複雑・ファジー小説
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- 白百合と手記
- 日時: 2019/03/18 06:52
- 名前: K ◆FJjoZBA4mU (ID: Ij88/0W6)
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古びた日記帳。悪夢の記憶、或いは君との幸せ■■■——
by xxxx xxxx
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永遠など、何処にもなかった。
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- Sat., 8 Sep. ( No.3 )
- 日時: 2018/09/08 23:07
- 名前: K ◆FJjoZBA4mU (ID: Ij88/0W6)
今日はパンケーキを焼いた。香ばしい甘い香りと共に飲む紅茶の何と美味である事か。……こんな瞬間ですら、私は君を忘れられなかった。サクリ、と小さな音を立ててパンケーキを切り分けるその行為の一つですら、君のために行っているかのような錯覚に陥ってしまった。恐らく、私の生活の全てを、とっくに君は支配しているのだろう。だと言うのに、君は私の目の前に常に居てはくれない。苦しい。ただ、明日に絶望すら憶えるほどに。嗚呼、愛しい君よ。もしも君が私のものになるのなら——等と、変わらず不埒で、猥雑な妄想を続ける私の浅ましさに吐き気すら催すというものだ。昨日の夢ですら、いまだに嫌に鮮明に覚えているもので、もしや或いは、本当に、等と悍ましさが背筋を伝う程だ。地下室を確認しに行くべきなのだろうか。しかし、幻覚、幻想に怯える己を許せぬ私が居るのも確かな事実。……嗚呼、全く。私の中には何人の私が同居しているのだろう。人格の分裂、というわけではなく……何と表すべきであろうか。わからない、という言葉を、この日記で私は何度繰り返すのか。愚かしいと知れど、やはりこう綴らずにはいられない。“わからないのだ”と。…………去る日、私は許しを乞うた。今思えば愚かな行為で、私の思考を、何故謝罪する必要があるのかとふと思ってしまった。だからいけないのだろう。そうであるから駄目なのだろう。押さえつけなくてはならない、何時かの反動でこの首を絞めるのだとしてもきっと、まだ……まだ早いのだ。
月の光をいっぱいに君に詰め込んで、地下に隠せばきっと地下は明るくなるのだろうか。今すぐに、ほんの今すぐに君を目の前にという渇望がただただ深まるばかりだ。楽園は此処に建たず、さりとて地獄とも言えぬ日々が続いていく。……否、否。これこそ地獄と言わずしてなんと言うのだろうか! 北へ、北へと歩んでしまいたい。其処ならばきっと、月も大きく天上に輝くであろうから。私が月明かりに狂ったのだと人々が笑えばそれが真実になるであろうから。荒野に一人佇み、君を思い言葉を諳んじる私を、きっと人々は笑うだろうから。……気狂いと指を指して笑い、私という存在の理性が溶け落ちているのだとしても、致し方なしと一蹴してくれるだろうから。
嗚呼、今宵の空は明るく、美しい。苦しくなるほどに。月を見る度、君の存在を強く、強く思い出す。何かの呪いであるのかと錯覚するほどに、ただ、君という存在は私の中で大きく、大きくなっていく。……逃げ出してしまいたい。此処ではない何処かへ。君の白い手を引いて、ただただ駆け出してしまいたい。愛おしい、愛おしい君の手を引いて、二人だけ、北へ北へと駆けていきたい。荒野に二人佇んで、天上に大きく輝く月を見上げて、星などは一切其処になく、互いを貪りあえるならば、等と……否、否、私は君に触れてはいけない。君は、清らかであるべきだ。何よりも、だれよりも。永遠に——少女であるべきだ。
……明日のことを考えよう。明日の夢を見よう。……茶菓子は何が良いだろうか、たまには友人に会いに行こうか……一日、文字を追いかけるのも悪くないだろう。嗚呼、そういえば倉庫の片付けがまだ終わっていない。早く終わらせてしまおう。
