複雑・ファジー小説

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ブルーハーツが見えてくる
日時: 2019/06/01 11:22
名前: 梶原明生 (ID: NOqVHr1C)  

「こんなのブルーハーツじゃないっ。」青年は映像を見ながらそう思った。知らない間に自分の部屋を他人に荒らされたような心境だった。出ている俳優陣は嫌いではなかったが、映像は見るに耐えない。これを我が物顔で「巨匠が作ったんだから飲み込め」と言われても、それこそ「少年の詩」が聞こえてきそうだ。だから青年は窓のカーテンを開けた。澄み渡る太陽と「青空」が広がっている。こんなはずじゃなかっただろ。と言われてる気がした。…これは我が愛しのブルーハーツに捧げる全6話の短編物語だ。……

Re: ブルーハーツが見えてくる ( No.8 )
日時: 2019/06/29 20:52
名前: 梶原明生 (ID: W4UXi0G0)  

…「そ、そんなこと言われたのは、初めてですよ。とにかく居間へどうぞ…」緊張しながら真美を通す神木。「あ、お、お茶用意しますね。あ、いやコーヒーですか。」「いえ、お構いなく…ではまずいですね。じゃあお茶で。」 「はい。」互いに会話らしい会話もできず、神木は1時間ほど落ち着かない雰囲気でキッチンを出たり入ったりしていた。が、ついに聞くことにした。「あの、それで、何でまた急に…あ、いやその、迷惑なんかじゃないですよ。でも普通はその…。」「逃げだしたくなったんです。」「へ…」いきなり口火を切った。「色々いやになったんです。芸能界も仕事も。だから、神木さんのところに来たくなったんです。そんな理由じゃダメですか。」「あ、いや全然。むしろ嬉しいですし。」その後二人は奇妙な同棲生活を始める。まるで新婚夫婦のそれだった。景太郎の夢のような生活は、一週間後に終わりが訪れる。「真美ちゃん、こっち来なよ。テレビやってるよ。」キッチンで手料理を運んで居間のテーブルに置く真美。「生放送今夜のゲストは…関屋真美さんで〜す。」「え、…」一瞬固まるとはこの事だった。生放送に関屋真美がいる。ということはこの子は。「ごめんなさい。」いきなり部屋から外へ飛び出す真美という女性。「待って。」景太郎は走って近所の公園前で捕まえる。「君は一体誰何だ。」「ごめんなさい。私本当は一ノ瀬真里。短大卒業後は関屋さんのいる芸能事務所でファンレター整理事務員してました。仕事も芸能事務所も嫌になってた時、いつも景太郎さんの手紙が目についてました。そんな時上司から、関屋真美の影武者やらないかって言われて…辞表叩きつけて辞めてきたんです。だから景太郎さんの優しさに甘えたくなってつい… 」何も言わず景太郎はキスを交わした。小一時間が過ぎた頃、真里は呟きかけた。「こんなドブネズミみたいな私でもいい。」「ああ。でも君は誰よりも暖かく美しい。ドブネズミ大いに結構。真里、キレイだ。」「景太郎さん。」二人は再び抱き合った。愛じゃなくても恋じゃなくても君を離しはしない。そう誓い合いながら月夜の公園を歩いて寮まで戻るのだった。ドブネズミにこそ美しさがあるのかも知れない。…終

Re: ブルーハーツが見えてくる ( No.9 )
日時: 2019/07/01 01:14
名前: 梶原明生 (ID: Xc48IOdp)  

