

ああ、言いづらい。
てか恥ずかしい。

茉里は大きな瞳でこちらを見つめている。

ああ、もう言っちゃえ。









「君のことが好きだったんだ」









瞬間、茉里は大きな瞳をより大きく見開いたのがわかった。

そりゃそうだ、俺と関わった記憶なんてないんだから。



「…えっと、え?」

茉里は戸惑いながら言う。
俺は微笑んで続ける。

「…藤井は覚えてないと思うけど、1年くらい前、俺が入院してたとき、その病院で藤井と出会ったらしくて。あ、同じ病院に入院してた友達に聞いたんだ」

「一年前…もしかして、長町病院?」

俺が入院していた病院の名前だ。
やはり彼女はーーーー。

「うん」

「わたし1年前、事故に遭って少しの間入院してたの」

「事故?」

「うん、ああでも軽い怪我。だから3ヶ月だけ」

「友達の話では、リハビリして転んだときに君が助けてくれて、それで俺は君のこと好きになったらしい。てー、そんなこといちいち覚えてないよな」

俺が笑い飛ばすと、茉里は「あ」と思い出したように言った。

「わかる、わかるよ三島くん!あの時の男の子が…三島くん?あー、どうして気づかなかったんだろう」

「えっ覚えてるの?」

「うん!入院してたとき退屈だったから。他の人との関わりなんて、あれくらいしかなかったから覚えてる。確かに、今とは随分雰囲気が違うね」

茉里はそう言って微笑んだ。

「でしょ、だからわからなくて当然だよ」

「いや、でも、ごめんなさい。気づけなくて」

「いや!だから気づけなくても当たり前だよ。1回話しただけだし…」

以前の俺がどんな風に彼女と接したのかがわからない以上何も言えない。

「そっかあ、でもなんか素敵だね」

茉里は空を見て呟いた。

「ん、え?星?」

何のことかわからず答える。
茉里は微笑んだ。

「違う違う。記憶がないのに、またこうしてわたしと三島くんは関わってる。それも前以上に。こんな素敵なことはないよ」

「そう、思ってくれてるの?」

俺は少し笑いながら言った。

「当たり前だよ。実はわたしもあの時、わたしと同じくらいの年の男の子がいてちょっと嬉しかったんだあ」

「そうなの?」

「うん。だからあれだけで終わりたくなかったの、本当は」

「そう、だったんだ…」

胸が熱くなった。
【三島椋】が喜んでいるように。

「…実はさ」

俺が話し出す。
茉里は「うん?」と言ってこちらを見る。

「君と会うたびに、すっげえドキドキする」

俺がそう言うと、茉里は「えっ」と声をあげて恥ずかしそうに俯いた。

「そ、そういうのって、直接言う事じゃないでしょ!」

「そうなの?」

「そうだよ!いくら前の三島くんがわたしを好きだったって話でも、言われたら照れちゃうよ」

体育座りをしてそんなことを言う茉里はとてつもなく小さくて可愛い。

「じゃあ、ごめん?」

「なんで謝るの、よ、余計恥ずかしいよ!」

「ごめんごめん」

俺はクスッと笑った。

本当に可愛い。
彼女の仕草や言動、すべてが愛おしく思える。

「…あの日、神社で三島くんに会った日、わたし嬉しかった」

茉里は恥ずかしそうに話し出した。

「…嬉しかった?」

「うん…一人で、しにたくなったから…三島くんが来てくれて、話聞いてくれて、ジャージ貸してくれて…。何より今こうして仲良くしてくれて…あの日あの神社にいて良かった。雨が降ってて良かった」

茉里はそこまで言ったところで俺の方を見て照れくさそうに微笑んだ。

熱かった俺の胸は、今にも張り裂けそうなほどまた熱くなった。

ああ、そうか。
俺はーーーーーー。

「俺も良かった。今また、藤井と出会えて」

















俺は、彼女のことが好きなんだ。

Re: 99%のボクと1%のキミ ( No.11 )
日時: 2018/01/04 21:20
名前: わたあめ (ID: cdCu00PP)