- Sun., 9 Sep. ( No.4 )
- 日時: 2018/09/09 22:11
- 名前: K ◆FJjoZBA4mU (ID: Ij88/0W6)
結局、夕方に地下室を覗きに行ったが、やはり其処にはいつもと変わらぬ薄暗がりがあるだけだった。幻影に怯えるなど全く、馬鹿馬鹿しいにも程がある。……何もなかったからこそ言える言葉なのだろうか。しかし改めて見てみると地下室は雑然としていて、ものに溢れている。捨てる……事はきっと、私の性格を顧みるに出来やしないだろうから、せめて片付けだけはしておこう。棚を作るのも悪くはないかも知れない。……そういうのが得意な知り合いはいただろうか、どうにも私一人では棚ひとつを作り上げるなり組み上げるなりは難しい気がする。……折角の機会ならば、まるっと作り直してしまうのも悪くはないか。宵闇に続く、暗がりの中であれど、多少は明るく設えても罰は当たるまい。所詮妄想、空想であるならば、どんな部屋にするかを考えるのも楽しいというものだろう。
……色は白がいい、真白い、美しい部屋にしたい。窓も作れぬ地下であるから、せめても雰囲気くらいは明るくしたいものだ。机も椅子も、棚も何もかも白いものにしたい。装飾は華美にならぬ程度に、けれども質素すぎるものも嫌だ。多少の華やかさがなくてはなるまい。さる王宮の様なものは決して望まない。そうして壁には花を飾ろう、一輪の薔薇を添えるくらいならば過剰な明るさにもなるまい。音楽も、好きに聞けるようにすればきっととっておきの部屋になる。年頃の婦人が暮らすにはふさわしくなるだろう。それに何より、きっと君に似合う。……等、嗚呼。馬鹿らしい、ひどく愚かしい、滑稽だ。こうして文字を綴る私の顔を、私は見れやしないが……きっとひどいものだろう。醜く歪み、脳裏に、瞼の裏に君を思い描いて、とてもとても、君に見せられないようなものなのだろう。そも、君に地下はにあわない。太陽の輝く地上もにあわないが……夜、月明かりだけが照らす庭園がきっと、一番に似合うだろう。私は一等、君が好きでたまらない。月明かりの元で、君が私に笑いかけてくれる其の瞬間を夢想しては、其の空想が実現しない現実に打ちひしがれている。嗚呼、誰でも良い……否、否、君でなくては駄目かもしれない。ただ私を愚かだと笑ってくれ。穢らわしいと一蹴してくれ。お前に明日など無いと罵ってくれ。……きっと君は、そんな事をしないのだろうけれど。或いは、君の言葉であれば万に一つ、私の欲望を留めて、壊してくれる気がするのだ。……私は何と独り善がりであるのか。今この瞬間、君の花唇より紡がれる嗜虐を思い、胸が高鳴った。文字は良い、全てをぶつけて、受け止めてくれこそせずとも其処に全てを記してくれる。私の梼昧を、ありありと見せつけてくれる。……自罰にはもってこいであろう。
茶菓子は結局買いそびれたし、誰一人にも会いはしなかった。誰かにこの胸に秘めた感情を吐露してしまいたい、そうして私の愚かさを……嗚呼、そうか、私は認めてほしいのだろう。誰の許諾も必要としないとおもえど、結局私は社会とのつながりを切れない、切りたくない。蒙昧を抱え、脆弱を憶え、それを誰かに許容してほしいなどと、嗚呼、やはり愚かしい。私はやはり、君に相応しくない。されど……私は、君と、君と……どうしたいのか。それを考えよう。嗚呼、そうだ、考えるだけならば誰にも、誰にも邪魔はされない。思索は自由だ、思考には翼が生えている。そう、信じている。
- Mon., 10 Sep. ( No.5 )
- 日時: 2018/09/10 23:04
- 名前: K ◆FJjoZBA4mU (ID: Ij88/0W6)
