複雑・ファジー小説
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- 謳歌する世界ノ最期、戦ふ子供ら涙ヲ拭え。1
- 日時: 2018/01/14 14:58
- 名前: 咲葵 (ID: floOW.c4)
- 参照: .
昨日、夕焼けが魅入るほど綺麗だった。
今日、風が涼しくて町を散歩した。
明日、学校で部活をする。
明後日、どこで何をしよう。
一週間後、大切な人が死んでしまうかもしれない。
一ヶ月後、私は死んでしまうかもしれない。
一年後、世界は滅びるかもしれない。
いつか、また世界は生まれ変わるかもしれない。
あなたは自分の命と世界、どちらを選びますか?
自分の命?世界が滅んでしまっても良いんですか?
世界?あなたの命が尽きてしまっても良いんですか?
どちらを選んでもバッドエンドが待っている。
でも、ただひとつだけ分かることがある。
それはどんな物語にも有りそうなこと。
それは。
──どんなときだって独りじゃないってこと。
……ほら、もう一度戦うんだ。
全ては世界ノ存亡の為ニ。
- Re: 謳歌する世界ノ最期、戦ふ子供ら涙ヲ拭え。1 ( No.8 )
- 日時: 2018/01/20 16:34
- 名前: 咲葵 (ID: CPXaMj9a)
- 参照: .
第2章〈時間切レ〉
「あーっ、急がなきゃ!」
現在午後十二時半、
約束の一時に間に合うよう
急いで支度をしている。
白いワンピに黒タイツと
暑さに対抗すべく
涼しい格好に気を配った。
「行ってきます!」
私は家を出ると、
炎天下の町中を駆けていく。
生温い追い風で、
走りが加速していった。
気が付くともう広場の前。
中へ足を踏み入れると
真っ直ぐに二人へ駆け寄る。
「あ、零藍ちゃん。
今日は早かったねー。」
「…………よう。」
花桜李ちゃんは笑って迎えてくれた。
けれど、翔君はなんか……手で口を軽く抑えては
そっぽを向いている。
まさか、私変な格好だったかな。
私は自分の身なりを確かめ、二人を見た。
「…………ふふ。」
花桜李ちゃんが何やら笑っている。
「…………私何処か変なところでもある?」
私は恐る恐る二人へ訊ねた。
「…………別に、何も。」
素っ気ない態度で翔君が答えた。
花桜李ちゃんがそれを苦笑いしながら見ている。
「………………そっか。」
それ以外に返す言葉も無く、
少し気分が下がる。
何かあるなら言ってよ。
「……ま、まぁ二人共、
とりあえず作戦会議しよ?
まだ蓮弥は……」
そこまで言って、
花桜李ちゃんは口を噤んだ。
「ごめん」と謝る彼女に
私は「気にしないで」と返す。
「………………。
まず、何をすればいいか……だな。」
翔君の言葉に、
私は頭の中で考えを広げた。
今のところ、私達に出来ることは無い。
いや、一つだけある。
それは、あの空間移動で
私が世界について手がかりを集める事。
きっとそれなら、出来る。
「…………やっぱり、
空間移動なんじゃないかな。」
私の言葉に二人が頷いた。
「……分かることが、あるかもだからね。」
花桜李ちゃんが付け足してくれた。
「……じゃあ、夕暮時を待つだけか。」
翔君が溜息をついた。
「…………やること無いね。」
私は苦笑しながらそう返した。
…………と、その時。
『ガシャンッ』
硝子が割れたような、
大きな音が何処かからか聴こえた。
「きゃっ!?……何……よ……。」
花桜李ちゃんが酷く怯えている。
すると、さっきよりももっと大きな音が
あちらこちらから聴こえてきた。
「……何が起きているんだよ。
……まさか、もう"終わり"か!?」
翔君が声を荒らげる。
終わり、とはきっと世界のことだろう。
私はそれに構わず、
その音達に耳を澄ませた。
「…………何が起きているか、
それは分かんないけど……来て。早く!」
私は一足先に駆け出した。
二人は私についてくる。
広場から出るとそこは、
まるで地獄のようだった。
それぞれの家の硝子が割れ、
道路にまで飛び散っている。
どんなに走っても、人っ子一人見当たらない。
そして私が一番に驚いたのは。
「…………蔦が、生えていく。」
有り得ない速さで、
家に蔦が絡み付いていくのだ。
そして私の家に着く頃には、
私の家も同じ様な有様になっていた。
「…………嘘だ。」
そう言葉を発したのは、
私ではなく翔君だった。
「嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁ!
なんで町中がこんな事になってんだよ!
こんなのあんまりだろッ!
