複雑・ファジー小説
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- トモエ 【 完結 】
- 日時: 2022/11/17 12:54
- 名前: 暁烏 ◆w3Y5wPrVZY (ID: IkQo2inh)
【はじめに】
この度、時間はかかってしまいましたが無事に小説を書き終えることができました。
自分で言うのもなんですが、かなり人を選ぶ題材かな、とは思います。
また、自分がこうして小説を書いたのは今回が初めてかと思います。
拙い部分も見られますが、読んでいただければ幸いです。
改めて後書きは書く予定です。しばしお待ちを。
【暁烏】
初めまして。以後宜しくお願いします。
初めての投稿、初めての小説カキコで動悸が激しい。
ゆっくりと進めていきたいと思います(目標)。
挫折しないで完結したいです(切実)。
【留意事項】
・複数の『トモエ』さんが登場しますが作者は現実でトモエさんに対して恨みは一切御座いません。
・この作品はフィクションです。登場する人物や場面などは現実のものとは全く関係ありません。
・この作品では『自殺』を多少題材にしています。ですが自殺を推奨するつもりはありませんし、自殺を進める作品でもありません。自己責任。
・自殺、よくない。やめよう自殺。
2018/4/28 初記
2019/3/31 名前変更:暁烏→暁月烏
2020/11/14 名前:暁烏へ戻す
2020/12/18 トモエ、完結しました
>>1 第0話 トモエ、掲示板にて
>>2 第1話 トモエ、集合する
>>3 第2話 トモエ、移動する
>>4 第3話 トモエ、思い出を作る
>>5 第4話 トモエ、一泊する
>>6 第5話 トモエ、夜を明かす
>>7 第6話 トモエ、死地を探す
>>8 第7話 トモエ、デートする
>>11 第8話 トモエ、死ぬ直前
>>12 第9話 トモエ、葛藤する
>>13 第10話 トモエ、――――
>>16 後書き
- Re: トモエ ( No.12 )
- 日時: 2020/11/23 15:38
- 名前: 暁烏 ◆w3Y5wPrVZY (ID: HrJoNZqu)
トモエ、葛藤する
「…………は?」
思わず返したのは竜谷兎萌だった。
「……何を言っているのか分からないわ。まさかここまできて怖気づいたというの? 今更未練がまだあるっていうの? ……自分から言い出しておいて、馬鹿馬鹿しいにもほどがあるわ」
「……自分でも、よく分からないの」
「…………」
竜谷兎萌は苛立ちを隠せないでいた。
「何時からだ」
双見巴が八木原智絵に訊ねた。
「……いつの時点で、死にたくないに変わったんだ」
「…………」
「実は、こうやって集まる前から、既に死にたいとは思っていませんでしたとかだったら、それはこうして集まった俺たちを馬鹿にしていることになるぞ」
少し怒気の籠った声で、双見巴は八木原智絵に訊ねた。その内容に「確かにそうね」と竜谷兎萌も同調し、今川友衣も頷いた。
「それは違うよ」
だがそれに対しても八木原智絵は落ち着いた様子で答えた。
「最初に集まった時とか移動していた時は、私は死ぬんだ、って思っていた。寧ろ、死にたくないなんてはじめは思わなかったわ。夜に今川さんと話していた時だって……だからこそみんなで心中しようって思っていた」
「じゃあ、どうして……」
「……でもね」
八木原智絵は三人の方を向く。
「夜に今川さんとお話ししたときや、さっき双見君と観覧車に乗った時に……心のどこかで、もう一つ別の思いが沸き上がってきてたの」
「……観覧車? 二人で?」
「……その場の流れだ。可笑しいことじゃないだろ」
竜谷兎萌は返事の代わりに鼻で笑った。
