複雑・ファジー小説

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変革戦記【フォルテ】
日時: 2020/09/28 22:07
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)

※全年齢版


参照:イメージソング『Beat Your Heart』(ブブキ・ブランキ第1期OP)


国を守るための防衛兵器───巨大な機体、『フォルテッシモ』が普通になりつつあった時代。
突如としてフォルテと呼ばれる能力に目覚める者たち。フォルテを持つ彼らを、人々はフォルトゥナと呼ぶ。
しかし、彼らを狙い、彼らを連れ去って自己利益のためだけに利用しようと目論む悪の組織があった。その名も『グローリア』。あらゆるものを掌握し、いずれは国家転覆をも狙うフォルトゥナだけで構成された組織である。当然フォルテッシモも、グローリア専用機を大量に生産しており、かなりの数を所有している。
だがそれに大人しく屈服しているわけが無い。そのグローリアに対抗すべく、『マグノリア』という組織が作られた。未成年のフォルトゥナの少年少女たちで構成されている。
グローリアに支配されているこの状況に風穴を開けるため、グローリアを倒すため、何よりも家族や仲間を守るため、彼らは戦う!


※注意※
こちらの作品は、18禁板にて連載開始予定の小説、『f-フォルテ-』の全年齢熱血ロボアクション版になります。
こちらを見てから18禁板版を見ようとチャレンジするのは、大変おすすめ致しません。
こちらから先に見た方は、18禁フォルテの存在はそっと胸にしまっておきましょう。
そして18禁版からこちらを見た方は全力でお楽しみください。
もちろん、こちらから先に見た方も。
キングゲイナーやGガンダムのノリとほぼ同じです。雰囲気で楽しんでください。
この作品はフィクションです。実在する個人、団体、その他とは一切関係ありません。
(9/7 コメライ→複ファへ移動)


18禁と同じ点
・基本の組織や用語
・キャラクター(例外あり)
・世界観(例外あり)

異なる点
・話の内容
・話の明るさ
・結末
・連載する板


用語集>>1
登場人物一覧>>2
第1話【Magnolia】
>>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8 >>9
(まとめ読み用)>>3-9
第2話【Oshama Scramble!】
>>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16
>>17
(まとめ読み用)>>10-17
第3話【fake town baby】
>>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24
(まとめ読み用)>>18-24
第4話【Distorted†Happiness】
>>25 >>26 >>27 >>28 >>29 >>30 >>31
第5話【Marionette】
第6話【Welcome to the Black Parade】
第7話【絵空事】
第8話【Red doors.】
第9話【Red Like Roses.】
第10話【サンクチュアリを謳って】

(応募スレはリク板をご覧ください)
※応募されたキャラクターについて
できる限り応募された内容に沿って使わせていただきます。どうしても全年齢に出るならばこうして欲しいというご要望がありましたら、随時受付を致します。可能な限りでお応えさせていただきます。
もちろん全年齢版のみ、または18禁版のみに出してほしいというご要望も受付します。
ご遠慮なくお申し出ください。

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.27 )
日時: 2019/08/30 19:52
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)

 同時刻、ある場所にて。薄暗く不気味な場所で、2人の男女が何かに向けて跪き、手を合わせて祈っていた。救いを求めるように、ただただ祈っていた。

「救世主(メシア)様。私たちの『あの子』を、どうか帰してください」
「我々の元へ、どうか『あの子』を、悪魔(サタン)の魔の手から連れ戻してください」

 顔なき偶像は何も答えない。その祈りの声を聞いているのかさえ分からない。だが2人の男女は確信していた。救世主は、必ずや自分たちの声を耳に入れ、心を打ち、願いを叶えてくれると。

「メシア様は見てくださっています。その時を待ちましょう」
「はい───司教様」

 眼前に立つとある人物は、柔らかな微笑みを浮かべて男女に言う。その言葉を聞いた彼らは、にこりと笑って一礼し、その場から去っていった。

「慈悲深き主よ───サタンに、サタン共に、浄化の業火を与え給え」

 残された『司教』は、顔なき偶像に祈った。自分たちに仇なす『悪魔共』に、天の業火が落とされることを。
 そしてその手元にある水晶には、『球体の中で過ごす彼の者』の姿が、明確に映し出されており、『司教』は口角を釣りあげた。


「────そんな所にいたのですね」


 次に映し出されたのは、『顔を隠した術士』の姿だった。





「……?」
「時雨?」

 マグノリア内にある図書館。泥と歌子と時雨の3人は、気分転換にとこの場所に来たのだが、突然時雨がバッと顔を上げた。様子が変わった親友に、泥は声をかけてみるも、時雨はどこかをじっと見つめている。それはまるで、『何かに対して見つめ返しているような』。だがその場所を見ても、泥には何も見えなかった。

「何が、あるの?」
「……今、確かに」

 ぼそりと時雨が呟く。しかしそれ以降は口を噤んでしまったようで、続きを聞くことは叶わなかった。それどころか目線(と言っていいのかは分からないが)を、そちらから離さない。一体時雨には何が見えているのか。

「時雨くん?何見てるの?」
「……」

 その時丁度目当ての本を探してきた歌子が戻ってきて、ずっと虚空を見つめている時雨にギョッとして声をかけた。それでも時雨の耳には入らなかったのか、彼女に返事をすることは無かった。
 歌子はさすがにこれはおかしいと思ったのか、隣の泥に小声で問いかける。