地下室の片付けは明日にしようと思う。……明日にもきっと、明日にと口にする或いは綴るのだろう。嗚呼、今宵はなんて夜なのだろう。雨音が騒がしく、とても眠れたものではない。天上に輝く月を思う事は出来ても、拝む事が出来やしない。あの輝きは今宵、私の前に姿を表してはくれないのだ。どうしたとしてもふと、君を思い出す。君は雨に濡れてやいないだろうか。家の中で暖かに過ごしているだろうか、と。心配になる、とは全く烏滸がましい事としれども、ただただ君が幸せに、幸福に生きているのか、苦しみはその心にないのかが不安で、不安で仕方がない。叶うならば、君が幸せに其処に居て、共に私も居るならば……と、今日もまた、他愛なく、不躾で、不埒な妄想に耽るばかりであった。あの柔らかな金の色が、世のどの宝石よりも美しく煌めき、澄んだ水の色が、いつまでも鮮明に焼き付いている。その月明かりを吸い込んだ様な、星で出来ているかのような金糸を指にとってそっと編み込む夢を見ていたい。触れる度に弾ける煌めきはきっと、私の瞳の中に飛び込んでいつまでも続く煌めきの花火を見せてくれるのだろう。
……好きな少女がいるのだと友人に打ち明けようか、悩んでいる。恐らく私の感情は、世間一般に忌避されるべきものなのだろう。あの子の名も、私は知らない。けれどもきっと美しい名なのだろう。どの様な名であれ、君が授かった名であるならば、私にとっては美しい、神聖なものに相違ない。……けれどももしも、もしも叶うならば……私が君に名をあげよう。私が君のために考え、悩み、選び取った名を、その花唇で紡いで欲しい。きっと、蜜のようにとろりと甘い声音が私の鼓膜を揺さぶるのだろう。思うほどに、胸は高鳴る。感情の昂ぶりとは各も恐ろしいもので、今この瞬間の私を切り取って、罰として張り出してやりたいくらいだ。
恋文、というものをふと考えたが……見ず知らずの人間からそんなものをもらったとしても、君を怯えさせるだけなのだろう。君と共に暮らす夢を見ていると、清らかな君を守りたいと……一方的な感情の押し付けに相違あるまい。一目惚れというのはひどく暴力的であり、純粋であるからこそ質が悪い。私は今幸福であるが、この思いを伝えられる君を思えば……如何に恐ろしいものであるか、想像するに易い程だ。
ああ、けれど……けれども君はきっと歌うのだろう。夜色に塗りつぶされた空に張り付く星と、其の中でもひときわに輝く月と、私の目だけが君を見る中で。私の紡ぐ愛を、愛として受け止めて、優しい笑みとともにその花唇から蜜の言葉を紡ぎ、歌ってくれるのだろう。あくまでも、私の空想と想像、妄想のなかでならば。君の好きなものはなんだろうとただぼんやりと考えている。……君の好きなものならば、私もきっと好きになる、当たり前だ。そういう風に“私の世界”は出来ている。
- Tue., 11 Sep. ( No.6 )
- 日時: 2018/09/11 22:57
- 名前: K ◆FJjoZBA4mU (ID: Ij88/0W6)
私の世界には、君以外要らないのだろうか……等とふと考えてしまう。日増しに、私の心を支配する黒は面積を増していく。君は今日、何をしているのだろう、誰と何を話して、誰と過ごして……誰と時を共有し、誰の瞳を見つめているのだろう。清らかな君は世の穢れから隔絶されるべきであると私は思ってしまう、願ってしまう。共に飛び立つ事は叶わない。ならばせめて、君の美しさを、純潔を、純白を、私に護らせてはくれないだろうか。寂しいばかりの感情が、夕闇の色に染まる様な感情が、私の心を埋め尽くす。……果たして“心”というものは何処にあるのだろう。この胸の内であろうか、それとも脳髄の奥であろうか。……いっそ其の全てを壊しつくして、何も考えず、ただ敷かれたレールの上を、定められた社会規範に則って歩むだけの肉塊になれたならば幸せなのだろうか。何も思考せず、ただ世界を享受し、君に思いを馳せず、ただ世間一般からみた“普通・平穏”を過ごす事こそが、幸いなのだろうか。……否、そうではない、それではまったく造花ばかりの花園と、世界は相違なくなってしまう。月明かりに焦がれず、天上に張り付き輝く星を知らず、夜の帳が下りきった中を死者の様に虚ろな瞳で徘徊するなど、何が幸いであろうか。されど、私の内に燻るこの感情は、私が平穏なる生活を望むというのに、存在を大きく、主張を声高らかに述べるばかりなのだ。おぞましい、おぞましい……悍ましい。月女神に狂わされたのならば嗚呼、どうか、存在を許容せぬ神よ、今ばかりは、私を救い給え!