「もう一つの思い、というのは?」
「……私は自分のトモエって名前が好きだから、最期死ぬときは同じ名前のみんなを集めて、死ぬことを望んだわ。自分と同じ名前と一緒に死ぬのは本望だった。……でも、私と同じ名前の人たちが傷ついて、死にたいと思っている事が……悲しく思い始めてきたの。同じ名の人たちが傷ついて尚それを見過ごして、心中しようだなんて……段々、それが許せなくなってきたの」
「――で、死ぬのをやめよう。っていう提案を? 押し付けるつもり?」
竜谷兎萌はどこか侮蔑した表情で八木原智絵を見つめた。
「アンタが死なないのは結構よ。でも、それを私たちに押し付けないで頂戴。私たちはアンタとは違うから」
「…………」
八木原智絵はどこか疲れ切った顔をしていた。
「……もう、死ぬ気は無いんですか?」
今川友衣が訊ねる。
「……ごめんなさい。私は――」
「主催者がこんな体たらくで、昨日の時間を全部返して欲しいくらいだわ」
八木原智絵の発言を遮り、竜谷兎萌はため息交じりに呟いた。
「それは悪いことをしたわね」
「…………」
「……でも、竜谷さん。昨日は……楽しかった?」
「そんなの聞かないで頂戴」
「……それじゃあ、ここに集まったトモエ全員で死ぬっていう目的は達成できなくなったって事か」
双見巴が口を開いた。
「そういうことになるね」
「……それは残念だな」
大きく溜息を吐いて双見巴は空を見上げた。
「自殺の思いは――自棄だった、のか?」
ぽつりと双見巴が呟く。
「結果論で言えばそうなるだろう。なんせ今は自殺する気はないというんだから。自殺をしなかったら、死にたいという思いは全部自棄、だ」
「……そうなるね」
双見巴の呟きに、八木原智絵は答えた。
「自分から誘っておいてなんだけど――後悔はしてないよ」
「そうか……はは」
双見巴は八木原智絵の方を向いて、空笑いをした。
「なら、俺がここにいる理由も、こうして集まった意味も、もう無いんだな」
「…………?」
「だったら、俺も今ここで死ぬ理由は、無いよな……?」
突然の発言に竜谷兎萌も八木原智絵も驚いた様子で双見巴の方を見た。
「――下らない時間だったな。アンタを見てたら気が変わった。最悪の二日間だ。自分の死にたい気持ちを前面に吐き出しながら過ごしたんだからな……黒歴史にもほどがある」
そう言って双見巴は溜息を吐いた。
「恥ずかしいったらないな」
「そうかもしれないね……それで、この後どうするの?」
「さあな――もう少し、勝手にさせてもらうわ」
「……はぁ」
返事の代わりと言わんばかりに竜谷兎萌は溜息を吐いた。
「結局――こんなもんか」
心底うんざりした様な、不快そうな声だった。
「今川さん――あなたはどう?」
「……え?」
「今、あなたは死にたいという気持ちと、生きたいという気持ち。どちらが強い?」
「え……その……」
悩んでいる内に、竜谷兎萌は今川友衣の手をとり――八木原智絵を通り過ぎて壁の方まで来ていた。
「――私は、少しでもあるい生きたいっていう気持ちを殺してでも、今死にたいって思っているわ」
「竜谷さん――」
「でもまあ折角一人で死ぬのもアレだから――今川さんと心中するわ。あなた達腑抜けじゃあ興醒めだもの」
「――――!!」
「よくもまあ……自殺志願して、途中で手の平返せるわね」
「竜谷さん……」
八木原智絵は恐る恐る、竜谷兎萌と今川友衣の方へと近づいていった。
「それ以上来ないで。……先に今川さんから落とすよ?」
「それって普通に殺人じゃあ……」
「その次の時点で私も飛び降りるから殺人とは考えられにくいわ」
今川友衣の突込みにも、軽口で答えた。
「…………」
今川友衣は今この時点でもなお分からないでいた。
自分が今どっちの気持ちが強いのか。
死にたいのか、生きたいのか。