「ね、ねえ。時雨くんどうしたの?」
「分からない…なんか、突然ばっと顔上げて、ずっとあのまま」
「……何か感じ取ったとか?」
「さあ……あ、そういえば『今確かに』って、言ってたなあ」
「どういう意味…?」
「さあ……?」

 2人がそんな話をしている中で、時雨は1人『確かな何か』を感じ取った場所を凝視する。

「(今……確かに、僕達に対する殺意か何かが…)」

 つぅ、と冷や汗が落ちる。心無しか、手指が冷えていく。単なる気のせいなら、気のせいだと済ませたかった。だけども、自分たちに向けられた『どす黒い殺意』を明確に感じとってしまった以上───、いや違う。これは自分たちだけじゃない。この『愛情』にも『呪い』にも似た、『禍々しい感情』は────

「……2人とも」
「時雨?」
「何かあった?」
「───リーダーに報告しに行くぞ。遅かれ早かれ、僕達は、否、『アイツ』が確かに──『連中に見つかった』」

 その瞬間、3人は図書館を飛び出していた。





「リーダー!」
「うぉっなんだなんだノックぐらいしやがれってんだ」

 リーダー、狂示の特別室の扉が荒々しく開けられ、その部屋の主はそれまで付けていたタバコの火を消して、乱入者たちに苦々しく言葉を投げる。だが乱入してきた3人、特に時雨はそんなことお構い無しに、ずかずかと部屋の中に入ってくる。

「おいどうした時雨」
「……グローリアの連中と思しき者達に、見つかったようです」
「───詳しく聞かせろ、流星達も呼ぶ」
「はい」

 瞬間狂示の顔つきが全く別のものへと変わった。と、同時にすぐに端末機器を用いて、流星達に連絡を取る。『今すぐ部屋にこい』、と。
 そのメッセージを送って数分もしない内に、流星、那生、百合、吟子の4人が揃った。時雨と泥、歌子はあとからやってきた彼らをちらりと見て、狂示へと視線を戻す。そこで那生がぐるりと見回して、感心したように口を開いた。

「何や時雨はんらおったんか!珍しのォー…何があったんや?」
「大方それを説明するために、我々を呼びつけたのだろう」

 大体の話は何となくわかるが。そう付け足すと、流星は腕を組んで時雨をじっと見る。その視線に、時雨はあえて気付かないふりをした。
 以前からその深くを詮索するような視線が、時雨何となく苦手だった。まるでこちらを、見定めるかのように思えて仕方がなかった。本人はそんなことは一切ないのだろうということは、時雨も分かってはいるのだが、慣れない。
 それを知ってか知らずか、狂示は百合や吟子にちらりと目配せをして、2人がかすかに笑うと体を前のめりにして話し始める。

「うし、揃ったな。じゃあ時雨。続きっつーか、こいつらにも説明を頼む」
「はい。と言ってもかなり簡単なものですが。先程まで僕達は図書館にいました。が、その時『こちら側を見ている』気配がしました。咄嗟に気配がした方を見たのですが……」

 そこで一呼吸置いて、また口を開く。

「『何もなかった』んです、次の瞬間には気配ごと」

 そこで口を閉ざすと、割り込むかのように吟子が喋る。

「フォルテを使っているのならば、痕跡を残さずともこちらを見るものは可能だろう?特に変わったものでは無いようだけれど」
「……確実に『空間を割いて』こちらを見ていたんですよ。声も聞こえました。『そんな所にいたのですね』って」
「ははーん……?まあ、見つかった『だけ』ならまだいい。だけならな」
「どうしてかしらね、それだけじゃない気がするわ」
「僕もそう思います。見つけるだけならあんな思わせるような言葉は言いませんから」
「となると、もっと別のものを探してたりとかして、そのついでに僕達を見つけたりとかって言うのはあるかな?」
「なら、何を探してたんだろうねぇ」

 皆々が一様に唸る。確かに自分たち、いや時雨たちを見つけるだけならば、わざわざ空間を割いてまで探し出すものだろうか。現に彼らは外に出て行動する。ならばそれを狙って何かを仕掛ければ良いものだ。というより察知されるリスクを犯してまで、比較的見つけやすい彼らを探したりはしないだろう。余程執着がない限りは。
 ならばもっと外に出ないで、尚且つ特定の人物から『狙われている』者。できればなかなかに出てこない、そう、例えば『引きこもり』とか───

「……あ」
「まさか」

 全員の脳裏に、まさしくその『引きこもり』が浮かび上がった。





「ぶへっくし!」

 そんなことは露知らず、狭い球体の中に閉じこもっていた、『引きこもり』は大きなくしゃみをする。ティッシュで鼻をかむと、改めてモニターに向き合う。

「なーんか嫌な予感がする……」


 その予感がのちのち当たってしまうことになるとは、今の彼は予想することすらなかった。


続く

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.28 )
日時: 2019/10/19 00:04
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)

「とりあえず、だ。アイツ絡みなら十中八九『メシアの揺り籠』のクズどもだろうから、俺らはそいつらの情報収集に集中するとして。お前ら」

 狂示がずびしと時雨たちに指を指す。それに反応して、姿勢を正すと共に次の言葉を待った。

「いつでも出撃できるようにしとけ。単身でも───フォルテッシモでもな」
「了解」

 それだけ言うと、その場はそこで解散となった。


 時雨たちが部屋をあとにすると、残った成人組は顔つきをさらに険しいものとする。厄介なことが舞い込んだものだ、とすら思った。だが今の状況ではそんなことを思っても、起こってしまった以上対処するしかない。狂示は口元を歪ませ、机に頬杖をついた。
 まさかこんなに早く見つけてくるとは。いや、そもそも今まで何事もなく見つからずに済んでたのが奇跡だったのだろうか。