…………なんで……なんでだよ……。」
翔君がまるで別人の様に、
さっきの荒げ声とはまた違った
怒りを露にした。
歯を食いしばり、
頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
私達はそれを宥めることも出来ず、
ただ眺めているだけだ。
「……とりあえず、中に入ろう。」
私は、家の中に入る。
暫らくすると花桜李ちゃんが
翔君を連れて入ってきた。
「……落ち着いて。
……此処は、私が前に空間移動した
場所の光景と全く同じなの。
……翔君も来たと思うよ。
そして人も居なくなってる。
……そこで考えられるのは……」
私はそこまで言って言葉を切る。
「……考えられるのは?」
花桜李ちゃんが急かしてきた。
「…………考えられるのは、
『もう私達は空間移動しているんじゃないか』
って事。つまり、
私達は何処かのタイミングで
既に空間移動していて、
もう入り込んでしまったのではないか
…………って意味。」
「…………。」
翔君が何かを考えている仕草をする。
花桜李ちゃんは私の言葉に頷いた。
「……そこで、なんだけど……
もしかしたら女の子と会えるかもなの。」
- Re: 謳歌する世界ノ最期、戦ふ子供ら涙ヲ拭え。1 ( No.9 )
- 日時: 2018/01/21 09:55
- 名前: 咲葵 (ID: CPXaMj9a)
- 参照: .
「そっ……その女の子って誰よ!」
花桜李ちゃんは、私を見てそう強く聞く。
「……その女の子は、
此処に残った最後の一人なの。
……多分、きっとそう。
それでね、私はその子に
空間移動の中で知り合った。
だから……私の考えが合っていれば、
その子は確実にこの町に居る。」
私は花桜李ちゃんにそう答える。
確かあの子の名前は、夢だ。
「……ふーん。じゃ、
会いに行くしかないみたいね。」
花桜李ちゃんは納得した様に
腕を組み、口角を微かに上げた。
薄暗い部屋に、暖かな光が差し込む。
「…………行くか。」
私達は立ち上がった。
そして、家を出てあの場所へ向かう。
「……あっ、零藍ちゃん!」
予想通り、そこには夢ちゃんが居た。
「こんにちは。」
私が挨拶すると、
後の二人も続けて挨拶した。
「この前は急に
居なくなっちゃって……
びっくりしたよ!
でも、お友達連れてきたんだね〜。
それで?今日はどうしたの〜?」
夢ちゃんは要件を私達に聞いた。
「……あのね、夢ちゃんは……
この街の外に出たこと、ある?」
それに答えるわけでもなく、
私は相手に質問をした。
「……私の記憶では出たことは無いよ。
……でもいつか出てみたいなぁ。」
その言葉を聞き、私達は顔を見合わせた。
「……じゃあ、出てみよ?」
そう言ったのは、花桜李ちゃんだ。
「……でも、出る方法がわからないよ。」
夢ちゃんは困った様に俯いた。
「……一つだけ、考えがあるよ。」
私は、人差し指を立てて
少し自慢げに微笑んだ。
「なになに!?」
三人が目を輝かせながら私を見る。
「……それはずばり、
線路に沿って出るべきじゃない?」
三人が「おおー」と声を上げる。
この町の境にはフェンスがされているのだ。
なら、線路に沿っていく他ない。
我ながらこの案はかなりいいと思った。
何故なら、線路の上にフェンスが
ある訳がないからだ。
まぁ、気付かないのが
おかしいとも言えるのかもしれないが。
「じゃ、明日の朝に決行だね!」
花桜李ちゃんが楽しげに髪を揺らした。
「だな、今日はどこで休む?」
翔君の言葉に、夢ちゃんが
「じゃあ私の所に来ていいよ。」
と微笑む。これで今日は安心だ。
「じゃあ行こっか。」
澄み渡る晴天の中、
四人の少年少女が歩き出す。
いや、五人と言うべきだろうか。
「楽しくなってきたね、皆……。」
その様子を見守る者が一人。
「……メールだけ送って、ごめんね。」
- Re: 謳歌する世界ノ最期、戦ふ子供ら涙ヲ拭え。1 ( No.10 )
- 日時: 2018/01/21 10:33
- 名前: 咲葵 (ID: CPXaMj9a)
- 参照: .
