複雑・ファジー小説

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白百合と手記
日時: 2019/03/18 06:52
名前: K ◆FJjoZBA4mU (ID: Ij88/0W6)

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       古びた日記帳。悪夢の記憶、或いは君との幸せ■■■——
                                 by xxxx xxxx


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                          永遠など、何処にもなかった。

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Thu., 13 Sep. ( No.8 )
日時: 2018/09/13 23:21
名前: K ◆FJjoZBA4mU (ID: Ij88/0W6)

 片付けの息抜きにと、いつもの喫茶店へと向かった。変わらず落ち着く店内から、今日もまた君を見つけられたのは最早運命と呼ぶほか無いのだろう。キルシュトルテと紅茶の組み合わせは久々に試すとなかなかに良いものであったし、君のかんばせが柔らかに艶めき、煌めく瞬間を見ることが出来たのは幸いと呼ぶ他にない。……嗚呼、けれど、あの男は誰なのだろう。やけに楽しげに語らっていたが……否、詮索はやめよう。穏やかで、優しそうな人であったから、きっと君には似合いの相手で、私などよりもずっと、ずっと君に相応しい相手なのだろう。私は断じて、君を脳内で穢した事はない。触れたとしても優しく、慈しむために相違ない。……胸の高鳴りが抑えきれぬ事実ばかりは、否定はできない。君を見つめるだけでこの心が高鳴り、乱されるのは偽りようがない事実である。されど、君をこの手で穢したいなどと思ったことはない。一度たりとも。或いは、清らかなる君のために私が動くということが既に穢らわしいとしても、だ。
 しかし、一人の男の存在などで私の心が乱されるというのも愚かしい話だ。私は君に触れられない、君は私を知りもしない、楽しげに語らう男のことも何一つ知りはしない。其の耳元で愛を囁く事も、蠱惑的な瞳を真っ直ぐに見つめる事も。其の手を引いて北へと走る事も出来はしないというのに。柔らかな日差しを浴びて、眩しそうに双眸を細める君を、その日差しから守る事も出来やしない。月明かりの糸で君を絡め取って、連れ去れるならば、私の心も休まるのだろうか。あのほほ笑みを、私に向けてくれたら、等と何度妄想しただろう。思えば、もう一週間である。悍ましい感情を書き溜めて、すっかりこの日記も何処か薄暗い、宵闇の色を帯びて来たように思えてしまう。……鍵でも掛けようか。そうして地下室に置いておくのも悪くはない。誰の目にも触れなければ、何時か私の中だけで燻り、消えゆく感情なのだろう。……死する時はきっと、この感情の終わりであると信じたい。渇望は永久にはならず、この瞬間ばかりを埋めていく。埋め尽くしていく。……そうであってほしいものだ。ひどい飢餓感は恐らく、一時のものであろう。どうせいつか飽きるのだ、いつだってそう言うのもだろう。そういうものだ。そういうものでなくてはならない。私がまだ冷静に、私を見つめられる内に、この燃え盛る様な、否、凍えるような感情をどうにかこうにか消しされたら良い。消しされずとも誰もが抱く“普通”にならなくては……。まだ誰にもバレてはいない、まだ誰も私の渇望を、愚考を、穢れを知りはしないのだから。嗚呼、しかし、普通とは何なのだろう。誰もに認められる普通とは……少なくとも、名も知らぬ君に想いを寄せ、こんな文章を残す私の様な存在は普通では無いのだろうということだけはわかる。……私の世界では普通でありたい、せめても、私の世界に置いて、私は社会適合者でありたかった。

 ……思索を無駄とは思わないが、永遠に続いてしまうのも良くないのだろう。明日は……いい加減捨てるものを選ばなくてはいけないだろう。このままでは地下室の荷物はきっと棚に収まりきらない。……やはり地下は倉庫のままがいいのだろうか……難しいものだ。

Fri., 14 Sep. ( No.9 )
日時: 2018/09/14 23:41
名前: K ◆FJjoZBA4mU (ID: Ij88/0W6)