「アイツらほんっとに───執着しすぎだろ」
「おん?親がっちゅー意味か?」
「そ。毒親っつーかクソ親?クズ親?ま、どれも大して変わりは……なくもないか。芳賀はあん時に連れてこれたのが良かったな」
「……メシアの揺り籠の、『悪魔祓い』の前夜のあの日か」

 あの日。あの日の夜。狂示が芳賀を連れてきた運命とも呼べる日。あの時の彼の目には、『何も映っちゃいなかった』。





 時は遡り、およそ7年前。芳賀が8歳を迎えた時のことだった。その頃彼の家では、メシアの揺り籠の熱心な信者である両親による、洗脳とも呼べる教育が子供たちに施されていた。メシアの教え通りにしなければ、罰だと言って暴力を振るわれ、また両親が許可しているもの以外の食べ物を口にすれば、洗面所へ連れていかれ、全てを吐かされる。その上で、清められた聖水だとして、まずい水を飲まされる。ようやく出来た友達と遊ぼうものなら、家を出た時点で引きずり込まれて、説教と暴力。それどころか、ろくに学校に行かせて貰えない。メシアの教えに反するからと。全てが『メシア様の教え』に基づいて管理された暮らしだった。
 そんな中で出会ったのが、『ネット』だった。親の監視をかいくぐり、こっそりやってきた数少ない友人が持ってきた端末に触れたのがきっかけだった。幸いにして両親はメシア様の教えの布教とやらで、月に何回か家を留守にすることが多かった。その日を狙って来てくれていたのだ。
 ネットは芳賀にとって、とても『自由』なところだった。限度はあるけれど、好きなことを言ってもいい。好きなものを見てもいい。好きなだけ興味のあるものを調べてもいい。まさに宝の海だった。こんなに自由な場所があったなんて。
 そしてついには友人のすすめで、『ネトゲ』に入った。そこにはさらに自由な空間が拡がっており、さらにのめり込んでいった。こんな自由な場所に、いつまでもいつまでも入り浸っていたい。ネトゲにはいれば、待ってる人たちがいる。息苦しい家とは違って、のびのびと生きることが出来る。自分の求めていた場所が、そこにはあった。
 だが、それを見逃すような両親ではなかった。知らぬうちにしかけていた監視カメラで、彼の行動を欠かさず見ていたらしく、ついぞ両親は彼を捕まえて罰だと言って、暴力を振るった。悪魔が体に巣食っていると。
 存分に殴り蹴り吐かせたにもかかわらず、まだ悪魔は祓われていないと言い、教会で『体を清め』てもらおうとした。しかし準備に時間がかかりそうだと神父が両親に伝えたため、悪魔祓いは翌日へと先延ばしになった。その間芳賀は逃げられないようにと、教会へ預けられてしまった。当然監視のカメラと人付きで。
 その体を清めるとは、椅子に身動きが取れぬように括りつけて、そのまま水の中へ入れることであり、息が出来なくなりそうになった時を見計らって引き上げ、また有無を言わさず入水させる、ということを繰り返すのだ。当然これは拷問の一種なのだが、彼らに言わせれば、この行為をすることによって、体に巣食った悪魔が祓われるのだという。
 そんなことをされに行くなど、冗談じゃない。脱出方法を考えてみるも、全て無駄に終わった。やったとしても、すぐに殺されてしまうだろう。メシアに反逆した罪深き者として。
 途方に暮れて全てを諦めかけた時だった。

「よう」

 突如、芳賀の目の前にある1人の人物が立った。目を隠し、いかにも研究者だと言わんばかりの格好をした、長い白髪の男。
 しばらく呆然としていたが、すぐにはっと気を取り戻して監視しているはずのカメラと人を見る。しかしそこに見えたのは、首から上がなくなった体数体と、酷いこわれ方をして使い物にならなくなっていたカメラのみ。思えばいつの間にやら気持ち悪い視線もない。何をしたのだろうか。

「監視ならもうとっくにオレがぜぇーんぶやっちまったわ。手応え無さすぎて逆にガックリ来ちまったよ」

 肩を軽く落として、ガッカリしましたと言いたげなその男は、芳賀に危害を与えるというような態度は見られない。むしろ友好的な立場で見られているのだろうか。
 男はケラケラと笑い、言葉を続ける。

「んな警戒しなさんな!オレはお前を迎えに来ただけだっつの。あ、勘違いすんなよ。元の家のことじゃあねえからな?」
「……どういう意味だよ」
「ん?お前学校行ってねえ割には、言葉しっかりしてんな?」
「ネットやってたからな」
「あぁ納得したわ。まー今は学校に無理に行く必要もねえしな、それもありか」
「そんで、お前は迎えに来たっつってたけど、どこにだ?」
「そうだそうだ!オレたち『マグノリア』にだよ。お前フォルテ持ってるだろ」

 『フォルテ』。男から出てきたその単語に、芳賀はビクリと体をふるわせた。どうやら心当たりがあるらしい。

「……詳しいことは向こうに行ってからだな。あとお前の『妹』な、オレらんとこに来れば会えるぜ。そいつも味方だからな」
「っ!アイツがいるのか!?無事なのか!?なぁ!」
「落ち着け落ち着け。んな叫ばんくても会えるっつの。あ、取り敢えずこれ外しとくな」

