複雑・ファジー小説
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- 「救出命令」オペレーションサザンクロス
- 日時： 2019/06/28 02:32
- 名前： 梶原明生 （ID: 97SCsTUE）
「懲役２０年を取りますか。それとも、子供達の命を見捨てますか。…」この二者択一を迫られたとしたら、あなたはどうするだろう。この物語は主人公、保江しのぶがこの二者択一に翻弄される姿を描いたものである。この話の結末を知った時。…あなたは涙せずにはいられない。………………………………あらすじ。ＰＫＯ活動の一環としてコンガディア共和国に派遣されていた陸上自衛隊。ある情報筋から、日本でテロ計画を進めてる過激派組織がこの国で暗躍しているという情報をつかんだ。ＰＫＯの増援に見せかけて密かに特殊作戦群が派遣されていたのだ。しかし、女性オペレーター主任がテンカンの持病で発作が起き、急遽普通科部隊の敏腕オペレーター保江しのぶが主任代理に抜擢された。上官からただ一つだけ出してはいけない命令を言い渡された。それは「救出命令」。この命令に背いたら懲役２０年を覚悟しなければならない。かくしてオペレーター主任に就くのだが。…特殊部隊の無線一つで全ては狂わされていく。「借金の形に子供達が売り飛ばされるっ。今なら間に合う。監視命令から変更。救出命令を出してくれ。」彼女が出した決断とは。…
- Re: 「救出命令」オペレーションサザンクロス ( No.36 )
- 日時： 2019/10/01 22:11
- 名前： 梶原明生 （ID: u7d.QD9m）
…岡沢含め、７人共陸自迷彩服に８８式鉄帽を纏い、防弾ベストに各装備品を装着している。内、武装しているのは高倉曹長、伊原一曹、鈴本一曹、溝口隊長、岡沢三曹のみ。「本当は私達も行きたかったです。」善光寺二曹が口惜しい顔で皆を見る。「善光寺、それから石倉。お前たちはリハビリもそこそこで参加したんだ。まだ全快とは言えん。待機組だからな、しっかりサポートしろよ。」「了解。」バラクラバを鼻まで上げて勢いよくスライドドアを開ける高倉曹長。物々しい隊員が裁判所のあるオフィス街に舞い降りた。が、誰一人驚愕するものはいない。理由は二つある。一つは自衛官を裁く裁判が開かれていること。自衛隊関係者だとしか思われない。もう一つは各駐屯地が街中の任務に素早く対応できるよう「武装行軍」を定期的に行った賜物だ。例えば、警察官や消防士が街中にいるとする。誰もが公務中だと思うだろう。慣れ親しんだ姿だから。しかし自衛官が迷彩服に武装装備一式で現れたら…人によっては公務中とは思わず、通報ものにするだろう。一般国民に「自衛隊も公務をするのだ。」という「慣れ親しみ」を持ってもらう必要がある。自衛隊も、警察官や消防士と同じ立派な「公務員」だと言うことを。かくして堂々と各入り口から入り込む５人。「ご苦労様です。」裁判所の警備員も挨拶を交わすほど。あまり疑わない。「タウルス他４名配置に付いた。」溝口隊長からの無線。「こちらアカギ。了解した。判決後突入を。」「了解。」交信している最中に裁判官以下、裁判員１０名が法廷に帰ってきた。「静粛に静粛に。え〜、これより開廷いたします。」神妙な面持ちで固唾を飲みながら席に着く被告側、調査会側、傍聴席側。「それでは裁判員側の判決を述べて下さい。」「はい。」制服の自衛官が代表して読み上げる。「…で、ありまして、結論を申します。被告、保江三等陸曹には。実刑、懲役１５年を求刑します。」膝から崩れ落ちる保江。厚木が支える。「そんな。無実です、こんな裁判デタラメよ。」必死に叫ぶ彼女は、またもや佐藤を睨んだ。「裁判官側も同じく。懲役１５年を言い渡します。」一気にざわつく傍聴席。佐藤は不適な笑みをこぼした。と、その時。法廷内の照明が一斉に落とされる。「何だ、どうした。」岡沢がアナウンス。「只今、変電所の故障により停電が発生いたしました。危ないので席を立たずにそのまま暫くお待ち下さい。」ざわつく法廷内。佐藤はこの青天の霹靂に…続く。