「大体自殺志願者を募って、ここまで来たのよ。今更死ぬのを辞めたっていうのは確かに腹が立つけど――それ以上に、どうして私たちの自殺も止めようと近づくの?」
「……………」
「八木原さん」
八木原智絵はすぐには答えなかった。
「止めるつもりなのか……?」
双見巴が八木原智絵の隣まで寄り、小声で訊ねた。
「近づく理由って、それ以外に何かある? 双見君も、止めるつもり?」
「俺はここまで来て今更死ぬのを辞めた腰抜けだぞ?」
「意気地なしね」
「五月蠅い」
必死にも見えると双見巴は思った。自分と八木原智絵がここまで来て自殺を辞めるといった、その所為で竜谷兎萌がムキになっているように思えて仕方がなかった。
「――最初にね」
八木原智絵が口を開いた。
「最初にみんなで集まった時に、確かに嬉しかった。最初に言い出したのは私だった。『同じトモエという名前で死にたいっていう人』を募集した。半信半疑だったけど、結果として、こうやって皆に会えた」
でも、と八木原智絵は続ける。
「同じ名前のみんなが死にたいって叫んでる、傷ついているっていう事も、認めていた。心のどこかで、それが引っ掛かって仕方がなかった……だから、今生きたいって思ってるからこそ……今目の前で同じ名前の人が自殺するのなんて、我慢できない」
「自分勝手にもほどがある!!」
竜谷兎萌は我慢の限界だった。八木原智絵の身勝手さにも、上手く自殺できないことに対しても。
ぎゅう、と今川友衣を握っている手に力が入った。
「……少し、痛いです」
「……ごめんなさいね」
少し慌てた様子で竜谷兎萌は今川友衣を握っていた手の力を緩めた。
「今川さん、もう一度聞くわ……貴女は今、死にたい?」
「……分かりません。これで死んでも後悔はしないでしょうが……もう少しだけ、待たせてください……もうちょっとだけ、生きていたいです。皆さんと一緒にいた時間を、もう少しでも長く感じていたいです」
「今川さん……」
八木原智絵はじっと今川友衣を見つめた。
「……時間潰しに少し語ろうかしら。」
竜谷兎萌は大きく溜息を吐いた。
「私はね……過去にも自殺をしようとしたわ」
竜谷兎萌の言葉に今川友衣は驚いた表情をした。
「こうしたオフ会を開かずに一人で、どうやって死のうか考えて……今回と同じように飛び降り自殺をしようとした」
そう言って竜谷兎萌は八木原智絵たちに背を向けて屋外の夜景を眺めだした。
「結局は死ななかった。あの時の私は怖くなって逃げたんだと思う……たまにその時の自分を惨めに思う事があったわ。だからこそ……今も自殺を望んでいる自分がいるんだと思う」
「竜谷さん……」
「一人じゃだめだったから、今度は誰かと一緒に死んでみようって、思ったのが参加した理由よ。結局その全員で死のうってのも、こんな残念な形になっちゃったけどね」
そう言って背後の八木原智絵たちを振り向く。
「私は自暴自棄でも死んでやるわ。あなた達とは違う!」
「竜谷さん!」
今川友衣が叫んだ。
「もう……だめです。これ以上は……ムリです」
「……何を言って――」
竜谷兎萌は今川友衣の顔を見た。
「私にも分かりません……ですが――」
今川友衣はぼろぼろと泣いていた。
「本当に死にたいのか、本当は生きたいのか……自分がどうしたいのか分からないんです。死ぬのが怖いですし、けどまた辛い思いをしながら生きていくのも嫌なんです。ぐちゃぐちゃな思いが、頭の中で……どうすればいいのか……!」
今川友衣は膝をつき、縋るように竜谷兎萌の両肩を掴む。
「どうなんですか……竜谷さんは、怖くないんですか。死ぬのが怖くないんですか? 生きるのが辛くないんですか? ぐちゃぐちゃになってないんですか?」
「……ぐちゃぐちゃなのは貴女の顔の方じゃない」