 突然叫び始めた芳賀に、苦々しい口元を浮かべると、狂示は彼をしばりつけていた鎖を、左右に引っ張っただけで見事にぶちぎって見せた。一体こいつはどんな馬鹿力を持ってるんだ、と思いつつも、今は自由になった手足を確かめる。

「そんでだ、お前。オレたち『マグノリア』で───クソみたいなこの世界を、ぶち壊してみねえか?」

 ニヤリとしながら告げた男に、芳賀がくれてやる言葉はただ一つ。


「上等だ、俺の自由は俺が決める」





「んで、こっち来てフォルテ調べたらとんでもねえもん持ってやがるし、名前なんて呼ぶか考えてたら、『ハッカー』を文字って『芳賀(はか)』にしろって言ってくるし、再会した妹には尻に敷かれてるし、オマケに自分でフォルテッシモも『球体』も作っちまうし……やっぱ連れてきて正解だったな」
「まあそれは置いといて。昔話ならいつでも出来るだろう?」
「たしかにな!」

 思い出話に思わず花が咲いたものの、吟子の一言によって話題は切り替わる。

「で、だ。時雨らにも言った通り、オレらは情報収集。何かあったら出撃できる準備はいつでもしとく。あと出来そうなのは」
「いっその事電堂芳賀を出撃させたらどうだ、奴ら、食いついてくるやもしれん」
「まあ候補のひとつだな」
「あとはメシアの揺り籠の教会に……突撃かますとかも行けるんとちゃうか。向こうさんが動かんと動けんっちゅうのはアカンで?」
「したらオレら犯罪者になっちまう。あぁ、あくまで法律のな。やるなら合法的に」
「今更何言うとんねん」

 シラケた目で狂示を見る那生。だがその目をものともせずに、狂示は続けた。

「とにかくだ。今回はいつもよりさらにクソな野郎どもが相手になる。流星とお吟は今からフォルテッシモで出撃してくれ。百合と那生は待機。あと今出すのもなんだが、時雨と泥、あと理(さとる)に単身出撃命令。情報部にはメシアの揺り籠に関する情報収集に手をつけるように指示。そんで───芳賀とまろんにも、フォルテッシモで出撃するように指示を出す。場合によっちゃ、オレも出るからな」

 そこまで言い切ると、狂示はタバコに火をつけた。





「泥、出撃命令だ。出撃ポートいくぞ」

 時雨は泥の部屋を訪れ、彼を外に出す。

「分かった。今回は僕と時雨だけ?」
「いや、もうひとりいる。……『彼』だ」

 2人でそう話して、出撃ポートへと歩いているうちに、1人の青年と会う。

「────神の名を騙った罪深き者たちに、『死』をくれてやる」

 黒い法衣を身にまとった、彼の名は『遠山 理(とおやま さとる)』。


またの名を、『慈悲深き処刑人』。


続く

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.29 )
日時: 2020/01/08 23:56
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)

「例の調査はどうなっている」
「はい。メシアの揺り籠の『神父』を使って進めさせていますが……収穫がありました」
「と言うと?」
「……失踪していた信者の子供が見つかり、かつマグノリアの本拠地を掴みました」

 薄暗い部屋で、若い女と初老の男が会話をしていた。女の手には報告書かなにかと思われる紙の束。対して男は女の目の前で足を組み、ふむ、と自らの顎を撫でた。その口元はゆるりと上がる。まるで、無くしていた玩具をやっと見つけた子供のように。
 男は女に向かって手を伸ばす。書類をよこせと言っているのだろう、それを察した女は何も言わずにそれを手渡した。やや乱雑にそれを受け取ると、男は椅子の背もたれに深く背中を預けると、パラパラとめくり出す。そしてあるところで気になるものでも見つけたのか、ぴたりとその手を止めた。

「『奴』も…いるのか」
「はい。その反応が強く出ていましたので。ただ推測の範囲を出ていませんが」
「……ふぅむ。これは中々」

 面白そうに小さく笑うと、紙の束をばさりと目の前の机に置き捨てる。しばらく沈黙がその部屋に流れると、男は女の方へと向き直り、ゆっくりと口を開く。

「引き続き『神父』を使おう。信者の子供はそちらに投げておけばいい。『神父』のフォルテはこちらとしても有効利用したいところだからな」
「我々はどう致しますか?」
「マグノリアか?まだ放置していてもいいだろう。今すぐなにか起こるというわけでもない。それに」
「それに?」

 男は全てを見下した目で、面白げに呟く。

「所詮は『社会を録に見れていない子供の反抗期』だろう?」





「目的地へ到着しました」
『了解。周囲を警戒しながらメシアの揺り籠への本拠地をめざし、その途中状況を逐一報告してください』

 時雨、泥、そして理の3人は予め伝えられていた目的地───メシアの揺り籠本拠地である神奈川県の某所より10キロ離れた地点に降り立つ。司令室のオペレーターに状況を伝えると、ぐるりと辺りを見回す。特に危害となりそうなものは見えない。今のところは、だが。