- Re: 「救出命令」オペレーションサザンクロス ( No.37 )
- 日時： 2019/10/04 03:09
- 名前： 梶原明生 （ID: q6woXfHh）
…違和感を感じた。そして…「変電所だと。裁判所職員が電気が停電しただけで、何ですぐ変電所の異常だとわかる。まさかっ。」気がついた時にはすでに遅し。暗視ゴーグル「ＦＬＩＡ」を８８式鉄帽に備えた溝口達が一斉に雪崩れ込み、ドアをロックして暗闇の中、自衛隊関係者や裁判警備担当者を素早く格闘技で倒してインシュロックによる拘束を行った。「ブルー（岡沢）もういいぞ。」宮内曹長が無線で下達する。暗闇がいきなり暗転。そこには物々しい隊員が８９式小銃構えて立っている姿と、さっきまでレゲエだった男がいきなり隊員と同じ迷彩服に装備一式、そして同じく８９式小銃を構えている姿があった。「皆さん落ち着いて下さい。我々は保江三曹を救う会のメンバーです。皆さんには暫く人質となってもらいます。大丈夫。殺す気ならとっくに殺してる。大人しくしていれば危害は一切加えません。保障いたします。ただし、妙な行動を取ったら容赦はしません。そのつもりで。さぁ、政府と交渉だ。」まるでコメンテーターのように法廷内を席巻する宮内曹長。「バカなことを。こんなことしてただで済むと思っているのか。」佐藤が叫ぶがお構いなし。「結構。ただで済むとは端っから思っていない。しかし世論はどうだろう。確かに彼女はゲリラと関わってた。しかしそれをネタに無実の罪を着せようとしてると知ったら国民は何て思うだろう、佐藤三佐。」「うぬぬ…」言い返せなくなる佐藤。その頃、予定通り岡沢三曹が１１０番通報。「あ、もしもし警察ですか…」すぐにパトカーが駆けつけるが、伊原一曹と高倉曹長が８９式小銃で適当にパトカーを撃って破壊。「こちら警邏隊。犯人は複数。自動小銃のようなもので撃ってきました。支給応援を。」この無線連絡に対策本部が駆けつけて対処し、すぐに警視庁ＳＡＴやＳＩＴが派遣された。「で、やっこさんはどんな奴らだ。」本部長が最新機器に囲まれた本部内でＳＩＴ隊長に問う。「情報によると武装した自衛隊員数名が裁判所を占拠している模様です。」「じ、自衛隊。また厄介な奴らが敵に回ったもんだなぁ。」「我々では対処に難ありですね。場合によっては自衛隊に…」「いや、本件は我々で方をつける。戦争屋に渡すもんか。」「しかしそれでは浅間山荘の二の舞に…」「黙れ。昔とは違う。」本部長は睨みを利かした。「要求がありました。日本政府に継ぐ。保江三曹の無罪判決を望むと。」「やっこさん本性出してきたな。人質交渉人の出番だ。」…続く。
- Re: 「救出命令」オペレーションサザンクロス ( No.38 )
- 日時： 2019/10/07 01:08
- 名前： 梶原明生 （ID: 0zy7n/lp）
