複雑・ファジー小説

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何回目かの初めまして。
日時: 2019/09/07 12:17
名前: 白刃 さとり (ID: R58dZSmU)

 私には、前世の記憶があった。

 それは、全て貴方の記憶。
 その、嘘つく時の癖も、照れ隠しの憎まれ口も。ありがとうって言った時の反応も、怒った時の素っ気なさも。好きなものも、嫌いなものも。どんな所で怒るのかも、喜ぶのかも、つい甘やかしてしまう所も……。

 その全てが。

 貴方に染まっている。





 始まりは些細なこと。

 戦国時代。織田信長さまがお亡くなりになられて、豊臣秀吉さまがお国を納めになるころ。

 蔵にあった"石"を子供であった私たちが開けてしまったことである。私たちは、その"石"の珍しい色にそれで簡易的なネックレスを作った。

 それが、呪いの石とは知らず。




 何度目かの……

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  >>16 >>17 >>18


 [何度目かのサヨウナラ。]も良ければ見てください。




Re: 何回目かの初めまして。 ( No.1 )
日時: 2019/07/01 17:21
名前: Nahonn (ID: DLaQsb6.)

 私には、所々だが前世の記憶があった。

 小さなころに思いだし、泣き叫んだ。「あの人に会いたい」「また置いていってしまった」と。でも私はその日のことを覚えていない。"あの人"が誰なのかさえも。

 唯一覚えていることといえば死ぬ直前の風景位だ。ぼやけていてほとんど分からないのだが。
 私を抱き締めて泣き叫ぶ男の人、少し遠くで泣いている女の人を泣きそうな顔をして抱き締める男の人、目尻を下げて泣くまいと堪える男の子、女の子にすり寄って心配そうにこちらを見る子犬のような小動物。それ以外にもたくさんの人に囲まれて私は死んだ。

 ここまで聞くと、私のただの妄想と思われるかも知れないが、十歳の時前世での死因である脇腹を刺されたところがあかい痣となり浮き上がってきた。これで私は決定付けてしまった。これは現実だ、と。
 その前世の記憶に加え、未来を少しだけだが見えてしまう体質のせいで私はいじめられていた。


 今日も、何度目かの引っ越し。
 因みに今はおじいちゃん家の旅館に過ごしているが、引っ越しは昨日だったので今日が初登校だ。
 「お母さん。お父さん。行ってきます。」
 私は仏壇に置かれた両親の写真に手を合わせて、家を出た。母の形見の、半透明で藤色の宝石の付いたネックレスを首に下げる。
 「おじいちゃんおばあちゃん。行ってきます。」
 手を振って家を出る。



 「今日は、このクラスに転入生が来ています。…どうぞ、入って下さい。」
 何度繰り返していたって恥ずかしい自己紹介。先生の声が唯一の救いだ。緊張で足が震えないように、ちょっとギクシャクだがまっすぐに歩き始める。

 まず、目に付いたのは長めの髪をひとつに結った少年だ。整った顔つきで、高校生にしては体格がとても良く、制服のネクタイをだらしなく緩めて、ワイシャツの第二ボタンまでを開けていた。
 「………。」
 私は彼と暫くにらめっこをしていた。
 何処かで会ったことがある。直感だった。
 「あの。どうかしましたか?。」
 先生に声をかけられて私はようやく現実に引き戻された。

 「埼玉県から来ました。小日向楓です。」
 宜しくお願いします、と頭を下げる。不協和音の拍手が起きた。
 「じゃあ。小日向さんの席は早乙女君の隣ね。早乙女君。小日向さんにいろいろ教えてあげてね。」
 先生がそう言って窓側の席を指した。


 何度目かの"出会い"

Re: 何回目かの初めまして。 ( No.2 )
日時: 2019/05/24 21:42
名前: Nahonn (ID: 3nlxUYGs)


 「早乙女、朔です。」
 ぎこちなく自己紹介をしてくれた早乙女君は照れくさそうに目を反らした。
 「私は、小日向……って、さっきも言ったか……。私のことは楓って呼んでね。宜しく、早乙女君。」
 そう言って彼に微笑み掛けた。すると、早乙女君がぼそりと何かを呟いた。
 −覚えてねーのかよ−
 そう聞こえた気がした。確証は持てないが、そう感じた。
 「え?。」
 何て言ったの?、と訊こうとしたが、早乙女君はその隙も与えてくれず、
 「いや。お、俺も朔でいい。って。」
 と言った。
 何か、線を引いてしまった気がする。所詮貴方はクラスメイトだって。何か申し訳ない気持ちが込み上げてきた。彼に対する申し訳なさとなぜか自分に対しての申し訳なさ。

 「朔ってさ、私と何処かで………。」
 そう言い掛けたが、チャイムの音にかき消された。それが、言うな、伝えるなと訴えかけているようで私はおとなしく前を向いた。


 授業が終わってすぐ、女の子が朔に駆け寄った。
 私よりも長い髪の毛を赤いリボンで緩くとめている。この女の子もまた、整った顔立ちで、少しつり目な所が愛らしい女の子だった。制服も着こなしていて、灰色のカーディガンが良く似合っている。
 その女の子は朔となにやら話混んでいる。朔の彼女なのだろうか。ふと、女の子が私の方を振り返った。朔が止めに入ろうとする。女の子はそれをガン無視し私に問いかける。
 「ねぇ。小日向さん。私に、見覚えない?。」
 見覚えなど、ある筈も無かった。私は素直に首を振った。
 ズキリ、と頭が痛んだ。これはよくある前世のフラッシュバックだった。