しっかりしなさい、と言い今川友衣をちゃんと立たせた。
「あなた達とは違うって、さっき言ったじゃない」
落ちついた声で、今川友衣にそう言って――今川友衣を突き飛ばした。
「わっ!!」
「っ!」
「結局みんな臆病者ね」
一人佇んで、竜谷兎萌は笑った。
「踏ん切りがつけられていないというのは認めるわ。覚悟があるなら直ぐにでも飛び降りてたでしょうに……でもね、もう大丈夫よ。今川さんを見ていたら、ね」
「竜谷さん……」
「流石にそんな泣きじゃくった子と無理やり心中するのは流石に退くわ」
そして、手すりに腰を掛ける。背中を傾ければ真っ逆さまになる状態だった。
「竜谷さん……!」
「あああと、最後に答えておくわ。八木原さん――」
――皆と出会った時間は悪くはなかったわ。
そう言って竜谷兎萌は背中から飛び降りた。
「竜谷さん!!」
八木原智絵は慌てて駆け寄る。が、それよりも先に双見巴が動き出した。
「双見君!?」
双見巴が竜谷兎萌が飛び下りた場所から、後を追うように飛び降りた。
「――――!?」
竜谷兎萌にとっては予想していない出来事だった。
(なんで……?)
後追い自殺と思ったが、そんな度胸なんて彼にはないと思っていたし、追いついてくる彼の顔から生への執着がひしひしと竜谷兎萌に伝わってきた。
そのまま双見巴は勢いをつけて、壁を走るような形で竜谷兎萌に追いついた。
そのまま抱きかかえ、竜谷兎萌は双見巴と落下していく。
そして――――、
<トモエ、葛藤する・終>
生きているから「死にたい」と思い、
死のうとするから「生きたい」と思う、
人生そんなもんです。生きてる理由なんて「死にたくないから」で十分。
なので明日もずっと生きていくの連続。使命というか課題というか。
他の人にそれを説得できるかは分かりませんが。
しかし会話文がこうも続くと……地の分が少ない?
次回で最終話となります。
- Re: トモエ ( No.13 )
- 日時: 2020/12/18 15:42
- 名前: 暁烏 ◆w3Y5wPrVZY (ID: HrJoNZqu)
トモエ、――――
「…………」
竜谷兎萌が目が覚めると、病室にいた。清潔な室内には他に誰もいない。窓の外からは日差しが漏れていた。
「は……」
体を起こし、自分の手を見つめる。
結局、死ぬことは出来なかった。その事実が、竜谷兎萌の心に重く圧し掛かっていた。臆病だったとかは関係ない。飛び降りても尚、死ぬことは叶わなかったのだ。
「馬鹿馬鹿しい……」
自分に向けて、そう呟く。
コンコン、とドアを叩く音が聞こえた。
返事を待たずドアが開けられ――八木原智絵と今川友衣が入ってきた。
「目が覚めたんですね!」
喜びと驚きが混じったように今川友衣が駆け寄った。
「ええ……。生きているのは、夢じゃなく現実のようね。残念だけれど」
竜谷兎萌は申し訳なさそうにそう答えた。
「意識は大丈夫なの? 頭とか……記憶とか」
「なんだろう……特に、支障は見当たらないわ。手もちゃんと動くし、記憶も一応、昨日の事も……」
「竜谷さん、丸一日眠っていたのよ。飛び降りたのは……一昨日の事よ」
「…………」
「竜谷さん……」
「ふっふふふふ……」
竜谷兎萌は心配そうな八木原智絵や今川友衣を他所に笑い出した。
「もう……」
一頻り笑った後、八木原智絵は溜息を吐いた。
「ところで――」
竜谷兎萌は八木原智絵の方を向く。
「私の後に飛び降りて、抱き着いてきた双見君はどうしたのかしら?」
「…………」
「…………それは」
八木原智絵も今川友衣も後ろめたい様子だった。
ここに、双見巴はいない。
それが何を示しているのか。気付かない竜谷兎萌ではない。
「それは…………」
「…………」
「……そう、なの」