 ……今日は嫌に気分が悪い。昨日の君の笑顔と、其の隣の男を思い出すたびに胸が痛み、苦しみが増していく。こんな事ならばいっそ、思考など排した人形になってしまった方が良いのではないかと思うほどだ。苦しみとは、かくも痛みを伴うもので其の痛みは、私の胸に深く突き刺さりえぐり続ける毒の牙の様ですらある。仮令牙を抜いたのだとしても、私の胸には毒が残り、延々とこの胸を傷つけ続けるのだろう。貴様の形をした恐怖は、常に私の背後に迫り、この首を刈り取る瞬間を今か今かと待ち続けているのだろう。悍ましい、恐ろしい……怖い。怖くてたまらない。其の鎌の切っ先は、すでに私の背を切り裂きかけているのだろう。ならば私は、どうしたらいいのかと考えるが……凄惨な方法ばかりが浮かぶのはどうしたって、恐怖の形が貴様であり、私が醜い緑の目をした何かを心に飼ってしまったからなのだろう。忘れたい、忘れられない……君のあの月女神の如き美しい笑みは、私の心に深く突き刺さっている。毒のようで、けれども毒にあらず。美しい輝きを私の胸に突き刺し、貫いている。恐怖とは、嘆きとは、或いは……否、思索は沼にほかなるまい。君が関わる事象ともなるとどうしても、思考は延々と続いてしまう。苦しい……しかし、君を想う瞬間の甘美な痛みは、どう足掻こうとも忘れられない喜びである。
 ……明日にはまた、あの喫茶店へ行こう。甘いものが食べたい。紅茶と甘味を楽しんで、次は君との幸いを夢見よう。夢見るだけならば許される。きっと、きっとだ。夢見る自由すら奪われたならば、私はきっと狂うのだろう。……嗚呼、真に狂ってしまえば楽なのかも知れない、と思うのは恐らく疲れているからだ……そうだ、そうでなくては。そうでなくてはいけない。狂えば、父に、母に……兄に、祖父に申し訳ないとは思うが、心の内にこの欲望を、悪しき欲を飼い続けるよりはマシな気がするのだ。狂っている、というレッテルによって私も身内もある種、救われるのではないだろうか。狂っているから仕方がない、気狂いであるのだからどうしようもない……そう思われるならばいっそ、楽なのではあるまいか。嗚呼、悍ましい思考ばかりが、私の脳にこびりついている。実行するわけにはいかない、出来っこない……そう思うのに、私は、君を。……君を、嗚呼、どうしたいのだろう。否、否、こうしたいという欲はある。あるのだが……それを実行してはならないと私の理性的な部分は囁きかけてくる。同居している本能は、望む侭に君の手を引けと嘲笑っているというのに。……駄目だ、今日はどうにも、良くない日だ。……稀にあるが、嗚呼、やはり、気分がいいものではない。もう眠ろう、月すら眠る夜ならば、私が眠るのは定めであるとして。

とある、満月の夜の手紙 ( No.10 )
日時: 2018/10/12 03:59
名前: K ◆FJjoZBA4mU (ID: Ij88/0W6)

 ——月の明るい夜のことでした。満月が空にポッカリと浮かんでは、美しく輝く夜のことです。“私”はなんでもないような顔をして、その癖おっかなびっくりと夜道を歩んでおりました。……準備をしてしまった、終えてしまった“私”の事を“私”自身許せぬままに、それでも為さねばいけないような気がして、もうとっくの昔に元の“私”には戻れない様な気がして、家を出る事にしたのです。……嗚呼、天上の月が私を嘲笑って居る様なきさえしております。……懺悔なのでしょう、無意味な後悔なのでしょう。私がこうして“私”として文字を綴って居るのは、きっと。最後には……君、いえ、いいえ、貴女と笑い合う事が出来ることを祈る、愚かな私が居たという後悔なのでしょう。……窓の外の月はとっくに昇りきっております。早く外へ出なくてはきっと、きっとあっという間に朝が来て、また私は何もなせぬ儘に後悔と懺悔と、嫌悪にまみれた日々を送り始めてしまうのでしょう。……嗚呼、嗚呼結局は私は何がしたいのだろうか。……書き出そう。
・貴女がほしい
 これは第一でありましょう。私のひどく愚かで、されど最早どうにもならない性なのでしょう。……明日という日に、これからの毎日に、君がいればどんなに幸せになれるのかと悩ましいのです。ただただひどく、悩ましいのです。
・貴女と二人きりの日々が欲しい
 ……欲してばかりだ。愚かしい。されどこうしたいという欲求は日々募るばかりでありました。君は、貴女は、私の理想なのです。完璧すぎるほどに完璧で、後は転げ落ちることだけが、堕ちる事だけが約束された完璧な君を、完璧なままで私の手元に置いておきたいのです。