#03 【 ひそかな気持ち 】


「やったー!何とか回避だよ〜」

翔太はそう言って【82】と点数が書かれた科学の答案を見せてきた。

「何とかってめっちゃ余裕の点数じゃん」

俺は笑いながら翔太に言う。
翔太は照れくさそうに「へへ、まあね」と言って頭をかいた。

「うるせえお前ら!あてつけか!」

と、横で声がする。
つっちーが泣き目でこちらを見ている。

勉強会のあと、翔太は今の通り赤点回避。
つっちーはほとんどの教科を回避するも、数学と科学だけは赤点回避ならず。

「まああれだけの教科を3日でなんて無理な話だったんだよ」

俺が言うと、「うっせえ!俺の夏休み…」と情緒不安定な返答が。

「夏休みどれくらい取られるの?」

翔太がそう言うと、つっちーは机の脇の紙袋から大量のプリントを出して言う。

「これを終わらせさえするば終わりだ!俺は今日中にこれを終わらせる!」

絶対に今日中は無理な量。

「…ご愁傷様だね」

俺がそういい、翔太と俺はつっちーに手を合わせた。

「しねお前ら!」

つっちーはそう言いながらプリントをやっていた。

ーーーーー藤井。
藤井はどうだったかな。
赤点回避できのかな。

あの日から余計に藤井茉里のことが気になって仕方がない。
自覚してしまったからには仕方の無いことだが…。

と、その時。

「あ、三島くん!」

声のした方を見ると、そこには茉里と芽以の姿が。

奇跡か!運命か!!