竜谷兎萌は窓の外を眺めた。今の表情を誰にも見られたくはなかった。
「……彼には、悪いことをしたわ。ううん、彼だけじゃない、二人にも……迷惑かけたわ」
だが最も声をかけるべき相手は、ここにはいない。
「私は、この先どうすればいいのかしら……ただ生きていくというだけじゃ、だめなのよね……」
様々な感情が湧き出て、それらをすべて押し殺しつつ竜谷兎萌は声を振り絞る。目頭が段々と熱くなってきた。
「ごめんなさい――――」
呟きと同時に、再びドアが開く音がした。
「え――――」
「…………ん?」
入ってきたのは――双見巴だった。竜谷兎萌と同じ病衣を着ている。
「え……? こ、これって……」
「死んだなんて思った?」
八木原智絵がそんなことを言い出した。
「だって……」
「死んだなんて、私たちは一言も言ってないよ?」
「……まさか計ったの!?」
「そんな計画はしてないけど」
「…………っ!!」
竜谷兎萌は我を忘れてベッドを下りたが、全身に力が入らなかった。
「まだ安静にしててください。竜谷さ……」
今川友衣が竜谷兎萌を支える形で抱きしめる。
そのまま竜谷兎萌は今川友衣の中で――静かに泣きだしていた。
「…………」
竜谷兎萌の震えを感じた今川友衣は優しく抱き返した。
「……みんな、結局死ななかったね」
「…………そうだな」
八木原智絵も双見巴もそれを見てどこか肩の荷が下りたような気分になった。
「俺の意識が昨日には戻ってたってのは、まだ言ってなかったのか」
「ええ……部屋に入って、竜谷さんが起きてたのに驚いて、忘れていたわ」
「そうか……まあ目覚めてよかったな」
「双見君の方は大丈夫なの? 昨日意識は戻ったって言っても、状態は竜谷さんと同じはずよ。歩けるの?」
「ああ……一応、五体満足だ」
「……それでも安静にはした方がいいと思うわ。実は深手を負っていた、なんて嫌だから」
「そうだな」
そう言って双見巴は少し体を動かした。
「生きてるんだな」
「そうだね……みんな、生きてるんだね」
八木原智絵は双見巴に「それくらいにして座りなよ」と椅子を出した。
「……昨日はきけなかったんだけどさ」
八木原智絵は小声で双見巴に訊ねる。
「どうして竜谷さんが飛び降りた時、後を追いかけたの?」
「あー……」
双見巴は少し悩んで、
「……なんでだろうな」
と、何処か恥ずかしそうに言って足早に病室を出た。
八木原智絵は「飲み物買ってくるね」といい竜谷兎萌と今川友衣を後にした。
近くにあった椅子に双見巴と八木原智絵は腰をかけた。
「竜谷さんがいる前だと少し恥ずかしかった?」
「……あの時、勝手に体が動いていたんだよな」
「え?」
双見巴の言葉に八木原智絵は思わず聞き返してしまった。
「俺もなんだかんだ言ってやけくそ状態だった。直前まで俺も今日死ぬんだと思っていたが……そんな手前で、生きたいと言い出した。本当に……その時が一番馬鹿馬鹿しかったよ」
何もかもな、と言う双見巴に八木原智絵は「そう」返した。
「あまりにも馬鹿馬鹿しくなって、それで段々そんな奴が考えたこの旅行にも、それに参加した俺自身にも馬鹿馬鹿しくなって腹が立ってきたんだ。それで俺もどうでもいいやって思った。生きるのも死ぬのもさえどうでもいいと、その時思ったが……だいぶ気が楽になったのも確かだった」
その言葉に八木原智絵は胸を撫で下ろした。自分勝手だと非難されると思っていたからだった。
「そしたら、今度は同じ名前の俺らまで死ぬなんて見過ごせないなんて言い出したもんだ。呆気にとられたが……お前らしいんだろうな」
「じゃあ私の所為かしら?」
そう拗ねて返した八木原智絵に対し「それで結局動いたのは俺自身だ。それは俺の所為だろ」と言った。