 揺れる、赤いリボン。笑いかける顔。夫と佇み、手を振る姿。私ね幸せだよ、の声が何度もリピートされる。

 「小日向、さん?。」
 現実にギュンと戻り、目眩がした。目の前が歪んで見える。ようやく視界がはっきりとしてくるとそこには心配そうに私の顔を除き混む女の子と朔がいた。
 「あー。その、えーっと。」
 前の学校での事もあり、私は曖昧に答えた。女の子が椅子に腰をかける。
 ここは保健室のようだ。薄ピンクのカーテンが見える。私は倒れてしまったのだろう。
 「小日向さん。具合は大丈夫?。」
 保健室の先生らしき白衣の女の人がゆっくりと私の額を撫でる。私は頷いた。体が驚くほど軽く、気持ち悪さも無くなっていた。先生の手の程よい冷たさは汗をかいてグッショリになった体にとても気持ちがよかった。先生が微笑んだ。
 「もう、大丈夫そうね。一日中寝てたのよ。疲れたでしょう。今日はもう帰りなさい。」
 先生の優しい声が心地よかった。
 「あ。私たちが送ります。」
 女の子が先生を見た。いい考えね、そうしなさい。と先生がまた微笑んだ。
 「それじゃあ帰ろう。小日向さん。わたし、葛城 叶(かつらぎ かなえ)って言うの。好きに呼んでね。」
 宜しく、と笑った叶ちゃんはキラキラと光って見えた。

 なのに何故か心が痛む。


 何度目かの"友達関係"

Re: 何回目かの初めまして。 ( No.3 )
日時: 2019/05/25 19:15
名前: Nahonn (ID: 3nlxUYGs)

 朔があるきだした。二人でそれを追いかける。
 「あ。小日向さん。そんなに急いで大丈夫?。」
 少し後ろを歩いていた叶ちゃんが私に問いかける。私は頷いた。
 「うん。心配してくれてありがとう。私はもう大丈夫だよ。あと、私のこと楓って呼んでね。此方だけ下の名前で呼ぶの可笑しいでしょう?。」
 うん、と嬉しそうに笑った叶ちゃん。私も、つい頬が緩んでしまう。

 「楓ん家って、もしかしてあの旅館か?。」
 ふと、朔が丘の上にある私の家を指した。私は頷く。
 「そう。よくわかったね。あの旅館だよ。おじいちゃんの家なんだ。」
 そう微笑むと、叶ちゃんがわぁ、と感激の声を上げ、上を見上げた。さっきから、コロコロ変わる叶ちゃんの表情は見ていて飽きないものだ。
 「楓ちゃんって凄いよ!。旅館かー。私も、あーゆうところに住んでみたいなー。」
 叶ちゃんがニコニコして、うっとりと旅館を見つめた。
 「引っ越して来たばかりで慣れないんだけどね。」
 私は苦笑した。私は鍵と宝石の付いたネックレスを制服から出した。何か、嫌な空気が流れた。二人とも宝石を厳しい目で見ていた。
 「どうかしたの?。」
 私は二人に問いかけた。二人は首を振った。

 少しだけ、静かな時間が流れた。

___________________________________

 [前世:朔目線]

 暖かい、人のぬくもり。俺の太い腕が楓身体をを包み込んでいた。それに、女性特有のふっくらとした肌が自分の身体に触れている。それだけで、昨晩の彼女を思いだしてしまう。でもそのせいで二人の肌は汗で湿っていて気持ち悪い。だが、そんなところも、ただただ心地よくて起きる気になれない自分がいる。
 いい加減、重い瞼をゆっくり開けると、そこには愛しい顔が在った。相手も自分をバッチリ見ていて、寝顔を見られていた恥ずかしさが込み上げてくる。
 「おはよう。」
 心地のよい琴をピン、と弾いたような声が響いた。そう言った彼女に触れるだけのキスをする。
 「おう。おはよう。今日も宜しくな。」
 微笑んでそう言うと、俺の数倍の笑顔を返してくれた。そこがまた、いとおしい。











 「楓!!。来るな!!!。」
 俺は確かにそう叫んだ。しかし、楓の細い腕が、精一杯に此方に伸びてくる。
 ドスッ
 その音と共に彼女の華奢な身体に一本の矢が刺さった。彼女は、それでも走り、俺を庇うように覆い被さった。数本の矢が彼女を次々と襲う。
 仲間がすぐさま敵を追い払った。しかし、楓への被害は甚大だった。
 「か………か、えで?。」
 痛そうに悶え苦しむ自分の妻は、朝まで元気にしていた者とは思えない。
 「さ………く………。」
 彼女は微笑んだ。もう助からないことを察した笑みだった。俺は、彼女を抱き締めた。着物も手も楓の血で真っ赤に染まったが、そんなことはどうでも良かった。
 「ごめ……なさ………っ。またっ……。おいて……っ。」
 ごめんなさい、と泣く楓はとても美しかった。彼女にキスをする。深くて長いキスを。
 「楓っ。死ぬんじゃねえ!!。諦めんなよ!。」
 助からない、と頭では分かっていても、俺の口はそう言っていた。俺の涙が楓の顔にかかった。楓は笑っていた。いつも、しょうがないなぁ、と言って俺を甘やかす時の顔だ。
 「なん……だよ。」
 なぁ、と俺も微笑んだ。楓に比べればとてもちんけで直ぐにその場の誰もが無理して笑ったのに気づくほどの下手っぴな嘘。

 そして、楓は俺の腕の中で最期を迎えた。

 ある秋の夕暮れ時の出来事であった。


 何度目かの"別れ"


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