「おお、藤井」

冷静を装ってそう言う。
言うと、茉里は嬉しそうにプリントを見せてきた。

「見て!全部赤点じゃなかった!三島くんたちのおかげだよ〜。本当にありがとう!」

「おお!すごいじゃん!」と俺。

「有明くんと土屋くんは?どうだった?」

茉里に言われ、翔太も手に持っていたプリントを見せながら「森山さんのおかげで俺も回避」と微笑んだ。

芽以はふんっと言うようにそっぽを向く。

「土屋くんは…あ…」

茉里はつっちーをみて言葉を失う。
つっちーは「気遣う感じやめろ!」と泣き目。

「何の教科赤点だったの?」

茉里が言うと、つっちーは「数学と科学…」と今にも死にそうな声で答える。

すると、芽以が「赤点だったの?」と入ってきた。

「赤点だっつってんだろ!ばか!俺は夏休みも学校で数学と科学と向き合わなきゃいけねーんだよ!」

つっちーが言うと、芽以は「手伝ってやろうか」とボソボソ言った。

その場にいる全員が驚いた表情で芽以を見た。

「えっいいの?!」とつっちー。

「…別にいいけど。夏休み暇だし」と芽以。

一体どういう風の吹き回しだ?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

放課後、健人つっちーはプリントをやりながら芽以に電話をしまくっていた。

つっちーつっちー言いすぎて忘れているだろうが下の名前は健人である。

「くそあいつ手伝うって言ったくせに早速さぼりかよ!」

健人の携帯の画面には『森山芽以』と表示があり、スピーカーにしてある。

ちなみに椋と翔太は先に帰ってしまい、教室には健人を混ぜて6人しかいない。

「つっちー、森山さんと仲良いの?」

クラスの女子が携帯を見て話しかけてきた。

「え?ああ、仲良いっつうか、うん…なんだろう」

健人は少し考え込んでから答えた。
女子は不思議そうに言う。

「へええ、意外」

「え、なにが?」

「だってつっちー、可愛い子とばっかり仲良いから」

ん?なんだこの違和感は?
健人は再び考えてから言う。

「芽以ちゃんって女子から見たら可愛くないの?」

言われ、女子は焦ったように答える。

「ううん!顔のことじゃなくて…。顔は確かにすっごく可愛いって噂にもなってたけど…。去年同じクラスだった時森山さん結構…あれだったから」

「あれって?」

「…その、喋りづらいって言うか…口調が怖いって言うか…」

ああ、それはわかる、わかるよ。

「まあ、それはそうだな。生意気だし、きもいとか言うし。でもなんやなんや楽しいよ、一緒にいて。てか可愛いし」

健人がそう言うと、女子は「そ、そうなんだ」と言って気まずそうに去っていった。

あれ、俺何言ってんだろ。
とか後から思っちゃう系。

「てか早くしろよ!あいつ」

健人はそう言いながらまた芽以に電話をかけまくる。

すると電話が切られ、『しつけーんだよ』とLimeが来た。

「電話出ろよ!!」

健人はLimeを見たあとムカッとした表情で呟いた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おまえ携帯いじってねえで教えろよ」