「泥、理さん。何かあったか」
「いや何も。というか時雨が何もないって思ったら僕達でも何も無いよ」
「…同意である」

 すっと静かに口を開き、その後胸元のロザリオを口元によせ、口付けた。そして目を少し細めると、ほう、と息をつく。
 聖職者のような容姿をした彼の名は遠山 理(とおやま さとる)という。自らが信仰する『神々』が何よりも絶対だと信じている、敬虔な信徒である。故に神の名を騙り、悪事を重ねる連中が許せなかった。だからこそ今回の『メシアの揺り籠』の件で出撃命令が出た時、いの一番に出撃ポートへ向かい、許可が出された瞬間に己のフォルテを使って武器を『造り出し』ていた。さすがに時雨と泥が止めさせたが。

「取り敢えずここで突っ立ってても何も進まないし、周囲を警戒しながら行くぞ」
「周りから僕達は見えないようになってるんだっけ?」
「服装が目立つからな」
「……否定はしない」

 3人はそれぞれに言い合いながらも、まずはメシアの揺り籠の本拠地に自然と歩みを始めた。

 今回課された任務は『メシアの揺り籠をこちらから手を出さずに壊滅させること』、そして

『電堂芳賀の両親の殺害』である。





 同時刻、マグノリアのフォルテッシモ出撃ポート。2人の男女が今まさにフォルテッシモに乗り込もうとしていた。その2人のうちの1人の男、電堂芳賀こそが今回の任務のキーパーソンである。ゆらゆらと不安定な動きをしながらも、自らのフォルテッシモへと歩み寄っていく。心做しか、目の焦点があっちこっちいって定まってない。出撃させて大丈夫なのだろうかと不安になるくらいだ。
 もう1人の女は藤山まろん。こちらもケラケラと笑うだけで、言葉とおぼしき言葉を発してはいなかった。そしてこちらも目は真正面を向いちゃいなかった。だが芳賀とはちがい、しっかりとした足取りで自らのフォルテッシモに乗り込む。
 そしてそれを下から見る、メカニック部の一条常盤。眉間に皺を寄せて、2人の様子を見ていた。主に『やらかしてくれるなよ』という気持ちが大半で。その『やらかし』には機体のメンテや本人たちの動きとかも大いに含まれていた。
 特に電堂芳賀は別の意味でも、眉間に皺を寄せてしまう案件だった。理由としては───

「実兄があんなんなって自分の設計したフォルテッシモじゃなくて、完全オリジナルで作り上げちまったヤツに乗られちゃ妹としては複雑ってか」
「どぅわ!」
「おいおいんな驚かなくてもいーだろが」

 思ってたことを全て後ろから出てきた男──狂示に言われてしまい、若干顔を青くして彼から飛び退く。そんな常盤にケケケと笑いながらバスバスと背中を叩く狂示。顰めっ面をしてその手を振りほどくと、また2人の方へと目線をやる。

「……まー、あの2人は大丈夫だろ」
「壊したりしないすか?特にまろんさん…」
「あれ、お前知んなかったっけ?」
「ウチは基本パイロットのことに関してはノータッチって決めてるんすよ」
「んじゃまいい機会だし教えてやろう。藤山まろん、もとい───『藤田ろまん』はな」

 それぞれのコクピットに2人が乗り込む。そのうち、『カオナシ』に乗り込んだまろんは手馴れた様子で操作していく。ある程度操作をして、フォルテッシモを起動させると、突然ガクンと体の力が抜けてしまった。
 だが、それはすぐに終わる。すっと顔を上げずに手を所定の位置に持っていくと、ゆっくりと体を持ち上げる。そうして上がった顔にはめ込まれた瞳には、普段は無いはずのハイライトが光り輝いている。

「───『アレ』に乗ってる時だけ、本来の『人格(おもかげ)』が出てくんだよ」

 にやりと笑うと、狂示はタバコに火をつける。

「───オペレーション起動、感度、視界、その他問題なし。パイロット、機体、共に問題なし。正面モニタ、背後、サイド、共に問題なし。状態良好。確認了」
『───同じく此方も問題なし。いつでも行ける』
「味方機より状態確認報告有。出撃準備完了。これより、目的地に向けて出撃します」

 ゆっくりと2機のフォルテッシモが動き出す。ひとつは顔のない、不気味な雰囲気を纏ったフォルテッシモ。もうひとつは、素早さや見た目を重視した、細身でスタイリッシュなフォルテッシモ。共通するのは、『他の機体とは似ても似つかない容姿』ということ。言われるまで本当にフォルテッシモかどうか疑わしい。
 扉が開かれる。そこを出ればもう目の前には壮大で、『憎らしい』景色が拡がっている。芳賀は内心で舌打ちをし、まろん、否ろまんはただひたすらに前を見つめる。

「フォルテッシモ、『デイジー・ベル』」
「フォルテッシモ、『カオナシ』」

「出撃する(します)」


 異様な2機のフォルテッシモが、飛び出した。


続く

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.30 )
日時: 2020/04/26 00:05
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)

「あれ、まろんちゃんは?」 
「ついさっき出撃していきました。芳賀さんも一緒みたいですけど」
「ふーん、なんかあったっけ」

 マグノリアの大食堂。腹を空かせた多くの人間が集まり、思い思いに食事をとっている。アスカと水木もそのうちのひとり。アスカは今日の目当てであるハンバーグ定食を、水木は軽めにホットサンドプレートを。焼きたてのホットサンドを食らいつつ、水木はアスカの質問に答える。

