複雑・ファジー小説

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何回目かの初めまして。
日時: 2019/09/07 12:17
名前: 白刃 さとり (ID: R58dZSmU)

 私には、前世の記憶があった。

 それは、全て貴方の記憶。
 その、嘘つく時の癖も、照れ隠しの憎まれ口も。ありがとうって言った時の反応も、怒った時の素っ気なさも。好きなものも、嫌いなものも。どんな所で怒るのかも、喜ぶのかも、つい甘やかしてしまう所も……。

 その全てが。

 貴方に染まっている。





 始まりは些細なこと。

 戦国時代。織田信長さまがお亡くなりになられて、豊臣秀吉さまがお国を納めになるころ。

 蔵にあった"石"を子供であった私たちが開けてしまったことである。私たちは、その"石"の珍しい色にそれで簡易的なネックレスを作った。

 それが、呪いの石とは知らず。




 何度目かの……

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  >>16 >>17 >>18


 [何度目かのサヨウナラ。]も良ければ見てください。




Re: 何回目かの初めまして。 ( No.4 )
日時: 2019/05/26 07:51
名前: 白刃 さとり (ID: 3nlxUYGs)


 [今世:朔目線]

 楓と出逢い、自分の腕の中で死ぬのは、何十回も何百回も見てきた筈だ。それでも、出逢いがハッピーエンドではないと分かっていても、心から愛してしまうのだ。
 楓の変わらない容姿も、透き通る声も、柔らかい肌も、無茶をしてよく怒られるとこも、俺を必死に慰めようとする優しいけれど不器用なとこも、抱き締めた時の甘い匂いも、寝る前の暖かい楓の温もりも。楓という人間の全てに恋をしているのだ。

 でも、今世では1つだけ違う事があった。俺に逢えば思い出す筈の"記憶"が楓には無いのだ。

 もちろん、寂しいし、悲しいし。でも、これで良かったのだ。楓が俺を思い出せば、"18歳で死んでしまう"。楓が生きるためには、俺が楓から離れなくてはならないのだ。それが出来ずに今までの楓は死んだのだ。18歳という若さで。

 その全てが"血水晶けつすいしょう"と呼ばれる石のせいだ。楓が苦しんで、「もっと生きたい。」「まだ死にたくない。」と泣いて死んでいくのも、それを何百回も見て悲しむ俺も、"それ"が繰り返されるのも。全て。



 「あ。朔、おはよう。」
 隣の席に腰を掛けて挨拶をした楓。
 「おう。おはよう。」
 慌てて挨拶を返す。不審に思われていないだろうか。
 「もう、身体、大丈夫な、のか?。」
 そう言って楓を見上げる。楓は元気ということを体で表した。
 「うん。ほーら。こーゆうこともできるよ。」
 とバク中をする。楓のスカートがふわりと舞った。思わずそこに目がいってしまう。
 「おう。そーか。それは良かった。」
 まんざらでもない楓を見て、なんだか此方が恥ずかしくなり、目を反らす。
 「残念でした。私、見せパンなの。」
 楓がスカートの端を少し持ち上げて、イタズラな笑みを浮かべた。
 「誰がオメーの色気のねぇ下着なんか見るかっての。」
 思わず対抗心剥き出しでそう言ってしまった。ゴォンと辞書が俺の頭の上に降ってきた。
 「………………………いってぇー。」
 あまりにも不意討ち過ぎたので反応が遅れてしまう。涙目で楓を見上げると、楓は頬を膨らませて立っていた。そんなところも可愛いと思ってしまう俺は重症らしい。
 「誰が色気が無いですってぇ?。」
 殺すわよ、と言わんばかりの殺気を放っている楓。懐かしさと、寂しさが一気に込み上げてきた。
 いきなり静かになった俺を、楓が心配そうに見つめる。
 「ごめんね。痛かった?。」
 なんとも言い表せない愛しさが込み上げてきた。楓が"俺"を知っていれば口付けでもしていただろう。それが出来ないから、ただ見つめる。
 楓は俺を辞書で殴ったところを優しく撫でた。
 「別に。こんなの怪我の内にもはいらねーって。」
 に、と笑った俺は楓の頬を撫でる。これが精一杯だった。楓は俺の触れたところから順に頬を染めた。



 何度目かの"恋"

Re: 何回目かの初めまして。 ( No.5 )
日時: 2019/05/26 10:23
名前: 白刃 さとり (ID: 3nlxUYGs)


 朔に触れられた頬がまだ熱を帯びている。それに朔のあの表情は、何を表していたのだろう。あれは明らかに違った。私ではなく、私の中にある何かに微笑み掛けていた。


 「楓。どうしたの?。」
 私はまた、現実から離れていたようだ。
 「ううん。何でもないの。」
 私は直ぐに笑顔を取り繕う。

 そんな私を叶ちゃんはさびしそうに見つめていた。

 私にはそんなことは知るよしも無かったのだが。
___________________________________

 [叶目線]