ようやく芽以が教室に来てくれたところで勉強がはじまり、健人が言う。

芽以は携帯を起き、「それが教えてもらうやつの態度かよ!」と健人の頭を叩いた。

「痛ってえな!お前が手伝ってくれるって自ら志願したんだろーが!」

「別に志願したわけじゃねえよ!」

言われ、健人はニヤニヤしながら言う。

「ああ、じゃ俺と2人きりになりたかったってわけね」

「んなわけねーだろきもいな!」と芽以。

「ですよね…」

「はやくやれよ!」

「今やります…」

健人は黙ってプリントを進める。
芽以もプリントを次々と進めている。

しばらく経ったあと、健人が「だあー!」と声をあげ、背を伸ばした。
芽以は驚いた表情で「なんだようるせえな!」と健人を見た。

「だめだ集中できない!お前よく黙ってそんなできるな!?」

健人はそう言って芽以がさばいたプリントを指さした。
今までずっとやっていた健人とは比べ物にならないほどの量をこの数分で終わらせたようで。

「おめえが遅いんだよ」と芽以。

「うるせえな数学終わらせるのに精一杯だったんだよ。科学はこれからだし…」

健人はそう言って机に突っ伏した。

すると、教室のドアが開いた。
ドアの方向を見ると、そこには科学の先生である黒川誠がいた。

「あれ、お前らこんな時間まで勉強なんて偉い〜」

黒川はそう言いながらこちらを見てきた。
瞬間、芽以が口を結んだ。
健人は不思議そうに芽以を見た。

「てかお前がこんな量のプリント渡してきたんだろーが」

健人はそう言って黒川を見る。
黒川はハハと微笑みながら健人の方に健人の頭を軽く叩きながら言った。

「黒川先生、だろ」

健人は黒川の手をよける。

「っるせえな先生なんて柄じゃねえだろ痛ってえんだよ」

黒川は芽以の方を見て不思議そうに言った。

「あれ、芽以、珍しいな男子といるの。しかもこんなやつと」

「こんなやつってなんだよ」と健人。

芽以は「いや、別に…」と俯く。

「芽以と健人仲良かったんだな、俺びっくりした。付き合ってんのかー?」

黒川に茶化され、健人は「ああわかっちゃう?」とニヤついた。

芽以は「ちがう」と即答。
健人は「はやい…」と少し苦笑。

「なんだ、違うのか。さては健人!芽以に宿題手伝わせてただろ」

黒川に言われ、健人は「ちげえよ!いやっ違くはないけど…ちげえよ!」と答える。

「まあ仲良いのはいいけど、そろそろ帰れよー。俺が車で送ってってやるから、ほら、立て」

そう言えばもう7時を回っていた。
そろそろ帰らねば。

「ほんとに!」

芽以は嬉しそうに立ち上がった。

「え、なんでそんな反応?」と健人。

「ほら、二人とも準備したら駐車場こいよ」

黒川はそう言って先に教室をあとにした。

「じゃあ準備するかーーーーはや!」

健人が準備しようとすると、芽以は既にカバンを背負っていた。

「はやくしてよ、先行くから」

芽以はそう言って教室を出ていった。
残された健人はポカンとした表情を浮かべる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「よし、乗れ〜感謝しろよ〜」