「……にしても、
町の外に出た後どうするの?」
午後六時、皆で夕食を作っていた頃
花桜李ちゃんがそう切り出した。
やはり此処は言い出した者が
答えるべきなのか、
皆の視線が私に集まる。
「……それは、向こうで決める。
今はまだ情報があまり無いから。
でも一番は、蓮弥君を連れて帰ること。
もしかしたらそこに居るかもだから。」
私は人参を薄く切りながら、
皆の方へ向いて答える。
「……だよ、な。
あいつ、何処行ったか分かんねぇしな。」
翔君が腕を組んだ。
夢ちゃんは相変わらず微笑んでいる。
実はさっき、夢ちゃんに
蓮弥君の話をしておいたのだ。
そしたら、案の定協力してくれる事になった。
とても心強い。
ご飯が出来ると、
私達は椅子に座りテーブルに
自分の分のご飯を置いた。
今日は、カレーだ。
「……にしてもよくこんなの家にあるよね。
賞味期限とかどうなの?」
花桜李ちゃんが不思議そうに
夢ちゃんとカレーとを交互に見た。
「えっとね、家の下に備蓄が沢山あるんだ。
ここから人が居なくなったのは二年前だし、
まだしばらくは大丈夫。」
夢ちゃんは花桜李ちゃんを見て微笑んだ。
「二年、前……?
待って、時間軸がおかしいよ。」
私は仕方なく二人の会話を止め、
それを優先させた。
「……確かに、な。
だって、俺らからすれば
その二年前はバリバリ人居たし。
そうなれば、
此処は未来としか考えられねぇ。」
翔君もそれに気付いたようだ。
タイムスリップした、という事なのか。
そもそも私達が居た頃に
絶対世界が滅びるとは限らない、が。
その場に沈黙が流れる。
「……明日、全てがきっと決まる。」
私はスプーンを置き、話す。
「蓮弥君は、きっと町の外にいる。
だから、その手がかりを各自
懸命に探し出す事。
それが……私達がするべき事。」
きっと、皆なら頷いてくれるはず。
まだ出会って数日、
こんなにも打ち解けることが出来たのは
きっとこれが最初で最後だ。
なら、最後まで笑って進みたい。
世界が滅んでも、私達が消えても。
「ああ、俺ら仲間だしな。
なんなら盛り上げていこうや!
蓮弥もそれにつられてひょいと
出てくんだろ!」
皆が声を上げる。
これが、友達。
これが、仲間。
これが、信友。
きっと、もう機は熟した。
反撃に向かおう、
世界を滅ぼそうとする者へ。
苔が生え蔦に覆われた町に
一棟の家から笑い声が四つ、
絶えずにずっと響いていた。
「…………。」
隣町では、四人が話していた
あの少年がポツリと涙を流した。
その意味などわからず、
記憶も喪ってしまった。
でも、何処か心臓の辺りが痛い。
これは……寂しいというものなのか、
それとも別の哀しみか。
▼アト?日??時間??秒▼
- Re: 謳歌する世界ノ最期、戦ふ子供ら涙ヲ拭え。1 ( No.11 )
- 日時: 2018/01/21 17:56
- 名前: 咲葵 (ID: ./E8qlXb)
- 参照: .
「よっし、しゅっぱーつ!」
夢ちゃんが、小さなリュックを背負って
玄関先に立つと右手拳を大きく挙げた。
私達も楽しみで、
その反面心配もある。
でも後ろ向きには進めないから
希望と考えは持っておこうと思う。
朝だというのにもう日差しは強くて、
静かなのに違和感を覚えてしまう。
「…………線路だね。」
私達は線路を見つけると
その上を歩いていく。
やはり廃線のようで、
手入れされている様な感じがない。
海が良く見える防波堤の近くから、
今度は長いトンネルまでやって来た。
静弥トンネルだ。
「ここで少し休んで行く?」
私が声を掛けると、皆それに頷いた。
疲れてるんだなぁ……。
そこは入口と出口から
光が入ってきていて、
私達は出口で休んだ。
「……はぁ、後どれくらいなの?」
花桜李ちゃんが腕時計を見ながら
そう私に聞いた。
「……まだまだ、かな。」
私は苦笑しながらお茶を一口飲む。
「……ま、頑張ればいけんだろ。」
全く、こういう時は
ホント気楽なんだから……。
翔君の感情の移り変わりには、
本当に呆れ笑いしか出てこない。
でも……なんか、安心する気がする。
まぁ、すぐに不安がるけど。
「……よし、行こうか。」
私は三人を連れてトンネルを出た。
その時、陽の白い光が照りつけて
涼しい風が吹き、木々が揺れる。
桜と紅葉の並木道だ。
残念ながら今は春でも秋でもない。
いつか帰って秋の半ばになったら、
ここに来てみよう。
きっと、綺麗なはずだ。
「零藍ちゃん零藍ちゃんこっち!」