「トレイントレイン」…………とある大都会のホーム。「スカンク、対象0今電車に乗車。」「了解。引き続き監視を、ムサシ。」「ムサシ了解。」ムサシと耳の小型無線機で呼ばれた男は一見普通の男性だ。ワークパンツに黒シャツ。ジーンズのジャケット。スカンクもまたサラリーマン風だ。一つ違うのは彼等が何らかのプロだということ。そうとは知らず乗り合わせてる見知らぬ乗客達。紙袋持ったスーツ男は、ポニーテールの女子高生を痴漢している。「スカンクへ。対象0のそばで痴漢行為発見。」「それがどうしたムサシ。」「いや、野放しにしていいのかなと。」「おい、お前ともあろう者が何を…」「放っておけと。」「当たり前だ。うっ…」何の偶然か、そう言ってる間に茶髪の女子高生がメガネのサラリーマン男を捕まえて叫んでいた。「この人痴漢です。」同じく茶髪の男子高校生が脅しにかかる。「あ〜あ、おっさんどうすんだよこの落とし前。」「わ、私は痴漢なんてしてない。言い掛かりだ。」「いるんだよな。こういう言い逃れする痴漢が。」先ほどあれだけ批判してたスカンクがもう一人の仲間に聞く。「マリアン。お前見てたか。」「はい。メガネの男性は痴漢行為をしていません。カメラに証拠抑えてます。」「よーし。これで言い掛かりは間違いないな。」「スカンク、あんだけ偉そうに俺に言ってたのに。」「ムサシ、お前の悪い影響だ。」ニヤつく二人。そんな時、痴漢が起こっているすぐ隣ではベージュシャツの男が5歳くらいの女の子に怒っていた。「よくもぶつかってシャッターチャンス潰したなっどうしてくれる。」母親が庇う。「この子はまだ5歳ですよ。それに機材壊したわけでもないのに。」「何っ、こうしてやる。」5歳の女の子を抱えて頭上高く突き上げて今にも落とさんとしていた。「謝れっ。」その時対象0は動いた。茶髪に、紙袋男に、そしてベージュシャツに。「今の見たか。」「ああスカンク。今車内で問題行為起こしてる奴らに。」「何かを入れる仕草をした。」「こいつは二重のチャンスだ。」弱い者達が夕暮れ、さらに弱い者を叩く。まさに電車内の辟易する光景を一掃できるのだ。「そこの茶髪。あんた痴漢されてなかったでしょ。カメラに証拠あるよ。」「あ、何だ姉ちゃん。痛い目に…いたたたっ。」茶髪の男子がつかみかかった手を取り上げ逆関節にキメるマリアン。「この手を離せ変態痴漢。」「へ…」紙袋男は豆鉄砲食らったみたいにムサシを見た。「スカンク頼んだ。」…続く

Re: ブルーハーツが見えてくる ( No.10 )
日時: 2019/07/01 01:51
名前: 梶原明生 (ID: 97SCsTUE)  

…仲間に引き継ぐと同時に、落とされる5歳の女の子を横から奪って抱き上げた。「土下座しないならこの子…あれあれ、お、お前余計なことをっ。」ベージュシャツはさらに激高し、ムサシに殴りかかろうとしたが無駄だった。上段受けされて見事正拳突きが顔面にヒット。回し蹴りもついでに入れられ悶絶するベージュシャツ。ムサシは喉を掴んでドアに押し付ける。「土下座すべきはお前だろ。鉄オタのくっだらねーこだわりと子供の命どっちが大事だ。あーっ。」怒りを込めた首締めがベージュシャツを苦しめる。「こ、子供の命です…」 「よろしい。お前が土下座しろ。」今度は床に 叩き伏せて倒した。「キャーッ。」今度は対象0の近くで鉈を持った男が女性に切りかかった。鱈子唇にメガネした男が電車内でテロ行為。「みんなここで死ぬんだよっ。」わけのわからないことを叫んで切りかかる鱈子唇に対し、対象0が両腕で受けに行き、鉈の腕を掴んで膝蹴り、肘打ち何でもごされで撃退した。「駅員さん。」拘束を代わってもらうと今度は女性の手当てをした。「あ、あなたは一体。」「ただの通りすがりですよ。」対象0はにこやかに答えた。駅にたどり着くと一斉に人混みに紛れ込むムサシ達。対象0が無線に出る。「お前達の本当の声が聞けたいい訓練だったぞ。ただ、ハプニングが多すぎた。こんなに一度には初めてだ。」「0。お人が悪い。」「言わば我々は見えない銃だ。わかってるな。」「はい。」ムサシ達は一斉に答えた。剥き出しにして走る電車「トレイン」。それでも誰かの見知らぬ夢を運んで今日も明日も走っていく。…終


Re: ブルーハーツが見えてくる ( No.11 )
日時: 2019/07/01 17:14
名前: 梶原明生 (ID: u7d.QD9m)  