駐車場につくと、先に黒川が携帯をいじって待っていた。

「ありがと!先生!」

芽以はそういって車に乗り込んだ。
健人は「お願いしまーす」と言って芽以の隣に乗り込んだ。

「じゃ行くぞー」

黒川はそう言って車を走らせる。

「そういえば芽以、こないだのテストすごかったな、98点」

運転しながら黒川が言った。
芽以は嬉しそうに答える。

「覚えててくれたの!先生!」

「もちろん。学年トップだったしな。健人は赤点だけど」

黒川はそう言って微笑んだ。

「科学なんてわかんねえよ!」と健人。

「面白いぞー科学。理解すれば」と黒川。

「あんなもん理解したくもないね」

「可愛くねーなー健人は。芽以はいっつもトップの点数とってくれるのに。な、芽以」

黒川に言われ、芽以はまたも嬉しそうに答える。

「黒川先生の教え方がわかりやすいからだよ〜」

「嬉しいこと言ってくれるなー」

隣で笑顔で話す芽以を見て健人は顔を歪めた。

Re: 99%のボクと1%のキミ ( No.12 )
日時: 2018/01/06 13:15
名前: わたあめ (ID: cdCu00PP)


「ありがとう!先生!」
「ありがとなー」

健人と芽以は同じ駅に降ろしてもらい窓を開けてこちらを見る黒川の前で言った。

黒川は笑顔で「おう!気をつけて帰れよな」と言うと窓を閉めた。
2人が車から離れると黒川の車は発進し、2人の視界から消えた。

「じゃ帰るかーーーって置いていくな」

健人が振り返ると芽以は既に歩き出していた。
健人は小走りで芽以の隣まで行く。

「ついてくんなストーカー」と芽以。

先程までの笑顔は消え、いつもの不機嫌な表情に戻っていた。

「誰かストーカーだ!ってか、お前もこの辺なんだな、家」

「あんたと同じ街とか最悪」

「お前な、態度違いすぎるだろ!」

「何であんたにニコニコしなきゃいけないのよ」

言われ、健人は少しニヤニヤしながら言った。

「お前、黒川のこと好きなんだろ」

健人がそう言うと、芽以はすごい勢いで振り返って言った。

「はっ!?なに言ってんの!?」

そう言う芽以の顔はかなりというほど赤くなっていた。
健人はニヤニヤしながら言う。

「ふーん、お前って意外と乙女なんだな〜。好きな男の前では柄にもなく可愛〜い笑顔で喋っちゃうんだな〜」

芽以は口を結んで何か言いたげにしている。

「ふーん、芽以ちゃんってあんな顔するんだ〜、黒川ね〜まあ確かに?若いし?俺ほどではないけどイケメンだし?優しいもんな〜。ああいう男が好みなんだ〜ふ〜ん」

「うっ、うるさい!あんたには関係ないでしょ」

芽以はそう言うと一人でスタスタと歩き出した。
健人は「まてよー」と言って芽以の隣まで行く。

「手伝ってくれるって俺結構嬉しかったんだけど」

健人が言うと、芽以は不機嫌な表情で「あっそ」と呟く。

「でも黒川のためだったのか〜、なんか落ち込む〜」

健人は冗談を言うように呟く。
芽以は相変わらず無視。
健人はムッとした表情で芽以の頬を掴んだ。

「痛った!触んな!」

芽以は振り向き言う。

「…なんで黒川のこと好きなの?」

健人が言うと、芽以は目を見開く。
健人は続ける。

「あ、いや、深い意味じゃなくて。なんていうか、普通に何かキッカケはあっただろうし」

「…けい…じゃん…」

芽以はボソボソと何か言っているようだが聞こえない。

「え?なに?」

健人が聞き返すと、芽以は「関係ないじゃん!放っといてよ!」と言って走り去って行ってしまった。

残された健人は「えー…」と呟き、消えていく芽以の背中を見た。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