…本部長の鶴の一声で人質交渉人。通称ネゴシエーターが電話に出る。すでに直通回線を岡沢が用意していた。「君達の要求はわかった。目下政府と協議中だ。どうかね、人質は解放する気はないかね。」「今のところはな。だがそれもあなた方や法務省、法務大臣と尾上総理の出方次第だな。」プツンと宮内は電話を切った。「おあつらえ向きの人質交渉人か。出方はだいたいわかる。警視庁のＳＡＴとは散々合同訓練したからな。」溝口が膠着状態の法廷内で宮内に呟く。「ええそうです。先ずは一通り話して親しくなり、しかし要求は少しづつ聞いて人質をゆっくり解放させ、終盤いきなり無視する。そうすることによって寂しさを犯人に与え、頃合いを見て交渉する。定番のパターンですよ。」「会話の応酬だな。」「ええ、国語と国語のせめぎ合い。教壇に立ってた時もそうでした。」「プハハハッ」「何かおかしかったですか。」「いや失敬。君から教壇なんて言葉が…ハハハ、思い出した。ファイルに書いてあったな。確か前職は国語教師…」「一年で辞めました。ウザい日教組だらけで嫌気が差して。そりゃ教師だった女房からも別れを切り出されましたよ。どういうわけかそれが俺の子供６人の母ですよ。２３歳ギリギリで入隊。今じゃＳですよ。人生わからんもんです。」「だな。俺もまさか裁判所の法廷を占拠するなんて…オヤジに反発してバイクで日本一周。なのにやっぱり選んだのが防衛大学。」「あなたが…想像つかないですね。」「はじめからエリートなんていないよ。」スマホに電話がかかってくる。「き、君達の要求は通った。法務省も総理官邸も、恩赦として保江しのぶさんを無罪判決にすると。だから人質を…」「もう一つ要求がある。法務大臣直々にテレビ出演し、そのことを記者会見も含めて発表すること。一切のごまかしは通用しないぞ。外には我々の仲間がいるからな。今から２時間時間をやる。以上だ。」スマホを切った宮内。「こちらＳＡＴ狙撃班。法廷内は窓がないため、狙撃も出来ません。いざという時は突入班のみの制圧しかないかと。」「わかっとる。クソ…」本部長は半ば地団太を踏んだ。それも計算にあった。法廷は可視化できないため、窓からの盗撮などがあってはならない。故にドア以外に法廷を覗く方法がない。しかし立てこもりには好都合な条件である。「どうします本部長。」「決まってる。法務省が応じるわけなかろう。最終的にはＳＡＴの突入しかあるまい。ＳＡＴ隊長、８９式小銃」…続く
- Re: 「救出命令」オペレーションサザンクロス ( No.39 )
- 日時： 2019/10/07 14:47
- 名前： 梶原明生 （ID: 70vEHkeO）
…「え、いいんですか。」「この際やむおえん。敵が敵なだけに、こちらも装備をより強力にしないと。後２時間もしないうちに日が暮れる。暗視装置も準備させろ。」「了解しました。」早速全ＳＡＴ隊員が慣れない８９式小銃を装甲車両から取り出し、配備した。保江がようやく口を開く。「あの…もしかしたらあなた方は…Ｍさん…ですか。」バラクラバをしている隊員に配慮してイニシャルで呼ぶ。「だとしたら…Ｙさん。」「はぁ、ま、間違いない。やはり。ありがとうございます。でも…私のためにこれ以上罪を重ねないでください。私は充分ですから。あなた方が傷つくくらいなら、懲役刑を受けます。ですから…」「お言葉はありがたく頂いておきます。ですがこれは我々が勝手に決めたこと。あなたが気を病む必要はありません。」「Ｍさん…なら、人質は私だけにして下さい。」「それはできない質問だ。」「あの…」傍聴席の学生が手を挙げる。「何かな。」「トイレ行きたいんですが…」「いいですよ。ご自由に。」「へ…誰か見張りについてこないんですか。」「いや、君達の自主性に任すつもりだから。」「へ…」しかし彼は恐怖に駆られて逃げ出した。「どういうことだ人質が一人予告もなく解放されたって。」本部長が訝しげに部下に問う。「そ、それが…トイレに行きたいと言い出したら、君達の自主性に任すと、すんなり出したそうです。」「バカな。