複雑・ファジー小説

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白百合と手記
日時: 2019/03/18 06:52
名前: K ◆FJjoZBA4mU (ID: Ij88/0W6)

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       古びた日記帳。悪夢の記憶、或いは君との幸せ■■■——
                                 by xxxx xxxx


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                          永遠など、何処にもなかった。

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Thu., 6 Sep. ( No.1 )
日時: 2018/09/06 23:49
名前: K ◆FJjoZBA4mU (ID: Ij88/0W6)

 今日から日記を書いてみようと思う。そも、今まで日記など書いたこともないから、書き方が妙なものになってしまう気もするが……などと、未来の己への言い訳を添えよう。そも果たして、将来の私がこの日記で過去をたどるかどうか定かではないが。

 こうして文字を綴る気になったのは他ならない、君を見かけてしまったからだ。行きつけの喫茶店の、いつもの席に座って、窓からぼんやりと見える人の川の中でも君は一人、月明かりを纏っている様だったのだ、見紛うはずもありはしない。もしも君が私の目の前に腰掛けてくれたら、或いは此方をほんの一瞬でも見てくれたら——などと、ありえもしない空想を一人繰り広げる、なんと虚しい事か。真っ逆さまに堕ちていく様なあの感覚を、いつでも憶えてしまう。愛おしいと思う、触れたいと思う。されど私が君に触れるなど烏滸がましい妄想だ。不埒な思考に相違ない。何よりも尊く、或いはひとつ触れたならば永遠に手放したくないと思えてしまうのだろう。……君と、青空の下で茶会をする夢をふと見てしまう。瞼を閉じれば美しい煌めきが其処にある様に。
 君を見る度。私は胸の高鳴りを抑えきれなくなる。其の柔らかな髪をそっと撫でられるならば、その煌めく瞳を真っ直ぐに見つめ続けられるならば、どんなに幸せなのだろうか。夢を見ている、夢を見てしまう。嗚呼、父さま、母さま、兄さま、お祖父さま……どうか、私をお許しください。この様なことを考えてしまう私を、刹那の時ですらその想像をしてしまう私を、夢に溺れる私を。

 どう足掻こうと、目を閉じれば、否そうではなくとも、君の横顔が私の脳裏にちらついている。……嗚呼、君を手に入れたいという感情を果たして愛おしいという感情で一括りにしてしまって良いのか、悩ましく思えてしまうが……そういうことにしておこう。押し込めてしまおう、無理矢理にでも、箱に組み込んで組み入れて、そういうものにしておかなくてはいけない、そういうものだ。其れこそ、私が何かをしてしまわないように。人とは常に理性に縛られる生き物である。其れを煩わしいと思うこともかつてはあったが、今この瞬間ばかりは其の理性というものがこんなにもありがたい存在であると思いもしなかった。

 ……嗚呼、明日も君にあえるだろうか。其の顔ばせをこの瞳に映せるだろうか。ただひと目、ただ一瞬其の美しい月の色を、淡い湖の色を、この瞳に焼き付けるならばそれでいい。それで満足できる。それで満足しなくてはいけないのだから。

Fri., 7 Sep. ( No.2 )
日時: 2018/09/07 21:42
名前: K ◆FJjoZBA4mU (ID: Ij88/0W6)

 今日は少し肌寒い。君が少しでも、寒い思いをしていないといいのだが。……嗚呼、思うほどに、苦しくなる。胸の中心を鷲掴みにされた様に、只々無意味とも思える息苦しさがあるだけならば、こんな思いなど捨ててしまえたらどんなに楽なのだろうか。君に出会わなければよかったと思う私と、君と出会えた奇跡を喜ぶ私がいる。奇妙なもので、この2人の同居人は実に騒がしいと言うのに、私の心を凪の海へと連れ去ってくれる。奏でる音の、なんと猥雑な事か。君は知らずとも良い音であり、君が知るべきではない音だと思うほど、ますます、私の胸は、心の臓は握りつぶされてしまったかのようで只々、苦しみだけがある。其のくせ、頭の中はひどく冴え渡るのだから、奇妙といえば奇妙であろうか。この感覚に、名前をつけたいと思えど良い名は変わらず浮かばない。愛しい、に括り付けて良いのかは、未だに悩んでいる。頭を悩ませる事柄が、君に関連すると言うだけで、結局私の心は躍り、浮かれているというほかないというのは我ながら情けない。恥ずべき事と分かっていても止められない……というのはやはり、悍ましいものである。されど君は、清らかなる君は、私の世界を救う鍵であるようにおもえてならない。この心に巣食う悪しき芸術を満たす最後の欠片はきっと、君なのだろうと思えてしまう。思わずにはいられない。満たされるのは毒である。故に、君に触れてはいけない、触れられてはいけない。
 だというのに、君の首に、手をかける夢を。其の白く細い、ほんの少し力を入れれば折れてしまいそうな首を絞める夢を見た。君は其の淡い蒼の瞳をいっぱいに見開いて、はらはらと透明のしずくを零しながら、どうして、と声にならない声で私に問いかけ続けていた。掠れる声はされどあまりにも美しい音色を奏で、私の理性を狂わせていた。……幸いの結末は何処にあるのだろう。暖かな其のしずくが私の手を濡らすことは無かったが、私は其れを舐め取っていた。無意識での行動の、君の反応はもう思い出せない。夢であるならば許されるのか、私にはわからない、なにひとつ。欠片の一つすら拾い上げる事は叶わない。駆け抜ける先にあるものは破滅なのだろう。わかっている、理解している。困ったことに、私自身、君に惹かれるこの心に歯止めが効かないのだ! 嗚呼、何と愚かしい事。分かっている、分かっている、こうして文字に綴り自戒を繰り返し、己への罰とするほかあるまい。……或いは、此れすら褒美になっているのではという思考がふと過る。何故、への答えを私は持ち合わせていない。本当はきっと、探そうとすらしていないのだろう。

 明日はパンケーキでも焼こうか。甘いものと良い紅茶、それからチョコレート。後は何が良いだろうか。……年頃の少女が好むものが、否、否。君が好むものは、私が好むものと同じなのだろうかとこんな時にすら考えてしまう私は、きっと、もうどうしようもないのだろう。


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