「ふぇ!?」
そんなことを考えていたら、
夢ちゃんはカメラを手に持ちながら
自撮りしようとしていた。
四人一緒に写真、か。
悪くない、いや、寧ろ良いかもしれない。
『パシャッ』
その場に響くシャッター音。
「よく撮れてるー!」
カメラから写真を取り出し、
夢ちゃんが私にそれを渡す。
「帰った時の思い出にしてね。」
その一言で、私は胸の奥が
強く痛い感覚に襲われた。
そっか、私達が帰るということは
夢ちゃんと別れなくてはならないのだ。
この子は、この町に一人でいて
少しも寂しくないのだろうか。
せめて……一緒に帰られたら良いのに。
「行こ行こー!」
夢ちゃんが私の手を握って、
笑いながら進んでいく。
この子、やっぱり強い。
「……ほーんと、仲良しよね。」
後ろから花桜李ちゃんの
羨むような声が聞こえた。
「二人もおいでよー!」
夢ちゃんが花桜李ちゃんの手を取り、
翔君がその横に来る。
いつまでもこうだったらいいのに、な。
私は静かに微笑む。
此処に、蓮弥君も居たらいいのに。
その時、私はまだ知らなかった。
蓮弥君がどうなっているかという事も、
これから何がどうなるかという事も。
今だって現実から目を背けたい。
だけど、仕方ないよね。
これは初めから決められていた事だから。
- Re: 謳歌する世界ノ最期、戦ふ子供ら涙ヲ拭え。1 ( No.12 )
- 日時: 2018/01/24 20:45
- 名前: 咲葵 (ID: ./E8qlXb)
- 参照: .
「…………ここが、ここらで一番の都会?」
翔君は、辺りを見回すと
そう驚きを含んだ声で言った。
あの道を抜け、少し歩いた先に
隣町に辿りついたのだ。
雰囲気的にはビルが多くて、
遠くには何か……大きなビルがあった。
その大きなビルは他のビルと違い、
蔦が生えていなかったりヒビが
入っていないように見えた。
そして私たちはそこに来た、
という訳だ。
「…………つってもよ……
此処誰か居んのかなそもそも。」
「そういう事言わないで、
中に入るしかないよ。」
翔君が溜息をつき、
私はそれを半分呆れ混じりで見ていた。
中へ入ると、そこは
なんとも不気味なビルだった。
何の為に使われていたかは不明だが、
この辺では一番大きい。
「……このエレベーター、
使えるんじゃねぇの?」
「危ないよ、こんな所だから余計にね。」
そんな会話が続くだけで、
何も有力な情報は出てこない。
「……あ、此処階段あるぞ!」
翔君が向こうで叫んだ。
私達はそこへ向かう。
「……高い……。」
花桜李ちゃんはそう呟き、
私は上と下を見上げ見下げた。
無限のように階段が続き、
それは下にも広がっている。
窓から光が入っていないせいか、
どの階も暗い。
殆どが夢ちゃんの懐中電灯で見えている。
「…………上、下、どっちに行く?」
私は三人に訊く。
「下だな。」
「下ー!」
「下ね。」
三人全員が下に行きたいと言った。
私達は階段を下りていく。
音を立てないように、こっそりと。
『バンッ』
「ッ!?」
「…………気にしないで、行こう。」
さっきの音は…………、
多分何処かのドアが勢いよく閉まる音。
驚き怯える花桜李ちゃんを、
一列の二番目に入れる。
列順は、
私・花桜李ちゃん・夢ちゃん・翔君だ。
「着いた。」
一番下まで行って、
私はそっと扉を開ける。
…………何これ。
きっと他の三人も思っただろう、
全員言葉が口から出てこなかった。
そこは、下に埋め込められているのか
青と黄色と赤の蛍光灯らしきものから
その色の光が放たれている。
それだけじゃない、
そこら中に何かの紙が散らばって落ちている。
『サッ……』
私が拾いあげて見ても、
その全部が白紙だ。
「……行こう。」
私は三人に声をかけ、
目の前の扉をゆっくり開けた。
その部屋は、一台のパソコンから
光が出、照らされている。
そこに映るはさっきの出入口。
此処には誰かが居る……、
そんな事は誰にでも分かる。
嫌な予感がした。
もしも、さっきの音が此処に居る
誰かが出したものだったら?
もしその誰かに見つかってしまったら?
きっと、ただじゃ済まされない。
「…………。」
私はそっと、その先の扉のドアノブに
手をかけて捻る。
『ガチャガチャガチャ』
左に捻って押し引いても
右に捻って押し引いても、
扉はガチャガチャと音を立てるだけだ。
鍵が、かかっている。
私は仕方なくそれを皆に伝え、
一緒に探してもらう事にした。