夏休みに入って1日目。
教室には誰もいない。

健人はため息をつき、1人窓際の席へ。
机に横たわり、携帯を見る。

『ごめんなー今日』
『おーい』
『めいちゃーん』
『おーい』
『おーい!』

と、昨日芽以にLimeを送ったが返信がない。
ちなみに既読はついているので完全に無視されている。

昨日怒らせちゃったし今日は本格的に一人か。

健人はそんなことを思いながらもう一度ため息をついた。
すると廊下から足音が聞こえる。

誰だろ。

すると足音はこちらに向かい、ドアが開いた。
健人は驚いた表情で見る。

そこにはこちらに近づいてくる芽以の姿があった。

「来てくれないかと思った」

健人が言うと、芽以は相変わらず不機嫌に答える。

「手伝うって約束したし。ってかお前のために来たんじゃなくて黒川先生に会えるかなと思って来ただけだし」

もうオープンなやつだな。
昨日あんだけ嫌がってたくせに。

「ふーん、意外とイイコじゃん、お前。てかもう認めるんだ」

「なにを」

「なにをって、黒川のこと、好きなんだろ」

「…うん」

うわー認めた。認めちゃうんだ。

すると芽以は少し不安そうに言った。

「…どうせ、あいつらに言うんでしょ」

「あいつら?」

「…三島と有明、だっけ」

へー、ちゃんと名前覚えてんじゃん。

「別にあいつらに言わねえよ」

「嘘だ」

「嘘じゃねえよ。お前の気持ちばらしてどうなる」

「…ばかにしたりとか、するんじゃないの」

「しねえよ。…てかねえ、俺の名前も呼んでよ」

健人がニヤニヤしながら言うと、芽以は「は?」と返してくる。

「だって芽以ちゃん、俺の名前呼んだことないじゃん。椋と翔太だけずるい」

「嫌」

「は!?なんで?!」

「…きもいから」

「いや答えになってねえし失礼だし!」

「あんたの名前知らない」

「嘘つけ!…ま、いいや。せっかく来てくれたんだしー」

健人はそう言うと頬杖をつき、シャーペンを手にする。

「あー!もう!科学なんてわかんねえよ!」

健人はそう言いながらプリントを進める。

「うるせえな!黙ってできないわけ!?」

芽以もプリントをやっていた手を止めて言う。

「だってー、1日中こんなん死んじゃう〜」

健人はそう言って机に突っ伏した。
芽以は「じゃあそのまましね」と冷たく言い放つ。

「…冷たいな〜俺には」

ああ、なんでこんなモヤッとするんだろ。
でもあんな風に『関係ないじゃん!』とか言われたら余計気になるっつうか。

「…ねえ、教えてくんないの」

健人が言う。
芽以は「何問目?」と聞いてくる。
健人は「ちがくてさ」と続ける。

「黒川の話」

すると、芽以は手を止める。

「何でお前に話さなきゃいけないんだよ」

言われ、健人はムッとした表情で言う。

「いいじゃん、友達だろ」

「友達じゃねえから。言ったでしょ、あんたみたいなチャラついたやつが1番嫌いだって」

「でも嫌いじゃないから手伝ってくれてるんだろー?ならーーーーーー」

健人の話を遮ると、芽以は不機嫌に言った。

「あんたさ、女遊びすごいんでしょ」

「えっ、は!?なに、急に」

健人は苦笑しながら答える。
芽以は表情を変えることなく続けた。

「どうやったらそんなに人に好かれるの?教えてよ」

って言われても…。

「な、何でそんなこときくんだよ…」

「だってあたしわかんないから。同じ学年のやつを好きになる気持ちも、好かれる気持ちも。あんたよくわかってるでしょ」

「お前俺にどんなイメージ持ってんだよ。別に俺も相手も本気で好きなわけじゃ…」

「だったら尚更わかんない。それなのにあんたモテるの?」

「別にモテねーよ!いや、モテるけどな!」

「…去年、あたしと同じクラスの女子があんたに告白してた。ふられたって泣いてた。1人の人をあそこまで本気にさせるくらいの力があんたにはあるんでしょ」

まてまて、誰の話だろう…。
思い出せないとか言ったら軽蔑しそうだな、こいつは。

「…俺だって、本気で好きになった人に好かれる方法なんてわかんねえよ。経験ないから」

健人は真面目に答えた。
芽以は首を傾げた。

「どういうこと?あんたは付き合った人のこと好きじゃないの?」

「…うーん、その時はきっと好きだよ。でも本気で向き合ったことなんか、1度もない」

健人がそう言うと、芽以は不思議そうな表情で健人を見てきた。

あーあ、今頃軽蔑?してるんだろうな。

「じゃあ何で付き合うの?」

芽以は不思議そうにきいてきた。

「えっ、何でって…うーん、何でだろ」

健人はそう言って微笑んだ。

自分でもわかんねえや、そんなの。
本当に好きってことがわかんない。

「…ふーん」

芽以はそれだけ呟くと、またプリントを再開した。

何が言いたかったんだろ、こいつ。
なんつうか黒川のこと、本当に好きなんだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

夏休みが始まって毎日プリントをすること1週間。
ようやくプリントが終わりかけていた。

芽以は来る日が殆どではあったがたまに来ない日があった。

Limeをすれば『今日黒川先生休みだもん。行く意味ない』としか返ってこない。
なんて白状な。

黒川のどこがいいんだか。
いや確かに若いしイケメンだし優しいけど、女ってああいうのが好きなの?
俺をダシに使うほど?

ぶっちゃけ、今までダシになんか使われたことなかった。
みーんな俺狙い?っつうか。
これは自意識過剰?いやいや。
実際わりとそうだって。
昔から結構モテる方だし、手に入れたかったものは大抵手に入ってきた。