「なんだろうな、お前と一緒にいて考えが変わったのか影響されたのか……最後に自分の昔話まで話して飛び降りたアイツが、どこか手を差し伸べていたように見えたんだ」
「そうだったかしら」
八木原智絵はふと思い返してみたが、双見巴の考えは分からなかった。
「厭世観から死にたいなんて思った者同士、だからかもな。とにかくあの時、お前が言ったように、同じ名前の奴が目の前で死のうとした時に、見過ごすわけにはいかないって思って……気が付いたら体が動いていた」
「ふうん…………」
八木原智絵と今川友衣はあの後すぐに、見つからないように飛び降りた場所へと降りた。
幸いにも二人が落ちた場所は花壇のスペースであり、木や柔らかい土だったから、そして幸運にも打ちどころも悪くなかったから、こうして死なずに済んだ。
結局、誰も、死なずに済んだ。
「……最初は死にたいって、みんな思ってたんだよな……」
「そうね……だから、集まったんだよね」
「結局誰も死ななかったな」
「そうだね……」
だから4人、こうして居るんだろう。
「俺は死のうと思ったことも、これに参加したことも、結局生きることになったのも……後悔はしていない」
改まった風に双見巴はそう言った。
「アンタはどう思っている?」
「……何だかんだ迷惑かけたって思っているわ。言い出しっぺなのに最初に自殺を辞めようなんて言い出したんだし……竜谷さんの言ったことも間違いではないわ」
でも、と八木原智絵は続ける。
「私も、やっぱり生きててよかったって思ってるし、こうしてみんなが生きていることも……良かったって思ってる」
ス、とドアが開いた。中から竜谷兎萌が今川友衣に支えられながら出てきた。
「随分と遅いじゃない。飲み物買うのにしては」
「竜谷さん、まだ横になっていた方が……」
「彼だって歩けるのよ。私も少しずつくらいはいいでしょう」
「……大丈夫なのか」
「足が生まれたての小鹿みたい、とはまさにこのことだと思うわ」
「だったらベッドに戻りましょうよ……!」
「安静にした方がいいな」
双見巴と今川友衣が同時にそう突っ込んだ。
「ねえ竜谷さん、今川さん」
八木原智絵が二人に訊ねた。
「……生きてて、良かった?」
「…………」
「…………はい」
先に返したのは今川友衣の方だった。
「今生きててよかったって思いますし……こうして皆さんに会えてよかったとも思います」
「……そう。それは嬉しいわ」
そう言って八木原智絵は今度は竜谷兎萌の方を見る。
「私も……何だかんだ生きてて良かったって、思うわ。いや、思わないといけないわね」
そう言って竜谷兎萌はワザとらしく溜息を吐いた。
「私は二回自殺しようとして二回とも失敗したんだから。この先死にたいなんて、思わないように生きるとするわ」
「大きく出たな」
「うるさい」
「じゃあ竜谷さん。私たちに会えてよかった?」
「えー、そうね…………」
八木原智絵の更なる質問に、竜谷兎萌はまた少し黙った。
「……良かったわ。改めて生きるきっかけを作ってくれたんだし――ありがとう。そう思ってるわ」
そう竜谷兎萌は笑って返した。
「これで……いいのよね」
「はい」
「そうなんだろうな」
八木原智絵も、双見巴も、今川友衣も、笑って答えた。
<トモエ、――――生きることにしました>
<トモエ・終>
以上、これにて完結です。
お付き合いくださりありがとうございました。
- Re: トモエ 【 完結 】 ( No.14 )
- 日時: 2022/07/12 23:19
- 名前: ヨモツカミ (ID: .Y/VNxAC)
お久しぶりです。もうカキコにいらっしゃらないかもしれないけれど、以前最後まで見届けるつもりでコメントを残したのにこんなに遅くなっちゃって申し訳ないです。
あと過去の私のコメント、失礼な書き方しててちょっとしんどくなりました!