「えぇっと確か…メシアの揺り籠関連らしいですけど」
「えっなんで?」
「さあ。詳しいことは何も」
「きな臭いねえー」

 メシアの揺り籠については、2人もそれなりに把握していた。カルト宗教団体で、とんでもないことをやらかしやがる連中であることと、グローリアと密に裏で繋がっていること。だが知っているのはそれくらいであり、芳賀がなぜそのメシアの揺り籠に関連する任務に駆り出されたのか、決定的な理由は知る由もない。
 水木は苦い顔をしてホットサンドを頬張る。

「そういえば以前青森にいた時…家にメシアの揺り籠が来たんですよ。『救世主(メシア)様を御存知ですか』って。いいえ知りませんって返したら、『救世主(メシア)様は未だに眠っておられるのか』って言って帰りましたけど……」
「へえー……」

 ホントなんだったんでしょうね、とボヤきながら水木は頬杖をついた。行儀が悪いとぺしんとアスカが肩を叩けば、渋々とそれを治した。
 メシアの揺り籠が崇拝する、『救世主(メシア)様』。どんな存在なのか、どんな形をしているのか、それは一切わかっていない。いや、外に情報を出していないと言うべきか。信者たちはただ、メシア様を信じ、メシア様に祈りを捧げよと日々布教しているらしい。そして己らもメシア様を信じ、メシア様に祈りを捧げる。それがメシア様のためにやるべき使命だと。そうひたすらに言い続けている。もしメシア様へ祈りを捧げない、信じない者がいた場合は、『どんな手を使ってでも』、『そいつの体に巣食う悪魔を祓え』。たとえ死んだとしても、それはメシア様に直接魂を救われたのだ───。

「ほんと意味不。価値観の押しつけじゃん」

 眉をひそめて、アスカは最後の一口を頬張った。


「……メシア、の揺り籠」

 そんな会話を後ろで聞いていた2人組がいた。そのうちの1人は気まずそうにその場から少し離れる。もう1人はそれを追いかけるようについて行く。

「神納木さんはメシアの揺り籠──と言うか、メシア様って知ってます?」
「知らねー。つーかコーヒー貰っていいか?いいよー、さんきゅー」
「いやいいよなんて一言も僕言ってないですけど?って、なんで聞きながら勝手にとって飲んでんですかぁ?」
「あー?コーヒーは俺ンだ」
「分かってたけどほんっとこの人話通じない……!」

 神納木と呼ばれた人物は、もう1人から出された疑問など意に介さず、適当に答えたと同時にそいつが手にしていたコーヒーをひったくり、あっという間に飲み干す。片や取られた方は、そんな神納木に詰め寄るものの、あまりの通じなさに頭を抱える。
 彼ら───神納木 渚桜(こうのき なぎさ)と蝮崎 空盧(まむしざき うつろ)は、当然ながらマグノリアのメンバーであり、そして何の因果かつい最近チームケイオスに仲間入りした。とは言ってもかのリーダー、狂示から流星に、『取り敢えずこいつらお前んとこで面倒見といてクレメンス』などという怪文書と共に放り出されただけなのだが。そしてどういう訳だかこの2人は、一緒に行動することが多い。大抵は神納木が空盧の後ろにひっついてるのだが。そんなことで、2人はいつもセットで扱われていたりする。空盧本人は不思議がっていたが。

「にしてもメシアの揺り籠…カルト集団ってことは聞きましたけど」
「あー?神だとか訳わかんねえもの信じてる奴らって大抵頭おかしいよな」
「君に言われたくないと思う」
「まーでも絶対面白そうだよな」
「考え無しに首突っ込むのやめて!」

 楽しげに話す神納木に待ったをかける空盧。だが彼の必死の阻止は、神納木に届くことは無いだろう。『何も考えていない』のだから。





 ところは変わりメシアの揺り籠のある拠点近く。そこに出撃していた時雨たちは、ある光景を目にする。

「……あれは」

 それは大人に連れられた子供たちが、明らかにおぼつかない足取りで、メシアの揺り籠の教会に入っていく風景。まるで縄で繋がれた囚人が、刑務所の中へと入っていくような。引き連れている大人は微笑みを貼り付けてはいるが、その裏側では何かよからぬ事を企んでいるといった印象を受ける容姿だった。
 そしてその大人に引っ付いて教会に入る子供たちの共通点は、皆───

「……なんかずっと呟いてないか?」

 そう、何かを繰り返し口にしている。時雨たちからの距離では、何を呟いているのかははっきりと分からなかったが、ただひたすらに『同じことを繰り返している』のはわかった。口の動きが全く同じだったからだ。
 そうしているうちに最後の子供が教会に入り、扉は重く固く閉ざされた。扉の前には2人の白装束を着た、信者らしき人間が門番のように立つ。

「なんか変じゃない?祈り捧げるくらいならあんな人達置く?」
「鍵をかければいいと思うんだが」
「だよね。明らかに中で『なにかしてる』よね」
「……」

 迷彩が効いていないことも考え、直ぐに物陰に隠れ、時雨と泥はそれぞれ言い合う。それを理は黙って聞いていた。今口を挟むことではないと判断したのか、そうでないのか。

「───そこの物陰の者共。我らがメシア様の神聖な教会に何の用だ」

 だが、それは第三者の言葉によって途切れる。門番のうちのひとりが、こちらに向けて手にしていた槍と共に、言葉を投げてきたからだ。

「ちっ」

 槍はすんでのところで当たらずに壁に突き刺さる。突き刺さった槍はフォルテの影響からか、自ら壁から脱出し、門番のひとりの手元に戻る。流石に出るしかないと判断した3人は、門番たちの目の前に現れた。