 放課後、私は部活に行こうとした朔を引き留めた。教室から誰も居なくなった事を確認して、私は早速本題へ入った。バンッと朔の机を叩く。

 「あんた。楓に何かしたんじゃ無いでしょうね?。」
 そう、朔に問い掛けた。朔は首を振った。
 「楓が思い出さないからって幾らなんでも好きな奴を傷つけるような真似はしねー。」
 そんなことは私も知っている。誰よりも楓の事を考えているのは朔だ。だからこそ、"記憶"のない楓には辛い存在となるのだ。
 「そうゆーことじゃないって。分かってるでしょ?。」
 不器用な朔の事だ。頭では分かっていても、何処かで分かりたくないと否定し続けているのだろう。そこも、楓を想ってこその結果なのだと私もわかっている。

 「嗚呼。」

 その二単語に満たない言葉にどれだけの想いが詰まっているのだろう。
 暫く、二人は黙っていた。
 「あの楓は、私たちが知ってる楓じゃ無いのよ。」
 私が続けて言おうとしたら、それを朔が遮るように
 「轆轤ろくろのとこ、行かねぇのか?。」
 と言って出ていってしまった。
 でも、私には止める権利もない。


 何度目かの"対立"

Re: 何回目かの初めまして。 ( No.6 )
日時: 2019/05/26 21:41
名前: 白刃 さとり (ID: 3nlxUYGs)


 蒸し暑い日の放課後だった。体育委員の朔と、今日いない体育委員の代わりにきた私は、二人きりでプールの掃除をしていた。本当は二学年の体育委員全員でやる予定だったのだが、いろいろなトラブルで最後の一時間は私たちのみでやることとなってしまったのだ。
 まだ、七時まで四十分もある。ほとんど終わって、あとは用具の後片付けとプールの水張りだけだ。何もなければ予定より早めに帰れそうだ。

 「ねぇ。朔。」

 私は、プールサイドにいる朔に声を掛けた。はっきりさせたい。二人きりの今なら話せるかもしれないと思ったからだ。朔は、ん?と此方を見た。夕暮れのオレンジがかった光が朔の黒髪を紅く染めている。

 「私を見て、誰を思い浮かべてるの?。」

 我ながら失敗した。これじゃあ女々しい、まるで私が朔を好きみたいな言い方じゃないか。いつまで経っても、朔の何言ってんだよ、の声が聞こえず、私は恐る恐る朔の顔を見た。また、あの切なくて悲しい顔。
 もしかしたら、今一番誤魔化して欲しかったのは私の方なのかもしれない。

 「変なこと、言うかもしれないけれど。…………私の………前世とかに、関係、ある?。」

 朔の目が、動揺して揺れている。でも、待っている答えは出てこない。きっと言えないことなのだ、と心の中で決めつけた。というより、そう願った。
 とたんに、朔が走ってきて私に抱きついた。私も、衝動的に朔を抱き締めた。男の子の逞しいごつごつした感覚が私の頬を染め直した。なぜか懐かしい朔の温もりが何より心地良くて安らいだ。

 「すまねぇな。"それ"、俺のせいだよな。」

 いつの間にか、大粒の涙がこぼれていた。朔の体育着が涙で濡れる。

 「まだ、………まだ全部言えねえんだ。」

 朔の鼻筋が首に触れ、なんとも言えない熱が身体を支配した。朔の息がかかる度に反応してしまう。左耳の方から聞こえる朔の嗚咽が全てを物語っていた。



 何度目かの"求め愛"

Re: 何回目かの初めまして。 ( No.7 )
日時: 2019/05/27 17:52
名前: 白刃 さとり (ID: 3nlxUYGs)


 おじいちゃんの家は、まあまあのド田舎だった。始めて来たときは、旅館の手伝いなんてできるのか心配だったが
今はもう馴れてきた。といっても私に出来ることなど料理を運ぶか掃除か臨時の接待などで、内心おじいちゃんにもっと何かしてあげたかった。そう思って始めた会計と受付の手伝い。この旅館はテレビに秘境の温泉地として出ることも多くて、思ったよりも忙しかったが、今まで経営に携わることなど無かったのでやりがいも感じていた。

 「すみませーん。」

 会計の仕事をしていると、遠くから声が聞こえた。お客さんだろう。私は受付のカウンターへ出ていった。そこには、二十代と思われる男性がいた。結構な色男で朔よりも少し高めの背で、右耳にピアスをしていた。いかにも旅館に来るなどという人ではなく、東京で飲み明かしているのが似合いそうな男であった。
 男は私を見て目を見開いた。が、それも一瞬のことで、私は気にも止めなかった。

 「予約していた轆轤ですが。すみません。早めに来てしまったのですが開けてもらえますか?。」
 思ったよりも優しい声で問いかけられ、動揺してしまった。まあ人を見た目で判断した自分が悪いのだが。
 「ろくろ様、ですね。ええっと………。」
 私は予約者リストを見た。探してみると轆轤、なんて難しい漢字が出てきて、そこの部屋の名前を見た。伊織の間、まだ準備中の部屋だ。
 「申し訳ございません。今準備中なんです。広間でお待ちして頂いてもよろしいでしょうか。」
 そう言って、轆轤さんを広間へ案内し、ソファーに座らせた。