あのときの上からなキモめのコメントを、ご無礼をお許し下さい……
時間が空いたので、最初から読み返しました。
一言いうとしたら、すっごい面白かったです!
こう、短くとも読み応えのある作品を私もいつか書いてみたいとずっと思っていたので、羨ましさと尊敬と感動で今胸が一杯ですね。素敵な作品をありがとうございます。最後まで書いてくださったことにも感謝。
細かい感想も失礼します。
◆トモエ集合
トモエたちの印象の付け方がわかりやすくて、掲示板の書き込みの会話の感じもあるある感とわかりやすさの両立。文が、文が上手いってこういうことなんだろなと圧倒され多様な気がします。
◆トモエ移動
今川ちゃんの「生きる辛さが死ぬ怖さに勝った」は自殺の決定打ですもんね。しんどいね……
竜谷さんの退屈に「納得行かない」と零すも否定はしない今川ちゃんの人間性の描写がすごく良い。
◆トモエ思い出
「ただ当然の如く生きているから、かしら。死が怖いのって」
確かに、死と隣り合わせなら怖くなくなるのかもなあ。経験したことないからわかんないけど。当たり前を失うことは、毎日死にそうな日々よりずっと怖いはず。
前の感想でも書いたけど、私はここのシーンが大好きです。春に夏の話をしたら、死ねなくなるよ……
◆トモエ一泊
「辛いことから、少しでも逃げられるように、そこから離れるために、進んだんだと」
それを言い聞かせる今川ちゃん、良……ホントに登場人物の心情とか描き方が上手くて引き込まれて好き……
自分の名前が好きな八木原と嫌いな双見くんの対比も好きだ。
ハンドルネームはとても大切で好きですが、私は本名は少し嫌いです。双見くんに似て、揶揄われる理由になる名前でしたので……でも、同じ名前を別の理由で好きな誰かと会うの、世界が広がる感じして素敵ですね。
◆トモエ夜明かし
今川ちゃんの心の傷を目の当たりにして、寄り添える優しい人間なんだろうな、八木原さんは。
死にたいから生きたい、生きたいから死にたい、人間であること、知的生命体であること、煩わしいけど素敵なことですね。
◆トモエ葛藤
身勝手なのは本当にそう。だけど人間、そういうもんだわ……身勝手に人の気持ちを代弁するし、それが正しいのか間違ってるのかはその瞬間はわかんない……
一瞬の決断の正しさが瞬間的にわかんないからこそ、死んじゃ駄目なんだろなあ。
◆まとめ
夏が来たらみんなで集まって、あの山の蛍を見に行ってくれ~~~~!
確かに生死感、自殺という題材ということでセンシティブな作品なのかもしれないし、暗いことばっか考えずに生きる人からしたら共感しづらい作品なのかもなと思いますが、私には刺さりました。
途中途中で暁烏さんが触れていたプチあとがき? とかを読むのも楽しみの一つでした。
完結から時間が経ってしまったので、今更なコメントとなりましたが、いつか暁烏さんに私のコメントが届いてくれるといいなと思って、残させていただきます。
またいつか。
- Re: トモエ 【 完結 】 ( No.15 )
- 日時: 2022/11/13 22:02
- 名前: 暁烏 ◆w3Y5wPrVZY (ID: j5axgBAW)
皆様お久しぶりです。
数年ぶりに覗いてみたら後書き書いてなかったことに気が付きました……
これから載せます。
そして、
ヨモツカミさん、最後まで読んでくださりありがとうございました!