……永遠を望みたい、永久は何処にあるのだろう。天上か、或いは地下深くか。……君と共にただ永久を過ごしたい。なにもない夢の跡地で、されど君への恋心を純愛と認めて、ただふたりだけで暮らしたい。白い部屋がいい、真白く、美しい部屋で、二人。……光は君で、私は自ら輝かずともかまわない、ただ君の光を見ていたい。この心を押し留めて、ただ二人、永久を共に。この思いこそが真実ならば、君の白い指をそっと撫でて、叶うならば喰んでしまいたい。
変わらず、私は何を綴っているのだろう。自らのことであるというのにまるで、己の事では無いような気さえしてしまう。いい加減に地下室を掃除する準備をしなくてはなるまい。今日も結局鍵に手を付けてすらいない。柔らかな夢に溺れて、珈琲を飲んでいただけだ。無意味な思索はやめなくては、けれど最早、私の中から君の存在を差し引いてしまえば何一つ残らない様な気がしている。きっと本当に、そうなってしまうのだろう。私の内に巣食うものはきっと永遠に消えることはなく、燻り続け、君を思う糧になるのだろう。……嗚呼、明日の茶菓子は何にしようか。考えながら今日はもう、眠ろう。月も私を見放した、明日はどうか、良き日に。
- Wed., 12 Sep. ( No.7 )
- 日時: 2018/09/12 23:34
- 名前: K ◆FJjoZBA4mU (ID: Ij88/0W6)
どうにかこうにか、地下室の掃除を始めた。……処分しなくてはとわかっていても処分し難い物がどうにも多くて困ってしまう。恐らくは父のものであろう古い時計であったり、母が何時かに買ったのであろう絵であったり、なぜこの家に置いておくのだかわからないものも少なくはない。……或いは、此処へ来た折に私が持っていってもいいかと尋ねたものもあるのかもしれないが。其の中にも花を模したブローチがあったものだから、ついつい上へと持ってきてしまった。君に似合う気がした、というのがどうせ理由なのだろう。反射的に持ってきてしまったが、あれを手にとった瞬間の私はきっとそう考えたに違いない。なにせ、今も私はそんな事を考えながらこの文字を綴っているのだから。君は、花のような人だ。嫋やかで、外へだせばあっという間に枯れてしまいそうな、清らかな花だ。温室の中で大切に、大切に育てなくてはいけない、そんな花をどうしたって思い起こす人だ。このブローチは、何の花を模しているのだろう。一見するとよくわからないが……母ならば知っているだろうか。或いは、祖母のものなのだろうか……気にはなる。今ならまだ実家に尋ねる事もできるだろうから、明日にでも手紙を出してみよう。
地下室を掃除し始めて思うのは、やはりこの家に私一人というのはどうにも、家に食われてしまいそうで恐ろしいと言うことだ。父のはからいではあるし、いまさら実家へ帰る気も無いのだが……いささか広すぎる気がする。いい加減に友人に誘いをかけるべきだろうか、家で茶会でも……と呼べる友人は少ないが一応は居るのだし。…………ただ、どうにも、誘いをかけて迷惑ではないかという其の一点ばかりが気になってしまう。気にする前に手紙でも送ってしまえばいいのだろうが……難しい。友人と言葉を交わせば、この心の内にある黒点から目をそらしていられる気がする。気の所為であるとしても、思い込むことにする。
片付けた後の部屋のレイアウトは大凡考えてある。先日日記に綴った通りで構わないだろう。好き勝手、自分の思う部屋にしてやろう。白で塗りつぶせばきっと君に似合いの……否、私の心を照らす明るい部屋になってくれる。さて、美醜とは何を以て判断するべきか、という思索の旅へと向かうことにしよう。そうしてそのまま眠ってしまえば丁度いい。……月明かりも朧で、薄らとしている夜ならば、きっと冷静でいられると信じている。……以降満ちていく月を思おう。日増しに大きくなる其れを見上げて、明日には涙しよう。恐らくは、それが最も私の無聊を慰めてくれる。真の慰めが何たるかなど、私が最も理解しているがそれはきっと、許されぬ悪である故に。