ちょっと気になる子ができてアピールしたらすぐに俺になびいてきたし、彼氏と別れてまで俺を選ぶ子だって少なくなった。

なのに。
なのになんだこいつ。
俺が何度Limeしても返ってくるのはたった1文か、もはや既読無視。

1人でも生きていけそうっていうか、強すぎるっていうか。


こんな仕打ち初めて過ぎる。

なーんか気に入らないんだよね。






健人は目の前でプリントをやる芽以を見て思う。

「なあ、今日どっか行かね?」

健人が言った。
芽以は動きを止めずに答える。

「嫌」

はやいっ!
少しは悩め。

「なんでだよ!はえーよ!」

「何でお前と出掛けなきゃいけないんだよ」

芽以はいつも通り、健人と話す時は不機嫌。

「何でってー、手伝ってもらったしー、お礼?みたいな?」

健人が言うと、芽以は少し考える素振りを見せた。

「いらない」と芽以。

何で考えたんだ。
てかなにを考えたんだ。

「えーいいじゃん、たまには」

「むり。黒川先生がいるならーーーー」

芽以がそこまで言ったところで、「俺がなんだってー?」と声が聞こえた。

ドアの方を見ると、ニコニコと笑った黒川がこちらに向かってきていた。

途端に芽以の表情が明るくなる。
健人はそれを見て顔を歪めた。

「先生!」

芽以は嬉しそうに黒川を見上げている。

「ちょっとは進んだかー?お、そろそろ終わるな」

二人のプリントをみて、黒川が言った。

「うるせえな、先生なら先生らしく仕事してろ」

健人が言うと、芽以があからさまに睨んできたのがわかった。
健人はムッとした表情を浮かべる。

「先生の仕事が一段落したからお前らのこと見に来てやったんだよっ。困ったことに補習は健人の他にもいるからな〜」

黒川は参ったように言う。

「なーんだ、俺以外にもいるなら余裕じゃん?」

健人が言うと、黒川は「ばかたれー」と健人を睨む。

「健人が1番点数悪かったぞー。芽以とか椋に教えてもらったんだろー?どういうことだよ赤点って」

「うっせえなー。わかんないもんはわかんないの!」

「開き直るな」

「もう終わるっつうの!」

健人がそういったとき、携帯の着信音が鳴った。

「あ、すまん。俺だ」

黒川はそう言って携帯を出した。
黒川は廊下に出て何か話している。

「お前顔変わりすぎ」

健人はそう言って芽以を茶化す。
芽以は「うるさい」と一言。

すると黒川が戻ってきた。
黒川は近くの机に携帯を置き、「じゃ俺はそろそろ帰るからお前らちゃんとやれよ?」と微笑んだ。

「なに、用事でもできたのかよー」

健人が言うと、黒川はニヤニヤしながら携帯の画面を見せながら言った。

「ガールフレンド」

瞬間、健人は言葉を失った。
芽以を見ると、芽以は静かに俯いている。

幸せそうに微笑む黒川の携帯にはLimeが届いていた。








『はるか:ちゃんと時間通りに来てよね!』






と。


Re: 99%のボクと1%のキミ ( No.13 )
日時: 2018/01/09 13:08
名前: わたあめ (ID: jBbC/kU.)




「じゃ、俺行くわ」

黒川はそう言って教室を後にした。



気まずい。
これは、声をかけていいものか…?



健人がそんなことを考えていると、芽以が話し出した。

「…今日はもう、帰っていい」

芽以に言われ、健人は「お、おう。…じゃ俺も帰る」と言って立ち上がる。

芽以は「…いい」と言って立ち上がり、カバンを持って先に出ていってしまった。

「あっおい!」

健人は急いでカバンに荷物を詰め、芽以の後を追った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おーい、芽以ちゃん」