当時の自分は「生死観」「同じ名前」をテーマに書いていたので、そういうのから人物たちを交流させればと考えていました。
自分も名前には良くない思い出もあったので……
今回初めて小説を書いて、書き終えましたが……「書く」と「投稿する」って全然違いますね。
妄想から抽出して更にアウトプット。
いつもなら妄想だけで満足していた自分がこのアウトプットに迷い、躊躇っていました。
推敲も終わっていたのに。
後書きがこんなことになってしまったのもこれが原因かなと思います。
けれどこうして妄想から小説に昇華するのは楽しかったです。
数をこなしていって慣れるしかないですね。
また何処かで、ご縁がありましたら。
- Re: トモエ 【 完結 】 ( No.16 )
- 日時: 2022/11/13 22:23
- 名前: 暁烏 ◆w3Y5wPrVZY (ID: j5axgBAW)
小学生の頃に聞いたことがあると思います。
家に帰るまでが遠足だと。
ならば後書きまでが小説だと思いました。
画竜点睛を欠く、とはこのことだと思います。
気力の問題かネタが浮かばなかったか。
ともかく、お恥ずかしい限りです。
というわけで後書きです。
改めまして、初めまして暁烏です。
『トモエ』いかがでしたでしょうか。
昨今の粗筋の如く長く分かりやすいタイトルに反抗してシンプルなタイトルで臨んでみました。
タイトル気になりました?どんな内容かって思いました?
それで自殺を題材にって……作者は死にたがりか病んでるのか、と思われそうですが特に病んではないです。
劣等感抱いたり、生きたいと死にたいと常々思っているくらいです。
死にたいと生きたいって表裏一体だと思います。
死にたい、の元を突き詰めるとどう生きたいのかが分かる。
どう生きればいいのか分からなくなったら、死にたくないを辿る。
あくまで自分の生死観なんでしょうが、自分はとにかく生きていたいのでその生欲に忠実に、時折折り合いをつけて生きていければとか。
生きていたいから、全員生かしたんでしょうねー。
最後まで「全員生きるか」「全員死ぬか」「誰が死ぬか」悩んでんですが、やっぱり生きていたいから全員生存ルートにしたんだと思います。
でも飛び降りもした。
そういう時も生きていればあると思います。
所謂「限界」というやつですね。生きていく上での限界。
限界を迎えれば感情とか色々爆発しますよね。
泣きたくなるし叫びたくなるし自分勝手な行動も自分らしくない行動もするかもしれないし、自分自身のことでしょうけど分からなくなりますよね。
あと、同じ名前。
自分も同じ名前の人とは今まであったことがありますが、故に劣等感を抱いたこともあります。皆さんはありませんでしたか?
そういうのもあって「同じ名前の男女」で登場させたんだと思います。
でも、同じ名前でも人生や環境とか、全然違うんだよなーと。
劣等感抱くのは駄目じゃないけど、自分を否定するまではないんだよーと伝えたかったのかなあ。
だから同じ名前の男女を出したり、劣等感を抱いている彼を出したりしたんだと思います。
数年前の作品なんでうろ覚えなんですが。
小説書くのも投稿するのもカキコに挑むのも初めてだらけで「大丈夫かな?」と不安でいっぱいでした。
ですが挫折することなく書き終えることができて良かったです。
今度は後書きもちゃんと書こうと思います。
途中感想をくださったヨモツカミさんをはじめ、『トモエ』を読んでくださった方、サイト関係者、本当にありがとうございました。
縁がありましたらまた何処かで、どこかのSNSで。
<暁烏>
PS 暁烏か暁月烏かが一番迷っていました。
今でも悩んでいます。
今後はどちらで活動していくのやら――、