「挨拶もなしに槍を投げて来るとは、随分と社会常識がないな!カルト集団」
「常識がないのは貴様らの方だ、マグノリア」
「(やっぱり光学迷彩が効いてない、いや効いてないからこそ槍を投げてきたか)ふん、カルト集団を否定しないということは、少しはその自覚があるのか?」
「そんな戯言、気にするまでもないだろう」

 そう言うと門番たちは、それぞれの『えもの』───槍を3人に向ける。時雨達がそれに反応し、戦闘態勢に入る、と同時に理がそれを制し、前に出た。

「……時雨、周囲転換を」
「もとよりされてある。何、気が付かなかったか?『反抗期の餓鬼共』が」
「……ふむ、餓鬼共か。なら貴様らはそんな餓鬼共に今から食われる『愚か者の屑共』という事か」
「何?」
「────精々抗うがいい、屑」

 そう言うと理は懐から折りたたみ式のナイフを取り出し、歯の部分を露出させる。それを首元に押し当てる、と。

 一気にそのナイフで首を掻っ切った。

「は、はぁ!?」
「こいつ、自ら死──」
「ぬはずがないだろう、少しは足りない頭を使え」

 『やけに』エコーがかかった声が響いたと思いきや、その掻っ切られた場所から噴出していた大量の血が、徐々に空中で形を成していく。

それはひとつの『巨大な死神の鎌』。
大量の血で造られた、彼の武器。

 柄と思しき部分を掴み、ずるりと首から引き離す。掻っ切られたその場所は、空いた片方の手でずっとなぞる。するとたちまち傷は癒え、瞬きもしないうちに元通りになった。
 これこそが、彼──『遠山 理』のフォルテ。


「───主よ、罪深き愚か者共を、断罪することを赦し給へ」


 願わくば、主の御許で救われんことを。


続く

Re: 変革戦記【フォルテ】 ( No.31 )
日時: 2020/09/28 22:00
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: dUTUbnu5)

「尽く散れ」

 そう言い放つと同時に理は血の大鎌を振り上げる。するとどうだろう、それまで己の武器を構えていた門番達は、呆気なく消え去った。耳障りな叫び声を残して。あまりにも早すぎる決着に、時雨も泥も唖然とする。神聖な場所だと言うのなら、その門番はもっと力のあるものが務めるべきだろうと。とはいえ、これで障害はなくなったわけだから、心置き無く教会の中へと入ることが出来る。
 と、思ったがつかの間。

「待て…!まだ終わってなどない!」

 理の一撃を耐えた1人の門番が、立ち上がって時雨立ちを睨みつける。武器は構えたままで、こちらを絶対に殺さんと目が物語っている。

「無意味に立ち上がるな。『眠れ』」

 だがそんな者に慈悲を与えるまもなく、理はまた大鎌を振り上げた。瞬間、門番は努力虚しく消え去った。それに目をくれてやることもなく、さっさとその門扉を開く。あまりにも早すぎる決着に戸惑いを隠せない時雨と泥であったが、もとより目的はこのモノたちでは無いことを思い出し、理の後に続く。
 重い音を響かせながら、扉はゆっくりと開いていく。その先に何があるのか、何が行われているのか。

「───おや、来ましたか」

 開かれた先にいたのは、1人の『神父』と多数の『子供』。その子供たちは皆、神父が3人に声をかけたあと、くるりと顔を向けた。その目はどれも暗くにごっており、明らかに『生』を感じさせるものではなかった。口は半開き、そして何かを延々と繰り返し呟いているようだ。その光景に思わず時雨と泥は眉をしかめた。

「何をしている……とは、愚問か」
「ええ、全くその通り」

 理の問いかけに、神父は当然と言わんばかりに答えた。嘲るような笑みを浮かべながら。

「我らが『救世主(メシア)』様の教えを、希望の子らに説いていただけです。この素晴らしい教えは、彼らによってまた未来へと語り継がれる───しかし、あなた方は残念なことに、それが理解も納得もできないようですが」
「そもそも貴様らの宗教の教えなど、糞にまみれた虚言そのものだろう?そんなものを理解しろと言われてするとでも?」
「ふむ、これは思ったより重症のようだ。魂が汚物に塗れているためにこんな妄言を」

 そう言うと神父は、指をすい、と動かした。するとそれに倣うように、子供たちが3人の目をじっと見つめる。口は動きを止めて、ただただじっと見つめてくる。
 頃合だと言わんばかりに、神父は動かした指をはらった。まるで『行ってこい』と指示を出すように。

「さあ希望の子らよ、愚かな彼らに『救世主(メシア)』様の教えを、その身をもってして理解させなさい」

 瞬間、子供たちは3人にわらわらとくっついてくる。その口はずっと、「めしあさま」「めしあさま」「めしあさま」と繰り返している。引きはがそうにも、子供が足や腕をかなり強く引っ掴んでおり、思うように動けない。

「くそ、離れろっ」
「この子達…思ったより、力強い!」
「ち……外道が」

 しまいにはある子供が時雨の首元に到達し、そこに小さな両手をあてがった。そしてどんどん力を込めていく。

「かっ…!」
「時雨!っぐぁ」

 時雨の方に手を伸ばそうとした泥もまた、別の子供の手によって、首を絞められる。頭もクラクラとしだし、次第に目の前が暗くなり始めたその時、突如として引っ付いていた子供たちがいっせいに散り散りとなる。一気に解放された時雨と泥はその場に崩れ落ち、激しく咳き込み肩で息をする。
 そんな彼らの隣には、子供たちを払ったのだろう巨大なハンマーを手にした理が、神父をぎろりと睨めつけていた。