「エピローグの青空」…………………バス停で原稿をタブレットで見ながら最終確認をしていた作家の藤高。いや、自称作家と言ったほうがいいか。「ブルーハーツで小説書きたかったんだよな。どうせ売れないけどさ。でも、一か八か出版社に売り込むか。」呟いていた矢先、見るからにアトピーとわかる青年が隣に座った。「かつての俺と同じか。」藤高は哀れんだ。彼はアトピーばかりか容姿もいいとは言えない。タブレットそっちのけで彼が気になって仕方ない。そこへ来なければいいのに女子高生三人と男子高校生二人が現れた。男子高校生の一人は体格良く、見た目もいい。嫌な予感は的中した。「おい、気持ち悪いんだよその皮膚。おまけに何だそのダサい服。そのブサイクな顔。何花束持ってんだ。ハハハハハッそうは思わねーか。」女子高生達に同意を求めるまでもなく、彼女達は笑っている。藤高は拳を握り締め、いても立ってもいられなくなった。「君達…」立ち上がろうとした矢先、一人の女性が先に口火を切った。「酷い、人を見た目や皮膚や顔で判断するなんて。あなた達に彼の何がわかると言うの。」彼女もまだ若い。20歳前後で、ジーンズにシャツにジャケットというラフだが清潔感ある装い。顔も割とキレイ目だ。しかし怯まなかった。男子高校生がキレる。「ああ、何だよあんた。」言ってる間にバスは到着。「自分の子供に同じ子供が産まれたらあなた達は同じことが言えるの。」押し黙る高校生達。しかし体格のいい方は怯まなかった。「う、う、うっせーテメーっ。」その時初めて藤高は動いた。殴ろうとした腕を後ろから腕で絡めてブロック。引き倒すと同時に肘打ちを入れた。「二人共、早く。」アトピー青年と女性はバスに飛び乗った。藤高は動揺している高校生を尻目に自身もバスに乗った。「テメーっ…ガ…」体格のいい先ほどの高校生が立ち上がってバスに乗ろうとしたタイミングで運転手さんが気を利かせてドアを閉めた。勢い余ってガラス戸に顔面ぶつけてブサイクにへばりつく高校生。「ふっ、随分とブサイクだな。」藤高は吹き出した。「閉まるドアにご注意下さい。とあれほど忠告してましたのに。…」「運転手さんありがとう。」「どういたしまして。それでは発車〜いたしま〜す。」バスは走りだし、藤高は二人と車内で語らった。彼のことを励ましたが、行き先について話してくれた。「お婆ちゃんの入院してる病院に彼女と待ち合わせてるんです。この二束の花は…」…続く。

Re: ブルーハーツが見えてくる ( No.12 )
日時: 2019/07/01 17:39
名前: 梶原明生 (ID: u7d.QD9m)  

…それは間違いない。テッポウユリだ。「…一つはお婆ちゃんの好きな花。もう一つも彼女の好きな花。…僕を認めてくれる人に出会えたんです。だから彼女を真っ先に母親代わりに育ててくれたお婆ちゃんに会わせたくて。」「そうだったの。いい話ね。それじゃ私ここだから。挫けないでね。それから作家さん、助けてくださってありがとうございます。」「いえ、どういたしまして。」彼女は最初にバスを降りていった。それからしばらく走ると病院前に到着。「本当にありがとうございました。一生忘れません。」「いいって。それより、ほら。彼女さんだろ。行ってあげなよ。」「はい。…」花束を持って颯爽と降りていった。彼女さんは信じられないくらい可愛い子で誠実そうだった。「幸せにな。」通りすぎていく二人の光景をみながら呟いた。「お客さん。今日はいいことなさいましたね。」マイクロフォンから運転手さんが声をかける。「いや〜それほどでも。」「ところで…もうお客さん一人なんですがどちらまで。」通り過ぎる出版社を横目に淡々と答える。「行き先ならどこでもいいです。」「オフコース。」運転手さんも清々しい表情でハンドルを握った。藤高はどこまでも突き抜ける青空を仰ぎ見ながら空の風景に目を奪われた。「こんなはずじゃなかったけど…それでも青空はあの時と変わらない。この国の青空だ。」…最終。


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