そんな立てこもり事件聞いたことないぞっ。やっこさんは何考えてんだ。」頭を掻いてイラつく本部長。「で、人数は。」「迷彩服にバラクラバした隊員が５、６人いたと証言しています。」「よぉし、次の交渉がダメなら突入決行だ。」「了解しました。」これ以後、気分が悪い、トイレ行きたい、待ち合わせがある等、ことあるごとに人質が言い訳して法廷を出ていった。勿論戻ってくることはない。「なぁブルー（岡沢）面白いよな意外と。見え透いた言い訳とわかっていながら出て行くやつを見送るのは。」「そうっすか。Ｍ（宮内）が笑えるからって俺が笑えるとは限らないっすよ。そろそろ不味いんじゃないっすか。だいぶ減りましたよ。」「なーに。クライマックスが近いからこのくらいでいい。わかってると思うが、太もも、腕、などの急所を外した射撃をしろよ。出来れば拘束、さもなくば止血し手当てすれば再起不能にならない程度に怪我を負わせる。彼等ＳＡＴを傷つけたくないが、やむおえん。お前たちの腕なら出来るはずだ。」…続く。
- Re: 「救出命令」オペレーションサザンクロス ( No.40 )
- 日時： 2019/10/10 18:51
- 名前： 梶原明生 （ID: 99wOCoyc）
…頷く岡沢達。やがてタイムリミットは近付いてきた。夕日は沈み、夜の片鱗が見えてきた時。２キロ先の公園で待機していた善光寺、石倉組がドローンの望遠カメラを元に宮内に伝える。「こちらハゲタカ。ＳＡＴが展開中。もうすぐ突入の模様。」「ハゲタカ、アカギ了解。ルームサービスだ。暗視ゴーグル用意。」「了解。」全員がヘッドセットをして遮光ゴーグルをし、８９式小銃を構えた。電気が落とされ施錠したドアを破壊してスタングレネードが投げ込まれる。「バンッ」と爆発すると無殺傷の光と音が法廷内を包む。防弾ヘルメットに防弾クリアマスク、防弾ベストにグローインアーマーなどの濃紺色の装備をしたＳＡＴ隊員が８９式小銃を構えて突入してきた。シュアライトの先には人質。「何、どこ行った。」横を振り向こうとした矢先、８９式小銃を掴まれて顎を打撃。法廷の天井に発砲させて弾倉を抜き取る。脇にいたもう一人がＳＡＴの左側の隊員の太ももをローキック。殴ろうとするＳＡＴ隊員のうでを関節技で固めて投げ飛ばした。２つのドアで４人の宮内班の隊員が制したが次々入ってくるのを捌ききれない。高倉と溝口が人質脇に待機していた所から精密射撃でＳＡＴ隊員の太ももや腕の急所を外した射撃を行う。だが諦めないＳＡＴ隊員。拳銃を抜いて宮内を撃とうとするも、伊原がシグＰ２２６E2拳銃で射撃し、拳銃ごと弾き飛ばす。「まるで昔の石原裕次郎の映画っすね。」「ブルー（岡沢）また古いの知ってんな。」「どういたしましてベージュ（伊原）。」「１時から敵っ。」溝口が突入してくるＳＡＴ隊員を撃つ。「撤収、撤収。」さすがのＳＡＴ隊員も、一時撤退を余儀なくされた。「触るなっ誰が犯罪者のお前なんかに。」怪我したＳＡＴ隊員を鈴本が診ようとしたら当然の抵抗に合う。「犯罪者か…ま、確かにな。だが私は医者だ。怪我人はほっとけん。」銃創のない者はインシュロックで拘束。それ以外は止血と縫合、包帯巻きなど、手際よく処置されていった。「あ、あんたら正気か…自分で撃っといてその警察官の治療を施すなんて、そんな事件聞いたこともないぞ。」ＳＡＴ隊員が叫ぶ。「良かったな。お前らがその前例の隊員だ。」宮内はバラクラバの中でほくそ笑んだ。「何、突入失敗だと。しかも１０名の隊員が人質に…」本部長は呆れ返って茫然自失になった。こんな事件は初めてだと。「どうします本部長。やはり自衛隊に…」「俺達が行く。」「篠原お前。」ＳＡＴ、Ａ班の後方Ｂ班が…続く。