 ……いざ書き出すと結局は此処に帰結してしまうのです。どうにもならない欲求と、欲望と、望みと……それから、それから——

(以下数行は黒いインクでベッタリと塗りつぶされており解読不能)

 …………次の、次の新月の夜にしましょう。それがいい、そうしよう、そうしなくてはいけない。月は、月は只々私を狂わせる。美しく輝くくせに、私の脳内をかき混ぜて、脳髄をおかしくしてしまう。恐ろしい、恐ろしい恐ろしい恐ろしい……(以下文字のような何かが綴られているが解読不能)

---------- ( No.11 )
日時: 2019/03/18 06:48
名前: K ◆PTMsAcFezw (ID: Ij88/0W6)

 すっかり、すっかり。そう、全くを以て度し難い事に。私は大人になってしまいました。つまりは、清らかなる君に触れる事すら許されぬほど、汚れきってしまったという事です。……なんと、なんと悲しいことでしょうか。現実と夢想、明日と昨日との狭間にて、私は、君という大切な存在を思い続ける程に、この身を裂かれる思いを感じなくてはいけなくなってしまいました。窓の外をふと見やります。……其処に並ぶのは白痴の群れなのでしょう。無意味な生を、無慈悲に繰り返される今日を、思考せずに“甘受”するしかできなくなった、哀れな愚者の群れがあるだけなのです。——嗚呼、私も、其の群れに混ざらねばならないのでしょう。そうなってしまったのです、無慈悲に流れる月日が、私が私であることを許してはくれませんでした。耳を塞いで、嫌だ、嫌だと否定を続けても、私に流れる時間が止まることはありませんでした。……愚かでした。当たり前なのです、あたり前のことなのです。嗚呼、ですが、ですがですがですが、君は、どうか永遠であってください。永久なるものであってください。此れは私の願望に他なりません。ただ、君という私にとって恒久的なる象徴が、少女という理想が、崩壊してしまうその事実だけが耐えられないのです。絶望が、私を蝕む“何か”が喉の奥にこびりついていきます。……恐ろしいのです。恐ろしいのです。私はただ、恐ろしい。君が大人になる其の瞬間など、ありえないというのにその時を想像しては悍ましさを憶えてしまうのです。……何故、何故、嗚呼、何故なのでしょう。君に其の様な感情を懐きたくない、懐きたくないというのに。ありえないものだというのに、私は何故其の様な妄想に苛まれてしまうのでしょうか。…………終わりのない場所を、回廊を、延々と歩んでいるかの様な錯覚ばかりを憶えます。音など聞こえず、全てが閉ざされてしまえばどんなに良いのでしょう。深淵の狭間に、君と迷い込みたい。

 私は、もう君に触れる権利すら無いのでしょう。わかっています、わかっています、わかっていますわかっていますわかっています。ですが、私は君の笑みを思い出しては、言い表し難い……そう、劣情にも似た感情を思い出してしまうのです。其の白い頬に触れたい、白い首筋に噛みつき、赤々とした珠をぷっくりと、其の白い肌に落としたい。妄想だ、と人は嘲笑います。妄執だ、と人は嘲ります。ですが……私は諦めたくない。君への思いを嘘にしたくない。君のあり方を永遠にしたい。君と永久に在り続けたい。いつまでも、いつまでも。私は何処へも、たどり着けないのでしょう。終わりすら無い場所へ行きたいのですから、あたりまえなのでしょう。ですが——嗚呼、君を、君を……君と、