 「本当に申し訳ございません。」
 私は軽く頭を下げる。轆轤さんは笑って、
 「いえ。私こそ、予約よりも早く来てしまいました。貴女が謝ることではありませんよ。」
と言ったが、何かその笑みが営業スマイルに見えて安心は出来なかった。
 「轆轤さんは、どうしてこちらにお越しになられたのですか?。」
 話題を変えようと、そういうと、はにかんだような笑みが彼から溢れた。さっきの大人びた笑みとは違い、青年のような親近感を感じる笑みだ。
 「俺は、ちょっと彼女に会いに………。」
 はにかんだ理由が可愛く、私からも笑みが溢れた。
 「遠距離なんですか?。」
 相当彼女にぞっこんらしい。頬を赤らめて轆轤さんは、「えぇ。まあ。」と曖昧に言った。
 「週一で会ってはいますが、相手と年が離れてますので、俺の幼なじみくらいしか交際は知りません。今年中は仕事でここに居れるので、毎日会えますよ。」
 年上か。大人っぽい彼の見た目から彼女を想像していた。きっと、清楚系の美女なのだろう。

 「あ。」
 暫く、轆轤さんと話をしていると、朔が見えた。そういえば二時に用があるって言っていたことを思い出し、私は手を振る。もうそろそろ二時だ。
 「轆轤。何でいんだ。」
 朔は近づくなり、そう言った。轆轤さんと知り合いなのだろうか。
 「朔、轆轤さんと知り合い?。」
 私がそう問うと、朔の代わりに轆轤さんが頷いた。
 「はい。彼とは幼なじみです。」
 「は?。幼なじみなんて可愛いもんか。」
 相当長い付き合いのようだ。憎まれ口を叩く朔を、轆轤さんは上手にあしらえていた。
 「それじゃあ、轆轤さんは叶ちゃんとも知り合いなの?。」
 そう聞くと、轆轤さんの顔が少し赤らんだ。ん?。この反応は?。
 「楓。知らないのか?。……轆轤と叶、付き合ってるんだぞ……。」
 朔がそういうと、轆轤さんの顔がもっと赤くなった。
 「んで、今度来るうちのクラスの副担任。」
 「えぇ!?。」
 「そいでもって、女嫌い。」
 「えぇ?。私とは普通に話してたのに?。」
 「な。楓と叶だけは普通に話せ………。」
 「私、初対面よ?。」
 「いや、そうゆうことじゃなくてな。」
 「終いには、キモいくらいに叶にぞっこんだ。」

 「そ、それ以上はメンタルにくるんで止めてください。」
 轆轤さんがそう言うまで朔は轆轤さんについて話していた。

Re: 何回目かの初めまして。 ( No.8 )
日時: 2019/05/28 00:02
名前: 白刃 さとり (ID: 3nlxUYGs)


 「今日から副担任をやらせて頂きます。萩原轆轤です。担当教科は国語です。宜しくお願いします。」
 営業スマイルを盾に、轆轤さんはそう言った。その容姿や、甘いボイスから女子は虜になっていた。

 「轆轤先生って彼女いますか!?。」
 早速男子からの質問が入った。轆轤さんは笑顔を崩さず、
 「はい。少なくとも一生を誓い合った女性ならいます。まだ結婚はしていませんが。」
 と言った。わぁ、と教室が騒がしくなる。そのなか一人だけ真っ赤な顔を必死で隠している叶ちゃんがいたことは、私と朔と轆轤さんの秘密だ。
 「それじゃあ、その彼女っていくつですか!?。」
 「写真ありますか!?。」
 「彼女とどこまでいってますか!?。」
 「彼女の身長は!?。スリーサイズは!?。」
 「彼女との出会いは!?。」
 「交際期間はどれくらいですか!?。」
 追及するように男子が質問をいれた。こうゆう所に抜かりのない男子達は私から見ても勇者だ。轆轤さんが静かに、と合図をした。教室が静まり帰る。
 「彼女とは数百………ごほん………十数年の付き合いで、交際を始めたのはつい三年前です。あとですね、彼女の魅力を話したいとこなのですが、彼女の魅力は俺のみが知っていればいいことなので、話したくありませんよ。」
 にこり、と微笑んだ轆轤さんであったが、女子はもちろん男子の心もぶち抜いたのであった。

___________________________________

 轆轤said

 楓さんと朔が"繰り返しの呪い"に呪われたように、俺と叶も"永遠の呪い"に呪われていた。その呪いはあまりにも残酷だった。朔達の呪いが"愛し合うと死ぬ呪い"に対し、俺達の呪いは"愛し合っても対立する呪い"だった。今はもう前世の朔と楓さん達のお陰で何とか解くことが出来たのだ。
 でも、呪いの解けた直後、楓さんが朔を庇い、死んでしまった。
 そこで俺達は理解した。



 彼らの終わりの見えない呪いのことを。


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