芽以に追いつき、健人は芽以の隣まで来た。
芽以は何も言わない。

まあ、そりゃあ…ショックだわな。

「あ、あのさ…その、ああいうのは…」

健人が何か言おうとしたとき、芽以は歩きながら遮った。

「あたし知ってたよ」

言われ、健人はキョトンとする。

「え?知ってたって…」

「黒川先生に彼女がいるってこと」

「え、そうなの?知ってたの?」

「…うん。ずっと見てきたから…それくらい知ってる」

芽以の歩く速度が遅くなった。

「…そっか」

何も言えない。
こういうとき、何て言うのが正解?
あー、バカなのってこういう時だめだよな。
語彙力なさすぎて何も出てこねえ。

「それでも好きなの?」

健人がそう言うと、芽以は立ち止まった。
芽以は何も言わない。
いや、言えないのか。

少し前にいる芽以の背中は小さくて、今にも壊れてしまいそうなくらい震えていた。

横に見える海の波の音だけが耳に届く。

そしてしばらくして芽以が振り返った時、健人は目を見開いた。

芽以の目には涙が溜まっていた。








「すきだよ!どうしようもないくらい!」










芽以はそれだけ言うと、静かに涙を流しはじめた。
目に溜まっていた涙が次から次へと溢れ出ている。






全然強くなんてない。

1人でも大丈夫じゃない。

他の女の子と何ら変わらない。






なんだ、こいつも普通の女の子じゃん。









健人は静かに歩き出し、泣いている芽以に近づく。

芽以は「…なにっ、来ないでっ!」と俯きながら言っている。

健人は芽以の言葉を無視して芽以に近づき、そのまま芽以を抱き寄せた。

芽以は驚いた表情で「…ちょっと!離してよ!」と言って暴れ出す。

健人は暴れる芽以を抱きしめる。

「…黒川じゃなきゃだめなの?」

健人が言うと、芽以は小さく頷いた。

「なんで?」と健人。

「…だめなの、先生じゃないと、だめなの!」

芽以は泣きながら子供のように答えた。

健人が芽以の顔を見ようと少し力を緩めると、芽以は健人の腹にパンチをくらわせた。

「おえっ!!」

健人は苦しそうに力が抜け、「何しやがる!」と言って芽以を見た。

芽以は泣き目のまま「うるさい!さっさと離せよ変態!」と叫ぶ。

「おまえが泣いてたから慰めてやったんだろうが!」

「どこが慰めてんだよ!しね!」

芽以はそれだけ言うと走って行ってしまった。

「…はあああああああああ!?」

健人はムッとした表情で消えていく芽以の後ろ姿を見た。
もちろん腹をおさえながら。

なんだこの感じ。
何であんなやつの事この俺が追ってんだよ。







あれ、なんだよこの感じ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「へぇー!椋ちゃんやるじゃん!」

夏休み、久しぶりに椋と翔太に会った。
やっぱ男だけってのが1番楽だわ。

で、今のは翔太。
椋のやつが茉里ちゃんに告白?的なのしたんだってさ。
ちょっと話聞いてなかったからわかんねえや。

「まあねー。ちょっと雰囲気に押されたのが大きいけど」

椋は少し自慢気に言った。

「それでも進展じゃん!ねえ、つっちー」

翔太が健人に同意を求める。

「え?ああ、うん。で、付き合ったの?」

健人は適当に話を合わせる。
椋と翔太は神妙な顔をする。

あれ?違った?

「つっちー、さては話聞いてなかっただろ」

椋が言った。
翔太も続く。

「どうしたのつっちー?なんか今日ずっと上の空だけど」

言われ、健人は「実は…」とまで話すも、芽以の黒川への気持ちを黙っておいて欲しいという気持ちを汲んだうえで発言する。

「ああいや、実はその、いや、俺もさ!そろそろちゃんとした彼女欲しいなーなんて…」

さすがに動揺しすぎたか?

「あ、つっちーも恋したくなった?」

椋がニコニコしながら浮かれた様子で言った。

「そういうことか〜」と翔太。

良かった、こいつらがアホで。

「そうそう。椋の話聞いてたらさ〜。やっぱ唯ちゃんかなー?」

健人はニヤニヤしながら椋を見た。

「唯はだめだよ」と椋。

こいつはやっぱりシスコンだ。
冗談だっつうの。

「でもまあ、椋ちゃん1歩前進だね」

翔太は嬉しそうに言った。

「このままちゅーでもしちまえ〜」

健人が茶化すと、椋は「つっちーじゃないんだから」と笑う。

あー楽しい。ってか楽。
でもやっぱなんかモヤモヤする。
こんなの初めてすぎる。
どうしたら椋みたいに真っ直ぐに頑張れるわけ?
せっかく3人で集まったってのに俺ってばもー。

「…茉里ちゃんって元彼?のことまだ好きなの?」

聞いてみた。
今いうことでもなかったかな。

椋は明らかに落ち込んだように「わかんない…」と答えた。

「でも!仮にそうだったとしても俺は自覚してしまった以上振り向かせてやる」

椋は意気込むように言った。

「お、椋ちゃんすごい覚悟」と翔太。





好きな人に好きな人がいる、ってどんな気持ち?

今まで考えたこともなかった。

だってそんなこと一度もなかったから。

それも複雑。
好きな人の好きな人にも好きな人がいて、好きな人の好きな人は両想い。

ああもう、ややこしい。

負け戦はしたくない。
てかしたことない。

芽以は元々黒川に恋人がいることを知っていた。
それでも尚、会えることを喜んで、黒川の一言一言に喜んでいた。

傷つくことなんてわかっているはずなのに。

そうまでして人を好きになることなんて理解できない。

いや、理解できなかった。
こうなるまでは。

たとえそれが負け戦でも、戦ってみるくらいの価値はあるのかもしれない。


『芽以ちゃーん』
『おい』
『おーい』
『返信しろ』
『既読ついてんじゃねえか!』
『見てんだろ!』
『なあごめん』
『おいって』
『芽以ちゃん』


Limeはシカトするし、めんどくせえし、いつも強気なくせに、あんな弱い所見ちゃったら忘れられるわけねえじゃん?

俺って案外単純なのかも。



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