 二度と戻れなくとも構いません。人ではなくなったとしても構いません。私は、それでも、君に

(——狂ったように、何かが綴られているが全て、解読不能の文字と思しきなにかであるため内容は不明)

綺〓?-經❾」 ( No.12 )
日時: 2019/03/20 06:43
名前: K ◆PTMsAcFezw (ID: Ij88/0W6)

 私の生は無意味なのでしょう。……もはや私は“私”ではなくなりました。私が私である理由とは、ただ君を求め続ける事にあったのです。……嗚呼、で、あるならば——まだ私は“私”なのでしょうか? 私にすらわからないのですから、誰にもわかるはずはないのでしょう。ですが、ですが……私はもはや嘗ての“私”ではなくなってしまったのです。怠惰に身を委ね、君を永久に思い続ける私であり続けましたが……何かが違うのです。すっかり、大人になってしまったせいなのでしょうか。されど、君に触れる資格など嘗てからありはしなかった。ならば私は“私”のまま、変わっていないのでしょうか。まだ、君を追い求め続ける権利はあるのでしょうか。考えるだけ無意味であるとわかっていれど、この思考の渦は止まるどころか深まるばかりなのです。……嗚呼、ですが、ですが! 私は君に触れたいと願っています、嘗ても、今も……きっと、これからも。私は、まだ私でいられるのでしょうか。私は私として此処に存在していいのでしょうか。いっそ、この夢に焼かれてしまえば良いのだろうと思えてなりません。……悍ましいお話をいたしましょう。君への感情がいっそ憎しみに変わってしまいそうなのです。私を惑わし続ける君を“悪”と断じ、断罪の剣にて刺殺したいとすら思うのです。嗚呼、嗚呼……どうして、どうしてなのでしょうか。滅びを私は望まないというのに! ……月が、滲んでいきます。空は白み始めています。君だけが私の真実であれば、どんなによかったでしょうか。共に、真実の朝を迎えたいのです、君と、そう、他でもない君と! ですが私は、もはや君をどう想うべきなのかすらわからないのです。あの日々のように、ただ純粋に君を見つめるだけではきっと耐えられない。……思えば、初めからそうだったのでしょうか。苦悩するくらいならばいっそ、この胸に刃を突き立てたくなってきます。出来っこないとわかっています。いっそ、この心の臓などなければよかったのでしょうか。心というものがなければ、どんなによかったのでしょうか。……嗚呼、後悔ばかりなのです。後悔ばかりは紡げるのです。恐ろしいほどに。……私は、ただこの心を誰かに見てほしいのでしょうか、暴いてほしいのでしょうか。自分ですらわからないというのに。悍ましい、嗚呼、悍ましい。私ほど、生というものに向いていない人間は居ないのではないかと錯覚するほどです。
 ……何が、恐ろしいのでしょう。私にはわからないのです。君を、君と……まだ、私は、君と共に居たいと、本当に願っているのでしょうか。……私の中の君はいつまでも大きな存在のままです。あの日から変わらずに、あの日よりも大きな形をして、私の心に確かに存在するのです。本当に、本当に……そうでなくてはいけないから? 嗚呼、そんな思考を一瞬でも脳裏に浮かべてしまう私が、嘗ての“私”と真に同じであるわけもない。何故、何故、何故! 私は君を愛している、君を、他ならぬ“君”を。……がむしゃらに思い続けているだけ? 真実は何処にある? 私には何もわからない。……わからない。わからなくてはいけないのになにも、わからない。其れが恐ろしいのか? 否……嗚呼、わからない。

 私は、決して良い子ではありません。父よ、母よ、どうかお許しください。お許しください。お許しください。足掻き、もがき、だというのに本来目指す場所すら見失った愚かな子を、どうかお許しください。嗚呼、世界が歪んでいく。私は今、文字をきちんと綴れているだろうか? 其れすらわからない。正しく文字を綴っているかすら私、は、


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