「……」
「おや、アレを退けましたか。なかなかやるようで」
「喧しい、紛い物の外道が……!」

 どうやら自らの『血』を使い、ハンマーを作り出して思い切り衝撃波を作り出したらしい。視界がはっきりしてくると、少し離れた位置に、まるでクレーターのようなものが刻み込まれているのがわかった。
 なお、弾き飛ばされた子供たちは、その衝撃で気を失っていた。辺りは動かなくなった子供たちでいっぱいだった。

「───まァ、ここで私をやったとしても、あまり意味はありませんが」

 と、不意に神父が笑いながらそう漏らす。

「どういう意味だ?」
「『本体』は別の場所にあるということです。ただここで何もせずに倒されるのは癪ですので……少し『時間稼ぎ』としましょうか」

 その瞬間、神父の背中から何かを引き裂くような音が響く。ばりばり、べりべり、あるいは言葉で表せない音。そこから出てきたものに、3人は思わず目を見張る。

それはまるで蛸足、または『触手』と言うようなものが、神父の背中を『割って』、顕現していたのである。

 ぐちゅり、ぐちゅりと音が鳴る。黒い液体を垂れ流し、奇妙な動きを繰り返す。まさに、『この世のものとは思えない』ものだった。

「それでは、頂くとしましょうか」

 神父の声が二重に聞こえる。顔も、腕も、何もかもが変わり果てていた。おぞましいなにかへと変貌していた。

「2人とも、構えろ…来るぞ」
「わかってる」
「……一応、奴の触手1本は回収するぞ、何かわかるかも知らん」
「────応」

 この世にあるまじき生物との戦闘が、いまこの瞬間をもって始まった。





 ところ代わり、ここは上空。先程出動した【カオナシ】と【デイジー・ベル】が、トラブルなく飛行していた。目指すは『メシアの揺り籠』本部のあるビル。2人に課された任務は、『メシアの揺り籠本部の壊滅』。至極単純な任務だ。だがこの任務に選ばれた芳賀は、なんとも言えぬ顔を浮かべていた。


『藤山まろん、及び電堂芳賀。お前らに任務を出す。メシアの揺り籠本部をブッ壊して来い』

 当初リーダーに呼び出され、渋々ながらも行ってみたら、開口一番がそれだった。なんで自分がという気持ちよりも、なんでこいつも?という疑問の方が勝ってしまった。その疑問はするりと口から出ていたようで。

『なんでこいつも?』
『オメーと相性いいから』
『ハァー?』

 帰ってきた返答に益々意味がわからなくなった。無法地帯が手足生やしてそこら辺歩いて喋っているような存在のこいつが、俺と相性がいいとはなんなんだ。出来れば詳しく問いつめたいところだが、直ぐに出撃させるんだろうからそんなことは出来ないか、と内心肩を落とす。

『そんで?理由は?』
『お前も耳にはしてると思うが、メシアの揺り籠の活動が活発化しててな。一時期は静かだったのが、ココ最近急にだ。んでそいつらがこっちに危害加える前にボコそうっつー話』
『無茶苦茶だな』
『だがちょうどいいだろ。くそ野郎どもの息の根を止める絶好の機会(チャンス)だぜ?特にお前にとっちゃ』
『………あぁ、そゆこと』

 リーダー、狂示のその言葉に芳賀はため息をつく。ようするに、だ。『お前殺っちまえよ』、と言いたいのだろう。

『で、だ。こいつホントに俺と相性いいんか?』
『フォルテッシモに乗りゃわかんぜ』
『ぶえーばびばー』
『……ほんとか?』

 乗る前から既に不安要素しかない。だが任務は任務、大人しくまろんを引きずって出撃ポートへと向かっていった。


「(───まさかマジ話とは思わねーよ)」

 フォルテッシモに乗ったまろんは言った通り、『人格』がまるっきり変わった。普段の彼女からは全く予想もできない言葉や行動が出てくる。そのせいでかえってやりにくいが。

『目標補足。メシアの揺り籠本部と確認。戦闘準備します』
「来たか」

 数分がたった頃、まろんから通信が入る。目の前を見遣れば、明らかに異質な作りをしていたビルが、不気味に立っていた。あれがメシアの揺り籠の本部とみて間違いないだろう。まろん、芳賀は共にいつでも戦闘行為に入れるように構える。するとその建物から静かに、フォルテッシモと思しき機体がこちらに向かって来た。

『敵影あり。こちらに来ます』
「ご丁寧にお出迎えか!」

 デイジー・ベルが自らの周りに青い鎖を出し、それを向かってきたものに素早く伸ばす。鎖は瞬く間にそれに絡みつき、捕縛に成功した。

「さぁてこっからどうするか───」
『──その声は』
「!」

 突然響いてきた『聞き覚えのある二度と聞きたくない声』が、芳賀に向かう。芳賀は目を見開いて、そいつを見た。

『おお、息子……!悪魔の手から逃れ、帰ってきたのね……!!』

 その瞬間、芳賀は絶叫した。


「んで、ここにいやがる、クソ野郎が────────ッ!!」


その時彼は、自らの『生みの親』と思わぬ形で再会を果たした。


続く


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